たったひとつの願い   作:Jget

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誓い、誓約

「なんで……なんで、アンタが……!?」

「畜生……M249が」

 

敵味方問わず、死体を少し広い会議室に安置した。

そこで、自分たちは初めて誰を失って、撃ったのか理解した。

グリフィンとしてもこんな経験はまずやったことが無いのだろう、どの人形も怒りや恐怖、動揺の反応をしており。

落ち着いてはいられないらしい。

 

一方、ユーリやエゴールの部下たちは「こういうこともある」みたいな感じで、比較的落ち着いているようにも見える。

 

「64式……」

「きっと、内部に潜んでいた裏切り者にやられたのでしょう」

「んなことは分かってるよ」

「JS9もSV-98も、64式も……もう、いないのか。寂しくなるわね」

 

彼ら以外にもAR小隊の人形たちは疲れこそあれ、比較的落ち着いていた。

 

「いやあ、助かったわ。こっちは思ってたより、手ひどくやられたからねえ」

「……そのようだな」

 

今到着したばかりのカーター将軍の命令でユーリたちの救援にやってきた先遣隊がバンカーの惨状を見ていた。

 

「簡易展開型の大型バリケードをもっていかせるなんて、やっぱりあのおじいさんも気が利くわね」

「ああ、念の為に足の速い部隊にこのバリケードをもっていかせたんだ」

 

バリケードがバンカーの周りを囲うように建てられていく。

本来はE.L.I.Dという化け物が隔離壁を突破した際の応急処置で使われるものだが……今日のような籠城戦でも役に立とうとしていた。

 

「悪い知らせです」

 

さっき、カーター将軍の命令でやってきた兵士たちに状況の説明と、そしてそのカーター将軍と電話をしていたユーリが戻ってきた。

 

「……遅れそうだと?」

「はい。ヘリ部隊がジャミングを受けて、位置情報を見失いモスクワにたどり着けないようで。車両部隊もいくつかの山崩れに遭ってなかなか行けないようです」

「昔とは違い、ヘリコプター部隊はGPS便りだからな……」

 

敵が撤退をしたことから何となく察しがついていた。

文明の発展とともに、人間の記憶力が基本的なことを疎かにしていることをユーリは嘆く。

こういうことを備えて、足の速い部隊にバリケードを持っていかせたんだろう。

 

「指揮官」

「どうした?」

 

この後、どう凌ぐか話し合っていたところ……M4A1がやってきた。

 

「お伺いしたいことがあったんですけれど……」

「いや、大丈夫だ」

 

今は聞けそうにないと、いったん下がろうとしたのをユーリは引き留めた。

空気が少し、落ち着くまでは詰め込んだ話はしないつもりだった。

詰め込んだ話を一旦後にすることにして、見回りという名目で2人はバンカーの外に出る。

 

「指揮官、公聴会での件で聞きたいことがあります」

 

ユーリがため息を吐いた。

おおよそ、何の話題が出るか察しがついたのだろう。

AK-12からでも、聞いたんだろう。

 

「あなたが公聴会で何を話すのか、聞きました。私たちをもっと多く作る工場を建設するためにあなたの故郷は……」

「燃やされて、更地にされて、怒りと使命感の赴くまま目につく限り殺された」

「そう、ですね」

 

ユーリは誰もが悲惨と思う過去を淡々と羅列した。

まるで、「どうでもいい」と思い込もうとしているように。

でも、息遣いには「何か」が入り混じっていた。

 

「君がその件で悩んでいるっていうなら…その件で君が思い悩む必要なんてない」

「いえ……そうではなくて」

 

その件も含まれてはいる、けれど……

今は、それよりも聞いてもらいたい話がある。

 

「私も公聴会の席に立たせてもらいたいんです」

「……どういうことだ?」

 

ちょっとユーリは意外そうに反応した。

 

「私がクメレンタの命令で関わったいくつかの非合法の作戦についてです」

 

M4A1はこの話をする覚悟を決めた。

正直話したいことではなかった。

この事実を知ったらみんなに嫌われるから。

 

「グリフィンにもライバルがいることは指揮官も知っているでしょう?」

「……それなりには」

 

これだけデカい会社だ。

成功を妬むところは1つ2つじゃない。

 

「前はもっと酷くて、入札した土地にテロリストを送り込みあうことも平然とやっていました……私も、その送り込みに加担していました」

「そうか……」

 

どれだけ、戦争が大きくなろうが国家の急所を突く、テロリストというのは警戒しなければならない。

だが、それを政争の道具にして傷口を広げあう。

この話は調査で明らかになったことだ。

恐怖による命令とはいえ、手助けをしてその被害をみすみす許した。

M4A1はその事実を悔いている。

 

「どうして話してくれたんだ?」

「なぜ、でしょうね」

 

M4A1にもなんで、こんな事実を白状したのかうまく整理がつかない。

 

「全部話して、楽になりたかったのかもしれません。こんなこと、誰にもそれこそAR小隊にも話せなかったのに……あなたになら話せてしまう」

 

AR小隊にも話せない?

 

「君の家族は?」

「彼女たちの代わりに私が引き受けたんです」

 

あの時、クメレンタに言われたことはよく覚えている。「やりたくないなら、他の姉妹にやらせる。お前は他の使い捨ての姉妹に全部押し付けて、キレイごとを続ければいい」と。

 

「これをどう受け止めてもらうかは自由です」

 

M4A1はユーリにゆっくりと近づいて、ゆっくりとホルスターからFNX-45を引き抜いた。

撃たれるのかと思って、一瞬身構えたが…そのつもりはないらしい。

 

「あなたが私という人形にこれ以上近くにいて欲しくないと思うのでしたら、それも受け入れます。今返した、この銃で私を撃つのもいいと思います。それだけのことはしてきました」

 

M4A1はユーリにFNX-45を返した。

この銃のおかげで、何回も自分は窮地を脱せた…いわば、命綱みたいなものだ。

 

「ですが……もし、それでも私がそばにいてくれることを許してもらえるのなら……」

 

M4A1は思い悩んだ表情で、懐に隠し持っていた小さくて黒い箱を取り出すとゆっくりとその中身を見せた。

 

「私と誓約を結んではもらえないでしょうか?……私は、わたしはあなたを愛しています。ユーリ」

 

M4A1の見せたその箱の中身は誓約の指輪だった。

そう、私はユーリが好きだ。

あの時、私を助けてくれた日から、家族を探してくれたことから自分のことを受け入れてくれたあらゆる理由を含めて私は彼が好きになっていた。

そして、気が付けばこんな指輪まで買っていた。

 

「……」

 

まず、ユーリは箱だけ受け取った。

どうなるだろうか。そのまま捨てられることだって十分ある。

今、できうる限り表情、感情を抑えているけれど内心、すさまじいほど緊張をしていた。

……どんな結果になるかは分からない。

これは自分勝手な生き方をした人形が、自分勝手な戦いの理由を並べて、自分勝手に好きな人間に告白した。

そんな人形がもし、今後すべて思い通りにいかなかった……例えば、この誓約の願いを一方的に拒否されたとしてもそれは自分が自分勝手に生きたことの代償だと、そう思うしかない。

 

「受け取る前に1つ」

 

箱の指輪を見せながらユーリは確かめるように、見定めるように聞いてきた。

 

「君と俺の距離が近づいたことで、君は俺の知らないところたくさん知ることになるだろう。……君が嫌いになる一面もあるかもしれない、距離が近づいたとしても君に言えないところもあるかもしれない……」

 

ユーリの表情にはどことなく、不安が見える。

こんなこと、言って何がしたいんだろうか?

