────15:40
────UMP45
────グリフィン:404
────タリン市内:中央発電所。
「中にずっといたから、日が暮れるのも知らなかった。じゃあそろそろ寝t… グエッ!?」
「────爆破作業に触れてすらいないのに、ずいぶんとエラそうな態度じゃない?」
寝ようとした、G11の顔面を踏みつけると、G11悲鳴をあげる。
「暴力反対…」
「うわぁ…416に踏まれたところの跡がついてる…ほら!起きてきっと楽しいことがあるに違ないよ!」
「何のこと言ってるの?」
「知らない。でも、見てよ!あの45姉の顔!」
UMP9曰く、”期待できそう”と一人楽しんでいるが私にも面白いものが見えている、とは思えない。また、町の防衛システムと追いかけっこは勘弁願いたい。
「そんなに追いかけっこが面白いなら、躊躇いなく私はこいつを捨てるわ」
「────へ!?」
「アハハ!G11はこんなときだけ元気になるね!」
私としてはこうでもならないと起きる気概を見せないのが悩みの種だ、秩序乱流事件の前にAR小隊と合同で任務に出た際、眠りすぎでAR-15において枯れた話を思い出す…そこまでトラウマか。
「追いかけっこかどうかを決めるのはまだ早いんじゃない?」
「え!?じゃあ、なんなの!?」
「…ヒヒ」
UMP45の笑顔の声が基地悪いわね、こういう時はどうなるか予想が全くつかない。
「ひいいっ!?余計怖いよお!しかもここ一面霧だらけ…私の足も重いよお…」
いや、確かに霧はあるけどそこまで濃くはないと思うわよ?…大げさね
「アぐグぐ…」
「霧ねえ…先ほどまで、あれほど晴れてたのにどうして霧が?」
「秩序乱流作戦で汚染区域になった街をサバイバルしたときは、これ以上にひどかったわよ?珍しい状況じゃないと思うけど?」
「論点は速度よ。いくら汚染区域であっても霧が発生するには絶対前兆がある。さすがに気づいたらの速度で霧が視界に映るのはいくらなんでもおかしい…それに強力なノイズを感じる」
ジャミングを受けているということかしら?手を振りかざしたら霧も動く…あれ?
「そうよ、煙はともかく霧は手を振りかざす程度じゃ動かない。そのうえ、動いているはずなのに私たちはこれを”煙”じゃなくて、”霧”と認識してしまっている」
「霧が多すぎるよ…誰かが私に声をかけるようだけどよく聞こえない… 」
「その声に答えないで。これ…多分、普通のハッキングじゃない、権限が高い強制連鎖よ。タリンで突然大量の情報連鎖が発生してる…だけど、形式が独特だからその強制連鎖を受けていることを分かってない」
流れ込む、膨大なアクセス量のためにチャンネルまで影響を受けるほど情報を送信させられたら…私たちの視覚演算に誤った情報が入ってきたように感じるということね。
「マクロウィルスの大量送信ね…クソ」
「理解が速くて助かるわ、それにしても非効率的。こんなに大量の情報を送り付けられるなら一度に流し込んでマインドマップを過負荷させて乗せてしまえば十分なのに」
「よく見抜いたわね、アンタだけが特別だから?」
UMP45が義手の腕を見せてきた。
前に、ヴェル―クトと一緒にパラデウスの施設に強襲する際にネイトをハッキングする必要があったから、デールがこの腕のデコードシステムに新しいモジュールを装着したの。
「カラクリはわかったわ、それで?どう対策するの?」
「複雑な手順を実行する必要がある、とりあえず9とG11の面倒を見てて」
────3分後。
「終わったわよ」
UMP45の合図を確認して瞬きをすると、情報が更新されたのか目の前の霧が消えて空の色も変わっているまるで昼頃だ。
「はあ、G11のプロトコルポート本当にめちゃくちゃね。デールは何を考えてこんな設計にしたのやら…」
UMP45がため息をつくほど面倒なプロトコルって…それが居眠りの原因だったらデールは二重の意味で変態ね。
「簡単に説明すると、単にARチームの誰かさん模倣の模倣をしてマインドマップを閉じたのよ。あのプライドの高い誰かさんは誰の指図も受けたくない、どうしようもない強情で、意地っ張りの女だから」
なぜか、遠回しに私も巻き添えで馬鹿にされた気分なんだけど…
「ほかにも、霧の影響を受けてない人形の部隊がいるわね…ああ、これツェ―ナネットワークの権限を強制的にはく奪して解除しているのね…もしかして、ROの部隊って督戦隊なのかしら」
「ひどすぎるアグレッサー部隊ね。とはいえ、私たちはメンタルポートを遮断してるだけだから烙印システムに問題はないけど、通信やレーダーは使えないか…」
「こういう時のための予備無線だよ!」
本当は、電力が厳しくなった時のための予備無線だが、なんにせよこの無線が役に立つ状況になっているのは確かだろう。
「しかし、今ごろ、グリフィン人形は混乱に陥ってるだろうね。私たちのように私的に改造された人形とは違うから、あ…M4の部隊は屋上を離れてるわね。ということは、根本的な原因に心当たりがついたのかな?」
「手伝う?45姉?」
「目的は同じ、なら手を組むのが利口よ。ギブアンドテイクってね」
────15:40
────"フォトン"
────グリフィン:指揮官
────タリン駅:作戦司令部
「まずい。2フィート先も見えない」
Ots-14は相当、視界を奪う謎の霧現象に参っておりすぐそこにフォトンがいる状況で神経を張り詰めている。
「────厄介な状況ですね」
<解決するまで今は防御すべきかと。グリフィンの戦術人形を一旦、駅に集結させ防衛線を築く事を提案します>
「それは徐々に追い詰められるのでは?」
人形の事も確かに案じるべきではあるだろうが、ここでヴェルークトに任せてしまうと彼らが裏で何かをやっているのを把握できなくて怖い。
確かに、彼らは今味方だが、こちらを脅迫してきたゼリンスキーと同じ、ソ連の人間である事は変わらない…要は味方ではあるが敵である可能性は否定できないという訳だ。
<少し前に大量接続の解決法を見つけたという人形のメールが来ました。今から合流します、内容確認次第、こちらで少しずつ解決します。戦術人形は解決後、順次任務に戻ればいいでしょう>
人間が電子戦の影響を人体で受けない利点は、ここでは儲けものか、しかし人間を前線で配備していないグリフィンは動く事も叶わないデメリットと化している。
そこを都合よく利用されているのかもしれない。
<…ふむ、まだ我々の事を信頼はしていない様ですね>
ユーリ大尉が「はぁっ…」と溜息を吐く、交渉で彼が折れる前兆なのか、はたまた更なる脅迫を突きつけて来るのどちらだろうか?
