たったひとつの願い   作:Jget

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番外編:新しい、始まり

 

「……え?キャンセルですか?」

 

404小隊のセーフハウスの1つでUMP9が残念そうに電話の相手からの話を聞いている。

 

「どうだった?」

 

UMP9はダメだったとかぶりを振る。

 

「やっばり?」

「うん、コーラップス兵器を使ったことで私達と関わりたくないってさ」

 

今の電話は自分達がコーラップス兵器を使ったチームの一員であることを知ってしまった契約側による一方的な契約破棄だった。どこからか、またアンジェリアの件が漏れたんだろう。

HK416も当然のことだとは思いながら、頭を抱えた。

このままではいくら頑張っても来月までには貯金が底をつく。

 

「電話?」

 

何とかしないとと、思っているHK416に携帯が着信を鳴らしている。

HK416はまだなにかあるのかと思いながら着信に応答する。

 

<やあ、416。久しぶりだね>

「────はい。お久しぶりですね、ユーリ指揮官」

 

電話をしてきたのはAR小隊の指揮官だった人のユーリ指揮官……ホッとしたと同時に別の不安を覚えた。

指揮官もあの時の被害者だ。

何かを吹っ掛けてくる可能性は十分ある。

 

<そっちの調子は……まあ、あまりよくないだろうね>

「正直、そうですね。来月も厳しいです」

 

何かを訴えてくる、という雰囲気ではない。

HK416は僅かながら助けをくれるかもしれないという思いを抱き、現状を正直に話した。

 

<なるほど……かなり厳しい状況だね。ヴィクトルめ、腹いせのつもりか?>

「……はい?」

<いや、こっちの話だ。君に少しいい相談をしよう……頼みたい事があるんだ>

「頼みたい事?仕事ですか?」

<そうとも言えるな。────実はいま副官が欲しいんだ>

 

ユーリ指揮官の提案はシンプルだった。

現状が落ち着くまで、M4A1にやっていたことを代わりに任せられる人形が欲しいという依頼だ。

 

「なるほど……」

<もちろん、お金は出す。今すぐに回答が欲しいわけじゃない、相談して決めて納得した決断をして欲しい。決まったら、連絡をしてほしいな>

 

そう言って、ユーリは電話を切った。

HK416は電話の内容を404小隊に話した。

 

「仕事をもらえるのは嬉しいけど……」

「416が行っちゃうの?」

「まあ、現状それが唯一生活できる方法ね」

 

404小隊も警戒を感じながら、他に選択肢と言える選択ができないことを十分把握していた。

慎重に動きたいが金がないのだ。

 

「とりあえず、全滅は避けましょう。副官の仕事は私が受ける」

「……行っちゃうんだね、416」

 

G11は寂しそうにするが、それこそ満足に動けるかあやしいUMP45の介護も考えるとHK416だけが受けた方が一番安全だ。

もしかしたら、自分たちのことを知らない組織が仕事を回すかもしれない。

 

「9や45の話はよく聞きなさい、サボっても私は助けてあげられないんだからね」

「……うう、頑張る」

 

結局、ユーリの誘いは受けることになった。

HK416はユーリに電話を折り返す。

 

<416かい?誘った件の答え、もう決まったのかい?>

「……はい。指揮官、例のお誘いお受けします」

<────そうか。ありがとう、君のことを歓迎する。それで、いつごろから来る?>

「明日にでも」

 

早いな、ユーリも驚いた。

 

「ご迷惑でした?」

<まさか。仕事が早いのは好ましい、君のことは歓迎するさ>

 

HK416がユーリ指揮官の元に副官として向かうことが決まるしばらく前、隊長が不在となったM4SOPMODⅡにも新しいことが起きようとしていた。

 

「やっと解放された……」

 

M4SOPMODⅡはようやく、自分の身体の修繕とあのKCCOとの作戦で何が起きたのかというグリフィンの尋問を終わらせる事が出来た。

あの自分を敵と決めつけるような過酷な尋問はもう受けたくない。

電池切れになりそうになっただけで、眠っていると勘違いされてあのクソ冷たい水をぶっかけるのはやめて欲しい。

携帯を見るともう、2日以上経っている。

 

「こんなに時間経っているんだ」

 

みんなに会いに行こうと思って帰ってきたグリフィンの基地を回ってみたが誰とも会えない。

まだ、RO635は新しいボディを貰えていないんだろうか。

MP7はどうしたんだろう?まだ、尋問を受けているのかな?

