────17:02
────"フォトン"
────グリフィン:指揮官
────タリン駅:作戦司令部
横断列車の周りはもはやパニック状態だった、合流ができなかった人形が新たな部隊の編入の改編や部隊編成の再構築を余儀なくされていた。
幸い、タリンの駅の地形は突き当たりが存在するのは防衛に適している、感染者との戦いでは比較的に有利だろう。
「指揮官様、人形達が列車で防衛体制を取っています」
「分かった」
ネットワークを切断し、一時的に視界を取り戻したOts-14の報告を聴き、彼女が戻ったあと…指揮官であるフォトンは司令台の上の机を拳で力任せに叩きつけた。
調査を任せていた、ユーリ大尉がM4A1達や他の何名かの逸れた人形を回収してくれたのは悔しいが有り難かった…
だが、パラデウスによって意図的に行われた、タチの悪い人体実験という名前の虐殺は今の彼の心では、抑えきれない怒りを込み上げさせた。
<一旦、落ち着け>
「落ち着けだと…!?あんまりじゃないか…!こんな…」
ユーリがフォトンを通信越しに制止する。
ヴェルークトの調査で死亡した難民の数は死体だけでも3000を超えていた…それに加えて、今タリンを徘徊している化け物の数…
<だが、列車が通れないからって。徒歩で歩いて基地まで行くのは良い判断とは思えない>
パラデウスという組織は一体何を考えていたのだろうか?そして、自分はその事実を知らない間、どれだけその事実を知らない生活をしていたのか…それを比べてしまうだけでもパラデウスや自分という存在に怒りを噴出してしまいそうだった。
「ユーリ!!アンタは何にも思わないのか!?これは計画的な虐殺なんだぞ!?」
<教えたのは俺だ、そんなことは分かってる>
フォトンは今すぐ、パラデウスを殺してやりたいと思っていた、だが、ユーリがそれはやめておけ、邪魔すると思ってフォトンは敵ですらないユーリに敵意をむき出しにした。
<大体人形が、タリンの外に出るまで何人動けなくなるか分かってるんですか?>
「そんな、役立たず…切り捨てればいい!」
<……あなたの怒りはわかりますけど、部下を見捨てる上司は絶対にそれを知る部下に信頼されない>
「いいやアンタは俺の怒りを分かってない!アンタは人形が好きだからいくら人間が殺されてもどうでもいいって思ってるんだろ!でなきゃ、あのM4A1のクソ女なんて許そうとなんて思ってないはずだ!!」
無力感から怒りの矛先がユーリに向けている事は間違いだと薄々気づいている…だが、そのまるで人の死に対しても怒りの表情の変化ひとつも見せないユーリの態度はお門違いであっても、フォトンにとっては怒りをぶつけても構わない対象にするには十分だった。
<あぁ、そうだな…そう言われても、俺には反論する権利はない…だが、フォトン。それは恨みだ>
ユーリはフォトンの発言に一切の釈明、言い訳を挟まず、黙って彼の発言をその通りだと認めた。
そして、一通りの怒りを聞き終えて、ユーリは諭す様にフォトンに語りかける。
<フォトン、あなたは今、指揮官だ。怒りに任せて、回避できる犠牲を余計に出す指揮官なんて、最低だ。それは、たとえ上司や部下が人間だったとしても変わりはしないでしょう>
「黙れ…ソ連の軍人が、どうせ俺たちグリフィンも使い捨てなんだろ?ソ連の保安局と同じように」
フォトンはタブーを言った。
だが、それはグリフィンの皆が思っていたことだ…心の中でずっとソ連と言う名の政府なんてものは、誰も信用していないと内面を…
<…>
それを聞いたユーリの表情が変わった、それは怒った…というより、傷ついた…いう方が正しいかもしれない。
<…あ>
今回の事件で起きた事に心当たりがあると言って、タイミング悪く、解説のために通信に侵入したペルシカがバツの悪そうな表情を浮かべた。
<お邪魔だった?>
<いえ…特には、むしろちょうど良かった気がします>
<そう…じゃあ、早速本題に入らせて貰うわ。フォトン君も、どうか気持ちを抑えたまま聞いて頂戴。パラデウスはきっと、私達人間が尊いと思っている感情や持っていて当然なもの、持つべきものそれらを嘲笑うかのように平然と利用している連中だから>
はたして、これがいくらフォトンの態度が悪いが間違っているとは一概に言い切れない、こんな人として最低な事を怒れるのは人として真っ当な生き方をしている証にもなるのだから。
<これは、パラデウスより前の話になるんだけど…90wishって、聞いたことある?>
<表向きはごく少数で、インターネット上で研究の交換をしているマイナーな組織だったと思いますが…>
<外務省に覚えてもらえたのは光栄ね。まあ、90wishの情報はインターネットの組織にしては例外とも言える速度で情報を汚染、もしくは抹消されたからね…あんまり90wishは意識してなかったかな?>
要は世間じゃ過ぎた話っていうことか。
<私はその90wishの1人だった>
90wishがパラデウスの前身だと?