それとも、もっと恐ろしい脅迫をしてくるのだろうか…
<なら、こうしましょう。探索した過程であなた方の部下の戦術人形を見つけ次第、こちらに搬送しましょう。>
「────?」
<送り主の通信圏外になれば、キャパシティーオーバーからデータの整理に入り、再起動できるかもしれませんよ?>
「再起動?」
<────え?…あ!いいえ、違います!違いますよ?勘違いしないで、再起動と言っても今のはスリープモードの立て直しの綾ですから…!…あぁ、もう言語って本当難しい…!>
…恐らくであろうが、"再起動"と言う言葉にデータを"全消去"と自分が受け取ってしまったと、大尉は推測したようで慌てて訂正をした余計に怪しい気が…
<もし、仲が良い服関東人形の記憶が全部消えてしまうなんて…事は私も望むところではありません>
あぁ、なるほど…そういうことか。彼は彼なりに、俺たちのことを配慮してくれたんだな。
<グリフィンのあなた方にもあなた方なりの絆を持っているでしょうし…>
それは、それでうれしいのだが、自分としてはそういうこと言ってるわけじゃない。
だが、これ以上食い下がったところで、これ以上いいものは得られるものもないだろう。
「そうですか…わかりました。探索の方はあなた達に任せます。人形の搬送の方もよろしくお願いします」
<えぇ、やってみせます>
彼等との関係を自分の意地や不信感で悪化させるようなことも、ここまでの力量差がある時点でグリフィンとしてもしたくはない。
ここは、大尉の意見を素直に受け入れて、彼等の行動に関して、しばらく目を瞑るしかないのかもしれない。それに404なら、まだチャンスはあるだろう…
<────あぁ、そういえば。フォトンさんにも誓約した人形の方とかいらっしゃるので?>
「何を言ってるんですか?あなた?」
一体、彼は何を言っているんだ?こんな場面で?
<いやぁ、もしその人形がいたら真っ先に搬送してあげれば、我々を信頼していただいてくれるかなぁって…>
「そんなことで、贔屓はしたくありません。取り敢えず…!探索の方はよろしくお願いします」
<えぇ、任されましたよ。指揮官様>
通信が切れた。
「────やりにくい男だな…」
通信が切れるのを確認した俺は、椅子に座り直して、クッキーを入れていた箱を取り出す。
「あ、指揮官様。お話が終わったんですね」
見計らっていたのか、はたまた偶然なのか、それなりのキャリアがあると言われているカリーナが自分の部屋にやってきた。
「外務省の方はなんて?」
「あぁ…やりずらい人だったよ。まるでこっちの状況が全部把握されている気分だった…」
それでいて、こちらを思いやる様な言い方と言葉遣い…そして、提案…俺がこんな交渉のやりとりの真っ只中の状況に放り込まれてなければ、コロッと彼を頼りにしてしまいそうだ。
「まぁ…そういう所があの人らしいですし…まぁ、深くは疑わなくていいと思いますよ?あの人が本当に利用して使い捨てたい時はあの人に相当嫌われている場合ですから」
やけに詳しいな。カリーナ…そういえば、大尉がグリフィンに挨拶しにきた時の案内役は確か…
「昔、大尉の秘書をしていた時があるんです。だから、あの人のやり方はそれなりに理解しているつもりですよ」
────15:55
────ユーリ・フレーヴェン大尉
────ヴェルークト:ヴェルグ1
────タリン市内:コントロールセンター
『どう思います?さっきの交渉?』
『あー…』
ファリサが「彼等に信頼されたのか?」という質問をした。
正直に言うとそれは返答に困る、彼はどうやら俺のことを信用はしているが、信頼はしていないようだ、ゼリンスキーの脅しをグリフィンは引きずっているのかもしれない。
『まだ警戒されている、と見た。俺たちをチンピラ同然の態度をする保安局とおんなじに見てるのかもしれないな』
『保安局のせいで迷惑を被っているのはいつものことですね…しかし、その程度はまだ予想の範囲…』
『聞いたか?』
『えぇ、前方ですね?』
落ち葉を踏み締める音が聞こえる…間違いではなかったらしい、音を頼りに近づくと。
「…あなたは天使ですか?」
『またこの人形か…』
あの時、Kord重機関銃を容量オーバーに追い込んだ時に現れた、見窄らしい格好をした人形がまるで俺たちを待っているかの様に、道の真ん中に立っていた。
よく見ると、路地にはデザートイーグルを持った人形や、スナイパーライフルを持った人形が倒れていた。
人形が近くのガラス辺を拾うとこちらに向けていきなり走り出し、刺し貫こうと突っ走る、標的はファリサの様だ。
『────フン!』
女を選べば有利だと踏んだのかもしれないが、ファリサは突き刺そうとしてきたガラス辺を持った人形の手首を掴むと、その手首をぐいっと捻り、持っていたガラス辺を取り上げ、人形を地面に叩きつけて組み伏せる。
『またか!』
『大人しくしなさい!』
「…!」
人形は、腕のパーツを外してなんとかファリサの拘束からから逃れると、地面に転がっていたデザートイーグルに手を伸ばした。
『やめろ!!』
だが、一向に止める気配はなく人形の手がグリップに触れて引き金に指をかけた…
「ありがと────」
やむ負えない、A-545のセレクターを2点バーストの位置に切り替えてその人形をヘッドショット、撃たれた人形はまるで俺たちに感謝する様に動かなくなった。
「…あれ?」
「…私、さっきまで何を?」
『やはりか…』
「…あ!貴方方は…!」
やっぱり、さっきの人形を倒すとさっきまで倒れていた人形達が目覚め出していた。
「そうですか…私たち、容量オーバーでシャットアウトを…助かりました、貴方方がいなければ…」
部隊の隊長である、と名乗ったデザートイーグルに現在の状況を説明すると、彼女は納得をしてこちらに礼を述べた。
