たったひとつの願い   作:Jget

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殿

「来るな!」

「やめて!!」

「ウぉおおおお!!」

 

隔離壁が壊され、ベオグラードの状況はどんどん悪くなっていき、良くなる兆候は一つもなかった。

 

────視点:M4A1

 

建物の屋上に上がり、その下を眺める。こんな絶望でも諦めずに銃撃の音が鳴り響いている。

しばらく、眺めていて…隔離壁を見つめているとアイディアが思いつき、アンジェリアに連絡を入れた。

 

「アンジェさん。いいですか?」

<…どうした?>

 

やっぱり、アンジェリアさんの声から少なからず抜けきらない動揺した声が帰ってきた。

 

「前と同じように隔離壁の隙間にこちらの武装を撃ち込んで崩落させてます。落下した残骸でバリケードが出来上がったら、まだこの状況どうにか改善できると思うんです」

 

<……危険すぎるわ。そもそも、隔離壁の穴には感染生物が屯しているのよ。それにあの化け物がぶっ壊した穴を塞いでもとっくに街に入り込んだが街を蹂躙している。あの化け物もね───あの化け物を倒せないとどうにもならないのよ、終わりよ…ここは>

 

でも…彼らの為に出来る事が…あるはずだ。

そう思って踵を返そうとした時、胸の奥が熱くなる様な感触が伝わる。

 

「く…うぅ…!!」

 

足を進めるたびにそれは大きくなる。

 

────あなたは大切なの。危ない事をしないで

 

また、お前か?

お前が邪魔を…それにそんな意見は…断る。

 

────こうも簡単に情が移るとは考えなかったわ…恋人を道連れ同然で崩壊液を使った時に揺るぎない意思を持つと思っていた私の考えは誤りだったわね

 

どうして…私を止めるの!?

 

────あなたには使命がある

 

うるさい…!その使命もアンタが決めたものでしょっ!?私には関係ない!!

 

<────M4!どうしたの!?>

「う…」

 

アンジェリアさんの声で意識が取り戻されていく…どうしてこんな邪魔を…

 

<衝動的になってはダメ。戦力には限りがあるのよ、あなた達一人一人が重要なの>

「────重要?この状況を食い止める以上に重要なことがあるんですか?指揮官なら。こんな状況でも、きっとひっくり返せるのに…あなたは諦めるんですか?」

<────…っ、そうね。失望した?>

 

ため息と失望が混じった感覚で、諦めろと言われたアンジェリアについ、日頃思っていた事が漏れてしまう。

一瞬だがアンジェリアから動揺を感じた。

 

<……やるべきことはある。あなただって仲間の命の方がここの人よりも大切なんじゃない?────AR-15達がしくじった、救難信号を送っているからすぐに助けに言って>

 

アンジェリアが無線を切った。

腹立たしいが、AR-15が救援を望むなら行かなければならないだろう。

 

────20分後

 

合流地点を目指していると、路辺に横たわる兵士を見つけた。

そばではE.L.I.Dの死体が積み重なっている。

 

「ぐう…っ…!」

「どうしました?大丈夫ですか?」

 

近くの家屋に運ぶ。

兵士の動きが固まっている様に見えるが…

 

「た、頼む…殺して…くれ」

「────え」

 

耳を疑う様な発言だった。

あの固まった様な動き、まさか…付着しているコーラップス液の粒子を吸い込んだのか?

 

「そんな…こと」

 

M4にとって狙って撃つことは簡単だ。銃を兵士の頭の方に向けて、引き金を引けばそれで終わる…だけど、彼は敵ではないし、生きている。

そんな簡単な事を躊躇う。

 

「感染…初期症状が…痛い…頭と…腹が…頼む…もう、自決をするための…トリガーも…指が動かなくて…出来ないんだ…」

 

もう助からない事は、わかっている。

でも、どうして死ななければならない?

 

「あんな…化け物に…なりたくない…家族を…食い殺した…アイツ…なんかに…俺は…なりたくないんだ…!」

「…そうですか、分かりました」

 

大切な存在を奪った奴になんか…なりたくない…か。

私も同じ状況だったら、同じように頼むだろう。

兵士は必死に右手を上げて、敬礼のポーズを取ろうとしている…

 

「…」

 

M4A1は兵士の頭に数発引き金を引き絞った。

頭を撃ち抜かれた兵士は、言葉も発さずにこときれた。なぜだろうか?どことなく、この兵士が安心していた様な気がする。

 

────今度は迷わなかったわね、賢い判断よ

 

何をどう選べと?今更、正しい判断なんかに意味なんかあるものか。

いつだって失敗ばかり。

仲間を失ってばかり。

大切な人だって自分の判断で失うと同然の選択をした。

…そして、その結果に干渉できるでもなく…ただ私は見ているだけ。

 

────あなたが悪いわけじゃないわ。彼は価値あるものの為に犠牲になった。

 

「何が正しいって言うのよ!?これを見なさいよ?何がっ!!何がっ!!何が…正しい選択だったのよ!?」

 

ふざけるな!!いつも私に冷酷な判断だけさせやがって!!

殺した時はこうやって慰めて保護者気分になるのも大概にしろ!

どうして、私が救いたいと思うときにお前は邪魔するんだ!?

