たったひとつの願い   作:Jget

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混乱、混乱、混乱

────視点:AR-15

 

「もうすぐ出口よ…83…50…着いたわ!!」

 

入り組んだ迷路をどうにか抜けて、出口に到着した。出口の先は劇場の様にも…見えるが…

 

「劇場…か」

 

どうしても、イントゥルーダーとの戦いを思い出してしまう。あの時は指揮官がM4のダミーを動かして、戦うという規格外で辛くも勝利した事を思い出す。

 

「劇場の真ん中…」

「マーキュラス…」

 

次の瞬間、スポットライトが劇場を照らす。スポットライトに映し出されていたのはマーキュラスでまるで劇の司会をしているように優雅に踊る。

 

「間もなく再び私は天と海と地と陸を動かす。またすべての国を揺り動かして、全ての国々が望むものをもたらす。汝らが求める主、何時らが喜ぶ契約の使者が突然現れる『見よ、彼らは来る』と、万軍の主は語られる」

 

「私達には気付いてなさそうに見えるわ、行きましょう」

 

一応見つからない様に、他の部屋へ迂回しようとしたタイミングで…

 

<見えていないとお思いで?聞こえてますわよ>

「!?」

「また、セカンダリレベルへの強制接続!?」

 

頭の中に入り込む様な声が聞こえる…!

 

「諦めなさい、貴女達に生き残る術はないの。そして、勇敢に戦いなさい。なぜなら、今ここで楽しい決闘が始まるのだから」

 

クソ、完全に場を掌握したつもりか!

そして、このナチュラルに見下してくる言葉の端々…本当にムカつく!

AN-94が発砲した弾丸はあらぬ方向に飛んでいく。

外した?どういう事?まるで全て予想されていたかの様に…

 

「…本当に貴女方は面白みもない人形ですのね。まぁせいぜい疑問に思っていなさい。でも、貴方達に生き残れる時間はあるのかしら?でも…せめて、あのヴェルークトくらいには楽しませてくれないと…」

「コイツ…まさか」

 

間違いない、聞き間違えていない…彼女は…マーキュラスは"ヴェルークト"と口にした、指揮官達の部隊の名前の事を…!!

そして、明言したのだ。私たちは指揮官よりも劣る存在だと。

 

「私が飽きてさっさと…殺してしまいますから」

「AR-15!また、大量の敵対信号だ!」

 

また!?あの時と同じだ、一切こっちは検知していないのに突然、大勢の敵が現れる…本当に彼女は無から兵士達を出現させているのか?それとも、私たちでも検出できない未知のステルス能力なのだろうか?

 

「打ち砕きなさい!滅ぼしなさい!瓦礫の様に粉々して差し上げなさい!!」

 

数十発のグレネード弾が襲いかかり、衝撃と破片が身体に襲いかかる。

 

「弾薬が少ない…」

「それは、私もさっき言った」

 

これは…かなり、ヤバい。

彼女の予言が現実のものとなろうとしている。こちらは残りの予備マガジンが2つを切っているのに止めどなく砲撃が余裕をこいている様に襲いかかる。

 

「山を超え、谷を越え、絶壁を縫って、夜霧と雲と嵐と夜を貫いて!!」

 

最後のマガジンを使い切った…!

 

「サイドアームを使え!私の弾薬はお前に対応していない!!」

 

腰のホルスターから、スチェッキンピストルを発射する。

目まぐるしい戦闘でメモリがパンクしそうだ…マーキュラスがジャミングしているのに違いない。

 

「視覚だけじゃ…あぁ…クソ!ダメっ!!」

 

AK-12は、回収した記録からあのマーキュラスとほぼ同タイプの敵と一対一でほぼ互角の戦闘を指揮官は繰り広げたと言う。

 

私達は2人がかりで今にもやられそうなのに…こんな奴を広範囲でもないヘルメットの簡易センサーだけで指揮官はあの化け物と互角にやり合えたのか!?その戦いでどれだけの反射神経と身体能力と思考速度で互角にやり合ったの!?