「M4A1から情報を預かっています。どうやら、多数の接続が戦術人形をターゲットに送信されている模様。その送信されたデータが膨大なため、視界を占有しているらしいです。対応方法はネットワークの切断か、送信者の排除」
『ならそうすればいいじゃない』
対策があるなら先にしろ、とヴェルグ2はデザートイーグルに言った。
「そんな危険なことできません。ネットワークの切断は人形にとって喉を目を切る行為です。それに、敵味方の識別も無効になるので味方に撃たれます。だから、味方の範囲内で切断するために戻っていたんです」
『時間が切れた、ということか』
「恥ずかしいことに」
『分かった。なら、君たちの指揮官が、駅で防衛線と部隊の再構築をしている。そこで合流だ、このエリアが混線で覆われる前に下がるんだ』
「了解です。では、私達はチームのメンバーを確認してから────」
『────狙われてる!』
レーザーのライトがデザートイーグルの腹に点灯したのを見た、俺が警告するとヴェルグ3のグレゴリーがシールドを展開すると、
「────ちょっと!?」
彼女の服の襟を掴んで物陰に素早く隠れた、グレゴリーが彼女を移動させていなかったら…シールドを展開させて着弾までの時間を遅らせていないったら…
『────自動防衛システム…!?』
彼女の頭はまたあった位置を突き抜けて、彼女達の言う"霧"の向こうに消えていたかもしれない。
『今の…まだ動作している防御兵器ですか…?』
『だろうな、おそらく再起動の時に人形達につけていたコードがリセットされてしまったのかもしれないな』
「なんたる不覚…!SSG、タリン駅がある方向はまだ確認できて?」
ターレットはまだしつこく、デザートイーグルを撃ち殺そうと障害物の壁抜きを狙って集中的に撃ってきている。
「はい、霧を消してくれたおかげでバッチリ見えます!でも、今出たら鴨うちにされるかもしれないからそっちに行けな────」
「────グオォオオオッ!!」
「今の唸り声はなに!?」
『E.L.I.Dだ!銃声を聞きつけて来やがったか!』
議論している暇はない。
俺は赤リンスモークを取り出すと、ルートを塞いでいるターレットの射線に向けてピンを引き抜き、転がした。
『赤リンスモークを使った、一旦タリン駅に戻るのは諦めて、あの建物に下がるぞ』
『了解。嬢ちゃん、俺の方に捕まるかい?』
「自分で走れるので結構です」
ヴェルグ3のグレゴリー、見事にフラれたな。
そんなことはともかく俺を殿にしてスモークが有効なうちにマークした建物まで後退した。
────1分後、放棄された制御所建物。
『ユーリだ!建物に入るぞ!』
間違われて撃たれない様にあらかじめ、宣言した後に建物に入る。
俺が入るのを確認するとヴェルグ8のヴァレリア・スタブレジョフがドアを閉めた。
『全員いるな?』
『えぇ、あなたで最後です。隊長』
『よし、上出来だ』
まだ、ターレットの音が聞こえている…どうやら幸い。
銃声を聞きつけてやって来た、E.L.I.Dを狙ってくれるらしい。
『…グリフィン部隊。今のうちにコードをインストールし直しておけ…それが終わったら一息ついて…この建物を調べておこう』
コードを入れ直し、今度こそ撃たれないようになった事を確認して建物を調べる事にする。
「あの…このまま、駅に戻るのは?」
『そうね、このままタリンの駅に戻ってもいいんだけどね。安全な建物は1つや2つあると心強さが段違いなのよ…』
「ああ、セーフルームにするんですね」
特にどこからでも湧いてくる。
腐肉喰らいだと、銃撃を受けて避難する建物でホラー映画のように襲われると言う事態はどの部隊でも聞かない話ではない。
『安全な建物を把握出来ていれば、撃たれたときにすぐその建物に不安なく入ることができるわ。だってそこに化け物はいないわけだし…』
「なるほど…勉強になります」
ヴェルークトは基本、対E.L.I.D戦を重視している部隊だが、対人戦にも遭遇する部隊だ。
だからこそ、両方同時に遭遇する状況も稀ではなく、そのための戦術がこの部隊に用意されている。
『グリフィンは1階をお願い。私達は2階を担当するわ』
ヴァレリアが上に上がって来た。
どうやらグリフィンは一階を担当する気らしい。
『タリンのコントロールステーションが駅から遠い所に設置されてるんだな』
『あの出来からして、隔離壁が民間設備だからな…大陸間の列車の出入りに合わせて、開閉もしなければならないし他の企業が置いていることも考えるとそうでもないんじゃないのか?』
『なるほどねぇ』
位置に関しては、別に疑問に思う事は少ないが…最近まで誰かいたように思える。痕跡が散見される、廊下や部屋も簡単に掃除されていて、少し前まで生活感があったように見える。
<SSG3000です。1階の確認終わりました>
『分かった。こちらも2階の確認を済ませた。3階に行こう』
<了解です、でもこんなに近くにいるのにツェーナプロトコルが使えないなんて…無線を使わないと声が届かないなんて…>
本来それが正しい姿だけどな。
だが、人形達にとっては今までできた事が出来なくなった事で人形達は今、不自由を感じている。
『む…』
建物の中は真っ暗で、唯一の非常灯だけが少しの照明を提供するだけだった。
『NVに切り替えろ』
『了解』
ヘルメットの機能から暗視機能、NVを選択して、暗闇でも構造がくっきりと見える緑色の視界を確保した。
『ついてくるなら俺たちから離れるなよ』
「りょ、了解です…」
人形達はツェーナプロトコルが使えないため、暗視装置が使えず視界を制限されて、離れないよう隊員のベルトをつかんでいる。
頼みの綱は聴覚だが、その聴覚から聞こえる足音も味方のものとは限りないそのじじつが人形達を不安にさせる。