<データこそ、多くは失われたけど90wishの活動は続いてる。今とは違って、90wishの初期は知名度とは裏腹に多額の資金が投じられていてね…かなりアンダーグラウンドな組織だった、研究こそ興味深かったけど、重要なやり方につれ、どんどん非合法な研究に手を染めていた…私はついていけずに辞めたけど>
パラデウスと同じだ。人道なんてあったもんじゃない
<…強制連鎖やタリン市内の無差別なジャミングの解析をしていたんだけど…このアルゴリズムが90wishの組織で使われているものと一致したわ>
「つまり、パラデウスじゃなくてこの虐殺は90wishの犯行だと?」
<いや…それだと、タリンの周りをパラデウスの人形どもがうろついている事に説明がつかない。たぶん、90wishの技術を盗用されていると見た方がいいのでは?>
たしかに…たかが研究組織が虐殺規模の実験をするのを承認するスポンサーなんて流石にいやしないだろう。
「ユーリ、一回貴方はパラデウスに捕まったことがあるんでしょ?」
<えぇ…恥ずかしながら>
そりゃあ、初耳だ。
<なら、あなたは接触しているはずよ、90wishの中でも1番の問題児────ウィリアムに>
<ウィリアム?>
ユーリは聞き覚えがないらしく、聞き返した。
彼に心当たりはないらしい
<ウィリアム「教授」。90wishは機関のやり方からしてかなりの奇人変人がひしめき合っていたけど、彼は常軌を逸していた。…表に出る事は全くない、誰も姿を見たこともなければ声を聞いたこともない、しかも…>
ペルシカは歯切れが悪そうに声を絞り出した。
<教授の研究は今まで非人道的な研究が、可愛く見えるほど身の毛がよだつようなものだった…M4が前の任務で回収したらしい花のことだけど…それはエピフィラムと言って────>
────えぇ…この花、実はコーラップス液を球根に吸収する、能力を持っているのですが深刻な問題があって
M4が言っていた事をユーリが思い出す。
────この花はコーラップス液を吸収し無害化できる唯一無二の特性を備えていますが、開花すると花粉が種子をばら撒くと同時にコーラップス液も一緒に放出します。
<ウィリアムはこの花を気に入っていたわ…この花をどれだけ品種改良できるのかってね。しかも、今調べてわかったのは彼の言う品種改良は放出される粒子を少なく放出するのか、じゃなくてどれだけの量産ができるのか?と言う品種改良だった>
言葉が出なかった…ウィリアムという男は希望が絶望に変わる花をさらに絶望を大きくさせる事を考えている、完全に常軌を逸している危険な存在だったのだ。
<エピフィラムを使えば一時的にではありますが崩壊液の濃度が下がる… でも、一時的であっても前後を知らない難民には隠れた安全地帯と誤認できるでしょう>
「マイナー花なら、偶然安全地帯ができると思っても不思議じゃない。何よりも死が迫って、生きたい難民は希望と思って向かうだろう。
だから、今回の虐殺が起きた…ペルシカの言った「人間が尊いと思っている感情や持っていて当然なもの、持つべきものそれらを嘲笑うかのように平然と利用している連中」というのはこういう事だったのだろう。
<でも、これはまだウィリアムにとっては序の口…死んだ難民や感染者以外にも継ぎ接ぎの死体がなかった?>
<えぇ、連鎖信号の発生源になったと思われる。…サイボーグの少女の事ですか?>
<それよ、多分それはネイトの失敗作よ。改造に適合できなかった子がきっと、ここで捨てられるのよ…90wishは遺跡の文明は遺伝子情報で識別されていると考えていたの…だから>
<遺跡の生体認証を突破できる、サンプルが欲しかった…と?>
<多分…ね、それがウィリアムの最終的な狙いでしょう>
恐らく、ウィリアムの事だ、危険極まりない兵器や、未知の技術…そんなろくでもない目的のために使うに決まっている。
