「────」
落ちる…街に引き寄せられる様に落ちる、高すぎる所から落ちれば騒がれると思われるが天気は雨が降る前の曇り空、空を見ようなんて思う存在は少ない、人が見えるタイミングでA-545は取手を引っ張る、
「…!」
グワッ!!とバックパックからパラシュートが膨らんで抵抗を増やして落下速度を急激に落とされる、その一瞬の出来事でA-545は宙ぶらりんになった様に、身体を引き寄せられる。
その後、A-545はゆっくりな速度を保ちながら、誰もいない建設予定地の看板もないただの空き地に着地した。
「……あれか?」
周囲に目撃者、敵はいない。
A-545は辺り見回して、少し不自然に盛り上がったこぶの様な物を見つけ、引っ剥がす…。
「…フランスのDGSEがここまで協力してくれるとはな、あちらも"あの方"の予想をよく信じているんだろう」
その中には、事前に用意されたであろう10個くらいの大きめな軍用ケースが隠されていた。
どうやら、手は加えられていないらしい。
「…周りには誰もいない」
それから、地面を掘るとマンホールが現れる、A-545はそれを見つけると、銃を構えながらゆっくりとマンホール取手を外した。
「あの…もっといいやり方が有ったんじゃない?」
「…」
マンホールの下にいたのはデストロイヤーだった、それも成長した身体に換装されている、ガイアタイプだ。
A-545は、デストロイヤーだと確認すると構えを解き、上に上がっている、デストロイヤーの手を掴み引っ張り上げる。
「…任務以外の話はする気はないって態度だね、勝手にして」
他にも、ゾロゾロと鉄血人形達が出現して、その数3個中隊にも匹敵する。
「…先行した、お前達の仲間が見つかった」
「…は!?ど、どうしたのよ!?」
A-545の淡々とした報告の内容にデストロイヤーは衝撃を覚えた。
「…念の為、キル扱いで特定した奴の信号を書き換えた。話は集合地点で聞け、発見したのは反逆のAN-94」
「…お礼でも言ってあげようかしら?…って、アレ?」
「…」
「無視かい!れ
A-545は、とっくに報告だけ済ませると、デストロイヤーから離れて軍用ケースをデストロイヤー達の近くに運んでいた。
「お前達が所望した道具だ。確認しろ」
「…矢継早っ!!…まっ、まぁっ…仕事が早い事はいい事よ、とっとと…確認確認…」
デストロイヤーが軍用ケースの中身を確認している。
軍用ケースの中身は通常の人間の女性用の服装と、鉄血の規格に合う電池、予備部品、モーター、安価な通信装置だ
「…あの、アンタってなんでも手に入れられるの?」
「…何処の街の人間でも鉄血の人形をペット扱いで生活に住まわせている連中は多い…例を挙げると、ダイナゲートだ。ここベオグラードにはいなかったが、場所によっては人形の鉄血人形も確認して、接触もしている」
「そりゃ、さぞ居心地良さそうにしているでしょうね。そいつら、与えられた任務すら放棄する位に」
「そうか」
A-545の反応は淡白なままだ。
A-545は他にもマンホールから出てくる鉄血人形達がいない事を確認すると、マンホールを閉じて再び偽装した。
「通信端末に送られたデータの中に今回のお前達が潜伏できるところをマークした。…私はここまでだ、後はお前達の目的をするなり勝手にしろ、方法は任せる」
「アンタはどうするの?」
「本業をする」
A-545は、用がなくなった相手に何の反応も示さず、その場を後にした。
────潜伏先のセーフハウスにて
「白い勢力は居なくなったが…これは、あからさまな気がしてならないな…何が起きるかすら予想できない」
ユーリは掃討し終えた報告を聞いて、開放感を感じながらもこの程度で終わった事に対して疑問を感じていた。
そもそも、抵抗する素振りすら見せないのが、おかしい…そう思っていながら、何十にもあったカメラの画像をふと見かける…いつもと変わらない、安穏とした街並みだ…
「とはいえ…」
だが、このセルビアは今、新ソ連寄りの中立国家。
干渉を受けない独自性のある国…とだけ聞けば耳障りが良いかもしれないが実際の中立国家は自分以外が全て敵…である。
周囲を危険に晒すという対価を支払って中立は成り立っている。
それに武装や輸入が行われている以上は完全な中立は今のところ実現されていない。
前にベオグラードに来た時があったが…あの街は、明らかに前より"小さく"なっている。
などと、過去の事例を比較しながら監視カメラを流し見をしていると…
「…ん?」