 

「それでも、俺のことを好きでいてくれるか?」

 

好きでいてくれるか?と聞いた。

 

「そんなの」

 

そんなの。決まっているでしょう?

M4A1は迷いなく答えた。

 

「当たり前です。私は、どんなあなたであっても。どんな、ことがあってもあなたを愛し続けます」

 

ユーリはホッとしたように、指輪を箱から引き抜いた。

さあ、雇い主と雇われの関係に終止符を打ちましょう。

 

「俺の都合で君を戦わせることだってあるかもしれないのに?」

「あなたの為に戦えるなら、光栄です。後戻りはしません」

 

ユーリはM4A1の薬指に指輪をゆっくりと嵌める。

そんなに、丁寧にするなんて……この人も内心ドキドキしているんだろうか?

 

「そんな男でいいのか」

「いいんです。私はそういう女ですので」

 

その誓約の言葉を聞いたとき、全ての世界に本当の色が塗られた気がした。

こんなに晴れやかになったのはいつぶりだろうか、嬉しさで言葉でなかったことなんてあっただろうか?

 

「現実なんですね。本当に…嬉しい……。指揮官、これからも、あなたのお傍に居させて下さい……」

 

────

───

──

 

「それで、遅れてくる援軍を待つために配置を変えたい……と」

「そうだ。エゴールたちと話すのはこの話になるだろうな。クメレンタはこういうのに機敏なのか?」

「ええ、一度失敗したときは特に。彼女が評価されているのは、2度同じ失敗をしない事ですから」

「じゃあ、奴に新記録をくれてやらないとな……」

 

しばらくの間、余韻に浸っていたが、仕事に戻ることにした。

クメレンタらの攻撃が完全に止まったわけじゃない。

 

「クメレンタのところにいたので、彼女のやり方は予想がつきます」

「クメレンタは次何をしてくる?」

「次はなりふり構わずやるかと」

「ライノを出したり、兵士を挽肉のように突撃させる以上になりふり構わず?」

「ええ。多分、迫撃砲を使ってくるでしょう」

 

迫撃砲!?ユーリにとっては予想の外の答えが現れた。

グリフィンのような民間軍事会社で持てないような対空砲は保安局から譲渡された予想がつくが……迫撃砲は保安局は持っていないはずだ。

 

「それが、後方支援で秘密裏に集積したかなりの量を隠し持っていまして……なぜ、今までバレなかったのか不思議でしたが、その時から保安局と組んでいたんですね」

 

ユーリは自分の見立ての甘さを呪った。

保安局が過度な民間軍事会社の増強を許さないと油断していた。

 

この件は即座に次の作戦会議で報告した。

流石にアキも迫撃砲が出てくるかもしれないとなると顔をしかめざる得ない。

簡単に持ち運びできるタイプでも、砲弾が当たれば建物をたやすく破壊できる。

しかも、M4A1曰く大きいタイプも持っているらしい。

 

「とりあえず、防御は新しい陣形に変えましたけれど……遊撃に出る部隊が必要です」

 

あくまで予想でしかないが、偵察もかねて迫撃砲を見つけ次第破壊できないとバンカーの外側をくりぬかれて人形たちを差し込まれてそれで終わりだ。

 

「思い通りにはならん、ということか」

「ええ」

「遊撃は誰にしますか?」

 

誰もが思っていたこと一番最初に口に出したのはアキだった。

 

「俺とアキのこのパワードスーツを交えた機動力なら……まあ、砲撃部隊を見つけ次第手早く倒せますが、問題はどこに砲撃部隊を置くか、ですね」

「幸いここは山間部だ。自然に守られているこのバンカーに確実に砲撃を当てたいなら本来の距離以上に接近する必要がある。だが、奴らも強引だが馬鹿ではない。守りは固めるだろう」

「無理やりにでもこじ開ける人形にしましょう……人形は」

 

「すみません。指揮官、お話し中に……」

 

突然、RO635が入ってきた。

 

「何かあったか?」

「その、クメレンタが……」

 

少し前

 

安置所になっていた、会議室の真ん中で大量に並べられた人形たちの残骸をM4A1は眺めていた。

 

「なんであなたが謝るの?」

「いや……この人形、あたしらの部隊の人形で…その、突然休んだ人形の代理で入ってきたんだ。こうなるって、思わなかったけど、それでもあたしらもミスだから…ええと」

「責任を感じる?」

「…ああ」

 

「あなたのせいじゃない。責任があるとしたら私よ……」

 

M4A1は64式短機関銃の残骸を見つめた。

 

「新人を手元から話しておくべきじゃなかった」

その時、メールが送られた。

M4A1がそのメールの差出人を見て、眉を細めた。

 

差出人は……クメレンタ

 

「ちっ……」

 

M4A1の舌打ちがかすかに駆け巡った。

 

「RO、これ見て」

 

M4A1がRO635を見つけて、メールを見せる。

 

「この人、今回の襲撃者ですよね!?なんで今更!?」

「さあね」

 

M4A1から見ても、クメレンタという人間はよくわからない。

肩同士ぶつかっただけで半殺しにしてくることもあれば、暴言を聞き流すような人だ。

何を考えているかなんて、わかったものじゃない。

 

ちなみにメールの内容は話をしよう。

これだけだった。

 

「指揮官たちを呼んで。望み薄だけど、交渉できるかもしれない」

 

そうして、指揮官たちを呼んでM4A1はクメレンタとの”話”をすることになった。

 

<M4A1。まさかお前が出てくれるとは思わなかったよ>

「お互い様よ、それで?あなたたちの指揮官はどこにいるわけ?」

 

クメレンタに向かって、M4A1は黒幕は誰だ?と聞いてみた。

 

「保安局の人間が近くにいるんでしょう?」

<なぜそう思う?>

「もう、あなたたちはみんな後がない、一か所に集まるだろうって。いろいろな人が教えてくれたわ」

<勘がいいようだな、誰が話した?>

 

近くにいる一同が、「喋っていい」とうなずいた。

 

「この国の書記長、クルーガー社長、エゴール大尉をここに送ったカーター将軍とそれと…ユーリよ。あなた達、たくさん悪いことをしてきたとはいえ、すごい人たちを敵に回したわね。…部隊を撤退させて、今ならあなたたちの家族までは巻き込まないで上げる」

 

後ろから話し声が聞こえる。

何を話させているか議論しているのだろうか?