 

「なんでお前ここにいる?」

「はい?」

 

ようやく会えたと思った人形が冷たい眼差しでこっちを睨みつける。

いや、睨みつけるだけじゃない。銃まで構えている。

 

「お前は追い出されたんじゃないのか?」

「どういうこと?」

「ふん、知らないのか?」

 

そう言って、人形は書類を見せつけた。

なんと、紙には「ソ連保安局長に銃火器を向けた疑惑により、M4SOPMODⅡは当基地の出入りを厳しく禁ずる。」と書かれていた。

 

「お前の人生も終わりだな。ボロくず人形」

 

得意げに書類を見せつける人形をM4SOPMODⅡは殺したくなった。

あの局長がこっちに銃を向ける罪状は何処に記載されている!?

抗議しても、多勢に無勢、M4SOPMODⅡはあちこち殴られて、蹴り飛ばされ、基地を追い出された。

 

「ちくしょう……直してもらったばかりなのに」

 

指揮官があのヴィクトルというソ連局長を忌々しく見つめていた理由がよーくわかった。あんな、器の小さいみみっちい奴で身勝手で、権力に物を言わせた奴をいい気持ちで見れるわけない。

殴られた血反吐を吐いて、M4SOPMODⅡはため息つく。

基地の守衛がこっちにPKMマシンガンを向けてる、立ち退かないと撃つつもりだ。

 

「私……どうすればいいんだろう」

 

あっという間にM4SOPMODⅡは指揮官のユーリに会う前の生活に逆戻りした。

いや、M4A1やSTAR-15もいないからより状況は悪いか。

目先のことだけじゃない、自分の在り方や自分が信じるべき事とか沢山のことだ。

 

「結局、ここに戻ってきた……」

 

結局、フラフラして気が付けば、件の戦場だった場所に戻っていた。

けれど、決定的に違うのは武器を持つことを許されなかった、ということだろう。

そして、E.L.I.Dの掃討は終わったけど復興の見込みはないらしい。

 

ボロボロになった町をM4SOPMODⅡは進む。

週も経てないのにここに来たのがもうずいぶん昔のように思える。

今まで、壊れた建物なんて気にしたことなかった。

 

「────」

 

けれど、今このボロボロの町を見るたびにショックを覚え、言葉が出ず、胸が張り裂けそうになった。

これが惨状だ、とM4SOPMODⅡは理解し始めたのかもしれない。

この先ここの人はどう暮らすのか、そもそも生きていけるのか……そもそも、コーラップス粒子に感染した人は"人として扱われるのか"。

 

「ダメだ……」

 

もう、ここには長くいられそうにない。

この町は自分の罪悪感を掻き立てる、自分で自分の気持ちを壊してしまいそうだ。

もう、帰ろう。そう思って、帰り道に向かって意志を向けた……その時だった。

────足音だ。

足音が聞こえた。敵だと思ったM4SOPMODⅡは足音を聞いて、素早く伏せた。

 

「……ママ、もう、すこしだよ」

「(子供?)」

 

足音の正体は敵ではない、小さい女の子だった。

私のメッシュの色と同じ、赤い髪の色をした女の子……

 

「はぁ……はぁ……」

 

女の子はバケツを持っていた。

何か入っているらしく、カタカタと音を立てている。

 

「……っ」

 

女の子が突然倒れた。

 

「────!」

 

M4SOPMODⅡは急いで駆け寄る。

近づき、触るとあまりにも痩せこけている。

 

「大丈夫!?」

「……来ないで」

 

けれど、女の子はM4SOPMODⅡを拒絶した。

 

「兵隊!私達の物をみんな取っていく!兵隊!」

 

彼女は兵士たちと勘違いしている。

 

「パパはあの爆弾でしんだの。ママも煙を吸っただけで……おかしくなってなんかないのに。人形に撃たれてしんだの、友達も、病院で死んでた……」

「ぁっ……!」

 

