たったひとつの願い   作:Jget

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初めまして、怪物さん

────視点:M4SOPMODⅡ

 

「主席を守れ!!急げ!」

「MG36!弾幕よ!!」

「了解RO」

 

グリーゾーンにあるデルタゾーン

 

退避中の主席を乗せたトラックがパラデウスに襲撃を受けた。

しかも今自分たちがいる高速道路に銃声を聞きつけたと思われる感染者達や凶暴化したグリフィンやベオグラード軍の戦術人形が群がり出している。

 

「クソッ…!!またお前か!クソネイト!」

 

私達を襲った乗用車からあの時のマーキュラスが私を今にでも引き裂かれるくらいの表情を浮かべて睨みつけている。

 

「ネイトじゃないって、何度言えば…分かるのかしら?鉄血かぶれ…」

 

確かに鉄血のパーツを付けている私は鉄血かぶれだろう。銃声や砲火音が響いてくる、巻き上がる土煙と土砂と吹き飛んだコンクリートの破片が飛び交い巻き上がる。

 

────50分前

 

<これが予想スペックです>

<有効範囲…10キロメートル以上!?こんなの郊外でも全然届くじゃないですか?>

 

遠方に展開させていた重装部隊は教会で合流。

アリアの提示されたデータはグリフィン、Kの予想を遥かに超えていた。

 

<えぇ、そうよ。でも、Kはあの時の攻撃しか知らないからきっと、本来のスペックを知らないかもしれない>

「だから、指揮官やアンタ達が囮に?あんなの相手に!?無茶ですよ!」

 

だから、指揮官が囮になって…ヘリになるまでの時間を稼ぐのか?

 

<無茶でもなんでも、出来なきゃみんな核で共倒れよ>

「核!?」

 

核攻撃のこと知らなかったRO達は声をひっくり返るほど驚く。

 

<そうよ、件のアイツはソ連の方向に向かって前進してるの。だから、近づかれない為にベオグラードごと消したいらしいわ>

 

このまま手をこまねいていても、終わりなのだ。

終わりなら、小さい可能性に賭けてあの覚醒態を引き剥がすしか他に自分たちを生かす手段はない。

やるしかないという事は嫌でも理解できないほど私は馬鹿に設計されていなかったらしい。

 

────

 

あの後、教会の中に一台の大型トラックが飛び込んできた。

 

「お待ちしておりました」

「……よくもぬけぬけと」

「それよりも、目的地です。ちょっと失礼────」

 

ユーリはトラックの中のカーナビを弄り、目的地を設定した。

 

「これでよし……主席をヘリに乗せたらカーナビの設定に従って、画面の場所に行ってください」

「そこに何がある?」

「防空壕です。核攻撃にも耐えられる……ね」

 

第三次世界大戦がいつ始まってもおかしくない頃、世界中が危惧していたのは核戦争だ。

御多分に洩れずセルビア政府も第三次世界の核戦争に備えて、都市ごとに核に耐えられる防空壕を開発しようとしたが、技術的や時間的問題で頓挫。

結局、第三次世界大戦の核ミサイルはベオグラードに当たらなかったが他の間に合わなかった地域に直撃した。

そして、頓挫してそのまま放棄された防空壕をボランティアに扮して、自分たちが頑張って完成させた。

これは別の予定で使うつもりだったが、そんな贅沢は言ってやれない。

説明を聞き終わった後、トラックが走り出した。

アレは今頃街の中枢エリアまで避難しているだろう。

 

────

───

 

「エアバーストが行くぞ!!」

 

FN-ELGMから、空中で爆発するグレネードランチャーを感染者の群れに発射する

 

────コイツが見える?これは誘引弾よ。

強い光と高い音が腐肉喰らいを着弾点に惹きつけてくれるわ、もし囲まれたり逃げるときには躊躇なく使って、あと、これはE.L.I.D対策のエアバースト式衝撃弾よ、戦術人形や人間には殺傷能力はお察しだけど、腐肉喰らいに効果覿面よ、B型だって余裕で殺せるわ

 

「何から何まで…」

 

アリアさんが言った通り、衝撃弾はすごい強さだ。ただ、パラデウスとか戦術人形に本当にイマイチだったのも事実だったが。

 

────こんな任務を任せて済まないと思う。恨んでいる気持ちは余りあるだろう。

 

脱出直前に言われた言葉が過ぎる…

 

「MP7 !いいよ!来い!!」

「はいよ!!」

 

うんうん…指揮官、私は恨んでない。寧ろ、謝りたいのは私だった。昔、指揮官よりも前に私たちの指揮官だった奴が居た…その人は私たちの事を目新しいだけでデメリットしかないボロクズと罵った。

 

「ドッペルゾルドナーは抑えます!X95!前進して!」

「了解です!R93!」

 

今になって思う、どうして私達が足を運ぶ先はこんな嫌なことばかり起こるんだろうって…本当に私たちが疫病神なんじゃないか、とすら。でも、指揮官…貴方は違った…私達の価値を上げて、もう一度期待をしてくれるまでに引き上げてくれた…あの時の日常は今でも楽しいって、幸福だって思える。

 

「ACR!これを持ってって!私の中の私が考えてくれたシールドよ!エネルギーを弾きやすい塗料があるから!銃を立て掛けつつ、撃ちながら!守りながら!移動!できる!」

 

「なんだかトーンが結構バラバラですけど、ありがとう!P22!」

 

きっと指揮官もおんなじ気持ちだろうとずっと思っていたけど…多分それは思い違いなのかも知れない。戦術人形に家族…仲間、そして愛する人を失った遠因となった私たちをきっと…許しはしないだろう。

 

「ACR!そっちに感染者が登ってきてる!!」

「撃ち落とします!」

「いや、いい!!こっちで排除するからそこを動かないで!誤爆はしたくない!!」

 

「分かりました!隊長を信じます!!」

「任せて!エアバースト発射!!」

 

だから、私は自分から心の距離を置いた、敬語を使って…常に敬意ある態度で…いつもの私とは違う他人行儀で…もし"私達"だけの都合で指揮官が裏切られた結果になったとしても今度は余り傷つかないように、だから指揮官があの時私に対して、負い目を持っていていた気持ちがあった事を知った時は…どんなことがあっても指揮官の味方になろうと思ったんだ。

 

「あははぁ!?そんなタマで私を殺せると思っているのかしら!?ねぇ?クソ雑魚金髪赤メッシュ…!」

 

効くわけないだろ、感染者用なんだから。お前にはこれをくれてやる、火力の高いベリー爆弾────

 

「先にやるべき事があるからアンタは後回しよ…」

 

ニモゲンの腕から煙幕が発射されトラックを覆い尽くした…SOPⅡたちが見失なっている間、ニモゲンはトラックの上に立っていた。

 

