たったひとつの願い   作:Jget

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先制攻撃

「あの態度の悪い人間に罵られて、その挙句に包囲される、最後には災難…あなた本当に面白いと思うわよ、SOPⅡ」

「なんだとお!!」

 

どうやら、疲れが吹き飛ぶくらいにはROからの煽りにSOPⅡが乗った。

 

「だけど、敵の居場所は分からずじまい…はぁ」

「煽るのか、ため息つくのかどっちかにしてよ…でも、下水はもう行きたくないね。まぁ、遮蔽物の無い平野よりはまだマシかも知れないけど」

「それより、Kの奴が言っていた守護天使よ。私ですら手間取ったゲートを開けるなんて」

 

ROは潜入した時の状況を振り返る。

 

「指揮官じゃ無いって事?」

「どうかしら…了解です」

「指揮官から?」

 

RO635はうなづいて取り出した無線を戻す。

 

「SOPⅡ、部下を集めなさい。仕事の時間よ」

 

 

 

 

 

────

 

「あそこまで、大切にロックしてあったケースの中身はホロマップと座標?」

「というか、どれだけの座標が写っているのこれ?」

 

ケースの中には無数とも思える、座標とそれを写すためのホログラムマップだ。

こんな物を自分は警戒していたのかとSOPⅡの肩の力が脱力した。

 

「これが標的だとしたら、街ごとお掃除ですね」

「Kの奴、私たちを完全にバカにしてるね。もしくは道具扱い」

 

AUGの発言にSOPⅡは賛同した。そもそも、ここにいる人形の数でそれが出来るとは全然思えない。

それでも、やれと言うのならKという人物は人の使い方が非常に不慣れな人物だと思える。

 

「ですが、これもアンジェリアさんを救うためにも…」

「だとしたらアンジェリアはがめついなサポートするためにこんな仕事をさせるなんて何考えてる?」

 

カリーナが宥めようとしている言葉に、MG36が早口で言葉を遮る。それだけ、人形側が不満を漏らしたいのだろう。

 

「それにしても、アンジェリアの所にM4やAR-15がいるんだよね?だったらどうして連絡を寄越さないの?…もし、私が思っている事が正しかったのなら…」

 

SOPⅡは途中で口をつぐんだ。

 

みんな分かっているのだ。

秩序蘭流事件で、正規軍の一所属のKCCOと鉄血、グリフィンそして保安局との蠱毒の争いに生き残っているみんなは…

M4A1達は自分達を裏切っているのかもしれない可能性を…

 

「…ごめん。悪かった。そうだカリーナさん、Kさんはこの座標で何をしろって?」

「うーん、人側の真似をしてのんびりする…ですかね?」

「よし、今度直接会えたら殴る」

 

SOPⅡの引き攣った満面の笑顔みて、カリーナは本気だろうなぁ…と内心ビクビクした。

 

────

 

<指揮官、R(レイド)チームは配置につきました>

<A(アサルトチーム)もOKです>

<えへへ…可愛い子には甘いですね。それにしても、武器はしまって良いの?不安だなぁ>

 

こんな気分が緩みきっているルイスの名前を与えられた戦術人形を見て、ハーヴェルが送りつけた人形はちゃんと仕事する気があるのか?とSOPⅡは訝しんだ。

 

<思っていたより、行動が早いな。評価を改めておこう、さて…こんな事した理由だが、理由は彼女達が人間そっくりな精巧さだからだ。優しさは邪魔なだけと言う輩がいるが優しさは時に武器になる>

 

武器を隠させたのはそれが理由らしい、A(アサルトチーム)とR(レイド)チームはサブアームのハンドガンを持っているが、他のハーヴェルから送り込まれた人形達は全ての武器を置いて行ってしまっている状況だ。

 

「パラデウス…」

<白い奴らの息の根を止めろ、取り返しのつく内に。なに、できない仕事では無い白い敵のデータ解析したのを送った。これでやり易くなる>

 