 

<お前は誰の味方をしているのかわかっているのか?書記長はロシア人ではない、落ちこぼれ。クルーガーは老いぼれ、カーター将軍は戦争経済の旨味を欲しがる汚職軍人、そしてユーリは身元らからして信頼できないときた。そんな奴らにこの国を好き勝手させてみろ。人類の輝きは永遠に更新されない>

「その志が高そうな人たちが結局やったのが民間人に手を出すこと?」

<あいつらが民間人か?だが、私たちはそこの土地の利権を落札した。つまり、どう扱いをしようがこっちの自由だ。そのくらいの常識も分からないのか>

 

自分たちは管理する土地を買い取った。だから、その土地の人間を生かすも殺すも自由。

それが、平然と民間人に手を出す連中の常識だった。

 

「民間人を遊び感覚で撃ち殺すことが、悪いことなんて落ちこぼれでも、古い考えのおいぼれでも、汚職軍人でも、身元が信頼できない人間でも理解できる常識だと思いますが」

 

もっともらしいことを言っているつもりだろうけど、その実それは人殺しを責められたくない、自分は悪人じゃないっていう言い訳でしかない。

お金の話でも、買い取った土地だろうとむやみやたらに殺していたら買う側だけでなく売る側にもダメージが行き誰も管理を頼みたくないだろう。

 

「もう一度言います。部隊を撤退させなさい」

<そんなことはできない。ここであきらめれば死んだ人形の命が無駄になるからな。そのために手段や倫理観や正義感なんてあてにしてられるか?>

「あなたが無駄にしたくないのは、自分がかけた時間のコストだけでしょう?あなたは正義感や手段をアテにしてられないんじゃなくて、遠回りするのが面倒なだけ。誰が死のうが他人事のように見下しているのは散々付き合ってきたけど、もうウンザリよ」

<ハッ。やはり、お前のような綺麗ごとをいう人形はうんざりする。反吐が出る>

「綺麗ごと……」

 

お前が言うのかとM4A1は思った。

この部屋全員がそう思っているだろう。

クメレンタはやっぱり気でも狂っているらしい。

 

<それに、お前らに復讐したい連中も山ほどいる>

「AK-74?」

 

そうだ。とクメレンタは肯定した。

クメレンタのところにいた時もさんざん彼女の”楽しみ”の邪魔をしたし、今ではあいつの替えのきく部下も片っ端から始末した。

耳元で飛び回る蚊を見るように殺意を沸かせているに違いない。

 

<奴は飢えた猟犬だ。たかが人間と心細い数の人形の部隊で人間よりはるかに強力な戦術人形部隊に何分持つか、何ができるか期待させてもらおうじゃないか>

 

通信が終わった。

結局交渉らしい、交渉ではなくただ罵り合う宣戦布告がなされただけだった。

 

「アイツら、私たちをなめ腐っているようですね。隊長」

 

アキは不機嫌そうにユーリに話した。

まあ、不機嫌なのは他の人間の兵士たちもだし、「心細い」と表現された人形たちもいら立ちを感じていた。

 

「あいつらにこちらの底力を見せてあげるのは、もう少し後になるとして……逆探知は?」

「出来た」

 

AK-12は逆探知した位置を表示した。

 

「ミンスクか」

「ベラルーシの首都かよ。そこまでは追いつけないな」

「仮に追いついても、ベラルーシだろ?公聴会の事実から有罪になっても、のらりくらりしているさ」

「それでもモスクワには足を踏み入れなくなるさ、それより」

 

どん!!とすさまじい爆発音が鳴り響いた。

 

「え?なに!?」

「迫撃砲か!」

 

やっぱり使ったか。

M4A1の嫌な予想が当たってしまった。

幸い、今は適当に撃ちながら感覚をつかんでいる段階だ、山の地形に阻まれて聞こえるのは爆発音だけだ。

 

さらに敵の銃声も聞こえた。

人形たちも動き始めたらしい。

施設内は一気にあわただしくなった。

 

「とにかく、今決めたように動くか…!」

 

今度もユーリは前に出ることになっている。

DD MK18をもち、迎撃に出ようとしたとき、

 

「待て」

 

エゴールに呼び止められた。

 

「なんです!?」

「前々から返そうと思っていたのがあったのを思い出した」

 

エゴールはP226を差し出していた。

この拳銃は軍にいたころに、武器をすべてなくしたエゴールに貸したまま、帰ってこなかったものだ。

思っていたより、高い買い物でその時は少し傷ついた。

 

「どうも…」

 

ユーリはP226を受け取った。

 

「生きて帰れよ」

「ええ」

 

 

「迫撃砲が命中!」

「部隊前へ!」

「二度目はないことを思い知らせてやる!」

 

迫撃砲の爆発を確認した、クメレンタの人形やクルーガーに反発する指揮官の抱えるグリフィン人形たちがバンカーに向けて再度前進した。

前のようにライノの力押しに頼る人形部隊ではない。クルーガーに不満を持った他の指揮官たちが送り込んだ実力者の人形たちも投入した先鋭部隊だ。

 

「……まだバリケードが崩れていない?」

「対物ライフルを撃たせて確認しろ!」

 

人形の一人が対物ライフルを持っている人形に命令を出す。

対物ライフルを発報、すこしバリケードが揺れただけで大きい傷になっていない。

 

「だめです!対物ライフルでも!」

 

再度攻撃仕掛けてきた人形たちが、迫撃砲の砲弾の爆発を耐えるバリケードに悪戦苦闘していた。

PTRD対物ライフルでも、バリケードに出来たのは僅かな傷だ。

この程度を耐えられなければ、E.L.I.Dと渡り合うことなんてできないのだ。

 

さらにバリケードの隙間からOts-14らが一斉に射撃を開始する。

 

「くっ!こっちはダメか!?いったん、下がって」

 

負傷した人形を抱えようとした瞬間……その人形が爆発した。

 

「AK-74……?な、なにを?」

「交代するなんて許さない。2度目は無いことを、やつらに思い知らせろ……」

 

AK-74の下部に取り付けられていたグレネードランチャーが煙を吹いていた。

そして、彼女のライフルの銃口は今度は助けようとした人形に向いている。

 

「自分たちを先鋭と呼ぶだけの実力を見せてもらえるんだろう?」

 

AK-74はまともな戦術人形ではない。

臆病者は敵以上に無用と思う冷酷な人形だ。

 

「くっ……!ロケットランチャーを持ってるやつを!」

「慎重に動いて!ショットガンで守らせないと!」

「くそ!やむおえないわね!!」

 

3体ほどのショットガンの人形がシールドを構えながら進んでいく。

本当は、シールドの耐久性も考慮してバリケードを超えた後に動かしたかった。

だが、AK-74の後退者すら撃ってくる以上前に出すしかなかった。

 

