たったひとつの願い   作:Jget

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潜入活動:後編

ぞろぞろ、改造された人形の入ったガラスのショーケースたちが現れる。

言うまでもなく、ショーケースは鉄血の人形が改造された民生用人形に殺され、改造された人形がされていない人形を惨殺し、鉄血の人形が改造された鉄血人形に惨殺される、地獄絵図が繰り広げられている。

 

そして、その光景に観客たちはさらに沸き上がり……

ユーリとM4A1は……とんでもない、オークション会場に帆織り込まれてしまったのだとすぐに理解した。

 

<……さあ。だれか、ご注文は?>

 

オークションの司会がニコリと笑って、木槌をたたいた。

 

────俺だ!俺に買わせろ!!

────これで、俺の人形を強化して邪魔なギャングどもを一掃してやる!!

────いうこと聞かない人形がいたんだ!少なくとも5つは欲しい!!

 

さっきまで厳かかつ、紳士さを感じさせていたオークション会場は、人形を容易く制御、手軽に強化できる”スレイヴ・モジュール”のプレゼンが始まったと途端に休日のセールスのように騒がしくなった。

 

瞬く間に”スレイヴ・モジュール”は完売し、次回生産での予約でも同じように殺到した。

 

「クルーガーも調査を依頼するわけだな」と思いながら購入している顧客の顔を一人でも多く覚えることにユーリは集中した。

M4A1も買ったのは誰か分かるようにするために、一人も残さない勢いで熱意をもって購入者の録画

に集中した。

 

「録画は?」

「大丈夫です。全員分の顔と購入した証拠を撮ってあります」

「凄いな」

 

ここまで、出来るともう万能といっても差し支えない。

だが、ここまでできてしまうとそれはたくさんの人形に嫉妬されるのも納得してしまう。

これはM4A1が悪いことではない。だが、差というのは関係に溝を生む……そして、溝を埋めるために時に醜い行動をとる。

相手を弱くして、溝を埋めるという”いじめ”を行うものもいれば……

”スレイヴ・モジュール”力を求めるだろう。

 

「あの装置はどう思う?」

「結論から言うと……前回戦ったエクスキューショナーと同じものだと思います」

「やっぱりか」

 

前に見たエクスキューショナーがつけていた仮面と”スレイヴ・モジュール”はよく似ていた。

そして、あの仮面をつけていたエクスキューショナーは生気を感じていなかった……まるで、幽霊のように……。

もし、”スレイヴ・モジュール”に同じような機能があったら……

他人にやらされるのもそうだが、嫉妬や焦りから人形が自分の意思でつけてしまったら……悲劇が起きてしまうだろう。

 

あの後、オークションは”スレイヴ・モジュール”に魅了して予算を大きく使ってしまったらしく前回のようなお金の応酬はあまりみられず、淡々と進んでいた。

 

「Mふぉ……すまない。レイラは、欲しいのないか?せっかくの報酬だ、使った方がいいだろう」

「うーん。私好みなのは今のところは……珍しい石があったら考えますが……。指き……いえ、ノーランはどうですか?」

「私は……私も今のところそそられるのはないな……」

 

こうして、オークションは何事もなく淡々と進んでいき……目玉そうな、よくわからない茶器がちょっとだけ競り落としがあっただけで、オークションは終わり客たちは会場を後にしていく。

 

「結局、欲しいものはなかったな」

「ええ。後は、報告だけね……」

 

ようやく、オークションが終わったことをM4A1は安堵していたようだった。

面倒くさいという、理由であればよかったがこの会場の中身すべてが悪趣味に見えていたからなのは明らかだった。

 

帰路につく前に、なにか食べてから帰ろうということになって……二人はパーティに並んでいる、料理を手に取った。

味はどれもパーティに出される品質を守っているらしく、満足は出来たが……あの、オークションや闘技場の観客の目が血走った人間と同じものを食べているという事実がM4A1にチラついてしまった。

 

「あの……二人で食べません?」

 

あまり、ここの人間と同じ空間に居たくなかった。

二人はプールが一望できるテーブルに座って、とりわけた料理を口に運んだ。

 

「今日は、勉強になりました。……色々と」

「そうだな」

 

ユーリには、多少慣れている光景だった。

でも、M4A1にとっては悪い意味で新鮮な体験だった。

M4A1も人間や人形全員が善人であるとは思っていない、でもあそこまで残虐さが表に出ると……さすがにああいう人間から仕事受けたときに、期待に応えようとするモチベーションを持てるのか……どうしても、自信はなかった。

 

「えーっと……ノーランの経験でも、こんなことはあったんですか」

「……そうだなあ」

 

さっきと同じユーリのセリフ。

でも、さっきのセリフよりも空気が重くなったような気がする。

 

「君が感じたような、不快な出来事を経験したことがあるか?という、話ならよくあった……だが、こういうパーティで起きるなんて、まったく考えもしなかった。これは、私の経験不足なんだろうな……すまない、巻き込んでしまった」

「いいんですよ……それよりも」

 

それよりも……他にどんなことがあったのか?