「アハハッ!!馬鹿は馬鹿なのね…さて、首席を運ばない────」

 

トラックロックを容易く解除して、ドアを開け、中をニモゲンが覗いた瞬間…突然、飛び出した腕がニモゲンの顔を掴むと外にまで飛び出して、そとの車にまで叩きつけた。

 

「────え?え?」

「甘いな」

 

そう、トラックを襲撃された際に出てきた人形は全員ではない…トラックの中にはウルリッヒ主席の他にもう1人、A-545もそこに同乗していたのだ。

 

流石だ、戦闘を楽しませてもらうと宣うだけはある。

不意打ちとはいえ、ニモゲンに大きい打撃を与えてみせた。

 

「RO!今のうちにロック!!」

<あ…えっ、えぇ…そうね>

 

再びトラックのロックが閉まる。悔しそうな顔でネイトはA-545の手を振り払い、悔しそうな表情浮かべる。

 

「どうして…どうしてどうしてどうしてッ!!??私にばかり邪魔が入るのよ!!」

「哀れな奴だ、もう元々あった良識すらなくしてしまったと見える」

 

歪んだネイトを更にA-545は憐れむような発言をした。

 

「黙れッ!黙れ!!黙れッ!」

 

馬鹿にされたと思ったニモゲンは触手を振り回しA-545を本気で殺しにかかってきた。

 

「…」

「死ねッ!死ねッ!!死ねッエエエ!!!」

 

しかし、A-545は、私たちより遥かにスペック上の人形のようで、しなやかに衝突した触手をすり抜けるように受け流して、攻撃をかわし中距離、遠距離では確実に銃撃の攻撃、近距離、至近距離では、ナイフと銃剣で薙ぎ払い、ネイトを少しずつ押していた。

 

<SOPⅡ!今なら勝てるわよ!!>

「RO!?」

 

こんな状況での乱入を!?と、一瞬耳を疑ったが…いや、そうだね。今ここで野放しにでは出来ない!ここで更に数の利で一気にトドメを刺す。生き残ったら何をするかわかった物じゃないから。

 

「SOPⅡ?────!ダメだ!!来るんじゃない!!」

 

A-545がニモゲンに一撃与えようとした、私を見て来るなと叫ぶ…なぜ?…あれ?あの触手は?どうして足元に?

 

「アハハッ!!どうかしら?私の声真似…?上手いでしょっ!?引っかかたな!馬鹿が!!アハッ!!アハハッ!!」

 

数回の切り裂かれた感覚がほぼ同時に行われて、地面に伏してしまう…不味い!立ち上がらないとあの触手に…!いや、もう間に合わない────

 

何が…私、ニモゲンを倒そうとしたら…いきなり地面に…あれ、こんなに血が出た筈なのに痛くなかった…?

 

「フフフ…ツいてましたね?SOPⅡ…」

「R93…?」

 

R93が私の上に覆い被さる様にして、口から血を流していた。

 

「チッ…!!雑魚が盾になるなんて…吐き気がしますわ…!!」

 

血の流れる匂いが鼻をつく…流れる場所を探すと…R93のお腹を複数の鋭利な触手が貫いていた。

 

「SOPⅡ!そこを動くな────何!?ドッペルゾルドナーだとっ!?」

 

A-545が向かおうとしたが…ドッペルゾルドナーがウルリッヒのいるトラックの扉をこじ開けようとしていた。

 

「クソッ…!抜けない…!」

 

ネイトが触手を引っ張って引き抜こうとしていたが…

 

「────逃がさ…ない…!」

 

R93が必死に引き抜かれようとした、触手を掴んで逃すまいと歯を食いしばっている…

 

<SOPⅡ────!!!>

 

ROの叫び声でハッとした、

 

<今よ!!このチャンスを逃すなぁ!!!>

 

チャンス…?そうか、今…R93が触手を掴んでいるからコイツは握られない!!

 

グレネードランチャーは、さっき撃ったから際装填が必要…なら、

 

「手持ちでやる!!」

 

私の半身である、M4SOPMODⅡ…30発の弾薬をフルオートで撃った。

銃身がブレて、当たらない銃弾を減らすために、ハンドガードの先端を握り込み出来るだけ反動を減らす。

 

「アッ…アハハッ!!馬鹿の…馬鹿な一つ覚えねぇ!!」

 

────偏向障壁!?これじゃ、攻撃が弾き返されて…!!

「諦めないで!!」

 

X95も偏向障壁に攻撃を加えた。MP7、P22…ACRも続いていた。

 

「ここがチャンスなんだ!!」

「私も!みんなも!そう思っている!!」

「絶対に倒す!!R93がくれたチャンスだ!!」

 

合わさっていく攻撃が次第に偏向障壁にヒビを入れていく…最初は余裕を見せていた

ニモゲンも事の重大さに気付いて、動揺した。

 

「────…くっ…やめっ…やめなさッ…やめろやめろッ!アアアアア!!!!離せえええええええ!!!!!」

 

逃げようにもR93がニモゲンに繋がっている触手を掴んでいるので逃げられない。

僕達に切り離す様に命令もした、だが…

 

「絶対よ!絶対に!!あのネイトに雑魚どもを手助けさせない様にするのよ!」

「言われなくても…!!」

「ここで倒せれば!障害はないも同然ですからね!!」

「R93!コイツを今すぐ倒して、助けます!!」

「因縁のネイト…ここで決める…!」

「ウッ…!!ああああアアアアア!?」

 

ついに偏向障壁が破壊された、これでトドメを…

 

「…ウウウウウ…アアアアア!!!」

 

ニモゲンが腕を自ら爆弾で引きちぎった…!!触手を掴まれていた腕を…!

 

「…逃げないと…早く、早く早く早く!逃げないと!!」

 

ニモゲンは必死の形相で戦線を離脱していく。

 

「逃がさない!!」

 

必死に逃げるネイト達を追う、だが…それを追わせまいと必死にパラデウスの兵士達が盾になったり自爆を繰り返して、私達の行く手を塞いで行く!

 

「レーダーの反応が薄くなってく!!ネイトが消えちゃう!!」

「逃げるなッ!!逃げるなよおお!!クソがアアアアア!!!」

 

叫べば叫ぶほど…ネイトが遠くへ離れていく…そして、私達の反応からネイトの反応…パラデウスの反応も消失した。

 

「ゴホッ…ゴホッ…!!」

「HS2000!!早く来て!!」

 

HS2000…メディックの戦術人形がR93の状態を調べた…

 

「ねぇ、しっかりしてよ!まだ、アンタの運を勝った事ないんだよ!?また、一緒にポーカーしようよ!!」

「…アハハ、そう言えば…そうでしたね」

 

どんどんR93が衰弱して、声が弱々しくなる。

 

「マズイわね…また押し寄せてきた…!!すぐに脱出しないと…!」

 

ROがレーダーで別の反応をキャッチした…反応は感染者だ。

 

「早く何とかしてよ!!」

「ダメです…!ニモゲンの攻撃で受けた損傷がコアにまだ入って…」

「じゃあコアを直してよ!!」

 

「無理です…コアの情報はペルシカさんしか知らない…非公開の技術なんです!!」

 

え…?嘘でしょ?…そんな、じゃあ…何?R93はどうにもならないの?