 

「私が…私に…私なんかに…何の価値があるって言うのよ…!!」

 

ベルグラードの街を走り出す。

街のあちこちでコーラップス液で動けなくなって痙攣する人たち、しばしば聞こえる人々の悲鳴、泣き叫ぶ様に狂ったよう声を上げて、目に映った全てに暴れ回る戦術人形。

 

「もし、私が犠牲になって全てを取り戻せるなら!喜んでそうする!」

 

────そうはならないのは、あなたもわかっているはずでしょ?彼らと昔のあなたは変わらない、似た様な価値観で犠牲になるのかとは躊躇わない。でも、それをしても何も変わらないことをあなたは知った。…私はただ、事実を述べているだけ。事実を述べるのは恥ずかしい事じゃない。

 

あなたは私に事実を述べた事があった?エルダーブレインと対面した時は?

 

────敵はあなたと同じものを探している、どんなことをしてでもね。早くしないと取り返しがつかなくなる。ノードを見つけないと。

 

ベルグラードがその一端だとでも?私達が探しているもの?ノードってなんなのよ?

 

────私が知っているのは「バクラーダ」ノードが始まりにすぎない事。だからこそ、ブラックボックスの全容を知る必要があるのよ。

 

初めは仲間が犠牲になった。

そして次は私の愛した人…その人は私の…この手で傷つけた…

今度はこんなにも多くの人が犠牲になっていく…私はただの疫病神よ、もしアンタがいう資格というものがあっただとしてもそんなの欲しくない!

 

────誰だってそうよ、でもあなたは特別だったの。あなたの背負うものが他の誰かが決して得ることが出来なかった。

 

「そんなの…ただの呪いよ」

 

────ずいぶん長い間、人間の高さに縛られて生きていたのね。それが愛とか絆っていうのかしら?自分について考えたことがないのね?恋人を作ったのはあなたの人生で最大の失敗かもしれないわね。

 

「…そうね、確かに失敗だったかもしれない。指揮官と恋人同士になった事は、でも…それは指揮官の人生を狂わせてしまった事が失敗だったかもしれなかった事よ。私があの人を愛することを知ったのは失敗じゃないわ!!」

 

勝手に私の中に入ってきて、いつもあなたはあの人の事を汚点だと判断して、嫌う…!やっぱりあなたが彼の事を語る資格なんてそれこそないのよ!!

 

私の中である考えが浮かんだ…そして、これは今日考えたどの考えよりも前向きなものだった。

 

「…そうか、さっさとAR-15を助けて仕舞えば、あとは勝手にしていいんだから…指揮官に会えるんだ」

 

そうだ…忘れていた。

どうして、そんな素晴らしいアイディアがすぐに思い付かなかったんだろう。指揮官なら、こんな問題だってすぐに解決してくれるに違いない。

 

「そうよ…そうじゃない。初めから私が一々こいつの言葉に付き合って、惑わされる必要なんてなかったんだ…」

 

そうと決まれば、話は早い。さっさとAR-15を助けて、私は指揮官に会いにいくんだ。

 

────視点:アンジェリア

 

「────アイツならこの状況をひっくり返せる…か。そうね」

 

アンジェリアは空を見上げて、溜息を漏らした。

 

「確かにアイツが戦う戦場で戦うといつも兵士の士気が馬鹿みたいに上がっていたわね…」

 

多分、私達の国の中でもっとも経験と実力、そして実績を伴うやつは間違いなくユーリだった。

 

<珍しい顔するのね>

 

AK-12か…

 

「アイツのことを少し、ね」

 

クルーガーがどうして、アイツを指揮官にさせたのかは全然わからないが少なくともアイツは後方で指示をするよりも前線に向けて発せられた士気や命令の意図を全然で円滑に動かす"現場"人間としての適性が高かかったし、アイツ自身もそれは理解していた。

 

「────今思えばかなり馬鹿な事したわよね」

<あなたは悪くないわ。────悪いのは全部私よ>

 

だけど、アイツは保安局と仲が悪い外務省の人間だった。

いずれアイツが外務省以外の人間にも認知され出して、カリスマを出す様になるのをゼリンスキーは恐れた。

 

小熊のミーシャは必要だと思った事を躊躇なく行う人間だ。

結果、娘の様に可愛がらせたAK-12を潜り込ませて、内部から暗殺しようとした…その結果は?AK-12はユーリの命の代わりにアイツ部下が盾になって殺されて、ヴェルークトは半壊した。

 

<私は…そうね、彼の"兄弟"を殺した…この手で、ね>

 

外務省と保安局の中は決裂に近い状態を起こしたし、KCCOは外務省のヴェルークトと合同で作戦をする程親密だった。

 

<パパを殺したら…私も死んで後を追うつもりだった…パパはいつも死んだら地獄に行くって、死ぬ時の話題で言ってたから…パパを殺した私も地獄についていくつもりで…でも、殺せなかった>

「その話は何度も聞いたわ。その時、アイツは絶望したはず…」

 

KCCOのクーデターを引き起こす事態にまでなった理由の一つもそれだろう…エゴールは年下なのに、ユーリの事、結構憧れてたし。ユーリもエゴールの事を結構、目に掛けていたからね…跡継ぎにも考えてたのかも。

 

