M4A1はパラデウスの迎撃をするために一人車両から出た。
「敵発見」
「レーザーとか……」
目視で発見した、ストレンツィの武器の照準を向けられていることをM4A1は理解しながらも、その武器がレーザーを発射することを理解すると、その警告を敢えて無視した。
M4A1の頭を狙ったストレンツィの撃ったレーザーがM4A1の頭に当たるより前に、その髪に弾かれ、右隣の湖に着弾する。
そして、次の射撃が来る前にM4が握っていたFNX-45によってストレンツィの頭は砕かれる。
「レーザーとか……この世界でも悲しいくらい威力不足ね?
ほら、私の髪にすら弾かれる。実弾の恐ろしさを教えて上げる、”フォートレス”。来なさい」
M4A1がパチンと指を鳴らす。
すると、M4A1の全身に装甲が取りつき、砲塔が両肩に装着するして、まるで要塞を身に着けた様な姿にM4A1は変身する。
「ほう!死体の群れでも編成は取れてる!」
「……エンペラー?」
「できる娘は率先して親を助けるものだ!さぁ、行こう!」
M4A1に続いて、パラデウスの姿を確認したエンペラーも指を鳴らすと彼女の身体から金属の塊たちが分離した。
「エンペラー。先ほど私一人で十分と、さっき話したのですが」
「フッ、そう言うな。1人より2人だ、それに"フォートレス"に変身した母上を間近で堪能させてもらいたいのだ」
エンペラーは変身したM4A1にそう言った。
そう、M4A1は身にまとう装備で感情の流れが変わる。
モリドーと戦った時の羽を背負うのは"ブレイク"、これは感情の流れに変化はない。
シュタージのメカを粉砕したのは"ダイレクト"これは感情をより攻撃的に変える。
そして、今の"フォートレス"は感情を並行的に変える。言うなれば面白みもないヤツになる。
そこで待ってくれることこそ、自分にとって最大の手伝いなのだけど、エンペラーまだ力試ししたいのだろう。
「いいでしょう。敵は40人です。後衛の30人を私が削ります。エンペラーは前衛の10人を削りなさい」
「仰せのままに」
M4A1とエンペラーの手元に粒子が集まり、M4A1の手にはカスタムされたM4A1、エンペラーにはワイヤーストックを装着したHK337が転送された。
「やはり、母上は”URG-I”だったか!冷静寄りのAIになっても好みは変わらん!これを見た父上殿はさぞ────」
「……来ます。あなたも"テスト"の仕事をなさい」
M4A1の肩に装着された二門の大砲が火を吹いた。
大砲から放たれる、”60mm迫撃砲”は綺麗な放物線を描いて、400メートル離れたドッペルゾルドナーと周囲にいた敵、合わせて10体以上のパラデウスを偏向障壁諸共、塵芥に変えた。
パラデウスの兵士は焦ったのか十分充てられる距離に来ていたのか、生き残りのドッペルゾルドナーが車に向かってグレネードランチャーを発射した、しかし────
「!?」
「愚かな」
榴弾が目標に向かって飛翔したと思ったら、その榴弾が一瞬で撃ち落とされてしまった。
M4A1の装備フォートレスに装着されている自動迎撃機能"トロフィーシステム"だ。
もう一度、ストレンツィがグレネードランチャーを発射しようとしたが一度目の不意打ちが失敗した以上二度目はない、バックブラストから発射位置を特定され、M4A1が手に握っていた”URG-I”によって発射された蒼色に輝く弾丸によって、生き残ったドッペルゾルドナーは真っ二つに切り裂かれた。
後衛はすべて片付いた。
撤退が許されない、そもそも考えもしないパラデウスが接近戦を近づき道路に出たところ。
「やぁ!諸君!!」
道路の向かい側に待ち構えていた、エンペラーの金属の塊と手に持っていた”HK337”によって、肉を裂き、骨を抉られる穴あきチーズに変えられる。
こうして、モリドーを回収するためにやってきたパラデウス部隊は1分もかからないで殲滅された。
