<イントゥルーダーの作戦ではご苦労だったな>
「お気になさらず、仕事ですので」
<気にしてはいない。お前なら出来て当然だ>
いちいち厳しいことを言われている気がする。
前のテロで半分他人事のような態度をとったお返しのつもりらしい。
……助けたのは、俺なんだけど。
という感情は隠しておいて、次の話題を待つ。
<お前には報告していなかったが……前々から、鉄血やグリフィンでの戦闘で大破した人形や損傷した人形の数が報告と合わない事がよく起きている>
人間同士の戦場でも死体の数が合わないことなんて、よくあることだった。
だから、こういうのは暗黙の了解だったし、この件を責めるつもりはない。
<だが、最近オークションや人身売買、脱走した人形と闇に出される人形が増えてきてな。当初はしばらくはおとなしかったが、次第に犯罪を起こすようになった。そして、そのバッシングが製造会社に向けられるようになり、これ以上のイメージ低下をしたくない各製造会社から、調査を依頼された>
大方、その闇に出された人形が犯罪を起こしているから「ウチのせいじゃありませんよ」という、反論の証が欲しいとグリフィンや他のPMCsに依頼をしたのだろう。
闇に流れた人形……スペアタウンの一件を思い出す。
<これは、戦術人形をメインで動かしているグリフィンのイメージダウンにも繋がる。この問題の解決は鉄血との戦い以上に重要になるだろう>
クルーガーからメールで正式な指令が届いた。
今度は件名をちゃんと入れてくれたらしい。
内容を流し読みするとどうやら、普通の人形でやるような警備や銃撃戦とは違う類だ。
ユーリは、無言でウィンドウを閉じた。
「分かりました……確かに、この仕事は普通の指揮官に任せられませんね」
<ああ。認めざる得ない。こういう仕事は戦いが専門の彼らでは失敗する。だが、お前は……>
「やめましょう?記録されていたら、厄介だ。お互い、知られたくない関係や素性はあるものではないでしょうか?」
ユーリの静止に、渋い顔を浮かべながらうなずいた。
<分かった。だが、これからは態度に気を付けろ。もう、昔のように対等な関係ではないんだ>
クルーガーは通信を切った。
対等ではない、か。
ユーリはこの言葉に、自分が知っていた昔のベレゾヴィッジ・クルーガーの面影を思い出した。
「ええ。心得ておきます」
そう言って、ユーリはもう一つの携帯電話に連絡をかけた。
「ああ。キャスター?」
<ユーリか……AR小隊の仲間たちは見つかったのか?>
「ああ、この前の情報のお陰だな。グリフィンの仕事でこの町に行かないといけないんだが……俺たち、どんなものを用意すればいいのか、教えてくれるか?」
<ここか、ここはちょっと厄介だぞ……例えば────>
……
…
電話を終えて、執務室を出るとM4A1が待ち構えていた。
そして、その後ろには目が離せない過保護の親のようにM16A1がピッタリくっついていた。
「あの……クルーガーさんはなんて?」
M4A1の言葉と動きに緊張が混じっているのが分かる。
おそらく、自分が指揮官を守れなかったことに沙汰になる事を気にしているのかもしれない。
「君のことは、特にいわれていない。しかし……」
「しかし……?」
「週末は街でパーティかな」
ユーリがM4A1たちに今回のクルーガーから宛てられた仕事の内容をなるべく簡潔に説明した。
「ようは、遠くの街まで遊びに行くついでに調査の仕事をするってことか……ま、頑張れよ」
「私の他に人員が必要ってことは聞いていただろう?」
「じゃあ、探すんだな。私らは関係ない」
M16A1の認識はAR小隊とユーリという指揮官はただの協力関係らしい。
だから、グリフィンで掃討作戦をするときにI.O.Pの利益に合致するなら、「手を組んでもいい」そう思っているのだろう。
「そうだな……他に手伝ってくれる子を探すとするよ。最悪、いなかったら……」
「いなかったら……」
いなかったら……?