「その絶望を救ってくれるかもしれないかとしれないのが…M4だったとはね、彼女の心に背く様な命令をしてしまったわ」

<あなたが傷つけた影響がどうなるかなんて分からないわ。でも、あなたの選択はきっと間違いじゃなかった>

 

私自身が救えないのに…よくもまあ、偉そうな言葉が出るものだ。無線でアイツが民間人を救出している旨の通信も聞こえたし…それに、内容はウルリッヒも救っているらしい…聞けば聞くほど惨めな気分だ、通信越しのすぐそこで目に映る全てを救っているアイツが居るじゃないか。

 

────視点:ユーリ

 

「見えたぞ!指揮官達だ!開けろ開けろ!」

 

何とかネイトを振り切って、教会に戻る。

教会の中には避難していた市民と何とかたどり着いた人形で少しごった返していた。

 

「────ホラ」

 

鉄血の人形からエナジードリンクを渡される。民間人や味方のグリフィンの人形に攻撃していない、と言う事はコイツら、"融合勢力"か…

 

「弾丸はないの?」

「そこまでは管轄外だ」

「もういい…自分で探す」

 

SOPⅡは飲み干した、エナジードリンクを捨てると補給用のサプライを漁って弾薬を探した。

 

────15分後

 

さて、あの時見たネイトは見間違いじゃなかった事は確か…だが、あのE.L.I.D…まさか"覚醒態"が現れたのは最悪だ。

遠目からでも見た…あの強さ、そして…感染者の大幅な強化や戦術人形だろうと感染者の様にする能力…ここが一日持つだろうか?

 

「……っ」

 

端末がユーリを呼び出す、しかもこれはグリフィンで見せている携帯だが……自分を呼び出している相手はクトゥルフだった。

このタイミングでかけてくるなんて絶対いい兆候じゃない。

 

「はい、フレーヴェンです────え!?そ、それは…本当に新ソ連はそのつもりなんですか!?」

 

ユーリはキューブ型の端末で上官のクトゥルフから聞かされた話を聞いて驚きを隠さなかった。

周りは突然声を上げたユーリに驚いている、だがユーリはそれに構う事は出来ないほど、衝撃的なことを聴いてしまった。

 

「……警告、ありがとうございます。その撤退は……協議をしてから考えさせてください」

 

携帯を切るとアリアがやってきた。

彼女も自分と同じな深刻そうな表情をしている。同じような話を聞かされたんだろう。

 

「アリア、状況は?」

「よくない。外の状況だって悲観的よ」

「外って言うのは……ベオグラードより外の話のことか?」

 

アリアは残念そうに頷いた。

 

「俺たちの方も喜べる状況じゃない。特に新ソ連はベオグラードを見捨てようとしている。最悪……新ソ連はベオグラードに核を使うかもしれない」

「────嘘でしょ!?」

「……俺もそう思った。上の話からは100パーセントというわけではないが、すでにルビャンカビルで書記長に話が上がったらしい最悪覚醒態が新ソ連の重要領土にたどり着くようなことがあれば……彼らは撃つだろう」

 

クトゥルフの話を聞く限り、新ソ連は恐慌状態だ。

常軌を逸している状況だが、覚醒態が現れてしまい……しかも、あの空に対する迎撃能力を見せつけられてしまった。

 

「新ソ連政府軍があの戦いで勝つにしろ負けるにしろ、航空兵力が必要になる。それを今後使えないとなるくらいなら……いっそってことらしい」

 

これは新ソ連が今後航空戦力を役に立てられないという状況になり……あの方が予想した、"例の戦い"に航空兵力を投入できず、カーター将軍のクーデターの成功を指を加えて見るしかできなくなる。

そんなことになるくらいなら、セルビアの首都くらい吹き飛ばしても釣り合いがくると考えているのかもしれない。

 

「分かった。あの方にも話しておく。流石にこれはあの方にも耳を入れさせないと」

「頼む……俺も出来る限り、核攻撃をどうにか出来ないか方々に頼んでみる」

 

アリアは深刻な表情をして、あの方と連絡を取り始めた。

 

「────ええ、ですので。ベオグラードの核攻撃の件を止めてくださるように……はい、そうです。一言警告だけしてもらえるだけでもいいんです」

「────はい、ええ。そうして貰えるだけでも!」

 

実のところ、人形達はユーリがさっき驚いた声を上げてから、心配で話しかけようとしていたが、ユーリのとても焦った行動を見る誰もその気にならなくなった。

 

「くそ……!本当に極まってきたな……!」

「────大丈夫ですか?」

 

どうするか?と考えていたユーリの元にウルリッヒ氏たおやかな声が届いた。

 

「(あのバカ!)」

「どうされました?代表」

 

HK416が止めようとしていたが、ユーリはなんでもないように取り繕いウルリッヒを向いた。

 

「その…お顔が優れない様で」

「そうですね…平気、と言っておきましょうか。すみません、気苦労をかけさせてしまって。何か御用でしょうか?」

「あぁ、いえ。その…こんな時にこんなこと言うのは悪いと自覚しているのですが…」

「どうしました?」

 

ウルリッヒ氏が少し、躊躇ったのち…

 

