「……君かい?今日から配属されるのは」
「はい。指揮官、どうも。今からこの、AN-94は貴方の命令に従います」
ヘリポートに降り立った、AN-94がこちらの挨拶に敬礼を返す。
「(似ている)」
ユーリはそう思ったとき、ある記憶が思い出された。
確か3年か4年か前くらいに、まだ軍隊にいたころに部隊の後ろ盾の政治家に保安局の新型兵器のテストに付き合ってくれと言われたときだった。
────お嬢ちゃん。ここは軍基地よ!サバゲー会場と間違えんな。空き地はあっちだよ!
────ねえ、軍隊はおバカさんなの?私が新しく正式採用されたAK-12よ!覚えときなさい!
兵器を受け渡しするところで、部下が騒がしくしていた。
どうも言い争いらしい、声からして”アキ”だろう。
実力は申し分ないが、ケンカっ早いのが欠点だ。その欠点がまた、露出したんだろうか?
────アキ、子供相手にそこまでムキになるなよ。
────あ?何か文句でも……え?隊長!?聞いてくださいよよ、前線基地にガキが迷い込んだんです!何とかうまい言葉で追い払ってください!ウチ、こんなガキを面倒見る余裕なんてありません!!
ユーリが到着すると、案の定ケンカを売ろうとしていたのはケンカっ早いアキだった。
アキが指をさした先には瞼を閉じた、少女が前線基地のゲートに来ていた。
────君は?
────あんたがここの責任者?私は戦術人形”AK-12”。今日から、この国で最も税金を無駄にしているアンタ等のお世話になる新型人形よ。ああ、私が帰るころにはアンタ等全員お祓い箱でしょうケド!
ユーリが計器で確認すると、本当に戦術人形の反応が検出された。
────ねえ!これでおバカであることは認めたかしら?今日からは敬意を払うのね!
────調子のんじゃないよ!クソガキ!!
結局最後の最後まで、AK-12とアキの関係は全く改善されなったな……と1秒にも満たない回想を経て、改めて”AN-94”と名乗る人形を見直す。
一方、ヘリアンは髪の色はプラチナブロンドで、おとなしそうなウルフドッグみたいだ……と感じ、よくあんな奇抜な機構をしたAN-94というアサルトライフルから、普通の少女の外見を作り出したものだと感心すらしていた。
「案内するよ」
「お願いします」
ユーリの案内を追うようにぴったりとAN-94はその背中を追う。
やっぱりAK-12とは似ていない。
それでもAK-12を思い出したのは、少しだけ……ほんの少しだけ、見た目以外に似ている所からだろうか?
作戦司令室
「いえーい!M4SOPMODⅡJr!」
「遊んでいないで、さっきの話聞いてたか確認したいんだけど……」
M4SOPMODⅡが自分の名前にJrと名付けたメタルの人形を抱えてはしゃいでいるのをみて、M4A1はため息を吐く。
「聞いてたよ!今日、新しく来る人形がいて!それは軍用人形なんでしょ?どんな子が来るんだろ?もしかして、写真で見たようなガチガチに四角いやつだったりして!!」
「さすがにそれはないわね、軍も少し前に私たちと同じような2世代人形を採用したはずよ。でも採用された経緯は八百長とか、メーカーの癒着とかがあったとかはネットニュースで出回ってたわ」
M4SOPMODⅡの想像をSTAR-15は否定し、ついでに”ネットの噂”を離した。
「それで、そのニュースを書いた記者はどうなったの?」
「週も立たないうちに”自殺”したわ」
「なら、信ぴょう性は高そうね」
M4A1の信ぴょう性にSTAR-15は”全くよ”と笑った。こういうのをアネクドートでもいうのだろうか。