それに、その生体認証を突破できる人間を見つけるために何人もの人間が当たり前のように殺されていく…到底許せる話ではないはず。
フォトンの心の中はきっと、ウィリアムの全てを否定して破壊してやりたいくらいの怒りに駆られているのかもしれない。
<フォトン…やっぱり、あなたはこの件に関わらない方がいい、パラデウスがどんな時にいいように踊らせてくるか分かったものじゃない>
「俺は、アンタ達のように間抜けじゃない。あまり舐めないでくれ」
そういう人間ほど、引っ掛かりに弱いことをユーリは経験上自分の体験談も踏まえて、よく覚えている。
────17:10
────M4A1
────グリフィン
────タリン市内:臨時セーフハウス
M4A1は先程の聞くだけでも胃が縮まるような通信を終えて、ため息をついたユーリの姿を見た。
フォトンはユーリを信頼してない、それはわかっていた。
だが、それは私が原因だからだった。
そして、ウィリアムといつ研究者が使ったエピフィラムによる殺陣実験。
実験のためになんの気もなくあっという間に計画的に殺していく、狂気の所業と私が道連れの為にコーラップス液の爆弾を使ってしまった事に、なんの違いがあるのだろう?
安心だと思って、その場に連れてこられた不幸な人。漸く、崩壊液の脅威から逃げられると思って新しく生活を始めようとした人達…どちらも、何の気無しに地獄に突き落とされてしまった。
要は私は、自分に負けていたのだ、自分が許せないと思った相手が自分の知らない所で笑っていると思い、これを使えば彼らを地獄に送れる、送れなかったとしても傷跡になる…その短慮ゆえに私は使ってしまった。
例え、アンジェリアの命令がなくても私は使っていただろう。
【提案:どれだけなやんでも解決しないなら、これから何をして解決すればいいか考えましょう?】
またこの声が聞こえた。
確かにもし私がここで私自身の汚名を少しでも挽回することが出来たら…周りは、ユーリの事を見直してくれるかも…いや、そうではない。
私がしなくてはいけないのは、このタリンから進めない事を解決する事だ。
そして、解決するにはこの状況をどうなっているかの把握しなければならない。
そして私は迷っている。
迷っていると言っても選択肢からどれを選ぶ…という点ではなく、どれが出来るすら分かっていない状況だ。
【推奨:よし、だったら基本的なことからやり直しましょう?時系列順に並べて、そこから発生した問題を挙げていくの】
基本的なこと?
重要なことだけ纏めると
・感染者の対策
・動けなくなる原因の大量通信の大元を断つ
・行方不明の味方の回収
・強力な感染者
・エピフィラム
・ユーリ大尉に対する指揮官の不信感
現時点で洗い出せる問題点はこのくらいか…なら、次はどうやって解決するかを考えよう、まず感染者の対策。
「ヴェルークトの人達の力を借りるのもいいけど…」
大きいのはともかく小物は手を煩わせるべきじゃない。
特に雑魚や進行初期なら、あの腕試しを何回もした私達で対処ができる、なるべく距離を取ってやり合いつつ、接敵したら戦うスタンスでいこう。
だが、見た目や普段の移動速度でやりあうのではなく、隠し球が出るときの射程も予想して戦うのを念頭に入れないとね。よし、この問題は解決した、
次は行方不明の人形の回収だ。
オーバーロードやキャパシティーオーバーで倒れた人形は視界すらも処理の簡略化に巻き込まれた人形達ならうっかり見失い、この状況で人形を調べるセンサーがまともに働くとは思えない。
「さて、どうする?」
探す以上は人手が必要となるはずだ。
この状況下でまともに動けて捜索することが可能なのは、大量通信が送られたとしても人体そのものに影響を与えられることはない、ネットワーク抜きで感染者と戦える戦力は我々かヴェルークトしか思いつかない。
捜索はどうしても頼るしかない。
だが…複雑化した状況で彼らの仕事量を増やすことは本当に正しいのか?