いなかったら……きっと、自分一人で仕事をするつもりなのだろう。
M4A1を鉄血のエクスキューショナーから助けてくれた時のように……また、危ないことを自分一人で……
「まあ、素直にあきらめるよ」
「ま、まって!!」
ユーリが諦めて、他の人形たちに頼もうとした時……
思わず、M4A1は、
ユーリの腕を、
掴んでいた。
「あの……?M4さん?」
「いなかったら……」
思わず、ユーリが首をかしげてしまった。
M4A1自身でもどうして、こんなに自分から動くことになっているのか、とびっくりしていた。
「私!志願したいです!」
「なんだと!?」
M16A1の声が裏返る。
よほど、予想外のことだったらしい。
「どうして、ウチのM4を連れ出すんだ!指揮官様よ!?」
「わ、私じゃなくて、M4が言い出したことで……」
「言い訳するんじゃねえ!!」
M16A1がなかなかの剣幕でユーリに詰め寄る。
あれだけ警告したのに、何も響いていないのか?と憤慨しているらしい。
そのM16A1とユーリの間にM4A1が割って入る。
「M4……なんのつもりだ?」
「姉さん。私も、この作戦に危ないことをするリスクがある事は承知してます。でも、これは決めたことなの!邪魔するなら、顔面にチョコレートクリームぶっかけるわよ!?」
ユーリは特にM16A1に気圧されることなく、M4A1が押し返した。
「なぜ、M4が志願する?……なぜだ?騙されたのか!?それとも脅されたのか?」
「やめてください。妄想を聞かされても嬉しくない、私は自分の力を証明したいんです。指揮官を守れる存在だと……証明したいそれだけです」
これ以上は、M4A1の意思を変えられないと判断したM16A1は渋々引き下がった。
「指揮官。大切に扱えよ、傷でもつけたら承知しない」
M16A1は精一杯、殺意を込めた声で2人を後にした。
「────すみません。こうでもしないと納得してくれないと思って」
「いいんだ。むしろ、本気でこの仕事に取り組もうとしてくれて嬉しかった」
"嬉しかった"という言葉を聞いた、M4A1は頼られていると知り嬉しかったが……その表情を見せないために、あえて顔を伏せた、
「よし、私は必要なものを揃えるから、それが終わったらすぐに行こう」
「分かりました」
……
…
必要な服装を整え、電車を何度も乗り継ぎ、イエローエリアという基本的に"生活はできる"地域の街で主催されたパーティ会場に来ている。
「"バルトライク"にようこそ」
今までの機能性を追求したと思われる微妙な服装は一転、煌びやかなパーティにふさわしい萌葱色のドレスを纏っている。
「圧巻ですね……」
電車を降りながら、思わずユーリと一緒に来ていたM4A1は感嘆の入り混じる声を上げた。
「そろそろ、会場に着くけれど……設定は覚えているよね?」
「はい。私たちはコレクターという趣味からこのオークションに参加した夫婦。ユーリ、あなたは"ノーラン"という政治屋専門の高級弁護士。私は鑑定士という、資格を持った資産家の"レイラ"という夫妻という設定でパーティに参加するんですよね?」
M4A1は一語一句、間違えず設定を語る。
「その通り、このパーティはいわばお忍び専門だ。要は、招待なんかなくて身分と金さえよければ飛び入り参加専門のパーティなんだ」
ユーリはバッグを担ぎ、2人でパーティ会場の入り口に到達する。
「IDを」
「どうぞ」
ユーリがIDを確認する受付に見せつける。
アレは戦術人形だ。
「確認しました。ノーラン様、この度はこのパーティへの参加ありがとうございます」
「素晴らしい出会いがあることを期待しているよ?」
今度はM4A1の番だ。
表情こそ決めた通りの凛々しさだが、内心は失敗していないだろうか、バレていないだろうかと手汗でぐっしょりと濡れていた。
「IDを」
「どうぞ」
M4A1が全力で震えを抑えて、IDを証明するカードを渡す。
手渡しでも凄まじく緊張する。
力加減を間違えてないか、戦術人形であることがバレないか。
「レイラ様……ですね。ご職業は鑑定士ですね」
「はい……はい?」
思わず、そうだといい、慌てて聞き直すように訂正した。
今のM4A1(レイラ)は資産家だ、鑑定士は付属品にすぎない。
「私は資産家よ?あなたね……見せたIDすら、マトモに読めてないっていうの?」
わざとらしく、M4A1は傲慢な口調で受付を責める。
内心、M4A1は分の悪い賭けをしている気分だった。
人形の嘘はバレやすい。
それこそ、嘘がつかないと言われるほどだ。
一語一句が命取りにならないか凄まじく緊張する。
「申し訳ありません……はい、確かに資産家が本業ですね。お時間をいただいて申し訳ありません、是非お通りください」
「ふん……時間食ったわ」
M4A1(レイラ)は強引にIDを奪い取り、会場の中に入って行った。
「はぁ〜……!」
泥のようなため息が溢れ出る。
なんとか、上手くいったらしい、
「いいクレームだ。スパイの才能あるな」
「そうですか……?ありがとう、ユ────」
M4A1の唇前でユーリは人差し指を立てた。
「今は旦那さん、そうだろ?」
「────そ、そうね。ありがとう、"あなた"」
仮初とはいえ、今の自分は夫婦……その関係はM4A1に言いようのない感情を感じさせた。
ともかく潜入できたのは喜ばしい限りだ。
そもそも、どうしてこんな煌びやかな闇パーティに参加することになったのは、
クルーガー曰く、「グループの街が1番怪しい」という推測からだった。
────潜入はお前も慣れているよな?ユーリ?
