たったひとつの願い   作:Jget

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護衛任務

 

午前7時

自身に付けられたスリープモードが解除され、瞼を開く正直今の心境はあまり良いものではない。

 

昨日の失敗と怯えた住民の顔がまだ忘れられない。

 

時計を見つめた。

まだ朝食をして今日の任務の準備を整えるまでに3時間の余裕がある。

朝食もたべないで任務が始まるまでこの毛布の中に閉じこもってしまおうか?

 

そんな考えが頭によぎる、碌でもない、と頭ではわかっているもののこの恐怖を押し返してくれる原動力になるのには、少し力不足だ。

 

服ひとつのトラブルで1つこのザマとは……配慮を怠って赴任先に迷惑をかける寸前だったとは、やっぱり私は失敗作か。

 

トライアルの時もそうだった、少し自分にとって予想外の事態が起こると恐慌状態に陥り動くのやめてしまう。

今でもそうだ。

付いて行くべき存在の"彼女"がいない……やるべきとこは分かるのに、どうすれば良いかが分からない……そう思っていた時だった。

 

「おっはよー!!」

 

バタンと扉が勢いよく開いたそれを聞いて驚いて手に持っていた何かを手にしてから出る。

 

「誰だ!!」

 

手に持っていたものを自分の半身であるAN-94だと勘違いして扉の外から来た侵入者に向けて構える

 

「遅いから迎えに来たよー!!」

 

声の主はSOPMODⅡだ。敵ではない。

しかしなぜSOPMODⅡがここに?部屋番号が違うはずだ。

 

「部屋を……間違えた?」

 

AN-94はSOPMODⅡにその事を質問した。

 

「ああ、それ?この部屋のカードキーのロック開けっ放しだったよ?」

 

そんなはずは、と思いロックの履歴を確認する結果は自分は部屋を開けっ放しにして置いていた。

確かに昨日、自分がこの部屋を閉めた記憶が無い。

 

「それと……なんで、時計を握りしめてるの?」

 

その時のことを思い出しているとSOPMODⅡが私が持っているそれを指差した。

 

「それで殴ったりしないよね?」

「え?いや。その……」

 

それで、漸く私は今持っているのが銃では無く、目覚まし時計だという事に気がついた。

 

午前8時半

 

M4SOPMODⅡについていき、食堂にいるAR小隊の所に案内された。

 

「射撃場の成績を見たわ。凄い短い時間で同じ場所に命中しているんだけど、アレはどうやったの?」

「ああ……アレは、元々私の使っている、AN-94……アバカンの特殊な機能によるものだ。だから、多分セミオートで訓練し直したらAR-15、お前が勝つかもしれない」

 

「M16A1、あの酔っ払いはどうなった?」

「ああ。一度どかした後に、また飲んでたよ。なんで分かるか?いやね、私の飲んでる店にそのオッサンが来たんだよ」

「姉さん……今月厳しんじゃないの?」

「そん時はまた貸してくれよ、M4!」

「(さ、最低だ……)」

 

「昨日はお疲れ様。服は洗っておいたから」

「あ、あぁ……どうも。それと……昨日の服屋だけど、あんな偶然がおきるなんて、本当にすまない、何も知らなかったんだ」

「いいのよ。誰も予想できなかったでしょうし」

「そっちじゃない。お前の能力を疑ったことだ。お前のトラブル解決能力は誰にでもできる事じゃない」

 

そこで彼女達と朝食をとりながら雑談をした。

雑談と言っても彼女達が喋っているのに対して、相槌を打つだけではなく、会話すらことができた。

 

午前8時

あと30分で任務をする為、ユーリ指揮官の元に行く。

任務の準備をする昨日買ってもらった服を着る。

 

M4A1が言ったとおりちゃんと買った服は洗濯がされており、ご丁寧にアイロンまでしてくれたらしい。

この服を買ってくれたおかげ前のように怯えられる事なく任務に取り組むことができる。

いつもより満足感を感じながら、AN-94は作戦用のハンヴィーがある駐車場に向かった。

 

午前8時30分

 

「おはよう」

 

指揮官が駐車場で2台のハンヴィーを用意して待っていた。

出会った時の赤い制服ではなく、シャツの上にプレートキャリアとジーパンの組み合わせだった。

 

指揮官が私の服をみた。

 

「へぇ、君も結構可愛い服を持っていたりするんだね、安心した」

 

指揮官は私に関心していた。

 

「指揮官が出してくれた費用で選びました、護衛任務の際はこれで、宜しいでしょうか?」

「構わないよ、それにしても私は費用を出したかな?」

 

ふと、気になった指揮官がAR小隊に目を向けると。

隊のみんなが手を合わせて謝罪していた。

 

「まあいい、みんなハンヴィーに乗って。任務は車の中で説明する」

 

前方のハンヴィーには指揮官が運転しM4A1、AR-15が後ろの座席に座っている、後方のハンヴィーにはM16A1が運転し、SOPMODⅡ、私が後ろの座席に座っている。

 

ハンヴィーが走り出して暫くすると、指揮官から無線の連絡がきた。

 

<今回の任務を説明する、護衛対象は内務省管轄の警察の捜査官で、調査員を護衛して、帰って貰うまでが任務だ>

 

端末に画像が送られてくる。

見た目からして二十代後半の女性の様だ。

 

「顔が割れてしまったらしく、護送途中で襲撃される可能性が高い。よって各員、武器のチェックは怠らない様に。仕事前にマガジンに弾が入っていない、というのは笑い話にもならないからね」

 

他に質問はあるかい?指揮官が聞いた。

AR小隊は何か思う事があるらしく次々と質問してきた。

 

「この捜査官ってAN-94のことを知ってる?」

「おとといの辺りで説明はしておいた、しかし、AN-94の事を知っているという、返事は聞き出せなかった…まぁ、内務省もなんでも知ってるわけじゃないし」

 

AN-94の事を知らないなら、恐らく今回の件はグリフィンと独自に内務省で取り付けられた契約らしい。

 

「内務省は何を調査すると?」

「カルテルの取り扱ってるドラッグ……つまり麻薬らしい。該当地域は一応政府の認可を得た、とは言っても見捨てられた所であるという事には変わりない当然ここにもカルテルが目をつけている可能性も否定出来ない、と言われてね、社長が引き受けたのさ」

