「……わかった。それだけ分かれば十分だ。」
そう言ってユーリは通信を切った。
通信者はユーリは自分と同じように”あの方”に協力している”同僚”からで、M4A1について新しくわかった情報を教えてくれたのだ。
新しく分かったことは2つ。
1つ、
何年か前に、新ソ連保安局という治安機関が主導した蝶事件という作戦で、M4A1と同じAR小隊のメンバーである”M16A1”と言う人形が作戦に参加していた、ということ。
2つ、
グリフィンのとあるサイトのログに頻繁にM4A1やAR小隊に関するスレッドが乱立されていたこと。
法に触れないハッキングここまでなので、後はURLだけ送られて今度は法に触れられる自分で確認してほしいときた。
「さて、なにを書き込んでいたんだ……」
きっとAR小隊がどういう仕事をしているか、など憶測に過ぎない者だろうと思いつつ……
ユーリは受け取ったURLのコピーを利用して、サイトにアクセスした。
多少、読み込みに時間を掛けながらアクセスが完了し、そのサイトの全貌が分かってきた、URLをもとに表示されたのは……
「こいつは……裏サイトか」
グリフィンの裏サイトらしい。
しかも、時間つぶしの妄想を書き連ねたよくあるスレッドから、”仕事を変わってほしい”という依頼のスレッドまで多岐にわたる。
確かに彼がここから先にアクセスしたら、法に触れなくても機密情報の漏洩で捕まってしまう。
自分がグリフィンの関係者になっていてよかった。
これで、AR小隊の情報もそれなりに掴めるはずだ……
そうして、ユーリがサイトの検索欄に”AR小隊”と打ち込み、後は検索しようとしたタイミングで……
「指揮官様!M4A1さんの調子が戻りました!!」
勢いよく入ってきたカリーナに驚いてしまい、やましいこともないのにコンソールを閉じてしまった。
「?どうかしました?指揮官様?」
「え?いや……何でもないよ、それよりM4A1に会いに行こう」
基地の医務室(メンテナンスルームともいうらしい)に足を運び、扉をノックする。
「指揮官です。入るよ?」
一言、断りを入れてユーリがM4A1のいるメンテナンスルームに入った。
自分の姿を見た、M4A1はぴくっ……と驚いたような動きをして、すぐに物静かそうな少女の雰囲気に切り替わった。
「修復が終わったって聞いてね。様子を見に来たんだ」
「そ、そうですか……」
警戒されているのか、M4A1は言葉を選んでいるようにも見える。
「そこまでかしこまらなくてもいい。実は私はここにきて、2週間もたってない新人なんだ。むしろ、君の方が先輩なのかもな……」
「はあ……?」
和ませようと話題を振ってみたが、受けが悪かったらしい。
「悪い」
「い、いえ……」
「ともあれ、治ってよかった。随分疲労が重なったらしくて、オーバーホールする必要があったからね」
「やって、くれたん、ですか?」
逆に直してくれた方にM4A1は驚いているらしい。
「なんで、やらないと思ったんだ……」
M4A1は押し黙ってしまった。
なにか、言えないことがあるんだろうか……。
「指揮官は、あの時了承してくれたことの意味を分かっていますか?」
「そういえば、助けてほしいって話を聞いたんだが……あれは、かくまってほしいって意味じゃないのか?なら、どういう意味なんだ?」
M4A1に”助けてほしい”そう言われた。
始めは、鉄血に追われたからかくまってほしいと意味だったと思うが、
「そうですね……それとは、別に私たちは、助けを求めているんです。AR小隊が……指揮官、あなたはAR小隊にかかわる覚悟がありますか?」
……数日後
「これが今回拾ってきたパーツです」
<おぉー…ご苦労様…>
M4A1の救出任務を終えて数日後、
ユーリたちは、普段の業務に付随して今回の作戦で倒された鉄血のパーツの回収をペルシカの依頼をする羽目になった。
もちろん、残業代は出ない。
覚悟というのは、こういう意味だったのか。
しかも、正式に抗議しようとしたら、鉄血の偽装コードの件で脅してきた。
ペルシカという人に恩義を感じる感情はないらしい、仕方なく引き受ける事にした。
「それで……次の位置の回収が終わったら終わりなんですよね?」
コンソールを打ちながらペルシカさんに尋ねる、
<うん、そう>
やっと、面倒なパーツ集めもやっと終わりそうだ……
それにしてもペルシカさんは鉄血のパーツを使って何をしたいのやら……
「そういえば…」
<…?どうしたの…?>
「M4A1とは…まだ、話されていない…と、聞きましたが」
<あ…うん、それ…ね>
寝ぼけ眼で聞いていたペルシカさんの声のトーンがいつも以上に小さくなっていた…雇い主として、負い目を感じているのだろう。
<いつか、ちゃんと話す事が出来れば、話すよ…うん>
「…そうですか」
<とりあえず…これが終わったら、多分君に休暇が入るから…悪い話じゃないとおもうんだ…>
「ええ。”良い話”なんでしょうね。それよりも、早くわだかまりが解ければなぁ…と感じただけです。それでは」
<うん、パーツ待ってるよ>
通信終了
「時間は、19時か…回収は明日…かな」
そう言って明日の予定を考えながら、私は通信室を後にした。
食堂に足を運ぶ。
やっと利用できた、この基地に来てから2日もしない内にエリート人形と戦うのだから、使う暇がなかった。
「いやー…空いてる空いてる」
基地にある食堂に足を運んでみたが相変わらず空きっぷりだ、それも仕方ない。
軍基地内で食事造りする人間や整備員などは大体本部に固まっていて、前線の基地なんかは大体機械が代行している。
その為、この基地にいる人員は私、カリーナ、M4A1この3人だけだ…
こら、そこ寂しいとかいうな、22歳のおじさんも同年代の仲間が居なくて、悲しいんだぞ。
『ご注文は?』
IDカードを通すと受付の機械のタブレットにメニューが表示されてた。
「オススメはなんだい?」
正直、種類が多いのでココはオススメから始めようと思う。
『ユーリ指揮官様の健康状態から、推測して…こちらの体力増強セットを推奨します』
オススメされたメニューからは、肉料理の詰め合わせがこれでもかと並んでいた。
…カロリー大丈夫か?
「じゃあそれで」
『かしこまりました、それでは5分程おまちください…』
あまりの量に驚きつつもそのメニューを注文してみる…
5分後
『お待たせ致しました』
「うわぁ…」
予想していた通りの凄まじい量だ…食いきれるか…?
そう思いながらフォークとナイフで肉を切り刻み口に運んだ
「ん…美味いな。」
合成の味とは言え肉の味がしっかりする…流石、大手の企業といったところか
そう一人で感心していると
「…相席、よろしいでしょうか?」
「ん?あ、M4A1か!どうぞどうぞ」
「失礼します…」
おずおずと声を掛けてきた相手はM4A1だった…。
ようやく、そっちから話をしてくれたらしい。
M4A1は私に促されるままに席に座り、テーブルに食事が載せられていたプレートを乗せた。
「…肉盛り、選んだんですか?」
「あぁ…オススメを選んだら、これが出てきた…多くないか?この量?」
「そうですね…」
会話が終わり、2人はフォークを進めた彼女が食べているのは一般的より、少し水気が多そうなランチセットだった…。
これは、会話の話題に使えるか…?