なんて、さっき不快な気分をさんざん味わったというのにその不快なトラウマを再び思い出させようとした言葉をM4A1が思わず口にしようとした瞬間。

 

「やあ!ユーリじゃないか!!」

「まさか……!そんな……!」

 

護衛の人形を引きつれた、40代ほどの男性がユーリに気が付いて話しかけてきた。

ユーリはその男を見て、驚いていた。

 

「い、いえ……この人はノーランという私の夫……」

「それこそ間違いだ。私も40過ぎだが、甥の顔を間違えるほどの耄碌はしてなくてね」

 

名前がバレている?

M4A1は聞きたいことを聞くのを注視して、誤魔化しに奔走する。

だが、そのごまかしはこの男には通用しないらしい。

あの男は、ユーリであることを確信して話しかけている。

 

「レイラ……ここは、ごまかせない。彼は、私の叔父だ」

「そうだ、叔父だよ。まさか、甥に会えるとはな。元気そうで、よかったよ」

「あ……はい。どうも……その節は」

 

叔父と呼ばれた、男にユーリは多少困ったように頷いた。

 

「オークションはどうだったかな?」

「え、えぇ……妻とも参加しましたが、なかなか良いものは見当たらず」

「ははは、そうだろうな。昔から君はガラス細工が好きだった、似たような陶器があるとはいえ……大金をはたくとまでは行きたくあるまい」

 

叔父は客であるのに、さも自分が悪いようにオークションのことをユーリとの好みの話になぞらえて所感を述べている。

 

「ご主人様……そろそろ」

 

叔父と呼ばれた男の後ろに、数人の仮面をつけた人形が現れた。

フォーメションからして、あの人形たちは従者や会場スタッフではなく、護衛であることが分かる。

 

「(アイツらは……!)」

 

M4A1はその中の、仮面をつけた人形の歩き方からあの仮面の人形が前回、自分達を襲撃し、イントゥルーダーの残骸を奪い去った、第三勢力の人形であることが分かったらしい。

ただ、前回襲った時とは違い……今度は3人になっていた。

護衛の1人が、叔父に電話を渡した。

 

「……ああ、そうだ。そうしてくれ。時に君たちは後ろの彼女達が気になるようだね?」

「え、ええ……オークションで話題になった装置と似ているので」

「ユーリ、やはり君は小さいころから観察力に優れているな……だから、あの出来事は悲劇だったのだが」

 

叔父がかわいそうなものを見る目でユーリを見つめた。

ユーリもあの出来事を思い出してしまい目を逸らす。

 

「これは、私の手によって完全な姿になった"完成品"さ」

「……」

 

叔父が傍らに立つ護衛の肩に触れる。

 

「オークションに出たのは、グループ側がぜひライセンス生産をしたいと申し込まれたのを承認したものでね……どのくらいの反響があるか見て見たくて、このパーティに参加したが……いやはや、予想以上だ」

 

この叔父が作ったものをコピーしたのが”スレイヴ・モジュール”であると、この叔父は説明した。

 

「彼女たちも幸福だろう。自分たちの組織では達成しえない、限界を超えることが出来たのだから。でも、それを良しといってくれないものもいるのだ」

 

叔父がM4A1を見つめた。

 

「甥の妻をしているレイラ君なら、分かるはずだと思うが……どうかね?」

「グリフィンのことを言っているんでしょう?鉄血を改造ではなく、破壊しているから」

「フフフ。君は本当に賢い女の子だったようだね」

 

叔父の満足そうな笑顔にM4A1は冷や汗をかく。

きっと、この男は自分をM4A1が誰なのかを知っている。

 

「グリフィンは自分の戦術人形としての性能に胡坐をかいている。だからこそ、前に進むため……人形の進化の手伝いを邪魔するような、邪な考えを持つ人形は頭が悪いと思っているが……君はどうと思う?レイラ君?」

「……すばらしい熱意だとは、思います」

 