 

AN-94はマップを見た。

自分が昨日、服を買いに行った場所とは違ってグリフィンは"外側"しか警備をしてない。

つまり、前のように警察の代行はしてない……謂わば無法地帯だ。

 

麻薬については、AN-94もAR小隊も理解している。

麻薬は中毒症状を引き起こし、精神的依存性を強めてしまう代物だ。

第三次世界大戦までは、取り締まる組織は大勢いたが、大戦後は軍事面の方向にばかり目が行きやすくなり、ドラッグは放置されたいた。

 

AN-94ですら、現在の社会において未だに取り締まる為の組織居たことは知らなかった。

 

「……言いたくはありませんけど、ここは無法地帯です。どのくらいの範囲を回る予定ですか?」

 

ユーリはため息をつく、M4A1が自分に意見したからではない。

M4A1の発言が最もであることを理解していたからだ。

 

「詳しくは聞かされていない。だが、ドラッグはスラム地域を中心に回る、おそらくそこから切り込みを入れるはずだ」

 

弱い立場の連中に付け込む浸透するやり方の常套手段だ、そこを調査するというのも間違いではないだろう。

だが、ないなら生きる為に奪い合うことがあるスラムは危険と隣り合わせだ。

人間と人形の力関係は基本人形が有利だ。

だが、スラムの人間がそんな事を恐れてられない。力関係以上の数で押されたら人形だって、AN-94だって一捻りだ。

 

「もし、仮に襲われるとして敵はどのくらいで攻めて来るんだ?」

「どのくらいカルテルに警戒されているかによるけど、恐らく待ちの範囲にある建物の数から二個分隊から一個小隊で来るだろう」

 

数は8から60と言ったところか。間をとって30くらいだろう。

 

そう考えていると指揮官がハンヴィーを止めた。

どうやら、目的地に着いたらしい。

 

場所はグリフィンの飛行場だった、飛行場のゲートの近くに1人の女性が待っていた。

 

「彼女だ」

 

指揮官が車の中でゲート近くに立っている女性を指差す、確かに今回の護衛対象だ見た目も一致する。

 

指揮官がハンヴィーから出るのと同時に、M4達もドアを開けて女性の前に出る。

 

「お待たせしました、今回の護衛を担当するAR小隊の指揮官です」

「セレセィンよ、宜しく」

 

指揮官は軽い会釈をして、握手をする為手を伸ばした。

セレセィンはその手を取り自己紹介をした後、指揮官の乗るハンヴィーに乗り込んだ。

 

────

 

午後1時

ハンヴィーで指示された目的地に移動しながら、セレセィンから今回の護衛の趣旨を説明させられる。

 

「今回、貧民街を中心に"クロコダイル"というドラッグを売買しているカルテルを追ってこの区画に来たの。その為、現地に詳しい貴方達グリフィンに護衛を以来させて貰ったわ」

「クロコダイル……安価で大量に製造ができるという、あの麻薬ですか?」

 

「そう。カルテルは金が無くて、ストレスが溜まりやすいところに、漬け込んで"安くて、楽になれる薬"として売り捌いているの。一見、素晴らしい薬に聞こえるかもしれないけど、"クロコダイル"は一度でも使用したら、体の中から溶け出し、やがて死ぬわ、絶対に助からない」

 

M4A1は端末の検索機能を使ってクロコダイルを使ってしまった人間の画像を調べた。

 

「……酷い」

「……こうなりたくはないわね」

 

M4A1も隣で端末を見ていたSTAR-15もあまりにも凄惨な状態になっている患者の画像を見て、血の気が引いていた。

 

「このポイントを選んだ理由は?他に潜伏できそうなスラムはあると思いますが」

「最近グリフィンは受け入れ地域を増やしている、という報告を聞いてね……今まで治安を維持する所は大丈夫かも知れなくても、新しく受け入れた所にカルテルが住み着いているかもしれない、と内務省が判断してそういう所を中心的に探しているのよ」

「成る程……大体わかりました」

 

クルーガーは元内務省の人間だったはず、警察がカルテルを摘発し虫下しをしても、昔の馴染みが経営している民間軍事会社なら擁護も期待できるだろう。

指揮官がこの任務の内容について納得した時、AN-94にひとつの疑問が浮かんだ。

 

「1つ質問をしてよろしいでしょうか?」

「答えられる範囲でなら良いわよ」

「なぜ、顔が割れているのに現地でのお仕事を?真っ先に狙われるのは明白です。私達にだけ任せる方が、賢明だと思われますが」

「確かに、私は敵対する組織に顔が割れている。代わりの人員を送って本部で仕事をするのも1つの手よ」

 

でもね、とセレセィン窓の外を眺めた。

 

「現場に出てくれる人がもう、私の組織の中に居ないの。みんなこの仕事の恐ろしさをよく知っているから……だから、私が仕事をしているの。私の隣にいる指揮官も代わりが居ないから、AR小隊を引き取っているんでしょう?」

 

M4A1の表情が暗くなる、M4A1が気になっている人物が指揮官である事だと理解した。

 

代わりが居ないから、やる。

私の代わりがいくらでもいる軍とは大違いだ。私はこの後、何を言えば良いか分からず質問をやめてしまった。

 

「まあ、今日は友達も手伝ってくれるしね」

「……?」

 

セレセィンはユーリだけ気づくようにウィンクしたが、その意味が分かったのはこの護衛任務の終盤だった。

その後、一行は該当地域をひとつひとつ地道に調査した。

 

「……ここが?」

 

解放した地域というには、名前負けも良いところだった。

スラムは物資が行き届いておらず、荒れ放題、場所によっては所々に銃弾や血の跡がこびりつき、酷い場所は死体も放置されており、ここがいかに関わりたくない場所であることは容易に想像できる。

 

「……うえ」

 

M4A1からM4SOPMODⅡは敵の死体で遊ぶ、狂戦士扱いをされていると説明はされていたが……

敵でもない弱者の死体というのはM4SOPMODⅡにも堪えたらしい。

 

住民もこちらを物乞いのように見つめている。

武器を持っていないか辺りを見渡してみようとした所、ユーリに「目を合わせるな」と警告される。

 

普通の服を着ていただけで、これである。

軍服を来ていたら、どうなっていたかなんて考えたくない。

 

