午後6時
ソ連中央会議場
自分の端末に連絡が入る……相手はM4A1か。
今日の分が終わったにしても、時間が早すぎる……不安を覚えながら、ユーリは連絡を繋ぐ。
「M4、どうした?」
<トラブル発生です。指揮官、私達の護衛対象が襲撃を受けました>
────
───
午後10時
ソ連中央会議場
新ソ連のトップである書記長”アルドレオ・ヴォルフ”は今日の主要な会議を終えて、ソ連中央会議場の会議室を出るころだった。
分かってはいたが、書記長という自分を見る人間たちはあまり好意的なものではなかった。
特に老人の”同志”と20代近い若手の軍人からは侮蔑、頼りなさ、敵愾心を向けられていた。
なにせ、自分は繰り上がりの書記長だ。
前任者を殺害して成り上がったと思っているようだが、それは違う。
FSBが自分を殺そうと毒を入れた飲み物の配膳を間違えて、自分を殺す指示を出した間違えて書記長を殺してしまったのだ。
問題はその後、自分が書記長になったことの政策がみな気に入らないらしい。
書記長として行った政策は主に、西側との融和、被支配地域の人間たち選挙権の付与、交通の自由といった地位向上をという行為はプライドに支配された”ロシア人”にとっては気に食わないらしい。それは、自分がキルギス人であることも関係しているんだろう。
「書記長。”ダイヤモンド”です」
会議室は2階から、玄関のある1階を見下ろすと、メガネをかけて新聞を読んでいた青年が見える。
ちらりとこちらをみて、メガネの青年が笑う。
「書記長。階段を」
「うむ」
”合図だ”。
護衛も同じように気づいているらしい、エレベーターの予定を変更し、階段を使う。
階段に到着した途端、シークレットサービスの護衛たちは迷いなく懐の”Gsh-18”ハンドガンや、”SR-2M”サブマシンガンを取り出し。
全方向を守るひし形の陣形を取る。
「全員警戒。襲撃があるかもしれない」
「了解。書記長は何としても守ります」
厳重の護衛の下のもと地下駐車場に降りると、駐車場には車の上に日系人の少女とメガネの青年が座っていた。
「お久しぶりです。書記長」
声の下方向に護衛が銃を向ける。
青年がメガネを外し、独特の大きめの”ダイヤモンド”を見せる。
護衛が銃を降ろした。
メガネはレンズが入っておらず追跡遮断装置の偽装、ダイヤモンドは彼の身分証明証だった。
彼らは目の前の男は誰だか、理解したらしい。
「”ダイヤモンド”……ユーリか呼んだ時以来か」
「ええ。どうやら、あなたのお誘いに応じた甲斐があったようです」
護衛たちが車を起動させる間、ユーリとアキはバイクに乗って前衛の護衛になる。
「バンカー8まで移動します!すでに公聴会のメンバーや賛同する政治家が何人も襲撃されているので!」
<やはり動き出しか……子供たちはどうだ?心配だ>
「長女のノア様、そして長男のサンダーク様と奥様のシヴィッチ様は今朝、私の仲間とザスローン部隊がバンカー8に送り届けました。次男のレイオ君の方はの方は私の部下に対応させております」
<……そうか。あとは、レイオだけか>
そろそろレイオが学校の関係で残っていなければ、護衛官からの連絡が来てもいいはずだ。
襲撃されたかもしれない。……と考えるのは怖いが、その覚悟をしなければならないだろう。
だが、ユーリから厳しい追加の報告があった。
「申し訳にくいのですが……レイオ様も襲撃を受けました。護衛は全員死亡しました」
<なんという事だ……息子は、息子は無事か?」
「はい。部下がレイオ様をその場から離脱させることには成功し、現在はバンカー8に向かっているとのことです」
無線越しに胸のを撫で下ろす息遣いが聞こえる。
<不幸中の幸いか……しかし、こうも立て続けに命を狙わられるのはこれも*/-*/-の意思か?>