 

「そうですか…」

 

そんな…私を握る手の力がどんどん弱くなっている…嫌だ…正規軍に裏切られた日からずっと私達一緒に仕事してきたじゃないか…!こんな所で死ぬなんてやだよ!!

 

「じゃあ…最後に…ひとつだけ」

「最後じゃない…!お願い…!!諦めないで…!!」

 

R93が辛そうに私の肩を掴む…だが、その握られた力がだんだん下に落ちていく…

 

「あなたと…一緒に仕事できたのは…一番の…幸運でし…た」

 

肩を掴んでいた、筈の…手が地面に落ちた…枯葉が重力に引き寄せられる様に…

 

「ダメだ!ダメだダメだダメだダメだ!!R93!!ねぇ!!起きてよ!!ねぇ!?」

「SOPⅡ!!感染者が来てる!!移動しないと!!」

「────離せよ!!」

 

ROが肩を掴んで、後方を指差す…衝動的になって、突き飛ばしたがその方向を偶然見ると…ゾロゾロとおよそ、200は下らない…私達の戦闘音を聞きつけた感染者達が私達目掛けてやってきている

 

「…ごめんなさい」

 

ROに謝ったのか?それとも、死なせてしまった、R93に謝ったのだろうか?どちらもかもしれない…AR部隊の遺体は極力残してはいけない…それが私達の決めたルールだった。

 

「…みんな、離れて。テルミットで処理する」

 

これは仲間の命を救う為の方便だったのに…遺体を自分の手で消す事になるなんて…

 

「────神の御加護を」

 

全員が車に乗るのを確認してスイッチを押して、テルミットを起動させる。高熱でR93の遺体がゆっくりと溶けていく…本当は見たくは無かったが、目を逸らしてはいけないと思い、融解が終わるまで見つめ。そして、R93の身体が消えた。

 

「…行こう」

 

乗用車のアクセルを踏み、目的のヘリまで車を走らせる…後、もう少しだ。

 

────40分後、ベオグラード郊外のヘリポート

 

「────急いで!!感染者が来ています!早く脱出を!!」

 

ギリギリ感染者を振り切って、ヘリポートにたどり着いた、感染者がまた追ってくるより私達はウルリッヒ首席をヘリに乗せた。

 

「余計かもしれませんが、あの市民達の事は────」

「大丈夫!絶対に送ります!ACR!!準備は!?」

「いつでも!!」

「やれ!!」

 

合図で囮役となる指揮官と市民を移動させるアリアさん達の部隊にこちらの準備が整った合図を出した、しばらくすると予定されていた通りの閃光弾が上がった。

 

あちらも準備OKだ。なら、始めよう。ここからが本番だ。

 

「さぁ、行って!!」

 

ヘリが揚力を得て、上空に突き上げられた様に飛んで行く…後は指揮官次第だ。

 

「SOPⅡ…あの時の事は────」

「もう、過ぎた事だよ。それにA-545は悪くない…悪いのは」

 

悪いのは、早まった行動をしてしまった…この、私だ。

 

「だから、絶対にあの市民達だけはどんな手段を使ったりても助けよう。そして、あのネイト…ニモゲン、アイツだけは…必ず倒す」

 

同時刻:ルビャンカビル

 

いつもせわない声が飛び交うルビャンカビルはいつも以上に慌ただしくなっていた。

原因は言うまでもなく覚醒態の件だ。あの怪物を倒すために核兵器を使うか否か、すべての最終判断は彼にある。

書記長として自分は核を撃つと撃たない、どちらの判断をしたとしても新ソ連のなかでもっとも恥ずべき行為として名前が刻まれるであろう。

テーブルの真ん中にいる書記長は今までにないほど、神妙な面持ちで側近らと事態を見つめていた。

だが、その側近らが役に立つ言うとそうでもない。彼らも絶望したような表情で画面を見つめていた。

 

「書記長、今よろしいでしょうか?。ベオグラードの件です」

 

外務省の大臣がノックをして、会議す津の中に入る。

 

「書記長。ヴェルークトが配置につきました」

「そうか……」

 

自分たちの保有する新ソ連の唯一の対E.L.I.D特化戦力。

公聴会の時に自分を守ってくれたユーリもその中にいることは昨日から聞いている。

 

「なにか、彼らに要望があれば今のうちにと思いまして」

「彼らには"いままでの献身に心より感謝する"と伝えてやってほしい」

 

今、彼らにできる命令なんてあの覚醒態のせいで核を撃たせるな以上にどんな命令ができる?

それにその難易度をどれだけ考えても想像できるものじゃない。

 

────視点:M4

 

「……不思議な状況ね」

 

街中は竜巻に襲われたようにあちこちめちゃくちゃになっていた。

だが、あたりは静かだ。E.L.I.Dの一体もいない。

AK-12との合流地点には1時間以上早く到着できそうだ。

張り詰めていた自分に余裕が出来たな、そう思い出した時────

 

「ヴァオオオオンン!!」

 

激しい咆哮がベオグラードを駆け巡った。

ここ竜巻にしたのはアイツだ。

 

『今だ!やれ!!────このままベオグラードの外に引きつける!』

「……え?今の声は!?」

 

間違いない、これはユーリの声。

私の指揮官であるべき人が竜巻を遠ざけようと戦っている。

 

────まさか、行くつもりじゃないないでしょうね。

 

頭の中に声が……気がつけば、私の足は声の方を向いていた。

 

「ええ、お察しの通りよ」

────冗談でしょ?正気とは思えない

「あら?正気じゃないことをしているあの人が今でも好きな私が今更マトモだとでも?」

 

M4A1は口角を上げた。

彼女は手元にあるライフルを見つめていた。

 

「手助けのついでに化け物の顔を拝みに行くわよ。嘆くなら、私から生まれた事を嘆くのね」

 

────視点:ユーリ

 

『へえ、書記長はそんなことを?』

 

ユーリは合流したヴェルークト隊員から、書記長の言葉を聞く。

テンションが上がるとかそういうわけではないが、今の新ソ連はまだ核の引き金がそこまで軽くなくて安心したともいえる。

 

『確かにジイさんたちに頑張れと言われても言われなくてもとしかお返しできませんからねえ』

 

ユーリの隣に副隊長のアキが降り立つ。

 