M4A1は多分、自分のことを前回襲撃した相手だと気づいているのを人形にあるまじき直感で理解した。

気が付くと、護衛の人形たちの口元も笑っていた、

気味が悪い笑顔だった。

口で笑っていながら、本心では空っぽな昔の姿とは違って、笑顔こそ浮かべているが本心では身の毛がよだつほどの"何か"が嫌というほど詰め込まれている気がした。

 

「そうかな?君の言葉はどのくらい本気か、見せてもらおう」

 

ゾロゾロと警備の人形やウェイター係の人形達が集まってくる。

 

「叔父さん。これはなんのつもり……ですか?」

「私はここでも、それなりの乗客として扱われててね……コロシアムに呼ばれていたんだよ。それで、君と君の妻の戦いを見てね……気になったのさ。レイラ……君はただの、鑑定士ではないだろう?」

「ユーリのおじさまであるあなたが、ユーリの妻である私を疑っているんですね」

「私は君を知りたいのさ。甥は一度、女との付き合いに手ひどい失敗を覚えているからね……まあ、ほんの親心さ」

 

さらに人形たちが集まってくる。

相手はM4A1だけを狙っているらしい。

 

「どうやら、問答無用らしいですね。……仕方ない」

 

M4A1が椅子から立ち上がる。

 

「すぐに終わらせます。私を信じて」

 

人形たちが、一斉に襲い掛かった。

 

 

……

 

「────ふん」

 

軽くため息をつくM4A1の足元には蹴散らされた、警備の人形たちが転がっていた。

大破はさせていない。

会場は乱闘騒ぎと勘違いして、騒ぎ立てている。

 

「叔父さんがいない」

 

ユーリがふと、叔父の姿を確認するとその姿は護衛と一緒に消えていた。

 

「レイラ……叔父さんがいなくなっている」

「逃げたってこと、ではないですよね?」

 

ユーリはうなずく。

あれだけの人形を改造できる手腕をもった男だ、私が軽く10数体の人形を捻り上げたところで恐れをなすはずがない。

 

「多分、出口を塞ぐ気なんだ。……とにかく、ここにいるのはマズイ。君はこの会場から脱出しろ」

「……あなたは?」

「俺は先に警備に"逃げられた"って、一芝居打つ。運が良ければ叔父さんにも敢えて、時間を稼げるかもしれない、とにかく……悪あがきかも知らないが……なんとか脱出する時間を稼ぐ。君さえ逃げてしまえば、私も一人で逃げられる」

「分かりました。……それと────」

 

不意にM4A1がユーリの唇を奪った。

 

「……?」

「夫婦のキスです。私たち、ここにいる間は夫婦……そうでしょう?」

 

訳が分からないユーリに軽く会釈を送って、M4A1は出入り口に向かって走り出す。

 

「なんで、私……あんなことをしたんだろ?」

 

出口に向かって全力疾走しながら、自分のキスをしたことに今更ながら疑問を思い浮かべていた。

パーティでの設定に役が入り込んでしまったのだろうか?

それとも、私自身がキスすることに憧れを持って居だんだだろうか……

それとも────

 

「止まりなさい。あなたには、会場内での暴行行為の説明を────」

「────そおっら!!」

 

そんな疑問の結論出させる間もなく、警備スタッフの人形たちがスタンバトンを構えてM4A1の進路をふさごうとしたが、M4A1はドロップキックを食らわせ、警備人形を蹴っ飛ばした。

 

「あはは!あははは!!」

 

何だかよくわからないが、ちょっと楽しくなってしまった。

まるで映画のワンシーンみたいだ、私は逃げるスパイで逃げた理由は自分があのよくわからないユーリの叔父に疑問を持たれていたから、

致命的に間の悪い人選だったユーリか、それともそもそもこんなことをやれと言い出したクルーガーを責めたくなるところだが、反対にM4A1の精神はとても高揚していた。

 

<殺傷兵器使用の許可を!>

<ダメだ!他に客がいるんだぞ?一人にでも当たったら大事だ!銃は使うな!>

 

持ち前の高い性能を活用して、他にも止めようとしている、警備を素手や蹴りで突破していくM4A1。

他人を盾にしているようで多少後ろめたかったが、そもそもここの来賓客は人を喰われるのに歓声を上げたり、人形同士を血祭りにあげて狂気乱舞しているので、本当に後ろめたさは多少しか感じなかった。

 

玄関が目の前のところまでやってきた。

警備はまだ来ていない。ユーリが上手いこと時間稼ぎしてくれたらしい。

 