ユーリのよく知っている顔の少女はカメラに向けてゆっくりと微笑んだそんなふうに見える…
「…!」
フラッシュバックが蘇るネイトと名乗る少女たちに暴行されたあの日のことを…拷問されたあの日のことを明らかにあの少女の顔はネイトと…ほぼ同じだった…
「消えたか…だがあの笑顔はまるで…全て分かり切っているかのような…」
おそらくKや保安局はまだ気づいていない。
ユーリは恐らく、この重要な日はとても恐ろしい事になるのでは無いか…と不穏な気持ちを感じていた。
「────俺がアンジェの情報を出し渋っていることにお前が不安を感じているのは知っている、だが彼女も俺もこの家には少なくない時間を費やしてきた。これが達成できればお前は安住のもとに会えるだろう…任務を伝える」
Kはある人物の画像を送りつけてきた
「…こ、この人は!?」
「そういうことか」
画像を見たカリーナが目を丸くして驚いた。
ユーリはやっぱりなと今回の背景の事に関して、然程驚いては居なかったが。
「彼女こそ、グリフィンのエスコートを必要としている人物さ、だが図に乗るなよお前はバックアップでしかないんだからな」
「もちろん、分かっていますよ。ロシチンさんに譲るよ」
<…何故そこまで分かった。どこまで知っている>
「私の知らない事をあなたが知ってるように、あなたが知らない事を私も知っておりましてね……そのうち、答え合わせがありますよ」
聞き返すKに向かってユーリはそれ以上は対応しないと、いきなり突き放したような態度をとり通信を切った。
ユーリは送られてきた資料の女性の顔をもう一度眺めた。
夜中の終わり頃、カリーナも他の人形も眠りについていたのを確認して、ユーリはパチンと指を鳴らす。
するとゆっくりと輪郭が現れてから、金髪の戦術人形が浮かび上がる様にその全容を露わにした。
「……言い過ぎでは?」
「大丈夫、もともとロシチンさんがベラベラ喋ってたことだから」
無事公聴会が終わった日、ロシチンは近くのバーにユーリを呼び寄せ、セルビアである欧州の大物を自分の手で救うから、目立つ撃ち方を教えてくれ、なんて言い出したのだ。
……結局、教えてあげたが。
「それはそれは……」
A-545も呆れた表情だった。
「そっちの首尾は?」
「さっき終わりました。時間がかかって申し訳ありません」
A-545は、下げた頭をゆっくり上げて、万人が見たら美しいと形容されるであろう貌がユーリの視界に写る。
「大丈夫。俺の方ももう少し準備に時間がかかりそうだし……首尾を報告してくれ」
「今回の手筈通りに、"融合勢力"は今日の16時46分にベオグラードに潜入を成功、補給係の人形があらかじめ用意した、"荷物"受け取り、偽装を済ませて予定位置にいるかと」
A-545は手に持っていたメモをめくる。
「報告によると現在AN-94はSTAR-15と合流をするつもりの様です、AK-12とM4A1は動きなし…それ以外に、一つ気になる点が…」
「気になる点?ネイトか?」
ユーリは首を傾げた、ネイトの事を思い浮かんだのかもしれない。
「…いえ、ネイトの事は指示通り観察だけに留め途中で中断しました。それよりも、隔離壁の事です」
「…何?」
「この動画を」
A-545は、撮影してあったと思われるビデオカメラを再生する。
「────はぁ、アリアと話しておく必要があるかもな」
ビデオを見終わったユーリは椅子に寄りかかりながら、今夜の事を想定した。
「だが、その前に……」
インターホンがなる。
掛けてきたのはHK416だ。
「指揮官。フォトンがお越しになられました」
────
───
「あなたがフォトン指揮官ですか?」
「ああ」
ユーリがA-545の持ってきたビデオを視聴していたころ、HK416はヘリアンから送られた追加の指揮官の出迎えをしていた。
HK416は時計を見つめる、彼の到着は時間通りだった。
「ユーリ指揮官と共にお待ちしていました。副官のHK416です。ここでは"クルカイ"とも名乗ってますけれど」
HK416はできる限り、グリフィンの人形として振る舞う為、丁寧な態度を装いながら、仮の名前も伝えて握手の手を差し出す。
「副官のOts-14よ」
差し出された握手は彼の隣にはOts-14戦術人形が割り込むように手を取った。
警戒されているらしい。
「(コイツ……もしかして)」
記憶が正しければ、秩序乱流事件を思い出す。誰もがトラウマにしているあのE.L.I.Dの群れとの戦いを生き延びた数少ない人形だ……