「殲滅確認。良い働きです。エンペラー」
「母上こそ。しかし、これは一方的過ぎたかな!」
自然の名残を思わせた緑の原っぱを血肉で汚し、一部を榴弾砲で黒焦げにした。
確かに、ここの周辺にかかわりがある人間からしたらたまった出来事ではない。
「……ふぅ、気が張るって最高」
M4A1から、アーマーが外れて彼女の思考が通常に戻る。
「大丈夫よ。この程度の環境破壊なら、あっちの政府も一応目をつぶってくれるわ。それにしても、まいったわねえ。あの、蜘蛛女、予想以上に厄介そうよ」
「モリドー嬢とはお話せねばなるまい」
とりあえず、拠点の車に戻ろう。
M4A1が車の扉を開けた時、怒鳴り声が響く。
「アンタよくもやってくれたわね!?」
車に戻るなり、M4A1とエンペラーはAR-15の怒りの鉄拳がモリドーの顔面を殴りつける光景に出くわす。
修理も途中だったところを殴られたので流石に苦悶の声がもだえる。
「おおっと……痛ましい、外道に相応しいかな」
「ええ、全くね」
AR-15の暴力でモリドーの触手の一つが外れしまった。
「流石、伊達に母上の妹でもある!暴力さも一級品だ」
エンペラーの軽口はM4A1は言い返せない所があるらしく「うぐ…」と苦い表情を浮かべる。
「ま、まあ。その暴力性については後々話し合うとして……みんなもう安全よ、パラデウスは平らげたわ。何かわかったことある?」
「ん、ああ?もう終わったのか?やっぱり、異世界の技術ってすげえんだな?」
「それも全て母上あってこその賜物だよ。諸君!」
M4A1達が戻ってきたのをフォトンたちは今更気が付いたらしく、あまりの早い戦闘時間に驚きながらもさっきまでモリドーが勘違いで漏らした情報についてメモしたものを見せてくれた。
「花火、箱、あとは予定通り実行する、ねえ。多分予定される日は花火から推察して、ドイツの統一記念日なるんじゃないかしら?」
「ポカ発言で、統一された日を記念日にするってドイツ人もなかなかセンスがある!旅行の緩和をどこからでも出て行ってもOKのふざけた報道で東ドイツは消えてしまったというのに!」
エンペラーは東西ドイツの統一記念日をとある、東ドイツ政治家の大ポカによって統一されている歴史のことをギャグとして捉えていたが、M4A1達の反応は「そんな事実は知らない」と、
「エンペラー、こっちの東西統一はあっちの事情とは全然違う統一してる。後、こっちだとまた分裂してる」
「なんと!!」
エンペラーが歴史の違い驚いたころ、ROがやってきた。
「M4!エンペラーさん、帰ってます?」
「ああ!ここにいるとも!だが、"さん"はいらないのでは?私はキミ達の姪にあたるのだぞ?」
「……あ、言われてみれば」
そうだ。血縁という関係に当てはめられるかは微妙だが、RO達の姉妹機として扱うM4A1の娘のエンペラーはRO達の姪になる。
だが、エンペラー達からみたRO達は……
「ってことは、私達って……叔母さん?」
「そうなの!?」
そう、エンペラーにとってRO達は"叔母"の関係になる。
AR小隊はこぞってM4を見つめる。M4A1は当然のように頷く。
「ええ」
「────!!」
衝撃、あまりにも大きい衝撃がAR小隊を襲う。
M4が異世界に行ったことばかりに気を取られて潜まれた事実に気が付かなかった。
「って、あまりの衝撃に忘れてた!エンペラー!あなたが助けたシュタージの人、目が覚めたわよ!」
「おお!!」
エンペラーは嬉々として医療部屋の方に向かった。
「……う」
突然にじみ出る腹の痛みに悶えて、目を覚ます。
目を覚ました時に初めて覚えた感触は焦げた匂いだった。
首を動かして、見渡すと赤い光が見え、目が段々慣れてくるとそれはランプの光ということを理解する。
「もう起きたのか?もう少し休んでいろ」
凛、として、芯のある声が焚火のすぐ近くで聞こえる。
この声の主は自分を冥界に連れていく死神だろうか?