 

「危ない、AR-15!」

「グアッ!」

 

砲弾が至近距離で着弾した。サブのアサルトライフルを消失した。あれは、残りの弾薬が2、3発しかないから、あまりダメージにはならなかったが…立て直そうとした瞬間、劇場が暗闇に包まれた、電源が落ちたのだろう。

 

「ただの複製品が、ペラペラ喋るもんだ」

 

この声は────

 

照明が戻ったが…それは電力によるものではなく辺りが燃え盛り…明るくなった光だった。そして、その声の主は劇場の上でマーキュラスを見下ろしていた。

 

「やっぱり────」

 

声の主は、M16A1…かつて、私の仲間だった存在…彼女の周りには鉄血の兵士達が陣取っていた。やはり、M16は鉄血の仲間になったのは間違いではなかったのだ。

 

「攻撃開始だ。さぁ、どうする?反逆小隊」

 

鉄血の兵士達のレーザー、銃口が私達の方にも向けられていたのだった。

 

────視点:ユーリ

 

<指揮官様、銃声を確認しました。中の様子は?突入しますか?>

 

「今はかなりまずい状況だ。警備員が全部先程の襲撃者の仲間だった。今、突入しても…状況は好転しないだろう」

 

Kのシナリオを考える、外にいるエージェント達も動く事はできない。

何もしなくても状況は悪くなるだろう。

……となれば、やはりこの状態の突破は────

 

そう思いながらユーリはロシチンに視線を移した。

 

「主席殿、実に感動的なスピーチだったよ。まさに吐きそうだ!!」

 

襲撃者は、ウルリッヒ主席に銃を向けて声を荒げた。

一方のウルリッヒ主席は表情が変わらない。

 

「いいか、外にいる連中は不平等を必死になって訴えていたんだ!それなのに虐殺されたただ不平不満を訴えていただけなのにな!!お前らが押し付けたものなんだぞ!?」

「(保安局…)」

 

結局は火に油を注いだだけじゃないか。はぁ…こんな奴らの尻拭いをずっとやらされていたんだよな…俺は、全く。

 

「俺たちは穢れを浄化せし者、パラデウス!!お前らのような罪人を処刑するためにやってきたんだよ!」

 

パラデウス…!雇われじゃない、本物か?

ようやく姿を見られたが…この状況じゃなければ喜んでいたが…

 

「口では民間人とか曰っているが、そいつらを壁の外に追い出しているのはどこのドイツだ、え?だったら、壊してやろうじゃないか!俺たちを隔てている壁をよぉ!」

「……こっちもこっちでマズイな……アリアか?どうだった?」

<ユーリ、失敗した…!腐肉喰らいが街に!!>

 

アリアから来た通信は失敗の報告だった。

ベオグラードはいま、最悪の状態だ。

 

<ただ、現場の誰かが意図的に資材を崩落させて浄化塔の崩壊はとても緩やかになっているわ。上手くやれば被害を想定以下にすることができるかも>

「分かった。こっちは潜り込んだテロリストに議事堂を占拠された。……こっちは自分で何とかする」

<了解!ベオグラード教会で合流よ!>

 

アリアの報告は思っていたよりも救いがある者だった。

随分と思い切りと丁寧な奴が現場にいたらしい、ベオグラードにもそういう奴がいるのなら、希望は持てる。

それでも、あの方の予想通りの崩落をするとなると浄化塔が1時間もしないで感染者が襲いかかるだろう。

しかも、崩壊嵐の影響で更に強化された感染者は恐らく…グリフィンの銃器では対抗は……

 

ユーリは携帯でSOPⅡに連絡をかけた。

 

「SOPⅡ…悪いが」

<大丈夫、A-545から話は聞いたよ。このためのA(アサルト)R(レイド)部隊だし、今は部下達と一緒に感染者との即応体制と退路の確保してる>

 

よし、一応脱出は叶いそうだ。ここを切り抜ける事が前提だが…

 

<X95、中にいるのは全員倒せるか?襲撃者に引き金を引かせないで…>

<ネガティヴ、標的が多すぎます>

 

フォトンも対応に勤しんでいる。

言われないで動けるということは、ぐずぐずはしていられない状況なのは分かってるらしい。

 

「お前が犠牲になれば、偉大な革命の幕開けだぜ!!」

 

襲撃者がウルリッヒ主席を演台に押し付け、銃口を当てた。

こんな状況で馬鹿なのか?あのテロリストたちは!