『アキ、今回のベオグラードではお前が用意してくれたターレットや兵器が役に立った。助かったよ』

 

バイザー越しにヴェルグ2。

アキは笑っているように見えた。

 

『隊長はグリフィンと聞いてましたけど、まさかアキさんはベオグラードに物資を置いていたとはね』

『なんだよ、忙しかったのは副隊長もってことか』

 

部下のヴァレリアとスノウロフも現れた。

全員、新型の対E.L.I.D装備”カリエス”を着ている。

既に他のヴェルークトは集まっている、あとは合図を待つだけだ。

 

『閃光弾を確認』

 

閃光弾が上がった、合図だ。ユーリ達は閃光の上がった空を見つめる。

SOPⅡ達は仕事を成功させたようだ。

ちゃんと送り届けられたんだな。続いて、アリア達の合図も上がった。

 

<ユーリ、覚醒態が網に掛かった>

『確認した。では、始めよう』

 

ユーリが作戦開始の指示を出し、兵士たちは怪物の方に向かう。

 

「グゥうう…‥」

 

こっちが用意した仕掛けにノコノコと釣られて覚醒態は自分達のいる方に来てくれた。

 

『おい、この野郎!!よくも好き勝手やってくれたな!!』

『さっさとベオグラードから出なさい!ここに面白ものないよ!』

「…」

 

我が物顔でベオグラードの街を闊歩する、"覚醒態"には俺たちの声が聞こえてないのか、それとも興味ないのか反応らしい反応が返ってこない。

普通の腐肉喰らいなら、動く存在を見つけたらなりふり構わず襲いかかるのに…確かにコイツはあらゆる意味でかなり珍しい個体だ。

 

だが、無視をされるのもそれはそれで困る。

対E.L.I.D装備カリエスに装着された固定武装の"クトゥグアランチャー"を覚醒態の顔面に向けて発射した。

 

「…ヴァルル!」

『なんだ、やっと俺に気づいたか?』

 

攻撃が命中して、覚醒態の顔面から煙が吐かれている…覚醒態はオオカミのような犬歯をギリギリとなりして、俺を睨みつけた。

 

「ヴァル!!オオッ!!」

『────グッ…』

 

一瞬で覚醒態が身構えると前脚を振って爪で引き裂こうとしてきたので、こちらもアリアから貸してもらったアメリカ製の高周波ブレードを振って防ぐ。

 

『やれ!指示通りに!』

 

アキの命令通り、グレネードランチャーからE.L.I.Dを引き寄せフェロモンスモークをベオグラードの外の方向に散布。これでアリアたちも覚醒態をおびき出した。

 

「グルァア!ヴァルラァア!」

 

覚醒態は反応して追いかけているが、未だ敵意はユーリに向いている。

ユーリと一部のヴェルークト隊員も素早くフェロモンの方向に突っ込む。覚醒態も彼を追いかけた。

 

『くううっ…!!』

 

また強力な一撃が襲い掛かる。

だが、兵士の一人はブレードを通じて伝わってくる力に違和感を感じる…腐肉喰らいがやる力任せの攻撃ではない、徐々に伝わる力が大きくなっている…まさか?

 

『(…力加減を調節しているのか?)────くっ!!』

「オオオッ!!」

 

一気に伝わる力が大きくなった、どのくらいなら押し切れるとコイツの中で判断がついたのか!?いや…そもそも、コイツに"思考する"という能力が備わっているのか?

 

『喰らえ!』

 

ユーリのMCXによる300BLKが一番もろいと思われる箇所に命中。僅かに覚醒態の痛みを刺激させて反応させ、意識をこちらに移す。

MCX ラトラーの銃弾に気を取られた隙に受け流しの要領で力の向きを変えて、どうにか前足の爪を逃れる。

 

『…助かった。D型でも、そんな変調は見られなかったんだぞ…コイツは本当にヤバいな』

「…ヴァル?」

『(狙ったことを疑問に思ってる…のか?)』

 

先程、俺を切り裂こうとした爪を一秒程眺めて、再びこちらを向いてきた。

 

『食らえ!』

「────!」

 

ブースターを稼働させて、覚醒態から離れると今度は別の兵士がランチャーを当てた、顔面を射撃するが左足で顔を覆い銃撃を防ぐような動きを取り出した。

 

『────…やっぱりか…なら』

 

コイツは攻撃を調節すらできる思考ができる、まるで賢い獣の様な奴だ。一味や二味もコイツは違う、背部のランチャーパックに収納された収納口を開く。

 

『飛び散れっ!!』

 

ランチャーパックから今度は10発の小型ミサイルが着弾して、爆発…衝撃に特化した爆撃が覚醒態に命中した。

 

「ヴァルォオオ!!」

 

無論効果はあまりない様だ、まぁ…この程度で倒せるのは運が良くてB型くらいまで…なら、それよりも強力なコイツがこれを余裕持って耐えても不思議ではないだろう。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

目的ではないが、コイツにこれといった友好打を入れる事は出来ない…いや、そもそもコイツ自身に近づく事すらリスキーな行為だ。

だからといって空からの一方的…という考えすらコイツは許してくれないだろう。

コイツは音速で飛翔する空対地ミサイルとそれを発射した攻撃ヘリを一瞬で消しとばした、空を飛ぼうとしたら…それが最後の行動になるかもしれない。

 

『交代よ!』

『────っ…ああ!』

 

アリアがまずスモークでユーリたちの姿を隠して、フェロモンをまたベオグラードの外に発射。

そして、その中にアリアたちのチームが突っ込み、その中に覚醒態が突っ込んでいく。

スモークという宝箱に我々という中身があるから、覚醒態も開けたがる。獣もそこは変わらない。

 

『(だからこそ俺がコイツの気を引いてその隙にヘリを飛ばして逃げてもらってしまう事を提案した…幸い、コイツの気を引く材料に俺はなれているらしい。だが、この身一つでどのくらい持つか…)』

 

爪を振り回さられるのですら脅威だ。ロシア製の使っている長刀より硬度があるアメリカ製の長刀が刃こぼれし出している。長刀で攻撃を防ぐ基本行為すらコイツには許されない。

 

<た、隊長!そろそろ交代を!!>

 

アキの悲鳴にも似た要請が来る。

交代のタイミングは基本的に目的の距離まで誘導してからだ。

とっくにアリアからアキに代わっていたらしい。交代ペースはいいがみんなボロボロだ。

まともな有効打を与えられていないのに装備や肉体は1時間せず悲鳴を上げた。

それでいて手加減…まさに最悪の相手だ。

 

『…やるじゃないか。楽しくなってきた』

「ウゥ…!!ヴァラヴァル…!!」

 