指揮官が確認した、どうやらこういう○のようなマークで表示するのではなく、体の輪郭ごと映すタイプらしい。

 

「よし、始めよう」

────

 

「始末した…こんな感じでいいの?RO」

「やるわね」

 

ハニーバジャーは既に見破られ、民衆に紛れ込んでいたパラデウスをR(レイド)部隊全員が採用している、サイレンサーが取り付けられたベレッタAPXで1秒も掛からず始末すると、死体を素早く下水道に捨てた。後は下水道にいる仲間が始末してくれるだろう。

 

「A(アサルトチーム)こっちの仕事は終わったわ?そっちは?」

<よし…いま、終わった>

<ふぃ〜…これは骨が折れますねぇ…>

 

一瞬ノイズ音が入り混じり、SOPⅡの応答、次にP22の声が聞こえた。ノイズ理由は恐らくパラデウスを動かしているシステムに直接電流を流して始末したのだろう。

 

「これで全部かしら?」

<いや、まだ手こずっているチームがいるから、近いし…そっちの方に行くよ。そろそろ、パックアップの指揮官もくるから出迎えしないと。RO…R(レイド)チームは先に帰っていて>

「了解」

<トホホ…残業ですか…組んだ事ない人形と仕事するのも運任せになりますね…>

 

SOPⅡから、通信が切断された。最後のR93の事を少し、申し訳なく感じながらも指揮官がまだ帰っていない、セーフハウスに撤収する。

 

────

 

表示された敵を全部片付けて、指揮官達がセーフハウスに戻った時間は夜中を指していた、あれだけのパラデウスを探し当てたが、情報を持っているのは何一つ居なかった。

 

「…変だな」

<見事な手際だ。指揮官、ここまで要領良く動けるのはなかなか居ない、感銘を受けたよ>

「仕事は果たしたんです、約束を守って貰いますよ」

 

今回の背景ぐらいは教えてもらいたい物だと、ユーリは思った。

取り敢えず、"こうなのか?"という予想を立てて動くのがユーリ達にも難しくなってきたのだ。

 

<取り敢えず、お前達が何も知らないでも仕事ができることは理解した、今回の成績に免じて教えてやってもいい>

 

やたら主導権を取りたがるKの発言にカリーナは嫌がっている様だった。ユーリはKがその気前が良い間に得ようと思ったのを確認しようとしてみることにした。

 

「あそこまで、詳細に分かっているなら自分で手を下した方が安全で効率的では?」

<これはルールだ、誰かがターゲットを探し出し、それを始末する、データベースを介しているのはより安全を重視した結果だ>

 

Kの発言の中から、マボロが言ったきめ細やかな、ズレのない歯車みたいな所が現れているな、とユーリは言葉の節々から感じ取った。まぁ、Kなりのテストなのでは?とは、思うが

 

「それでは、アンジェリアさんの情報を…」

<お前達以上の選択肢はないが、代わりがいないと言う話でもない、図になるな>

 

相変わらず、Kは鉄壁で此方に有利になる様にはさせる気が無いらしい。

公平にしようとする気持ち感じられないが。

 

「えぇ、"立場"は弁えてますよ?ですが、取引は成立していない、私の質問に答えてもらいましょうか?これは、あなたたちが常日頃に頭を悩ませる国家間同士の話にも関わりますが?」

<…>

 

黙っているがチャンネルは閉じられていない。

話を聞く気になったと言う事で良いだろう。

 

「そもそもの辺り、気になっていますが、今日我々が倒した相手は本当にパラデウスの一員なのでしょうか?彼らには規則性がなさすぎる、最初は大規模な破壊計画を立てていたとは思っていたのですが…あのバラつきじゃ、気づかれたとしても、どうとでもなりますね」

 

Kは話を聞いている。

 