 

「銃口を向けられるのはコレが初めてではありません。ロクサット主義に身を捧げた時から、覚悟を決めています」

「なら、さっさと地獄に堕ちろ。女」

 

ウルリッヒ主席は銃口を向けても、毅然とした様子で襲撃者を見つめた、ロクサットに身を捧げている事が実に惜しい女性だ。だが、襲撃者にはそれが面白くなかったらしい、引き金を引こうとした。

 

<X95、私がウルリッヒ主席を狙う奴を撃ったら君も────>

<────もう我慢の限界か?>

「フォトン、大丈夫ですよ」

 

そうかい、アンタ達はそこまで水入りが嫌いか?

 

「仕方ない、カリーナ。」

「────伏せて」

 

ロシチンがいきなり拳銃を取り出して、ウルリッヒの頭に銃口を突きつけたテロリストに発砲した。

彼は俺から占拠されたテロリストを迎撃する方法について何度もレクチャーを希望されていたことを思い出した。

 

「…きさっ」

 

ロシチンだけが行動を起こすには無謀すぎる敵の数だ。

それは、ユーリも前もって説明していた。

それを忘れてなどいない、人数は揃えていた。此処にいる全員がテレビのリポーターや記者ではない。

合わせるようにエージェントだと思われる、人間達を援護する為に記者達も隠し持っていた銃を取り出すと、発砲した。

ユーリも合わせる様にMCXと取り出し引き金を引き絞る。

 

<指揮官!!交換開始ですか?>

「ああ……いや、交戦終了だね…やっぱり最初から仕込まれていたのか」

 

襲撃者は瞬く間に瞬殺された、それだけエージェントのいる位置は最適だったのだ。

そして、記者達が立ち上がると死体を確認し始めた。

 

「コイツは?」

「さぁ?あなたが調べたらどうです?」

 

俺が撃ち殺した、奴は警備員だけじゃなかった。

係員も紛れていたのだ、パラデウスとして。

軽く死体を蹴ると、用は済んだように部下を連れて状況を確認していた。

 

「おい貴様!なぜ、銃を持っている!」

 

エージェントが絡んできた。

俺たちのミスでも、Kが伝え忘れたわけでもない。元々、新ソ連のエージェントというのはたびたび難癖で脅して金を強請るのだ。

HK416は困った様にこっちを見つめる、たぶんベオグラードでしょっちゅう同じ目にあったんだろう。

金を渡して追い払った方が早いだろう。俺たちは今すぐにでも行動しないとならないのだ。

 

「分かった。"誠意"を出すから────」

「────その男に絡むんじゃない!」

「はっ!はい!!」

 

ロシチンの怒声がエージェントをビビらせる。

約束通り無礼な振る舞いには責任をとってくれたらしい。

 

「随分顔がお広いんですね。指揮官に頼ればよかった」

「これくらいの人脈がないと、とても生きてられなかったからね……筋書きにしてはお粗末ですよ。K」

<だから、言っただろう?お前達は単なるバックアップに過ぎないんだと>

 

大方、ベルグラード当局が名簿を差し出したんだろう。溜まったウミを一掃させる為に…その為にこんな回りくどい計画を立てたKや保安局に色々、文句を言いたいがそれよりも、今は此処にやってくる腐肉喰らい共だ。

 

「パラデウス、お前達の信じる"神"は本当に君達を助けてくれる存在かな?」

<死んだ連中の名前なんてどうでもいいと思うがな>

 

まぁそれもそうか。

前は……死んだ奴を軽視する発言は、残念な事に生きている人間にも冷たくなっていくという持論があったのだが、残念ながら今の俺はとても冷たい人になってしまったらしい。

ユーリはロシチンの方をチラリと見た。

 

「指揮官、とにかく次はE.L.I.Dをどうにかしないと」

「もちろんだ」

 

さて、市民を助けつつ、ウルリッヒ主席をまずは脱出させるには…どのルートで行くか…恐らくKが指定してくるのは教会だろう。そこで、アリア達と合流して戦力を集める、そして市民も誘導して、軍の層と舞台がくるまで耐える…よし、このプランで行こう。

 

台上では、ロシチンがウルリッヒ主席を慰めていた、

まて、あの窓シャッターは閉まっていたはずだぞ?狙撃を止めるために…まさか、開いたのは襲撃者か!?まずい!!