────ちゃんとした、モノがあればですけどね。
────調達も得意なはずだ。
────本当、イヤな人だ。嵌められて仕舞えばいいのに。
「さて……オークションに参加するためには資格が必要らしいが……その資格を得るには────」
「たしか、赤い帽子の男に取引を持ち掛ければいいんでしたっけ?」
「そうだ……そして、赤い帽子は……アレか」
赤い帽子の男は、少し見回しただけですぐに見つかった。
それで、その男の帽子が目立っているのだ。
ユーリ達は早速、その帽子の男に話しかける。
「なるほど……オークションに入りたい、と?」
「特別なイベントをクリアできれば、参加できると」
「なるほど、では……こちらに参加したまえ!」
2人が防止の男いついて行った先に待ち構えていたのは、コロシアムだった。
どうやら、コロシアムと呼ばれた小さいホールで行われた闘技場を指差しているらしい。
「参加の登録はしなくていい、コロシアムに入った時から参加登録が完了しているからね!普段は金もない、人権もない奴等を使って遊ばせているが……今日は特別だ。君たちが来てくれると観客も盛り上がるだろう!!」
悲鳴が響き渡る。
驚いて、2人はその方向を振り向く。
悲鳴はコロシアムの中から響いており、
明らかに見せ物で参加者に仕立て上げられた浮浪者の男が数体のE.L.I.Dに肉を食いちぎられている光景が見えた。
そして、参加者が食い殺されたと同時に同時に観客から歓声が上がった。
────ヒヒヒヒ!!!さぁ!また、1人食い殺されたぞ!?E.L.I.Dと化した怪物達から何人の奴隷が生き残れるのか!!
趣味の悪いピエロの覆面をつけた男が大笑いしながら、惨劇を実況している。
「惨い……悪趣味すぎる」
「そうだな……」
普通の人間としての感性を持っているなら、嫌悪感を感じる闘技場で喝采をあげている。
M4A1はこのパーティ会場にいる人間達が人ではなく……人と同じ形をした動物に見えた。
「さあ!今度は君たちの番だよ!!」
前の扉が開く音がする。
どういうことかと、振り向いても帽子の男と帰り道は陰も形もなくなっていた。
意を決して前に進んでいくと、進んだ先が闘技場のコロシアムであることが分かった。
「……」
コロシアムは強烈な血の匂いと鮮血と臓物が掃除もされずに飛び散っており、ここがどれだけ危険な場所かを物語っていた。
「ぐぅ……!!」
「オォオ……!!」
奥の檻から、気味の悪い唸り声が聞こえた。
気味の悪い唸り声をあげて、檻を揺らしながらE.L.I.Dと化した怪物達がジリジリとにじり寄ろうとしてくる。
その中にはさっき、参加者として食い殺された成れの果てもいた。
「さらに君たちなかは最初から武器を渡してあげよう!せいぜいこれで頑張りたまえ!」
赤い帽子の男の声と共に、足元にナイフが落ちてきた。
しかも、錆びついた果物ナイフだ。
「こ、こんなのが武器!?」
「殺す気だろ!?」
M4A1だけではなく、珍しくユーリが怒りの声を口にした。
檻が開く、怪物達がにじり寄ってくる。
「クソが……!」
「あのクソ親父!騙したのね!」
周囲は壁。
通ってきた道も鉄格子で閉められてしまった。
逃げ道はない、ユーリはこの非常に心細いナイフの柄を握りしめた。
「……M4、私から離れるな」
「ええ、指揮官は私が守ります」
「ありがとう、でも……!!」
自分たちに1番近いE.L.I.Dが腕を伸ばした。
ユーリはそれよりも素早い動作で、慣れ親しんだ事をこなすかのようにE.L.I.Dの喉を掻っ切り、蹴り飛ばすと後ろにいたE.L.I.D達がボーリングのように転がっていく。
「────こいつらから、生き残るやり方を教える。私を信じて」
「わ、わかりました」
こんな危機的な状況だというのに────
自分の指揮官はいつも以上に生き生きしているように見えた。