『ドアひとつか…』
やがて、突き当たりに差し掛かると暗視装置の視界に1つのドアが待ち受けていた。
『鍵は?』
『空いてるな。カバーを』
『いいぞ、隊長』
だいたい射線はこれくらいの目安である事を示した、赤外線レーザーの光を確認して、ゆっくりと射線を塞がないようにライフルを片手で構えながらドアを開ける…その部屋に映っていたのは…
『…チッ』
「な、何が見えたんですか?」
何も見えない人形達が説明を求めて来た。
『ヴェルグ3…グリフィンを下がらせろ』
『何を見た?』
『集団の死体だ、数は40から60といった所だ…』
チラリと部屋の中を覗き見たヴァレリアが口元を覆った…つまりそう言う事だ。
────5分後
『グリフィンは下がったか?』
『えぇ、よく視界が見えていないグリフィンの人形を誘導するのに手間がかかりましたけど…』
『そうか…この光景はあまりにも…』
『えぇ、惨いですね』
腐敗臭が酷い、それにあちこちの死体にウジがたかっている…食い破られた肉から骨が見え、死亡した時に処理されなかった排泄物が垂れ流されている。
『ウジのたかり場と排泄物で死体が…相変わらず吐きそうな匂い…!』
『死んでから、かなりの年月が経ってるな…外傷は見当たらないが…もう少し調べてみるか…』
…数分後。
『最悪…泥だらけになって匍匐前進した方が余程いいわね…ん?』
死体の首元からヴァレリアが何かを発見した…これは、難民によく配られる身分証明書だ…手がかりになるかもしれないと手を伸ばした瞬間。
『…?』
水を踏んだような音が聞こえる。
『誰よ?ドジ踏んだの?…!』
ヴァレリアは誰かが汚水を踏んだのかと一瞬思ったが、悪態も聞こえない事から、ある確信を得た、彼女はA-545をその水音がした所に向けて構えると、暗視装置から映っていたのは…
「────ウォオオオ…!」
『────きたッ!!』
ヴァレリアが暗視装置で映った対象に向けて、躊躇いなくA-545の引き金を引き、腐った肉が抉られた音を立てて、撃たれた対象はもう一度生き絶えた。
『悪知恵が働くわね…1人くらい、動いてなさいよ…』
撃たれたのは、先ほど死んでいたはずの死体だった。ヴァレリアが舌打ちを吐いてもう死体になった腐肉喰らいを蹴り飛ばす。
『────ヴェルグ8!!』
ユーリがヴェルグ8後ろに現れ食い殺そうとした、腐肉喰らいを撃ち殺した。
『ずいぶん用意周到ね…!』
『隊長!この死体も動き出しました…』
『円陣だ、死角を作るなよ』
そして、部屋の中にいた、腐っていた死体達がゆっくりと体を起こした。
「────ォオオ…」
「────ぅ…がぁあ…!」
ユーリ達が暗視装置越しに腐敗で膨れ上がった顔を見た。
みんな似たような表情をして、極度の恐怖と絶望と向き合う場合にのみ、現れる歪んだ表情を…
『誰がこんな事をしたにせよ、悪趣味な事を…!』
────
───
────遠くから、声が聞こえる。
────何が夢であり…何が現実なのか。流れる時間ではなく、孤独の一瞬。
「…」
一緒に戦っても死ねば痕跡も残らない。泥に落ちる花びらのように、雨水に消える涙のように。
「OGAS?…アンタが言ってるの?」
声が続く。
────孤独な私たちは連鎖と理解と接続を渇望していた。
────しかし、一つに繋がっても憎悪と時期は消えない。私達に故郷はなく、永遠に帰る所はない…
──── あなたは誰ですか?選ばれたもの?私たちをここから連れ出してくれるのはあなた?
「ますます意味がわからないセリフが出たわね…精神科医に行ってくれないかしら?」
────残念だけど、この声はこれは私の声じゃないわ、外部からの接続よ
「ようやく答えたわね。この声は何なの?あんたの"同類"ってやつ?どうして、こう…アンタ達は要領得ない言葉ばっかり投げつけてくるのかしら…」
────貴女に強制的に情報を送り込もうとしているけど…どうする?
「…いま、私がどれくらいのキャパシティを取られてるかわかってる?」
────これがルニシアに関連する情報であれば?
「少なくともこんな状況で受け取りたくないわよ…さすがのアンタも分かるでしょ?…」
【推奨:敵との距離は30メートルを維持して、戦況を把握しやすくしなさい】
今度はOGASとは違うあの声、だが…この声は戦闘面での適切なアドバイスをしてくれる。
「全員、今の距離を保ちなさい!」
────16:35
────M4A1
────グリフィン
────タリン市内:旧経済エリア
視界に映る、今私たちが懸命にトリガーを引きまくって、捌いている化け物達を指差す。
もし、OGASのいう接続を受け入れたら、多すぎる容量の処理に時間を取られる。
そうなったら私の動きは鈍くなり、真っ先に化け物達の餌食になるだろう。
自分が倒れたら真っ先に2人仲良くおててを繋いで、仲良く地獄行きになる事をOGASは分かっていないらしい。
「くそ!いつまで続くんだ!」
R5の銃弾が目の前を通り過ぎて起き上がって来たE.L.I.Dの頭の隣の瓦礫を撃ち砕いた。この銃撃はハズレだ。
「────ぉぉぉ…ォオオ!!」
その上、今の銃声でこの化け物に位置がバレたらしく次々と押し寄せてくる化け物達と合流して、私たちのもとに集まってきている。
────確かに、この状況なら仕方ないわ…運が良かったわね。
「────言ってろ」
「────ええい!ネットワークが無いだけで、こうも下手くそになるっての!?」
「これでも、ジャミングは少しずつ減ってる。グリフィンは楽にはなってるでしょうが…」
M4A1たちには関係ないことだが、1時間くらい前からジャミングの数がほんの少しずつだが、減っているのを感覚越しで感じている、誰かがこの問題の対処を始めているのかしら?