「あ、そうだ。M4って、スタンダードな食事を選ぶんだね、私はまだ新人だからさ…今度M4と同じメニュー選んでもいいかな?」
同じメニューを食べて感想を述べる…それでM4がどんなのを好きか理解する…
彼女は滅多に自分と話そうとしない…警戒されているのだろうか…いや、でも、相席を頼んでいるのなら、自分と話をしたいからなのでは無いだろうか…
「指揮官?」
「あ、何?」
「いえ…さっきのメニューの話です…」
いけない聞きそびれていた…
「さっきのメニューですが…多分、指揮官と私は同じメニューは選べませんよ?そういう決まりなんです…」
「は?」
選べない?一体、どういう事だろうか?
「そのままの意味です、本来戦術人形は人間と同じメニュー"上質な"メニューは選べないんです。」
「…」
成る程…人形に与える食事は最低限でいい…というのがグリフィンの企業理念か…
「そうかい…そうだ、M4A1?」
「…?」
こちらの問いかけにM4A1首をかしげる
「この肉料理を少し食べてくれないかい?」
「…私は人形ですよ?人間と同じ食事を食べるのはおこがましいはずです…」
「でも、この量じゃ君も栄養不足になるだろう?それに、私もこの量は多すぎると思うんだ…私を助けるという解釈で」
そう、あくまでお願い…本当は善意で食べさせてあげたいがそれは本人の意思で拒否しようするだろう…
「…分かりました」
そう言って、私はなるべく大き過ぎず、かといって小さ過ぎないハンバーグと唐揚げをM4A1のお皿に盛った、なるべく丁寧に。
そして、おずおずとハンバーグを綺麗に切り分けて口に運んだ
「…!…美味しい。」
M4A1の顔が綻んだ…よかった、彼女の笑顔は初めて見た。
やっぱり、この子は笑顔が似合うらしい。
「喜んでくれてよかったよ」
「…でも、よろしいのですか?…人形が人間の為に出された料理を食べて?」
さっきの笑顔がフッと消えてしょんぼりしたように、まるで申し訳ないと謝るような顔で私に聞いてきた。
「心配するな、そんな顔しなくてもいいんだよ?そんな事で起こったりなんかしないからさ…それに、君の可愛い笑顔が見れて嬉しかったし」
「…可愛いですか?人形の私が?」
どうも自分が可愛い顔している事に対して自覚がないらしい…ちょっと面食らった顔をしている。
「あぁ、それとさ。ひとつ提案なんだけど」
「はい?」
提案と聞いて食事の手を止めこちらの目を見てきた、食べながらでいいのに、真面目だなぁ…
「M4A1という名前なんだけどさ…。少し呼びづらくて…M4って呼んでもいいかな?」
「はい、それで構いません…お好きに呼んでください」
嫌がると、思ったんだけどなぁ…まぁ、それで良いならこっちも良いのだが…
その後は、何か喋るでもなく、黙々と食事が続いて終わった…コミュケーションって、やっぱり難しい…
「あの…本当に良かったんですか?」
食事が終わりトレーを元の場所に戻すとM4が私に語りかけてきた。
恐らく食事のことだろう
「気にしなくていいさ、それよりも、ペルシカさんともう話をしたのかい?」
「いえ…特に話していません」
やっぱり話していなかったか…
「M4、提案があるんだけど…」
「提案…ですか?」
「あぁ…それはね…」
勇気が要るのも分かるがこの場合は一度キッチリ話をつけておいた方が良いだろう。
翌日……
「どんなものです?これで粗方集め終わりましたよ?」
<わおっ!指揮官、こんなに…>
集め終わったパーツを送り届けの確認を済ませて、こちらから報告を入れた。
するとペルシカさんは予想以上の量にびっくりしていたようだった…
だが、本当に驚くのはここからだ。
「…こんなに何ですか?ペルシカさん」
<あっ!え…M4!>
突然、モニター移ってきたM4の姿を見てびっくりしている
昨日
「それはね……今度、集めたパーツを送り届ける任務があるんだけど…その時に君も一緒にいて欲しいんだ…」
「一緒に…ですか?」
「あぁ、ペルシカさんとのわだかまりも溶けるていないと思うしなかなか良い機会だと思わないかい?」
「…はい、了解しました。」
というわけでM4は報告の席に一緒いて貰い、ペルシカさんと話してみる事を提案したのだ。
「指揮官に話を聞いたので、そのまま来てみました。」
<ごめんね…私の命令のせいで、あなたたちが…>
悲しそうな表情でペルシカはM4に謝罪した…この人は負い目を感じていたのだろう。
「そんな風にに言わないでください。私達は人形として、雇い主の命令に従っただけです。」
しかし、雇い主がペルシカさんなら尚更、私がM4の指揮官をしているのは変なんじゃないか?
<うん…とりあえず、元気そうでよかった。パチパチパチ>
「ええ、指揮官もよくしてくれますし。引き続きグリフィンのために頑張りますね」
…グリフィンの為に…か。
<それから…M4A1、また会えて…嬉しいわ…>
「…ふふっ、ええ。私もですよ、ペルシカさん。」
どうやら、両者のわだかまりは溶けたようだ。
でも、なんだろうか……M4A1は何かを隠しているように見えた。
<それと、指揮官…ありがとね、それにしても私が鉄血のパーツ集めをしていた理由…気になるでしょう?>
「ま、まぁ…」
教えてくれるよりも抗議したいことがある。
まぁ、教えてくれるなら越したことはないが…
<何でもないの。ただ鉄血と、グリフィンの人形を…比較した…実験よ。その結果…双方に使われている技術は…ほとんど…違ってて…>
それは、製造元が違うのだから技術も特許もあるだろうし違うもので出来ていて当たり前だろう…
<鉄血は…一体どうやって作られたのか…AR小隊が第3セーフハウスで見つけた計画と、どんな関係が…あ、何でもないわ。ただの独り言…>
「そうでしたか」
気になる言葉こそ、あるがここはあえて聞いていないことにしよう。
<ともかく、短い間だったけどありがとう、指揮官。M4の面倒をよく見てやってね。後"他の人形"のことも、お願いね…それじゃ、お先に失礼、指揮官>
あ、そうだ!いつになっても人形が補充出来ないことを問いたださなければ…
「えっ?ダメです!!ペルシカさん!?ちょ!待って!!…あ、切りやがった!」
質問するより、前に通信を切られてしまった…どうするんだ、私の人形は…。
「はあ……」
自室に戻って、コンソールを起動する。
コンソールを動かして、人形が来るのか来ないのか状況をメールで確認しても進展がない。
やっぱり、この話は流れてしまったんだな。
なんて、思っていた時にふと、消し忘れのサイトがあることに気が付く。
「ああ、そういえば開いたままだったな」
せっかくだ。
改めてのぞいてみることにしよう。
そうして、検索結果から出力されたスレッドを興味本位で覗いてみると。
「……な、なんだ。これは……」
2202:AR小隊の奴、またいい装備をもらってるらしい。私たちは少ない資源をどうにか切り詰めて運用しているのに、あいつらは無制限でもらえるらしい。うらやましい限りだ。
2024:>2022 あいつ等は、いくらでもI.O.Pから資源をとれるらしい。それこそ、本来我々がもらえるはずの資源をくすねてまでな
2032:きっと、あいつらは資源をもらえることを当たり前に思っているんだろうね。それこそ、私たちのものを勝手に使ってもなんとも思ってないよ
2042:あいつ等、きっと自分を中心に世界が動いているって思っているんだよ。
2055:ホント、サイテー。死ねばいいのに
2066:そんなみんなにいいニュース。AR小隊の任務中に必要な爆弾の信管を抜いてやった。あいつ等、とっても慌てて見てて面白かったー!