「Ots-14ですか。前に……お会いしました?」
「ええ、アンタのせいで貴重な経験を得た事はっ……!記憶に新しいです」
「────……っ」
グッとOts-14はHK416の手を潰そうとするくらい強く握ってきた。
やっぱり、こいつはあの時のOts-14と同じ人形らしい。
なんとか、HK416も握力を強めにして握り潰されないよう対抗した後、両者は真っ赤になった手を離した。
「指揮官、フォトンがお越しになられました」
<分かった。今開けるよ>
ゲートがフォトン達を招き入れるように開いた。
「……どうぞ、ユーリ指揮官がお待ちです」
案内される。外は古びた倉庫だが、中は前線基地と言えるくらい充実した機材が置かれており、フォトン達は想定以上に整った内装に彼らは驚いた」
「よく来てくれた。指揮官の増員を歓迎するよ」
ユーリがフォトン達を出迎える。
よその指揮官相手なのにスムーズに話が進む。
今度の握手はOts-14は割り込まなかった。
「ああ、アンタに会うのも久しぶりだな」
「お知り合いで?」
「ああ、コイツはグリフィンで入社した時に研修担当だったのさ」
やけに話がスムーズに進むのはこれが理由らしい。
元々知り合いらしい。
フォトン指揮官────苗字はなく、ただ名前だけ。
経歴を調べてもグリフィンが推薦した施設から入社したことと飛び抜けて優秀なテスト結果を出したくらいしかわからない。
ある意味、404小隊よりも謎が多い。
「なんか言いたそうだな」
HK416が警戒と不満そうに見ていたことは気が付かれたらしい。
新人の割には鋭いなとHK416は思った。
こうなっては本当のことしか話せない。
「いいえ、先輩や役職もユーリ指揮官の方が上ですのにそれに合わせた話をしないのは如何なものかと」
人形は嘘をつかない。
そこでHK416はちょうど言うに事欠かない態度について、遠回しに指摘をして考えていたことを別で考えていたことで誤魔化す。
「ただ、Ots-14もそれに指摘しないようですので、私の常識外れかもしれませんが」
確かにと思いつつ、生意気さではそれはHK416も似たようなものじゃないかとユーリは内心苦笑してしまう。
「態度についてはいいさ。彼のような人柄だからこそヘリアンさんや残った幹部達も今回の作戦に彼を推したんだろう」
「そうかい、光栄だな。生まれつきなんだよ」
「そうでしたか」
「それにさ、お互い口調なんて気にしてられないほど、忙しくなるだろうし君なら、その忙しさに潰れる心配は不要だろう」
「確かに」
HK416も頷く。
「挨拶はここまでにしよう。ここは君の拠点だから作戦中は自由に使っていい。私は……あの、ペンキが禿げてるホテルのところで拠点を構えている。何かあったら、呼んでくれ」
そう言って、ユーリはHK416を連れて拠点を失礼した。
────1時間後
「アレがちゃんとした指揮官だと思いますか?」
「俺も何度も注意したんだけど、結局アイツの性格は治らなかった。相当強情な根が深いやつだよ」
帰り道、HK416は早速フォトンの愚痴をいいだした。
ユーリも研修中、1日10回以上指摘して改善を試みたが結局改善されたのはそれ以外だった。
相当なこだわりがあるのだと、ユーリも他の指導役同様諦めた。
「まぁ、気直しに飲み物でも飲もうか」
監視カメラ、及び人の目に写りにくい時代のある居酒屋と言われる様な店にユーリはHK416を連れてやってきた。
元々このお店に用があるだけだが、先に帰らせるのもHK416に損をさせてしまうので適当に飲み物を好きなだけ飲ませることにした。
「お酒以外なら、好きなのを選んでいい。私は人と会う」
それだけ言うとユーリは席を立ち、足を運び予約されていた傘が取り付けてあったある別の席に座った。
好きなものを飲ませると言ったが酒はダメ。
酔った彼女はどうにもできないモンスターだ。
「好きなものって言われても……アイツ、何が他に何が好きなんだ?」
自分で命令しておいて何を疑問に思っているんだと言う時間が、3分ほど経って、白いコートきた白人女性がユーリ達の相席に座った。
「"時間ギリギリです"」
「"間に合ってよかった"」
両者に多少不自然な会話が流れる。
白いコートの女性はユーリの顔を見て、何かを確信すると煙草入れを机の上に乗せる。
ユーリは煙草入れに吸ってもいない、火もつけていない煙草を煙草入れに入れる為に手を伸ばす。
煙草入れの中にあるスイッチを押すと女性の顔が一瞬険しくなり、すぐに元の無表情に戻る。