 

「全員!伏せろ!!ロシチン!!」

「騒がせてすまなかった、もう大丈────」

 

シャッターが開いていた窓にポッカリと殴られた様に穴が空いた、後ろを振り向くと胴体を引き裂かれたロシチンの上半分がウルリッヒ主席の頭に激突した。

 

────それとだ、残念なことだが……お前が教えたロシチンは死ぬだろう。自分が狩人であり続けるという自信が仇になって。

 

「……」

 

あの方の予言通り、ロシチンは死んでしまった。

時折り自信過剰なところはどうかと思ったが、それが改善されたのか確かめることがないまま彼は死んだ。

 

「全員隠れろ!!」

「柱を盾に────」

 

30mm徹甲弾…まるでフォークランド戦争の再現だな…経験上、大口径弾で狙撃された場合は、目立つ障害物の柱に隠れようが意味はない、見つからない様にしなければいけない。

 

「カリーナ、私から離れるな。おい、アンタ、目立つぞ!そこに隠れるな!!早く外に出ろ!!」

「動けるわけないだ────」

 

次の瞬間、柱に隠れていたエージェントの首から丸を書いた様に穴が空き、その体は崩れ落ちた。

 

「だから外に出ろと言ったんだ!!」

<おい、K!これも、アンタらの筋書きか!?>

<…こんなはずじゃなかった>

 

差し出した、名簿に罠があったのだろう。

信用できるリストにスパイを紛れ込ませれば時間がない彼らは、それらを疑うことをしなくなるだろうから。

フォトンと揉めているKも流石に動揺していた。

 

<任務は続行する。VIPを守れ>

「了解。そっちの様子はどうですか?多くの部下との通信が途切れています」

<チッ…そっちもか、外にいる連中との連絡が殆ど途絶えた>

 

外で撃っていたのが目印になった。

あの初動での動乱自体がフェイクだった。中に入った襲撃者さえも…全ては標的をセットするための伏線…そして、あの方はそうなるであろうことまで予想していた、ということか。

で、ロシチンは一番目立って無防備な所にいるから死んだ、ということだ。

 

「クルカイ!どうだ!?」

「ユーリ指揮官!外は大丈夫そうです!!」

 

外を確認したHK416が戻って来た。

外は狙撃の対象になってないらしい。

 

「フォトン、私は代表を連れていきます!人形の指揮はある程度任せましたよ!」

<了解!誰か通信に出れるのはいないのか?RO、SOPⅡ…!!>

<…>

<…>

 

もう一度かけてみたが、やはり繋がらない。

やられたのか?仕方あるまい、こうなったらあそこで倒れているウルリッヒ主席を走って抱えて外に出るしか…だが、30mm徹甲弾から抱えたまま走れるか…?

 

<…すみません!指揮官、遅くなりました!>

「繋がった!?」

<何があった!?>

 

通信にSOPⅡが応答した、歩き回っているのか?足音が多い。

 

<感染者が…E.L.I.D感染者がやってきていて…!DP-12、隙間をシールドで押さえておいて!!>

<SOPⅡ…ワイヤーが破られた────>

<ACR!?今行く!!>

 

もう腐肉喰らいが来たのか!?進行が早すぎる!

 

<指揮官!!私です!!M82A1です!>

 

M82A1とも通信が漸く繋がった…しかし、どうやら慌てている様子だった。

 

<指揮官…感染者が急激に能力を上げています。恐らくは…崩壊嵐の影響かと…>

<参ったな…>

 

壊されたのは壁だけじゃなくて浄化塔もか…!崩壊嵐の影響を弱められなくて、嵐の雨に打たれた腐肉喰らいどもは大気に蓄積されていたコーラップス濃度が上昇して…恐らく、"歩き"から、"走り回っている"のか…

 

────20分前

 

────指揮官直属部隊…この部隊はRO635がより、信用できる能力と精神力を持つ、ユーリ・フレーヴェンにもしもの事態、及びユーリ・フレーヴェン指揮官個人による運用したいという事態に派遣される部隊だった。

 

「────デモ隊は解決したらしいわ。このまま、会議もされるらしいよ。平和なものね、M82そっちは?」

 

廃ビルではなく、通常の高層ビルで監視をしている、PA-15はトライポッドで下を眺めている、近くのビルにいる同じ直属部隊のM82A1に「異常がないか?」と質問した。

 