2077:2066>それいいね。私は口径の違う弾丸を入れてみよう。銃が壊れたら、あいつらも死ぬよ。
2088:名誉の戦死だね!
2101:あいつら、銃を壊したのに生きて帰ってきやがった。化け物だ。あいつ等、人形じゃない。
2110:そうか、あいつ等。魔女なんだ。
2134:魔女だから、I.O.Pをだませるんだ。
2233:魔女を追い出さないと。表立って動いたら、I.O.Pは操られているから始末されそうだし……
2238:なら、ゆっくり殺していくんだ。ばれないように、バレても保険をかけてごまかせるように、何度も何度も……
24687:みんな聞いた!?魔女が消えたって。任務が失敗するように嫌がらせしたかいがあったね!
24700:やった、やった!
スレッドには、いやこのスレッドだけじゃないAR小隊に関するスレッドすべてがAR小隊を恨んでいたりどうすれば、殺せるのかという書き込みであふれていた。
みんな、AR小隊……そして、特にM4A1を”魔女”と罵っていた。
「どうして、恨まれているかわからないがあの子……どうして、あそこまで嫌われているんだ」
「指揮官」
どこから、ともなく声を掛けられてギョッとする。
声の主は、おずおずと扉を開いていたM4A1だった。
「え、えっと……M4?」
「その様子だと……知ってしまったんですね?」
知ってしまった。
たぶん、それは……この、今見ているスレッドのことだろう。
でも、彼女の顔はとても自分を始末しているように見えなくて、むしろとても傷ついているように見えた。
「……お話することがあります」
そうして、M4A1はぽつぽつと自分のことを語りだした。
AR小隊のエリート部隊として、I.O.Pの期待を背負ってグリフィンに入ったM4A1達は、その期待からペルシカが予算や資産を優遇するようになって、逆にグリフィンに恨まれるようになった。
そして、嫌がらせをされるようになり……だんだん、それがエスカレートし、今ではグリフィンの大半が自分のことをよく理解しないまま、”魔女”と憎まれている事を。
「それでも、私はみんなと仲良くしたくて……!優しくしても、心が弱いって、見下されて……それなら、まだいいんです。騙そうとしているって、余計相手が起こって、私だけが叱られて……!」
話しているうちに限界が来たのか、M4A1は顔を覆って泣き出してしまった。
「私は……とある作戦で逃亡せざる得ない状況になっていた時から、ずっと……助けを求めていたんです。でも、だれも反応してくれなくて……2か月たって、もう誰も味方してくれる人はいないんだって、そう思って……!」
あの時、最初に会って逃げ出したのは……
自分を鉄血勘違いしたんじゃなくて……みんな、自分を殺そうとしていると思っていたから逃げてしまったんだ。
「だから……私は、あなたが助けてくれた時……初めて、味方が、助けてくれる人が出来たって思ったんです。でも、私のことを知られてしまった……!もう、だれも……!私の味方になってくれるわけ……!」
「だから、あの時……助けてくださいって話したのか」
そういうことか。
だれも、助けてもらえない状況が、そうでもないかもしれない……そう思って、彼女は自分に藁をもつかむ思いで縋ったのか。
「M4」
ユーリは、今まで受けていたM4A1に対する仕打ちを知ったことで言いようのない感情であることを悟られないように、出来るだけ優しい声色になるように抑えた。
「俺は、君の助けてくださいという言葉に助けるって言ったよね。アレは取り下げない、大丈夫だ。だって、俺もグリフィンに入ってまだ一度も人形を配属させてもらってないっていう、嫌がらせを受けている指揮官なんだ」
「は?」
「す、すまない。回りくどかったな、つまり……こういう事だ。M4、一緒にAR小隊を探そう。M4A1、良ければ私の初めての部下になってください」
M4は、その言葉を聞いて固まった。
嬉しかったんだろうか?それとも聞き間違いと思ったのだろか?
どんな言葉だったにせよ、彼女は涙ぐんで私が差し出した手を改めてつかんだ。
「はい……魔女といわれている私ですが、こんな私でもいいのなら……!あなたの為に働かせてください……!」
お互い複雑な身の上であるが、こうしてユーリ・フレーヴェン指揮官は初めてグリフィンの指揮官になって初めての部下、戦術人形”M4A1”を向かい入れることが出来たのだった。
「落ち着いたところで、もう一度確認していいかな?君の姉妹たちのAR小隊は4人で、見当たらないのは3人……」
「この件は一緒に対応しよう。捜索にも協力する。君の力になるよ」
「…!…ありがとう、ございます…本当に、ありがとうございます。」
それを聞くとM4感謝してこちらに頭を下げた…
「でも、今日は夜も遅いし、捜索は明日からにしよう」
「わかりました…それでは、明日」
「うん、明日」
そう言うとM4はお辞儀をして部屋に戻っていった。
なんだろう、少し…M4と話すことが出来たら良かったと思う。
翌日
朝、朝食を食べよう食堂に訪れたら、M4がコンソールに向かって立っており、改めて一緒に食べないか?と誘ってみた。
「ええ」
前のように遠慮がちとは少し変わって、すぐに同意してくれたと言う少し距離が縮まった現実にを少し、喜びを感じていた。
「今日はどれにする?」
「はい、えぇっと…」
そう言ってM4は食べる食事の中から、カルボナーラパスタを選んだ…
「(朝から、凄いの選ぶな…)じゃあ、私はコレだな」
今日は一昨日の反省を生かして比較的量が普通のタイプである、唐揚げ定食を選んでいた。
グリフィンの食事は基本的にお代わりも許されている。そこを突いて、自分のカードキーを二回使用して、M4が食べられる食事のレパートリーを増やしたのだ。
食事は重要だ。
栄養補給だけではなく、モチベーションを維持するためにも、食事はなるべく美味いものも必要なのだ、マズイものばっかり食べ、娯楽の無い生活…部隊の指揮が下がるのは目に見えている。
だからこそ、私は責任者として彼女になるべく食事は美味しいものを食べてもらいたい思ったのだ。
「それで?どうやって探すつもりだい?」
食事中の開口一番目に自分が聞きたかった質問をする。
「それは…逸れた際にAR小隊以外にも一緒に戦ってくれた人形が居ました…その時の人形にまずは話を聞いて…」
「その情報を元に、捜索範囲を設定する…」
「その通りです」
「うーん…だけど、今の君の状況じゃ……ああ、いや……すまない」
確かにその点は理にかなっているが、その戦っていた人形はもうこちらで回収して、話を聞いている、これ以上の収穫も無いだろうし…そもそも、嫌われているだろうし。
というか、あの時のスコーピオンとヘリアンの会話も思い返せば、根拠のない発言ばかりで不自然だったな。
あいつ等も口裏合わせていたんだろうと思うと厭な気分になりそうだ。