「どう見ても腑に落ちませんよ…ここまで手ごたえがないのは逆に怪しい」

<或いは、その程度の実力しかなかったんだろ>

 

なら、なおさら警戒しておくべきだとユーリの危機感は上がっていく…Kがその対応できないとは思えないが……それでも不安だ。

 

「はっきり言いましょう。これはかなり悪い兆候です…経験上ですが。おそらくあなた方の布石はかなり悪いことになるのではと忠告だけさせていただきます」

<敵を舐めるのも過大評価するのも良い習慣ではないな指揮官>

 

Kは無表情だが、自分のプランに大きな自信を持っているようだった。

 

「そんなに守りたい会議なら、強力な先鋭を寄越しませんかね?本当の目的が…あぁ、推測ですけど別にあるとしたら。考慮の余地があるかも知れませんが」

<面白い意見だな、クライアントに言っておいてやる>

 

クライアントの返事が期待だなとカリーナは思う。

 

「支援でも呼んだらどうです?個人的には手が足りなくなると思います」

<支援なって来やしない、重要な会議ではあるが会議自体に意味がない。だから応援もない>

 

つまり会議自体に意味があるのではなく、会議をすること自体に意味があるとKは言っているのだろう。

 

「つながり…ですね?」

<そう言う事だ、いいか犠牲にならないものなどない、そして忘れ去られない物なんてない>

 

そう言って新ソ連の人間はロシアを忘れようとしていることに頑張っていると言うのは皮肉な話では無いだろうか?

未来に進むためには過去を忘れようとすることが誰であろうと共通している。

 

<長生きしたいなら知らなくていい事は知らなくていい>

「それは"立場"によります。無知で死ぬ場合もあるんです」

 

嘘なんてつかれ続けてきた人形や人は真実を全て受け止める力はない、と言いつつも実際は自分の中の知られたくない秘密を誰かにバレる。

そして黙っていた事がバレた時の反動は怖いのだ。

 

<俺の興味を惹けたら話してやってもいい、だが今日はここまでだ>

「…お休み」

 

Kとの回線が切断された。

 

「さて、彼女達の様子でも確認するか」

 

Kとの会話を終えて、そろそろやってくる追加の人員を見に行く。

騒がしい。トラブルでもあったのか?

話していた時も気になっていたが、ドアをひとつ開けるとそれがはっきり聞こえる。

 

「だから!ここから上の部屋はもう、他の人形が使ってるの!」

「え!?支給されると思ったから、弾が足りない!?」

「ねぇ、この人形と一緒の部屋嫌なんだけど!」

「ウチもお断り!!」

 

ホテル内は修学旅行みたいにざわついていた。

アレがない、これがない、この部屋は嫌だ、この部屋にしたいと文句を並べる人形達でせっかく大人数の拠点にできるホテルが騒音の建物と化していた。

 

「周りに聞こえるよ、静かに言って!」

「一斉に言わないで!順番に話して!」

 

最初、ROやHK416が対応していたが手が足りなくなり、R部隊、そしてSOPⅡもこのごった返した文句に対応するため、駆り出されていた。

 

「マキアートがないなんて知らないよ!自分で買ってこい!」

「やってられないじゃない!やるって言ったんだからちゃんと見回りに行ってきなさい!!」

 

対応していた人形達はだんだんクレームに腹が立て始めていた。

増員でやってきた人形達は潜入作戦という事を忘れていた。

 

「無理だよ!だって、アタシの荷物届いてないもん!」

「臭いのよ!アンタの香水!」

「うるさいわね!アンタの鼻が曲がってんのよ!ブサイク!」

 

声はどんどん大きくなり、しばらくすればこの防音の配慮がされたホテルも私たちはここにいますと大声で挑発するスピーカーになる。

 

「────いい加減にしろ!!」

 

その時、ひとつの怒鳴り声が全員を静かにさせた。

指揮官のユーリだった、その声を聞いた者は雷が落ちように全員、一斉に黙ってしまった。

 