「どうも、死神さん。僕は、天国と地獄、どっちに行くんですか?」
話かけられた声の主は、あきれた様なため息をつく。
「そのどちらにもいかないだろう。君は生きているから」
生きている?そんな馬鹿な、と驚き。体を持ち上げようとすると、
「痛っ」
「だから、休んでいろと言ったんだ。しかし、だ。傷を自覚する前に気を失ったのなら失礼な物言いだったかな?」
「どうして、僕は、ここに?」
そうだ、あの時。自分は、グレイのあのサソリのような尻尾の刺突で自分は腹を貫かれて死んだはず。
「屋敷で死に気かけたのを見かけてな、見捨てるのも気分が悪いからついでで助けた」
はず、のギリギリで自分は助かったのか。
「あなたは?」
「何者か聞きたいならば、自分から何者か名乗るものだ。少年」
その発言はごもっともだけど、でも自分は名乗れるほどの価値がある存在ではない。
「自分の名前なんて、名乗るほどのものでは」
「名前はないのか?なら、どこの人間か言えるだろう」
「名前は、ないわけじゃないですけど」
「なら、名乗れ」
声色に優しさがあるが、どこか命令されている感覚を覚えた。
断ったら殺される、それほどにトーンは低く、恐怖で泣きそうになるくらいの詰めた声で命令される。
本当はシュタージは簡単に自分のことを名乗ってはいけない。
でも、彼女を怒らせてはいけない、なぜかそれだけは本能のように感じる。
だから、
「ライト」
名前を名乗る。
声の主は「そうか」とどこか、納得したように砂利を踏んだ音を立てて、立ち上がる。
その時に、さっきまで暗闇だと思っていたのは、実は人間の影だったことを理解する。
「名乗られたら、名乗り返すのが礼儀だ。だから、教えよう。
私は”エンペラー”。ここにはちょっとした観光でやってきたんだ」
影は潜まり、彼女の輪郭は照らされる雲のように浮かびあがる。
その姿を見て、自分は言葉が出なかった。
影の中に蠢いていた「彼女」がその原型を露わにしていく。
────美しい姿だった。
髪は雷と思わせるように美しい蒼く、
煌めきのある髪色をしていて、
均衡の取れた肉付き、
宝のように煌めく黄金の瞳、
暗闇を照らすのに相応しい幻想的な輝きを見せていた。
誰もがその姿に見惚れる様な美しい女が影の中から現れた。
「ライト、君に何があったか聞きたい。これも何かの縁だ……手伝ってくれるね?」
────
───
「……」
ポタポタと滴る水音でモリドーは目を覚ました。
目を覚ますと、尋問室にはさっきまで自分を殴っていたAR-15どころか誰もいなかった。
しかし、全くもって静かではなく、扉越しに何か揉めるような声が飛び交っているのが響いていた。
揉めるような声が徐々に小さくなり、扉が開く。
次はもっと直接的なものだろう。それを失敗させる為にさっきの揉め事を例にした仲間割れで煽ろう。
部屋に入ってくる女と目を合わせるまではそう思っていた。
「あ、アナタ……!どうしてっ……!?」
「
部屋に入ってきたのはM4A1を見て、自分の忘れていた記憶が少しずつ鮮明になる。
「久しぶり?私の事、まだ覚えてる?」
突然現れた、この蒼い女に手も足も出せずに銃弾で焼き切られた事、あの恐ろしい紅あかい瞳で睨みつけられた記憶がありありと浮かんでくる。
「なんで……?どうして……アナタがここに、いるんですか?M4A1……?」
瞳はまだ、紅くなっていない。
しかし、それ以上に不気味な笑顔をこちらに向けていた。
モリドー震える気持ちを隠して、言葉を絞り出す。
「どうして?……簡単な事よ、次のアナタの尋問を任せてほしいとお願いして、任せてもらったのよ?」
「頼んだ?……それにしては随分……揉めていたようですけど?」
M4の表情が固まり、またすぐ元の笑顔に戻る。
「ハッ……!やっぱり、アナタは仲間割れを」
「ああ、アレね。モリドーをどうするつもりだ?って聞いてきて具体的な話をする度に案外盛り上がってね?ちょっとくるのが遅くなっちゃった」
M4には自分の口を破らせる方法を思いついている?