確かに少しだけすっきりはする。現状が変わるわけはないが。
「どうも、お話によるとプロトタイプの人形らしいわ」
「データ吸い、よくてサンプルケースのモルモットをウチに?いつからグリフィンは託児所になったのかしら指揮官様も今回は非効率な選択をしたわね」
「そう言うなよ。これから来る奴がしばらく休んでるJS9より役に立つ凄腕かもしれないだろ?それに噂だとな……おっと、話す前に主役がおいでなすった」
AR小隊が新しく配属される人形について議論していたら、指揮官のユーリががヘリポートから帰ってきた。
一同が立ち上がり己の指揮官に向け、敬礼のポーズをとる。
いつもはしないが、軍隊の人形が来たからそれに合わせてやろうという彼女らなりの意気込みだろう。
苦笑い気味に彼も敬礼を返して、楽にしていい。と言うと一同は敬礼を解いた。
「みんなも昨日聞いているから知ってると思うけど、今日から1週間の間、正規軍から君達の部隊に異動してくる人形がいる。どうぞ、入ってきて」
ユーリが入室の許可を出すとドアが開き軍用人形が入室する。
「うわぁ……!綺麗……!」
その人形を見て思わずM4SOPMODⅡは声を漏らしてしまう。
無理もないブロンドの髪、瞳はエメラルド、顔も美女と美少女の両方を兼ね備えた美しさで、まさに"お人形"という言葉が褒め言葉で似合うくらいの容姿だ。
人間なら、絶対に顔をはぎ取って自分の顔に張り付けたいと思うやつが出るほどだ。
「AN-94だ。今から、1週間お前達の部隊に配属される。宜しく頼む」
AN-94たちを見た、AR小隊たちは一斉に歓迎ムードに変わる。
「(あれが……AN-94。指揮官とその仲間たちの命を奪おうとした、AK-12のプロトタイプ……)」
しかし、その歓迎ムードを漂わせるなか……一人、M4A1だけはエゴールに警戒しろと言われたAN-94を張り付けた笑顔でひた隠しにした冷たい感情を向けていた。
それからAN-94は彼女を歓迎しながらパーティでAR小隊一同の質問責めに遭っていた。
「ねぇねぇ、94はどんな事するのが好きなの?教えてよ!!私は、ねぇ鉄血の奴らをバラバラに解体したり、ゲームしたりするのが好きなんだ!!」
「私に趣味と呼べるものはおおよそ持っていない。ゲームも触ったことはない」
「えぇっ?!嘘ぉ……?!」
「なぁなぁ、スーパーガール!!正規軍にはいい酒とか置いているのか?」
「スーパーガール?何だその名前は?後、私は酒を飲んだ事がない」
「えぇ!!マジかよ……あんた絶対損してるぜ……」
「あの……どうやったら……その……そんなに綺麗になれるの……」
「特に何もしていない」
「う、うらましい……」
AN-94はそっけない態度を取る、みんなは何とか距離感を縮めようと努力してくれているのに、世話になる身分でAN-94はうっとおしがるどころか、その譲歩の意味が分かってないらしい。
本当にこの人形は見た目はいいが、中身は既存の1世代の人形と大差ない頭なんだろうと、M4A1はAN-94を観察していた。
AN-94のことをみんなは歓迎しているが、裏切りをする時のメンタルに響くダメージが怖いからそっけないのだろうか?
AR小隊も警戒心がない。
もしコイツがスパイだったら……どう思うんだろう?
「隊長のM4A1よ」
「お前が隊長か、よろしく。話は聞いてる」
話は聞いている、か。
ペルシカさんの開発した人形という高性能人形という意味だろうか?
それとも、どこぞのバカたちが吹聴した根も葉もない話?
……それとも、ユーリを始末するための邪魔者って話かしら?
