「昔話……?」
ユーリの過去を知ることができる。
あまりにも魅力的すぎる提案は、あまりに自分を動揺させるにピッタリだった。
「大丈夫か?」
エゴールに指摘された通り、M4A1は今自分が立っているのか、立っていないのかわからない平衡感覚を失っていた。
「ああ、えっと……問題ありません。その、ここでは場所も場所ですし……静かなところで話しましょう」
一旦場所を変えて、エゴールからの話を伺うことにした。
「話せる場所が尋問室か……」
「す、すみません……本当にここしか空いてる場所がなくて」
とはいえ、確かに尋問室を選ぶM4A1のはダメだったかもしれない。
だが、M4A1だってここしか考え付かなかったわけではない。
でも、他が埋まっていたのだ。
自慢にできないが、自分の基地に色々な部隊が押しかけてこなければこんな事にはならなかった。
M4A1側の事情はわかってくれたらしく「もういい」と、椅子に座ったエゴールが至極重い空気を吸う様に口を開く。
「……あらかじめ言っておきたいが、俺から聞いたっていうな」
「……もちろんです」
ユーリは過去を知られたくないんだろう。
M4A1も知られたくない過去があるからその気持ちはわかる。
「奴とはとある作戦で知り合った。作戦の内容は機密だが、作戦地域へのサポートを我々が要請し、その要請でやってきた外務省の軍人がユーリだった」
「ええと、あなたはさっきユーリ指揮官のご同僚との事ですが……」
「ああ。アイツは管轄は違うが正規軍の人間だ。俺たち正規軍にはE.L.I.Dの掃討をしている部門があるのは知っているな?」
荒廃した世界に生まれた怪物、E.L.I.Dは全世界の脅威であることは周知の事実だが、そのE.L.I.Dの強靭さは軍隊であろうとも苦戦する怪物たち、脅威であるの事は知りつつ関わりたくないのが、誰もが抱える本音だ。
やってくれる相手がいるなら、そいつに任せるのが鉄板なほどだ。
「はい、確か……外務省が中心で対応しているんでしたっけ?」
「そうだ。ユーリはその外務省の人間だ、ユーリはE.L.I.D狩りのプロだった。ユーリはパイプのあった上司のカーター将軍の頼みで手伝いに来たらしい」
E.L.I.D狩り…そもそも、E.L.I.Dは全人類共通の最もな脅威だ。
強靭な肉体、肉体を腐らせる恐怖……誰もが、人形すら口にする「アレとは関わるな」そんな化け物達をユーリは狩っていたという。
そんなことができる兵士は、戦術人形すら恐れる"バケモノ"な強さを持っているのは間違っていない。
……そんなすごい部隊の人間とのパイプを持ちたいのは上に立つものとしては当然だろう。
軍人であることは聞いていたが、そんな規格外な組織にいたのか、彼は……ユーリは戦術人形と肩を並べて戦うのは自信過剰ではなかった。
彼にとってそれは、ただの日常だったのだ。
クルーガーが止めない理由にようやく納得がいった。
止める方が上層部にとっては不自然な行為なのだから、
……ふと、今日発言したことがすごいプレッシャーになる。
いつか、あなたの信頼を得られる人形になる?
……なんと言う事だ、自分の身長より高い壁だと思っていた目標は実は城壁の様な霹靂だったのだ。
「俺が初めて会った時、そいつは人形を連れていた。聞けば保安局にテスト評価をするために押し付けられた軍用の人形だったとのことだ」
「指揮官がグリフィンに入る前から人形を?」
「ああ、見た時は驚いた。一度、本物の女と見間違うほど精巧な出来だったからな、ああ言うのを第二世代人形と言うらしいな」
「そうなのでしょうが……軍の第二世代を……?」
「奴は性能に満足してはいない様だったがな。そもそも、AK-12なんて名前を与えられた人形だ。メーカー側も性能に自身がなかったに違いない」
AK-12……カラシニコフ第五世代と銘打って開発されたアサルトライフル……革新的なA-545とは違い保守的なデザインから採用は無難と、世間にはしばらくは納得されていたが……
光学機器をつけるための接合が弱かったり、強度が軟弱だったり、グリップが握りずらがったり、狙いづらいストック……などと、ありとあらゆる設計に怠慢が見られ、政治的癒着や軍隊の管理能力の低さを露呈させたアサルトライフルだ。
「お前とはまるで異なるくらい、どうしようもなく失礼で、生意気な人形だったな」
そんな名前をスティグマを繋ぐ前から与えられていたと言う事は相当、不満のある出来であることは想像に難くない。
「ユーリの話に戻るぞ。奴は大した男だ。戦闘能力の高さは言うまでもなく、作戦立案や失敗時の対処能力、政治的な判断力にも優れていた……まるで、どこかで仕込まれたと疑いたくなるほどだ」
「疑わなかったんですか?」
「疑った……だが、アイツがかなりの努力家であることを知ってからは自分で身につけたんだなと理解した。それに……軍隊に蔓延していたイジメもなくそう努力していたアイツにそんな疑いを向けたくなかった」
イジメを無くそうとしていた……?