MCX ラトラーを両手で撃つべく、長刀をマウントベースに収納させて、こんな事を言ってはいるが、内心冷や汗でぐっしょりだ。

 

もし、次の攻撃が来たら俺はどんな風に殺されてしまうのか…そんな恐怖が1秒1秒経つたびに考えてしまう。

 

「ヴヴォル!!」

『コイツっ!?隊長!』

『回避だ!』

 

覚醒態が大きく口を開いた、その口からどんどん光が集約され出している、なりふり構わず急いでブースターを起動させて、空を飛ぶ。

 

「────ヴァオオオオオオオオオッッンンン!!!」

 

あの時、ヘリを撃ち落とした光と同じ光が放たれた。狙いはユーリ。

だが…ヘリを撃ち落とした時よりずっと出力が低い様に見える。

 

俺を殺すにはこの程度で十分だと踏んだのか、サッサと片付けたいからは分からないが、"当たれば死ぬ"…そんな誰でも気づくであろう確信めいた直感が走り、照射を避けるために地面に思いっきりブースターを蒸して砂埃を捲し立てる。

その後、光が砂埃を引き裂いたが…引き裂いた光の先にユーリはいなかった。

 

『…!!』

 

正確にはその10数メートル左上に飛翔していた。

 

「ヴァア!」

 

しかし、覚醒態が諦めるでもなくその照射した光を少しずつユーリに寄せてきた。それを確認しつつもバレルロールによる反則的な動きや上下右左とジグザグに動いてどうにか当たらない様に動きながら、ある場所に向けて逃げ回る。

 

『(まだだ…あと少し…!よし、見えた!!)』

 

ユーリの視線の先には倒壊や傷はついていないがすっかり人気がなくなった、高層ビルだった。ユーリはビルの後ろに回り込む事でビルを盾代わりにした。

 

「────ヴァオオオオォ!!!」

 

覚醒態が光線の出力を上げる…ビルはどんどん誘拐し出し、ついにミサイルやヘリを溶かした時よりも出力が上がって…遂にはビルをも貫き、建物ごと貫通させて始末する気なのか、そのまま横に切り裂いてビルを倒壊させた。

倒壊したビルの衝撃で凄まじい衝撃と衝撃によって巻き上げられた土が砂嵐の様に一帯を覆った。

 

「……ウゥ」

 

────静寂…覚醒態と呼ばれたE.L.I.Dは終わったと確信して、一景するとまた当てもなく悠々自適に歩き回ろうとして、倒壊したビルを背にしてその場から離れようとした瞬間。

 

『────ウオオオオオオッ!!!』

 

砂埃の中から、ユーリが現れると抱えていた細長い…でも、それでも大人の二の腕は上回る大きさの棒状の導体を持ち上げて、ブースターを全開に稼働させながらおよそ100メートル程の高度から1秒未満の速さで覚醒態の背中にそれを振り下ろし、導体を突き刺した。

 

「ヴァッ!?ガッガッ…ヴァッガアアアアアアアアアア!!!???」

 

突き刺した導体は肉を抉り、初めてこの生物は緑色の命の証明である、己の血を流したのだ、覚醒態はまさか自分が傷つくとは思わなかった衝撃と痛みで泣き叫ぶ様な、怒り狂った様な叫び声を上げた。

 

「────ヴォオオオオオオオ!!!!」

『決めた!』

『ビルの避雷針を刺したのか!?』

 

全員を睨みつけると尻尾の先が突然、花が開く様に開き針の様な形状をした無数の光弾が対空で使われるマシンガンの様に連射して襲いかかった。

 

『────…クッ!!』

『ガッ!?あっ……隊長!?』

 

シールドを展開して防ぐがどんどんシールドにヒビが入って視界もどんどん悪くなる…部下のシールドは完全に砕け散り破片が突き刺さった。

自分のも今にでも壊れてしまいそうだ。

 

シールドを展開させたまま、ブースターを吹かして素早く後退して、なるべく光弾が広範囲に飛ばしてシールドに接触する数をなるべく減らす。

 

『おい!しっかり!』

『……っ』

『…ヤバい!隊長!』

 

ユーリが部下を拾い上げた時、アキも警告を出す。

ヤバいというのも、シールドだけじゃ…コレが無限に撃てるのならコイツの気を引いても尻尾の方で撃ち落とされる可能性が浮上したからでもある。

 

『ますます、ふざけた野郎じゃないか…』

 

本音では、サッサとヘリコプターが飛んでウルリッヒ氏が逃げてくれれば…俺もそれに応じた対策用の装備を引っ張っていけるが、今は新しく判明した事に対抗できる装備が無い。

 

『E.L.I.Dを排除しながら隔離壁まで突っ込め!……距離を取るんだ』

『ようやく敵と認めたのか…ここからが始まりだな』

 

一旦距離を取って、射程外まで離れる。しかし、壁に近づきすぎたせいでさらにE.L.I.Dと接触する。これじゃさっき以上に近づけない。

 

『近づけるタイミングが図れるまで無闇に近づくのは得策ではないな…ん、アレは?』

 

「────ヴォオオオオオオオオオンンン!!」

 

覚醒態が先程とは雰囲気が異なる咆哮を轟かせた。

 

『嘘だろ…』

「「「ウオオオオオオッ!!!」」」

 

すると壁の外と街の中から感染者達が一斉に覚醒態の周りに集まりだし…まるで陣形の様な形が出来上がった。

 

『操れるのか!?感染者まで!?』

『周囲を固めろ!離れるな!』

『ホラ!隊長の言う通りに!』

「ヴァララァ!!ヴァルルララァ!!」

 

覚醒態が吼えると前の列にいた感染者や感染生物達がそれに呼応して、襲いかかってきた!!

 

『ヴェルグ7!』

『ヤバいな!本当に!ヴェルグ8離れるな!』

 

戦術を使えるなんて、目の前に映った物を何でも襲いかかる腐肉喰らいとは次元が違う!!コイツは本当に規格外だ!!