なら、ここで黙れば本当に仲違いするかもしれない。
M4を怒らせて失敗すれば、私にも脱出するチャンスがある!
「アナタのやり方では私の口を割れませんよ〜?だって、アナタ甘ちゃんですもの!」
「……甘ちゃん?」
M4が話に乗ってきた。なら、ここからは私の番だ。
「聞きましたよぉ?アナタ、人殺しをしないらしいじゃないですか?聖人君子のヒーローにでもなったつもりですか?」
「えー?私って、正義のヒーローに見えないの?」
こいつ自分の正義にでも酔っているのか?
どこが正義のヒーローだ。怪物の間違いだろ。
「大破して、切り刻んだ人形を汚らしくボリボリと口に放っておいてよくそんな事言えますね?この食人鬼」
"食人鬼"。そう言われても、M4の表情は以前涼しいままだ。
「あら?知ってたの?」
警察達のロボットを破壊したしばらく後に遡る。
乱雑に終われたカーゴのなかでモリドー見ていた。
「……んー、おいしくないわね」
バラバラにされたロボットの残骸をバリバリと音を立てながら咀嚼するM4A1を……彼女は壊した人形を喰らう怪物だと知っていた。
「私も食べたいんですかぁ?」
「どうかしら?あんまり美味しくなさそうに見えるけど」
どうやら、あまり手応えがないならばもっと切り込まないいけないようだ。
「アナタは人間を依怙贔屓しているんですよ。理由は彼氏さんが大好きだから、人形や私を傷つけても心が痛まない、そのくせお父様のやっている事を非難する。アナタとそのお父様の命令を実行している私も結局は大きく違いはないのに。わかるでしょう?私達、実は仲良くやっていけるはずなんですよ」
「……」
M4は黙って話を聞いていた。
そして、モリドーの話が終わった後には
「アナタ、色々勘違いしてるようね」
M4A1はとても申し訳なさそうな表情でモリドーを憐れんでいた。
「……勘違い?」
「確かに私は人間を殺さない。だけど……それは命令だからよ」
M4がすぐ隣にあった、鉄パイプの椅子を軽く引いた後、ゆっくりと腰掛ける。
「私が人間を殺さない理由は、私に対して"無駄に人間を殺すな"というプログラムが仕組まれているのよ」
「プロ……グラム?」
「私にプログラム仕込んだ奴が、むやみやたらに人間殺して責任問題を問われるのを嫌ってるのよ。まぁ、今までの経験でそう思う気持ちも分かる」
「私は困ってるけど」とM4は独り言のように呟き、話は続く。
「けど、ルールがあってね。そのルールのどれか1つを満たせば私は人間も殺せる」
「そのルールってなんなんです?私、気になりますねー」
「別にそんなの気にする必要ないでしょ?別にアナタたちパラデウスは人間じゃないから今すぐ殺せるし」
自分は人間じゃない。人間より上の存在だ。
それはモリドー自身が自己顕示欲を見せびらかす為にグリフィンやアンジェリアに発言していた。
だけど、M4の人間じゃないは「お前は人間以下だ」と見下した表現で使っている。
「私が人間より、生きる価値がないって言いたいんですね?アナタは?」
「アンタに限って言えばそうじゃない?人間見下して、敵でもない人相手にテロを起こして大量虐殺する奴らが人間と同じように扱われると本気で思ってる?」
M4に訂正はない。
寧ろ、より客観的な事実を踏まえた根拠をモリドーに突きつけてくる。
「……なんですって?」
モリドーの顔が怒りで歪む。
さっきまで、M4を挑発しようとしていたモリドーの顔が逆に怒りで歪んでいる。
「汚らしい顔ね。そっちの方が私は好きよ?」
「……は?」
"汚らしい顔"と表現された、モリドーはさらに鬱憤を募らせていく。
M4の白い指がモリドー下顎を掴んで、くいっと引き上げた。
「自尊心が傷ついた?人間より、優れているハズの自分が見下されるのが気に入らない?なら、教えてよ。人間より、優れているアナタのそのすごい計画を?」
これで素直に話すと思っているのか?