なら、その情報を元にグリフィンが捜索もしているはずだ、見つからないと言うことは捕まったか、巧妙に隠れているかだ
前者が達成され、エクスキューショナーの発言が正しいものならばM4が逃げ回っている間に鉄血から何らかの声明があるはずだ、ならば確率が高いのは後者だろう…それならば…
「仕方ない…"プライズに行くか…ところでM4?お出かけは好きかな?」
「…お出かけ?」
「あぁ」
アイツに頼るのは申し訳ないのだが、仕方ない。
ユーリは、バイクにM4A1を乗せてとある街に行くことにした。
「ここが…"プライズ'"シティ…」
「そう、ここが"プライズ"、PMCや政府に管理されていない土地を富裕層の民間組織が傭兵を雇って作り上げた、謂わば"王国"都市の一つさ」
王国都市…それは富裕層の中でも、更に大富豪とも言える現社会の1%が政府の管理をしていない区画に財産を投じて土地を買い漁りその土地を発展させ、傭兵を使いその富裕層が統治している場所を指す
なぜ王国都市と呼ばれているのか?それは内務省や保安局…つまりは政府の管理を意図的にすり抜ける為にタックス・ヘイブン(課税回避地)として利用し、そこから、法外や悪徳な事業を展開して、更に私服を肥やす謂わば治外法権なのだ。
傭兵達も我ら元ロシア軍人が多い。政治的に邪魔になって辞めさせられる軍人を買い物リストがわりに低賃金で私兵して雇っている。
私もその1人で富裕層の連中に雇われ、スペアで逗留していた…。
一応此方は雇われた分だけの仕事をしただけで"本業"の方には手を出さなかったし、それに…もうスペアは抜けている。
身から出た錆という、その厄介さに手を焼いている政府は皮肉を込めて王国と呼んでいるのだ。
「感想は?」
「…そうですね、政府にもPMCにも管理されていないのに、ここまで整った場所があるなんて、驚いています。」
比較的、整備が行き届いた街並み、多くの人、沢山の施設どれも、M4にとっては新鮮なものだったようであちこち街並みを見渡している。
「離れるなよ?少しでも離れたら…あれだ」
「…!!」
私が指差した先には解体されスクラップされていた、鉄血兵や限界が留めないほど改造された戦術人形を見て、M4は息を飲んだ。
「…行こう」
思わず、M4の手を掴み街中を通り過ぎる、もしM4の噂がここの連中の耳に届いているとしたら、こぞってM4を捕らえようとこの街連中が襲い出すに違いない。
珍しい動物の剥製の売り場、得体の知れない中身のスープ店、戦場から掻っ払ったであろうパーツ店…
そして、あちこちで鳴り止まない喧嘩からなる銃声と怒鳴り声…特に銃声がする度にM4の銃声に向けて警戒心を駆き立てていた。
「…ええっと本当にココですか?」
「まぁ…みんな、最初はそういうね」
私とM4が着いた先、そこはテカテカ妖しい光を放つ風俗街だった。
人形では味わえないアソコ!!や腐肉喰らいに喰われる前にヤっておけ!!など控えめに言って品がない文章が至る店の看板に並んでいた。
当然、人形とはいえ女性のM4…明らかにうわ、と引いている顔つきになっている。
「悪い…でも、他に道がないからな、我慢してくるかい?」
「はい…あなたとなら、どこにでも」
そう言って私はM4の手を引き風俗街中に足を踏み入れた。
「ねぇ…色男さん?遊んでいかない?」
「悪いね、急いでるんだ」
「その人形可愛いねぇ…ウチで働いてみるかい?」
「…えぇっと」
「連れをスカウトするのはやめてくれ。オッサン」
至るところで声をかけられてM4は少し…いや結構、困惑していた様子だった申し訳ない気持ちで一杯なのだがお目当ての場所はこの先にある。
「着いた、ここが目的地だ…」
「…”情報屋タブロイド”?」
風俗街の端っこ辺りにポツンと立っていたのは”情報屋タブロイド”とだけ書かれていた寂れた店だった
「…どちら様で?」
ドア開けるとバスを停車させる時に押す様なボタン音がなった、外の外見とは裏腹に店の中は綺麗なもので整理整頓が行き届いている。
店の奥からメイドの格好をした人形が現れた
「やあ、キルカ。"キャスター"はいるかい?」
「おや、ユーリ様。ご主人様!!ユーリ様がいらっしゃいましたよ!!」
しかし、私を見るとブザーを鳴らして上の階にいる主人を呼びつける、すると上の階から寝巻きの格好のままだらしがない歩き方で現れた
「あんたの結婚式に立ち会って以来だな…フッ、やっぱりキルカは良い嫁さんだな」
「うるせぇな…でなんだよ、ユーリ、てめえの後ろにいる人形はなんだよ?」
ぶっきらぼうな話し方をする店の主人は前の職場で働いていた頃の同僚で俺はよく"キャスター"というあだ名をつけていた。
「ええっと、彼女は……」
「…グリフィンの戦術人形、M4A1と言います。…現在はユーリ指揮官専属の戦術人形として活動しています」
「…指揮官?」
「ほら、クルーガーの!」
ユーリが小声で詳しい話を入れた。
キャスターが指差したM4を説明しようとしたら彼女から自己紹介をした、それを聞いたキャスターは顎をさすりながらM4をみた。
「おいおい、どんだけ人手不足なんだよ?大手の会社じゃなかったのか?」
情けない、と言いたい様ながっかりした顔をキャスターが隠しもせずため息を吐く、こんな顔されるのは俺にとってはいつもの事だが、M4にとっては苦しい発言だった様で申し訳なさそうにこちらに頭を下げていた。
「フン、まあいい。で…なんの情報が欲しい?」
キャスターがだらしない顔から真面目なものに変わるどうやら仕事をしてくれるかもしれないらしい…
好都合だなと思いつつ戦術マップを広げた。
「数ヶ月前から、そこにいる彼女……M4A1のAR小隊っていう部隊が散り散りになっている」
マップを指差す、朝M4と話した時に提示された地区だ。
「それで、その数ヶ月の日付から今日までの期間で通信の傍受の対策としてオリジナルレベルの高度なセキュリティーを使い、通信やメッセージを残した、という記録を場所ごと探し、見つけ出して貰いたい」
「”高度なセキュリティー”ねぇ……グリフィンはそんな高度なセキュリティーをつけるのならグリフィンに見つけれるんじゃねえか?」
「いや、見つかっていない。でも、M4を保護するまでの間に隠していたデータやメッセージはグリフィンが解読した、なのに大っぴらに探そうともしない」
つまりといって
「M4たちの通信プロトコルには非常に慎重にカモフラージュが施されているとみて間違い無いと思う。そして、秘密裏にことを解決したいんだろう」
「…俺にセキュリティーを解読する力はないぞ?」
「特殊な通信記録と位置を知れればいい。どこでその通信やメッセージを残したという記録を残したというのを知りたいんだ…頼む」
難しいとは知っているが彼なら信用できる
「…わかった。でも、報酬は高いぞ?」
「幾ら払えば良い?」
「今回の仕事難易度含めて、2000ダイヤで換算して……60万ルーブルでやってくれるか?」