「いいえ。”あの方”からは何も……これはAK-12からの警告です」
書記長が名前を出した時、自動的にフィルターがかかる。
”あの方”がかかわるなら確実にあっちから連絡がある。
でも、このことについて連絡は全くない。
”あの方”が察知できないわけがないし……どうでもいいのか、それか、我々が難なく乗り越えられるほど小さい話題なのか、どう転んでもこれ以上大切なことに何一つ影響がないんだろう。
「脅威は事実ですので、すぐ行きましょう。我々も何度か襲撃を受けました。あなたもヴィンペルだけではなく、FSBや彼らに雇われた民間軍事会社にも狙われるかもしれません」
<相変わらず、私の敵は多いことだ>
「あなたのせいではありません。責任があるというなら、後ろめたい過去ができることも考えられなかった奴らの責任です」
<護衛隊長のマハイルだ、バンカー8にはグリューンルートで行く>
「了解です。では……」
そこまで話して、
さらに連絡が来た。
連絡先は”クルーガー”と書かれていた。
足は止めれらない、バイクを動かしながらユーリは電話を繋ぐ。
「はい」
<ユーリか。今いいか?まて……その騒音、乗り物で移動しているのか?>
「ええ。”個人的事情”で」
すこし含みのある言い方で誤魔化した。
自分の国のトップを護衛しているなんて、正直に話すことなんて流石にできません。
<公聴会のことだろう?>
クルーガーにも漏れていたか。
それか、知っている誰がクルーガーに情報を流したのか。
「……誰かがあなた達に”依頼”したんですね?」
<ああ。護衛と襲撃その両方の依頼が来ている>
クルーガーは内務省時代や、G&Kを立ち上げてから様々な違法事業にも手を出していた……ということは聞いている。
そして、その件でカーター将軍の手助けで色々もみ消してもらったことも……そのおかげで会社は大きく成長していたことを……
「クルーガーさん。あなたも襲撃の依頼をされた方、アナタを色々脅しているんでしょう?」
<……相変わらずお前は賢いな>
<グリューンルートを走行中メンバー全員に警告!周囲に数台の車両が接近している……武装しているぞ!!>
その頃、AN-94は……
「こっちへ」
「はい」
時間は午後10時、暗闇の道をAN-94と護衛対象が周りを警戒しながら進んでいた。
しばらく進んでいるといくつかの建物が見えた。
……あてもなく歩いていたら、街に戻ってしまったらしい。
ここは危険だ。AN-94が判断して引き返そうとした瞬間────
「────だっ!?やだぁっ!!」
「……今のは?」
護衛対象にも聞こえた叫び声、それは子供の叫び声だった。
どうやら、すぐ近くの建物から聞こえた。
「……あの」
「離れないで」
有無を言わさず、AN-94は護衛対象を背中に張り付かせた。
周りからガサガサと足音が聞こえる。
「……私達を探してるのか」
このままでは見つかる。
武器なんて持ってないなら、軍用人形のAN-94だって一捻りで破壊される。
戦うなんてできない、周りを見渡す。
あるのは叫び声が聞こえる建物だけ。
やり過ごすしかない。
「こっちへ。建物の中に」
AN-94らは裏口から建物に入り、ドアを閉めると身を隠す。
がさ…がさ……としばらく歩き続ける音が聞こえた。
そして、すぐ近くは怯えて、泣き叫ぶ声が響き渡る。
しばらく、隠れていると足音は遠く離れて行った。
「……」
AN-94は安堵の息を吐く。……だが
「────しらないっ!知らないって!!」
ガシャンとけたたましい音を立てながら激突が響きわたり、そして棚か何かが倒れるような転倒音が響き渡る。
「いやだっ!!たすけてっ!!やめっ────」
バンッ!!と弾けるような乾いた音が響き、そしてごとりと何かが崩れ落ち、金属の主張が激しい排出音が続く。