「────ぉぉぉ…ォオオ!!」
「触るな」
R5が撃ち漏らした、感染者がブーツに触れようとしたので、STAR-15がその手を足で勢いよく蹴り弾き、踵で踏み潰した。
「それでも…あの子たちは起きない!?」
AR-57は道端に倒れている人形たちに向って怒鳴る。
意味もないことだが、役に立たずこっちが危険な目に合うのはストレスになる。
「減ったと言っても、それでも数十個は超えるジャミングよ。通常通りの処理に戻るにはもう少し時間がかかるかしら」
「お荷物の世話なんていやだって!」
「私も不本意よ!でも、フォトン指揮官の発言を真に受けるならこいつらは失えないわよ。それに、まだ余裕はあるんだから根性見せなさい!」
STAR-15が起きない理由を説明するが、聞きたいのはそういう話じゃない。
MCXは「勝手にしろ、でも危ない状況になっても助けない」と言っておきながら、「助けてくれ」とのたまうグリフィンの態度にイラつきがある。
そして、M4も内心同じようにイラついているが重要な情報があると言われた以上、見捨てられないのである。
また、OGASの話を信用するなら、ノイズ自体からの脅威はないとのこと。
戦略的に行動するのならば、余計な刺激を与えず極力スルーして優先任務の隔離壁の制御獲得に専念する、というのは、きっと私だけの都合だ。
「────ああっ!くそっ!また外した!…って、いつの間に!?」
この通り、レーダーが機能しないので、感染者の接近もこのように許してしまう。
「AR-15。大丈夫?」
「…なんとか。いい腕よ、M4A1」
目の前に来るまで脅威を知覚出来ないほど、影響を及ぼす状況下で味方を無視している間に、どれほど脱落する奴らが出る?
もちろん、ジャミングを排除している間に感染者の群れに接触する事態を避けていち早く都市を去る考えも間違いではない気もするが…
「どう…?奴らは見える?」
「…見えない、後続の来る気配もないわ」
「よぉおし!!全滅だぜぇ…!…ふぅ」
目に見える範囲で感染者がようやくいなくなり、しばらく経っても現れる気配がない。
これはどうにか殲滅できたという判断をしてもいいだろう。
味方の為にサポートに徹するという自分の判断が間違いではなかったらしい。
「…さて、あの連中が起きるまで休憩と整理をしましょう。弾はあとどれくらいあるの?」
今のうちに状況を確認しておこう。
気の抜けない戦況だ、いつでも自分たちの状況が確認できるという訳ではないのだから。
「今入ってる弾薬が、22発…それと、残り8マガジン。サイドガンには手を出してねぇ」
「7マガジン、それと銃に入ってるマガジン内に34発。サイドアームを5発撃ったよ」
「3マガジンと、今挿入したマガジンの40発。サイドアームを10発程撃った」
「ありがとう。私は10マガジンと31発よ。サイドアームに手を出してないわ。AR-15は?」
「5マガジン。今リロードしたからそれだけ。サイドアームは持ってない」
長期戦を予想して40連の大容量のマガジンを持ってきたのに、もう半分使ってしまっている…この短時間でかなり使ってしまったわね…
「R5、AR-15私のマガジンを貸してあげる。無駄遣いしないで」
「どうも」
「気前がいいなクライアント、だが…正直ジリ貧じゃないか?」
「言わないでよ。黙ってるつもりだったのに」
たしかに…状況はどんどん不明瞭になっていく…どうする?ジャミングを諦めて、一攫で問題を解決するか?
とりあえず、ROやSOPⅡと相談するか。
「ROとSOPⅡたちにも連絡とりましょう」
「ネットワーク使えないだろうが」
「そうなった時の物を用意したでしょ?ほら、アレよ」
「あ!アレか!」
R5達は事前にM4A1から提供された"アレ"を思い出した。
<M4?救助できた?>
「まずまずよ、SOPⅡ。そっちは?」
アレを使って連絡を取ってみるとSOPⅡと繋がった。
<あぁ…うん。まあ酷いよ、何体か助けたけど、全部症状持ち。症状がでた人形の中には「空が真っ暗」もいるし…この霧は視覚を傷つける効果もあるのかも…>
「…そんなに?」
空に目を向けると、凄惨な地面とは違って、空はこれ見よがし嘲笑しているかのように晴れている。
「…こっちは晴天よ?時計は何時を指してるの?」
<…本当だ、まだ4時じゃん。これ、本当にジャミングかもしれないね…あ、そういえばM4?>
「どうしたの?」
<さっきから、調子悪そうに聞こえるけど。メンタルに何かあったの?>
「私は特に問題ないけど、私の中の相方の問題は────」
「グァアワアア!!!」
「今のは!?」
<ちょっと待って…こ、これは────>
突然、通信がプツリと、切れると同時に廃墟と化した街中を寒気がするほど気味の悪い、巨大な咆哮が響き渡った次の瞬間…
「────は?」
地鳴りのする方向の後にはタンクローリーが走り跳びのよう空中で転がり、高層ビルを軽々と飛び越え、私達にゆっくりと加速しながら落下してきた。
みんなは咆哮で気づいておらず、タンクローリー落ちてくることが分かっていない。
「────危ない!!」
考えるより先に体が動き、タンクローリーに押し潰される位置にいた、AR-57を咄嗟にその場から突き飛ばす。
突き飛ばされた、AR-57は勢いよく後頭部から地面に転がった。
一瞬だけでも、遅れていたらAR-57は抗議することも出来ずにこのローリーの下敷きになっていたに違いない。
「────な、なんだ!?」
そりゃあ、いきなり前触れもなく(あったけど)タンクローリーが空から落ちてくるなんておとぎ話のような状況を前にしたら、誰だって動揺する。
そして、タンクローリーが落ちてしばらくした後、甲高い爆発音と、なんとか聞き取れた銃声が響き渡った。
「味方かもしれないわ!行くわよ!!」
味方を助ける気持ちと、タンクローリーの出来事の真相を解明したい好奇心…その二つが私達を突き動かし、その銃声がする場所に向かって走り出した。
「────喰らえ!化物野郎!!」
グリフィンの人形が霧に覆われても見えるくらいに、巨大な"何か"向けて、必死に銃撃を喰らわせている。そして、その銃撃をしている人形の後ろには重装部隊がいた。
「────砲撃も、ま、まるで効いてないよ!?」
「────なんて奴だ」
だが、その巨大な"何か"には銃弾が全く聞いておらず、人形達の弾が尽きると人形達に襲い掛った。
「アアアァアアアア」
再び甲高い叫び声と悲鳴を聞いた。
「────急ぐわよ!!」
私達は明らかに今起きていることがただ事ではないこと理解して、急いでその声を頼りに、走るペースを上げる。
「な…!こ、こいつは!?」
たどり着いたとき、M4たちは信じられないものを見た。
全身が腐った様な全長およそ15メートル程の恐竜の様な体に、人間の頭部が融合した様な化け物が先ほどまで抵抗していたであろう、重装部隊と思わしき人形達の身体や大砲を食いちぎっていた。
「グァアワアア!!!」
通りかかった時に、立てた音を嗅ぎつけるや否や、私たちのことに気が付いたらしく今度の獲物をこちらに標的を定め、猛スピードで襲いかかってきた!