そして、それがM4A1にとってはとても頼もしく映った。
「なるべく、脇や関節に強い一撃を喰らわせろ!そっちの方が早く倒せる!」
「え!?そ、そうなんですか!?」
「とにかくやって!」
驚きつつもやってみる。
伸ばそうとした腕を逆に捻り上げ、人間とは思えないほど強力な腕を掴みながら何度も左腕の脇をナイフで刺した。
「────ご、が」
本当だ。
本当に、あっさり倒れた。
ユーリの方を見ると、もう3体も倒している。
<予想以上に白熱した状況にコロシアムも大盛り上がりだ!さらに、ここで追加アイテムだ!!>
ゴロゴロと壁から銃火器や釘が差し込まれたバッドが落ちてくる。
なるほど、ああやって時間経過で武器が落ちてくるのか。
って、感心している場合じゃない。何とかして、武器を拾わないと!
「指揮っ……ノーラン!!」
「ああ、だが……焦ってすぐ取ろうとするな、焦らせて遊んているんだ」
そんなこと言っても……いいや、冷静に状況を見直すと武器を拾ったらE.L.I,Dの袋小路になるように落とされている。
なんて、悪辣な闘技場だ。
なんとか、2人でE.L.I.Dを上手いように引き離し、M4A1が落ちている錆びたヴェープル製ショットガンを拾うことに成功した。
「取った!コイツで────」
「そいつはダメだ!」
一応ここは会場だ。
だから、大きい声を上げる時はバレないように偽名を使う。
M4A1はこれで反撃してやろうと武器を掲げたが、武器を見たユーリはギョッとて使うのを止めれた。
「レイラ!代わりにコイツを!!」
ユーリに民生版AK"サイガ"を渡される。
いつのまにか、取っていたらしい。
どういうわけか、こういう形状の銃は好きじゃないが背に腹は変えられない。
M4A1はチャージングハンドルを引き、弾丸を薬室に突っ込むと躙り寄るE.L.I.Dを近い方から、撃ち抜いていく。
銃があればこっちのものだ。
次々にM4A1は戦術人形としての能力と訓練の成果を存分に発揮して、次々とE.L.I.Dを撃ち抜いていく。
ユーリも他の武器を拾って、M4A1以上にE.L.I.Dを慎重に倒していった。
「ぜぇ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
2人が息を荒げながら、背中合わせに座り込む。
周りにはおびただしい血と肉の海が広がっていた。
「なんと!なんという事でしょう!!逃げ切るどころか皆殺しだ!!今日は血の雨が降っております!!観客達も大盛り上がりだ!!」
「最悪……ドレスが」
「これでオークションに参加なんて、酷い冗談だ……」
M4A1達の疲弊をよそに、実況席は大分盛り上がっていた。
「ごめんなさい……私のせいで」
「違う、こうなったのは私がクルーガーに嫌われてるからだ。あの人とは、上手くいってないことが多くてね」
今回の状況は自分が悪いと、うなだれるM4A1をユーリはそれは違うと諭した。
最近わかってきたことだけど、M4A1は何かよくないこと、都合が悪いことが起きると全部自分が悪いと考えるという、課題があるらしい。
これが先天的な責任感の肥大さなら、上昇志向に繋げられるのだろうけど、たぶん…これは、グリフィンでイジメられたことで起きた後天的な自己嫌悪によるものだろう。
「気にするな。君はちゃんと仕事をこなせている」
ガタンと音がなり、出口が用意される。
これで、約束は守ってくれるらしい。
……
…
出口を出るユーリたちを、3人の護衛の女たちに守られながら、まるでここでより偉そうな立場の人間のような雰囲気を与える初老の男性が見つめていた。
「ほう。しばらく見ないと思ったが……随分と逞しくなったものだ」
「彼の付き人の女はグリフィンの人形です。排除、なされますか?」
護衛の女の1人が提案したことを手で却下する。