「(この音……"M1ガーランド"の排莢音……)」
冷静に分析していると、震えている護衛対象に気がつく。
……私は何をやっているんだ。
こんな状況で情けなく隠れていて、すぐ近くで泣き叫んでいる人間に何もできないという。
だが、生き残りたいなら臆病に隠れるしかない。
銃がないというだけで、ここまで惨めなものか。
自分は何のためにここにいるんだ。
今までも無力感を感じているAN-94ですら、今日以上に無力感を感じていた。
AN-94はそっと、見つからないよう細心の注意を払って外を見る。
酷い状況だ、みんな手を縛られて泣いているか殺されている。
何としても口を割らせたいのか痺れを切らしたガーランドを持った人形が園児ぐらいの女の子の髪を引っ張りあげる。
「────!!!────!!!」
子供が恐怖から嗚咽が混じった悲鳴ということしかわからない悲鳴が渡る。
それが、店内の人間達の恐怖を駆り立てた。
「ここに金髪の人形が来たんだ!顔のナリだけがいい、鉄の塊だ。ソイツがどこに行きそうか答えなさい!」
「────いたい!いたいよっ!?」
「ピーピー騒ぐな!!うっさい!!」
人形が鳴き声がうるさくイラついたのか、黙らせるために園児の髪を引っ張って壁に叩きつける。
だが、感情のコントロールを学んでいる段階の子供にそんなことが出来るわけない、さらに園児は泣いてそれが人形を怒らせてしまう。
「だからうるっさいんだよ!!チビっ!!」
ストックで園児が力づくで殴りつける。
発してはならない人間の発音と何かが砕け散った音がした。
そして、園児がピクピクと痙攣して……動かなくなった。
「なにやってんのっ!?どーすんの!?」
「このガキがよわっちいのが悪いのよ!バーカ!!」
彼女らにとっては今のことは料理の材料が無駄になったくらいのものでしかないらしい。
縛られている住民が助かる方法はひとつ、AN-94や護衛対象が何処にいるか教えること。
だが、嘘を言って誤魔化せばいいわけではない。
さっきそれをして、園児の父が蜂の巣にされて殺された。
そもそも、彼女らを見たことがある人間がこの中にはいない。
ただ、彼らは目の前で知り合いが無惨に殺されていくのを見ていることしかできない。
「────アイツら……!」
護衛対象が歯軋りを立てて、護衛対象が懐に入れたマカロフに手をかける。
思い出した、護衛対象がマカロフを持たせられたことを。
彼が撃とうとする前にAN-94がそのマカロフを取る。
「……そのマカロフを借りれますか?」
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
弾の数は6発。
敵は2人だ。
増援が来ることを考えて2発ずつで仕留められればいいが……
「……」
見つかってはならない。
今までの中でもっとも慎重に、誰にも気づかれないように接近する。
人形の1人はこっちからみて後ろを向き、もう1人が銃のトリガーを話して次の人間を指名する。
「(いまだ!!)」
AN-94はまず後ろの人形に発砲。
頭と胸を撃たれて、人工血液を吹き出しながら倒れる。
突然の事で硬直したもう1人に発砲。
1発が胸に当たり、もう1発が外れていたがバタリと倒れた。
「のっ……やろ……」
もう1人がゲパードPDWに銃を伸ばしている。
だが、それが届く前にAN-94はもう2発発砲してトドメを刺した。
「さあっ!いけっ!……早くっ!」
ダンボールを切る時に使うカッターナイフをレジから拾いあげた時、足元に転がっている死体を見てしまった。
その死体は、やはりというべきか……先週自分が世話になった店員だ。
声を上げたい気持ちをグッと堪え縄を切ると、出来るだけ小声で店の中に押し込まれていた住民を逃がす。