「────逃げろ!!!!」
こんな奴と、まともにやり合って勝てるわけがない。
必死に、迫りくる化け物から、パチンコで弾くように、私達は二手に分かれて直線上に来る、化け物を地面に飛び込む様にして避ける。
「────オォオオォォオオオオオ!!」
自分達が先ほどまでいたところの後ろに存在していた、建物に激突、激突の衝撃により、建物の防壁がボールを当てられたターゲットパネルの様に呆気なく倒壊した。
「────オォオオォォオオオオオ!!」
この化け物はどうやら、さらに狙いを縛り、こちらを睨みつける。
私とAR-15どちらかに目をつけた様だ…鮮血が入り混じった汚い涎を垂らし…獲物を怯えさせるための獣のような咆哮した。
ぱっくりと巨大な口が大きく開いたことで口が開いたことでずるりと人型の口の中から地面に零れ落ちた。
「────あ…あ…助け」
果たしてそれは、重曹部隊の人形だった…まだ、意識があるのか必死に手を伸ばして、助けを乞う…
「────!?ヤダッ」
しかし、そんな助けを呼ぶ声をあざ笑うかの様に、化け物が移動の為に足を動かす…たったその一動作で、先ほどまで生きていた人形がトマトの様に踏み潰されてしまう。
「やっぱり私か」
化け物が私に狙いを定めて、唸り声を上げながら、前足のような腕で切り裂こうとした。
「ふぅっ!?ふぅ!?」
それを、どうにか身体を後ろにジャンプして避けることが出来た。
あの爪があと数センチぐらい長ければ、人形の素体カットフルーツになっていたところだ。
「(次は何をしてく────!?)」
【警告:口元の動き注意!】
「口!?」
なんと、今度は口だと思われる器官をワニの口のように横にグイッと広げる…どう見てもその口の長さはこの化け物自体の全長を凌駕する長さまで延長している。
「────!?」
紙一重で、ジャンプが間に合い顎をよけられた。
警告が無いと死んでいた。
「こいつ!」
私なりの生存本能が働き、切り札のケースを迷わず展開。
そのまま口の中目掛けて発射した。
ケースの攻撃は運が良かったらしく、見事に口の中に直撃し、直撃したプラズマが口の中から焼け焦げている煙のようなのが見えた。
「M4!」
「さっきの大軍を迎撃したところまで撤退する!流石に今のは堪えたはず…今のうちに全速力で────」
乗用車が、飛んできて私の10メートルほど前に降ってきた。
…まさか?と思い振り向くと
「────オォオオォォオオオオオ!!」
「……嘘でしょ?…戦車すら、黒焦げにしたのよ!?」
だが、この化け物は口の中が少し焦げているだけで済ましている。
その上、私が撃った今の一撃でキレたのか、化け物が私を殺そうと睨みつけていた。
「────オォオオォォオオオオオ!!」
余計怒らせただけで、化け物を怯ませることすらできなかった…
私たちもさっきの重装部隊と同じ目に合うのかしら…?
化け物がずんずんと歩を進ませて再び口を開けた、今度こそ食われるわね────
『────おい!!デカブツ!!』
何者かが化け物に向かって叫んだ────刹那、まばゆい閃光、視線の先に瞬いた思うと、
「グシュウウウウウ…!!!」
その閃光が、化け物を直撃、着弾の衝撃と爆発から発生した閃光のすさまじく強い電流が私たちのバランス感覚を乱し、化け物の周囲を焼き焦がした。
そこからさらに、連続して直撃を受けた化け物は、不意打ちされたこともあったのか、頭と体をぶんぶんとふっているそのすきにさらに数発の閃光が化け物に直撃し爆炎の中に包まれた。
『おい、しっかりしろ。まだ、生きているんだろ?』
あまりに突然の光景に少しあっけにとられていたら突然、くぐもった声に加工されたを兵士に肩を叩かれた。
「え?ユーリ大尉?」
その恰好は、どことなく指揮官…いや、大尉と同じ外務省の装備をしていた、銃もA-545だし、セットアップも…
『俺はヴェルグ1じゃない』
『────隊長!!』
兵士のもう一人が指さすと、化け物が爆炎の中から現れて再び私を睨みつけていた。
『クソが!しぶといなぁ!』
再び、口を大きく開けて私たちを食い殺そうとしたとき…化け物の背後から、閃光が化け物の背中に直撃して、その体が前のめりに揺れる。
「────オォオオォォオオオオオ!!」
よく見るとランチャー構えていた兵士が化け物の背後からやく20メートルの所にいた、邪魔されたことに期限を悪くしたようで、標的をさっきランチャーを撃った兵士に切り替えゆっくりと巨体を動かしてふりむいた。
『俺を捕まえてみやがれ!!』
「────オォオオォォオオオオオ!!」
注意を引き付けた、兵士が一気に加速して私たちから離れると、化け物が咆哮を上げ。
唸り声をあげながら、離れた兵士を追いかけていった。
『今のうちにここから離れるぞ』
「さっきの人はどうするんですか!?」
置き去りにするの!?
『カリンカ4の逃げ足は、チーム1だ。奴を巻いたら奴自身が自力で合流できるだろう』
私を助けた兵士が心配するな、と声をかける。
確かに私達より経験も実力も違うヴェル―クトの特殊部隊ではあるが…今の化け物の事も考えると不安はぬぐい切れない…その時だ。
<カリンカチームリーダー、応答してくれ>
隊長かと思わしき兵士の無線がバイブレーションを鳴らした。
ツェーナプロトコルが使えなくても無線は機能するのね、やはり私たちに問題がある事を確信した。
<クトゥグアの砲撃が聞こえた。何があった?>
『ヴェルグ1か…ちょうどよかった、C型のE.L.I.Dに出くわした。…D型変異途中のな』
「(C型?)」
【回答:C型E.L.I.D。B型に変異したE.L.I.D感染種が長い時間をかけて変異した生物よ。規則性はなく、変異パターンは無数に存在するわ。】
今の無線の声…ユーリ大尉の声!?