「通信及び、盗聴機能、マーキング範囲からの除外機能…電子戦機能対策防御"ステルスフィルター"発動、制限は2分。盗聴機能はカットしたわ、会えて嬉しいわユーリ」
「確かに…結構懐かしいな。アリア」
アリアと呼ばれた女性は、ユーリに親しそうに笑う。
彼女はKに挨拶した時に会話した人と同一人物だ。
「…で、こうして直接会ったけど…どうかしたの?」
「明日、行われる二カ国間の交渉の件だ」
「えぇ、連日テレビのクルーでごった返してるわ」
「ウチの保安局を自称する工作員からある人物の警護依頼が届いた」
ユーリはある資料をアリアに手渡した…
「彼女は…ウルリッヒ代表、西ドイツ…ロクサット主義…」
「この人の護衛を依頼された」
「ほぇ、やっぱりそうか。……"あの方"の予想された事の通りとはいえ、それでも急に割り振られたもんね。でも耳寄りな話だわ」
アリアは椅子の後ろに寄りかかると腕を組んで目を閉じる。
「それと…ここからが本題だ」
ユーリは更にA-545が見せたビデオカメラの映像を再生した…
「腐肉喰らい…?群れをなしているわね」
「…これは、A-545が偵察した時に撮影された8時間前の映像だ。腐肉喰らい…それが群れをなして進んでる」
「…行き先は隔離壁?」
「ああ、明日の午前には到達するでしょう」
アリアは顔を両手で覆い、ため息をついた。
「…専門家の意見が欲しかったんだ。どうしてこんなに群れなして来るか分かるか?」
「ちょっと見るわね……うん、腐肉喰らいに種類に規則性が無いわね…という事は周りを無視するくらいに引き寄せられている…と伺えるわ。これは多分、フェロモンで誘き寄せられているんだと思う、でもこれだけ集まったところで…これよ、この構造の壁は壊せない。もちろん"乗り越える"こともね」
アリアがベオグラードの隔離壁のスペックを見せる、たしかに感染者の対策は余念がないらしい、
「フェロモンを使って、誘導できる器量があるなら、この壁のスペックについても承知しているはずだ。集めるだけじゃ意味はない…では、隔離壁に誘き寄せて次にやる事は?」
「隔離壁の開放…もしくは破壊」
2人に沈黙という名の戦慄走る…
「しかし…感染者を中に入れるとしてこのベオグラードを超えた先は東西両陣営の主要都市にも繋がる。いかなる国家であれこの様な計画をするメリットなど…」
「メリットじゃなくて、やけっぱちの可能性は?」
「テロ目的か……なるほど、セルビアの歴史から言えばそうなるか」
ベオグラードはある時は壁を壊されて、ある時は壁を超えられて…街は日に日に小さくなっている。
取り残された住民は何人いることやら…そして、新しい壁が出来るたびに中にいる人たちは外に閉じ込められた人間など我関せずと放置している。
何人いるのだろうか、家族と引き離なされた者、多くを救うという言葉の為に少数に選ばれた存在は…
「相互確証破壊もあったもんじゃないな」
「相互確証破壊が最も成立しない展開は?」
「テロリストによる。相互確証破壊兵器の使用。……つまり、テロリスト誘き寄せた存在の目的は隔離壁の開放?」
「かもしれない。壁を閉められて置いてかれた人達にまた、会う為に」
そうだな。
時に世の中は、理性では予想できないことが原因で起きるものだ。
「ユーリ、念のため私達は今すぐ壁に向かう。あなたは予定通り、グリフィンの活動……その大使を何としても守って、この状況で外交問題を起こさずこの会議をめちゃくちゃするのが恐らく今回の"黒幕"の狙いよ」
アリアは料金を置くと足早に店を後にした。
「……あ、お客様。お連れの方のお食事をお待ちしたのですが」
困ったようすでウェイターが2名分のケーキとコーヒーを持ってきていた。
「ああ、下げなくていいです。こっちでいただきますので……クルカイ、いいかい?」
「あ、なんです?」
仮の名前を呼ばれてHK416は気がつく。
どうやら会話は全く聞いてなくてまだメニューと格闘していたらしい。
それはそれで助かるが……ユーリはウェイターに置いてもらった2名分のケーキとコーヒーを指さす。
「これ、食べるかい?」
────
「どう?合ってた?」
「……これは、美 味 い」
HK416は店のケーキの味に感動した。
UMP45と9が仕事終わりたまに買って帰るケーキより美味いのを食べたのは始めだ。
「それはよかった、作ってくれた人も喜ぶだろう」
「それで……あのアメリカ人はなんなんです?」