だったら、その浅慮さを後悔させてやる。
「……いいですよ?なら、M4A1?内緒話がしたいので耳をこちらに近づけてもらえますか〜?」
学はあるが馬鹿な女なんだろう、本当に耳を近くまで近づけてくるなんて。
「……うん?これでいい?」
手足は縛られているから抵抗できないと思っているんだろう。
「はい。十分です」
だが、私の口は縛られていないことをこの女は忘れているんだろう。
「実は……」
「うんうん」
モリドーの下顎が大きく開かれる。
まるで、大きめの果実を丸齧りするように。
「ガブッ!!」
「────」
ガブリとありったけ顎の力を力を込めて、モリドーはM4の耳に噛み付いた。
流石のM4も噛みつかれた事は予想していなかったに違いない。
現にこうやってパニックになって、私を引き剥がそうと暴れようと……
「はぁ……」
噛み付いたモリドーに聞こえたのは、心底呆れたM4のため息それだけだった。
動揺も、怒りもない。
ただ、呆れたというため息だけ。
そんな、これだけ噛み付いているのに……モリドーが動揺し始めたのと連動するように力を入れていた下顎で噛み付いている耳の感触がどういう物なのか、ようやくわかってきた。
「放しなさい」
パンッと頬を叩かれたような軽い打撃音。
その直後にモリドーはほんの一瞬だけ意識を失い、そのすぐ後にやってきた衝撃音で意識を強引に引き戻された。
「うっ……!?」
頭の中から、よくない音があちこちでアラートを発している。
「好きあらば噛み付く……ね。全く、油断も隙もありゃしない」
視界の先にはさっきまで座らされていたテーブルと自分を見下すM4の姿が映った。
恐らく、あの叩かれた音がした時にモリドーは壁まで吹き飛ばされたんだろう。
「さっきから思っていたけど。アナタって、痛みで会話するタイプなの?」
M4は軽々と片手でモリドーの首根っこを掴む。
その腕力は凄まじく、モリドーの体をやすやすと持ち上げ机がある場所まで戻ると、その机に自分の頭を机に叩きつけた。
「────カッ!?」
また、意識がなくなりそうになる。
モリドーはAR-15の時と同じように痛覚を切る。
「いたーい!なーんて?そんなの聞くと思いますか?痛覚を切ったらこの通り!痛みを感じないモリドーちゃんですよ〜」
「本当にそう?」
障子の紙を突き破るようにサクッと音を立てて、M4の指がモリドーの手の甲を貫通する。
彼女の腕力は驚愕に値するが、この貫通も痛覚を切って仕舞えばと、モリドーが優越に浸ろうとしたその瞬間────
「……ギッ!?」
痛覚が切れない。
────どういう事だ?
M4が突き刺した指は手の中をまるでクリームの手触りを感じるようにかき混ぜられる。
────いたい!痛い!!
モリドーはチカチカとする視界と真っ赤に染まりそうにブレた視界の中、必死に痛覚を切ろうとしても、一向に痛みは止まってくれない。
────どうして止まらないの!?