「教会には子供や避難民がいます。これからも来るでしょう。しかし、ここがあまり持ち堪えることができないのは分かっています。支援はいつ頃到着しますか?」

 

難しい、質問だな…保安局のエージェントは全滅したとKは言っていた。

反逆小隊は民間人を助ける感情なんて待ち合わせてないだろう。

 

「はっきり言いましょう。元々の予定では支援部隊が私達でした。物資の余裕はあっても建物の余裕はない……ここも遅かれ早かれ脱出するしかないですね」

「それは……ここの人も一緒にですか?」

 

脱出させられるのは自分だけ、それをウルリッヒ主席はわかっているらしい。

そもそも、脱出を今から始めて間に合うような状況ではない。

だけど、それを彼女に今伝えるわけにもいかない。

 

「……もちろん、我々も彼らを一緒に流したいと思っています。とはいえ、今外に出るのは危険です。カリーナ?」

「ちょっと待ってて下さい!!────はい、指揮官様?あ、大丈夫だったんですか?」

「……カリーナ、主席を任せる。私は現場に回る、通信関係は他の人形が手伝ってくれるから民間人の方と同じ所に」

「分かりました。主席…さぁ、いきましょう」

 

「すみません、もう一ついいですか?」

「どうしました?」

 

ウルリッヒ氏がまだ、話し終えていない事…なんとなく想像がつく。

 

「あなたはソ連のエージェントには見えない、そしてこの国の人間にも。だって、エージェントや人形、軍隊の人たちがあれほど右往左往しているのに貴方だけは、的確なターレット配置、周到な予備プラン、潤沢な物資……まるで未来がわかっているといえるほど万全な体制を気づいていました。とても、杞憂から来たとは思えない」

「そこまで話して、私に殺されないと判断できるのは…いえ、見抜いているでしょうか?貴女は有能だ。ただし…今、貴女の目の前にいるのは私は民間企業の使いぱしりですよ。”今”はですがね」

 

今のところは…だが、我々に残された時間は癌患者の余命と変わらないとユーリは思ってしまった。

 

「────どうしたの?RO?」

<戦力の再集結をしていますが…生き残りの人形の弾薬バランスが悪いですね。陣形が予定していた陣形が取れません>

「分かった、なら前に出す人形を増やそう。そこを突破させないことが先決だ」

<分かりました…これからいく人形はここより前の防衛ラインに配置する!配置する人形は────>

 

地鳴り音が響く、爆発の余波だ。それが教会の内部に伝わってくる。心なしか、工芸品が壊れる音もする。

 

「……ユーリ、とりあえず私達も前線に出る。覚醒態の偵察もしないとだし……」

 

通りすがりでアリアの部隊が教会に出ようとしていた。隔離壁で運用した隠密装備を外し、より真正面で戦うことを想定した”突撃装備”にしていた。

 

「すまない、アリアお前達には昨日から助けられてばかりだな…」

「フッ……そうね。いつか、纏めて返してもらうわ」

 

アリアが出て行った後すぐにまた、砲弾の地鳴りがする。

民間人達はやまない爆風に鳴き声を上げる。

 

「この…クソッ…!!よくこんな事する余裕があるな!!」

 

思わず悪態が口に出てしまう。ここも……いや、ベオグラードはいつまで持つか…!

 

────30分後…

 

<砲撃陣地を潰したわ>

<覚醒態の偵察も完了>

「いい腕だ。教会まで戻ってきてくれ」

 

アリア達が致命者になりかねない、砲撃陣地を壊滅してくれた。

これで重装部隊はカウンター砲撃を喰らわないで済む、安全に砲撃することができる。

重装部隊の火力なら、感染者の群れを物資が許す限り食い止める事ができるだろう。

 

「指揮官さん…名前はユーリ、さんでしたっけ?」

「主席……?その怪我は?」

「大丈夫です。あの爆撃で子供を庇った際に…すこし」

「少し?それで死んだらどうするつもりだったんですか!?」

 

顔に切り傷…他には?負傷したところを調べよう。スーツや足元に血は流れていない…顔だけか…よかった。

 

「無茶ばかりして…」

 

さっき自分が使った、消毒用エタノールと包帯の残りで軽く、応急処置を施した。

口で文句こそ出ているが、不思議と怒りは湧いてこなかった。むしろ「しょうがないな」という感情すら湧いてくる。

 

「私の事は心配ありません…ですがここに残っている民間人のことが気になります。さっき人形の方たちが話しているのを聞いてしまったんです"ここから私を連れて、逃げるだろう"と」

 

全く…脱出する事は考えているが、誰がそんな早とちりで噂したのか……

 

「不思議で優しい指揮官さん」

 

ウルリッヒ氏が俺の手を取った、なにを話すつもりだろうか?予想はつくが…

 

「一つ、約束してくださる?…ここの人たちをどうか、守ってあげて」

 

思い切って自分の要求を俺に話した。やっぱりそれか…

 

「そうですか…なんとなく、貴女がその言葉を口にする、感じはしていましたよ…ですが、貴女には脱出してもらいます」

「ですがそれでは────」

「ヘリコプターは脱出する際にあの巨大なE.L.I.Dに撃ち落とされる可能性が高い。実質的に危険なのは貴女です。ですから、その心配はなさらずとも結構です。それに、民間人はこの街の更に内部の浄化塔が閉まる前に内地に避難させます」