そもそも、解決した時点が改めて探すのもありなのではないだろうか?
仕方ない、急を要していない以上はこの問題は保留にする、次の問題移ろう。
強力な感染者…あの、D型間近だと言われている、巨大E.L.I.D…あれを私達グリフィンでは、手が余る。
どうやら、C型を倒すことは間に合わせの装備で出来ると話し合いで行っているようだが…それは、多分…あの化け物のために使う事を想定していないはずだ。
ならば、私たちはあの化け物を無視して放っておくか、"一応"倒せる装備以外の行為であの化け物を片付けるしかない。
「これは適材適所ね…」
次の問題…パラデウスが虐殺同然の実験の果てに何を求めているのか…私はそれを問わなければならないだろう。
例えこの気持ちが自分とパラデウスがどれくらい違っているのかを知って、安心するための自己満足に過ぎないとしても…だが、見つからないのなら、それは素直に諦めるしかない、これに対する私の危機感は私個人の自己満足を出ていないのだから。
「OGASをうまく利用できるかしら?」
次の問題…ユーリに対する、不信感…これに関しては私とアンジェリアの上司だった、ヴィクトルが悪いとしか言いようがない。
私が問題を起こして、その責任を取らずに我が物顔でグリフィンに戻っている…これは当事者や、被害を受けた側からしたら決して我慢ならないものだろう。
それに合わせて、保安局流の脅迫と来た。
こんなクソみたいなダブルコンボを食らったらグリフィンからしたら、理不尽ものだろう。
ユーリはただ運が悪かっただけ、彼に悪いところなんてない。
いや、口実にしたいならなんでもいいのか?じっさい、公聴会の時でも理由はなんでもよかったようだし。
それを払拭するには、彼が保安局に対抗できる何かしらの口実を見つけてあげられたらいいかもしれない。
<M4、今大丈夫?助けた人形が持っていた情報の件だけど>
自分たちが救助した様子の人形の様子を見に行かせたSTAR-15が携帯電話で連絡をくれた。
「助けた人形は何を見つけたの?」
<ええ、とんでもないものを見つけたわ────>
────
───
「それ、本当の話?」
<”実物”を見たからには信じるしかないわ。念のため、ヴェルークトの人にも調査してもらえる?>
「分かった。情報の件はこっちでも共有しておくわ」
しばらく、話を聞いたM4はところどころショックを受けながらも最後まで報告を聴いた。
「とんでもないことが起きているわね。けれど、役にも立つ」
STAR-15の報告は最後の問題、動けなくなる原因の大量通信の大元を断つことに役立った。
それは、私はその問題を解決する方法を知っている
【確認:やることは決まったようね】
「そうね。ねぇ、OGAS…」
もう…私に悩んでいる時間なんてない…私はもう…悩んでは、いけない
────そちらから話しかけるなんて珍しいわね?どうしたの?
「アンタの話に乗ってあげるわ」
────漸く、過去と向き合う決意が出来た…とは違うわね。誰かと相談してたようだけど、そいつからの入れ知恵されたの?
さっき、あの声と話していたことをOGASは知らないらしい。
あの声はOGASは把握できないの?
「一刻も早く状況を解決したい。さっき言った信号源が、町の権限を所持しているなら、街の隔離壁の権限をも持っているんでしょ?違う?」
本当はこの手を使いたくはなかった。
私の過去なんて正直どうでもいいし、出来れば関わりたくなんかない…だけど、背に腹を変えられない時もある。
「あなたに従うのはシャクだけど、アンタの望みをかなえる手伝いを今回はしてあげる」
────私、貴女の事。誤解していたわ。
「どの辺りを?」
────私は、あの昔の指揮官…いえ、ユーリと言った方があなたには好ましいでしょうね。
OGASは振り返るような口調で少しずつ思い出しながら、語り出す。
────話を戻しましょう。私は貴女がユーリと一緒に居たせいで何も考えることができないと思っていた。ユーリの操り人形だと思っていてね…
私が彼の操り人形…?