「あら?痛覚は切らないの?さっきまであんなに自慢してたくせに。やっぱり、痛みでコミュニケーションをするタイプだったのね?」
彼女から甘い声をした、バケモノの声がした。
声の主は本当にバケモノみたいな顔をしているのか、それとも冷たく無表情なのか、それを確かめる精神的余裕はない。
「どうしっ…てっ!?……アっ…!?あ!?」
「悪いけど感覚は切れないわよ?じっくり味わいましょう?今まで平気な顔でやってきた暴力の痛みを知るいい機会じゃない?」
「いやだ……やめて……!」
モリドーが必死に懇願すると、M4が指を引き離す。
その引き離した時の痛みも相当な物だった。
「ハアッ……!ハアッ……!離せ!こ、このっ……!バケモノっ……!」
モリドーの余裕はもうどこにもない。
あるのは今もなお、ズキズキと痛む手の甲の痛みとその手の甲を突き刺したM4に対する感情的な怒りだった。
「これで分かった?それがアナタが傷つけてきた人たちの痛みよ?アナタ、私が来なかったらもっとユーリを痛めつけるつもりだったんですってね?」
そうして顎を掴まれるとM4と無理やり視線が合わせられる。
瞳の色はあの時見た、鮮血のような紅い瞳に変わっていた。
「…私、前になんて言ったか覚えてる?」
「あっ」
あの瞳を見た時、直感的にあの目は絶対に見てはいけない物だと確信していた。
あの瞳はきっと、自分の全てを吸い取って空っぽにしてしまう、という確信があった。
『苦しいでしょう?本当は誘導尋問とか、身振り手振りで読み取ることも出来るけど、アナタは本当に失言が多いから、お仕置きする事にしたのよ』
耳から響く声こえと中から、伝わる音声、その両方に挟まれるように押し潰されて、
息がうまく出来ず、
身体がうまく動かず、
考えが働かない、
『……ふーん?アナタ、実はマハリアンの"代用品"なんだ?でも、マハリアンはいう事聞かないから、アンタで妥協した……ねぇ?ベルリンで追いかけ回してたのも、結局はマハリアンに対する私怨と自己顕示欲を歪ませて起きた結果だった訳だ』
「や、やめて……!い、いやだっ……!」
縋るよう声で必死にモリドーは懇願する。
さっきの手の甲の痛みの方がまだマシだ。
M4が曝け出した自分の卑しさを突きつけられて、問答無用で認めさせられる。
自分の在り方や自己、自我が生きたまま、プレス機に押しつぶされるような感覚がモリドーの全身に駆け巡っていた。
『アナタの本当の目的はその"お父様"……"ウィリアム"の絶対な存在、そして信頼を得る事。人間を見下すのその自己顕示欲から派生した副次的要因なのね』
「あっ……!がっ……!い、いぃ……!!」
ズキン、ズキン!
頭を潰されるような強い感覚────
凄い勢いでボタボタと水音を立てて溢れ出ている。
汗だろうか?鼻水だろうか?体液だろうか?それとも、血液か?
『身体は強くても心は脆弱。弱者のソレ。
"他人より上だから何をしてもいい"ではなく、"自分が評価されるためなら、他人を蹴落として上に昇る"。
モリドー、アナタは傲慢な支配者じゃない、ただの卑怯者よ』
「────あ、ぎっ!?いいい…!!」
反響する声はどんどん大きくなる。
『アナタの切り札とやらは何かしら?今すぐ話さないとナカからバラバラにするわよ?オマケのアンタがどうなろうと私は困らないんだから』
M4のセリフは脅し文句ではない。
きっと本気の発言だ。
「じ、ジラヘルム……!」
『ジラヘルム……ジラヘルム工場の事?』
聞き返す、M4のセリフに恥も外聞もなく、コクコクとモリドーは頷く。
嘘もごまかしもない、そんなことをすれば彼女に見破られて、本当にナカから自分は砕かれる。
モリドーにはその確信があった。
『────結構』
頭の中でパチンと何が切り落とされる音が反響する。
それと、同時に押し潰される痛みから解放されて身体が軽くなる。
「ハアッ……!はぁっ…!ふぅっ…!ふぅっ…!?」
ゼエゼエと、酸素を口からとりこんで全身に行き渡らせる。
圧迫感から解放されたモリドーだったが、M4に対する恐怖の感情はいまだに薄れない。
「コレはお仕置きよ。アナタがユーリをもっと痛めつける殺すって言った失礼な物言いに対してのね」
M4の声は依然と冷たい。
「今回はコレで許してあげる。でも、コレでも懲りないならもっとキツイお仕置きを喰らわせるから、覚えておきなさい?」
そう言うと、M4はパイプ椅子から立ち上がり、尋問室を後にした。部屋に残ったのはモリドーただ一人。
「────」
尋問室の扉が閉まると同時に、モリドーの膝から力が抜けてその場の机に頭から倒れ込む。
あんなバケモノがいたのか。
失言だけでもコレほどの目に、いや……失言だから、コレだけで済まされたのか?