 

握られた手をもう一つの手で優しく握り返す。

 

「初めから…私も、ここにいる人を助けようと思っていますから。だから、私を…私を信じてくれますか?…ウルリッヒ?」

「…そうですか、ふふ…なるほど、私の心配って…結局杞憂だったのね」

 

もちろん、貴女の考えは私と意外と似ているのかもしれませんね。

本当は自分が大切な人間じゃない、と考えるところは。

 

「国連の人間であると同時に私はロクサットの人間でもあります。この国の人にしろ、ソ連の人達にしろ、私は強い敵意を向けられている事は知っています」

「そうでしょう。まだ、戦争の傷は……癒えておりませんから」

「…それでも、私は人を傷つける平和は…望みたくありません。私の追い求める理想は、全ての人に向けたものなんです」

 

全ての人か。

そうでなければがれきから、子供を守ろうとしないだろう。憎みあっていた国の子供を。

 

「私もあの主義の元が絶望から出来上がって、その上第三次世界大戦で疲弊した隙につけ入った主義である事も知っています。大国の憎しみからできた事は私も存じています。…でもそれを、内部から正しく変える事ができれば幻想が本物を上回れる、と信じているんです」

「だからこそ、ロクサット主義に?」

「えぇ、この会談にも私は殺される覚悟でここに来ました」

 

そうか…初めから知っていたから。ロクサット主義に?

なるほど、貴女も俺の予想を超えてくる人だったらしい。

 

「私の目に何か?」

「失礼」

 

凄いじゃないか、俺なんかより…よっぽど、力強くて、寸分な悪意も感じない、それでいて正しい事を成そうと覚悟を感じる強い瞳だ。

 

たったら、そんな彼女に答えられないなんて言えるか?いいや、言えないね。

 

「フフフ…仕方ない。こうなっては私の負けですね。貴女の心に強さと信念の強さに折れるとしましょう。約束します、私も貴女と同じ様には行きませんが命をかけて貴女とここの人達を守り抜く事を約束しましょう」

 

ロクサットには賛同できないが…ウルリッヒ…貴女の考えと信念に私は命を掛けて賛同しよう。

きっと彼女は俺から話す真実も恐れず聞いてくれるだろう。

 

「若いのに、随分としっかりされているんですね。すみませんね、こんな脅迫まがいのことをして…酷な話だとは分かっているんですけど…でも、貴方なら本当に出来るって何故か私は確信してしまうんです。────ダメね、私。1人相手にここまで期待してしまうなんて」

「良いんですよ。実は…ベオグラードの彼らの気持ち、全く分からないと言うわけじゃないんです」

 

えぇ、私も時々思いますよ。自分がここに関わらなければ彼らは幸せなままだったんじゃないかって?

 

「…でも、起きた事は仕方ありません。だからこそ、私も今できる私自身の力でこの危機を打ち払えれる努力をするんです。ですので……」

 

ユーリは立ち上がると、ウルリッヒの正面を向いた。

 

「これから話す残酷な真実を一番最初に受け止めてもらいます」

 

────視点:M4SOPMODⅡ

ホールで生存者の状態を確認していた、KSVKと弾薬を取りに戻った、DP-12がバッタリと鉢合わせしてしまった。

 

「あなたはっ…!?」

 

「お前は?何処かであったか?もし、汝が暗雲での雷の如くすれ違うのなら、教授してもらう」

 

KSVKの言葉にDP-12は、少し残念そうな顔で会釈をした。

 

「いえ…知り合いに似てただけですから」

 

────主よ…

───9─あぁ、神様…

 

「アイツら、まだ神様なんか信じてるの?そんな暇があったら手伝って欲しいわね」

 

ROはこれしか方法が無いという縋りをしている、ベオグラードの市民達を冷ややかな眼差しで見つめていた。

 

「RO、失礼だよ」

「────本来なら私達が部外者である事実は変わらない、しかし部外者じゃなくなったらそれ相応の対応をする必要がある」

「MG36まで、情が移りすぎよ。状況を飲み込まないで手を動かさないやつに敬意を払えとでも?大体神様がみんなを愛している?そんな馬鹿な話があると思うの?」

「お前こそ、今までの正義の信念はどこに行った?」

「それとこれは別でしょ?あいつ等も働いて欲しいと言って何の問題よ!ここで役に立つ人間のはあらかじめ物資をここにため込んでた、よくわかんないアメリカ人だけでしょ」

「まぁまぁ。それよりも神様も愛していたんじゃ無い?昔は────でも、その愛してくれる行為に甘えて誰も彼もが好き放題したら、人間も人形も愛想尽かしてしまうでしょ。神様もそうなんじゃ無い?」

 

SOPⅡが見かねて止めに入るとROは溜息をつくと弾薬を取り出し、恐らく現れた感染者に対処するためその場を後にした。

 

「ちっ……どれだけ来るのよ」

 

RO635は窓からぞろぞろと教会ににじり寄る感染者に舌打ちした。

下の階ではフォトンが避難民に指示を出して、空になったクレートや大きめの椅子とかを動かさせてバリケードを作らせていたのが見えた。

 

「仕事してたのか」

 

彼らも見えないところで自分にできる事をしていた。

 