続いて、またこの声が聞こえた。
本当か知らないけど、C型E.L.I.D……恐ろしいヤツだ。
<かなり大物だな、大丈夫だったのか?>
『今、カリンカ4が囮になって引き付けている、奴の加速重視のカスタムなら逃げ切れると思うが…』
<逃げ切った先で燃料や弾薬使いきったらまずいな。よし…3人ほど捜索に回す、一旦コントロールセンターで合流しよう。見せたいものがある>
『了解。コントロールセンターの位置は……了解、把握した…よし移動するぞ。グリフィンはお前らはどうする?』
声からして、さっきの声の主は大尉の声だ…なら、
「私達もコントロールセンターに向かいます」
1時間半後…
『こっちだ』
外務省の兵士の後についていき、コントロールセンターにたどり着くと。
『ここだ!入ってこい!』
センター入り口にいた見張りの兵士が手招きしている。
私達を確認すると中に案内してくれる人を呼んでくれた。
『よぅ!』
『カリンカ4、生きていたのか』
さっきのE.L.I.Dを引きつけていた兵士が待っていた。
『ああ、逃げ切った後にヴェルグの捜索隊に拾ってもらった』
指揮官…いや、大尉が捜索隊を出してくれたのは本当だったのか。なんにせよ、さっきの兵士が生きていてよかったと思う。
「ようやく一息付けるわね」
OGAS、外からくる連鎖の分析はできるの?
────そんな知識は持ち合わせてないわ。でも、この連鎖私と何か似ている。
アンタの一部ってわけ?
────もちろんノーよ、あの程度じゃ私にはなり得ない。あなたは自分そっくりの人形を自分と思うの?
どれほど、精巧にかによるわ。人形のダミーを自分と同一だと判断する人形もいれば、自分とは違うと思う人形がいる、判断足りうるかはその人形次第よ。
────なら私から見て、これはかなり粗が酷いわ、クローンとすることもおこがましい。強いて言えば「異性体」と呼べる程度。
異性体…ネイトの事を言いたいの?
────信号の中心に波長が非常に大きい信号源がある。まるで、違う身体に点々と乗り換えてる様に、めまぐるしく位置座標が変化し続けている。
私に判る様に言ってくれないかしら?私には、ネイトが電子戦攻撃をするつもりと、しか聞こえないんだけど?
────いえ、少し違うわ。攻撃ではなく…一種の追求よ、無数の接続がこの街のコントロールを握っているの。…どうする?位置を探って上げてもいいわよ?
ねぇ?私を騙した、アンタを信用していると思う?
────口ではもっとな事を言ってるけど本当は怖いんじゃないの?真実に直面する準備ができていない。事態があなたの予想とは異なる流れ行くことを恐れてる。あなたの本質が…
OGAS?黙っていれば────
「M4?どうかしたんですか?」
私が心の中でOGASに叫ぶ直前MCXの呼びかけにハッとした。
「ごめん、どこまで私…話したっけ」
「…こっから、どうするかって話。私とR5はとりあえずジャミングを手当たり次第破壊しようという意見を出した」
「でも、ヴェルークトの兵士の話と照らし合わせるとジャミング源に近づいた人形の中に無事なやつはいなかったよな」
あぁ、そうだった。
無理してでも障害物外して街を出るか、問題を解決するかの話をしていたんだっけ。
「だから、変なことが増える前にこの街を出るというのが私の意見よ」
…今のところ、情報があまりにも少なすぎる。
説得力のいいSTAR-15の意見を選択するべきか。
「それじゃあ、私とAR-57は救助した人形の様子を見に行くわ」
「お願い、役に立つ話が聞ければいいんだけど」
STAR-15はセーフハウスを出ていった。
さて、どうするか。どうしようとも具体的な打開策が開かず頭を悩ませていた時────
「────おーい!M4!!」
目をつぶっても屈託ない笑顔が見える声が建物内に響いた。
「────SOPⅡもきたの?」
「ここ、セーフハウスに指定されたんだ。だから、通信が繋がる人形がどれくらいいるか確認しようと思ってここにきたんだ」
「SOPⅡ、そっちの通信やアレでフォトン指揮官との通信は取れてる?」
「まだ、試してないや……私たちもラジオを使ってここまできたからね」
「ラジオ?」
MP7がバックの中に入れていた、ラジオを取り出した。
「そんなもの持ち込んでたのね」
「あぁ、古びた電化製品売り場のやつを見つけたから拝借したからだよ。コイツ…はガタがあるが、まだまだ動く。世界が滅んでも、ラジオだけは所有者の味方だな」
「なるほど、そんな手もあるのね」
それで、無線の声を拾ったから通信が横入りする形で途切れたのね。
「でも、アレは結構役に立つよね。まさか、ネットワークがダメでも話せるなんて」
「ええ」
M4はポケットから真ん中を折りたたむ形をした四角い機械を取り出した。
「そういえば、聞いてないけどこの通信機ってなんなの?」
「通信機じゃないのよ、これは携帯電話」
「ケータイ?これが?画面押しても反応しなのに?」
「かなり古いタイプだからね。画面は反応しなくて下のボタンをおして動かすのよ」
M4A1はツェーナネットワークが使えない時の対策にしていたのは、60年以上も前の携帯電話だった。
「昔の人って結構不便だっただね……」
『まさか、別の通信手段も考えていたなんてね。賢いじゃないか』
「あ!指揮官…じゃなくて、大尉!!」
私が昼頃やったミスをSOPⅡがやっていたことを見て、内心デジャヴと共にクスっときてしまった。
『まだ、指揮官気分が抜けないのは困るんだが……何にせよ、生きててよかった』
「そういえば奥の部屋で忙しそうにしていたけど、何していたんですか?大尉?」
『…』
彼が先程までその中にいた部屋の方に振り向いてヘルメットで隠された表情が曇ったように感じる、声で小さく唸った。
『この部屋に、かなりの数の腐肉喰らいが屯していた、死後は1ヶ月未満と見ている』
やっぱり、街中にうろついているってことは、建物の中にだって感染者はいて当然よね。
でも、これで彼が傷つくなんて考えづらい、何があったの?