「……えっと、どうした?」
AN-94が心配そうな声でこちらを伺う。
表情の起伏は小さいが、きっと心配している表情をしているんだろう。
「あぁ、そうですね……先に私たちの話を聞いてたら自己紹介しなくてよかったかなって」
「……そうか」
AN-94はさっきの無表情に戻る。
探りをいれたのだろうか?幸い、M4A1のいかにもバレそうな言い訳をAN-94はそのまま受け取ってくれた。
「そうだ。私もあなたのことを聞いていい?」
「どうぞ」
「AN-94さんは本を読んだりする?」
「……兵法書しか読んだことが無い」
「あらそう?だったら……こんど、戦略もののいい本を……?あれ?」
M4A1おすすめの本を言おうとした時に、周りの照明が落ちる
「それでは歓迎会の本番を始めよう」
そう言えばそんなことをするって話していた、とM4A1は予定を思い出す。
部屋を暗くなった壁にプロジェクターの光を照らす。
映し出された画像にはマップが映し出されていた
「今回は演習場を使って、AチームとBチームの2チームに分けて模擬戦をしてもらう。チームのメンバーは2つ」
ここにいるのはAR小隊とAN-94の5人。
JS9達は休み。
「AチームはAN-94とM4。BチームはSOPⅡ、AR-15そしてM16で編成。ルールはリーダー戦」
リーダー戦はチーム内でリーダーを作って、リーダーを倒したチームを倒して勝利するという鉄血工造のハイエンド人形戦を想定した訓練だ。
「AチームとのリーダーはM4、BチームのリーダーはM16で行う。模擬戦は15時からスタートする」
AN-94はちらりと隣にいる自分を見る。
彼女は今回の演習の仲間を自分と確認をしたのか、それとも……
「(私の寝首をどう掻くのか、思考を巡らせているのかしら?)」
一度解散し小休憩を挟んだ後、訓練用の装備を揃えて訓練場に向かう。
着いた時間は時間は午後2時57分、模擬戦開始3分前。
お互いのチームがスタート位置に立ち、準備をしている。
AN-94は最後の武器のチェックをしている。
「ちょっと……いいかな?」
「何だ?」
M4A1に話しかけられた。
「さっき……私達、色々質問責めしちゃったでしょ?迷惑だったよね?」
「いや、そんな事はない。ただ我々に必要が無いと思っただけだ……いや、演習をすることが分かっているお前たちなら、必要なことではあったんだろうけれど」
M4A1はAN-94を"お堅い"と思った。
詳細に話しすぎて長々としている。
作戦でヘマしたときのSTAR-15と似ている。
違う点は口数だろう。
それでも、AN-94もコミュニケーションで苦労しているであろうことは予想できてしまった。
「そうね。それに、これから……少しの間だけとは言っても、同じ部隊で戦う仲間だからね、仲良くしようと思っただけなの」
「そうか」
「だから、さっきの事を謝りたくて……それだけ」
「M4A1」
「?」
AN-94が今より真面目な表情でM4A1を見据える。
「これをお前が気にするな。これからも私は指揮官とこの隊の隊長であるお前に従うそれで十分だろ」
命令に従うか……AK-12はユーリに命令に従うと誓ったんだろうか?
このAN-94は本当に、最後まで私の命令を聞いてくれるんだろうか?
そして、私はユーリフレーヴェンの戦術人形だ。
「そうね、ならこの勝負彼女たちに勝とうね」
「ああ」
ピーと開始のブザーが鳴る。
お互いの部隊がそれぞれの持ち場に走り出した。
演習を開始して、15分後
「こちらAN-94。こちら敵影なし。M4A1、そちらはどうだ」
「こっちも見つかってないわ」
「レーダーは?」
「駄目ね。結構なジャミング装置が置かれてるわ。ジャミングを取り除くフィルタリングを実行中よ」
頼れるのは目視のみか……
AR小隊、思っていたよりもプロ意識が高い部隊らしい。
グリフィンは何も考えず、戦闘開始を運動会の号令の如くと判断し、トリガーを引くとこれまでの戦闘ログで確認していたが…彼女らは違う。
相手を見つけるまで落ち着いてこちらの姿を晒さない。
あの単純そうなM4SOPMODⅡという人形すらそれが徹底されている。
「索敵を継続してほしい」
「了解」
AN-94は隠れている所からそっと片手を出し、指につけたカメラを起動させる。