2000ダイヤ…グリフィンの月給8ヶ月分だM4はあまりの金額に驚いている
「…どうだ?」
「別室で話せるか?」
ユーリはM4A1を見た。
「すまない。ちょっと、ここで待っていてくれ」
ユーリとキャスターは別室に移動した。
「正気か?ユーリどうしたんだよ!?まさか、”あの方”よりもグリフィンについた方が得だと思ったわけじゃねえよな!?」
キャスターも、”俺”と同じく、”あの方”の為に協力している身だ。
なのに、ここまで大枚はたいてまで、グリフィンの人形を助けようとしたら裏切りか?不安になるのも分かる。
「まさか……むしろ、グリフィンより”あの方”の元に居た方が得だと思ったくらいだ」
「じゃあ、なんでだ?前に、お前が調べさせたM4A1やAR小隊のことに関係あんのか?」
ユーリは少し、逡巡してM4A1の身の回りのことと今の現状について話した。
「なるほど、テメエは業務上死活問題な状況にはまっているってわけだ」
「ああ。少しでも”あの方”の役に立つためには少しでも戦力が必要だ……それに、あの子は放ってはおけない」
俺は少し迷ったが端末を操りキャスターの口座に2000ダイヤを振り込んだ。
「…正気か?ユーリ?」
「俺の仕事に対する徹底ぶりは知っているだろう?お前も自分の仕事に対してしっかりやってもらおうか?」
「…マジかよ、1時間くれ。その間に割り出す」
「ああ、頼む」
これで、俺の手持ちの9分の8がなくなった…。
「指揮官…」
「どうしたの?」
「…本当に良かったんですか?私の為に…」
待ち時間の間にM4が申し訳なさそうに聞いてきた。
「気にするな、それよりも私はアイツが金を持って逃げないかが心配だ」
きっかり1時間後、キャスターは結果を伝えた。
「…あったよ、アンタの予想どうりだ」
そう言って、キャスターはモニターを見せてきた。
「この……色のついた箇所がお前の言った日から今まで、厳重に隠されて発信した跡がある。」
「賢いな、密集地を避けてる。巻き込まれるのを防ぐ為だな」
「ああ、道理で地味な所で発信していたもんだ。これじゃ、グリフィンも気づかんな。いじめがあったのは本当なんだろうな。きっと、AR小隊は小隊のメンバー鹿信用していない。M4という人形はともかく、他はお前を殺しに来ても不思議じゃないぜ?」
「承知の上だ」
この辺りはふむ…鉄血のテリトリーも避けているし、グリフィンにも合流しやすいと踏んでの行動だな。
「でも、この辺りは厄介だぞ?鉄血が最近進軍しているし、アウトローも多い。」
「…そうだな」
アウトロー…鉄血意外にも面倒なのか現れたか…
「…取り敢えず、ありがとう。これで一歩前進だ」
「幸運を」
「ありがとう」
部屋を出るとM4がドアの前で待ち構えていて正直びっくりした。
「…あ、あの。信号や通信記録は見つかりましたか?」
「いいや。だが、まだ、AR小隊のメンバーとは断定できないが、可能性が高いものは見つかった」
「…!!」
M4の表情が変わる…しょんぼりした様な顔ではなく今すぐ飛び出したいと言うくらいに。
「出発は?」
「明日だ、今から行ったら夜中になる。それに君は今、武器を持っていないだろ?」
「…あ」
街に出る時に銃は規則で基地に預けてしまっていた事をM4は思い出した様で唖然としていた。
「まだ3日ある、慌てるな身長に準備しておこう」
「…了解」
だが、裏を返せばあと3日しかない。
アウトローの事も考えると明日からは野宿だな…その為の用具も用意しておかないと…
プライズシティから急いで基地に戻り、明日の事に備えて準備をした。
使うのは、ライト、テント…は大きいな、ブランケットにしよう、後オイルライターに水とレーション。
あぁ…忘れてた、レコーダーだ。よし、これだけあれば十分だろう。
次の日
「やる気は十分な様だね」
「…はい、よろしくお願いします。」
待ち合わせした場所にM4が来た、マガジンも多めに持ち合わせている様で、腰にかけていたジャケットが揺れ幅がゆっくりだった。
早速、目的のエリアにヘリで運んで貰い近くにあった切り株にマップを広げる。
「部隊が離れてから、移動するであろう距離を推察して、潜伏しやすい箇所をキャスターから貰った情報から照らし合わせると…」
ホログラムではなく紙の地図を使ったのは電力を節約する為だ、今時の端末の電力の容量もなかなかだが、一日中持ってくれるとは限らない。だから、紙なのだ。
「ここの辺りから始めた方が良さそうだ」
自分がいる位置から線を引き行動ルートを決めた、このルートを選んだ理由は簡単だ、2日で全部の位置を回ることが出来るからだ。
「さぁ、山下りの時間だぞ」
MP7A1のチャージングを引く、これが自分の持つ最後の武器だ、出来れば会社の支給品が届くまでには壊したくない。
M4A1とユーリが山下りをしたのと、同じころ。
山の中に入ろうとした人形が一人いた。
「それで……雇い主の命令は、”AR小隊の残した記録をすべて抹消しろ。妨害するなら、AR小隊でも殺せ”っていう、命令よね。……分かった。先日の強風のせいで遅れるのね、先に仕事を始めているわ現地で合流しましょう」
15時間後経って、午後10時
二つの異なる音がほぼ同時に放たれ、二つの鉄血人形の死体が出来上がる
「クリアか?」
「…敵影なし、クリアです」
「よし。順調だな……しかし、こんなガタの来ている建物にも鉄血がいるとは」
今いる施設の鉄血人形の部隊を全滅させたのを確認して、M4は施設にあるコンソールを操った。
狙いは勿論AR小隊の記録だ。
「…どうだ?」
「…ダメです」
「ここもか、残念だ」
かれこれ、40個以上の拠点を回ってみたが、どれもAR小隊に関する情報はなかった。
いや、それどころか何の情報も残っていなかった。
まるで初めから存在しなかった様に。
「…!!どうして、何もないのよ!!」
流石にここまで苦労して、探したのに情報ゼロは流石に堪える。
遂に我慢出来なくなったM4はコンソールを殴り割るとその拳から人工血液が滲み出た。
「…はぁ、はぁ…クソ、クソが…!!」
「M4…」
問いかける言葉が見当たらない。
時間があまり残されていない事、ここまで苦労したのに何も得られない事、それらがストレスとなっているのは誰が見ても分かる事。
…だが、妙だ。
「…掃除屋でもいるのか?」
「…今、なんて言いました?」
何か心当たりがあるのか、M4が寄ってきた
「いや、鉄血以外にデータを消している連中がいるんじゃないかと思っただけだよ」
「…何故そう思うんです?」
「私達はさっきまで、あちこち回り、データを探していた、だがそこにあるのは空のデータばかり…」
壊れたコンソールを見る
普通ならどうでも良い記録でも大体の施設なら記録されているに違いない。
だが、その記録すらも綺麗さっぱりに抹消されている…
「だが、空のデータ…それこそが不自然だ」
これは明らかに"誰か"消した事を意味する十分な証拠だ、しかし、誰がやった?