荒廃は酷いというのは、それだけでも衝撃的だった。

それでも、軽く見て回るだけでは特にカルテルが潜伏していたような形跡や話は見つからない。

 

「お久しぶりですね…ユーリさん」

「ああ。久しぶり、といっても週はたってないけど。……この辺りに危険な犯罪者が来ていないか調べたいんだが……立ち入っても?」

「私たちはあなたがいなかったら死人になってました。気が済むようにお調べなさってください……」

 

私達人形には敵意を向けているが、ユーリには別らしい。

住民はそれなりに好意的で捜査にも協力する約束までしてくれた。

お陰で探索ドローンの設置や薬物、違法兵器など検査にも参加してくれた。

 

AN-94も内心なかなかの手際だと認めた。

"彼女"が街の住民達に協力させる時の様だ。AN-94が指揮官をみて相方の姿と重ねる。

 

「どうしたの?指揮官をじっと見てて、何か気になることがあるの?」

 

M4A1に声を掛けられてAN-94はハッとする

 

「あ、いや、その……指揮官が……」

「指揮官が?どうかしたの?」

「指揮官が、似ているんだ……"彼女"に」

 

AN-94が指揮官の方を向く、体は確かに指揮官の方を向いているが眼はどこか、遠い所を見ている様だった。

 

「彼女……ね」

 

もしかして、AK-12?

コイツを通してAK-12を聞けるかもしれない。

 

「何の事?」

 

だが、昨日は機密というガードで固められた今なら少しだけでも緩められるかもしれない。

 

彼女とは誰かとM4A1が聞く。

 

「私より、あらゆる面で優秀かつ価値がある存在だ。私は"彼女"の為に全てを捧げなければならない」

「どうして?」

 

昨日聞けなかったことが少しだけ聞けた。

もう少しだけなら掘り下げられるかもしれない、M4A1は首を傾げて問いかける。

 

「"彼女"は特別だ、何をしても失敗しない、"彼女"に会ってすぐに分かった、失敗し続けた私とは違う、"彼女"を超えることなんて出来ない……そう思ったんだ」

 

M4A1は完全に諦めた様子のAN-94を見てAR-15に似ているなと、思った。

違いはAR-15は私達を越えよう、と劣等感をバネにして努力している所、AN-94は勝てる訳無いと諦めている所。

 

「すまない。忘れてくれ」

「分かったわ」

 

これ以上は無理にやるのはリスクが高そうだ。

M4A1は話題を変えることにした。

 

「それでも、あなたは頼りになると思うけれどね?」

「え?」

 

予想外の発言に思わず、AN-94はM4A1に振り向く。

 

「昨日の訓練でも、私からしたら貴女がいなかったら、あの難易度は攻略できなかった。あなたは私の強引な戦法を取った意図を理解できたじゃないの?わかる?私は貴女のおかげで私は助かってるの」

「それは、"彼女"でも……」

「その彼女は今ここに居ないなら、机上の空論って……感じるけど」

「……!」

「大丈夫、貴女はこのチームの中で必要の存在よ。あなたの言う彼女もそう思ってるわよ。それにね、足りないところはみんなで補うの、それがチームでしょ?」

 

M4A1はAN-94の肩を軽く叩き励ます。

 

「……なんて格言めいた事を言ったけど、殆ど指揮官からの受け売りなんだけどね」

「受け売り?ユーリ指揮官の?」

 

M4A1は軽く苦笑してええ、と言った。

正直なAN-94を騙しているようで、M4A1は内心複雑だ。

スパイをしているのどっちなのかわからなくなる。

 

「随分前?それとも少し前になるのかしら?どちらでもいいか。指揮官と出会ってまだ間もない時は、自分に自信を持てなかったの」

「……」

「見ての通り、今でも自信は強く持てていないけど」

「見ての通り?」

「あまり本気にしないで。その時に、指揮官がね……どんな選択でも私の考えを尊重する、って言ってくれたの……失敗した時でも私達の代わりに責任を取ってくれた」

「どんな選択でも……か、」

 

信じられない、とAN-94は思った人形が勝手な行動を取った場合、その責任は誰が取るのか?無論その人形と指揮官だ。

 

大抵の場合、指揮官は作戦を失敗した場合、責任を人形に押し付けるのがAN-94の知ってる常識だ。

しかし、AR小隊の指揮官はその責任を指揮官である自分自身がとっている。

 

「指揮官の言葉と行動は私に、立ち直る力をくれたわ……価値がある存在だと認めてくれたから」

「立ち直る力……か」

「昨日好きな人がいるって言ったでしょ?」

 

そう言えば、そんなこと話してたな……とAN-94は思い出す。

 

「ここだけの話なんだけど、それにね指揮官は私に誓約を頼みたいと思ってるの……」

「誓約を?」

 

誓約の意味はAN-94だって知っている。人形の所有権を直接買い取る物だ。

しかし、人形の所有権を買い取るのは人形のグレードによって価格が変わる。

戦術人形となれば、高級取りの2ヶ月分の給料に相当するそれ程の金額をはたいてましてや人形風情の為に買う訳がないというのが世間の常識だ。

 

そんな望みにAN-94でなくても驚くだろう。

 

「私を道具じゃないくて私の恋人になってほしい、言われたら本当に嬉しいんでしょうね。私をたった1つの存在だと認めてくれるんだから。……あなたの考えている通りよ、私は指揮官を愛してる。この先どんな事があっても。AR小隊やグリフィンの為だけじゃなく、私は指揮官の側にいる為にも強くなりたいの……」

 

「聞かなかったことにできる?」と困り顔で笑った。

愛している……か。多分、”彼女”に言われていることやきっかけは同じだが……関係という意味では何かが決定的に違う、という違和感を覚えていた。

いつか、その違和感の違いを私というAN-94戦術人形にそれがわかる日が来るのだろうか?