ならばこの勝負は先にどれだけ相手を見つけることが出来たかで、有利と不利の天秤が変わる。
「……見せてもらおう、AR小隊。グリフィンの部隊の実力を」
AN-94が壁に指先だけ露出させて、指に取り付けた小型カメラで視界を確認しているらしい。
……出力制限のレギュレーションの違いしか変わらない、
単調な命令しか実行できない既存の人形とは確かに違うらしい。
頭を使った戦いができる第二世代戦術人形らしいやり方だ。
だが、私たちはこの演習場で何十回と訓練をした。
この地形は目を瞑っても入り口から向かいの出口までいける。
要は最初にここに着いたらどこがいいポジションなのか分かりきったという意味で……AN-94はそのポジションを取っていた。
M16A1がこちらを見つけたらしい。
ピー!!とレーダーの警報が鳴り響く。
すぐ後に訓練用模擬弾が自分のヘッドセットを掠っていく。
「レーダーからの警告!!後ろから!?」
レーダーから警告を受けたAN-94が素早く背後を確認し、今いる地点から離れるそのすぐ後にペイント弾がその地点を青く彩る。
「始めようぜ!!スーパーガール!!」
「スーパーガール?」
攻撃したのはM16A1だった。
幸いここは入り組みが多いエリアだ。
「こいよ!お嬢ちゃん!」
まだ巻き返しを図れる。
一回伏せて射撃を0.5秒だけ蔽物でやり過ごしAN-94が素早く銃床を折りたたみ、撃ってきた方向に反撃する。
「……おっと」
攻撃の動作を目視したM16A1は素早く物陰に移動して別の地点から銃撃する。
牽制射撃とはいえ、反撃を余裕をもって対処している。
「どうした?軍用人形様の実力は人形一じゃ無かったのか?」
「出てきたらお見せしよう」
M16A1、あの長いアサルトライフルを抱えてこの狭い空間をよく動く……。
「こっちだぞ!そら!!」
M16A1のマズルがこちらを向いているのに気付き、素早く伏せて攻撃を回避する。
AN-94も撃ってきた地点とそこから移動するかもしれない所に威嚇射撃で反撃する。
「慎重だな。もっと激しくしてもいいんだぜ?」
「お前が前衛と思っていなかった。てっきり……」
M16A1が物陰に移動しようとしたタイミングで後ろに下がりながら牽制射撃し、そのまま制圧射撃に移行する。
攻撃は外れた。しかし、動きを縛ることが出来た。
そのまま片手で攻撃しながらもう1つの手でピンを引き抜く。
「金髪の方が来ると思ったから!」
ペイント満載の手榴弾を投げ、勢いよく手榴弾からペンキが吹き出す。
すでにその地点から離れていたらしく、別方向から飛び出したのを見て、それを確認する。
銃床を元の位置に戻しM16A1に狙いを定め、攻撃するが狭い空間が邪魔をしているせいで、攻撃が当たらない。
こちらが素早く身を隠したタイミングで、M16がダッシュしてこちらの距離を詰めてくるのを足音で確認する。
迎撃するにも弾数が心許ない。
その為、もう1つ挟んだ物陰に身を隠し空のマガジンから新しいマガジンに変える。
M16A1がこちらに向けて、自分を追い越した。
隠れたAN-94に気が付いてないのかもしれない。
こちらを追い越したタイミングでM16A1を追いかけて、背中を狙い撃とうとしたが……
「どうも〜SOPⅡで〜す!」
「え!?ここで!?」
自分が隠れていた通路の奥から、SOPMODⅡが不意打ちのように現れた。
「食らった……!」
回り込まれた!AN-94が気づいた時には銃弾が1発マントにかかる。
<AN-94さん、背部に被弾。安定性2%ダウン>
「うっ…!?」
一瞬、酔ったような感覚がAN-94に襲いかかる。
並行感覚に制限がかかったか……普段ならレーダーで気づけていた奇襲。
だが、ジャミングのノイズが濃いところまで来てしまって、相方のM4A1のフィルタリングの外に出てしまった。
「追い込むぞ!SOPⅡ!!」
「うん!!」
完全に誘い込まれた。
自分は狼のつもりだったが、あっちはハイエナだ。
イヌ科で1番恐ろしいのは誰か?という話がある、獣に詳しくなければ誰もが"狼"と答える。
だが、自然界の狩人を知っているものはみな"ハイエナ"と口を揃えるだろう。
そのままM16A1を追いかけている間にM4SOPMODⅡに背中からやれる、と判断して素早く反転して曲がり角に逃げ込んで、ひとつの通路に追い込んで対処しようとした時……