だから、私から距離を取ることはしなかったのか。
私は本当にいい指揮官に出会えたんだ。
「大損覚悟で望んだ作戦もスムーズにいった。全てがユーリのお陰で済んだとは思わないが、奴がなんとかしなければ多くの犠牲があった出来事は1つや2つではない」
「作戦が終わった後は多くの奴らはユーリや外務省に感謝していた。だが、それを快く思わない奴がいた」
エゴール達がそこまで賞賛するなら、軍部も次はもっと困難な仕事を任せたいと思うだろう。
しかし、そうではないらしい。
「……指揮官を嫌う軍人……そんなのが?」
「奴らを邪魔がっていたのは軍隊ではなく、国家保安局だ。国家の隅々を監視してコントロールしたい保安局からみれば、危険な場所でも自分たちでは手が出せない……なんていうのは許せないのだろう。そんな奴らに人気が出たら、奴らからしてみれば面白くない話だろう」
管理者やコントロール役は度々嫌われる槍玉に挙げられやすいが、エゴールの話し方は少し違った。
そこは、同じ様な立場で嫌われている事があった私だから感じることができる。
「仕事の邪魔や細かいミスの追求なら、小競り合いですんだろう。だが……保安局は外務省の力を削ぐために……許されない事をした」
「許されない事?」
保安局はユーリに何をさせようとしたんだ?
その端末を知るのを恐れるのと共に、知りたいという誘惑もM4A1は感じていた。
「ユーリが連れていた人形について話したな」
「……ええ。確か、AK-12と言う人形でしたっけ?」
エゴールは頷く。
「そうだ。元々AK-12は保安局がテスト、評価という体で外務省に潜り込ませた保安局の人形だった。保安局が軍に装備のテストをさせるのはそう、珍しい話ではない。テストしたものの調子がよければ、軍部も採用をする時がある」
そんな事が。
保安局も結局は軍隊に頼るところはあるのか。
「AK-12とユーリはいがみ合いながらも互いを信頼している様に見えた。それこそ、まるで親子の様にな。だが……悲劇は起きた」
エゴールは苦虫を噛み潰した様な表情になり、
ある映像を見せた。
「……これは」
映像に映っていたのはとある軍事施設と思わしき場所に転がっていた、大勢の死体だった。
軍隊の兵士もそこに何らかの理由で匿われていた民間人すらも情け容赦なく殺されていた、
「汚染地域を清掃する業務に従事していた民間人を護衛する任務で起きた事件のものだ。チェックポイントにしていた施設で突如、施設のシステムが暴走、人形や防衛システムの攻撃よって、作戦中の民間人を含めた56人が死亡、20名が行方不明……そして、生存が確認できたのははAK-12だけだ」
悲惨だ。
「システムを調べても、データが全て消されていて誰がやったのかはわからなかった。しかし、誰が最後にこのシステムを動かしていたのはAK-12であることがわかった。最初はAK-12がこの暴走を止めようと躍起になっていただけだと思っていたが……その後に保安局に正式採用されて、ようやく奴があの暴走を引き起こした原因だと判明した」
引き取っていた外務省の部隊が大勢殺されたなら、保安局も証人として確保するのは分かる。でも、採用というのはあまりにも不自然だ。
その不自然さもこの後何があったのかという話で判明するだろう。
「奴が保安局に採用されて以降、テロ組織や保安局に反抗的な部署がユーリ達と同様のやり方で潰されていった。いつしか、保安局も隠す気もなくなったのか、最強の電子戦人形という……謳い文句すら宣伝しましたんだ」
「そんな!な、なんて事を……」
「……それに、弾痕や薬莢が散らばった状況を再度、保安局に関わらせず調べたところ薬莢を調べたらAK-12のために調達した5.45ミリであることも判明した。奴が裏切ったんだ」
あまりの出来事にM4A1は思考が真っ白になりそうだった。
戦友である、家族の様な仲間たちが命令一つで大勢殺された。
そして、仲間の命を奪った。
信頼していた仲間を、父と感じていた人間をその手にかける命令を実行した。
「アイツは人形に裏切られたんだ。自分の子供と思って大切にしていた人形にな。AK-12の工作活動の証拠は未だに挙がっていない。そのうえ、罪は行方不明にったユーリに押し付けられた。あの罪を淡々と喋る"小熊のミーシャ"、アイツが首謀者に違いない」
保安局のやったことも許せないが、M4A1は裏切ったAK-12っていう人形はなんとも思わなかったのか?とAK-12という人形に怒りを覚えた。
人形と人間の関係はそんなものだった……って、淡々と殺したとでもいうのか?