もし、自分が言った通りあの男を殺してしまったら、私は……どうなっていたのだろうか?
「怪物……だ、あの女」
私にはその想像なんて、できない。
恐ろしすぎて、その想像すらできない。
M4がモリドーの尋問を変わると言って10分、尋問室から何か思いっきり叩きつけた音が響き渡った。
「大丈夫なの……?M4……」
M4に何かあったのか、身構えたフォトンやAR-15達だったが、その次の瞬間にはモリドーの悲鳴が響き渡った。
それ以降も、何かが倒れたり、叩きつけられる音が何度も尋問室から響き渡る。
「入るな」と言われたわけではない。
しかし、中で何が起きているのか確認しようとする勇気は誰にも持てなかった。
「終わったわよ」
しばらくもしないで、M4が尋問室から出てきた。
「大丈夫?さっきすごい音が聞こえたけど」
「ええ、大丈夫よ。モリドーの奴が噛みついてきたけど、お仕置きしておいたから、しばらくは大人しくなると思う」
「モリドーに噛みつかれた」M4はさらっと、とんでもないことをM4は言った。
「それよりも、モリドーがその花火の日に使う重要な物を吐いたわ。場所はジラヘルム工場よ」
ジラヘルム工場……フォトンは早速端末を使って調べてみると、ドイツの国営工場の傘下だった工場だと情報がすぐにヒットした。
「確かに何かを作るのに打ってつけかもしれないが……確かなのか?」
「ええ。"眼"を使ったからね、確実よ。どうやら、"イズンの箱"というのをを使うらしいわ」
「ほう、それは確かだな。そこまでのえげつないお仕置きをしたということはそれほどまで悪辣なのかな?モリドーも?」
エンペラーはM4の"眼"とやらをなんなのか知っているらしく、それを使った行為を「えげつない」と表現した。
「当たり前でしょ?ユーリをもっと痛めつけてやるって言った奴に容赦なんてしないわ」
さっきまで、甘い声で話していたM4がユーリの件を持ち出した際、表情が険しくなった。
やはり、M4にとってユーリは何者にも変え難い存在らしい。
「M4の眼っていうのが何かはよくわからないが、とりあえず、ジラヘルムで確定なのは分かった。なら、早速乗り込むべきじゃないか?」
「それでいいわ、でもその前に相談したいことがあるわ」
相談したい事って?なんだろうか?