 

「お金はどうするんだ?」

「もちろんこっち持ちよ。お願いする立場なんだから」

「そう言う時こそ、”割り勘”じゃないのか?」

「いいことを言う」

 

M4A1は初めてノリのいいことを言ったことに良い変化を感じ取っていた。

 

<みんな、セレセィンさんのところに集合してくれ、トラブルが起きた>

「すぐ行きます」

 

AN-94が愛について悩んでいると、指揮官が集まる様私達に呼びかけた。

どうやら、この場所での調査でなにかあったらしい。

M4A1は即座に反応し、セレセィンのもとに駆け付けた。

 

目的地に駆け付けると、何だか様子が変だ。

はっきりとは言えないが不気味な雰囲気がする。

 

「もう少し、人の気配があってもいいと思うんだが……

 

なるほど、M4A1たちの感じた違和感は人の少なさだ。

視線こそ感じるけれど、視界には誰一人と映らない。

まるで、待ち伏せされている気分だ。

 

「カリーナ」

 

指揮官は無線でカリーナに連絡を入れる。

 

<はい、指揮官様。>

 

ホログラムでカリーナが映し出されるどうやら少し疲れた様子だ。

 

「忙しいのを承知で聞きたいんだが、この地域の管理者をだれか教えてくれるかい?」

 

<了解です!!えーと、この地域にはですね……>

 

ホログラム越しにカリーナが端末で履歴を調べる、指揮官もこの地域の様子を不審に思った理由はこれか。

なら、トラブルは?

 

「このあたりで突然飛んでいるドローンが墜落したんだ」

 

指揮官が飛行機サイズのドローンを見せる。

まだ飛べなくもないし、バッテリーも十分だ。

……そこから、考えられるのは電波妨害。

 

「おや、どなたですかな?」

 

そう思っていると路地から4人のグループの団体が現れる、どうやらここの住人の様だ。

 

「すみません、ここの管理を任されているグリフィンの者です」

 

気配を感じず現れる4人組に指揮官は警戒するものの周りには感じさせず穏やかな、対応した。

 

「ああ、グリフィンの方でしたか、そういえばそのようなこともありましたね。本日はどの様な案件で?」

「最近、カルテルが危険な薬物を配布している……なんて話を聞きまして注意をする為にこの辺りをパトロールしているんです」

 

指揮官が何とか口裏を合わせているときに、調べ終わったカリーナから折り返しの通信が入る。

 

<情報出ました!この辺りの地域の住民は住民登録を更新していない様ですね>

 

住民登録をしていない?

怪しすぎる。

 

「申し訳ありません、宜しければ住民登録したカードを渡して頂けますか?」

 

素早く指揮官は2人に護衛対象を守る様、合図を送る。

M4A1はセレセィンの近くに、AN-94は指揮官の近くに立ち不審な動きがないか4人組を見張る。

 

「あぁ、はい、いいですよ、少々お待ちください……」

 

住民登録をしていない人間が住民登録用のカードをもっている?

M4A1とAN-94の緊張は最高潮に達した。

グループの一人が指揮官に近づき……

 

ガキン!!と金属音がいきなり鳴り響く。

 

「ヒヒ!!」

「……!!、何のつもりだ?!」

 

グループの一人が仕込みベルトからナイフを引き抜き指揮官の腹を刺そうしたが、ギリギリ指揮官もグループの一人より早く、肩のナイフシースからナイフを引き抜き攻撃を防いだ。

 

現在、ナイフとナイフの鍔迫り合いが起きておりギチギチお互い何とか抜けようと必死だった。

 

「取り締まり局だ!!殺せ殺せェ!!!」

 

別の男がそう叫び、隠し持っていた武器を取り出すが……

 

「……くっ!」

 

AN-94とM4A1が素早く動き、AN-94はメンバーの武器を構えたときに素早く掃射しメンバーの3人を射殺する。

M4A1は即座に動き、指揮官の盾になる。

 

「銃声!?」

「ああもう!なにがあったの!」

 

銃声は他のAR小隊にもすぐ伝わった。

M16A1が警戒し、STAR-15が悪態をつく。

 

残るは指揮官とナイフで鍔迫り合いをしている男だけだ、男がナイフで突きを食らわせるタイミングで素早く左に避け、ナイフを持つ手を掴み男の腕を絡ませ、捻りそのまま投げ飛ばす。

 

受け身を取れないまま投げ飛ばされた男は、雑に呼吸を整えて立ち上がろうとしたが、その胸を指揮官がブーツで踏みつけ、体重を乗せて動けなくする。

 

「答えろ。何故、殺そうとした?」

「ヘッ!!教えるかよ!……ッ!ギャアアッッ?!」

 

指揮官が体重を乗せる足に力を入れる肺を押しつぶされる感覚に男は悲鳴を上げた。

 

「こっちは部下が撃たれたんだ。答えてくれないか?」

「そ、それは……あの女が来たら殺せと」

 

グループの男がセレセィンを指差す。顔が割れていたのは確かだったようだ。

 

「”カルーアカルテル”のメンバーね?」

「ああ、そうだよ……ここで、ボスやボスの取引相手に頼まれた仕事をしてるのさ……い、ってええ!?」

 

M4A1が耳たぶを掴み上げ、無理やり立たせた。

 

「何、他人事みたいに言ってんのよ!」

「いっててえ!!。お、おれは下っ端なんだって!?」

 

暴力担当はM16A1か、M4SOPMODⅡかと思ったが、実はM4A1が一番その資質があるんじゃいないかというくらいにはAN-94も迫力を感じた。

それはともかく、チンピラが吐いたことで確信が取れた。カルテルの縄張りだったようだ。

 

「指揮官!銃声が聞こえたけど、一体……」

「SOPⅡか。見ての通りだ」

 

AR小隊が遅ればせながら来た時に、血の海とM4A1に捻り上げられるチンピラを見て何が起きたのか瞬時に理解した。

 

「薬はどこにあるの?」

「案内しろ」

「案内しないとどうなるか……わかるわよね?」

「わかった!わかったよ!耳を捻り上げるのやめてくれ!」

 

指揮官に踏みつけられたり、M4A1に耳を捻り上げらるのはもうゴメンだと観念したらしい。

仕方なく自分達の拠点を案内することにした。

 

 

「M4……大丈夫か?撃たれたように見えたが」

「……まあ、なんとか。プレートで止まってくれたわ」

「プレート?」

 

M4A1がセーターの背中側を翻す。

なんと、裏には防弾プレートが貼り付けてあり、9×18弾を受け止めていた。

 

「M4A1……あんまり無茶するな。私達は大破したらバックアップがないんだからな?」

「分かってるわ。姉さん、だからこうして工夫をしてるんでしょ?」

「AR小隊。お前たちはバックアップを取ってないのか?」

 

AR小隊の人形たちは「あー……」と困惑気味な反応を見せた。

人形は大破……人間でいう死亡状態になっても、ある程度の記憶を保存していればその分を記憶を新しい体にダウンロードさせて、復活染みたことが出来る。

AN-94も一日一回はバックアップを取っている。

それだけ、重要なことをしていないAR小隊にAN-94は不安を感じた。

 

「実はね。AR小隊は開発者のペルシカさん曰く、”メンタルモデル”が普通の人形と違うからバックアップを取れないって言ってた」

 

バックアップを取りたくても取れない?