「いや……今日は、挨拶だけにしよう。せっかく遊びに来てくれた彼を不愉快にさせたくない」
出口に出るとスーツ姿の男と、赤い帽子をかぶった男がそれぞれ待ち構えていた。
「君たちは頑張りすぎだ!お陰で50万ルーブルを損してしまった!罠で妻が死んでいれば面白かったものを!!」
「は……?罠?」
「これだよ」
ユーリがさっき、M4A1が拾ったショットガンのトップカバーを開けると中に爆弾が詰め込まれていた。
玉を入れるためにコックをしたり、トリガーを弾こうものなら爆発する仕掛けになっている。
「ちょ、ちょっと!?」
流石にM4A1も人間の前で演技抜きで怒ってしまった。
「これが君たちの勝利した証……闘技場の賞金50万ルーブルだ!」
「ありがとうございます。50万をケチるようでしたら、貴方の弁護は引き受けませんよ?」
「ふん!詐欺師が!!」
スーツの男は憤慨しながら、その場を後にした。
「悪かったね。勝者の君たちを不快にさせてしまって……さて、これがオークションの参加券だ……ああ、分かっていると思うけれど、撮影は御法度だからね」
「あなたもあなたでこのドレスを汚していおいて随分な態度ね。次会ったら、その首を切り落としてやるわ!」
「おお、コワイ。近くにシャワー室があるからそこを利用したまえ!では、また遊んでくれることを楽しみにしているよ!」
赤い帽子の男はスキップしながら、その場所を後にした。
「なんだかいい気分だ」
「確かに」
M4A1も笑っていた。
良いことをしているわけではないけれど、初めてこういうすっきりした笑顔を見たのは初めてだ。
珍しい、今日はM4A1で初めての出来事をたくさん見たと思う。
……
…
「ふう……」
シャーと滴る水の音が聞こえる。
シャワーはシャワーだが、硬貨を入れてシャワーを流す、時間制のシャワーだった。
その上、流れる水は冷水だし、匂いも臭い、碌に処理されていない水をたらいまわしに流しているんだろう。
それでも、この気色の悪い返り血を流せるというだけでも抗いがたい魅力を感じていた。
見た目だけではあるが、血の匂いも跡も消えた。
洗濯機に詰め込んだドレスも乾燥されているだろう、しわしわになっているのが残りだが改めて着替えるとしようか。
「あれ……?」
ドレスに着替えなおす前に、髪を拭こうとしてタオルを探したが見当たらない。
どこかにあるのか?とおもって、おもむろにかかっているカーテンをどかした瞬間……
「あ」
「え」
なんと、カーテンの奥にはまだシャワーを浴びていた裸のユーリの姿が見えた。
「す、すす、すみません!!!」
急いでM4A1はカーテンを閉める。
その……M4A1は色々見てしまったものを一生懸命忘れようとした。
制服からは全く分からなかった、体中に残っていたたくさんの傷跡がある細身ながら引き締まった筋肉、ユーリのあっけにとられた表情、そして……その、性別を左右するために存在する股間のアレ。
「そのレイラ……」
シャワーを浴び終わって、乾いた服を着なおした、2人が微妙な表情で相対した。
「あ、ああっ!!??ごご、ごめんなさい!シャワーがつながってるって思わなくて……」
「い、いや……お、俺……いや、私こそ、ちゃんと閉めなくてごめん」
ユーリも困惑していたらしい。
声の具合で分かる、実はユーリも見てしまったのだ。
完璧に整えらられた、人形ならではの人間の究極ボディライン、
一見人間と大差ないと思ってしまった、股間のアレ、
そして……普段感じていたものより、全然大きい形をしたふんわりと膨らんだ胸。
その凄さに……ユーリは非常に困惑してしまったのだった。
「そ、そろそろ……オークションが始まりそうだ。仕事に入ろう」
「そ、そうですね……それに、夫婦が裸を見るなんて、あ、当たり前のことですし……!?き、気にせず行きましょう!!」
「そうだな……ああ、うん」