M4は一泊置いて口を開く。
「エンペラーが助けたあのシュタージの子をどうするかよ」
あー……と一同は思い出したかのように、呟いた。
「私の提案は2つ。このまま、シュタージに送り返すか」
「私が面倒を見る、か?」
M4A1は頷く。
「エンペラー、その子からなにか情報は聞けた?」
「ええ、ですが……あの子も新米だったらしく、話をまとめてもアンジェリアに憧れてついていったようだ」
「はぁ……全く、あの女は男を不幸にするわね」
M4A1は頭に手を当てて、辟易していた。
「アンジェリアは母上も知り合いか?」
「ヤな事情が重なって、お世話になったことがあるのよ」
「そのお世話になった後の方がヤな事情を起こしてたでしょう。M4、特にコーラップスの爆弾はね」
「……そうね。気がつかなかったとはいえ、大勢を巻き込んで殺してしまったわ」
「……それが、母上のよく話されていた……」
「ええ、拭えない罪よ」
エンペラーは思い当たるらしく、言葉を選んだ。
M4も沈んだ表情でその思い当たるものに間違いないと頷いた。
「エンペラー、私がアンジェリアを助けようとするのに消極的な理由がよくわかったでしょう?」
エンペラーは仕方ないな、と頷く。
「ジラヘルムには行く。こんなこと言える義理はないけど、この国の人たちまで見捨てるなんて、私の性に合わない」
「そうだ。それでこそ、皆に慕われ、私の憧れる母上だ」
「それでは付き合わせてもらおう。ライト君の世話は見ないとならない」
「何言ってるの?」
AR-15は呆れた反応をする。
当然だ、ライトは先輩を探すために一度洋館に戻りたいと話して、M4はジラヘルムに行くと言っているいうまでもなく別々の場所に行くことになる。両方は不可能だ。
「さすがだ!叔母さまも分かってきたようだな!」
「何意味不明な────えっ!?!?」
なんと、エンペラーの体内から骨格みたいなものが飛び出た。
そして、その骨格は次第に液体金属に包まれるとエンペラーと同じ姿に変わる。
「わぁー……増えちゃったよ」
SOPⅡの表現通り、エンペラーは気がついた時にはもう2人になっていた。
「私は母上と共に工事へ」
「私はライト君に洋館へ」
2人になったエンペラーがAR-15達の方を向いた。
「「どうだ?これで問題ないだろう?」」
「無茶苦茶……」
ダンデライオンも目の前の出来事に白目を剥いていた。
今まで、数多くのイレギュラーに揉まれてきたAR小隊だが、今のエンペラーの分裂してダブルキャストを行うなんていう行動ひとつでその経験や常識を過去のものにしてしまった。
夕方:ジラヘルム工場
AR小隊と404小隊、分裂した片方のエンペラーとそして捕虜のモリドーはジラヘルム工場に到着した。
モリドーが正直に話したとは言え、何があるか分からない。
各々、出来る限り用心した想定をした装備を持ってきている。
「叔母さま方!」
エンペラーがSOPⅡ、AR-15、ROに何かを投げ渡してきた。
「グレネード……?」
渡されたグレネードのようなものを見る。
見た感じ、ジュース缶のシルエットをしたグレネードに見える。しかし、このグレネードにはダイヤルがついている。
「我々の組織が使う支給品だ。そのダイヤルで機能を切り替えられる。切り替えられるのは、電磁障壁、インパクト、音響だ」
AR-15がダイヤルの目盛りを確認する。
エンペラーね言う通り。"EMP'F"、"IMPACT"、"SONAR"と英語で割り振られている。
「凄いわね。このグレネードは私たちに渡すために事前に持ち込んだの?」
AR-15はここまで気前がいいのか感心していたが、エンペラーはかぶりを振っている。
このグレネードは持ち込んだものではないらしい。
「ただ、これはテスト品でね。まだ、十分な信頼性は計測できてないんだ。私が訓練で使った時は良い品物だったのだが……実戦で意図しない起爆がないとも言い切れず……」
「つまり、モルモットというわけね。SOPⅡ、テストよろしく」
「ちょっと!?」
AR-15か肩を叩きながらした発言にSOPⅡは驚きと抗議の声を上げ。
「お喋りは終わりよ。始めるわよ」
どうやらUMP45達は準備ができているらしい、別にこっちの準備も終わってないわけじゃない。
なので、さっさと雑談は切り上げて、始めることにしよう。
M4A1達はドア隣の壁に張り付く。
「私が先導する。着いてきて、エンペラーは後方警戒」