だとしたら、一度の失敗が本当にすべての終わりになる?人間と同じ……?

 

「まあ、私達はそこまで気にしてないから大丈夫よ。ねえ、AR-15?」

「確かにM4A1の言う通りね。それに、バックアップをとって復活したとしてもそれって記憶を引き継いだクローンと大して変わんないわ。……特に、あの事件が起きてからはそう思うようになったわ」

「あの事件?」

「……機会があったら話すわ。でも、いい話じゃないのは覚悟しておいて」

「そうか」

 

そうこう話しているうちに、カルテルのアジト……というか、カルテルが最も隠したがっている場所に到着した。

チンピラ曰く、この町自体がアジトらしい。

話を戻して、たどり着いた場所は年季の入った廃病院だった。

 

「いかにもって、ところだ。……セレセィンさん準備は?」

「いつでもいいわユーリ」

 

セレセィンは壁越しの射撃をなるべく防ぐ為に姿勢を低くしてドアノブに手をかける。

M4A1が指揮官の背中につこうとしたが、それに割り込むようにM16A1が後ろに着いた。

 

「姉さん?」

「M4。お前は撃たれたんだぞ?プレートが助けたのかもしれんが、衝撃が内部に響いてるかもしれん。なら、万全の状態の人形が依頼主の護衛に着くべきだ」

 

M16A1がM4A1を守るがための行動をしているのは見え見えだったが、あえて論理面で強調することで、M4A1は引き下がった。

 

さて、今度こそ突入だ。

突入はAK-102にライトのアタッチメントをつけた指揮官が先頭で、そのすぐ後ろにM16A1、AN-94が控えている。

 

他のメンバーはライトのアタッチメントをつけていない、だから指揮官が先頭だ。

 

セレセィンがドアを開け素早く指揮官が建物中に突入に中にいる連中に「警察だ、動くな!!」と、声を張りあげて突入する。しかし、突入した瞬間……彼らの反応はすぐさま反対のものに変わった。

 

「入るな!入れちゃダメ!」

「どうした?……クソッ!?ダメだ!見るな!戻れ!」

「……」

 

中にいたのはカルテルメンバーではなく、薬漬けによって「クロコダイル」によって精神がおかしくなり体が蝕まれ横になっている患者の姿だった。

 

残念な事にすぐ後ろに張り付いていた、M16A1とAN-94はこの惨状を指揮官が止める前に突入して、この光景を目撃してしまった。

 

「ひどいな……あちこち壊死している……」

 

蝕まれた体は肉を溶かしいて、骨が見える患者もいた苦痛でううぅと、声にならない声を上げている。

 

見るだけでも痛々しい、ベテランのM16A1すらこの光景は初めてらしく戦慄していた。

 

「恐らく、ここで中毒になった人達から搾り取れるだけ搾った後、外にバレないようにする為にここに押し込めたのね……」

 

セレセィンの声は淡々としているが瞳は怒りに燃えている。

 

「なんて事を……」

「……妹達は、外に待機させたままだ?どうする?」

「……彼女らに突入はさせない、逃げた奴がいないか探させよう。この光景は彼女達にはキツすぎる」

 

この光景を見せられたら今後、彼女達の傷になる事は間違いない。時には知らないままの場合が良い事もある。

 

「同感だ。患者は?」

「内務省が預かるわ。そのために友達に手伝ってもらったの、位置はさっき知らせたから20分で着くと思う。回収は任せて」

「了解です。中にまだカルテルのメンバーや証拠が残っているかも知れません、探しましょう」

 

AN-94とユーリ、M16A1とセレセィンこのグループでそれぞれ手分けして調べる事にした。

 

「……よし、大丈夫そうだ」

 

ユーリが行く先をライトで照らして、安全を確認する。

安全を確認したので、進んでいく。

今のところ、入り口のようにはなっていないがかんかんと何かを叩くような音がしたり、うめき声は絶えず響くので気が休まることは全くない。

 

「……?」

 

また、別の路地の安全を確認し全身をしている指揮官の背中についていく途中、今までよりもさらにはっきりとしたうめき声が聞こえて、ほんの少しだけなら大丈夫だろうと思ったAN-94がその声がした方向を確認した。

 

端末のライト機能で、数秒ちらっと確認したが、なにもいない。

……自分のミスか、と思ってユーリを追いかけようとしたその瞬間────

 

「くれぇ……」

 

突然、AN-94の右足を誰かが掴んだ。

 

「!?」

 

捕まれたことに驚き、AN-94は銃を落としてしまう。

 

「AN-94!!」

 

指揮官は銃を落とした音で自分の後ろにいないことに気が付いたらしい、こっちに近づく走り声が鳴り響く。

とにかく銃を拾わないと、そう思って伸ばした手が、

 

手が、手を、手を掴まれた。

 

「だれ……?」

 

掴まれた手の先を見る。

 

……見るべきではなかった。

 

そこには、

 

皮膚が溶けたガイコツが

 

「────」

 

息をのむしかなかった。

頭が溶けまるで骸骨になった男?いや、体つきからして15から17の少年だろうか?

 

 

「ヤクを……くれぇ……」

 

そいつが、AN-94に、麻薬を要求してくる!?

こんな体になっても薬を欲しがるのか!?