「いちいち騒ぐな……お前達の仕事は騒ぐことなのか?違うだろう?何かする前にどんな目的で来たことを思い出せ」

 

そして、さっきの怒鳴り声とは打って変わって落ち着いた口調で人形達にそれだけ話すと自室に戻った。

 

「(怖い……)」

 

さっきまで五月蠅さにイラついていたHK416達すらも、今のユーリの言動は願いが叶ったのに恐怖を感じてしまった。

 

「鉄血はまあまあかな。あぁ…目も当てられない…やっぱり白いのが1番いいよね!!」

「ここはファッション会場じゃないんだけど……」

 

ファイルを眺めて、各々の感想を述べていた。

ルイス軽機関銃にA部隊のP22がため息をつく。

 

「それはやめて、あぁ…もう、どうして白い勢力が1番厄介な勢力のなのさ!」

「そりゃそう言う狙いでしょ。というか、こんな状況でよくそんな文句が出るのに感心したわ」

 

P22は、あまりにも突拍子もない戦闘基準に呆れている。

 

「しょうがないじゃん!綺麗なものに銃を向けるのは結構心が痛むんだよ!?」

「アンタが部隊員じゃなくて良かったよ。ウチのSOPⅡ隊長はそんなこと気にしないで、あんたが嫌いそうにぐちゃぐちゃに殺すけど?というかターゲットが嫌いならアンタが代わりに汚くなって死ぬ訳だよ?」

 

それでも文句を続けるルイスにP22は、自分の上司の一例を挙げた。

 

「お互いを思いやる気持ちを持てばこんな悲しい気持ちもしなくて済んだのに!」

「はいはい、そうですね。じゃあ、アンタ基準で不細工の鉄血やE.L.I.Dは?」

「そんなのすぐに死んで欲しい」

「数秒で矛盾してる……」

「SOPⅡは酷いよ!!あんな惨たらしい殺し方を好むなんて!アイツって、本当は欠陥品じゃ────…」

「私が…なに?」

 

瓢箪から駒と言うべきなのか、またうるさくされたらさっきの怒鳴り声じゃ済まないと思って様子を見に来たSOPⅡがやって来た。

 

「SOPⅡ?ルイスがヘマしていることまだ怒っているの?」

「ヘマ?」

 

P22の話はわざと聞いていない様な、無表情のままSOPⅡはホルスター取り付けられていたサイドアームを抜き、テーブルに置く。

 

「ねぇ、これ。何だと思う?」

「…そ、その…グロック?」

 

SOPⅡはもうルイスのことを仲間だと何とも思ってないのかもしれない

 

「そうだね。でも、でも、これは人殺しの道具でもあるんだ。この銃口を負けて、レバーを引いて弾が出れば当たった奴は死ぬ。これと同じモノを預かっておいてアンタは可愛いからと言う理由で殺すのを戸惑うと来た。まぁ、何が好きとかは好きにすればいいけどさ、見た目で躊躇う基準を作ると相手に撃たれるよ?殺し合いを舐めてるのかな?」

「可愛いから、嫌だって思ってがわるいの!?」

「その可愛いという奴はアンタの事を敵としか思うよ?」

 

言い返せなくなったと言うより、嫌いな相手に好き放題言われたことでムキになったSOPⅡをドンッと突き飛ばした。

 

「……」

「ちょっと……!」

 

突き飛ばされたSOPⅡがタンスにぶつかり、鈍い音を立てた。

流石に手を出したのはまずいと思って、P22はルイスを止めようとしたが……

 

「お返し」

 

P22が止める前にSOPⅡが勢いよく立ち上がり、ルイスの方に思いっきり顔面に反撃の右ストレートで殴り返した。

 

「うわぁ…痛そ」

 

殴られたルイスはSOPⅡよりマシなソファにぶつかったが、それでも彼女が白目を剥くほど、激しいパンチだったらしい。

 