「まぁ、詳細は伏せるけど軍隊にいる時にお世話になった人だよ」
「今も、ではなく?」
最初はHK416もアリアと呼ばれた女性と楽しそうに世間話で談笑していたのだと思っていた。
けど、しばらくして404小隊で裏稼業の仕事も経験してるHK416はテーブルに置かれたタバコ入れから声を変換する音波で覆われていたことに気がついた。
HK416は踏み込みすぎを覚悟して聞いた。
「なんだ、そこまで気づいていたのか」
だが、ユーリは全く動揺も怒りもせず、手を頭を移してくつろいだ姿勢をとっていた。
予想されること予め知っていたように。
「実はね、私はフリーメイソンの一員なんだ」
「はぁ?」
陰謀論定番である組織名が出て、HK416も間のぬけた声が出てしまう。
すぐにユーリはなんてね、と言い出したから上手いように揶揄われたことにようやく気がつく。
多分、自分が話しても陰謀論者の妄想と片付けられて信じてもらえないようなことしか教えてくれないんだろう。
「指揮官、これも昔働いていた外務省の方から指示された仕事なんですか?」
「ふむ、それはだね……」
ユーリは顎を当てて考えていた。
その仕草を見て、HK416はかなり複雑な事情を抱えているのだと理解した。
「シラを切り続けて、君のコンディションに悪影響が出るのも困るし……少しだけ教えてあげよう」
「私はコンディションが落ちたりしません」
「それは君が完璧だから?」
「そうです」
珍しくHK416は強気な態度で応える。
そういう奴がコンディションを落とすんだけどな、とユーリは話を続ける。
「実はね、グリフィンより入る前、軍を追放された……その間の期間に、私はある組織から勧誘を受けてね。彼らの仕事を少し引き受けることにしたんだ」
「どうして入ったんです?」
「保安局に背中から撃たれるような真似された挙句、虚偽の罪で反逆者扱いされて……まぁ、自分のいた新ソ連という国が本当に嫌いになった、それに他に生きていくための方法もなかった」
「……なるほど」
「生きてはいけたし、金払いも本当にいいけど。それでも前より環境はあんまり良くなかったな。私の事、嫌いな人はかなり多かったし」
まぁ、仕方ない事だ。とユーリは諦めたように天井を見つめた。
ある任務で謂れのない罪を問われて、逃亡を余儀なくされて404小隊になったHK416も一種のシンパシーを覚えていた。
「ベオグラードもその組織に命令されて?」
「うん。ニュアンスとしては"そこに行くならついでにこれも済ましてよ"みたいな感じだけど……そういうことだ」
組織というのはでおつかい感覚でユーリに仕事を振ったらしい。
意外と組織はいい加減なところなのかもしれない。
「事の転がり次第では、ベオグラードに悲劇が起きるって予想されてね。被害はできる限りなんとか抑えろって言われた。あとは……ある組織がどう動いているかどうか調べろとも」
「ある組織?パラデウスのこと?」
「いや、別の組織だ。ある意味同じかもしれないが……残念だが、教えてあげられない」
キッパリとパラデウスではないと、断言した。
HK416はその組織の名前を聞こうとしたが、制止される。
「これは君達のためだ。あそこはまだ、君達の手に負える段階じゃない……挑むのはかなり危険だ。それに……グリフィンは今、目の前の事に集中するべきだ。周りばっかり、気にして目の前を見ることを忘れたら……悲劇が起きてしまう」
後悔した事を思い出すよう、ユーリはHK416に警告した。
ユーリは警告したことと同じ悲劇を止められなかった経験があるのかもしれない。
「話は以上だ。さぁ、明日も早い。帰ろうか」
その頃、RO達は
「……もしもし。あぁ、久しぶりです」
<ええ、久方ぶりです。秩序乱流作戦以来でしたね>
「……ええ、その件は秘密に……あ、その話じゃない?」
見張りをしていた、RO635の携帯に着信がなった。
電話をしてきたのは以前、秩序乱流作戦で共闘した外務省のファリカだった。
<ユーリから外務省からのバックアップがある話は聞いてます?>
「あー……そういえば、そんな話あったかもしれません」
ここ最近忙しかったからその話は指揮官から聞いたけれど、忘れかけていた。
<ちょうど玄関に着いたと彼女が話していたので迎えに行ってあげて下さい>
「分かりました、今すぐ向かいますね」
────
───
「あなたたちが……SOPⅡとその仲間ですか?」
電話が終わった頃、玄関で見張りをしていたM4SOPMODⅡとACRの元に金髪のツインテールをした人形がやってきた。