ぞろぞろと怯えながら住民達が逃げていく。
「……流石ですね、でも、なんでもっと早く撃たなかったんです?」
「────それは」
それは……それは、自分が武器があった忘れていたこと、そして……私が彼らの所業に怯えていたからだ。
「隠れてないで、先に撃ってれば死ななくていいやつもいたはずです」
「……ええ」
そうだ。
私がもっと早くマカロフを持っていたことを思い出していればもっと悲劇は回避できた。
「私のせいだ……」
そもそも私が、私が……街中で着る服装を弁えていれば、この店の世話になる事はなかった。
世話にさえならなければ、この店員はここの人形らに目をつけられる事はなかった。
自責の念を感じていたその時、
黒い影がAN-94達の前に現れた。
急いでマカロフを向けたが、影の正体をみてすぐに降ろした。
「M16か……敵だと思った。すまない」
「撃たないでくれて助かったよ」
それはAN-94が今サイドアームを持ってないからだ。
必要ない、それよりも余分にライフルの弾倉を持っていけばいいなんて考える私を叱りつけてやりたい。
「……もしかして弾切れか?」
「────いや、この通りだ」
AN-94は見るも無惨な形になった自分の銃を見せる。
これではスリングで吊り下げられた銃みたいななにかだ。
「で……護衛対象さんのピストル借りてぶっ倒したと?」
「そうだ、そして弾はもう残ってない」
「そうか」
M16A1が死体の束を見つめる。
「こんな小さいガキまで、コイツ……M4のお気に入りの店の店員だ」
「私のことを聞いてた。私がこの店に寄ってたことを知ってたんだ」
「……お前はこいつが死んだのは自分のせいと思ってんのか?ああ、その通りだよ」
M16A1はあっさりとAN-94のせいだと認めた。
だが、続きがある。
「だが、悪いのは1割くらいだ。コイツらかなりの荒くれ者でな関係あろうが無かろうが、ぶっ殺しまわる連中なんだよ」
M16A1が出したのは、単純で明快な答えだった。
あとは私自身があの状況に恐れを抱いていたことだ。
「まぁ、なんだ。とにかく……こっから出ようぜ。武器は?」
「……ない、護衛対象のマカロフでなんとかしてた。それも弾切れだ」
AN-94が人形の持っていたゲパードPDWを拾おうとした。
「人形の銃を拾っても無駄だ。烙印システムで撃てない、それに烙印システムで場所がバレる。ほら、私の貸してやるよ」
M16A1は腰のホルスターに入っていたスタッカートを手渡した。
1911の形をした、9ミリパラベラム弾を使用したハンドガンだ。
「すまない」
「いいんだ。改めて出発だ、まだアイツらは来ないだろう。そこかしこでぶっ放すが報告が来なくなったら確認してくるヤロウどもだからな」
「……彼女達のことをよく理解しているな」
「知ってるよ。こいつらはクメレンタの人形どもだ」
M16A1が忌々し気に残骸となった人形を見下ろす。
クメレンタ……前のAR小隊の指揮官か。
そして、その人形達はこうして無抵抗の人間を殺害してでも私達を炙り出そうとしている。
AR小隊はかつてその指揮官の元にいた。
「聞かれたくないのは承知しているが、お前も……その」
「……まぁな。死体を埋めたりした。殺しはやってないが、おんなじようなもんだな。だが、誰かのヘマを押し付けられてトカゲの尻尾さ」
「つまりだ、クビにされたんだ」歩きながらの会話でため息をつきながらM16A1は話している。
それにクビにされても、前からいた場所の悪評がなくなったわけではなく、今も肩身の狭い思いをしながら生きているらしい。
「偶然、ペルシカのところでまだ仕事を受けられたからなんとか食い繋いでいたが……これも、どでかい失敗してな。一回はチームはばらばらになっんだ。指揮官様に拾われなかったら今頃どうなってたか」