「…ネイトと思わしき存在を探しています…指示をしたのは彼女だという可能性があるので」

<…そうねぇ>

 

通常は1つの任務に1人が派遣される事がセオリーだったが、今回の直属部隊は全員が派遣されていた…

突然、浄化塔の方角から連鎖した様な爆発音と大量のコンテナが崩れる音がした。

 

<何の音っ!?>

<誰か情報を!!>

 

そうだ、情報を…スコープを除き、爆発が起きた方向を確認する…そこに映ったのは…

 

「────感染者」

 

今でも、時折思い出す…あの人間が怪物に変わった声…あの、体が崩れ落ちたように変貌した、生物達がベルグラードの市民を狙っていた、

 

「報告、浄化塔が何らかの方法で爆破して一部分が崩落。その箇所から感染者及び感染生物が市民を襲撃しています。隊長、指示を」

<……指揮官?繋がらないわね。仕方ない、感染生物に攻撃せよ、民間人救出を許可する>

 

直属部隊の隊長である、Ots-14の判断は早かった。

 

<私は下に降りて支援する。M82A1、降りる時になったら声掛けて>

「分かりました」

<報告!議事堂で長距離狙撃が行われている模様!!>

<ZB-26、M82A1、G36、PA-15は暫く持ち堪えて、街を防衛ラインを超えたら撤退。VectorのポジションはG36と交代する。残りは指揮官の救出とAR小隊の援護、重要ランクは一番に指揮官、2番にA部隊、3番にR部隊。また、撤退中、民間人を発見した場合の同伴は許可する。撤退ポイントはベルグラード大教会>

<戦術人形は屋外にいる奴は全て排除しろ!!市民は屋内に避難だ!>

 

無線がとうとう騒がしくなる、防衛軍も出張ってきているらしい。

こっちでも崩落を食い止めている無数のコンテナの隙間から、E.L.I.Dが次々と街侵入し始めていた。

 

「グゥアアアア!!!」

「キャアア!?」

 

「オオオオオッ!! 」

「────だ、誰か助けて!」

 

「────見つけた」

 

距離にして、800メートル、対物ライフルを運用するためにも運用される。12.7ミリ弾は真っ直ぐな軌道で市民に襲いかかった、感染者の動体を引きちぎった。

 

<東四門防衛線より、司令部へ!E.L.I.Dが市内に侵入!現在交戦中!!>

<至急増援を、なっ────どうしてここに、うわああああ!!!>

<M82!感染者が早すぎる!!押さえきれない!!>

「分かっています!!この速度…明らかに通常の個体よりも速度が違います…!」

 

通常なら歩いて襲いかかる感染者達が猛ダッシュで襲いかかった。

もしコンテナが塞がれてなく、一斉に雪崩れ込まれていたらここはとっくに突破され、ベオグラードはあっというまに地獄絵図と化していたろう。

 

<クソおおおおッ!!!>

<この野郎オオオオオオオオオッッ!!>

<撃て!撃ちまくれぇ!!>

 

だんだん浄化塔も持ち堪えられなくなってしまっている。

銃声も少しずつ小さくなる、ジリ貧だ…

 

<────助けて!M82っ!?アアアアアアッアア!!痛い!いい痛いっ!イイイ、アアアアアアアアッ!!!>

「────!」

 

PA-15が、E.L.I.D…!E.L.I.Dに食われていて、悲鳴を上げていた、ビルに感染者が登ってきていて、もう、ドアまでやってきている。

 

「────クッ!!!」

「ごめんなさい…」

 

PA-15は、もう体の原形を留めていてない…E.L.I.Dに配線ごと引き裂かれ、コアは粉々に引き裂かれていた。

 

「────っ…G36!!…撤退します!!」

 

階段はもう使えない。仕方なく備え付けていたロープで降りて、連絡橋の上に降りてから、下に降りよう。

 

「あ!」

 

降りようとして、下を見た時感染者が1人の子供に襲い掛かろうとしていた…!

 

「────!!」

 

あの子供を見た時、私の中で何かに突き動かされた…

 

「今のは…」

「M82!下を確保しました!!」

「分かりました」

 

ロープを降りてM82A1が目指した、下の世界はベルグラードに住んでいた、住民と感染者の死体と赤い血で塗りたくられていた….

