「ラビ……?」
「また、危ないばしょいくの?」
「……うん」
タリンに出かける前、M4SOPMODⅡは自分が拾った養女、ラビエルことラビに引き止められてしまった。
ベオグラードのように隠し通すつもりが、失敗してしまった。
……嘘をつける能力が欲しかった。
戦術人形は嘘をつかない、つけても嘘と見破られる行動をとってしまう。
「もう、ひとりで家に帰るのいやだよ。夜中にどんどん扉を叩くも聞きたくない」
「……ごめんね」
タリンに行くまでの間、空き地の"学校"からの帰りの出迎えをするようにしたが、それがラビにとってどれだけ安心できる行為なのか、SOPⅡは今更になって理解した。
それに、夜中にドアを叩く音……きっと、ロクでもないやつだろう。この辺りに警察がいないからって好き勝手している。
そんなストレスをラビが味わうべきでないことはことはSOPⅡもわかっていた。
この子には普通の子供にはまだ与えるべきでは無い負担を与えてしまっている。
「やだ!おばさんいかないで!」
私の足はタリンに向かう列車に行くべきだった。
グリフィンの為なら、断れない。断れない……はずだった。
「……っ」
だが、この子供が涙ながら裾を引っ張るだけで「私はここに残るべきだ」という強い感情に引きずられていく。
まだ、この子は私がそばにいる必要がある。
「ねぇ、この仕事終わったらどこか好きなところ行こうよ。行きたい場所に連れてってあげる」
「うん……わかった」
聞き分けよく手を離したラビ。
これで本当は、「私のことより、戦場にいる友達の方が好きなんだ」と言いたいのをぐっ、と我慢しているのはM4SOPMODⅡでも分かった。
────07:47
────"戦術人形"M4SOPMODⅡ
────グリフィン:アサルト部隊
────タリン隔離ゲート付近
M4達がヘラジカの始末を始めている時、SOP達も朝焼けに照らされた、目標の大物の姿を確認していた。
「────あのヒグマ。皮膚のケイ素化が酷い、まるで全身が防弾チョッキみたいだ」
「確かに…さて、どう倒そうかな」
SOPⅡはふと、出かけたときのことを思い出していた。
絶対に死なない。あの子にはまだ、私がいないといけない。
私があの子のところに帰るんだ。
「ケイ素は火を使っても意味がない、ロケットランチャーを」
「はい」
P22はRPG-7を私に渡した。
M4が用意してくれた強力な兵器だ。早すぎる気もするが、惜しまない。
「P22は後退。効果確認を」
「了解」
9ミリや22口径では、あのヒグマに衝撃すら入らない。
走り回れる自信があったとしても巻き込まれるのがオチだ。
「────さて」
RPG-7を肩に掛けると、グリップを握り、トリガーに指を掛ける。
初撃が重要だ。
もちろん直撃させるのは勿論だが、出来るだけあのヒグマの全身に衝撃が入る位置、脊髄の近くを狙いたい。
「────狙うは首元…」
当たった事で運良く脊髄を折ることができれば、ソイツは体に命令を出せずに身動き一つ取れない、一気に楽になるだろう。
「────まぁ、当たらないだろうけど」
このRPG-7が粗品である事もだが、風邪の影響を受けやすい…だから出来るだけ弾頭が逸れても直撃できる様に狙う。
トリガーを引き絞ると、弾頭が真正面に打ち上げられた様に発射され、一瞬の速度で弾頭が着弾。
土と砂と弾頭の中にある破片が着弾した所で巻き上がる。
「効きました…?」
「どうかな…P22!」
<確認してます…おっ!大物に着弾してます!首元です!>
「おぉ!」
P22の報告にMP7が喜んだ。まぁ、確かに運任せの博打でマトモに着弾したら喜ぶに違いない。
<────あ…>
「どうしました?P22?」
P22の口籠もりにX95が何が起きたか説明を求めた、何だろうか…嫌な予感を感じる。
<大物はまだ、動いてる…そっちに向かってる!!>
「────戦闘準備!」
全員が一瞬でセーフティを外す、直撃して…そのまま終われる…という都合の良い展開は無いらしい。
スコープや双眼鏡で見ていただけの大物がついに私たちの肉眼に現れる。
肌は多分、自分たちの弾頭で焼けただれ…顔はケイ素化によってシリコンと化し、化け物と言うのにふさわしい見た目だ。
「────ロケットが着弾した所を狙え!」
「────了解!!」