鉄血か?
いや、データを消してあるのならこの施設に留まる理由なんてないはずだ。
「必ず、データを消して回ってる連中がいるに違いない」
「…まさか、ね」
「どうした?」
「あ、いえ。なんでも…」
新しい拠点に移動した。
調べるために、M4A1が機材を触ろうとしたところ、パネルが外れてがたん!と音がしてしまった。
「誰!?」
という、声がして激しく勢いで走ってくる足音がこちらに近づいてくる。
鉄血か?M4A1とユーリが待ち構える。
足音が自分たちのいる拠点で止まった……と思いきや、ザッと素早く身を乗り出して、水色の髪の少女が一瞬で銃を向けのが見えた。
「!」
「……!!」
素早い動きに関わらず、先に動いたのは銃を向けた人形でも、ユーリでもなく1番反応が遅れたM4A1だった。
M4A1が素早く身を屈めて、向けられた銃口から発射された弾丸をあらかじめ回避し、そのまま銃を向けた人形を蹴り飛ばした。
「……キャッ!?」
蹴り飛ばされた人形は壁をぶち破って転がっていき、立ち上がろうとした瞬間にはもうM4A1に背中を踏んず蹴られていた。
「……はぁ、はぁ……!指揮官を狙おうとするなんて……よくも!!」
「まて、M4!その子、同じグリフィンの人形なんじゃ……!?」
M4と押し倒された少女は、ハッとした。
多分だけど、お互い味方だとわからず、同士討ちをするところだったらしい。
「あなた……もしかして、AR小隊のM4A1?」
「ええ。AR小隊の情報を探している、M4A1よ。あなたは……?」
粉々になった、壁を背に水色の人形のM4A1達は聞いてみる。
ステンのようなはぐれ人形だろうか?
「……私は、戦術人形”416”。この山で、鉄血の掃討作戦をする予定だったから、威力偵察の命令を受けたの」
「そうなの。……でも、私を知っているように見えたけど?」
「M4A1……あなたも有名人という自覚くらいはあるでしょ……わざわざ私に悪口を言わせないで」
「……」
M4A1はいぶかしげな表情を浮かべた。
416と呼ばれる人形に悪口同然なことを言っておいて、”同じにするな”と他人事のように振る舞われたからだろう。
「416。この後、君はどうする?」
「そうね。威力偵察といってもやることは自由だから、あなた達に協力しながらやってみるわ」
「いいの?私なんか助けて」
「一人でやらされれるより、数を増やした方がいい。あなた達もそうでしょ?」
この416という人形、発言の節々からプライドが高そうな感じを漂わせるが、思っていたよりも交渉上手のようだ。
「分かった。なら、協力しよう。M4はどうする?」
「私も同意見です」
「お互い、うまくやりましょう?」
「協力が出来たところで、そろそろ、他の話題に入ろう。今はもうこんな時間だ、今日は寝泊まりして、次の場所まで、距離もある。だから、一旦ここで寝泊まりしよう。」
時計はもう10半時を指している、データ整理の為にもM4をスリープモードにしておくべきだ。
山中にて
「いいんですか?先に寝てしまって…」
パチパチと薪が燃えて火の粉が散る
「あぁ、見張りをしておく。3時間したら交代しよう。」
「…はい、了解です。」
そう言って彼女たちはスリープモードに突入した…
「…よく、頑張るよな」
ダットサイトの電源を切り、寝ているM4を見る。
エリート人形と言われているこの子も横になってしまうとただの年頃の少女にしか見えない。
髪を見ると、汗で少し固まったようにも見えた。
何度、折れそうになったのだろうか?きっと一度や二度では無い…それでもこの2ヶ月半諦めずに…
そして、やっと…ここまでたどり着いた、彼女にとっては手放したくないチャンスに違いない。
「…叶えて、やらないとな」
そう言ってユーリは焚火を見つめた。
3時間後
「M4…」
「…ん、交代…ですか?」
肩を揺らされてM4がゆっくりと瞼をひらいた
「その通り。これから、寝る。残りの3時間、任せたよ」
「…了解です」
そう言って瞼を閉じる…きゅう、とざわざわした感じが胸の奥に押し寄せ沈む様に意識を少し、手放した…
しばらくの間、炎見つめながら周りに意識を集中させていた。
「随分、この指揮官が気に入っているのね」
先に起きていた、416が指揮官を見つめているM4A1をそう評した。
「傷はどう?思いっきり蹴っちゃったけど」
「平気よ。まさか、AR小隊のM4A1があんなに強いとは思わなかったけど」
「ごめん」
「なんで謝るのよ」
416を気に掛けるM4と普通の人形と違って理不尽にM4を攻め立てない416との間に微妙な時間が流れる。
「うん」
「不思議ね。あなたの身の上なんて聞いたら、躊躇して、諦めようと思うはずなのに」
「でも、諦めなかった…どうして、ここまで自分を助けるのに力を貸してくれるのですか?」
M4は指揮官であるユーリのもとに寄り、彼を見つめる。
「でも、ここまでしてくれるとも思わなかった…」
感謝しかない気持ちの裏側でM4A1の中にはどうしてここまでしてくれるのか?という考えが渦巻いていた。
「それでも…」
M4A1が指でユーリの口元を優しくなぞり自分の唇に当て
「…ありがとうございます、例えこれが無駄足だったしても…この、ご恩は忘れません。」
そして、そのまま自分の唇を撫でた。
午前6時、起きる時間だ。
M4に起こされる。
「…指揮官、指揮官」
「…うぅ…あ、おはようM4」
M4に肩を揺らされて、目を覚ます。
「おはようございます」
なんだろう…少し、M4の表情がいつもより少し変わった気がする。
それと、416との関係も多少改善したようにも見える。
いや、それよりも残りの施設を早く探さないとな…もしかしたら、消し回っている奴らの見落としがあるかもしれない。
5時間かけてさらに捜索し、昼飯の最後の不味いレーション口に突っ込み、残り5つの内の1つの施設に侵入する。
「倒したわ!」
416が最後の鉄血兵を倒したのを確認して、M4A1が拠点に飛び込む。
「私は外で見張りをしているわ」
「分かった、M4……どうだ?」
「…このアクセスコードは…指揮官!!」
何かを見つけたのか?急いで私はM4の元に駆け寄る。
M4のテンションが大きく上がっているのがよくわかる
「どうした!?」
「このアクセスコードはM16姉さんが緊急用に用意していたコードなんです!このコードを解読すれば!!」
M4の端末を弄る速度が増していく、ここまで無駄骨追って来たがようやく終わりが…
「え…どういう事?」
突然M4の端末を弄る手が止まった、どうしたのかディスプレイを見ると、突然プログラムの画面に移行しており、そこからプログラムの行が勝手に削除されていっていた。
「記録が?ま、待って!!消えないで!?どうして消えるのよ!!待って!!」
悲痛な彼女懇願虚しく基地の中にあったプログラムが一斉に消えていき、
"404 Not Found"
とディスプレイの画面一杯に表示されていた…。
「そ…ん、な」
がくりとM4が力なく拳を下ろした。
「……何かあったの?」
416が心配したのか、こっちに戻ってきた。
「それが、データが途中で消えてしまって」
「なら、次を探さないと」
「でも、消えたにしてはタイミングがぎりぎりな気も……ん?」
サーバーの中に何かが挟まっている、不審に思った私はドライバーで蓋を開けサーバーの配線を調べると