 

「オオオオオッ!!!」

『────チッ!!』

 

一番最初に襲いかかってきたのは、ケイ素が進んでいない、鹿だ。

鹿が一直線で襲いかかってくる。

兵士達はとにかく近づかさせないため的確に眉間の間を狙って、ヘッドショット、続いて撃たれて転んだ鹿を乗り越えて、E.L.I.Dは遅いかかる。

だが、こんなもので終わりなわけがない。どんどんお構いなしに腐肉喰らいはこちらに襲いかかってくる。

 

銃で撃ちながらも背部に取り付けてある、長刀をマウントしてある装置を先に展開させておく。

 

『ヌゥッ!!』

『長刀を使う!ヴェルグ3!サポート頼む!!』

 

20体位、腐肉喰らいを始末した所で目の前にまで襲いかかってきた。

 

このタイミングでちょうどMCX ラトラーのマガジンの弾が切れた為、MCX ラトラーをマウントベースに移動させて、代わりに再度、長刀をマウントがロックから外れた音を聞いた瞬間に腐肉喰らいを切り裂いた。

 

『いいぞ!ヴェルグ1!』

『よし────ハアッ!!ゼャアア!!』

 

必要ではあるが、銃で撃つよりも剣を振り回して、体に吸い付いたヒルを引き剥がす様な、非効率な戦いを続けて…

遂にブレードが折れてしまった。普段ならこんな短時間では到底折れないが、覚醒態の規格外の攻撃力はこの長刀を大きく磨耗させてしまっていた。

 

『弾が!』

『ヴェルグ3!LMGをリロードだ!ちくしょう!!喰らえ!!』

 

折れた長刀を逆刃持ちに間違えて、剣先を力任せにB型の腐肉喰らいの頭に突き刺した。

 

『刺され!刺され!刺され!!』

「オオオオオ…」

 

突き刺した、長刀をハンマーで釘を刺すように思い切り拳を長刀の後端に叩きつけ、刺さり切った頃にはその腐肉喰らい動かなくなっていた。

 

『ハアッ…!ハアッ!────グアッ!?』

 

飛びかかってきた腐肉喰らいにタックルを食らったようにぶつかってしまい、派手に転ぶ。

 

『しまった……!』

『マズイ!ヴェルグ1が逸れた!』

『来るな!ヴェルグ3他の仲間と合流を優先!!』

 

今の攻撃で部隊と逸れてしまった。

群れから逸れたE.L.I.D戦というものは悲惨だ。

なお、当の逸れたユーリはヴェルグ3に合流をしろと遠回しに自分を諦めろと伝えているが。

 

「「「グァアア!!!!」」」

 

残った腐肉喰らい達が一斉にこちらに覆い被さって、襲いかかってくる…早く立て直さないと…!

 

『────ぐああっ!!??』

 

針で攻撃された部下から悲鳴が聞こえた。

 

『ヴェルグ7……!?ガルマン!』

 

その方向を振り向き、ユーリは見てしまった……E.L.I.Dになぶり殺しにされ食い荒らされて死んでいく部下の姿を。

 

『か、覚醒態を……う、あああっ!』

「ヴァア!!ヴァアアア!!!」

 

連続した吐き…!まさか…コイツ、笑っているのか?

どうやら部下達も連携を外され出した……ひとりひとりなぶり殺しにでもするのか!!

 

『ふざっ────けるなぁ!!!』

 

頭をもぎ取ろうとした、生意気な腐肉喰らいの頭を逆に殴って粉砕して、そこを突破口の起点として、耐性を立て直すとまず腕を引っ張っている腐肉喰らいを引っ張る手ごと引きちぎり、続いて足にまとわりつく奴はまず振り払ったのち、スパイク状ブーツの靴裏で踏み潰す。

 

『がっ!?あっ……!くそ!!』

 

足が動かない、違う!?足を掴まれている!!

代わりの部隊が急いで追いかけていらだろうがまだつかないだろう。

このままでは、次は自分がなぶり殺しに遭う。本当にまずい!

……そう思った時だった。

 

「ガッ!?」

「ゴッ!!??」

「誰に触れてんのよ!このカビ野郎!!」

 

突然飛んできた数発の銃声が響き、にじりよるE.L.I.Dの頭を抉り取った。

続いて多くの弾丸がユーリの足を掴んだ感染者の腕を抉る。

 

「ほら、どうぞ!」

「────!!」

 

腕の力が緩んだ今のうちにユーリはその手から脱出し、M4は手榴弾を口内に投げ込みその頭を吹き飛ばした。

 

「────指揮官、無事です!?」

 

背中を支えられて話しかけられる。話しかけた人形の姿を見てユーリは一瞬唖然とした。

だって、自分を助けたのは……

 

『え、M4……?どうして?』

 

自分を助けたのはユーリがすでにこの場所にいないと思われていたM4A1はだったからだ。

 

「えーっ……と、実はですね。近道しようと思ったら偶然、ね?」

『自分の仕事をしなくていいのかい?』

「大丈夫、ちゃんと遅れるって話してます」

 

答えにはなっている気はしないが、というか遅れると話している時点で偶然じゃない。

それでも彼女は自分の都合を押してまで助けにきてくれた。

E.L.I.Dの唸り声が聞こえる、またあの腐肉喰らいがこちらに躙り寄る。

 

「援護します……喰らえ!!」

『流石だ。これで戦いやすくなる』

 

M4A1は切り札の迷いなくガンケースを取り出すとE.L.I.Dの群れを一撃吹き飛ばした。

 

「グララァ……」

「ほら、アンタにも!!」

 

さらにもう一撃、ガンケースの砲撃を実行。

砲撃は覚醒態の顔面に命中した。

 

「ガゥっ!!」

「無傷!?これが、覚醒態……!」

 

覚醒態にはガンケースの砲撃でキズがついておらず寧ろ腹立たしそうにM4A1を睨みつけた。

あちこちにユーリ達がつけたと思われる切り傷の跡を見てダメージを与えられると思って撃ったのだ。それが無傷とは……というか、あちこちについたキズはどうやってつけた!?

 

「無傷って……これが壁を壊した怪物……!」

『ああ、今まで戦った誰よりも強い…だが舐めるなよ…俺も、コイツらとの付き合いは長くてね…さぁ、第2ラウンドだ』

 

────15分後

 

「当然だけど、強ければ雑魚も侮れないわね……!」

 

漸く、周りの感染者を全て平らげた。ユーリとM4も交代時に部下達と合流できた。

しばらく、傍観していた覚醒態だったが…ヘリに気づいたのか、攻撃ヘリを撃ち落とした時のように狙いを定める。

 

『あっ!あの野郎!』

『クトゥグアを使う!』

 

クトゥグアの弾数は残り1発…これを使わなければ生き残れるだろう…だが、使わなければ、ウルリッヒ氏は確実に死ぬ。

 

「最後の1発ですよね?それで倒せなかったら、どうします?」

『どうもこうもない、そもそも時間稼ぎと別方向の誘導だ』

 

そうか…コイツは取り巻きの腐肉喰らいが全滅しているのに気づいてない…だったら、出し惜しみする必要なんかなかったな。

 

M4A1のランチャーが炎を吐く。

あれだけの取り巻きがいるのだから、俺を倒せないはずがないと踏んだのか、それともまだ抜け出せないと思っていたのかは、知らない。

 

「それは捨て身じゃないですか!?」

『そうだよ!核を撃たれたらみんな終わりだからな!』

 

だが、核の話が出ても彼女は冷静だった。

 

「核、なるほど……」

『コイツ、随分冷静だな…やっぱり、人形だからか?』

 