「感謝しているんだな」
「どうかね、アイツはM4を奪いかねんからな」
内心は認めたがらないが、M16A1もこれでも見受けをしてくれたユーリに感謝していた。
ペルシカで仕事をしていたという事実はあってもそれは仕事をもらえただけで、指揮官になってもらったわけではない。
見受けなんて、だれもしてくれず実質はぐれ人形でUMP45にすら馬鹿にされて、それを言い返すことが出来なかった。
「M4A1が指揮官のことで前向きになれるのは……良いことだと思う」
「あー……そういう意味じゃねえ」
「そしてM4A1もユーリ指揮官と誓約から恋人同士になるのを望んでいた。それは良いことだと思う、私は男女交際は積極的に行うべきと考えている」
「そういう意味で言ってたのかよ……」
このAN-94は堅物と思いきや、意外と融通の利く人形だった。
それにしても、M4A1が恋愛の話をAN-94を話していたときた。
……が、こんな血なまぐさい環境でこんなことを話している自分たちもまともではないことを理解するしかなかった。
「どうだ?」
「待ってな……ああ、こりゃあ無理だ。車はガッチリガードされてやがる」
やはりここから出てバンカー8に向かうにしても早い移動手段は用意しておきたい。
M16A1らはまだエンジンがかかっている車、ここにいるクメレンタの人形が使っている車を手配しようとしたが……読まれていたらしい。
車を使うパトロールには10人以上の人形でがっちり固められている。
こちらの一歩先を行っている。
「状況は最悪。笑えねぇぜ」
M16A1が状況の悪さに嘆いていたころ、ザザッと音を立てて無線から何かがノイズが聞こえた。
それに気が付いたM16A1が無線に
<”安物じゃ駄目だ。卵のパックは3つ”>
と話して、無線は切られた。
「コイツは無線の暗号だな」
そして、M16A1は無線の周波数を”2-0-0-8-3”に変えた。
M16A1らが勝っている卵は150ダイヤと200ダイヤのに種類がある。そして、卵は8個入り、そしてそれを3つ買う。
だから、200、8、3を横並びにすれは……"2-0-0-8-3"だ。
無線を調整するとすぐさまその無線に、すぐ連絡が入った。
<姉さん。すぐに無線の周波数を変えたってことはそっちでもトラブル?>
「そっちでもトラブルだと?ああ……まずいことになったというのはお前も把握しているんだな」
<クメレンタが動き出したことも分かっているわ>
「よくわかったな。中継するはずだった街は……最悪だ、あいつらに乗っ取られて今は問答無用で殺しまわってる。おまけにJS9もやられちまった……あっという間だった、すまん」
<残念なことだけどあなたが謝ることじゃないでしょう?……ちょっと、AR-15やめなさい。それと、あなたも……ちょっと切るわ>
しばらく、無線が切られた。
どうやら無線で聞いていたAR小隊らが怒りを爆発させているんだろう。
30秒して、すぐ無線がつながった。
<さっきはごめんなさい。人の性根は数か月で変わらないと思ってたけど……酷いことをするわね>
「ああ。奴らには絶対報いを与えてやる。だが、まずは生きてここから出ないとならん」
<話を続けましょう。ここから出られる手段はありそう?>
「……まぁ、厳しいな、特に車がダメだ。ガードされてやがる」
<分かった。移動手段はこっちで用意するわ、あとヘリは使わない方がいいわ、実はさっきグリフィンの使ってたヘリが地対空ミサイルに撃たれて墜落したの>
「……なんだって?」
もし自分たちがヘリを使う方法を選んでいたら打ち落とされていたかも知らないということか?
ユーリの野郎はそこまで見越してたってことか?