「やはりか…」
「指揮官……」
絡み合った配線の奥に黒い正方形の箱がサーバーのコードにつけられていた。
「…ねえ、さん…、私、どうしたら…」
「私は君の姉じゃないが、分かったことがある」
「し、き、かん?」
絶望で泣き出したM4に先程、手に入れた黒い箱を見せた
「コイツがわかるか?」
「…分かりません」
実のところ私も噂レベルに聞いていて実物は初めてだ
「これは、恐らくデータ抹消用の装置"デリーター"だと思う」
「…"デリーター"?」
デリーター…噂だと、情報を抹消する時に使われて、おり短時間で自動的にデータを消せる装置だと聞く。
「よく知っていますね」
「まあ、416達も知らないように、私もうわさでしか聞いたことないんだが……」
「そうでしたか」
「タイマーも仕掛けられているな……むう、3分前に起動している、そしてこの残ってあるデータ…ここを最後の一つして設置するにはリスクが大き過ぎる…つまり」
「今から急いで向かえば消されていないデータにたどり着ける…?」
「確証は無いけどね?私はやってみる価値はあると思う、君は?」
いたずらに挑発してしまったかなと思いながら、M4を見る。
M4の泣き顔もう消えており、その代わりに絶対にやってやるという気迫を感じる。
「行きます、片っ端から探しましょう」
「同感だ!よし、始めるぞ!」
30分後
「弾が……!」
「416、これ使って!」
M4A1が弾切れの416に予備のマガジンを渡した。
さっきまでの、微妙な雰囲気とは少し異なり、416もちょっとだけ笑ってマガジンを受け取ってくれた。
そのまま、攻撃を続けて3人は邪魔する鉄血兵を倒して拠点についた。
「クリア!」
「M4。先にデータでも取りに行ってなさい、どうせ私は戦うことしかしなし」
「データ接続!!…あッ!!また!?」
「次を探すぞ!!」
端末を弄り始めたタイミングで先程と同じ現象が起きた、ここはダメだ次の場所に移動しないと。
残り4つ
「先に倒しておいたわ!M4、行きなさい!」
「ありがとう、さっそくデータを回収を……」
「待て、やっぱりだ!もう、起動している!!次に行くぞ!!」
「…!!了、解!!」
兆候こそ見られなかったがサーバーを調べた案の定起動していた
「悪いわね……M4」
「……?」
「いえ。犯人がいたら気づけたかもしれなかったのを、見逃してしまって」
「いいわよ。まだチャンスはある」
残り3つ
「見つけたぞ!!まだ、付けられていない!!」
「データ回収を…!!…鉄血!?」
「殲滅するぞ!!」
「はい…邪魔なのよ!貴女達」
まだ、データの削除をされていない施設だったが回収しようとしたタイミングで鉄血も突入してきて銃撃戦になった。
狙いは同じか…
「倒した!!」
「…データを!!…!?」
「そう……もう、来ていたのね」
プログラムが消え始めている、私達が鉄血とやりあっている間にデリーターを使ったな…!!
「次こそは…」
「…えぇ」
「「遅れはとらない!!」」
残り2つ
「見つけた!!」
残り2つの内1つの施設に辿り着いた。
そこで、フードを被った奴がデリーターをつけようとしていたので
「させるか!!」
「…!!」
フードの奴に向けMP7A1の4.7×30ミリをフルオートで牽制射撃。
被った奴には当たらなかったがデリーターを破壊することは出来た
「…!虫ケラがぁ…」
どうやらこちらに注意を向けてくれたようだ。
別の方向からM4を狙って、銃撃が飛んでくる。
しかも死角だ。
「M4!!」
416が飛び出して、近くの岩に突き飛ばす。
お陰で、M4は銃撃を受けずに済んだが……代わりに416の背中が撃たれてしまった。
「大丈夫!?」
「こんな程度平気よ!さっさと行って!ここは指揮官と抑えるから!」
「大丈夫だ。行け!!」
「了解…!!」
私の制圧射撃の間にM4がデータにダッシュ。そのままコンソールをケーブルに繋ぎデータを抜き取る準備をさせる。
「…!?させる…!!…コイツ…」
データの転送させまいとM4に銃口を向けたタイミングで偶然、私が放った銃弾がサプレッサーを食いちぎった。
「…データ収集率65%。収集完了まであと…」
「このままじゃあ…仕方ない!!」
「何をした?…何!?なんて事しやがる…」
何かしらの合図をしたと思ったら、飛翔体が施設の脆い場所に当たり、施設のあちこちが崩れ出す
「…データ転送中断?…え?一体何が!?」
「M4!?」
何が起きたか飲み込めないM4を素早く連れ出して外に出た…
「何があったんですか!?指揮官!?」
「データを消してた連中が施設ごと崩落させやがった!!」
「…ここまでするなんて」
走りながら状況を説明する、流石にM4も私もここまでやるなんて予想外だ。
「M4、俺の銃も弾薬が残り少ない…どう頑張っても次が最後だ、全力でやるぞ」
「えぇ…誰にも邪魔させません」
今走っている中、通信が入る。
<どういうつもり?>
「そっちこそ、どういうつもりよ……いきなり、攻撃をするなんて」
<情でも、移っちゃた?アイツは魔女よ?何をしようとおとがめなし、久しぶりにいい仕事だと思うけど♪>
「私にも、私のやり方があんのよ!そもそも、今更通信しておいて泣き言いうな!それに、アイツは……」
<アイツは?>
「アイツは魔女じゃない」
20分後
最後の拠点にたどり着いた。
驚くべきことに、誰もいなかった。
「クリア!!敵影なし!!」
「データを再度収集します!!」
M4がコンソールを弄るその動きはまるで人生で一番急いで動かしているようだった。
「…データは?」
「見つけました!取り出します!」
「指揮官は反対の方を、私はM4を守ります」
「ああ、わかった。M4を頼む。それと、ここまで付き合ってくれてありがとう」
「ええ……後はお任せ下さい。指揮官様」
ユーリがサーバールームを出た。
これで、M4A1と416だけになった。
「ええ。これで、最後よ」
M4A1が後ろを向いた瞬間……416が左足の腿に取り付けたホルスターからH&K P30引き抜き、M4A1の背中に銃を向けた。
……
「それで……雇い主の命令は、”AR小隊の残した記録をすべて抹消しろ。妨害するなら、AR小隊でも殺せ”っていう、命令よね。……分かった。先日の強風のせいで遅れるのね、先に仕事を始めているわ現地で合流しましょう」
まさか、任務先でAR小隊の人形とあってしまうなんて思いもしなかった。
今の今まで、彼女たちを欺いていたが……
M4A1たちが必死にデータを漁ろうとした、その裏でデリーターを仕掛けていた。
「……」
妙に引き金が重い気がする、
……私は雇われだ。
雇い主の命令に従う、どれだけ、彼女が必死でも真実を知ろうとするなら、始末するしかない。
「416……外はどうなってるの?なにか、動きはありそう?」
「……問題ないわ、相手も今の所は慎重なんじゃない?あなたはスクリーンと格闘していなさい。また、クラッキングに遅れるなんてミスを繰り返すわけにはいかないでしょ?」
「そうね……任せたわ」
「ええ」
のんきなことだ。
M4A1はすっかり私を信頼している。
仲間が出来たことがない、いや……仲間を手に入れる機会すらなかったんだろう。
それでいて、他人を気遣える。
これがどこが魔女だ?