けれど、今のM4SOPMODⅡが否定できるだろうか?姉はあの爆弾を使ってこの子の両親の命を奪った。

私は親友を生き延びる為に、病院から物をとった。

そしてそこにいた子供は自分が輸血の方法を知らぬと無知だから助けられなかった。

この子の発言を否定できなかった。

だとしたら、あの女の子の母親も私が……殺した、かもしれない。

 

「バケツが……」

 

バケツが倒れた、だからバケツを元に戻そうとした。

けれど……

 

「やめて!」

 

必死にしがみついてバケツを取り返そうとする。

子供とは思えない力だった。けど、その力の押し合いでバケツの中身が見えてM4SOPMODⅡは驚愕した。

 

「これ……骨」

「お母さんなの!とっちゃだめなの!!」

 

さっきまでのか細い声とは全く違う、大声をこの子は出した。

これが……?この、バケツの中に入っている骨が……この子の母親の骨なのか……?

 

「お母さんすら!取るんでしょ!!」

「……っ」

 

武器を持たない女の子が睨みつける。

武器を持った兵士や人形の方が何倍も危険であることはわかっている、けれど……それでも、眼前の女の子が必死に悔しさを訴える瞳の方が何倍も恐ろしかった。

 

「────っ!」

 

女の子はバケツを取り返すとM4SOPMODⅡから離れる。

けれど……

 

「……っ!」

 

あんな痩せこけた状態で歩き続けられるわけない、また地面に倒れてしまう。

このままでは、明日には死んでしまう。

 

「────お願い待って!!」

 

M4SOPMODⅡはバケツを持った女の子に駆け寄った。

 

「せめて、これだけでも……」

 

そして、たまたま懐に抱えていたペットボトルの水を差し出した。

だぶん、ここに来るまでの間に買ってたんだろう。

 

「……」

「ほら……乾パンもあるから」

 

女の子は黙々とM4SOPMODⅡが渡した水を飲み、今はこうして乾パンも食べてくれている。

これは何処で買ったんだ?

 

「……ねぇ、何処に行くつもりだったの?」

「知らない、いけるところまでいくつもりだった」

 

初めからこの子には目的なんてなかったでも、歩こうとしていた。

 

「あなた、名前は?」

「どうでもいい」

「どうすればいいか、わからないかー……」

 

彼女はまた空洞のような瞳とか細い声に戻っていた。

 

「私はM4SOPMODⅡ……私も今、どうすればいいかわかんないの」

「……え?」

 

不思議そうにM4SOPMODⅡを見つめた。

 

「色々…いや、全部無くなっちゃって……ここで、戦争で」

 

姉も、仕事先も、戦う理由も……全部無くなってしまった。

 

「うそ」

「そう思いたかった。ここに行けば何か、取り戻せるって……思ってたのかな?でも、そんなことなかったよ」

 

M4SOPMODⅡも本当は今の今まで空虚だった。

グリフィンを追い出されたとき初めに感じたのは焦りだった。RO635やMP7も今どうなっている?でも分からない、指揮官もいないからどうすればいいのかも分からない。

分からない。分からないことだらけ。

 

「私も実はつらいんだ」

「うそだよ!」

 

少女は否定する。

 

「みんな死んだんだ!」

 

彼女は大切なものを奪った相手が辛いなんて思いたくないと考えていた。

きっと、コミックに出てくる悪役のようにふんぞり返って自分が苦しんでいる様をみて笑っていると思っているのかもしれない。

 

「許せないよ……!」

 

そんな思いをこの作戦はこの子に味合わせてしまった。

無くなった悲しみは1人で解決できない、苦しみに迷っている。

それは、私も……この子も……

 

「実は私は住むところが今なくて……」

 

だから、ある提案をした。

自然と、この子といる時どうすればいいか分かった気がした。

 

「頼る人がいなかったら……よかったら、だけど……私と住む場所を探してみない?」

 

────1週間後

 

「……うーん。このくらいがいいかな」

「こんなに大きい家を買うの?」

「買うというか、押し付けられたというか……」

 