「今度は盾持ち!?」

「それだけじゃない!ロケットランチャーを持ってる!」

「援護させているのか!」

 

防御側の必死の銃撃はバリケードに張り付こうとしている人形たちを必死に手持ちの弾丸を惜しみなく削りながら、敵にロケットを撃たせないように必死に銃撃をする。

 

「アッ!?カッ……!?」

「とても、近づくなんて……!?ぎゃっ!?」

 

その一方で、攻めこむ人形も必死になりながらバリケードを突破しようと攻め込む。

人形たちは内心「このバリケードを乗り越えるときには味方は尽きるだろうな」と思っていた。

次々と倒れていく味方に我慢をできなくなった。人形が行動を起こした。

 

「こちらコンテンダー!私がバリケードを突破します!」

 

コンテンダーには大量のC4や手りゅう弾と大量の爆弾を背負い、巻き付かせていた。

何をするかなんて、誰にでも予想できる。

 

「いいの!?」

「これ以上、味方を無駄死ににはできない!」

 

バリケードに突撃し、張り付くのと同時に起爆。

大量の爆弾による爆発が目の前にあったバリケードが音を立てて崩れ去る。

 

「あ、自爆して突破したみたい」

「エリート様にふさわしい派手な死にざまじゃないか」

 

AK-74の相方らしい人形が、バリケードの突破を確認し、AK-74は犠牲を嘲笑うように褒めたたえた。

 

「バリケード、突破されました!」

「自爆して!?」

 

外でバリケードの破壊を見た兵士が報告する。

少なからず、動揺が混じっている。

 

「(変わらないか…今も、昔も)」

 

いやな過去をユーリは思い出した。

第三次世界大戦の時の話だ。イタリアのウディネに強固な守りゆえに突破できない要塞があった。

それを立場の低い出身の兵士に自爆攻撃を繰り返し行わせ突破したかと思えば、そこにいるはずのイタリア軍はとっくに撤退し、それを知らない軍指揮官が要塞に入ったときに、仕掛けた爆弾が一斉に爆破。

大勢の兵士と共に生き埋めになるという支払った代価に何一つ割に合わない結果となったあの戦場のことを。

 

今、攻め込んでいる連中もウディネと同じ目にあうだろう。

 

「ごホッ!?ゴホッ……!あ、あいつら自爆なんて……」

「イかれてる……」

 

敵であるはずのこちら側でさえ、狂気の行動を疑った。

崩れたバリケードから人形が次々入ってくる。

 

「き、来た!?」

「ま、まずっ!?」

 

爆発で横になったままの人形たちに向って、突撃してきた人形たちが容赦なく銃撃を浴びせる。

突破した人形たちが次々となだれ込んでいく。

人形たちがあたりを確認しながら、進んでいく。

だが、さっき壁を守っていた人形を除けばバンカーに繋がるゲートに至るまで一切敵の姿が確認できない。

 

「(なんだ?やけに静かだ)」

 

一部の人形は静かすぎる今の状態に不気味さを覚える。

丁度人形たちが全員ゲートを超え、保安局の特殊部隊も足を踏み入れた。

 

「起爆」

 

保安局の特殊部隊が足を踏み入れた瞬間、一斉に円盤状の地雷が飛び上がった。

いくつかの人形と特殊部隊員はその正体に気が付き、素早く伏せた。

AK-74はすぐ隣にいた人形を盾にした。

しかし、その正体に気が付かなかった者たちは、首元までに飛び上がった地雷の爆発によって次々と頭を吹き飛ばされていく。

 

直線状にいた敵人形に発砲して、すぐ遮蔽に隠れる。

自分の後に続いて、外に出ようとした人形が1体やられた。

M4A1がこれ以上やらせないために、反撃したがすぐ遮蔽物に隠れてしまい弾丸が外れた。

 

「────待ち伏せだ!!」

 

誰かが言った。

そして、その通りに次々と銃弾が伏せていた人形に向って容赦なく降り注ぐ。

 

「左だ!左からくる!!」

 

さらに忍者のような素早い立体的な機動をしながら、2人が襲い掛かる。

 

「このクソやっ────!?」

 

銃を向けようとした人形の腕をハーケンで切り裂き、銃と手を切り離した後に、喉が切り飛ばした。

 

「連携が乱れた!一気に突破する!!」

「端っこはフォローしやすい。端っこから始末して!」

 

さらにAN-94とAK-12が後に続き、乱れた連携をさらに切り込んでいきリカバリーを効かなくさせる。

 

「今よ、パパ!行って!」

「迫撃砲はお願いします!!」

 

AK-12とAN-94が銃身を焼き尽くすことも厭わない全力射撃をユーリ達の道を作る。

蹴散らされた敵の道をユーリとアキは突っ切る。

 

「狙いは敵の迫撃砲だ!デカいのも小さいのも平らげるぞ!」

「了解です!!」

 

とにかく、できるだけ早く迫撃砲の元に辿り着く事を目的にして、2人は突っ込んでいく。

位置は砲撃した時の煙をドローンが捉えているからすぐに分かった。

 

 

────人形らバンカーに再び乗り込んでから2時間後

 

「────撃て撃て!更地にしてやれ!」

「────始めからこうすりゃあよかったんだ!!」

 

砲撃している人形らもヤケになりながら、迫撃砲の砲弾を飛ばしている。

バリケードやバンカーの上が瓦礫になっていくのを掃除しているゴミが片付いたかのように満足気に見つめていたが、その満足感すぐに潰える。

 

「見つけたっ!!これ以上はやらせない!!」

 

アキが迫撃砲の1つに切り込んだ。

 

「────は?」

「え!?まって────」

 

機動性を生かした、素早い動きでアキの銃撃がなぞるように人形達を始末する。そして、Brenの7.62ミリが運悪く砲弾に命中した。

すると、砲弾が銃弾によって発生した火花と火薬が反応して────

 

「うわっ……!?」

「砲弾────」

 

砲弾が爆発。

そして、近くに積まれていた砲弾にも引火し、次々と爆破近くにいた人形達は反応するまもなく爆発によって吹き飛ばされた。

 

「────やっば!?」

 

アキはハーケンを使ってすぐ近くの木に飛び乗り、爆発を回避した。

 

「ふぅ……危なかった。まぁ、これで3つ!!隊長!そっちは!?」

 

そのころ、ユーリも3つ目の迫撃砲を破壊して、4つ目に取り掛かっていた。

 

「こ、この!?虫みたいに────カッ!?」

 

既に腕のガントレットから飛び出るクライミング用のハーケンモジュールを飛ばしていた。

ハーケンの牽引に引っ張られるように木や地面を素早く滑りまわり、翻弄しながら攻撃する。

 

「な、なによ!?この、気持ち悪い動き────」

 

人形らの銃口が震えている。

銃撃戦の得意な戦術人形であっても知らない敵の動きというものは同様に近い反応を与えるらしい。

 