 

いや、そんなことしてる場合か、

 

さっさと銃をとれ、

 

でも銃を取る為に自分の足を掴んでいる手を振りほどこうとしても、

 

なかなか離そうとしてくれない。

 

「は、離せ……!」

「くれぇ……くれぇ……くれょおおぉぉお……」

「やめて、しつこい……!?……あっ……え?」

 

ガンと音がする、振り向いた所に他にも豹変した患者達がベッドや机からわらわらと、現れ視線をAN-94に向ける薬を求めているのだ。

 

「く、来るな、やめろ……こないで、こないでっ」

「「「くれぇ……くれぇ……」」」

 

思考がおかしくなっており、彼女を薬の売人だと勘違いしているのだ。

患者達がAN-94に襲いかかろうした瞬間……

 

「AN-94!こっちだ!!」

 

患者とAN-94の間を1発の銃弾が横切った、続いて2発3発と足元に向けて銃弾が飛ぶ。おかしくなっても銃に対する恐怖は残っているのか、患者達はそそくさと退散した。

 

その隙に指揮官が飛び出し、AN-94の腕と傍らに転がっていたライフルを拾い上げるとその部屋から脱出し、AN-94が入った部屋のドアを閉めた。

 

「大丈夫かい?」

「すみません……」

 

上に繋がる階段から指揮官が現れ、AN-94に手を差し伸べた。

手を掴み立ち上がった後、銃をうけとり礼を言った。想像以上にここは恐ろしい場所だったようだ。

 

「カルテルの連中、慌てて逃げていったようだ、証拠のデータがないんじゃあね。殆ど処理されてるとみていい」

「そうですか……」

 

AN-94の様子が優れない、当たり前だろうあんなに恐ろしい目にあってまだ会話出来るだけ、メンタルモデルが強い証拠だ。

普通の人形ならその光景に耐えきれずに、強制的にシャットダウンと言う名の気絶をしてしまうだろう。

 

「だが、これ以上ここにいるのは良くない……ここからおさらばしよう、M16!セレセィンさん、一旦合流した後にここを出────」

 

次の瞬間、自分たちのすぐ隣のドアから何度も叩きつける鈍い音が鳴り響いた。

 

「くれえ……!」

「ひとでなしいいい……!」

 

ドアの奥から、亡者のうめき声のような声で薬を求める声が聞こえる。

 

「嘘だろ……!?」

「あ、ああ……!あああッ……!?」

 

あまりの恐ろしさに、

指揮官は驚愕し、AN-94はもう泣きたい、泣き叫びたくなっていた。

 

ばたん!と扉が崩れ落ち、バタバタと音を立てながら患者たちがこっちになだれ込む。

 

「ああ、くそっ!止まれ!」

 

もう一度警告して、今度は天井に発砲した。

 

「くれええ……!」

「みないでえ……!壁のそとから、あかい、おおきい、めだあああまああ」

「ああ、はあああ、ひいい!」

 

「ダメか!!」

 

だが、患者たちが止まる気配はない。

さっきとは違う、完全にまともじゃない。

 

「セレセィンさん、聞こえます!?」

<ええ!銃声と一緒にね!”やばい患者”とあったのね!>

「一旦、体制を立て直します!広間で合流しましょう!!」

<ああ、こんな所はもうたくさんだぜ……!>

<そうね、こっちはある程度必要なものも確保できたし。次は4人で対処しましょう!>

 

「よし!聞いたな!AN-94、とにかく一度ここから────」

「もう、いやあっ!」

 

AN-94はもう完全に取り乱していた。

泣きじゃくりながら、チャージングハンドルを引く。

その瞬間、AN-94が何をするのか指揮官はすぐに理解した。

 

「来るなっ!来るなああああ!!」

「止まれっ────」

 

その頃……AR小隊たち

 

「銃声だ!また聞こえた!」

「指揮官……!」

 

外でも鳴り響く銃声は聞こえており、M4A1たちも気が気でなかった。

しかも、なにか外も外で何か騒がしい。

よほど、カルテルたちを焦らせる何かが起きたんだろう。

 

「おい!動くな!」

 

M4A1が銃を向けて、逃げ出そうとしたカルテルの男を止める。

 

「お前らだって、分かってるだろ!?ここにいたら、命がいくらあっても足りねえよ!」

「うっさい!じゃあ、その命ここで使い果たす!?」

 

STAR-15が唸りながら、銃口を向ける。

だが、その銃口はすぐ別の方向に向けることになる。

 

────な、なんだ!?この人形!?

────く、くそ!?なんで、俺たち……ぎゃああああ!!??

 

────退避だ!退避!!

 

別の建物から、ぞろぞろと逃げ出そうとする男たち。

だが、M4A1たちが止める前にその逃亡者たちは銃殺されていく。

 

カルテルを撃っていた襲撃者が明らかになる……

 

「あれは……!スレイヴドール!?」

 

その姿はオークション会場で見た装置を装着された普通の人形と鉄血人形で混成された戦術人形部隊だった。

 

「あれが!?嫌でも何でここに、それに……あいつら、いま……」

 

スレイヴドールがもう死にかけの男の首に手を突っ込み、引き離した。

 

「────」

 

引き離した時に男の喉から、噴水のように血液が飛び出して痙攣しながら死んでいく。

M4A1達はその凄惨な光景に絶句した。

 

「まともじゃない……!」

 

STAR-15のいう通りだ。スレイヴドールはマトモじゃない。

それはオークション会場での狂気で気づけたこと……だが、いくら見ようと慣れないものはある。

スレイヴドールがこちらに気付いたようだ。

 

「クソ!撃ってきた!」

 

カルテルを追ってるから味方ではないらしい、問答無用でこちらに銃を向ける。

指示を待っていられる状況ではない、M4A1達も現場の判断で交戦する。

 

「SOPⅡ!」

「分かってる!グレネードランチャーは使わない!持ってきてないし!」

 

M4SOPMODⅡのライフルはいつもアンダーバレルに取り付けていたグレネードランチャーが装着されておらず、代わりにマグプル製のフォアグリップをコピーされたレプリカが装着されていた。

 

「分かっていたようで安心したわ。グレネードランチャーなんて撃ったら、破片で巻き込まれるもの」

 

STAR-15もSIG製のドットサイトのレプリカモデルで、スレイヴドールを狙う。

だが、狙って撃っても動きが素早くしょっちゅう隠れるのでなかなか敵として厄介だった。

 

「報告通りの厄介さね!」

 

M4A1がわざとリロードする隙を見せた瞬間に接近した、スレイヴドールをSTAR-15がフルオートで弾をばらまき始末する。

 

「やってられるか!」

 

さっきまでつかまえていた男がこっちの注意が散漫になった瞬間、逃げ出した。

 

「あ!」

 

M4A1が気づいた時にはもう走って追いかけられない所にまで逃げていた。

 