「……あ、これってやらかし?」

「……まぁ、正当防衛じゃない?指揮官には黙っとくよ、コイツの文句はこれ以上聞きたくなかったってことでお礼ね」

「お礼だね。あ、ルイスには仲間の足を引っ張るのだけはやめてと言っておいて」

「はいはい」

 

殴られて気絶したルイスに軽蔑にも取れる発言をした後、SOPⅡは部屋に戻って行く。

 

「はぁ…やってしまった」

「まだ不景気か?お前は?」

 

MP7がため息をつくSOPⅡの隣に座る。

 

「ルイス殴ったでしょ?」

「趣味が悪いよ、止めれば良かったのに」

「たまたま聞こえただけだよ」

「アイツらが足手まといにならないといいけど」

 

SOPⅡは先程起きた話をMP7にした。

 

「……あー、そりゃあ、アタシも殴るかも」

 

今回の仕事でも足を引っ張ったはルイスだった。

やる気がないと思ったSOPⅡはルイスの事を腕力で差し引いても使える奴だとは思えなかった。

 

「確かに個性で差し引いても困るもんだな、それ」

「なぐっちゃった…むかついて…やってしまった、最初はそんなつもり全くなかったのに…」

「けど、、あいつらはまだ新人だし文句言う年頃じゃない?その上、白い奴らに襲われたことがないなら…あいつらの本性知らないだろうし、今度、その辺りの背景を考えてやったらいいんじゃないのか?」

 

…SOPⅡが、頭を上げる

 

「初めて悩むよ…」

「うそこけ、お前は良く悩んでいたぞぉ?ま、アイツなりにそう言うメンタルが出来る思考になるまでのプロセスが有ったって訳だ、お前もルイスも全部人生っていうデータが違う。だから、ソイツの"個性"として受け入れるんのも…成長っていう、アップデートじゃ無いの?」

 

MP7の話が気にいったらしくSOPⅡは彼女の言葉に笑顔を見せていた。

 

「MP7はたまーにそう言う格言言うよね」

「お前が聞き逃してるだけだ、馬鹿」

「馬鹿じゃ無い」

 

 

暗闇の影に灯った、部屋の光は彼女たちの会話とともに光り続けた。

 

そのころ、ベオグラードの街中では街の薄暗い路地にて────カメラの届かない死角ににAR-15は腰を下ろしていた。

背後から何者かが近づいてくるそして振り向く代わりに…

 

「ついに反逆を拗らせたのか?AR-15?」

「素直に捻くれた?って聞けばいいのに……というか後ろから出るなって前に行ったじゃない」

「前から現れるためのルートは目立つんだ」

 

AN-94は旅行用のリュックサックから聖書を取り出した。

 

「後……バッテリーと弾薬。今回は長期戦になりそうだからとアンジェが私に渡したんだ」

「アンタが待機して場所からよくここに来れたね?」

「M4が偵察した情報からAK-12が作成した下水道のマップを通った。それに状況によってはここを通るから、下見もしておきたかった」

 

AR-15はAN-94に下水の臭いがついていないか訝しむ事も有るかもしれない。

 

「それにしても動きづらいわね、白い奴らがいるから当然だけど」

 

AN-94から、渡された物資の中にバールを取り出す。これで緊急時はコレで殴れ…と言うのではなく、これは偽装した通信機だ。

 

「でもこれは何の意味が?」

 

AR-15は聖書を取り出すと、ページを開く。

 

「本の中身はリロード型のプラグインのチップだったか」

「システムの更新はそのチップで行える。ツェーナプロトコルが使えないお前の為の苦肉の策だ」

「それは、感謝してもしきれないわね」

 

もちろん満足はしているが、喜んではいない。

 

「提案したのは私だが、AK-12がこう言う趣向で用意したんだ。お礼なら彼女に」

 

どっちも性格が悪いだろ、AR-15は確信した。

 