「貰った!」

 

対応が遅れた間にも、人形は次々数を減らしていく。

敵が残り2体になったところで手榴弾を投げ込み、砲弾に引火。

人形ごと纏めて始末した。

 

「これで4つ……!これで、小さいのは全部片付いた。あとは大きいのだけだな……合流は大きい迫撃砲の所でしよう」

<分かりました!!>

 

「迫撃砲の爆発が減ってる……」

「パパに感謝よ!あとはAK-74達を倒すわ!」

 

ゲート前では銃撃戦が続いていた。

もうゲートの上部分は砲撃で跡形もなくなっている。

残っているのは地下だけだ。防衛している人形達もボロボロの体を引き摺りながら必死に銃撃戦に興じていた。

 

「ああっ!もうっ!!」

 

AN-94が毒づいた、今持っている弾がなくなったのだ。

 

「AK-12!!」

「────私も今なくなった!!」

 

AK-12も弾切れになる。

AN-94は感情を爆発させたくなったが、どれだけ考えても悪いのは判断ミスした自分しか思いつかない。

 

「M4っ!!弾がない!助けてくれっ!!」

 

助けてくれ。

なんて情けない要求だろう、

 

<了解。私が前に出る。私が来たら、指定した場所に行きなさい。集積した装備を積んである。その間に補給すませて>

 

AN-94とAK-12はサイドアームを引き抜く。

MP443、ロシア軍時代から採用され続けている、息の長いハンドガンだ。

 

「ああ、もう!!全く当たらない!!」

「うるさい!ないよりマシよ!!」

 

拳銃の出来もさることながら、思い出したように使った程度の武器で命中なんて期待できない。

愚痴をいいながら、敵に当たってくれないハンドガンを牽制で発砲する。

こんな事になるなら、予備の弾薬をもっと持っていくかハンドガンの訓練はもっと真面目にやるべきだったと後悔する。

 

「来たわよ!!」

 

M4A1が来てくれた。

敵が今にも密着しそうな距離の敵を次々倒す。

 

「────補給を!!」

 

AN-94とAK-12はM4A1に従い、指定された集積所に下がっていく。

 

「おのれ!!」

「もしかして、SVK?アンタ……AK-74の腰巾着のしてたのね……」

 

苛立つ、AK-74の側近の声を聞いて、M4A1はそれが昔からAK-74の言う事を聞く事ばかりしていたSVKだと気がつき、呆れた気持ちになる。

そしてM4A1相手は不利だと思ったのか一旦、土嚢に後ろに下がった。

 

「新しい指揮官に溺れたか!?色気を使うとは、どこまでも落ちぶれる女だな!?えぇ!?」

「モテないあなたとは違うのよ」

「弱虫が!言うようになりやがって!!」

 

SVUはM4A1を挑発しながら弾丸を撃ってくる。

挑発して、身を乗り出した時にこちらを撃とうと言う魂胆らしい。

M4A1はSVUの射撃タイミングにずらした瞬間を狙って発砲したが、当たっていない。

 

「外れた。腐っても先鋭か……」

「M4!!」

 

弾込めが終わった404小隊の人形もきた。

 

「スナイパーに気をつけて!」

「うっ!?」

 

SVKの弾丸がG11の髪を攫う。数センチずれていたら、頭に当たっていただろう。

これ以上は撃たせない。M4A1はなるべく、短い連射で敵をけん制し敵を抑える。

 

「危なかったあ…怖いよお!」

「あんなヘタクソにおびえる必要はないわ」

「M4のいう通りよ。M4、ここの穴埋めは404が引き受けるわ。クルーガーがさらに増援を送り込んだのを確認したらしい、多分本隊よ」

 

じゃあ、AK-74のいる所に一点集中して突破しに来たか。

一番の捨て身の攻撃をしてきたらしい。

 

「私やAR小隊にそれを何とかしろって?」

「そうそ。側近のクズどもはこっちでキレイするから、あんたはここ一番のクズ、AK-74を叩き潰してきて」

「分かった、じゃあ、ここはお願い。過去の憂いもキレイにしてくるわ」

 

M4A1はSVKの人形部隊を404小隊に任せて、AK-74の方に向かう。

 

「逃がすか!死ね!」

「うわあ……どんだけ、M4は嫌われてたの」

 

G11に撃たれているのに気にも止めないSVKに引き気味だ。

 

「いやあ、あれはあいつ等がクズなだけだと思うよ?これは物理的に目を塞ぐしかないわね」

 

UMP45は腰に括り付けているスモークグレネードのピンを抜いた。

静かに漏れていく煙を確認し、スモークグレネードを投げつける。

 

「くそ!?なんだ、この煙!?見失った……!?ああ!クソが!」

 

UMP45の素早さは普通のサブマシンガン人形以上だ。

見失っている間に、UMP45が別のスモークを投げつける。

 

「見えないっ!?」

 

煙一面だ。

しかも、新しく飛んだスモークは人形のサーマル機能を使っても見えないと来た。

 

「こっちからよく見えてるわよ……」

「足出してるじゃん……」

 

HK416は特定の物質を照らすライトを当てながら、クッキリ映ったSVKをスコープにとらえた。

照らされている間にわずかに土嚢からはみ出たSVKの足をG11は撃った。

 

「うッ!?」

 

撃たれてSVKはのたうち回る。

今度は下半身が露わになる。

 

「ひどいミスね」

 

HK416は容赦なく、弾丸を足と腰に叩き込む。

 

「情け無用」

 

そして、煙に乗じて接近したUMP45がSVKの目の前まで接近してとどめを刺した。

 

 

合流したユーリとアキは、重迫撃砲に突き進む。

 

「見えたぞ!あれが最後の迫撃砲だ!」

「本当に重迫撃砲まで持っていたなんて」

 

ハーケンで高所を難なく素早く上昇しながら、敵のすぐ近くにまでやってきて奇襲を仕掛ける。

 

「ひっ!?もう来た!?」

「ワイヤーで壁をサルみたいに!?」

 

こう来るとは思っていなかったらしい。

それが命取りだ。

 

「死ね」

 

ユーリのMK18がこちらに気が付いた人形に向かって放たれる。

数体の人形がやられて、ユーリに気づいた人形が急いでこちらを狙う。

 

「と、飛び降りた!?」

 

撃たれるより先にユーリは崖から飛び降りる。

自殺ではない。

岩にハーケンを突き刺し、ターザンのように岸壁を添うように移動していただけだ。

 

「いりこんでいるわねえ!お邪魔するわ!!」

 

勘違いしている隙をつく。別の岸壁の下からアキがBrenを撃ちながら切り込んでいく。

統制がブレだした人形たちは連携を乱していく。

 

「よし!今だ!」

 