「掛かったわね」
「な……っ!?」
その逃げ込んだ通路にSTAR-15がこちらを狙っていた、
「チッ!!」
素早く向かいの壁に向けてジャンプして狙撃を回避。
「……?!……何?……この軌道?!」
そのまま向かい同士の壁をジグザグにジャンプして狙い辛くさせ、どうにかSTAR-15を追い越した。
「はぁっ……!はぁっ……!」
危機を乗り越えるためとはいえ、力業を行使しすぎた。
排熱のため大きく熱を吐き出し、冷たい空気を吸い込む。
まるで過呼吸のようだ。
「つ、強い……民間企業にここまでされるとは……」
以前、グリフィンとは違う別のPMCsと作戦に望んだことがあったがその時は大した実力もなく、テロリストの軽いジョブでびっくりするなど……数合わせでも褒められたものでははずだったのに。
「……アイツらとは違う」
「いたよ!」
レーダーの警告が来た。
M4SOPMODⅡに見つかった!
「お手柄だ!今だ!STAR-15!」
「了解!これでおわりよ!」
「しまった!?」
もうSTAR-15が狙っている、今度は高台にいる。走り回っても上からでは意味がない!
STAR-15が引き金に力を込めた瞬間……
シュッ!と風切り音と共に一発のペイント弾がSTAR-15のスコープを青く染めた。
「うそ!?どうして!?」
信じられないように、STAR-15が攻撃をされた方向を見るそこには……
<援護する!今は下がって!>
STAR-15とは別の高台から狙撃をしてM16A1達を妨害していたM4A1の姿があった。
<早く!>
「わ、わかった」
さらにM4A1は銃撃を続けてSTAR-15を妨害する、だが距離が遠いのか広範囲に分散している弾丸がSTAR-15たちになかなか命中することはなく、大隊の銃弾は命中せず、ペイント弾が目の前を横切るだけだった。
「M4か……いい判断だ。」
「……読まれていたわね、うちの隊長のM4に。高台に陣取られたのはちょっと良くないわね……M16、SOPⅡ!やり方変えましょう!!」
しかし、一旦仕切り直しさせるには十分だったようで、M16A1質はその場を離れ別の地点に隠れる。
今の内に態勢を立て直そうとしたのは、AN-94もだった。
どうにか、M16A1らの猛攻をやり過ごしたAN-94はM4A1に通信を繋げる。
<ジャミングのフィルタリングが終わったから、さがしてみれば……みんなに追い詰められたあなたの姿を見つけてね……すぐ助けに向かったのよ>
「なるほど……しかし、よくこんな短時間で終わったな」
<……部隊の付き合いが長いと誰がどんなジャミングをするのか分かるようになってね>
「さすがだな。確かにお前はAR小隊の小隊長らしい」
仲間のことを理解している隊長は絶対に有能である、と私の指揮官も言っていた。
AN-94は次第にM4A1を有能な人形である理解しつつあった。
「聞きたいことがある。M16達は次は何をする?」
<そうね……>
彼女らが次、何をするかというのはM4A1には分かっていた。
引っ掻き回して網に嵌める戦法が失敗した、なら次は安全策だ。
M16A1らが一斉にAN-94を倒して、次にM4A1を仕留めるに違いない。
私は彼女らとは距離も離れているから援護も届きにくいし、それなりに実力でも張り合えることをさっきのM16A1との銃撃戦で証明した。
なら、AN-94がM16A1より性能がよかろうが「3人に勝てるわけないだろ」、という理屈で。
しかし、M4A1はこの予想をどこまで正確に話していいのか慎重に考えていた。
だが、どうしてこうなるのかという話は意図的に伏せさせてもらう。
本当にスパイであったときに備えてあまり手の内を明かさない方が、リスク軽減になる。
1秒だけ考えて、M4A1をAN-94に口を開いた。
<次は総出であなたを仕留めにかかるでしょうね。一度あなたを仕留めるのに失敗したのだから、躍起になってるはずよ。それに、私じゃ追いつけないとすら思ってる>
「彼女らがそこまで短絡的なのか?疑うわけじゃないけど……」
<短絡的ではないわね。私とAN-94が混ざったら負けることが分かったから短期決戦を挑みたいのよ>
「……末恐ろしいな」
<そこで私から提案があるんだけど>