「ユーリは行方不明になった。死んでいるとは到底思わなかったが、まさかグリフィンにいるとはな……わかるか?アイツの人生が悪くなる時は大体人形が関わっているんだよ」
エゴールはそんな人形としても存在することが失格な人形と私を同じ様に見ているのかもしれないだろうって、思う。
それだけの印象を与えたAK-12には、まともな道徳を教えられても身に着ける気がないんだろう。
普通、人形であろうがそんな一生トラウマになることこの上ないことをしておいて、同じ手段で邪魔者をその手にかけている人形がそんなこと思うわけがない。
でも、気になっていることがある。
なぜエゴール大尉はそんなことを教えてくれたのだろうか?
「……大尉は、どうして、私にその話を教えてくれたんですか?」
「……ここまで話すつもりはなかったが、近いうちに保安局が手元に隠している"プロトタイプ"がここに運び込まれるという情報が入ったからだ」
プロトタイプの人形?
「グリフィンに卸入れをしているI.O.Pが保安局の人間に多額の金銭のやりとりをしているという話は前から周知の事実だったが、近い内にプロトタイプの人形をグリフィンに配置すると聞いて、俺はここに来た」
「プロトタイプ……?」
「ユーリを裏切ったAK-12……そのプロトタイプと言われている。名前はAN-94というらしい」
M4A1の拳に力が入った。
まさか、今度こそ始末するつもりで……?
「なぜ?グリフィンに?」
「……おそらく、貴様らを作ったペルシカとそのAN-94の持ち主が知り合いだからだろう、な。それと、我々への牽制だろう」
……どうすればいいの?
本当に殺しに来たとして、どう守ればいい?
「俺は外部の人間だ。だから、これで失礼する。それと、これは忠告になるだろう。M4A1、もしお前のところにそのプロトタイプがきたら絶対に気を許すな。アイツらは信頼した隙に漬け込む……」
そう言って、エゴールは尋問室から出ていってしまった。
……
…
「……はあ」
M4A1は夕食の席で思わず、ため息を入ってしまった。
周りには気が付かれていないのはそれはそれで助かるが、今後のことを考えると荷が重くなる。
「ユーリ指揮官って、軍人なの知ってた?」
「あー……うん。エゴールって言う人と話もしたから」
「────M4があのおっかない男と話した!?1人で!?」
エゴール大尉と話をしたことを放したらSTAR-15は「あの弱虫M4が!?」なんて言いたげに驚いている。
心外だ、確かに表情も読めないし声も信じられないくらい低い癖によく通る声だけど、あの人をそこまで怖がるほど恐ろしくはないだろう。
それに軍人であることを知っているならユーリの戦友であることも知っているはず、
そこまで驚くのはここにもいないユーリにも失礼じゃないか?とM4A1は内心でどくついた。
戦術人形に手ひどく裏切られた軍人が、戦術人形で秩序を維持する為の組織に身を置くなんて、私が鉄血に身を置くようなものだ。
そのグリフィンの指揮官という指揮官になるために、ユーリはどれだけのトラウマを耐えながら入社したのだろうか?