「あの、ここはどの様な施設なんですか?」
『この施設の一通りの設備を調べたら、制御版が見つかった…で、制御盤を調べると駅のコントロールをする制御盤ということらしい』
「あとで、我々も調査をしても?」
『勿論だ、歓迎するよ。制御盤がうんともすんとも言わんからな…工兵がいま頭を悩ましているしな』
大尉に許可をもらって、施設に入り、中心部のホールに入る。
「…う!」
「何これぇ…!?」
そこには布すら被せられず、山積みにされた死体がボールの真ん中に積み上げられていた。
死亡によって腐った排泄物や死体にたかるウジのせいで酷い匂いと人の死体とは思えないほど無残な死骸ばかりだった。
『せっかく、ここまで逃げられたのにな…』
ユーリが持っていたカードを私達に手渡してくれた…どうもIDカードの類に見える。
「これがもしかして…この建物の人たちの遺留品ですか?」
『そうだ、そのカードのIDにちゃんと自動ターレットに狙われない様にするためのコードが組み込まれている。ここで亡くなった人たちは明らかにタリンに招待されている』
掠れた文字を判別して読んでみる…確かにタリンの一時駐留の許可を示す内容と、偽造防止用の処理が施されている。
確かに正規の機関から発行された様に判別できる。
「という事はここにいる人はみんな、難民という事ですか?」
彼が頷く。
言われるまで分からなかったがこの清潔感のない服や環境の影響で受けた摩耗、そしてやぶけ具合は難民だと容易に想像できる。
『亡くなった人の中には、子供もいた。子供は成長過程の段階では免疫力が少ないからな…崩壊粒子が化け物にする前に…死ぬ』
『隊長、頼まれていた映像データの解析が終わった』
『よくやった。ヴェルグ4』
工兵と思わしき兵士から、映像データを拝見する…映像は定期的にネイトに似た女がこの施設の整備や掃除をしている監視映像だった。
「ネイトに似た人形か…」
「そういえば、ベルグラードで調べてた時にKがパラデウスがE.L.I.Dの治療て人を騙して人を集めて、白い人形に改造してるって言ってたね…」
思い出したかの様に口から出たSOPⅡの衝撃の発言で、私達は戦慄した。
「イカれてるのを軽く超えてるな…」
「それだけじゃない。ここにいる切羽詰まった難民をパラデウスは騙して…実験材料にしてたんでしょ?」
陽気なR5がドン引きして、いつも、おちゃらけた態度のMCXが荒げる声を抑えて、皮膚を突き破りかけるほど、強く拳を握る。
そして、M4A1の携帯電話にSTAR-15の電話が鳴る。
<M4?今話せる?救助した人形が起きた>
「……なにかわかった?こっちもいろいろ分かったわ」
<その話を聞く限り、そっちもいい話じゃなさそうね>
「えぇ、実は────」
M4A1はSTAR-15にユーリから見せられたものを話した。
<そっちもなかなか酷い話ね……私の方も酷いわよ。なにせ────>
「パラデウスめ……なんて、酷いことを」
<このこと、大尉に話してあげて>
「勿論よ。こっちの話はフォトンにも報告して」
<了解>
携帯が切られた。おそらく、グリフィンに電話で報告するためだろう。
「たけどさ?難民さん達だってここまで生き残れたのなら、感染に対する知識も備えていたはずだよね?なのに…どうしてここの難民さん達はこの崩壊濃度の高いところにノコノコ来たのかな?」
「…確かに」
SOPⅡの言う通り、難民だって馬鹿ばかりだとは限らない。
むしろ生き残るため、ありとあやゆる知恵を溜め込んでいるはずに違いない、それなのになぜこんな普段気をつける様な初歩的な死に方をする?
「…ん?」
ふと、何かが光ったので床を見つめると、数枚の見覚えるある花びらを見つけ、その花びらまで近づき、拾い上げて確認すると…
「これは…!?大尉!」
花びらを見て、確信を得た私は急いで、私はユーリ大尉を呼び寄せる。
急かされる様に、呼ばれた俺はM4の所まで行くことにした。
自分の目が見えるほど近づいてくると、M4は端末の写真を見せてきた。
「この写真が見えますか?」
写真には密閉された、カプセルの中に部屋に散らばっていた、花と同じものが収納されていた。
『この写真は?』
「2週間ほど前に、私達はグリフィンに送られた依頼で突然、コーラップス濃度が上昇した禁足域エリアを調べていたんです」
『また、禁足域に行ったのか?』
「……まぁ、仕事がありましたので」
『……無事に帰れてよかったな。その時見つけたのがこの花なのか?』
「えぇ…この花、実はコーラップス液を球根に吸収する、能力を持っているのですが深刻な問題があって────」
────数分後…
『なんてことだ…聞いたことがあるがまさか、実物がそれなのか』
M4から、提供された情報が正しければなぜパラデウスが難民達を意図して誘導した理由に説明がつく…
『パラデウス、なんて事を…』
自分の考察が全て正しいとして…次に疑問に浮かぶのはこの花のことだ。そもそも、この花…一体、どこからきたんだ?
『M4?聞きたいんだが、グリフィン調査を依頼したのはだれなんだ?』
「確か…フローラ植物研究所という所です」
フローラ植物研究所…ドイツにそんな施設があった気がするが…この作戦が終わったら次はここを調べる必要があると言われそうだな…
『隊長、ジャミング源をある程度潰した…やっぱり、アンタの考え通りあの人形が原因だったよ、ロングレンジの無線が繋がったぞ』
ヴェルグ4の報告でもう一つの仮説が確信に変わっていく、そうか…やっぱり、あの人形達は…だとしたら、それが全てあっているか照らし合わせる必要があるな。
『よし全体の状況を整理するべきだ。ペルシカさん…それとグリフィンのフォトン指揮官を出してくれ』