4つの銃口から一斉に、火を吹き、ヒグマを蜂の巣にする。
だが、大物のヒグマに全く効いている雰囲気はなく、動きを一切緩めずこちらに襲いかかる。
「────ウッ!?」
「────隊長!?」
「────私は大丈夫!…RPGはダメな様だけど…」
背中を切られる代わりに背負っていた、RPGが盾となって私の体を守った…がRPGは中身の部品が飛び出るほど引き裂かれた。
「────これは、マトモには喰らえないね…!」
もし、なんらかの失敗で食らってしまえば私は数千個のパーツになり果てるだろう。
「────攻撃を止めるな!!」
再び、一斉射撃が再開される。次の攻撃も着弾したところ確実に当てていたが、まるで苦しむといったような反応は無い…
「ここは────コイツだ!!」
仕方なくFN-ELGMを使う、使うグレネード弾はアップル爆弾…火薬が多めに入っており爆発した時の衝撃を重視している。
「────こりゃあ凄い、さすがアリアさんの武器、効果覿面!」
素直に意欲に感心してしまうベルグラードの時にアリアさんからもらったグレネードランチャー残りをできるだけ増やした、タイプだが…
威力が大幅に落ちているはずなのに大物にすらこの威力…!数は少ないが使う意味があると言う気持ちになれる。
「────まだやる気なの!?」
もうP22以外はマガジンを4つ…やく、480以上こちらは消費しているほど火力を集中しているのに…まだ動くなんて化け物だ…
「────クソっ!弾薬が尽きるほうが早いか!?」
全員、口に出してはなかったがMP7の言葉は誰もが思っていた事だ…残りのマガジンでこの大物を倒せるのだろうか?
ヒグマの爪が襲いかかり、ACRが左に飛び込んで避ける。ドシン、と千切れた岩が地面に落ちる衝撃が響き渡り、当たりに響く…
「…」
私の手はアップル爆弾のポーチに手が伸びていた。
本来なら2つも使う気もなかった。
だが、ここで使わないと絶対に勝てないかもしれないと言う気分だった。
「────クソオオオッ!!」
銃撃を聞きつけた他のE.L.I.Dがやってくる可能性は時間が経つほど大きくなる。
だからこそ、早めに片をつける必要がある、迷ってはいられない、FN-ELGMにグレネードランチャーを入れようとした瞬間。
「────あ」
突然ヒグマの腕が吹き飛んだ…いや、溶断された?
さらに何体もの軍用人形がヒグマに飛びかかる。
ヒグマは一瞬のうちに無数に切り裂かれていて、ただの肉塊に成り果てていた。
『────間に合ったな』
「ユーリさん…!?」
苦笑混じりの声と共に4体のケンタウロスと8体のケルベロスを率いていた、鋭利なシルエットの強化装備を身にまとっていた、前のユーリ大尉が朝焼けの光から姿を表した。
「────どうしてここが?」
『デカイ音がタリンまで届いていたよ。俺たちはそれを追いかけてきたのさ』
「嘘でしょ…ん?俺達?」
『あぁ、部下も駆けつけて列車の方に向かっている、あと…そうだな、M4達は仕事を終えたらしい』
MCXから通信が入った。
<あー、あー…SOPⅡ?結構時間がかかったみたいですね?うるさい音も沢山されていた様ですし…最後にM4から"どれだけの感染生物を呼び寄せたか数えてみる?"って、伝言が>
────マズイ、M4に怒られる。
────09:32
────フォトン
────グリフィン:指揮官
────タリン市内
「────グリフィンの指揮官。フォトンです、エネルギの補給感謝する」
「────ソ連外務省のユーリ・フレーヴェンです。燃料の事ならお気になさらず」
大陸横断列車に専用の仕様を施したと思われる軍用人形を引き連れて、今回の共同作戦の現場責任者でもある、ユーリ・フレーヴェン氏がわざわざ挨拶をしにきた。
現在のI.O.Pの理事のハーヴェル氏から仕事を振られた時、政府の要員がバックアップにくることは聞かされていた。
それがユーリだとは誰も聞かされていなかったので、カリーナも意外そうに目を見開いていた。
前任のAR小隊の指揮官は彼だったとか…
「タリンに何かあったのか?」
「いえ、今のところは感染生物と感染者と…あと、自動防御システムですね。恐らく、第三次世界大戦の時の余り物でしょう」
余り物か…いつまで、我々は過去に追い回されるんだろうか?