そして、私はユーリという人間にどれだけ助けられて……
────潰れろ!潰れろ!
自分がイントゥルーダーを殴る光景を思い出す。
あの時のユーリはAK-12と私を重ねていたのだろうか?
だとしたら私は……どれだけ彼を失望させたのだろうか?
「はあ……」
同じころ、ユーリも一人執務室でため息をついた。
AN-94のことは”あの方”に報告したものの、帰ってきた答えは”心配いらない”だった。
「(最悪、俺のもとにAN-94が来るということになったら、あいつ等が生きていることもバレているかもしれないということを考えないといけないということだよな)」
仲間たちが映った写真を見つめる。
最後に撮った仲間達の写真、この写真を撮って数日も起きない間にあの事件が起きた。
あの時のことは今でも忘れられない。
何とか、その場から逃がすことに成功した19人。その中には16人の戦友と3人の民間人もいる。
軍人は否が応でも死ぬかもしれない覚悟をしなくてはならない、でも民間人は違う。
西側のような自己責任ではなく、”お願い”という名前の”強制”で命が奪われるかもしれない場所に放り込まれている。
それが、命乞いも無視されて守ると思っていた人形に素手で殺されるのだ、想像もつかないほど怖くて、苦しかっただろう。
それが3人は助けることはできた、でも他の7人は助けられなかった、そのうち、2人は俺が見ている前でAK-12が殺してしまった。
「(保安局は俺を見つけ出したのか?)」
”あの方”の発言は大体当たるから、疑っているわけではない……
疑っているわけではないが、保安局が自分が生きていることを掴んでいることを考えると前の悲劇が忘れられないんだ。
「AK-12……アイツ、今は何をしているんだろうな」
────おーい!おーい!!……さーん!どこですかー?
────あなたの可愛い娘が探してますよお?もーいいーかーい?
────まーだかな?まーだかな?あなたを八つ裂きにするのまーだかな?
記憶がフラッシュバックする。
あの時のAK-12は誰がどう見ても狂っていた。
泣き叫びながら、笑い声をあげ、仲間だった人間を撃ち殺し、涙ぐみながら命乞いをする民間人やスタッフを素手で殺していた彼女はきっと……きっと……いや、そうでないと……
────に、にげ……て!……は、やく!!
あんなに苦しそうに抵抗するはずがない。
でもこれも、親を殺すことに抵抗を覚えたかもしれない、という”そうであってほしい”という希望的観測に過ぎないのだ。
廃墟にて……
音を立てずに慎重にとある建物に侵入したる2人組の人形がいた。
1体は金髪、もう1体は銀髪の戦術人形だった。
ここに捕まった連絡員がいるという情報があって、ここに来たのだ。
「死体だけ……?同士討ちか?」
「……そうじゃない?」
銀髪の人形は金髪の人形の予想に肯定しつつも内心、そうではないことを理解した。
死んでいる敵が持っているAKの安全装置が解除されていない、つまり一方的に倒されている。
気づかれる間もなく、一方的に。
「(いるの……?)」
そして、私はこれを容易くできる存在を知っている。
「……っ」
見覚えのある殺し方に一つのフラッシュバックが垣間見え、思わず閉じているはずの瞼の目頭を摘まんでしまった。
この殺し方は、自分が殺した人間たちと同じ死に方だ。
「(覚悟を決めないと……)」
金髪の人形以上に警戒心を高めて、
特に抵抗もない死体だけの建物を進んでいく。
「……見つけた」
最後まで抵抗はなく、人形達は最上階にまで到着した。
そこで、お目当ての人間が椅子に縛られているのを発見した。
「確認して、AN-94。援護する」
「了解、AK-12」
銀髪の人形"AK-12"はここにきて命が惜しくなった、だから金髪の人形に先に行かせた。
金色の人形が”AN-94”は連絡員のところまで近づいて手持ちのライトを照らす。
……何も反応はない。
AN-94は連絡員の状態を確認した静かに首を横に振った。
ダメだったらしい。
「(お願い神様……!)」
AK-12も罠ではないことを助けてもくれない神に祈りつつ、連絡員のところまで警戒を厳にして近づく。