ヴェルグ3はM4の冷静さは戦術人形だからだと思っているらしい。

それは違うだろうとユーリは思った、それは教会で予め自分が具体的な計画を出してもパニック気味だったことがそれを証拠にしている。

 

『いや……この子は前からかなりの度胸があったよ」

「ありがとうございます。指揮官……あ、いえ」

『大丈夫だ。指揮官でいい、まだ"私は"グリフィンさ』

「……わかりました。指揮官、これは憶測なんですけど」

『構わない』

「もしかして、貴方が挑んだ理由はもし誘引が失敗して核攻撃が始まってもあの覚醒態が核を耐え切ってしまうことを考えたからじゃないですか?」

 

憶測?いや、彼女は確信をもってこちらに問いかけている。

 

『理由は?』

「誘き寄せるだけであそこまで傷つけることはないですから」

『────なるほど』

 

ユーリは時間がないのでクトゥグアは発射。

ヘリだけに集中していた、覚醒態に背中にグリーンヒットした。

 

「ガァアア!!」

 

覚醒態は腹立たしそうに睨みつけた。自分の集中を邪魔されたからだろう。

 

『実は覚醒態が来るかもしれないことは事前に知っていたんだ。セルビア政府にも一応、警告を出したんだが……相手にしてもらえなくてね。だから、もともとこうなるだろうってことは最悪の事態に対する計画として立てられていたんだ』

「なるほど、では隔離壁で会った人形は…」

 

隔離壁で会った人形は……ユーリ達の人形だったのか。

それがグリフィンなのか、それとも他の勢力なのかはここで確認することではないだろう。

 

「……とはいえ」

 

M4A1が何もないはずの場所を撃つ。

だが、そこに命中した金属音が響く。そして空気が揺らぎ透明になっていたモノの正体が姿を現した。

 

「────おやおや……バレてしまいましたか」

「アンタは……!」

 

M4A1はこのせせら笑うようなネイトに心当たりがあった。

 

『下水道で遭遇したヤツか……』

 

ユーリも見覚えがあった。

このネイトは下水道で遭遇していきなり不意打ちを仕掛けたヤツだ。今度は光学迷彩で不意打ち仕掛けようとをしていたらしい。

 

「哀れな哀洗の儀を不当に妨害するを気にしてみれば……アナタ達でしたか。やはり、初めて会った時に感じた通り教養がなっておりませんのね」

 

M4A1がユーリ達の前に立つ。

彼らが壁の外に覚醒態を引きつけるにはあのナイトが邪魔でその邪魔者の相手はこれは私がしなければならないとみた。

 

「指揮官、行って!────あれは私が片付ける!」

『分かった』

「片付ける?逃げられるとでも?」

 

ネイトから触手がおそいかかる。

前のようには行かない、M4A1はライフルをフルオートで弾薬をばら撒き腕の触手を弾く。

 

「────」

「ユーリの邪魔はさせない!」

 

M4が邪魔したタイミングでユーリ達は覚醒態の方に向かった。

 

「おやおや……中々お上手ですね。では、もっと踊ってくださいまし!この"マーキュラス"の奏でるロンドの中で!」

 

ネイトが名前を名乗った!?コイツは名前があるネームドなのか!?

さらにどこに隠れていたのか奴の部下のようなパラデウスの白い兵士たちも陣形を展開して現れた。

 

────

───

 

「ヴァルル!」

『……はぁはぁ、なんとかベオグラードの外まで連れ出せたな』

 

ユーリ達の波状攻撃と誘導により、覚醒態の攻撃は失敗に終わり。ヘリは無事にベオグラードの外へ出て、もう俺にも覚醒態の奴にも見えないくらい遠く離れて行った。

そして、今は壁の外まで連れ出した。

 

『行ったか…』

 

さぁさぁ、飛べ飛べ…飛んでいけ…あの、地平線の彼方まで。

 

「ヴァルルルル!!!!!」

『あぁ、これは怒ってますね。まぁ、どうなるかは決まり切ってますけど』

 

血眼で俺の事を覚醒態が睨みつけている、今アイツの気分はまるで綺麗に並んだドミノをあと一歩の所で突き崩された気分だろう。

 

『心中相手が君ならまぁ、妥当なところだろう』

『ご冗談を。この戦い、私たちの勝ちですよ』

 

だが、それとは対照的にほっとした感覚が…体の力を抜けて、行く気がする…

 

ポタ…ポタ…と雨が降る。

 

────視点:M4A1

 

「────!?」

 

マーキュラスの腕から触手のようなものが伸び、M4の腕に絡んだ。

 

「つかんだ!さらにこれを!!」

 

さらに触手から電撃が流れる。

 

「ごっ!?あがっ!!」

「アハハハハ!!」

 

マーキュラスは戦術の成功を笑う。

全身が真っ白と真っ黒で交差する、マズイ!身体がショートして爆発する!!このままじゃ、詰みだ。

 

「ふっ……」

 

だが、それは普通の戦術人形の話。

M4A1は"違う"。

 

「そおっ…れっ!」

「ハッ!?」

 

突然、M4が笑んだと思うと触手を掴んで逆にこちらを固定。

そのまま、逆にある事を実行する。

 

「こ、これは!?ギャッ!?ぎゃあああ!!??」

 

マーキュラスが違和感を感じた途端、いきなり身体中が発火した。

突然の事態にマーキュラスは混乱する。

 

「私と直列繋ぎしたのが失敗よ!おかげで私の行動のデメリットもそのままアンタに負担させられるんだからね」

「ど、どういう意味ですの、この野蛮な人形────アッ!ギャァ!?」

「フフ、私は主機を限界以上に引き上げる事が出来てね。当然、これを使ったら素体が腕力やスピードが跳ね上がるけど……負担も大きい。禁止技よ」

「まさか、私の方の主機を無理やり引き上げて素体への負荷を一気に上げたということ……!?」

「正解!」

 

M4A1はライフルの銃口をマーキュラスに向ける。

さきほど己に向けられた笑顔と表情でマーキュラスを笑う。

 

「うっ……!」

 

マーキュラスは急いで拘束を解いてM4から離れると浮き上がるように移動して、銃撃の一部を避ける。

 

「確かに────!片付けると自信があるのもハッタリではないようで」

 

マーキュラスは自分が侮った事を認めた。

あの触手を見た時から、彼女はこうする事を考えていた事を理解した。

他にも対策を考えているに違いない。

 

「……アイツを殺せ。さぁ、行きなさい」

 

マーキュラスの表情から油断が消え去った。

そして、彼女の号令で潜んでいたパラデウスの兵士たちが姿を現す。

 

「(いるとは思っていたけどこの距離でレーダーに映らずに伏兵……?ああ、なるほど瓦礫に潜んでレーダー探知を避けたのね)」

 