位置を変えたユーリも人形らの背後に飛び出して、背中から挟み込むように撃ちまくる。

一気に乱戦になった。

そして、ユーリとアキが身に纏うパワードスーツは戦ったらほぼ確実に乱戦になる大規模なE.L.I.D戦を想定したものだ。

襲う敵が異なっていたとしても、得意な環境に持っていけばモノの活かし様はある。

 

「こいつらを寄せ付けるな!」

「お前らが死ねば皆殺しにすれば!すべて終われる!」

 

「はあ…戯言ばっかり、もう飽きたわ。とっとと死んで」

 

アキは同じようにしか言っていない人形たちの反応に飽き飽きしていた。

 

「くそ!!」

「うっ……!?」

 

人形の一人が飛び掛かる。

このまま、崖に飛び降りて道ずれにしようとしているらしい。

 

「一緒に死ね!!」

 

勢いつけ、ユーリの腰をつかみながら崖に飛び降りた。

この高さから落ちたら、確かにユーリも死ぬ。

 

「断る!1人で死ね!!」

 

ユーリは足に力をいれ守っているに膝蹴りを叩き込む。

人形の顎が砕け散り、二つ割れた顎があらわになる。

 

「え…は?」

 

ユーリは何が起きたか把握できない人形を引きはがし、ハーケンと繋がっているワイヤー握った。

ハーケンが命綱になり、ユーリの落下が途中で緩やかになる。

 

「ううっ!?」

 

とはいえ、ハーケンに引っ張られ岸壁にぶつるのでユーリも痛みを覚えた。

岩壁に足をかけたころには、自分を突き落とした人形が地面に落ちた人形の破砕音と断末魔が小さく鳴り響いた。

 

「はあ。ふう……」

 

まだ、銃撃が鳴り響いている。

ユーリは素早く、岩壁を上りアキを援護した。

 

「かたづいたな…」

「死にぞこないのくせにちょろちょろと……!隊長が落ちたかと思いましたよ」

「すぐにハーケンを外さなくてよかった」

 

外していたら、落ちていただろう。

 

「よし、これで最後だ」

 

ユーリはいくつかのC4と途中で敵から拝借したテルミット爆薬を取り付けた。

岸壁をファストロープの要領で降りていく。

十分距離を取ったタイミングでC4の起動スイッチを押した。

 

ズドン!と凄まじい爆発が鳴り響き、砲弾を詰め込まれた重迫撃砲が内部から爆発し燃焼しながら引きちぎられた。

完全に破壊できたか?とユーリは不安になったが砲身が自分の目の前を通り過ぎたのをみて杞憂と理解した。

 

「よし…あとは…M4達を」

 

足元に大量の弾丸がまき散らされた。

けたたましい足音を立てながら、それが現れた。

 

「クソ…」

「思い出したように、来やがって…」

 

最初の攻勢で猛威を振るった鉄の獣”ライノ”が目の前に来ていたのだ。

 

「思っていたよりもマズイ!?」

 

M4A1は既に攻勢を仕掛けられていた戦場でAR小隊や正規軍と合流してにじる寄る敵たちを倒していた。

しぶとく寄ってくる敵にAR小隊はイラつく。

Ots-14から、とても強い戦術人形の報告がくる。そして、それはAK-74の部隊だとクルーガーからの連絡が来て端の高所を攻め落として、一気に敵を崩すつもりだと理解する。

囲まれないために、敵の端を抑えなくてはならないと。

 

<まだ、敵がにじり寄ってきている!!砲撃支援をしてくれ!!>

 

無線で兵士の叫び声が聞こえた。

 

「M4お姉ちゃん!最後のランチャーだよ!?」

「いいのよ、撃って!!」

 

ここを落とされた終わりだ。

M4A1はM4SOPMODⅡに惜しみなく最後のグレネードランチャーを撃たせた。

 

「あれだけ撃ったらなくなるのも当然よね。ねえ、SOPに補給させる!?」

「ダメ!もう、補給は出来ません!40ミリは迫撃砲で吹っ飛んだから!」

 

STAR-15は補給の相談をしたが、RO635に否定される。

 

「ドローンでも使って、着弾効果を確認するほどだったからな…敵さん、目の付け所は良いようだな」

 

一瞬だけ、積まれた土嚢の隙間から戦場を俯瞰する。

敵側の戦術人形たちが次々と突破しようと前進してくる。

 

<こちら、Ots-14!新たな敵の部隊に遭遇、迎撃を……>

<くっ!強い!こいつら、素早くて弾丸があたらない!>

<こいつらに、意識を取られちゃダメ!ほかにも……>

<一人やられた!?……しまった!?いつの間に……!?>

 

端を守っている人形たちから無線が聞こえてきたが、様子がおかしい。

 

「様子がおかしい」

「きっと敵の先鋭だろう。味方がそういう反応をしている」

 

M16A1は経験と勘から、それらしいものを予測した。

 

<AR小隊。いいか?>

「クルーガーさん」

 

クルーガーから、久しぶりの連絡が来た。

 

「ドローンが一瞬先ほどの通信にあった敵の部隊をとらえた。クメレンタのAK-74部隊だ」

ついに来たか。

AR小隊に緊張が走る。

 

<敵は端を突破して、高所の位置を狙っている。そこを取られたら、お前たちは鴨撃ちされる>

「そうならないために、私たちが何とかしろと?」

<かつての仲間だからできないか?>

「まさか」

 

M4A1はクルーガーの質問に否定した。

別に彼らの事に思い入れはない、むしろ清算できるいい機会でもある。

 

<なら頼んだぞ>

 

それで会話は終わった。

 

「M4、クルーガーはなんて?」

「AK-74の部隊が端を突破して、高所を撮ろうとしている。取られたら、好き放題撃たれてやられるから、私たちにそれを何とかしろって」

「なるほど、私達向きの任務じゃないか」

 

M16は腕を組み頷く。

 

「綺麗さっぱりさせしょう。あのクズ諸共」

 

STAR-15もやる気だ。

あっちから殺しにかかってきたとはいえ、味方を殺して動揺していた人形から、ひとつ成長したらしい。

 

「後輩たちの敵討ちにちょうどいい相手さ!」

 

JS9や64式、そしてSV-98の仇を取る為にM4SOPMODⅡも指鳴らしを始めた。

 

「私は……その、あなた達についていきますので」

 

RO635はとりあえずついていく事を優先したようだ。

 

「意見は纏まったわね。さあ行くわよ!」

 

意見のまとまったAR小隊がクルーガーに「了解」と応答して、AK-74の報告があった部隊のもとに到着する。

 

「手ひどくやられてるな」

 

M16のいう通り、報告した人形と思わしき人形の残骸はコアを徹底的に破壊されていた。

 

「やっぱり、このやり方はAK-74のやり方だよ」

 

これはAK-74の部隊がよくやる手口だ。

 

「いくつか、弾痕がある。…死体はない。生き残りに反撃されて、位置を変えたんでしょう」

「となると、さらに大きく横から回り込むつもりかしら?」

「反撃したと思わしき残骸も見当たりませんね…運が良ければ合流もできますよ」

 