「……どうなってんだ?グリフィンは”規定”で一定以上の火力兵器なんて持てないはずだろう?テロリストやギャングどものを奪って使ったとしても攻めで使わんだろ?取っておきたいはずだ」
<クメレンタも誰が雇ったのか。結局はまだ何も分からない。どうすればいいかわからない以上、落ち着ける場所に逃げるしかないわ。時間以内にそっちに行く。敵も見つけづらい地元の人間でもマイナーな”地下道路”で合流しましょう。>
「OK。何とか頑張ってそっちに行ってみる」
<1時間でそっちに行く。幸運を>
無線が切られた。
とりあえず、生きて出られるかもしれない希望は見えた。
「ということだ。いいかい、兄さん」
「構いませんが……その」
たぶん護衛対象はこう言いたいんだろう。「ここの住民は見殺しですか?」と、そこはM16A1も無念と感じていることだ。
だが、同時にクメレンタのやり口を知っているM16A1は確信していた。
そうやって弱い人間に悲鳴を上げさせ、正義心をくすぐらせて殴りかかってくるのを網を張って待っていることを。
そうやってクメレンタの人形らの悪辣で外道な狩りで殺された連中を山のように見ていた。
そして、彼らが嘲笑されながら殺され行く様を何も抗議できずに自分たちは見ていることしかできなかった。
「奴らはわざとデカい声尾を上げさせて……待ち構えてやがるんだ。あいつらの思い通りに動くとお陀仏になってしまう」
「……」
「だが、約束する。絶対にアイツら全員を、殺すか牢屋にぶち込んでやる。捕まるかもしれないことになっても絶対にやり遂げる」
どうにか護衛対象は納得してくれたらしい。
自分のために殺される人間がいるということを理解しながら、だ。
言うのは簡単だ、だが……コレがどれだけ残酷な行為をしているのか思い知ることになった。
「すまんな、AN-94。ガキが殺されたのを見たばっかりなのに」
「……いいんだ。私は軍用人形だ、なにも感じないと思って、無茶な命令をすればいい」
AN-94は「どんな命令でも実行する」という態度をとる。
しかし、それは彼女なりの虚勢であるのは見え見えだ。
そういうところが軍用人形と違う所だろうとM16A1は内心苦笑いを浮かべる。
見つからないように、M16A1らは細心の注意を払って移動する。
AN-94は時折聞こえる悲鳴をなるべく聞かせないよう、護衛対象の耳をふさぎながら移動した。
「よし……こっちだ」
M16A1が駅の入り口らしきところを見つけるとそのまま下に降りた。
内心大丈夫とは思いつつクリアリングしながら、地下に降りると……そこには駅につながる通路ではなく車が走る車道と歩道が敷かれていた。
ここは地下通路だ。
「どうだ?こんなところに通路があるなんて以外だろ?」
「ああ、盲点だ」
使いにくさを隠しきれてないが逆にそれがこちらの救済になっている。
しばらくはM16達も一息つくことができた。
「30分経った。M4が来てくれるまでよーやく、半分ってところだ」
「M16……さん、でよかったでしょうか?」
「おう、よく覚えてたな」
「覚えてるも何も……先週からジロジロみてて友達があなたの事をストーカーと思ってましたよ」
「マジ?」
隠れていたつもりだったが、バレてたらしい。
AN-94も聞いてないふりをしていたが、実は自分もバレていたのでは?と思っていた。
「マジです。まさか、予備の護衛だったなんて……そうだ。言い忘れていたんですけれど、顔、大丈夫ですか?」
「……顔?」
護衛対象はM16A1の顔面を指差す。
「だって、ほら……顔の色が違うので火傷されたのかな?、と」
「……まさか」
M16A1は急いで懐のコンパクトを取り出して顔を見る。
そして、自分の状況を確認すると納得したように頷いた。
「ああコレは────」
そこまで言いかけたところで、ズドン!と爆発音が鳴り響く。
「な、なんだ!?」
「上の階だ。そこで誰かがトラップにかかった。音からして……PFM-1レペルストク地雷か?」
「PFM-1って……"花びら地雷"か!?禁止兵器じゃねぇか!!……クソッ!本当にクメレンタは誰から仕事を受けてるんだよ!?」
問題なのはそこだけではない。この上から爆発が聞こえたということはここに来る可能性が高くなる!