マーキュラスは本気だ。

M4A1は初めから本気だった……なので、これからは限界を超える戦いになる。

 

M4A1はスモークを投げつける。

スモークの煙はM4を覆い隠す。

 

「────だぁっ!!」

 

パラデウス兵はM4のいた場所を切る。M4ではなくスモークを切り裂いていた。

そしてこん、と足に何か転がった。────手榴弾だ。

ボン!と音を立てて、まとめて3体の近接戦闘兵が吹き飛ぶ。

 

ドッペルゾルドナーが現れる。

グレネードを発砲。M4A1は素早く後ろに飛び退きグレネードの破片と爆発を回避。

M4A1はガンケースを向けた。あれで障壁ごと吹き飛ばそうとしたのだと判断したドッペルゾルドナーは前面にシールドを重ねた。

 

「……なんてね」

 

シールドを重ねた瞬間、ドッペルゾルドナーの背後にあったターレットが稼働した。

ターレットに乗っているのは5.56NATO弾、それでもシールドを貼ってないところに着弾すればよろける。そしてよろけた拍子にシールドを思わず消失。

M4A1は一気に接近して、ショットガン"M590"で顔面に発砲。

これはベオグラード警察のパトカーに放置されたものを拝借したものだ。

 

「……指揮官、助かりました」

「ぐうぅ……」

「いいところに来たわね」

 

あれだけデカい音で戦えば群がられるというもの。噛みつこうとしたE.L.I.Dをプロテクターで阻み腹を蹴る。

蹴りの衝撃でパックリ開いたE.L.I.Dの口がさらに開かれる、M4はそのままピンを抜いてない手榴弾を取り出し口の中にぶち込む。

そのままE.L.I.Dを盾にマーキュラスに接近。

 

元々の体格が良かったお陰かパラデウスの銃撃から程よく守ってくれる。

そして、十分接近したタイミングで手榴弾のピンを引き抜き勢いよく背中を蹴っ飛ばす。

 

蹴り飛ばされたE.L.I.Dの口から手榴弾が爆発、マーキュラスの壁になっていたパラデウス兵がまとめて弾け飛ぶ。

 

「このっ……野蛮な!」

「────貰った!!」

 

すでに壁がいないマーキュラスをM4A1のライフルのドットサイトは捉えていた。

 

「しまっ────あっ、キャッ!?」

 

5.56ミリが次々とマーキュラスを抉り切り裂いていく。

弾切れになるまでフルオートで連射する。60発入りのシュアファイア製マガジンが撃ち尽くしてでも倒し切る気だったが────

 

「は?」

 

ライフルが突然弾丸を出さなくなった。ジャムか?だが、烙印側では異常を言ってない。

排莢口を見るてもホールドオープンしてない。まさかと思ってマガジンを引き抜くとボロボロと弾薬が落ちてくる。

安くて大量の弾薬を持ち運べるという謳い文句に頼りすぎた。ライフル本体ではなく、マガジンが故障したらしい。

 

「────もう!!」

 

急いで別のマガジンを差し込んでチャージングハンドルを引く、だが再び照準を向けた時────

 

「あっ……」

「……アナタは近いうちに無惨に殺してあげますわ。その事を震えてお待ちになりますように」

 

マーキュラスに捨て台詞を吐かれ、他のパラデウスと共に逃げられていた後だった。

 

 

「────っ…はぁ、運がいいやつ」

────それはお互い様でしょう。

 

確かにマガジンが原因でジャムを起こすのは全ての銃で起きる事だ。

とはいえ、これはM4A1のマーケティング不足であり、そのマガジンが故障を起こしたのを運というのは些か冗談じみている。

 

「あなたも冗談を言えるようになるなんてね」

────こんなこと、2度としないで

「それは私の判断次第でしょう?お呼びじゃないってなら、自分の身体を手に入れるのね。最も……幻聴の類にそんな真似できるかしら?」

 

 

────

───

 

その頃、ユーリ達も執念じみた意識で覚醒態を追いやろうとしていた。

 

『ヴァオオオオオ!!!!』

 

覚醒態が甲高く吠えて、突っ込んできた時…水滴が、スーツの上に付着した、そして…その水滴は空から落ちてきている。

 

『てっきり、これも計算に入れていたと思いましたよ。偶然だったとは』

『なるほど…いや、偶然だ』

「…ウゥ!!」

 

振り滴る水滴の量がどんどん多くなる…そう、今日は嵐が出ると言ってた。

覚醒態は雨水が滴り傷口に入るのが染みるらしく、鬱陶しそうに吠えていた。

そうだ、嵐だ。…神の恵みだ!

 

────バシッ!!!とシャッター音がなる。雲で覆われて暗くなった、大地が一瞬光輝いた。

「ヴァル?────ヴァルルオオオオオオオオオッッ!?」

 

『決まった…!!』

『ざまぁみなさい!!』

 

発達した積乱雲から激しく降る、電圧200万ボルトを超える"雷"が覚醒態を焼き焦がしたのだ。

 

「ぎょああアアアアアアアアアア!!??」

 

30分前くらいに出した、叫び声とは段違いの声を覚醒態は唸り、轟かせた。

避雷針…雷を当たる事を雷そのものを引きつける事で避ける、文明の産物…コイツを質量や火力で倒すとなっても必然としてその威力に比例して、物体はより強力となる。なら、殺すため…それが出来なくても大きくダメージを与えて損傷させる為にはどうするか?

 

その為の切り札として編み出した、天から降る光と同等…1秒で地球を10周以上回れる速度を持つ…落雷は迎撃も不可能、だからこそ相手に叩きつけるそれを避雷針を見た時ユーリは偶然考えたのだ。

覚醒態がビルを崩落させたときに一緒に落ちてきた、避雷針を見てこの案が紡ぎ出された。勿論成功する可能性は非常に低いと思っていたが…倒壊の際に発生した土煙が良い煙幕になってくれた…改めてこのビルの所有者に安全基準の為の避雷針を設置してくれた事を感謝したい。

その上、雷が発生させる為の大前提として、雷雲たちこめる悪天候の時にしか使用できない。 しかし、今日はコーラップス液のせいで悪天候になりがちになっており、頻繁に嵐が発生する。

その上、ここベオグラードでは冗談だと思いたいくらい硝煙が爆発物や大砲が撃ち合いになっている、市街戦だ。

この爆発などで発生した熱気が空に伝わり空気を熱し、上昇気流を起こしてさらに嵐が雷雨になりやすい状況を作ってくれたのだ!

 

何が起きたか、分からず被りをふり泣き叫ぶ様な声を覚醒態は上げている。

 

「────ヴァオオオオオオオオッッ!?」

『勝利は見えた!一気に畳み掛ける!』

 

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