「こ、こいつで、逃げれば!ぎゃああ!?」

 

たまたま近くに停車に乗り込もうとした瞬間、鋭い拳がカルテルの男の顔面を殴り飛ばし、男はあっけなく気絶した。

車のドアが開く。

 

「この野郎……人の車盗もうとしやがって……!にしても、結構急いだつもりなんだけどな……なにが、起きてんの?」

 

車から、黒髪の裏側に紫色の髪をした女が降車した。

 

「M4お姉ちゃん!弾ある?」

「2つある!SOPⅡ、欲しい?」

「ほしい!!」

「分かった!」

 

M4A1がM4SOPMODⅡにマガジンを投げ渡す。

もはや人形しての尊厳も意思もなくなったスレイヴドールであったが、本来以上に引き上げられた戦闘能力と、連携により少しずつAR小隊も苦戦を強いられる。

 

「M16お姉ちゃん達は何やってんの!」

「私に聞いてどうするの!?」

「ケンカしないで、そんなこともしても……なに?」

 

一瞬だけ、自分たちより後ろから、風切り音が通り過ぎた音が聞こえる。

 

「誰!?」

「カルテルかしら……?」

「だとしたら、挟み撃ちに……うわっ!?」

 

銃声がまた後ろから鳴り響いた。

今度は、自分たちに接近しようとしたスレイヴドールが撃たれた。

 

「どうやら、味方のようね…」

「助かったあ……」

「でも、誰が?」

 

その後は援護の甲斐もあり、すべてのスレイヴドールを撃ち殺した。

人間の死体と人形死骸であふれかえった、血の海を見回す。

何体か自分の見知った、人形に、見える、のも見えて、不安感を覚えた。

 

「スレイヴドールを作っている……スレイヴモジュール……」

 

M4SOPMODⅡがスレイヴモジュールを引きはがそうと頭の装置を掴んだ。

 

「まって!下手にうごしたら────」

 

誰かがそう言った。

だが、時すでに遅し……ボンっ!!と風船が破裂したみたいな音がして、スレイヴモジュールを取り付けられた人形の頭が爆散した。

 

 

「SOPⅡ!」

 

 

次々とスレイヴドールの頭が爆散していく。

その爆発を掻き分け、M4A1がM4SOPMODⅡに駆け寄る。

 

 

「大丈夫!?」

「……な、なんとか」

 

果たして、M4SOPMODⅡは生きていた。

幾つか焼けている個所はあったが、稼働に問題はなさそうだった。

 

「さっきの人が助けてくれたんだよ」

 

M4SOPMODⅡが指さした先には黒髪の女が倒れており、意識を取り戻したのかゆっくりと起き上がる。

その時、女とM4A1の目が合った。

 

「あなた!?」

「うわ、マジ?」

 

目が合った二人は互いに驚愕する。

 

「友達の仕事の手伝いに来たら、まさかアンタに再開するなんて、とんだ偶然もあるもんね」

「誰よ……M4A1、この人と知り合い?」

「この人は”アキ”さん……この人とは何というか、その……昨日パトロールした街の洋服店でクレームを入れててその対処をしたの」

 

確かにクレームを入れた人間と再会なんてしたくはないだろう。

 

「最近のクレーマーは殴り込みスキルも標準装備なの?」

「お望みなら殴り合いしてやってもいいけど?」

「ここでやっちゃだめだよ!まだ、ユーリ指揮官もかえって来てないのに」

 

アキはどうにも短気な性格らしい。

人形相手にも勝てると思っているらしい……と、傲慢に浸るにはM4SOPMODⅡを助けてもらった件がある。

 

「……そういえば、そうだったわね。アンタ等の指揮官はユーリだったわね」

 

妙に納得した態度でアキは病院の方を見つめた。

しばらく待っていると、セレセィンを連れた指揮官、M16A1、AN-94が外に出てきた。

 

文句の一つも言ってやろうと思ったが、セレセィン以外は軽度ではあるがケガをしていたようでその気持ちも失せてしまった。

病院内もかなりの出来事があったらしい。

 

「セレセィン、当たり?」

「大当りよ、データ山程あるわ患者も、ね」

「収穫ね。こっちは、さんざんだったわ。着くなり車を取られそうになったり、人形同士の殺し合いに巻きまれたわ。一歩早かったらアンタらも巻き込まれたわよ?」

 

アキとセレセィンが軽く報告を済ませる。

そして、ユーリとアキの視線が交差し、お互い一瞬だけ反応した。

 

「……私は、アキ。セレセィンの手伝いに来たの」

「聞いてます、セレセィン調査官を護衛しているグリフィン&クルーガーのユーリです」

「なるほど……G&Kの。失礼、私この人の友達で手助けなの。驚かせてしまったね」

 

AR小隊とAN-94だけ先に帰らせた後、指揮官がセレセィンに中に入った時に確保したデータチップを渡す。

 

「今日は助かったわ、ありがとう」

「どういたしまして。まさか、知り合いに合うとは」

 

ユーリはアキをちらりと見る。

 

「私はもうちょっと、ここの証拠を確保するから。しばらくは自由にしていいわよ」

 

アキがゆっくりとユーリに近寄って壁にもたれかかると、ユーリの隣にそっと肩を合わせる。

そっと、アキは通信を誤魔化せるスクランブラーという装置をユーリに見せた。

 

「通信はダミーのものを傍受されるようにしました。もう公然の面々で知らないフリをされる必要はありませんよ。……お久しぶりですね、ユーリ隊長」

「お前もな。生きていてくれたんだな、”アキ”」

 

一方、AN-94達はハンヴィーで基地に戻った。

帰り道は誰もが気持ちが整理しきれておらず、会話も全く弾まなかった。

 

午後8時

基地内のバー

 

あの後、M16A1に誘われてAN-94はAR小隊と一緒に基地に併設されたバーにいた。

 

「景気悪そうね。AN-94。……いや、今のは不躾だったねすまない」

「気にしなくていい」

「お客様。今日はどちらをお飲みになられますか?」

 

バーテンダーが注文を聞いてくる。

 

「……強い酒をくれ」

 

珍しくAN-94が要求をした。

バーテンダーは「わかりました」といい、バーテンダーの人形はグラスにアルコールの度数が高いウォッカを注ぎライムジュースとジンジャエールを入れる。

 