M4A1はAN-94に自分の考えた作戦を教える。
「今度は三人で仕留めるぞ、連携を怠るなよ」
「りょーかい!」
「さっさと仕留めるわよ。M4A1に合流されたら不利になるのは私たちよ」
M16A1達は、M4A1の予想通り3人で一塊になりAN-94に接近してきた。
「M4A1、予想通り3人で来た」
<わかった。予定通り進めましょう>
「了解」
AN-94はそっと、M16A1達に銃口だけ向けた。
「コンタクト!」
AN-94が引き金を引くよりも早く、M4SOPMODⅡがAN-94の銃口を見つけるとM16A1とSOPMODⅡがフルオートでペイント弾の嵐を放つ。
<その方向でいい、撃って>
「了解!」
AN-94がM4A1の指示通り引き金を引き絞る。
「うわあああ!!」
「クッ!!」
サイトで確認しない適当な銃撃のはずなのに、AN-94の銃撃はM4SOPMODⅡを的確に命中させてペイントまみれにしていく。
何かに気づいたM16A1がSOPMODⅡのフードを引っ張り回避させようとしたが、間に合わなかった。
<M4SOPMODⅡさん、完全大破です!演習場から離れてくださーい>
「うう……わかりましたあ」
思い切っきりペイント弾を受けてしまい、カリーナの放送でSOPMODⅡは全身真っ黄色になりその場を退場する。
M16A1はSOPMODⅡより遅れてきたので攻撃をすんでのところで気づけて回避出来た。
「なかなかやるじゃないか!!いいタイミングで貰っちまった!」
「M4のお陰だ。今度はこっちの番だ!!」
AN-94は素早く物陰から飛び出し反撃する。
M16A1も素早く移動し、AN-94からの攻撃を牽制射撃しながら、距離を取りつつ、STAR-15と一緒に下がる。
「アイツら……強いぞ!!」
「ただ、やられる訳には行かないわ!!M16!M4がなにか入れ知恵したに違いない。こうなったらM4を抑えて!!勝つしかないわ!!」
「了解!!どうやら、それしかないみたいだな……」
作戦を変更して素早く物陰を出た瞬間、
銃撃がM16A1の目の前を通り過ぎる運良く攻撃が当たらなかった。
「うぉっ!!結構……危なかったな……!」
M16A1はすばやく物陰に隠れる。
さっきの攻撃、きっとM4A1だ。
あんなに短時間でAN-94のところに戻るなんて……何をしたんだ?
「AR-15。M4を見つけた!足止めしてくれ!」
<了解!>
M16A1が隠れたタイミングでSTAR-15が囮になりAN-94を引き付ける。
「AN-94。M16がこっちに付き合ってくれた、後は手筈通りに!!」
<了解>
M4A1からの合図を確認してAN-94もAR-15行ったルートに向けて走り出す。
司令室では、
カリーナたちが一連の訓練風景を監視する。
「M16A1さん、残弾90」
<どうやって、ここまで来たか知らんが随分と選手交代が早いな!M4!>
無線からM4A1とM16A1が対峙する。
戦闘を開始した様子が理解出来る。
「AN-94さんはAR-15さんを追いかけエリアCに移動、M4A1さん使用武器のマガジンに攻撃命中。そのマガジンの攻撃は無効となります」
<……くっ、姉さんッ!!>
「AN-94……流石に軍用モデルなだけあってなかなか素早い上に攻撃も的確だ
「えぇ……確かに……AR小隊3人に囲まれた時は終わりと思いましたけど、まさか切り抜けるなんてこれが軍用人形の力ですか」
ユーリはカメラを動かして、とある映像に切り替えた。
「M4も無茶する。まさか、あんな方法でM16A1たちに追いつくなんて」
「あんなことをした出した時はM4さんの正気を疑っちゃったんすけどあれもちゃんと考えてやったことなんですね」
カリーナが映像を巻き戻して、M4A1がAN-94に追いつくためにやった手段を見直す。
どう見ても狂気の沙汰をしている。
M4A1は前々からグリフィンでなにをしても否定されるいじめを受けてきたから自信がないのかもしれないが、アレをあらかじめちゃんとした理論で実行できるのだからやっぱり天才だ。
「……AN-94がAR-15に背中を渡した?AR-15が囮のはずなのに?」
ユーリはAN-94とAR-15の状況が逆転しているのに眉をひそめた。
AN-94の方が絶対優勢だったはず、なのに……なぜ?