状況からAK-74たちが何をするか、推測を立てる。

予想位置は取られてはならない高所へのルートにもつながっている。

 

「予想の通り進んでみましょう。会えなくても、どうせ最後はそこを通るから待ち伏せや追い打ちの場所にも使える」

 

予想した地点を警戒しながら進んでいると、渇いた銃声が何度も飛び交うのが聞こえた。

 

「アタリ?」

「分からないわ。AR-15はここで待ってて。私が指示したら、狙撃を」

「了解」

 

M4A1の指示でSTAR-15は近くの倒木にライフルを立てかける。

残りは小走りで銃声のする方向に向かう。

 

「くそ!こいつら!」

 

そこにはエゴールの部下と思わしき兵士数人と、血だらけ倒れている戦術人形Ots-14”グローザ”が遮蔽物に銃だけ出して銃を発砲している状態だった。

 

「仲間だ!!仲間!!」

 

M16A1は大声で叫び自分達を知らせる。

RO635とM4SOPMODⅡが敵の姿を捉えてそれを追うように移動しながら銃撃する。

 

「ユーリ中尉の部隊か……?そうか、クルーガー社長に頼まれてたな」

「はい、そうです」

「クオーツだ」

「M4A1です」

 

軽く挨拶を済ませて、敵の先鋭を抑える。

 

「気を付けて。あいつら、強いですよ」

「ああ、撃たれているのに反撃してくる。おかげで俺達も押し広げられるように後ろに追いやられ、気がつけばこんな端っこにいる。この地だらけの人形を担いでな」

 

ああ。だから、正規軍の兵士がここいたのか。

随分、兵士たちも敵の攻勢の影響を受けているらしい。

 

「最初は上手く抑えられたが……アイツらが来て、状況が突然悪くなった。弾がロクに当たらないんだ……アイツらはなんだ?」

 

M4A1は一瞬だけ、敵の姿を確認した。

チラリと見えた、白い髪の人形……あれはAK-74の髪の色とそっくりだ。

 

「クメレンタの切り札ってところでしょうね」

「クソが……じゃあ、あれがAK-74っていう人形の部隊か?よりによって先鋭とぶち当たるとはな……運がいいな、全く!」

 

クオーツの気持ちもよくわかる。

山は空気が変わりやすい、空気の温度差は弾道にも影響するし、なにより素早いのだ。兵士たちの弾丸は当たらず……

 

「とりあえず、これで血は止まったわ。あとは、下手に動かない事人形は人工血液がなくなっても死ぬんだから」

「くそ……仲間の仇のに……」

 

M4A1に応急処置を受けたOts-14は銃口だけ、敵の方に向けてじっとさせられていた。

血だらけの人形は復讐に燃えて追いかけたら待ち伏せされて返り討ち……そんなところだろう。

 

「(地形と高低差の温度差で弾道が……それに、素早い……!)」

「……認めたくないけど、やっぱり強いね」

 

それは今、撃ち合っているRO達も思い知っていた。

 

「アイツらが見晴らしの良いところを取ったら俺たちは終わりだぞ」

「その通りです」

 

ここを抑えたら、カーター将軍の援護まで持ちこたえて私たちの勝ち。取られたら、横から一気に片付けられて私たちの負け、そういう事だ。

 

「私たちが彼女らの注目を集めます。その間に、良い場所をとって相手を仕留めましょう」

「了解」

 

M4A1が敵を捉えると、ライフルの引き金を引き絞り弾丸をフルオートで牽制し動きを抑えながら移動する。

 

「M4を見つけたぞ!仕留めなさい!!」

 

M4A1に向って弾丸が飛んでくる。

あの声は……

 

「ドラグノフMA、ね」

 

ドラグノフMAはサブマシンガンタイプの人形の中でも、素早さと攻撃性能に特化した人形だ。

弾丸や拳は当たれば厄介だが、そもそも射撃はヘタクソ寄りで、しかもボディの耐久性は低い。

 

「一人は仕留めてやる……AR-15!”ストレス”!」

<ああ、アレね。いつでもいいわ>

 

M4A1はSTAR-15にある作戦の話を話し、彼女はそれをライフルのスコープでM4A1を確認すると承知する。

一度、M4A1は敵の銃声に合わせて立ち上がったりしゃがむ、そして…敵の銃声が止まった瞬間、いったん後ろに下がるフリをする。

 

「馬鹿ね!」

 

ドラグノフMAはそれがストレスのパニックによる行動だと判断、銃声をやめただけで安全だと油断した、M4A1に向って身を乗り出して確実に狙おうとした。

だが……

 

「うっ!?」

 

突然、自分の腹にすさまじい感覚が叩き込まれる。

M4A1はおとりで、そのおとりに引っかかった獲物をSTAR-15はとらえていた。

遠距離から狙っていたSTAR-15が勝利を確信したドラグノフMAを捉えて、5.56ミリを叩き込んだのだ。

 

「ま、まさか……」

「さよなら」

 

そして、撃たれて動けないドラグノフMAをM4A1が逆にヘッドショット。

ヘルメットもしていない人形の頭は風船のようにはじけた。

 

「ワンダウン!ドラグノフMAだ!見え見えのカウンターにやられるなんて!」

「死んでいろ、間抜け」

 

AK-74の部隊は倒れた先鋭を見下し、銃撃戦を続けた。

 

「死んだ仲間にもあんな態度ですか」

「いや、クメレンタの人形は大体こんなもんっ……くそっ!?ああ!!」

 

リロードの隙を突かれた。M4SOPMODⅡはグリップ事、撃たれた手を抑える。

手には穴が開き、人口出血が噴出している。

 

「こ、この……!あの、AKMSめ!当てやがって!!ふざけんな!」

「それでも、強い……」

 

どうやら、AKMSという人形がM4SOPMODⅡの手に銃弾を当てたらしい。

覚悟はしていたが、信頼し始めた仲間がうめき声をあげれば動揺もする。

RO635はAK-74らの部隊の強さを再確認した。

 

「STAR-15!!」

<わかってる!!>

 

STAR-15がけん制でM4SOPMODⅡが代わりの銃を引き抜くか応急処置を済ませるまで断続的なセミオート射撃でAK-74達を抑えた。

 

「おいおい、本当にけん制したね。AR小隊って本当……お人よし」

「そのようね。後は私が狙う」

 

AK-74がSTAR-15を銃声で位置をつかみ、発砲した。

 

「うっ!?あぐっ!?」

 

STAR-15に弾丸が命中した。当たったのは2発。1発は背中を切り裂いて足に跳弾して当たってしまった、2発目は自分のスコープ。

 

「やられた……」

 

足は切り裂かれて動くのも一苦労だ。

問題は、スコープをやられたことだ。これではロングレンジを狙えない。

 

「まずっ!?」

 