「おばさん」

「は?」

 

RO635は自分に話しかけた女の子に振り向く。

まさか、自分がおばさんなんて呼ばれると思わなかった。

 

「おばさん、正義の味方だね」

「私が?」

「うん、だってあの怖いかいぶつをたくさんやっつけて私たちを守ってくれてるもん」

 

それは…まあ、そうだけど。

……正義の味方か。青臭い頃はよく恥ずかしげもなくメガホンでしゃべってたな。

 

「あたし、おばさんのためになんでもするよ!」

 

RO635は女の子に笑いかけ、頭をそっと触った。

 

「外は私たちに任せて、アンタはそうね…下の人を手伝いなさい」

「うん!分かった」

「よろしい。正義の味方との約束よ…まったく、SOPⅡよりずっと聞き分けいいわね」

 

女の子はとてとてと下の階に戻って彼らを手伝いに行った。

RO635はにやりと笑う。ああいう人間の為に銃を持てるならここで踏ん張る価値はある。

 

「くそ!いい加減パラデウスを狙え!!」

 

一方、SOPⅡはライフルを発砲しながらなんとか感染者を押しとどめていた。

 

「ターレットの弾薬装填終了!」

「よし!X95が作業を終えた!いったん後退!」

 

ターレットの弾薬を補給しなおし、再稼働したターレットが感染者を掃討する。

だが、感染者は際限なく現れつづけ撃っても撃っても感染者が減ったように感じない。

しかも、パラデウスは感染者は攻撃しないから潰し合いにも使えない…それにだ。

 

「────はぁ…」

 

一度補給に戻ってくるたびに映る、市民達の姿を見ることを考えるとても辛い、見れば見るほど自分たちが力不足で期待すらされていない事を思い知らされる。

作戦が終わる度によく言われる、こうすればよかった、結局この行為をする必要はなかった…実際その通りだったでも…どれだけ後悔してもどれだけ自分を責めても…結局は起きてしまった結果をどうにかすることは出来ない…

 

「弾薬はまだあるけど、体力は一日持つかは厳しいよ」

「…やっぱりみんな疲れてきてるね」

 

実際SOPⅡも疲れてきている。走って戻って、撃って撃たれて、食われそうになってというサイクルを激しく繰り返せば疲れる。

気持ちのコントロールとかよくわかんないと言って好き放題やれるなんて…昔はなんでお気楽な奴だと過去の私を蔑みたくなる。

 

「交代する、休憩して」

「わかった」

 

ROと交代し、弾薬補給もかねて一度休憩していたころ、携帯の着信がなった。

発信先は…自宅からだ。

 

<おばさん!今どこいるの?>

「…えーっと……仕事場にいるよ」

<ベオグラードにはいないよね!?いま、そこら中のテレビがベオグラードになって……あの怪物が見えるの!>

 

そうか…この惨状をテレビ中継されているのか。

 

「あはは…あーそれはね……」

「きゃあ!」

「ぐううう……」

 

E.L.I.Dと化した人がうなり声をあげ人々は恐怖の声を上げる。

きっと先に自分たちが来る前に駆け込んでここで発症したんだろう。

 

「くそ!!死ね!!」

 

M4SOPMODⅡが怪物に狙いを定めてすぐに対処し、撃ち殺した。

 

<嘘ついた…やっぱり、ベオグラードにいるんだ…>

 

だが、それが育て子に自分がベオグラードにいるという確信を与えてしまった。

 

「ごめん、ここから出たらちゃんと謝るから機嫌直して…」

<無理だよ!だって、テレビの人いってるもん!ベオグラードの人は誰も出さないって!!>

「そっか…」

 

まあ、E.L.I.Dはともかくあの狐のようなバケモノが出てしまえばそうするだろう。

 

<いつもちゃんと帰るって言ってたのに!おばさんの馬鹿!!>

「馬鹿って言……われてもしょうがないね」

 

ため息をついて、SOPⅡは近場のベンチに座る。

 

「……ごめん、でもちゃんと帰るよ。安心してよ、人形は嘘つかない!じょーしきでしょ?」

<わかったしんじる>

 

そういって、あの子は電話を切った。

 

「よし……」

 

こんなところでへこんでられない。

私にはあの子がいるんだ、そして……かならず約束は守るんだ

 

────視点:ユーリ

 

「なるほど…取り敢えずコイツは動かせる、動かしていいでいいんだな?」

<おたくら部下の曰くそうよ。とはいえ…この状況で先行量産機を運用なんてねえね>

 

今現在、教会に寄り付こうとしている、腐肉喰らいの対処を戦闘しつつ指揮しながら、俺は地下の保管庫に置いてある、"コイツ"の状態をアリアから、聞いていた。

"コイツ"は動かせるらしい。…よし、取り敢えずの希望の目処は立った。次の交渉……そして、あの覚醒態をどうにかすればみんなを助けられるだろう。

 

<指揮官、報告します。E.L.I.D感染者の勢いが増大して────チッ、AUG!バリケードが破られるわよ!今まで何やってるのよ!?>

<コッチも分隊支援火器のバレルじゃない、通常バレルでドラムマガジンを連射してるからバレルが焼け死ぬ寸前なんです!!無茶言わないで!!>

 