それだけ、AK-12にとってこの状況は恐ろしく感じるのだ。
「(何もない……?本当に神様が?)」
「あの……?」
銀髪の人形がホッとしていると、が怪訝な表情でこちらを見やる。
銀髪の人形も慌てて連絡員の状態を確認する。
「え…?そ、そうね。確認するわ……これはダメね。ずいぶん時間が経っている」
流れている血液から建物内の警備兵が死後1日も経っていないから大丈夫かもと思っていたが、腐敗も始まっている状況から見て、この連絡員は1週間以上前に死んでいる。
死体を見つめたとき、記憶がフラッシュバックする。
撃たれたときに「どうして?」という瞳で見つめて流れる血、
「やめてくれ」「死にたくない」と必死に命乞いをする何の罪もない人たち……そのすべてを殺す自分を止めらなかった時の後悔がフラッシュバックする。
「……うっ!?」
目頭を押さえて、銀髪の人形は必死に寄せくる吐き気に耐える。
「大丈夫か?AK-12?」
うずくまり、うめき声を上げたAK-12を心配した、AN-94が背中を摩る。
「────さわるな!!」
だが背中を触った途端、AK-12は突然荒げた声を上げた。
表情は滝汗を流しており、閉じている瞼が開き、瞳は焦点が定まっていないように小刻みに震え、唇も何かに耐えるようにフルフルと震わせていた。
「す、すまない……」
「はあ……はあ……ごめん……ちょっと、1人にさせて……」
本来どんな時でもマイペースを崩さないAK-12が前触れもなく苦しみだす姿に心配を感じたのだ。
AN-94を追い出した後、AK-12はバッグの中に入れていたミネラルウォーターを喉に流し込み、今にも逆流しそうな吐き気を人口胃の中に押し返す。
「ふぅ……ふぅ……」
水を飲み終わり、大きく息を吸い、吐いて、息を整える。
その時、AK-12は瞼を開いていたことをようやく思い出した。
AK-12は透視をできる人形だ。
瞼を開くとより、物体を透かして観察できる。
落ち着くために周りを見回した時、見えてしまった。
この部屋にある隠し部屋を
AK-12はその部屋の中に入る。
「そっか……そう言うことよね」
先客がいたらしい。
あの警備兵全員を血祭りに上げた先客の正体も、この部屋の中身で全て理解した。
「このキルリスト……」
誰が生きているか、死んでいるか一目で分かるように写真が張り付けられている、キルリスト……
だが……このキルリストに乗せられている写真は、この先客たちが手に掛けた人間たちの写真ではない。
”AK-12"が作らされた標的のキルリストだった。
こんなの、誰がどう見ても自分のことをよく知っている奴だし……ここまで精巧に再現できるのは誰なのか、それも予想できてしまった。
「……やめてよ」
見ただけで、AK-12は恐怖に苛まれる。
こんな目に会うのは全部自分が原因だ。
これは自分が悪い。それは、誰よりも分かっている。
でも、こんな風に糾弾されたくはなかった。
「(どうしたらいいの……)」
AK-12はふらついた足元だ隠し部屋から出る。
「……もういいわ」
AN-94に戻っていいことを伝えると、AN-94が戻ってきた。
やっぱり、心配した表情をしたままだった。
「もう大丈夫なのか?」
「ええ」
出来る限り、平静を装ってAK-12はAN-94に接する。
AN-94にも、AK-12は確かに普段と変わらない様に見える。
「死体だけでも持って基地に帰りましょ」
…-…
…
ヘリがやってくるのを黙って見つめていた男がいた。
『ご要望の通り、キルリストを作っておいたぞ。今、あのクソ人形が見ている……』
<よくやった、キャスター>
"あの方"と呼ばれた、相手の言葉を聞きながらスコープに映っているAK-12達にキャスターは舌打ちをした。
あの時、便利屋を頼ったユーリに再開した時に出会ったM4A1も気に食わないが、AK-12は直接仲間を殺されているからそれ以上に憎かった。
『許可をくれたら頭を切り落としてやりたいってのによ……大体、こんな遠回りな脅しをする効果なんてあんのか?』
<ああ。これで、AK-12は直属の上司に報告を入れる。そうしたら、奴らは警告と受け取るだろう。しばらく、手は出さないはずだ。いきなり、呼び出して悪かったな帰ってくれ>