 

────視点:AK-12

 

<M4!AK-12!!状況を報告しなさい!>

「その…」

 

2人は顔を見合わせた、この状況を口にするのは難しいだろう。

こんなおぞましい、混乱、混乱、混乱した様子を…

 

「反乱軍の阻止に失敗したわ。アンジェ、奴らは壁を壊した。M4が咄嗟の判断でコンテナを落としてバリケードを作らなかったらどれだけの感染者が……」

 

M4A1の判断は賞賛に値するほど見事なものだった。

まず、ランチャーの一射目でまず外壁を斜めに破壊した。

さらにM4A1は外壁の上にランチャーを発射して外壁の上にあったコンテナやその他資材や機材を固定したものを粉砕し、崩れようとする浄化塔の下に一斉に流し込んだのだ。

 

「でも、爆発でできた穴は小さいけど浄化塔の管理が機能を停止したし、あれだけの感染者がいる状況では、塞ぐのは簡単じゃ無いわ」

<…大体わかった>

 

リカバリーしたとはいえ、最悪なタイミングで隔離壁に穴が空いてしまった…あの、自分勝手な言い訳を残した連中の手によって…さて、アンジェはどう出るか…?

無線が感染する中、1人の聞き覚えのある将校の声が聞こえた。

 

<こちらは東エリア防衛部隊代理の指揮官。ドラゴヴィッチ少尉だ、各防衛部隊に告ぐ、隔離壁付近による反乱軍による襲撃が発生した。私の指示に落ち着いて従い、行動しろ。我々の基地を守り抜くのだ!>

 

ドラゴヴィッチ…少尉だったのね。

あの、ピカピカの金色の髪をした戦術人形が助けた人だったわね…それにしても、彼女達…大丈夫なの?

 

「アンジェ、私達はドラゴヴィッチ少尉に接触しています。話を聞いてくれるかもしれません」

<成る程、現地の人間と手を組んで状況を打開するのね>

 

だが、私達は存在を公では認められていない。

その前提で作戦が進められているが…こんな状況だ、今更外交なんてここでは気にしていられない。

 

<お困りですね、少尉>

 

早速、アンジェがドラゴヴィッチ少尉にボイスチェンジャーで通信で接触を試みた。

 

話はドラゴヴィッチ少尉に分かってもらったらしいが…やはり、ここの防衛部隊の人間はE.L.I.Dとの実践経験が皆無だった。そして、状況は混乱して統率は辛うじて取れている、だが下層は突破された…か、私達の力では下層は助けられないだろう…ヴェルークト、それか大国の対E.L.I.Dの特殊部隊なら…もしくはどうにかできるかもしれないが…

 

<最悪ですね…出来るだけ狭いところで…例えば廊下や通路など、弾が当てやすい所で弾薬を節約しながら防戦を>

 

これはヴェルークトでの"個人生存"という、ヴェルークトで最も基本的な戦法だ。E.L.I.D戦は無軌道に押し寄せてくる、E.L.I.D達により部隊が散り散りになる事が常日頃から、発生するためできる限り各個撃破でき、少しずつ持ちこたえて押し返す局所戦闘だ。

 

<その後は戦力を少しずつ合流させて、再度防衛戦を立ち上げて下さい。まずは完全生物の物量に押しつぶされない様に>

 

奇策も思いつかない以上、プロがやる大まかな戦法を真似るしかない。

それに、より1人でも生き残り1分でもE.L.I.Dを止めることができるだけでも、E.L.I.Dの被害はかなり変わるとパパも訓練の時に教えてくれた。

 

「パパ…」

 

<聞こえたわね。これより、各防衛部隊の支援に当たって。同時に孤立した部隊を連れ戻すのよ>

 

忘れていたわ、アンジェは嵐の中でサーフィンする人間だったわね。

 

「────穴が少し塞がったから敵は減っている!?どこがよ!?」

 

腐肉喰らいどもは、胴体に当てても衝撃が伝わりづらいから頭や首筋を、又は体のどこかしらの付け根を狙わないと衝撃で相手を殺しきれない…貫通仕様が意味はない。

 

「ヴェルークトがあそこまで外付けで、近接用の装備を揃えていたのがよく理解したわ!!」

 

一旦倒したようにも見えても、ふと立ち上がって背後から襲いかかってくる事もある。

出来るだけ弾薬を節約してもなかなか倒せない…しかも、頭を狙おうとしたらいきなり不規則な動きをして弾薬が外れるものだから、殆ど他人の面倒すら見れない状況だ。

 