2人で済む家を探していた時、突然ある不動屋が押し付けたのだ。

自殺者が出続けているという、俗にいう事故物件だ。

ノルマを達成したいらしく、ほぼ無理やり押しつけてきた。

 

「ま!いいでしょ!他の子も住めそうだし!」

「他の子って……」

「あなたと同じように家と親……ああ、いや、寂しがり屋な子達とか……」

 

これだけ、大きい家なら後何人か一緒に住めそうだ。

きっと、にぎやかになって楽しいかもしれない。

 

「私、寂しがりじゃない」

「……うん、そうだったね」

 

M4SOPMODⅡはまだ強がっている子の頭を優しく撫でた。

 

「あはは……」

「汚いね」

 

家の中を確認して2人はため息をつく、塗装は落ち、歩けば軋み、落書きはされ放題だ。

ゴミは空き巣とかかつて根城していたであろうホームレスのゴミがあちこちに散乱している。

臭い匂いも充満している。まさにゴミ屋敷だ。

 

「じゃあ、さっそく掃除を……」

「ねえ、出ていきたかった出ていっていいって話してけど、今からできる?」

「ごめん、もう少し待って」

 

さっそくこの子は冗談交じりに出ていこうとしている。

情けなく、M4SOPMODⅡは謝った。

この子との信頼を気づく以前に以前に苦労することがありそうだ。

 

「キレイになったね」

「ああ、本当に感激」

 

3日間本気で掃除した成果が出たのか、内装は本当にマトモになった

確かに家の内装はマシになった。

あれから、自殺者も出てないし……不幸が重なっただけだろう。

そんなことより懸念すべきはこの家のホームディフェンスだ。

今まで安全な基地にいたから全く考えていなかったけど、ここを掃除している間、何回か空き巣と動物に入られた空き巣は訓練とか積んでないから簡単に撃退できると思ったけど、ピストルを持ち出した時は本気で焦った。

 

「これが役に立てばいいけど」

 

戸棚に掛けている空気銃を見つめた、かろうじて買えた銃だ。

けど、ジャンク一歩手前なのか時々変な音がする。

 

「ねぇ、おばさん!テレビ見ようよ!」

 

────まぁ、いいか。

今はこうして、目の前の子供が笑顔になったとことを喜ぼう。

 

M4SOPMODⅡ、HK416がそれぞれ新しい始まりを迎えたころ、とある戦術人形もまた新しい始まりが起ころうとしていた。

 

「やっと帰ってきたのね」

 

基地……と呼べるか怪しい拠点にM4A1が帰ってくると、待っていたのはSTAR-15だった。

 

「どこほっつき歩いてたのよ、アンジェも騒いでだわよ」

「ああ、ちょっと野暮用があってね」

 

M4A1とAK-12達は確かにユーリを救出する為、新しくパラデウスと呼ばれたら敵の拠点に殴り込んだ。

ただ、私とAK-12はそれぞれちがうところからお呼びがかかっており、AK-12はきっと同じ戦場にいたことを知らないだろう。

だから、アンジェも今後のことで騒いでる。

 

「私から謝っておくわ」

「当然よ……で、どこに行ってたわけ?」

「……」

 

M4A1はSTAR-15を無視する様に階段をあがった。

 

「ちょっと────」

 

M4A1は部屋に入ると、強めに閉めてSTAR-15の発言を遮った。

 

「はぁ……」

 

M4A1はベッドに寝転がる。

「私のせいだ」

 

────そうね、貴女はもう少し上手く立ち回れたかもしれない。

────たとえば、エルダーブレインと友達になれたら

 

「今は静かにして」

 

頭の中に響く声を精神力でねじ伏せる。

今はコイツの言葉を聞きたくない。

 

「もう、2度とあんな事を引き起こすわけには……」

 

エルダーブレインの捕獲をする為、列車に乗った時……

そこにいたのはM16A1だった、なんでどうして?という思いもあったし、やっぱり生きててホッとしたもあったし、私の的になっているという怒りもあった。

 

「任務は、失敗した。あれだけのことをしながら……」

 

……どんな感情を抱いたであれ、結局私は弾切れをおこして、M16A1にエルダーブレインを取り逃した。

あれだけ犠牲や巻き添えをして得られた結果は失敗という単語だった。

 