それをM16A1は即座に確信した。
「あれ?迷った?────あっ!お前!?」
「────ちくしょう!!」
本当に敵が来た。
しかも偶然ここに来て仲間を呼ぼうとしている。
M16A1が来訪者に向かって発砲するが、人形が素早く伏せて攻撃を凌がれた。
「マズイ!!」
絶対このタイミングで連絡を入れるに違いない。
AN-94がスタッカートを片手に全力で隠れている人形に向かう。
「見つけた!依頼の人間と護衛の人形、地下駐車場にいるっ!!現在位置────」
「やってくれたな!!」
AN-94が喉をつかんで壁に貼り付けると胸のコアに3発スタッカートの9ミリをくらわせる。
<獲物を見つけたぞ!63式の最後の座標に集結しろ!!>
人形は動かなくなったが、MDRの無線からのMDRの指示とともに慌ただしい足音が聞こえる。
AN-94達の死力を尽くした防衛戦があと少しで始まる。
────
───
「マズイっ……!弾切れだ!AN-94!」
「カバーする!」
次々人形がジリジリと追い詰めてくる。
それは例え撃たれて倒れて、死骸を拾い上げて盾にしてでも接近してくる。
「────クソッ!!また死骸を盾にして接近してるっ!」
流石に敵とはいえ、スレイブドールが使うような戦術を意思ある人形が躊躇いなく使っているのは常軌を逸している。
だが、近づかれているのは事実で、効果自体はあった。
「────カッ!?」
だからこそ、AN-94はその妨害を試みる。
盾にしようとしたPP-2000を持っていた人形の頭を撃ち抜き、頭から流れる血で血の海に沈めた。
「バカなやつがやられたぞ!?」
「誰がやられたんだ?」
「えーと、コイツ?名前なんだっけ?」
「じゃあ、どーでもいいじゃん!死んでろ間抜けっ!」
撃たれて動かなくなった人形にいう言葉罵倒である。
「な、仲間が死んだのに……あの態度か!?」
「アイツらに仲間意識なんて期待すんな。悪徳傭兵にそんなものは持ち合わせてねぇ」
とても人形同士での関係も良いようにおもえない、研修先もクメレンタにだけは回されなくて良かったと思う。
M16A1が新しい弾倉をライフルに装填し、ボルトリリースボタンを数回叩く。
「金髪に構うな!アイツの武器は貧弱だ!!」
「────なんだと?」
AN-94が思わず反応してしまった。
銃撃戦で拳銃には不安があるのは事実だ。
だが、M16A1がなけなしのハンドガンを貸してくれた。
それをアイツらは馬鹿にしている。
それが許せなかった。
「移動する!」
「させるか!」
AN-94が持っているスタッカートの狙いでは当てられないことを見越してダッシュで横切ろうとした人形の頭を1発で仕留めた。
ここで軍用人形の意地というのをみせてやる!!
「M16さん!コレ拾ったんですけど、使えます?」
AN-94らが倒した人形からマガジンを持ってきたらしい。
なんで無茶だ、しかしM16A1らにそんな贅沢を言える余裕はない。
「おお!すまん!」
<姉さん!!>
M4A1から通信が入る。
急いでいるような息遣い、こっちの状況がわかっているらしい。
「M4か!?どこにいる!!なんでもいいから、ここから抜け出したい!!」
<……まってて!今行く!>
その発言と共にクメレンタの人形達の後ろから凄まじい轟音が響き渡る。
それはAPC戦闘車両”ティーグル”と呼ばれる車が走行している音だ。
ティーグルは避けようとしない人形を弾き飛ばしながら、M16A1達の前で急ブレーキをかけた。
「乗って!!」
「おお!」
ティーグルに乗っていたのはM4A1だった。
ドアを叩いて、急いで乗るように促す。
促されるまま3人はティーグルの中に入り込んだ。
「お前のおかげで助かったぜ!M4!!」
素早く中に入ったM16A1はM4A1に賛辞を飛ばす。
「それだけじゃない、今日は助っ人を連れてきた」
護衛対象らを載せた車に向かって銃弾を撃ち込む人形達がまた弾き飛ばされた。
さらに2台のティーグルがやってきたのだ。
そして、追加の1台から1人の人形が身を乗り出してグレネードランチャーを発射、追撃をしようとした人形をもう一回吹き飛ばす。
「よし!今のうちに離脱するわよ!!」
追加の2台が時間を稼いでいる間にM4A1はアクセルを踏む。
────
───
「────あの無能ども!!」
その光景を見ていた、1人の身なりの良い男は苛立ちを抑えきれず、すぐ後ろにあった鉄格子の方に向かう。
「こうなれば……!」
「あっ!待ってください!それをつかったら────」
ビーッ!!と警告音が鳴り響き鉄格子が開かれる。
そして、鎖が引きちぎられる音と共に"それ"が解き放たれた。
「ちょっ、なんでこっち────」
「やや、違うっ!あっちだって────」
「イカれてやがっ────」
それはまず手始めに、鉄格子の近くにいた人形を破壊する。
そして、今まさにクメレンタの人形達から逃走しようとするM4A1らの乗る車列を補足する、唸り声のような稼働音上げて追跡していった。
「……今のはなんだ?」
AN-94が唸り声を捉える。
全員も感じ取ったようだ、まさかE.L.I.D化した怪物?