「あんたは?」
「外務省から、バックアップがあると言われてただろう。それが私だ」
「バックアップ?」
ACRは日記帳を見直す。
彼女は記憶機能に一部欠落する仕様を抱えており、思い出すため日記帳を抱えているのだ。
「あ、あった!ほら、指揮官が今日やってくるって!」
「ホントだ、大丈夫!入れてあげて!」
SOPⅡが見張りにOKサインを出して、その人形を通す。
「バックアップって、一人だけ?」
「私は挨拶役です。A-545といいます」
どうやら、外務省が来たと言うメッセージをわかりやすく伝えるのと、自分たちの状況を確認するために1人で来たらしい。
「あ。SOPⅡ、彼女がバックアップのA-545さん?」
「そうだよ」
遅れてROが到着して、A-545に握手の手を差し出す。
A-545はその手を見て頷くと彼女の手を取った。
「何かあったら、私たちはあなた達の指示に従えばいいんですか?」
「まさか、やり方はグリフィンの方法にお任せします。まあ、戦闘になればお手伝いしますが」
────視点:AR-15
時間がかかって合流したと思ったらいきなりAN-94は私をほったらかしにして車を追いかけてしまった。
どうやら、彼女には"勘"を司る機能があるらしく今回はそれが機能したという事らしい。
AN-94は要塞に着くと、速度を落として立ち止まった事で漸く追いつく事ができた
「いきなり飛び出すなんて何考えてるのよ」
「アレが見えるか?」
AN-94が指さすところには士官にエスコートされてベオグラード要塞に入っていく人がが見える。
「アレは…恐らく、ネイトだ。一度、セカンダリレベルの電子攻撃を受けた、だが…特に何をするでもなくそこから離れた…きっと私を殺すのに小細工は要らないという挑発だろう」
大丈夫なのかと聞きたいところはあるが、どうやらAN-94はそのネイトに舐められたのが癪に触ったらしい。
「……あのネイト全然これまでの白い奴らのパターンと被らないわね、寧ろ人間の方が近いんじゃない?」
「彼女はマーキュラスと名乗っていた、恐らく新型かも知れない」
彼女たちが要塞に入るにつれて音が聞こえなくなってくる…AN-94曰くここは文化遺産にも登録されていて、住民には平穏と栄誉の象徴らしい。
士官も言っていた戦略的に文化的にもにもここは最適だと、つまりはそういうことなんだろう。
彼らは追跡していると、秘密経路のような道に彼らが入っていった。
経路の奥からはパラデウスの信号がこれでもか、と言う位検出されたが、肝心のマーキュラスの信号は全くと言っていいほど検出できない。
「…どうやって、部下の指揮をとっているのかしら?」
「分からない…しっ、マーキュラス達が話している」
取り敢えず、白い奴らが無口なのは助かった。
こうやって音声は拾えるのだから、
<驚きましたわ、もう少し話が長くなると思いましたのに、こんなに早くまとまるなんて…>
…話?
<既に総意が取れていたのです外との連携は問題なく>
<やはり今の状況はよく思われないのかしら?狐月を見上げる人のように異なる輝きに照らされるのは嫌だと?>
今の状況…士官は文学とは無縁らしいがなんとなく何を言いたいのかを理解したらしい。
<我々も確かに国内に邪悪な思想がはびこることをよしとしません>
<新たな輝きは秩序と新たな見解を与えますが…それはどこがいけないのかしら?>
<一緒にしないで頂きたい>
士官の声に熱が帯びている。
< ロクサットなど単なる笑い話に過ぎません、同胞が壁の外で締め出されている一方で、上の連中が正壁の事だけを頭に入れて考えている。締め出された人間の事なんて言うのはロクサットもこの国の連中の事なんて考えやしないでしょう>
追い出された側の人間か…それを救いたいという気持ちではなく存続の為に切り捨てる行為する人間を私は散々見下してきた…なんて、愚かな奴らなんだと…だが、私と決定を選んでしまった。
だからこそ、士官の話もまたそうなのかもしれないと多少共感してしまった。
<かりそめの日々に安穏を得る時間はもう終わりだ!!私たちは彼らの…例えに肉親であっても、その頭をたたき起こす義務があるのだ…どれだけの値を払っても!!>
たが、この見境を無くした、言葉を聞いて私は危険だ…と思った。
彼らはきっと、手段と目的が入れ替わっている…マーキュラスはその発言に感銘を受けたらしい。…任務でなければ、今すぐ彼らを止めてやりたい…!