そして、失敗の報告をアンジェリアにした後、キャスターに電話をしてみた。

あの時、キャスターはユーリの事情に詳しそうだった、だからもしかしたらと思って爆発の後、どうなったのかを聞いたのだ。

 

彼から聞いたのは、想像より悪い知らせ。

謎の白い組織、パラデウスに自分たちの仲間が逃げるための時間を稼ぐために捕まったという事実と、秘密裏に作戦を支援するメンバーがかけているという事情だった。

 

M4A1は迷わず、そのメンバーになると言った。

そして、私は誰にも知られることなく救出の支援をして、今ここに帰ってきている。

……始める前に、キャスターに言われたことを思い出す。

 

────今日お前がここにいた事は誰にも知られないことになっている。無論、アンジェリアだけではなくユーリにもだ。

────この事をお前が他の奴に知らせてもどうこうするつもりはないがな。

────なぜ?

────だれもお前の言うことなんて信じないからだ。

 

突拍子もないことだからだと思ったが、思いがけない追い打ちが来た。

 

────所詮、お前の信頼なんてそんなもんだ。今後、お前がどれだけ心を入れ替えようとお前らの失った信頼は背景に何があったとしても帳消しに出来ないんだよ。

 

あの時のキャスターの発言は忘れられない。

そもそも、私がコーラップス粒子の爆弾を使わなければ避けられた事だ、自分自身の忍耐の無さ、そして実力が足りなかったことがあの事態を引き起こした。

 

「……」

 

懐に仕舞っていたプロマイド写真を取り出す。

ユーリとM4A1、初めて博物館に行って一緒に写真をとったときのものだ。

それを内緒で郊外の古い設備を取り扱いされた店で現像してもらった。

 

「────っ。ユーリ……ごめんなさい、あの時手を貸しただけじゃ許してくれないわよね……」

 

懺悔する声に嗚咽が混じる。

ここにユーリはいないが、何もない空間であっても懺悔をせずにはいられなかった。

 

もっと強くならねばならない、技術や力当然として……精神力も私はM16A1と戦うことに対する抵抗から、無意識に狙いを外していた。

それは、きっと私の心が弱いからだ。

 

「このままではダメ……このままじゃ……」

 

使ってはならない兵器を使わない強さが無かったから、あのような惨状になった。

身内を倒す意思という強さが無かったから、エルダーブレインは取り逃した。

私が弱くなかったら、こんな結果にはならなかった。

 

私の中には……”いつまでもこのままやっていける”という驕りがあった。

強くなりたいと思ったことはある、けれどそれは”どんな手を使っても”、”どんな過程を経ても”強くなりたいという必死さはなかった。

 

「強くならないと……!」

 

暗闇の中でM4A1は拳を握りしめた。

2人の笑顔が写っていた、プロマイド写真を強く握りしめた。

強くなれなければ、過去の幸福の象徴になってしまう。

 

「だれにも、負けないくらい……いいえ……!誰であろうと踏みつぶせる強さが無いと……!」

 

突然、心が無いはずの機械の体が、ものすごく熱くなった……ように思う。

まるで、体中から灼熱の炎があふれ出そうとしているようだ。

今、M4A1の強さを願う気持ちは漠然としたものから、激しく明確なものに変わった。

そして、今まで何をしなければいいか分からない自分の未来がはっきり分かるようになった。

 

「これは……」

 

鏡を見ると不思議なことが起きていた。

鏡には自分の体から蒼い炎が漏れ出している自分の姿が見えたからだ。

……けれど、普通の炎ではないらしい。息苦しくないし、スプリンクラーも火災報知器も作動していない。

 

「なるほど……」

 

これは幻覚か。それとも、ようやく自分が本気で生きる気になったからその決意が視覚に影響を及ぼしているのか。

 

「でも、シンギュラリティっぽくて…いいじゃない」

 

不気味でもいい。大切なのは影響がない限り、この見た目を気に入るか気に入らないかだ。

そしてM4A1は大層この姿が気に入った。鏡に映った自分の姿を不気味に笑っていた。

明確になったM4A1の新しい始まりだ。

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