このままは走ってしまえば逃げ切れる。

勝利を確信した瞬間、後ろから甲高いエンジン音が聞こえた。

振り向くと、M4A1に向かって一台のバイクが追いかけてきたのが見えた。

 

「────!!」

 

バイクがM4A1に迫り、紙一重で避ける。

床に転がったゴミや商品を弾き飛ばしながら、ロードバイクが爆走し、M4A1を追いこし……進路をふさぐように停車した。

 

バイクの乗り手が降りた。

乗りては、前回戦ったエクスキューショナーたちとは別の、新顔の人形だった。

新顔の人形が映像を中継した端末を見せる。

 

<おお!なんとか追いついたぞ!>

 

映像にはユーリの叔父が映っており、手をたたいていた。

 

<なぜ逃げようとする。君がどのような人形か知りたいだけなんだ>

「そう言ってあなたが一生帰す気がないという保証はどこにあるんですか?ましてや、あなたは人形を改造するのに」

「────叔父さん!もう、勘弁してあげてください!」

 

ユーリがぜぇぜぇと息をあげながら、玄関に追いつく。

 

「彼女、戦いは趣味じゃないんですって!」

<好きか嫌いかは関係ない>

 

人形が仮面を外した。

 

<私は、この女が本当に価値のある女か見極める必要がある>

 

外された仮面の女の正体は、なんとなく予想がつくものだった。

 

「やっぱりあなたなのね。”イントゥルーダー”エクスキューショナーといい”スレイヴ・モジュール”は大破した人形すら動かせるの……?」

<これから行われるのは喧嘩だ。銃は使わない、正真正銘の殴り合いだ>

「────」

 

イントゥルーダー(?)が腰や懐に隠していた拳銃やナイフを床に捨て、拳を構える。

 

「いいでしょう」

 

イントゥルーダーに合わせて、M4A1も構えた。

 

「でも、壊してしまっても文句言わないで下さいね!」

 

M4A1も戦う意思を決めた。

ぞろぞろと、観客たちがストリートファイトの見物のつもりか、興味本位で集まってくる。

巻き込まれるかもしれないのに、無計画な人たちだ。

 

イントゥルーダーがM4A1の顔面目掛けて突き刺すようにな勢いで向かってくる。

その突きをM4A1は体を捻らせてかわし、肘でイントゥルーダーの顔面を殴りつけて、カウンターを与える。

 

「っ……!」

 

勢いも相まって、強烈な衝撃を受けたので流石のイントゥルーダーもすこしふらつきながら後ずさる。

 

「いいぞ!」

「血を流せ!」

 

観客たちが喜ぶ。

彼らは本当に血が好きなのかと、ユーリは微妙な表情を隠せない。

 

「……その程度なの?強化されてこのレベルじゃあ、改造品の品質が悪いのかしら?」

 

呆れたように手をぶらつかせ、M4A1はイントゥルーダーを挑発する。

 

「それとも……まさか、強化する前が目も当てられないほど────」

 

イントゥルーダーが勢いをつけて殴りかかる。

さっきより強力かつ、大ぶりの攻撃。

避けられたら、隙だらけになる攻撃、まるで感情の起伏のような再攻撃に見えた。

 

「────捕まえた」

 

だが、イントゥルーダーの大ぶりの攻撃は避けられることなく……受け止められてしまった。

 

引っ張って引き離そうとするが、なかなか引き剥がさない。

重い兵装を運搬する都合上、大口径ライフルやライトマシンガンを使うん人形は強靭な筋力を持っている人形を充てがわれているが……M4A1はその強靭な人形以上に強靭な筋力を持っていた。

 

「覚えておきなさい……思いっきり殴る時はね……」

 

M4A1が掴んでいたイントゥルーダーの腕を離す、体制が崩れて隙だらけなる。

 

あらかじめ力を溜めていた腕を思いっきり、振り上げ顔面を殴りつけた。

べきゃり、と聞いてはいけない破砕音が響き渡る。

 

「────こうするべきよ」

 

大技が決まったのを見て、残虐性を刺激された観客たちが一斉に盛り上がる。

その歓声にM4A1は、すこし……ほんの少しだけ、満足感を感じてしまった。

 

「……っ」

 

イントゥルーダーが立ち上がり、口から吐いた血を拭う。

 

「へえ?まだやるのね?」

 

イントゥルーダーが苦し紛れにローキックを放つが、その蹴りを避ける。

そして、もう片方の足をM4A1の足が蹴り飛ばす。

両足が宙に浮き、ガタン!と音を立ててイントゥルーダーは床に倒れた。

 