「あきらめなければチャンスが来るものね。ついに追い詰めたわよ!逃がさない!」
「かかったな……」
STAR-15から逃走を続けるAN-94はまだ路地に入る。
「また待ち伏せ?あら……この先は私の得意な小路じゃない。奇襲してとどめを刺してやる」
STAR-15頭に叩き込んでいた、路地のパターンを生かし、AN-94の裏側に回り攻撃しようとしたが……
「なあっ…!?しまった!!」
そこにはAN-94の姿は無く自分のビーコンと同じ周波数を発生させる装置のみが置かれていた
「喰らえ!」
「アッ……!?」
<M4さん。ライフルが破壊された判定です。銃撃はできません>
M4A1はライフルを床に捨てて、サイドアームのFNX 45を発砲。M16A1の持っているライフルのロワー部分にペイントが染め上がる。
<M16さん。ライフルが破壊された判定です。銃撃はできません>
互いにライフルを破壊する判定をもらった。
ここからは近接戦だ。
ナイフを使いたかったが、そのナイフはお互い前回の戦闘でなくしてしまった。
「うおらぁっ!!」
「────」
M4A1にM16A1のガンケースアタックが成功し、反動も合間ってゴロゴロと転がっていく。
M16A1がその隙に全力でM4A1を抑えるため馬乗りの姿勢を取ろうとする。
「────うっ!?」
「────きゃっ!?」
M4A1のサイドアームFNX-45の45口径と今引き抜いたM16A1のサイドアームスタッカート1911の9ミリパラベラムは同時に発射され同時に弾かれた。
<M4さん、M16さん、両名のサイドアームも破壊判定です>
「くっ!!」
「往生際が悪い!」
M4A1が2丁目のサイドアームを取り出そうとしたので、
往生際が悪いと思いながら、M4A1の顔面を殴り左手を抑えるとM16A1が殴り、もう片方の手で2丁目のスタッカート1911を取り出した。
「……USPなんて、いつの間に」
「友達にもらってね……」
────え?いらない9ミリがあったら、買わせて欲しい?