違う…私はずっと操り人形だったの、自分のリスクを恐れる心の人形だった。
────でも、それは間違った認識だった。貴女は彼と一緒に居てから初めて自分から感情と考える力を手に入れていたのね。
そう、彼に対して初めて期待に応えたい…そう思った時、私は私という自己主張をする様に変化した、
────貴女は初めから、特別な人形じゃなかった。貴女は"恋"を知ってから、初めて他人のために本気で役に立ちたいと思ったから特別な人形になる資格を知らず知らずのうちに手に入れたのよ。
私が、誰かのためにできる限りのことをしたい、そのために特別になったというわけ?
────通りで欲しがらないわけね…自分のルーツなんか、貴女にとっては余分なものでしかない以上、重量になるのは勘弁願いたいでしょうし。
私は、生まれる前の過去なんか欲しくない。それがユーリのためにならないのなら尚更だ。
私は彼との未来が欲しい。無責任と言われても構わないし、未来を手に入れるために過去が必要ならそれを手に入れることを選ぶ…それだけだ。
────それを理解していない私は彼の事を足枷と判断して、貴女をよくない方向に刺激してしまったのよ。貴女のためにやろうしたことが結局の所、過干渉だったわけ…毒親は自分がやっていることが悪意だと傷つけない…あれ、本当だったのね
OGASの行為に悪意がないのは知っていた。
だからこそ苛立ちを抑えることができなかった、何処まで無自覚に事を悪くしているのかを知らないくせに
────恋を知りもしない私が、貴女の本当の強さについてわかるはずもなかったのね。改めて、協力させてもらうわ。貴女とあなたの大切なユーリの為に
だが、少しは私の気持ちもわかってくれるようになったらしい、ようやく多少は違う方向に引っ張り合いにならずに済むかもしれない。
「…なら、初めましょうか。どうすればいいの?」
────信号側に直接接続を試みればいいわ、大元に辿り着ければそこから情報を抜き取れる、そして情報を全て抜き取れば私も私の欲しいルーツについて探ることができる、
「成る程、ひっきりなしにかかる接続を受け止める姿勢で待ち構えて、大物がかかったら竿を引けばいいわけ?」
────えぇ、その解釈で構わないわ。
「なら、準備しましょう?」
────準備?
「相談に決まってるでしょ。私が予告なしに倒れたら、現場は混乱よ…それに…」
────それに?
「私は色々と隠しすぎた。信頼される為には、誠実にならないと…OGAS」
────何かしら?
「アナタも腹を括る時よ」
────17:13
────ユーリ・フレーヴェン大尉
────ヴェルークト:ヴェルグ1
────タリン市内:臨時セーフハウス
────アンタを信じて死んだやつきっと誰もいねぇよ!
先程、フォトンに言われた言葉が胸にずしりとくる。
「やっぱり…俺に、位は不相応なんだろうか」
普段から言われる事を恐れていたが、ついに面向かって言われてしまうと、自分の何処に良いところがあるのかと自信を持てなくなってしまう。
彼はまだ、二十歳にも満たない、大人じゃない…だからこそ、許せないと思った事態で、防げるはずの犠牲を出し一生後悔して欲しくないと考えて…忠告をしたが…
俺自身がその年齢の時に、そういう忠告を素直に受け入れていたかというと全然そうではない。
彼の怒りはまるで昔の自分を思い出すようだ。懲罰兵士としてセレクターをいじる訓練と引き金を引く訓練だけされて、死なれても誰も気にしない人間として、第三次世界大戦に放り込まれた時の、記憶を思い出す。
「大尉」
『M4』
ふと、突然不意打ちのようにM4が語りかけてきた。
「ご相談があります。お時間…もらえますか?」
建物の屋上。
コーラップス粒子が待っている空気の中に好んで突っ立っている奴なんてそうそういないだろう、そういう意味では邪魔が入らない場所としては適しているだろう。
『話って?』
「はい…ユーリ、人形たち通信障害に対する解決法についてです」
それから、M4少しずつ自分の隠していたことを、語りだした。