「防衛システムには定期的に誰かに整備されていたみたいで…何度か、撃たれました。射線のデータをある程度マッピングしたものを共有します」
「助かる」
「仕事ですので。さて、恐らくの範疇でのお話となりますが、ハーヴェルさんから連絡があったのでは無いですか?」
「何のことですか?」
「15分前にハーヴェル氏が私に連絡を入れましてね…若い指揮官だから、先輩として導いてやってほしいと頼まれていたんですよ」
「チッ、偶然じゃなかったのか。あの狸ジジイ」
「ふふ、素直で結構。ハーヴェルさんはそう言う人です。歳を重ね過ぎて、悲しみも曖昧な所ではあると思いますが…基本的な面は善人です」
「だから、お前は善人だと?」
「違います。ですが、私としてはグリフィンの忠誠よりもソ連や保安局に対して、忠誠を持つのは危ない行為をしていると話をしようかなと」
「何のことだか」
「隠したいなら、それでも構いません。告げ口するつもりはありませんし…あなたも大人になろうとしているのですね」
なんだ…?この男はまるで、俺のことを昔から知っている様に話しかける。
「今、1番大切な話をしましょう。保安局が手に入れたバグラーダノード…あれは、言うなれば鍵です」
鍵…?バグラーダ?どういうことだ?
「大尉、バグラーダというのはどういうものですの?」
「カリーナさん、それはよい質問です。バグラーダは1972年の十月革命を祝う式典の軍事パレードにて公開された兵器とのことです。当然、当時の西側諸国は危機感を抱いたに違いありません」
「そんなに昔から?兵器なのですか?」
「えぇ、それに経歴を漁ってみた所アフガニスタンでの侵攻で使われている様ですね。緊張状態を刺激するなんて、余計な事を…」
ユーリが小さく何かを言ったが聞き取れなかった。
「あぁ、失礼。これが、アフガニスタン侵攻の1980年の記録です」
映像が早回ししているが、それでもゆったりとした動きをしているバラクーダと呼ばれる兵器は、とても兵器と言うより気色の悪い生物にしか見えない。
「アフガニスタン侵攻時、カイバル峠ではアメリカの中央情報局は1000人辺りのムジャヒディーンを訓練したようで、そこを実験に使った様です」
バラクーダはどんどん敵を薙ぎ倒していく…彼らが敗走したまでにかかった時間は25分…たった25分で1000人以上が負けたのだ。
「クリスマス直前によくやりますよ…まぁ、そんな話はさて置き、一番大切なのはこの強さです、この強さを持つ兵器がパディルスキ原水基地に保管されている訳です」
「────こんな兵器が…?」
成る程、この兵器をカーター将軍の奴らが手に入れることができれば、誰も止めることは出来ないだろう。
「ですが、パディルスキに行くにはロクサット主義の旧エストニア領を通る必要がある…という訳です」
「だから、1番エストニアの目にかかり難い禁足域のタリンを通って近道をする必要があるんですね」
「正解です。一応このルートは外務省もそれなりに使っているので、私達がサポートに選ばれたというわけです…が」
列車が、タリンのホームでゆっくりと止まる。
「我々もタリンの近くは通る時もありましたが…タリンの中に入るのは今回が初めてです、さて」
ユーリが電車のドアを開けた、古びた駅の外観が目に映る。
「タリンへようこそ」
────2065年3月26日 10:11
────ユーリ・フレーヴェン
────ヴェルークト:ヴェルグ1
────タリン駅
<────録音データを再生します>
雑音、人の歩く音、そして何かのボタンが押される音がした。
────おめでとう局長、我らの一歩がまた歩み出せたな。
────老狐がまた、嗅ぎつけたな。
────まさか、痕跡なんて犠牲になったものに覆い隠されただろうに。汎ヨーロッパは我々が誠意ある行動をしたと思い込んでおるよ。自分の命をかえりみず、敵方の大使を助けるとな。
────それは我々ではなく、外務省だろう。核攻撃を阻止する事情とはいえ、あの"カリエス"を晒してしまった。何が計画通りだ。
────それを我らが最強のヴェルークトを保有する外務省に貸しにされたということだな。
────せっかく奪った書記長の期待も我々からまた、あちら側に移りつつある。それより問題なのは、ベオグラードにはアメリカやフランスの諜報組織の痕跡も見つかったことだ。
────む…我々の事情はある程度、把握されているということか?