鉄血との戦いがようやく安定を迎えた頃だ。
そろそろ45口径の調達がキツくなった時に9ミリのサイドアームも欲しくなって、
ちょうど新しいハンドガンに変えたというHK416の話に乗る形で譲ってもらったのだ。
「そうかい、だが……それを使う機会はないようだ。」
「クッ……ウウゥ……」
ハンドガンの格闘戦に持ち込んだもののM16A1には力及ばず馬乗りされ、今はどうにかスライドを押してスタッカートの引き金を引かせないようにどうにか耐えている状況だ。
「お前……アイツに何を思っている?私たちに……何を隠している?」
「なんの……こと、かしら?」
「シラをきるなら勝手にしろ。どのみち、この勝負は……」
M16A1がM4A1の手を弾いて引き金に力を再度力を込めようとした瞬間────
「終わりだ」
ダタン!!と2発のペイント弾がAN-94によって側面から放たられるそのペイント弾は…M16A1の脇腹と顔面を直撃し
「なっ……?!」
「ふぅ……。なんとか……間に合った……」
<M16A1。右半身及び、頭部損傷に被弾。致命傷により大破と認定。状況終了、敵リーダーの大破によりAチームの勝利>
スピーカーからM16A1が大破判定を受け、Aチームの勝利、という放送が演習場に響く。
「な、何ぃー!?」
────
司令室
「作戦通りに行けて良かった。凄かったよ、AN-94。」
「やれる事をしただけだ。M4A1こそ、お疲れ様」
「最初から、M4の計画に踊らされたって事ね…。」
「しかし、最初の戦闘からM4を信用したんだ。これからも、上手くやれるさ」
「それにしてもSOPⅡのペイントまみれは、今でも面白かったぞ!!ハッハッハッ!!!」
「ちょっと!!今でも恥ずかしいんだからね〜!!」
「SOPⅡは結構マヌケね。合流しろと言ったのに、聞かなかったからよ。」
「AR-15まで!!それにしてもさ、AR-15は94と戦うはずだったのに、最後までやられなかったよね?どうして?」
「……私が94のトラップに引っかかってその間にM16が倒されたからよ……」
「ホラ!AR-15だって失敗してる〜!!」
「ちょ?!ちょっと?!でも、いまさら急いでも間に合うはずなんて……」
「ああその事か」と、AN-94はとある映像を見せる。
M4A1はその映像をみて少しもうしわけなさそうにしていた。
「M4A1があらかじめ道を作ってくれたんだ」
「……これ、あなたがやったの?」
困惑を隠せないSTAR-15。
映像には一直線上に破壊された穴の開いた障害物が映っていた。
「これを通じて素早く私のもとに追いついて私の射線を確認してくれた。私もその道を通じてM16A1に近づいて倒した」
「邪魔な障害物をC4で吹っ飛ばすなんて嘘でしょ。なんて、力技……」
一つ間違えば自分の隠れ場所を潰したり、何の意味も通路を作って自分の首を閉める行為だ。
だけど、
「ようは、今回はスーパーガールとM4に教えられたって事だな。」
「スーパーガールはやめろ。単純にAN-94でいい」
「分かった、分かった。そうカッカするなよ〜!!美人が台無しだぜ」
「はぁ……」
「それでは、改めて…AR小隊にようこそ!!AN-94!!」
そう言ってM4A1はAN-94に手を差し出す。
「……はい、宜しくお願いします。」
AN-94も手を出して握手をす。
「よし!歓迎会の続きだ!!会場に戻るぞ!!」
「いいねぇ!!ありったけの酒を飲むぞ〜!!」
「姉さん。会場のお酒はちゃんと制限してますからね?」
「なん…だって?!」
この後、パーティーの二次会は盛り上がり睡眠時間までAR小隊は楽しんでいた。
パーティの片付けが終わり、AN-94にこれから彼女が使用する部屋を案内して、この基地でのルールを一通り説明した後にカードキーをユーリが手渡す。
「それで、ここが君の部屋とそれを開けるためのカードキー。」
「ありがとうございます」
「……今日はちょっと騒がしかったかな?ああ見えても彼女達も仕事はきちんとするから安心して」
「いえ、お気になさらず。あくまで私は軍の為に全力を尽くすだけですから。」
「そうか」
似てる、記憶の中にある出来事が思い出される。
────このクソガキ、ホンマ!生意気ね!
────こんな口うるさい副官様は気にしないで、私は軍の為に全力を尽くすだけだから
────新参が私を評するんじゃないよ!!
あの子に……
「あの、指揮官?」
AN-94の声で現実に引き戻された。
「あ、いや、何でもない、じゃあ、おやすみ。」
「……?……おやすみなさい。」
不審に思いながらもAN-94がカードキーを通し用意された部屋に入っていった。
「ふう……」
ドアが閉まるのを確認すると緊張の糸が解け壁に寄りかかる。
「姉妹機、AN-94か……今になってアイツのことを思い出すなんてな」
そうひとりでに呟いた言葉は、真夜中の廊下に吸い込まれていった。