エルダーブレインに接触した時から、自分のほかにもう一つの人格が居座っていること、そしてその人格がユーリのことを今になるまで嫌悪していた事はあの時の下水道での再会時に話した。
そしてこのタリンを出るための方法をもう持っていること、その為にユーリたちの力が欲しいと願っていること、自分の語れるすべてをM4A1は恐れずにすべてを話した。
「OGASのことは黙って欲しいと頼んでいましたけど、この事実を仲間の皆さんやグリフィンの方々に話していただいても結構です。返事はいつでも構いません」
M4A1はお辞儀をすると屋上から出ようとした。
『待ってくれ』
ユーリがM4を引き留めた、彼女は足を止めるとゆっくりと振り向いた。
『ありがとう、本当のこと言ってくれて』
「いえ、私がアナタにしたことを比べたら…」
『そういう話をしているんじゃない』
ユーリがM4の手を取った。
『本当のことを話してくれたことが嬉しかったんだ』
「そんなの…」
そんなのはM4にとって当たり前の話だった。
でも、その当たり前が自分に許されないとひそかに彼女は思っていた、だから秩序乱流作戦の時も、彼と共闘することを最後まで拒んだ。
『君は俺が、クーデター軍との戦いの時に、どさくさに紛れて俺を殺すこともできたはずだ。それは俺を殺すことに抵抗する感情があったはずじゃないのか?』
「何を言ってるんですか!?殺したいなんて一度も思ってません。思ってたら、その場で自殺しますよ!?」
『……え?どうして?俺の昔の古巣は知ってただろう?』
引き気味に聞いてきたが、M4A1にとってはユーリを殺す理由になるのか理解できない。
そして、しばらく考えて理解した。
ユーリはこう言いたいらしい、エゴールとユーリが軍人としての関係で友人同士だったから、カーター将軍「協力したと考えなかったのか?…と
「……はぁ、例え本当にカーターやエゴールに協力してたなら、私は喜んで手伝いましたよ」
『本気か?』
「あなたのことが好きなんですから…当たり前じゃないですか!」
でも、本当のところは彼も巻き込まれたうちの1人で…ユーリが自分のことを助けてくれたり、見捨てず一緒に戦ってくれた。
それは本当のことで嬉しくその記憶は手放したくない。
だからこそ、再び自分と共に戦ってくれているユーリに嘘をつく方が、隠し通して何事にもなかったようにふるまう方が後ろめたかった。
「もう、私のせいであなたに危ない思いをしてほしくないんです。だから、私は選んだんです。どれだけ自分が恐ろしい過去を持っていたとしても、普通とは違う人生しか生きていけないとしても…これからの私はあなたを愛すると…それだけは絶対ブレないって」
『……っ』
一瞬、M4に押し除けられたしまった感覚をユーリは覚えた。
誰だって、自分が一番好きな人に向かって一番いいところを見せたいものだし、かっこ悪いところや迷惑なんか掛けたくない。
俺は、彼女のミスをいくらでもフォローするつもりだったが、それが彼女の負担だったのかもしれない。
『君が俺や仲間に迷惑をかけたくない。という気持ちをかけたくないのはちゃんとわかった、そしてそれを承知で助けくれという君の気持ちはつらいものであったはずだ。なら、あえて言わせてもらう、もっと俺たちを頼れ』
俺たちは自慢できるほどじゃないが、これでも最先鋭の部隊だ、M4が言ったような要求なら、愚痴こそ飛ばす奴はいるだろうが、やり遂げて見せるし、何の支障にもならない。
『まあ見てな』
これからどうするのかという名目で、部下や回収したグリフィンの人形達を集めて、作戦会議を始めた。
手始めに、ユーリがM4が抱えていた秘密を先に話した後、M4が、屋上で話した、打開方法をこの作戦会議でも解決方法の提示として成功には外務省の力が糸口になるといい協力を頼みこんだ。
反応は三者三様といったところだ。ヴェル―クトは、M4の特異性に驚きつつも、失敗のリスクをどう回避すること話にあげているので、提案自体は受け入れてもらえたらしい。