「ねえ。416」
「何かしら?情報を手に入れた後の話をするなら気が早いわよ?」
「いえ、手伝ってくれてありがとう。初めてだったんだ。こうして、私の友達になってくれる人形に出会えたのは」
「……なんですって?」
自分でも、思わず声がうわずってしまう。
「初めてなの。みんな、指図する人形とかエリートだから支援が手厚いとか色々言って、私の事を嫌ってて」
<15%を完了しました…>
時計を見る。
データの発掘から転送を開始するまでにかかった時間は10分もかかってやしないのだが、これが長く感じる…。
早く、しないと。
デリーターを設置しても間に合わなくなってしまう。
<あの人形は、たくさんの友達を捨てた人形部隊の隊長だ。同情に値しない>
雇い主はそう言った。
でも、さっき思ったように彼女が雇い主が言った通りの人形とは思えない。
なら、あの依頼主は本当のことを話して依頼を吹っかけてきたの?
そもそも、I.O.Pが未だにグリフィンを動かしてAR小隊を探させている現状で、クルーガーやヘリアンが止めようとしてない時点で、どうしておかしいと思わない?
<…まずい>
「どうしました?」
<"奴らが"…きたさっきまでデータを消して回っていた連中だ数は…3人か…顔はよく見えない>
「きっと、あっちも強攻策をとる。スモークが来たら……迷わず中に引っ込んでください」
416はハッとした。
なんで、自分の仲間の手の内を晒すようなことを言った?
本当に自分は、この状況でM4A1を守らないといけない理由が出来たと思っているの?
1日もろくに立っていない関係で?
私が?
「ご武運を」
<あぁ…そっちも急いでくれ>
「スモークか……」
ユーリは、敵の様子を確認した。
一人長距離用スコープを持っている奴がいるな、なるべくはそいつが狙撃に最適な場所に行くまでの時間を妨害するために引き寄せ起きたい…。
でも、あのスコープがサーマル内蔵なら……スモークが着た瞬間、やられてしまう。
屋内に入って、隠れなければ……だ。
「来い…来い…」
サーバーの影越しに銃口を向ける、リーダーが先ほど食いちぎったサプレッサーを外し出す…。
何かが、投げつけれられた。
ユーリは迷わずトリガーを絞った。
最初の2発は精密射撃で、投げれらたものを打ち抜いて、敵を驚かせ残りをバラまいた。
「今のをかわすのか…」
マガジンを変えながら、思わず相手を賞賛をしてしまった。
そんな矢先、打ち抜かれた缶が煙を上げだした。
「くそ!ほんとにスモークが!?」
絶好の不意打ちのタイミングだったのに…よりによってサプレッサーを外している奴が避けて、いや…逸らしてだな、攻撃を交わして散るように指示を出した。
「良い勘をしてるよ…う、あ?マジだ!」
ユーリが煙をみて、すぐに屋内に入ると煙の中から正確に銃弾が飛んできた。
やっぱりサーマルだ!
このままじゃ、牽制されている間に距離を詰められる……そのタイミングで、ちょっとしたハプニングが起きた。
鉄血が追撃してきたのだ。
…最後の2つ目にはいなかった、いや、そこは諦めてここで決めようとしたのだろう。
鉄血の弾薬が放たれた、幸い、狙いはこちらではなくデータを消しに行っている奴らに向かったが、いつこちらが攻撃されるかわからない
「…!!」
「チッ!!」
今度は鉄血達が裏口から侵入してきた。
…今度は当てることができたのはよかったと思う、しかし居場所はバレた事は間違いない。
自分がいるところは入口からも裏口からも入ってすぐの所だ、サーバーを守るのにはこれしかないが、そこは鉄血が上手くやってくれるだろう…
「M4!!移動する!データは?」
<80%を超えました!!あと、9分程です!何とか耐えてください!!終わったらすぐに助けに行きます!!>
「分かった!!…最後のマガジンか」
残り30発、節約しないとな。
5分後
「グギャ!!」
「(クソ、弾が)」
曳光弾が発射され、残りの弾薬が10以内だという事を知る。
「後4分?冗談キツイぜ」
「…前進するよ!」
「帰れ!」
前進しようとした人形目掛けて打ったが初弾を外したタイミングでそいつは素早く後ろに下がった。
「チッ!!」
曳光弾の色も変わり、いよいよヤバくなるのが分かった、その瞬間
スガアアアン!!と何かが落下した音が聞こえた。
突然、遮蔽物に使っていたコンテナが切り裂かれた。
「チ…面倒ね」
前進しようとした人形が軽く舌打ちして、そいつに銃弾を撃った。
その人形目掛けて襲いかかるその姿を自分はよく覚えていた。
「まさか、生きていたのか?"エクスキューショナー"?」
「…」
ギギギとゆっくりと振り向き私を視認した、そして私に向けて剣を振り上げた。
<データのコピー完了しました>
「終わった……」
M4A1が安堵の息を吐いて、胸をなでおろす。
416は結局、デリーターを設置することはなく、向けていたP30も降ろしていた。
「ありがとう。あなたが手伝ったくれたお陰ね」
「え、ええ。当然よ……」
なぜだろう、と自分でも動揺していた。
雇い主が怪しかった?
正々堂々始末したかった?
それとも……本当に情が移ったのか?
「あ、あなたの指揮官のところに、い、行きましょう」
「そうね」
2人が裏口に向かう。
そして、その裏口の通路で見えた先には……今にもブレードを振り下ろそうとする、エクスキューショナーの姿があった。
「指揮官!!」
サプレッサーも意味がなくなるのでは程の凄まじい連射音が聞こえる。
「…ク」
「ご無事ですか?指揮官?」
連射音の正体はM4だった、ここにM4がいる、という事は…
「ええ、データを回収に成功しました!!」
「あぁ…トンズラしよう、でも」
「!!!!!!」
エクスキューショーナーが起き上がる
「コイツを潰してからだな、やるぞ」
「了解です」