「そりゃどうも、それにしてもアンタはほんと本当にAK-12が好きね。いっその事結婚でもしたら?」

「とりあえずお前の悪意は私に対する提案の仕方が不満だったのは理解した。しかし私とAK-12はそんな関係ではない。ただ…私はそう言う事をしろ、と望まれただけだ、そしてそれだけしかなかった私には、その目的自体が拠り所になってしまっていた。多分、私はAK-12の自由意思なんてその時はどうでも良かったのかもしれない」

 

気色悪いな、AR-15は思ったが同時にそんな目的がなかったAN-94はどんな人形になるのかも興味を無自覚に湧かせていた。

 

「それに、お前の記録から見たM4に対する態度も私から見たら似た様に見えるぞ?」

「それは、私を作ったクソペルシカが植え付けたクソみたいな中枢命令なせいよ」

「何を命じられているか分からない人間よりも人間から命令されてそれに文句を吐けるだけ、まだ良心的だと思わないか?」

 

AR-15が不要だと断じて捨てた聖書をAN-94が拾い上げて、突きつける。

 

「人間の時代、神は絶対であらゆる決定に疑問を持っていけなかった」

「だから、その昔より今の方が暮らしやすいって?」

「もし、人間が私達人形から離れて、人形だけ…いえ、機械の世界になった時…私達は人間の神と同じ様に人間を崇める日が来るのかもしれないな」

「…」

 

AR-15は返答しない。

確かにAR-15はこんな悲惨な運命を課した人間のペルシカのことを確かに恨んでいる、がしかしそれ以上に、自分のことを理解してくれていた指揮官である人間のユーリを、自分のことを理解してくれた存在を、"恋愛感情"として捉えていたからこそ、その発言を自分の言葉で絶対に否定したくなかったからだ。

 

「この話は無ししましょう」

「気に触った?」

「いいえ、回答に困った」

 

冷たくあしらう、AR-15の発言から気に障った事をAN-94は確信した。

 

「仕事に戻るわよ。郊外は私、あなたは市街地を手分けするわよ。"白い奴らと会っても無闇に交戦しない"分かってるわね?」

「"我々の目的はノードとの関係を探る事"…始めよう」

 

 

────

 

<彼女達は離れている、アリア。もう安全だ>

「念の為、もう少し時間を経ってから尾行を続けます」

「Kの違法人形の真似事ね、監視カメラに映らない場所を頼りにしている。なら、死角を調べてそこだけを重点的に探せば見つかる…て言う提案はなかなか効果があるわ」

<慎重に行け>

 

彼女達は気付きもしなかった。

電力を最小限にカットして、レーダーをステルスフィルタでアリ以下の反応しか出ない、存在にしてAR-15達を尾行していた女のことをAR-15達が移動するとアリアも音もなく静音で追いかけた。

 

「AR-15、応答せよ」

<こちらは、予定通りよ。そっちは?>

「計画通り、サイレントスキャンを実行中」

「────…!また、消された…!!」

<嘘でしょ?じゃあ、鉄血を殺した奴はまだこの中をうろついてるって事?>

「私以外の戦闘用の人形の反応はない、実行犯は人間かもしれない…」

<人形にせよ、人間にせよ、警戒するしかないわね。>

 

AR-15は一抹の不安を覚えながらも駐屯地に到着した。

 

<到着したわ、信号がいい加減ね…罠かもしれない>

 

撤退するにも、手ぶらでは帰れない。AR-15はアンジェリアと相談することした。

 

「封鎖可能時間は60秒だ」

 

AR-15にAN-94を通して、アンジェリアに連絡が入る。

 

<こちらアンジェ、進捗は?>

<信号エリアの通信を調査中、ターゲットは駐屯地。規模はそれほど大きくないわ、ノードが軍事施設に可能性は十分ある、だから潜入してみた。破壊する?>

<軽率な行動は避けるべきね。ターゲットは別部隊が破壊する、信号の範囲を広げて、大物が釣れると思うわ>

 