「一度、残骸になったあなたは覚えてないでしょうけど……私はね、あなたを恨んでるのよ」

 

少し前の作戦を思い出す。

あの時、砲撃されてボロボロになったユーリのことが今更、フラッシュバックする。

もがいて、立ち上がろうとするイントゥルーダーを馬乗りになって押さえつける。

 

「ずっと、こうして……」

 

M4A1の拳がイントゥルーダーの顔面を殴りつける。

 

「こうして……!」

 

殴られないために殴ろうとする、伸ばした手ごと顔面を殴りつける。

今度は血が飛び散った。

顔にかかった、暖かいと思ったら、冷たい。

 

「────こうしてやりたかったのよ!!」

 

もはや、M4A1による一方的な暴力ショーだった。

距離を取ろうして、這いつくばってでも逃れようとするイントゥルーダーの髪を掴んで引っ張ると、もう一度床に叩きつけて、なんども、なんども殴りつける。

 

M4A1が鼻を殴る、鼻から血が流れる。

M4A1が口を殴る、歯が欠けて、欠けた穴から血が流れる。

M4A1が頬を殴る、皮膚が裂けて血が出る。

 

「こうして!こうして!こうしてやりたかった!!」

 

流れる血はM4A1にかかって、赤く……赤く染め上げる。

 

「殺せ!」

「血を流せ!!」

「やりすぎなんてねえ!!」

 

先に仕掛けたのはあっちだ。

それでも、M4A1に「やり過ぎ」と非難する声どころか、どんどん助長するような声が聞こえ始める。

 

「邪魔をするなって……いったじゃない?ねぇ、えぇ!?」

 

そもそも、コロシアムで人が死ぬ姿を楽しんでいる人間に期待できるようなものではないが……

 

「やめろ……」

 

一人だけ、ユーリだけはM4A1にもう、止まってほしいと思っていた。

知能が発達した生き物のように必要以上に攻撃するブレーキの道徳だろうか。

どうであるにせよ……今、イントゥルーダーを殴りつけているM4A1の顔は……

 

「どうしてやろうかしら!?その顔を剥ぐ!?メタルの顔があるのかしら?それとも、骨!?どっちにしても不細工なんでしょうね!!」

 

……ははは!!見ろよ!!こんなに痩せこけて死にそうだぞ!

……死んでるんじゃないか?

……死んでたら傑作だ!!ははは!!

 

 

今、イントゥルーダーを殴りつけているM4A1の顔は……今でも思い出したくもない、醜い大人たちの顔になろうとしていた。

 

「────もういい!!やめろ!!」

 

ユーリが叫んだ。

でも、その叫びは残虐を孕んだ観客たちの歓声に呑まれ、M4A1には聞こえていない。

 

「生きていたことを後悔させてやる……!!お前達は……生まれることすら間違って────」

「────やめろ!!やめてくれ!!」

 

ピタリと、我に返ったようにM4A1の殴る手が止まる。

気分が徐々に落ち着いて、もう一度自分を周りを見回す。

 

敗者への侮蔑、暴力への興奮、様々な感情を向ける客達。

足元でホンプのように喉に血を詰まらせた息を吐く、イントゥルーダー。

それも、M4A1を困惑させたが……それ以上に、それ以上に苦しそうな気持ちを抑えてるユーリの姿を見て……自分の手を見つめる。

 

真っ赤に染まる手、ドロドロと額に流れる返り血……

そして、その血を浴びて興奮していた自分……

自分は、取り返しのつかない事を仕掛けてしまったと……理解するには、時間はかからなかった。

 

「わ、私……ちがう、違うの……!あ、ああ、わ、私……わたし……ごめんなさい……!」

 

泣きながら、自分の過ちを理解して涙があふれてきた。

 

「止まりなさい。ここでの、暴力行為は────」

「……!M4!逃げよう!」

 

ユーリはM4A1の手を掴んだ。

自分の血まみれの手をユーリは掴んだ。

 

「あ」

 

まだ、自分は見捨てられていない。

そう思ったとき、勝手に足に力が湧き立ち上がっていた。

 

そのまま、ユーリに手を引かれるまま玄関を出た

玄関を通る際、窓ガラスに自分の姿が映った。

 

その自分の姿を見て、M4A1は戦慄した。

破けたドレス、おぞましい返り血、そして……醜い笑顔……

ガラスに映っていたのは、まるで、血に飢えたケダモノのような姿をしていたM4A1だった。

 

本当におぞましい。目の前にいるのは、血に飢えたケダモノそのものじゃないか。

 

「……この、醜い女は……誰?」

 

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