────可能性は高い。外務省の動きと狙いが読めない。
────我々の動きは外務省の縄張りを荒らしている。この件でも、先を越されて解決されたときたら、君達保安局の存在理念は十分疑うように仕向けるかもしれん。K君が綱渡りした事には感謝しなくてはならんな。身の潔白が証明された。
────無駄話が多いぞ、ハーヴェル
────すまんなぁ…お詫びにいい話を教えよう。あの、指揮官…いや、ヴェルークトのユーリには感謝しておけ、彼は現時点では特に利益にもならないウルリッヒの救助をやり遂げた。そのお陰で汎ヨーロッパ連合は南ヨーロッパを説き伏せることができたのだから
────確かに彼女に優れた外交の才があるのは認めよう。…が、その説き伏せた理由は2つの鉄道の利益のためだ、ウルリッヒは当て馬だ。助かればそれで良し、死んだとしても、賠償金を我々にいくらでも請求できるのだからな
────意地でも、ヴェルークトの手柄を認められ無い様だ…まぁ仕方あるまいな、自分が地獄に突き落とした奴に突きつけられた剣をはたき落とされると有れば世界の笑いものだ。
────黙れ、とにかく…中央委員会はこの結果に満足している…と、そう伝えておけ
『ハハ…』
『隊長、傑作でしょう』
駅から、出て少し差し込んだ日差しから光を感じつつ、陽光に照らされたヴェルグ2が尋ねてきた。
『まぁな、保安局が悔しがる声が聞こえた』
『アハハッ!!そりゃ最高だ!』
ヴェルグ2もそうだが、その時の悔しがる顔は是非とも見てみたかった。これは、グリフィンの新人にも見せてやりたい。
『この情報はWAVEに送っておけ、あの指揮官君がこの情報をどう使うか試してみたい』
『────了解』
ベオグラードのことの後日談をどう捉えるか…それは本人の裁量次第だろう。
『まさかあの時の子供があんな事を言って、まさかグリフィンの指揮官になるとは…』
ユーリはヴェルークトにいた時、偶々イエローゾーンで助けたまだ、10にも満たない少年の事を思い出していた。
『随分と大きくなったけど、反骨的な所は変わってないな…』
『人の感性いつ変わるかわからないものですけどね…』
そりゃあ…そうだろう、人形だって。突然、ひょっとした切っ掛けで裏切る可能性だって捨て切れないさ。
「指揮官」
『…』
懐かしい声が聞こえ、振り向くと案の定M4だった。
後ろにそれぞれMCX、レミントンのR5、AR-15にP90のマガジンを差し込んだ人形達を引き連れていた。
「お久しぶりですね"指揮官"…」
『…』
指揮官という言葉を使った、M4にヴェルグ2が俺との間に割って入り、手で静止した。
「────いえ、ここでは"大尉"とお呼びした方が良いでしょうか?あなたのご懸念通り、タリンは通過点に過ぎませんでしたね」
『あぁ、バラクーダを取られたらまずい。新ソ連は多少はなりふりを構うつもりはない、という事さ』
だが、そのなりふりの構わなさのおかげでM4たちは、後ろ盾を得ることが出来ている。
「なるほど……大尉。少し、時間はありますか?」
『時間は』
『10分後に出発です』
『よし、なら7分だけ』
「ありがとうございます」
ヴェルグ2にすぐ戻ると言って、彼女を下げるとM4も部下にここで待つ様に命令を出して、かつての美しさを物語っていたタリンの崩壊した街中をゆっくりと歩く。
「どの禁足域にも言えますけれど、死の匂いがこれでもかと感じますね」
『…あぁ』
吹き抜ける風が、緑色の粒子を飛ばす…幻想的と言う人もいるだろけど、この粒子のせいで、俺はこの粒子遮断の効果を持つガスマスクヘルメットを外せない。
『エストニアはIT先進国らしいぞ?電子専用部品とか、修復に使える機材も探せば見つかるかもしれないな』
「参考にしておきます」
M4が食いつきそうな話題を誘ってみたが淡白な返事が返ってきた、あまり彼女は面白いと思わないらしい。
確かに、彼女と個人的な時間の中、2人で散歩をしているのに、そんな話題をされても返答に困るか…
「────大尉…私、相談したい事があるんです」
『何の話?』
とぼけてはみるが、彼女の話そうとする話の内容は何となく察しはつく。
「────秩序乱流作戦の時の事です。あなたも知っているコーラップス液の爆弾のことについて」