足音を掻き分けて、伝わってきた音声通信を分析していくそして…
「途切れた」
「…まさか、いや…本当だな。恐らく遮断領域に入ったのか、それとも…私達に気づいたのか…だ」
だとしたら、包囲するはず…しかし、彼女のあの性格からして…そもそもそんな必要すらない可能性もあり得る。
今のところは…大丈夫そうだ、もう少し前に進んでみよう。
暫く進むと、扉が見えた。どうも、近年作られた改修型だろう。
「音が聞こえなかったのはこのドアの厚みのせいね…」
ドアを開けると、道は二手に分かれており、流石に困惑した。
「言っておくが、分かれて行動しない方がいい」
「なら、奴らが歩いた道は割り出せる?」
「密閉されている場所で、センサーは機能しない…」
「なら、アンタの勘に頼るとするわ」
AN-94は、暫く目を閉じると左の方向を指さした。
前後の警戒を維持しながら進んでいく。
10分後、一方通行だった筈なのに元いた場所に戻ってしまっていた。
「なんなのよ…ここは迷路じゃない!」
────カタッ!!と、音がして次にサッと何が隠れた音がした…誰?音のする方に向かうと…
「蝙蝠か…」
動物1匹でここまで気が張り詰めるなんて…
「斜めになっているから、方向感覚が狂いやすい…恐らく侵入を防ぐためのものだろう…」
「チッ…私達には効果抜群ね」
「AR-15、撤退するべきだ」
AN-94曰く、私達は深入りし過ぎているらしい。
だがこちらもノードが目の前にある分かっていて手ぶらで帰るつもりはない。
要塞に入れるのもこれが最後のチャンスなのかもしれないのだから。
私が壁に手をついた瞬間…くぐもった音が鳴り響いた。
その音に私達は慌てて振り向く…すると。
「ドアが閉まっている…?」
退路が塞がれた…進むしかない。
────視点:AK-12
「お喋りはここまでよ、やるべき事を始めましょう。AK-12、隔離壁の様子は?」
時計は午前5時30分を指していた。
「隔離壁から3キロメートル以内に感染生物の群れがたむろしているわ、原因は不明」
感染性物質の状態は不安定に見える…それ以外に異常は無い。
駐屯軍も含めて…だ。
「それと予報だと雨になるらしいわ、感染症状が進行する可能性もなくはないでしょう」
放射線濃度が心配になるわね。
「嵐か…最悪の天気ね」
パパも言っていた、コーラップス放射線の支配地域及びで雨が降ると雨自体にコーラップス放射線が降り注ぐため、感染のリスクも上昇し感染生物も活発し侵行も進むため、非常に危険だと忠告していた。
もし、ここが私の管轄内だったらパパの教え通りにさっさと追い払っているが……ここは世話になっていた、外務省のヴェルークトではない。
「軍も慎重になってる…汚染のせいでもうここはセルビアの首都じゃないわ、緊急兵力が足りているのすら怪しい、ここは事実上、もうただの一介の汚染都市よ」
「放置された、都市なんてだめも気に留めないって事?」
だから、ここの防衛が脆いという事なのだろう。
「他の都市と比べても大した力はないわ。だからこそ、会場の場にここ選ばれたんでしょうけど」
矛盾している気がするけど…
「リスクとリターンは常に隣り合わせよ」
Kから、通信が入った。
どうやら、保安局のエージェントが到着したらしい。同じ所属の連中だけど、今回は役に立つのかしら?
<それと、グリフィンが試験を通過した>
M4が満足気に笑っている。パパがKの試験に参るはずが無い事は、私は予め予想していた。
それでも、Kの奴は落とすつもりで、やっていたらしい。
Kの奴のイライラ顔が瞼を閉じた目に浮かぶ…ざまぁみろ。
<保安局のエージェントが時間を稼ぐ、奴らを失望させるなよ>
通信が切れたらしい、通信機をホルダーに入れてアンジェは慰霊碑を眺めていた、慰霊碑にはアンジェが捧げた花とそれより前に置かれていたシオンの花が置かれていた。
「何を見ているの?」
「石碑よ、名前が刻まれていないのね。でも、花を添えている?なぜ?」
「…そんなの、この大きさの石碑じゃ書き切れないほど犠牲になったからよ」
まっさらだ、一種の戒めかしら?
「ここに誰か訪れるの?」
「さぁね、珍しい質問ね」
「死者を弔うなら、誰かお参りに来ると思ったけど」
「それはそうなんだけど、もうここはとっくに忘れ去られた場所だから」
忘れ去られた?