アンジェリアはAR-15に忠告した。

 

<放っておけって事?そんなに"ノード"は大事なものなの?被害が大きくなるのを放置しろって事?>

<あなたの仕事は民間人の保護じゃない。いつまでも民間人気分でいて貰うのは困るのよ>

 

AR-15は聞こえない様に溜息をついて、先程手に入れた情報と鉄血が何者かによって殺された事実を報告した

 

<鉄血は後回しね、AN-94、白い方は?>

<増えています、52です>

<随分な数ね、一気に来たとは思えない。奴らの言う洗礼者が近くにいたとしてもこれだけの数は隠し通すのも無理ね>

<隠し通す気なんて、さらさらないんじゃ無い?>

<だとしたら、免疫システムのエラーね>

 

アンジェリアは一つの仮説を述べる。

 

<白い連中が何をしてくるであれ、軍が言う事を聞くとは思えないわね。中立の立場を曲げないうちは特に>

<確かにね。中立を保つには優秀な軍人と政治家が必要…でも往々にして葉が腐るのは根本からなのよ>

 

アンジェリアが言う根本と言うのは内通者と言うことなのだろう。

 

<時間です>

<そのまま監視を続けて、良いニュースを期待しているわ>

 

アンジェリアは通信を切った。

 

<ち…面倒ね。94そっちの監視は頼める?>

「にゃー…」

<…は?>

 

AN-94の突然の意味不明の発言にAR-15は戸惑った。

 

「気にしないで30分後にまた連絡する。通信終了」

 

AN-94は、早口気味に通信を切った。その足元には野良猫がAN-94の膝上に乗ろうとしていた。AN-94はその猫を抱えて、柔らかい毛並みを優しく撫でた。

 

「失礼、なんともかわいい生き物…と思いまして」

「…え?あぁ…はい」

 

突然話しかけられて、AN-94は身構えたが、どうやら…ただの通りがかりの人にも見える…。

 

「こんなに可愛らしい生き物が種類によっては、人すらも噛み殺す、恐ろしい生き物になるなんて…誰が予想したんでしょう?」

「すみません、貴女は?」

「あぁ…失礼、紹介がしてませんでしたね。私はこの辺に住んでいて餌をあげるのが趣味ですの、どうぞお気になさらず」

 

不気味な感覚を覚えつつも、通りがかりの女性はキャットフード巻く、餌に釣られた猫はAN-94から飛び降りた。

 

「では、失礼」

 

2人がすれ違う瞬間、女性が囁いた。

 

「貴女もそうなの?かわいい捕食者さん」

「────!!」

 

AN-94が振り向く、しかし女性の姿はない。…そこにいたはずの猫の姿も

 

────

 

ビル群の屋上で、何もかもが虫よりも小さく見える、高層ビルの上でその冷たい眼差しでその様子をじっと見ている黄金色の髪の人形がいた。

 

「…アレが、"新しいネイト"か」

 

その人形がバックパックからストックを折りたたまれて、小さくされていたアサルトライフルの銃身にサイレンサーを付けて、スリングを引っ張り、ストックも展開する。チークパッドの確認もする。最後に黒いプレートキャリアを被り、背中にアサルトライフルとバックパックを背負って、ビルの端の線の上に立つ。

 

「他にも、鉄血の新型か。雑魚が多いのは新型サポートだろう。鉄血がこのベオグラードの混乱を解決する為に来たとも思えない。念のため、もう少し雑魚を間引いておくか。どうやら、戦術人形は新たな黎明期に入った様だ。だが、舐めるなよ……新しくなったのはな…お前達だけではない」

 

その線を軽快なフォームで一直線に走り抜け…そのまま崖っぷちを勢いよくけり、高層ビルから迷いなく下へ飛び込んだ、

 

「A-545。作戦開始」

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