一同はそう思って警戒した……しかし、彼女らに現れたのはその予想とは遥かに違うものだった。
「────なっ、なんだありゃあ!?」
全員がM16A1と同じように愕然とした、窓から見えたのは巨大な機械のサイみたいな兵器がこちらに向かっているではないか。
<新手よ!!>
さらにトラックにPKMやRPL-20のLMGを搭載した、改造車がこちらを追ってくる。
だが、機械のサイがその追手を弾き飛ばしてしまう。
<仲間じゃ……なかった!!>
<あたりまえでしょ!?>
弾き飛ばしたサイを味方だと、別の車両に乗っていたM4SOPMODⅡが勘違いしたが、顔面の銃口から放たれたレーザーの攻撃で間違いを知らされる。
「なんにせよこのまんまじゃやばい!良い武器はないのか?」
「上の"Kord"が開いてる!」
上を見ると、車の天井の一部がハッチになっておりそこにKord重機関銃が設置されている。
「よし!私がいく!!」
AN-94が銃座に移動して、安全装置を解除し射撃準備を整える。
グリップを握って、トリガーを引き絞る。
「────撃つぞ!!」
爆音を立てながらkord重機関銃から12.7×108の大口径弾薬が発射される。
マズルブレーキを取り付けてもなお弾丸は散らばるが、機械のサイに命中する。
顔面に命中すると、拒絶するように左右に動いたり、スピードを低下させる。
<おおっ!?MGが効いてる!>
<コレならいけるんじゃない!?416先生!例のアレをお願いします!>
<……ふざけてる場合じゃないでしょ!!まぁ、やるけれど>
M4A1、そしてM4SOPMODⅡが登場していたのとは別の車両のハッチからHK416が現れる。
「404も来たのか!?」
<困った事情があってね!M4A1に免じて、今回だけよ!!>
猛スピードのチェイスを繰り広げているので声が掻き消されないよう大声をあげて、HK416はハッチを開ける時に持っていた武器を構える。
<後方確認よし……"RPG"発射!!>
RPG、ソ連時代から続く対戦車兵器だ。
その中でも携行性に優れた"RPG-22"をHK416は機械のサイめがけて発射。命中した。
サイはバランスを失い横転した。
<やったか!?>
「あっそれいっちゃ────」
誰かがそれを言ってしまい、M4A1が止めるのも間に合わず。
機械のサイは再起動。
再び唸りを上げる。
「────だから言っちゃいけなかったのに……」
だが、距離を大きく引き離したお陰でこっちを見失ったらしい。
「……まぁ、ひとまずは助かったわね。全員、このまま"バンカー8"に移動します。遅れてごめんなさい、M16姉さん」
「いんや……良いタイミングだった。だが、よく装甲車なんて持ってこれたな、M4」
「ええ。思ってた以上に困ったことになっていまして」
「困った事?それって、404小隊の連中が絡んだ事と関係あるのか?」
「ええ。そうです、それともう1人……」
M4A1が新しい通信チャンネルを開いた。
チャンネルに新しい人形が入ってくる。
<お久しぶりです。M16A1>
「お前……ROか!?」
チャンネルに入ってきた新しい人形……それは、AR小隊の5人目"RO635"だった。