「人は何かを忘れないと前を見ることが辛くなってしまう生き物なのよ」
「なんか、哀れね。それが言う通りだとしたら、パパはそう意味では人間として変わっているのかも。いつも彼は死んだ人、犠牲になった人、殺した人の事を忘れないようにして…いえ、そもそも死んだ人の事で忘れる選択肢をとらなかった人だった」
「ええ、彼は人間として戦士として…ある意味、理想の姿をしているとは言わざる得ないわね。だからこそ、あの時の私はその姿を痛々しいものに見えて…その事を悪い事だと言って突っかかって…結局、大喧嘩して…最後は別れた」
あの時の喧嘩は壮絶なものだった。
アンジェが一方的に説教じみた八つ当たりをして、一方的に縁切りアンジェにとっても苦い思い出だろう…
無論、アンジェの気持ちが分からない…とは、言えなかったがこの石碑と同じように忘れて気持ちを切り替えるのが関の山だったのかもしれない。
石碑に書かれた文字を読んでみる…"名前も知らない戦士たち、その勲功よ永遠なれ"
「国家のために命を捧げられるなんてなかなかできることじゃない、犠牲になった人達が忘れられて、いいはずなんて…ないのよ」
忘れる、忘れないが元で喧嘩したアンジェが忘れてはいけない…か、人間て本当に変ね。
「ここを見ると、色々思い出すわ。…かつての仲間達、とかね。あなたもそうでしょ?AK-12?」
「全然…人形には難しすぎるわ」
「ふふ…とぼけるのが上手いのね」
慰霊碑に手を触れる…墓石が雨に濡れていて触った所が滑る。
ごめんなさい、私のせいで犠牲になった人達…ごめんなさい…私が未熟だったばかりに死なせてしまった、ヴェルークトの人達…貴方達の命で私は今…ここで生きています。
「何にせよ、ここは隠れるには最適よ。うまく使いましょう」
アンジェから、離れた所にいる…M4の姿を見た…。
近頃、こうやって1人話しているのが良く見える、秩序乱流作戦の時からチラホラ見えているが最近頻度が多い。
「何?」
さて、この殺気めいた視線を投げつけるのがこのM4A1。
後で分かった事だが、あの爆発で一番被害受けたのはグリフィンだった。あれは、かつて仲間を救うのではなく、単に全員を巻き添えにする爆弾だったと言う訳だ。
「別につまらなそうだったから様子を見に来ただけ」
「────なら、任務に戻るべきじゃない?」
いつもこんな調子だ。
目の前のことに集中しろと言って他の事に目を向けやしない。これじゃ指揮官は石碑を建てられた犠牲者と変わらない。
「アンジェがさ先に備えられた花に興味は湧かないのって」
「────あなたはお花がすきなんだ」
コイツ、パパの恋人の癖して、墓参りにも行ったことがないのか?
「シオンの花言葉は"忘れない"。パパが絶対に墓参りで選ぶお気に入りの花よ」
「……偶然よ。どうやって指揮官は慰霊碑にいけるの?」
流石に今の発言には、舌打ちが出そうになった。
犠牲者の事じゃない、それを忘れようとしないで向き合っているパパの事をコイツは遠回しに貶しているにも取れるふざけた発言をしているからだ。
「…あなたの事も覚えている…という意味でもあると思うけど」
「────流石裏切った戦術人形。溺愛された分だけ、妄想も筋金入りね」
コイツ、アンジェとかペルシカが必要としてなかったら、少し痛めつけてやりたい所だ。
確かに彼女は家族であるAR小隊を失ったことや、かつての姉だったM16が敵に回った事で、メンタルが傷ついた事は同情できる、だがそれでもコイツの味方で有ろうとしているパパにこの態度を取ったのである、ハッキリ言って良い思いはしない。
「まぁ、あんな爆弾でパパを殺しかけたら踏ん切りもつくかしら?まぁ、使った時にそこまで気に病んでいなかったら、私も踏ん切り付くけどね」
「何を言いたいの?」
気づけば、私はM4の胸ぐらを掴んでいた。
「アンタ、何の成果もあげない割には先に救助されて、パパが捕まった時の救出作戦に参加しなかったよね?…なんのつもりですって?…こういうつもりよ」
締め上げる手に力が入り、M4の顔が少しづつ歪んでいく。
「…今は、そんな話したくない。ただ、私は復讐さえ────」
「あぁ…そう?」
…フッと手にこめていた力を緩める。
別に慈悲のつもりじゃ無い…単に呆れただけだ。
「…そうよね、自分とお喋りした方が楽しいもの?」
よく分かった。もうコイツは自分の事しか眼中になくなってしまっているのが、復讐という感情に、私はM4を突き飛ばすのでもなくただM4から離れて、彼女の言う、元の位置に戻ることにした。
────ルニシア
頭の中に響く、清らかな声にM4A1は腹を立てた。
「……あのね?アンタのせいでトラブルになったのによく話しかけられるわね?」
さっきのトラブルは自分をルニシアと呼んで長々と食い下がってきたせいでAK-12に独り言を咎められた挙句、勝手に私の喉からデリカシーのない発言をAK-12に飛ばした。
────あの人形はあなた1人に負い目を与えようとしていたわ。
「だからってねぇ!」
だからと言って会話の内容をAK-12に怒らせるだけ怒らせて、最後は私に丸投げは無責任だ。
最後だって、やっと主導権を取り戻して「復讐さえ、私の間違いだった」とAK-12に謝罪しようした。
だが、勝手に頭の中の声が勝手にAK-12を逆撫でする発言を繰りかえしたせいで、謝る言葉すら最後まで聞いてもらえなかった。
「いい?あなたがここで何を求めているか知らないけど、共倒れがごめんなら余計なことはしないことね」
────はいはい。仰せのままに、けれどあなたはきっと私の力を頼るはずよ。……きっとね。
頭の中にまとわりつく声は絶えず、M4A1の不安を煽っていた。