「M4!また、出たわよ!」

「うおおおおおおオオオ!!!!」

「コイツはっ!?」

 

AK-12は進行が進んだ、恐らくB型と言われて、巨大な肉体に変化した感染者を見上げた。

あのタイプは歩兵が持つアサルトライフルでは6.8ミリ程の強力な貫通性能を持つ弾丸でないダメージも豆鉄砲だ。

 

「無理やりなんとかするしかない」

 

節約の為にセレクターをセミオートにしていたが火力を上げる為にフルオートに切り替えて集中的に火力を上げる。

 

「オオオオオオオオオッッ!!!」

「────ウゥッ!!」

「────ッ!!」

 

衝撃波で私達を吹き飛ばされた。

その上その衝撃波に含まれるコーラップス粒子が私達に熱を浴びせて負荷を蓄積させてくる。

50発近く当て続けて漸く、5.45ミリのポイズンバレットが硬化した足の付け根の皮膚を削り出した。

 

「M4!!」

「分かった!!」

 

M4はランチャーを発射、削られた皮膚がそれなりの大きさの傷穴に変わる。そのまま、M4がB型に接近した。

フルオートで削られた皮膚の中にマズルを刺して集中砲火を喰らわせる。

 

「ゴッ、アアアアアアアアアア」

「────弾切れ。まだよ!!」

 

マガジンの中身が無くなった、銃を手放して、M4はホルスターにしまっていた、FNX-45を取り出して45口径弾を16発浴びせて、漸く衝撃がB型の息の根を止めた。

 

「ハアッ…ハアッ…」

「ゼェッ…ゼェッ…」

 

ヴェルークトでは、こんな戦闘は日常茶飯事だろう。戦闘記録でも、3分もしないで3体のB型をヴェルークト平均で狩っている。

私達は、20分かかって追いかけ回されて…やっとの思いで倒せた。

 

パパと似た雰囲気の戦場に立ち同じような目的で戦って、改めてパパの能力の高さを肌で感じた。

資料映像や話を聞く限りではそんなに難しいことか?と思っていたけど、やってみると難易度が全然違う、これで損耗率が低くするための戦術も編み出してくれたのだから感謝すら以外の言葉が見つからない。

 

「はぁ…はぁ…ここの兵士達は銃の使い方が荒いわね…」

 

たしかにM4はメンテナンスが完璧ならどこでも運用できる優れものだ。だからこそ、メンテナンスの手間が増える荒い扱い方に不満を持っているのかもしれない。

 

「AKを使う奴らは自分の銃が故障した経験が無いのよ…最も、つい数ヶ月前まで私もなかったけど」

 

この調子だと、やられるのは時間の問題ね…その上、避難状況や支援部隊の動員もあまり芳しく無い。謎の戦術人形部隊が救助していると言う話もあるときた。

 

<でも、弾薬さえあれば、対処できないことは────>

 

ヴァオオオオオオオオオッッンンンンン!!!!!

 

突然、全身の毛がよだつ方向が街を覆い、壁の反対側から気持ち悪い光が灯る。

周りが明るくなったと思ったらその壁がドロドロと溶けて、呆気なく誘拐して壁の一部分が土に溶けた。

そして、その溶かされた壁を乗り越えて、"ソイツ"は現れた

 

 

 

────視点:A-545達

 

「え…そ、そんな…ははは…"アイツ"までいやがった…」

「まずいな、アレが出たってことは…!?」

「ええ……あの方の最も悪い予想が当たっている!!」

 

────視点:M4SOPMODⅡ

 

「SOPⅡ、私達…アレに勝てると思う?」

「────無理だよ」

「でしょうね。もう、最悪を通り越して、地獄を通り抜けて、此処はもう冥界よ」

 

 

────視点:ユーリ

 

「し、指揮官さま?ご、ご無事ですか?」

「どうにか、クルカイは?」

「私も…そ、それより。あ、あれは…?あれは…あれは何なんですか…」

「……あれは、E.L.I.D覚醒態…最強の…敵…だ」

 

忘れていた…絶望は往々にして、手の届く範囲にある希望と隣り合わせだと言うことを。

混乱はいま、始まったのである。

 

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