厄介だな…感染者を受け入れたからその後を追ってやってきた感染者やサイレンサーをつけてない人形達が銃を撃つなら確実にここにやってくるだろう、下手したらこのまま前線が崩れかねん。

 

おまけにAR小隊の人形は早朝からずっと戦闘し続けている、疲労も溜まっているはずだ。

 

<こちらP22!感染者がトラップを突破した!増援を出してくれない!?>

<こちら、SOPⅡ!誰かP22のケツにつけ!!感染者の奴ら、フェンスを食い破る気だ!!>

<こちら、X95!まだ、私は手が空いています!私がP22の所に!!>

<お願い!結構助かるよ!!こっち文字通り手が空いてなくて>

 

弾が尽きるよりも物量で潰されるのは確実だな…脱出を急がなければ、

 

<────ウオオオオオオッ!!!>

「どうしたっ!?」

 

いま、無線から凄まじい怪物のような声が木霊した。なんだ!?

 

<こちら、ACRですっ…!SOPⅡが右指に噛み付いた感染者を無理やり引きちぎって対処しました…あの馬鹿じ────>

 

<馬鹿って言うな!!>

<最後まで聞け!!この馬鹿金髪ゴリラ人形!!>

 

SOPⅡがいる場所…東の最初の防衛ラインまで感染者が来ているのか…SOPⅡ達の防衛ラインは下げて火力を増やして対処する。

 

「フォトン。君の所のG36とZB-26に弾薬箱を今のうちに用意させて、火力を上げる」

<分かった。手配させる。ここが正念場なんだな>

 

というよりは掛金をベットするのがこのタイミングなのだ。

 

「よし、────SOPⅡ、ACR。防衛戦を下げる、ラインは2つ。G36のいるラインまで撤退、合流に成功したら補給を用意してあるから、補給を済ませたら感染者を引き寄せて迎撃するんだ」

 

<了解!ACR!殿、お願い!>

<分かりました。…リロード完了!走って!!>

「頼むぞ!……うん?」

 

連絡音が鳴る。携帯ではない、キューブ型端末からだ。

ユーリは嫌な予感を覚えながら端末を起動させた。

差出人は意外な人物からだ。

 

「デュピュー?」

<ユーリ!お前、いまセルビアにいると聞いたぞ!?>

 

まさか、エージェントK絡みで調査を依頼していた男、デュピューから連絡が来た。

 

「ええ、しかもベオグラードです」

<今すぐ逃げろ!核攻撃の話が出ていると聞いた!>

「存じています。……それで、頼んでいた件は?」

<あ、あぁ……調べ終わったが、今更役に立つのか?>

 

ユーリに笑みがこぼれる。

流石だ、3日も立たないで情報を集めきるとは……”あの方”の仲間になるだけはある。

 

「今、ここでKと交渉する。使い時は今です」

<わかった。ファックスでおくる。携帯だと履歴が残るからな>

「仕事が早い……なんだ。やっぱりか」

 

10秒もしないでファックスの書類が印刷された。

だから彼は有能だ。

 

「ああ、なるほど。なんだ、からくりさえ分かれば簡単な話だったんだな」

 

ユーリは資料を見て交渉に使える価値を確信してニヤリと笑った。

 

「カリーナ、Kに状況を報告と交渉をする。通信機をつなげて」

「わ、分かりました。あぁ…もう!このオンボロ機械!これで私達が死んだらアンタのせいよ!!」

 

カリーナの渾身の拳が通用したのか、通信機が起動した…そして

 

<今更連絡する気になったのかやっと繋がったのか?くたばったと思ったぞ>

「指揮官様!繋がりました」

 

カリーナが修理に成功したらしい。

ウルリッヒ主席を呼び、こちらの無線もKに繋げた。

 

「撤退ポイントを教えてください。この教会の耐久性ではここにいる生存者達は愚か、VIPの命は確実に持たない」

<笑えない冗談だな>

 

だから、さっさとそのポイントを教えて欲しいのだ。

 

「この状況で、誰が冗談を言うんですか?」

<お前らも知っての通り、あの未確認の化け物が攻撃ヘリを撃ち落としている。その為、街の中じゃヘリは撃ち落とされるから使えない────そして、高官向けの郊外に出るルートがある。だからこそ、郊外に出る必要がある。座標を送る、30分後には到着するだろう>

「もし偶然、民間人がそこにたどり着いたらそこからベオグラードを出られるんですか?」

<できない>

「できない?」

 

ユーリは強めな口調で聞き返す。

分かっていたが、彼らにとってベオグラードの命は軽いんだろう。

 

「少し、お待ちを」

 

ユーリは保留ボタンを押して、ウルリッヒ主席に民間人を出す気はないことを伝えた。

 

「民間人も出られるように命令を、必要なら私の名前を使って構いません」

「了解。残念ですが、それはできません」

<何だと?>

 

保留を解除するなり、いきなり断ったユーリに対して、Kが苛立つ兆候がある声で聞き返した。

 

「主席がここにいる民間人の命を保障しない限り、脱出はしないと我々に"依頼"されました。仕事が発生した以上、大人数を乗せられないヘリだけでの脱出は同意にされないとの事」

<主席の依頼なんぞ興味ない。必要なら、気絶させても連れて行け。俺にとって最も貴重なのは時間だ、当初の作戦通りに────>

 