本来ならライムを絞ると聞くがこのご時世天然物は希少なので仕方なく代わりに合成のライムジュースを代用しているのだ。

 

「よし、それでは乾杯」

「「「……乾杯」」」

 

5人はグラスを合わせ、アルコールを口にした。

疲れた時にはアルコールが効くと聞いたが、まるで効かない。

 

「……はあ」

 

襲われた時のイメージが離れないのだ、未だにAN-94の足には掴まれた感覚が残っていて時折幻覚の手を振りほどこうと、右足をブラつかせてしまう。

 

「随分ヤケクソ染みた飲み方ね。AN-94、何かあった?」

 

アルコールを一気飲みして、何かから逃れるように酒を押し込む姿はSTAR-15でなくても、何かがあったようにしか見えない。

 

「狂気だ」

「ああ……そうだ」

 

M16A1もジャックダニエルの入ったグラスをテーブルにドカンと降ろした。

 

「狂気って……どうしたのよ?」

「私たちが入った病院に色々隠されていたのは知ってるだろ?」

 

────

───

 

「まって、じゃあ……水もご飯も与えられないで放置されてたってこと?」

「ああ。飼い殺しどころじゃない。本当にゴミのように捨てるために投げ込まれていたんだ」

 

「じゃあ……外で聞こえた銃声は」

「ああ。今にでも私たちを食べようとして……私がパニックのまま、撃ってしまった時のものだ」

 

「さらにヤバいのはこっからだ。撃たれてビビるのかと思いきや、その死体を患者どもが食っていたんだ」

「そ、そんなに……?」

 

「生きるためなら何でも必死ね……」

「……それだけじゃない、彼らは死んだ患者の体内から使った麻薬を摂取できるらしい。食べているときはまるで、シアワセそうに喜んでいたよ」

 

まだあるのか?と思った時にAN-94の口から衝撃の発言が飛び出す。

流石に銃撃戦で生死を分ける羽目になった、AR小隊でも血の気を引く思いを覚えた。

 

「お前たちには……頭が下がるよ」

 

AN-94は完全に敗北感を味わっていたようだった。

 

「私は何も知らなかったんだ!!……許してくれ、撃つつもりじゃなかった!ただ、でも……私が引き金を引いていて……ううっ!ううううっ!!!」

 

相当トラウマになったらしい。

AN-94は人が変わったようにダン!ダン!とテーブルを叩きながら、泣きじゃくる。

 

「なのに、私は民間の人形よりもマシだと、どこかで思い込んでいて……ただ、逃げ回って、ただ、手当たり次第に撃ちまくって……!くそっ!くそっ!!」

 

この後は、AN-94は泣きわめいてしまいどんどんアルコールを取るようになってしまった。

 

「もう、これ以上は……」

「うるさい!!」

 

止めようとしたM4A1の腕を振り払い、AN-94は怒鳴り散らす。

ここまで、自暴自棄になるとは。

 

「……」

 

1時間は立っただろうか?

もう、他は付き合いきれなくなってそそくさとその場を後にしてしまった。

 

周りを見回す。

終了時間ギリギリにこの店を使ったのが不幸中の幸いらしい。

迷惑そうにこっちを見ているバーテンダーだけの被害で済んでいる。

いや、多分しばらくこのお店も出禁になりそうなので、”だけ”済むわけではないのは目に見えているが。

 

「落ち着いて、そもそも全部飲み切れるだけのお金があるわけじゃないでしょ?」

 

さんざんスパイだと、疑ったM4A1すら今のAN-94はとても哀れに思えた。

人生で大体の人間や人形が挫折を味わうものだが、AN-94はその中でも一番パンチの利く挫折を味わってしまったのだろう。

 

「こうしましょう。最後の一杯は私が奢るわ。そうしたら、帰りましょう」

「……」

 

AN-94は何も答えないが、拒否もしない。

M4A1はテキーラのショットを二人前頼む。

バーテンダーは無言でテキーラを置く。

 

「乾杯」

 

小さいグラスを合わせて、グイっと飲む。

流石にテキーラの強すぎるが効いたらしい。

バタリとテキーラはAN-94をノックアウトさせた。

M4A1は余裕そうな表情で、テーブルにお金を置くとAN-94を背負った。

 

基地に戻り部屋を探す。

もう他の人形たちは寝ているらしい。明かりがついてない。

 

「こう見ると、かわいい子なんだけどね……」

 

すうすうと寝息を立てているAN-94の息遣いが聞こえる。

AN-94の使っている部屋までたどり着く。

 

「このまま信用を勝ち取る方法もあるわよね……」

 

このまま、優しく使えば篭絡できるのではないか。

少しだけなら、言うことを聞いてくれるんじゃないか。

保安局に対するカウンターになるんじゃないか、という、ところまで考えて……自分が何をしようとしていたか、理解して自分の思考に吐き気を覚えた。

 

「何考えてるの私……最低じゃない」

 

私を助けてくれたユーリがそんなつもりで助けてくれたか?

違うはずだ。アレは、間違いなく彼の善意だ。

彼の誇れる部下になろうと、思いを抱いている私がそんな打算的な人形でいいのか?

 

ようやく部屋について、AN-94をベッドにおろして寝かせる。

結局、M4A1はAN-94をどうしていくのか決めかねたまま部屋を出ることにした。

 

「はああああ……」

 

部屋に戻ったM4A1はベッドの上に座ってうずくまる。

理由はいろいろあったがやっぱり、一番の理由はAN-94を篭絡しようとしたことに尽きるだろう。

 

「私……あのクソ人形AK-12と同じことをしようとしたなんて……」

 

あのAN-94が同じように裏切られたら、どれほどの衝撃と苦しみ、そして悲しみが襲い掛かるのだろうか?

身勝手ではあるが、その時のAN-94の気持ちを考えるだけでも、胸が張り裂けそうになる。

ユーリはどれほど苦しんで、怒って……そして、悲しんだのだろうか?

実行にこそ、移さなかったが……それを行おうとしただけでも、AK-12と同じ穴のムジナになりかねなかたことだけは忘れられないだろう。

 

AK-12……あなたもユーリたちを騙しているときに、同じような罪悪感を感じていたのかしら?

M4A1は見たことも、あったこともないAK-12のことを想像していたのだった。

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