さらに弾丸が襲ってくる。

STAR-15は伏せてやり過ごそうとしたがさらに弾丸が当たり、STAR-15の頬と左腕を引き裂いた。

 

「小賢しく差し込んできた…!」

 

RO635も敵の実力の高さを痛感した。

だが、大丈夫。まだ、STAR-15も陽動のひとつであることはバレていない。

 

<よし、いい場所まで接近した。こっから、痛めつけてやる>

<クオーツだ。我々もいい位置を取った、いつでもいけるぞ>

 

M16A1と正規軍の兵士たち。

それぞれ、準備ができたと連絡が来た。

 

「了解!始めるわよ!」

 

M4A1の合図でAK-74部隊のすぐそこまで接近していたM16A1が飛び出して銃撃を始める。

 

「なんだと!?」

 

まさかここまで近くに来るなんて思っていなかったらしい。AKMSが一瞬だけ動揺していた。

 

「死ねクソが!!」

 

AKMSは一瞬だけM16A1にひるんだがすぐさま銃撃を開始。

 

「うおおおお!!!!」

 

M16A1は弾丸を何発も受けている状況で、唸り声をあげてさらに接近して突撃を続ける。

 

「な、なんだ!?どうして、何発も食らわせているのに……」

「ぶっ殺おす!!」

「来るな!?死ね!死ね!!」

「お前が先だ!!」

「や、あ、やめろ!痛い!?が、がっ!?ああああ!!??」

 

M16A1が真正面からAKMSに向かって、5.56ミリのフルオート射撃を叩き込んだ。

AKMSは撃たれながら、必死に反撃して引き金を引いていたがM16A1に押し切られるように胴体がばらばらになるまで銃弾を叩き込まれた。

 

「AKMSがやられた!!アイツ、撃たれても平然としてたわよ!」

「M16め!特殊戦術機動装甲を持ち出したな!?」

 

AK-74が舌打ちする。

特殊戦術機動装甲、これがM16A1のアーマーの名前だ。

 

「生存2!どうするのよ!?押し切られるわよ!AK-74!!」

「時間稼ぎだ!下がるわよ!あのアーマーは長く付けれないものだ!!」

 

鉄血工造陥落前の、通常の戦術人形や人間も使える遺物。

機動外骨格を統合したアーマーは使用者の生存率を著しく向上させるが、ユーザビリティを無視した設計は精神および肉体への負荷も増加させる。

 

「くっ…!」

 

M16A1が一度近くの岩に身を隠し、アーマーが与える激痛に膝をつく。

反応が遅れていなければ、M16A1は痛みに耐えきれなかったかもしれない。

歯を食いしばって、M16A1は立ち上がると再びAK-74の目の前に現れる。

 

「移動する!援護して!!」

「行け!!」

 

まず、AK-74と最後に生き残った戦術人形”AK-9”がフルオート射撃でM16A1めがけて発報。

 

「…っ」

 

弾丸を胴体に叩き込まれ、弾丸のエネルギーで無理やりM16A1の動きを押しとどめている間に、AK-74が後ろまで後退。

 

「いいぞ!来い!!」

 

今度はAK-74が援護し、後退するAK-9を銃撃でM16A1を押しとどめる。

そして、2人はまた代わる代わる交代する。

このままでは、逃げ切られてM16A1のスタミナが切れるかもしれない。

その場合は、M16A1のアーマーの正面以外の場所はさほど守れないことを知っているAK-74がサイドアタックを仕掛けてM16A1を失う。

……というのは、AR小隊だけで

 

<クオーツさん!敵はいま、そっちに向かっています!>

「よし!見えた!撃ちまくれ!」

 

先に後ろに下がろうとしたAK-9にM4A1の提示した位置に移動していた、兵士たちの銃撃によってハチの巣にされあっという間に地面に倒れて残骸と化した。

素早いAK-74達も待ち伏せに気が付くことが出来なかったら、翻弄することができない。

 

「な!?くそ!?」

 

AK-74は待ち伏せを察知し、別の方向に逃げようとした。

 

「本当に来るなんて!」

 

そこにも待ち受けていた、M4A1とRO635がAK-74に発報する。

AK-74は木々をうまく盾にしようとした。

 

「があっ!?」

 

だが、あまり現実はうまくいかない。M4A1の弾丸が、木々を貫通してAK-74のアーマーで守られていない脇を切り裂いた。

 

「クソが!!」

 

AK-74が必死になりながら、撃てる方向に向かってマガジンに入っている弾丸をばらまいた。

 

「かっ!?」

 

そのうちの一発がRO635の喉に命中した。

 

「RO!」

 

M4A1は急いで、ROの状態を確認する。

幸い、喉を弾丸がかすめただけらしい。

 

「AK-74を援護するのよ!」

「クソが!!」

 

AK-74はもともと攻防戦をしていたところまで逃げたらしい。

代替できた敵のエリート人形がこっちを撃ってくる!

 

数は4人…!RO635を守りながらではあきらめるしかない。どうせ、時間はこっちの見方だ。

だが、ここで取り逃すのか?という気持ちも同時に沸き上がりどうしようもない怒りに晒される。

 

「撃つな!味方だ!」

 

援軍の声。

その声の主が発報した銃弾が、エリートの一人の頭を撃ちぬいた。

驚いた隙に他の人形もあっという間に撃たれた。

 

「探した!M4!」

「AN-94!」

 

来たのはありがたい、AN-94だった。

 

「補給は済んだ?」

「掃除もね」

 

AN-94はうなずきながら、攻防戦はこちらが有利になっていることを伝える。

 

「敵はもう崩れだしている。迫撃砲は全て無くした、それに無謀な突撃のせいでまとまった隊の維持も困難になっている」

「指揮官とアキさん…!?本当に全部壊したの!?……凄いわ」

 

凄いとしかもう言えない。

しかも、遠くからいくつか地鳴りのような音が聞こえる。

 

「この音は戦車だ。カーター将軍の援軍が間に合ったようだ」

 

これでは、もう勝利じゃないか。

それを証明したかのようにばらばらに逃げている敵がやってきた。

押し返した味方の姿もちらほら見える。

 

「あれは……いいのか?」

「AK-74のこと?」

 

AN-94はうなずく。

必死の攻防戦は終わって、もう残党狩りの雰囲気だ。

 

「お前は他のみんなのわがままを聞いていたんだ。自分の都合を優先してもいいはず……命令違反じゃないし」

「フォローしてくれるって?」

「あたりまえだ。私たちは、友達……そうだろう?」

 

今更、AN-94は研修の時に話してくれたのを思い出した。

 

「そうだったわね」

 

M4A1はAN-94の目を見る。

 

「後のことはちょっとお任せするわ」

 

M4A1はまだ自分の隠し持っているスレイブ・モジュールが自分の手の中にあることを確認した。

そして、全身の出力を上げた。

 

M4A1は地面を勢いよく蹴り上げ、突風のような動きでAK-74を追いかけた。

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