若干、ユーリも表情が赤くなっているようにも見えた。
時間になり、カードを受付に見せてオークション会場に入ることを許可された。
<お集まりいただき、ありがとうございます。今夜も、また素敵な一夜となるでしょう。それでは、まず一品目……>
「オークションが始まりましたね。では、”ノーラン”。私は……撮影を」
「ああ、でも……大丈夫なのか?」
「ええ。こういう時の状況も想定して私はペルシカさんに作られていますので」
M4A1が撮影を始めてから、周りに撮影をされていると気が付かれたような雰囲気を感じなかった。
オークションの内容は、極めて普通だった。
どう見ても盗品の美術品や、限定物の装飾品など、極めて普通の闇オークションだった。
だが、オークションが中盤に差し掛かり中弛みの気配が見えたところで空気が変わった。
<では……オークションも中盤に差し掛かり、皆様お目当ての品がなく、退屈されていると思われるので、ここでとあるゲストが提供てくれた……面白いものをお見せしましょう>
オークションの視界が、スイッチを押す。
すると、ゲートから強化ガラスのショーケースが見えた。
中に居たのは……鉄血のエリート人形スケアクロウだった。
<さて、最近我々を騒がせている鉄血工造ですが……ついに、人類はこの鉄血を従順にできる、装置の開発に成功しました>
ショーケースがゆっくりとこちらまで近づいてくる。
普通なら、人間を目にしただけで銃を向けてくる鉄血の人形が、何も行動を起こさないままオークションの客たちを一瞥する。
<その名も、”スレイヴ・グレード”。この改造をさせるだけで、たとえどこの所属の人形であってもグレードで設定した人物だけに忠誠を誓わせることが出来るとのことです……そして>
また、ゲートが開き……両腕を拘束された、どこかの傭兵人形が入ったショーケースがやってきてスケアクロウのショーケースと連結した。
<あらゆる方法で標的を指定できるとのことです。では、レーザーで試してみましょうか>
司会の護衛をしていた女がショーケースに近づく。
「あの人、戦術人形です」
「そうか……」
M4A1が戦術人形と判断した護衛の女が許可を得て、銃を構えた。
そして、銃に取り付けられたレーザーサイトのスイッチを押して……傭兵人形の身体に可視光のレーザーを当てた。
まるで獣のような声を上げながら、レーザーを浴びせられた戦術人形がスケアクロウの標的にされ、コロシアムの時を思い出させるような、痛々しい悲鳴を上げながら惨殺された。
<ターゲットの変更も可能です>
今度は、観客の方に護衛がレーザーを向けると……
また、スケアクロウは獣のように我を唸った勢いでレーザーを当てられた客に攻撃をしようとして、強化ガラスに阻まれぶつかってしまう。
ぶつかった勢いて、顔を切ったのか額から血を流している。
そして、それはどんなに血を流しても止めようしてない。
<無論、停止も想定されております>
護衛の人形がレーザーを切るとスケアクロウが攻撃を止めて大人しくなってしまった。
一連のプレゼンをみた客たちは一斉に沸き上がった。
<この改造キット改造された人形の戦闘能力は、元の人形の比ではありません。戦うこと、そして忠誠を誓わせることをを前提として、開発した改造キットです>
ぞろぞろ、改造された人形の入ったガラスのショーケースたちが現れる。
言うまでもなく、ショーケースは鉄血の人形が改造された民生用人形に殺され、改造された人形がされていない人形を惨殺し、鉄血の人形が改造された鉄血人形に惨殺される、地獄絵図が繰り広げられている。
そして、その光景に観客たちはさらに沸き上がり……
ユーリとM4A1は……とんでもない、オークション会場に帆織り込まれてしまったのだとすぐに理解した。
<……さあ。だれか、ご注文は?>
オークションの司会がニコリと笑って、木槌をたたいた。