『了解。ついでにAK-12に仕返ししてやれるチャンスだと思ったが……別の奴に譲るとするか』
それこそ、ユーリに譲るのもいいだろう。
あんなに懐いたフリをして、やる時になったら自分から「父」と呼び慕ったユーリを殺そうとしたんだ。
アイツの憎しみの方が、自分より強いのは考えなくても分かることだ。
キャスパーは全身を覆う様に纏ったパワードスーツのブースターを起動させて、帰還のため上昇する。
「あれは?」
AN-94が偶々見つけた、何かしらの飛行ユニットを使ってエリアから離れようとする何者かに照準を合わせようとしたその瞬間……
「────放っておきなさい!」
「AK-12?」
突如として、AN-94はライフルの銃身を握って自分を邪魔したAK-12の行動に思わずギョッとする。
だが、驚いていたのはAK-12も同じだった。
AN-94が知らなくて当然だが、アレが誰なのかを知っているAK-12にとっては下手に手を出して殺されるのは自分たちだと理解していたのだ。
「アレは無視してこのまま撤収よ、"アンジェ”も納得する」
「いや、そんないい加減な事を彼女が……」
「いいから!私の!言うこと!ききなさい!!」
有無を言わさない、AK-12の発言。
「わ、わかった……」
彼女の圧力に押され、AN-94は渋々銃口を降ろした。
迎えのヘリがやってきた。
コレで自分達のねぐらに戻れる。
「(どうしたらいいの……)」
ヘリの窓から見える光景を見ながら、AK-12は今後の不安に苛まれる。
AN-94が狙った獲物を逃したことではない。
その件は私から、AN-94の代わりにアンジェに説明した。
最初は胸ぐらを掴みかかりそうな勢いだが、隠し部屋のことも諸々説明すると態度を変えて、「賢い行動ね」とAK-12の判断を評価した。
「(私達は見逃された……でも、なにを警告されたの?)」
不安なのは隠し部屋で発見したキルリストだ。
このキルリストを再現したのはきっと、警告だ。
私達がやる"何か"が彼らにとって気に食わないのだろう。
でも、何が私達の何をする事が気に食わないのか……思い当たることが多過ぎて、それがわからない。
「AN-94、何してるの?」
AK-12は思わず、何らかのスケジュールを確認しているAN-94に問いかけた。
「もしかして、休暇の過ごし方?」
「ええっと、アンジェの命令で近い内にグリフィンに研修に行くことになって……」
「大手の人形傭兵会社に?」
「ああ。どうやら、アンジェの知り合いが軍用人形の性能を確認したいって……」
なるほど、ペルシカかとAK-12は理解した。
I.O.Pの有名人、ペルシカ教授と私達の上司アンジェは古くからの友人だと聞く。
今回の研修もペルシカか、アンジェが頼み込んでグリフィンで何かやらせたいことがあるんだろう。
「なるほど、近いうちにグリフィンに行くから準備をしてるわけね」
「そう。今はさっき送られる先の有力候補の指揮官の事も調べたんだ」
「へぇ?それ、どんなやつ?ま、アンジェほどの奴ではないのは確かだろうけど!」
AN-94も「そうだろうな」と珍しく口角をあげた。
訓練はやっているだろうけれど、所詮は民間上がり、軍隊よりも民間に内容に偏っている指揮官と現場に豊富な知識をもつアンジェリアではそれはそれは差がありすぎる。
「有力な指揮官はユーリという指揮官らしい」
「────は?」
ユーリ……その名前を聞いて、一瞬……思考が真っ白になった。
「名字は?」
「フレーヴェンだけど……あ、元軍人なのか。所属はわからないな……民間だしそこまでは書かないのだろうか?」
酷い冗談だと思いたかった、もしかしたら、もしかしたら、同じ名前なだけだと思ってた。
でも、違う。冗談なんかじゃない。
自分が父と呼び、いがみ合いながらも懐いて、信頼していた男が……知り合いや仲間を殺す私が唯一殺すを止めらことができた男が……生きている。
そして、AN-94は彼のもとに運命のいたずらで行くことになった。
「(だから、警告をしたんだ……)」
AK-12は警告の真実か何かに気が付いたのだった。