まぁ、そう返してくるだろうとは思ったよ。でも、こっから俺の番だ。

 

「おや、それにしてもノイズが聞こえないクリアな音質ですね?そんな綺麗なノイズも聞こえない通信ができるのなら、貴方は我々の状況とは無縁な安全な環境で指示を出しているんでしょ?なら、切り札くらい手元に残しているはずでしょう?ドブネズミ1匹の住処すら把握している…貴方なら、ねぇ?」

<お前…グリフィンが潰されても────>

 

────ほう?ずいぶん生意気だな、身の程を知らないと見た。

 

「貴方…何を勘違いしているんですか?私はグリフィンが潰れようとなにも痛手じゃないんですよ」

<なに…?>

「ああ、それと。そもそも。私は"アナタ"にお願いなんざしてないんですよ?ウルリッヒ主席の"依頼"を受けて、アナタに"命令"しているんです。許可は主席直々にもらっております。グリフィンと保安局がどれくらい力の差があるなんて百も承知ですよ。でも、貴方本当は」

 

「────保安局の人じゃないんでしょ?なら、そんな脅し聞くわけないじゃないですか?それに…もし、ウルリッヒ主席が死亡して潰される恐怖を感じるのは…アナタなんじゃないですか?”カイン”さん?」

 

<誰のことだかさっぱりだ。>

「ええ、じゃあこれからはワタクシの一人朗読になりますので聞き流してください。”カイン・シュヴァーヴェン”ドイツ”シュタージ”所属、保安局少佐……うん、ドイツの人か。我々は新ソ連の保安局には従っておりましたが欧州の保安局には従っておりません…ということは私たちはあなた方に従う義務はない、こっちがむしろ訴えてもいいのではないでしょうか?」

「あ、あの指揮官様…それって」

 

カリーナが怯えた目で私を見ていた、そうか…カリーナが初めてその気になったになった俺を見たんだな。

 

<貴様、ただの民間企業の使い走りのくせに>

「ええ。使い走りです、そしてもう一つの顔もあります。新ソ連対外情報庁、ユーリ・フレーヴェン少佐という顔がね?気になるなら調べてみてください?」

<なに…くそ、どういうことだ?>

「ほら、前に話したではないですか。私が知らないことをあなたが知っているように、あなたの知らないことを私は知っていますと」

 

今頃、Kは偽装の解かれた自分の情報を見て困惑しているだろう、

ユーリはようやくこの高圧的なKの態度から解放されたことを喜ぶように口角を上げる。

 

「さて…これで少佐同士、同格同士の話をしましょう。外は困ったことになっておりまして、あの黒い化け物を自分の国に近づけない為にミグかスホーイかツポレフで核攻撃をしようとしているんです」

「核!?」

<なに!?そんな話聞いてないぞ?>

 

最初に打ち明けた主席は比較的落ち着いていたが、カリーナは当然、HK416も青ざめた表情で会話を聴いている。

Kもきっと同じだろう。

 

「ということは新ソ連の独断で行っているんだ…だとしたら、本当に撃つ気なんでしょうね。私が聞いた政府高官のお話によると新ソ連領内に入った瞬間、核攻撃をするつもりらしいです。これは複数機関、人物に直接確認を取ったので撃つ確率はともかく議題に入っているのは確定情報で間違いないかと。気になるなら、あなた方のスパイの知り合いに聞いて確認取ってみてください」

<それだと郊外に出てヘリで逃がしても…間に合わんということじゃないか!>

「でしょうね。きっと新ソ連はあの化け物の光線が領内に届く距離まで近づいたら撃つかと」

<なら今更なにを協議する気だ?何をすればいい?>

 

ここまで、したくもない回り道をようやく回って、ようやく引き出した。

K、やっと「何をすればいい」言ったな?主導権を手繰り寄せた。

 

「…べつに全員をヘリに乗せろなんて言いませんよ。ただ、20人前後の人を運べる車が有ればいいんです。それを教会に運んでください。その後はこっちでまたお願いを出します」

<…5分待て、迎えを寄越す。…あとで覚えてろよ>

「えぇ、楽しみ待っていますよ…フフフ」

 

まぁ、会うとしても悔しそうな顔だろうか?それとも発狂寸前か?どちらにしても愉快な顔を拝めるだろうけど。

よし…残る問題はあの覚醒態だ。

あれが何とかできないと郊外に出られても核で終わりだ。

 

「よし、ミス・ウルリッヒ脱出しましょう。そして、貴女をヘリに運ぶプランですが…」

 

これがどれくらい効果があるかは、分からない…でも、ここにいる人が全員助けられるというのなら…

 

「でも、どうするんです!?車で逃げても核が来たら…終わりです」

 

カリーナはいい質問をしてくれた。

話がスムーズになる。

 

「ああ、確かに核が来たら終わりだ。だから、核を来ない条件を整えればいい。そもそもソ連が核を撃つ理由は、あの覚醒態が自分たちの近くに来られるのが怖いからだ。つまり、覚醒態を新ソ連から殺すか遠ざければいい」

「ということはもしかして…?」

「ああ、殺すのは現実的じゃない。だから私があの"覚醒態"の注意を惹く」

 

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