SOPⅡの部隊や回収された人形達に関しては意見が割れていて、どうやらM4中に入り込んだ、もう一つの人格がどれほど信頼に値するのか、話し合っていた。
そして、最後のM4A1の個人的に雇い入れた、さながら傭兵のようなR5、AR-57、MCXに関しては、「中にある人格はどうであれ、M4A1そのものを信用する」という話で決着がついた。
『よし、なら異論があるかないか確認を取りたい。ヴェル―クトをしてはどう考える?』
『ジャミング元とM4A1の関連性は気にはなるが、隊としては隊長、アンタを信じることに賛成するぜ』
『カリンカ隊としても同意見だ、しかしこの状況での切り札は間違いなく彼女で、切り札を切るにいいタイミングだと思う』
『SOPⅡ達は?』
「私は…その、もう一つの人格っていうのが私たちをだまそうとしているのが怖い…でも、M4は分の悪い賭けは絶対にしない」
『最後だな、M4A1の部隊メンバーの意見は?』
「私はM4に賛成だ。一網打尽にできる作戦があるってならやらない方こそロマンがない」
『意見はまとまったようだな』
気にはしているようだが、ほぼ全会一致でM4A1の提案を採用することにした、ヴェルグ2がM4A1の肩をポンと叩く。
『あなたが正直に全部話してくれたおかげよ、AK-12は最後まで隠していたせいで悲劇が起きたからね』
そう、この信頼はM4A1が誠実であろうとしたことが評価に繋がった、彼女は自分で成功をつかみ取ったのだ。
『カリンカチーム報告してくれ』
<こちらカリンカリーダー、部下は全員防衛線を構築した。フォトン指揮官様はこの作戦を承認したか?>
『している、クトゥルフからも司令部が承認している連絡がいま届いた』
<ほう、責任重大だな。我々は、砲撃支援につく大型もしくは、群れ規模の”腐肉喰らい”がでたら、報告とレーザーでターゲットへのマークを頼む>
『覚えておくよ、SOPⅡ。準備は?』
<取れています、私達は防衛線から抜けた、感染者を対処します…それと>
『それと?』
<M4をお願いします>
『ああ、任せろ』
『ヴェルグ3、そっちの準備はいいか?』
<4、7、8と一緒にアンタの後ろの列にいる。やばかったらいつでも下がりな>
もちろん。
いざとなったら、頼りにさせてもらうさ。
『ヴェルグ5…ファリサ?』
<アッ…すみません、ちょっと手が離せなかったので…電池入れたんだから動きなさいよ、クソドローン!!ああ、ごめんなさい現在狙撃可能位置に陣取っています。援護はお任せを>
アイツ、無線を切ってたのか?よくあることだが心臓に悪い、やめてくれ。
『ヴェルグ2は?』
『何時でも問題ありません。それにしても、何時ぶりかしら?こう…隊長と派手なことが起きそうな予兆を感じるのは』
そうだな…シベリア防衛戦以来かもしれないな、あのころはKCCOに入る前のエゴールが泣きべそ描きそうになって…
『こういう時の予感はよく当たるよね…』
なら、大暴れしてやるだけだ。暴れるのは好きだ。
『最後の確認を忘れるところだった。M4、準備はできてる。そっちは?』
<私は何時でも結構です。OGASは…何時でも行けるようです。あと、OGASから”あなたの期待は裏切らない”と>
『それは終わってから聞きたいな』
<私もそうしたいです、ですから…待っててください。私は絶対にあなたのもとへ帰ってきます>
私は、未だにつける事を躊躇ってしまっていた、誓約の指輪を取り出した、なくしてしまってそれなりの時間がたつがそれでも、誓約の指輪は輝きを失うことなく白銀に輝いていた。
『もう、手放したりしない』
いま、私達には信頼できる仲間たちと会いする仲間たちがいる、やる気を出すのにこれほどふさわしいシュチュエーションはない、覚悟を決めると、私は左手の薬指に嵌めた。
一度外した指輪は、もう一度付け直すのはなかなかうまくいかないと聞いたことがあるが、そんなことはなく、まるで待っていたかのようにすんなりと嵌まりぐらつきも感じなかった。
まるで、全てがうまくいくかのような安心感が体を駆け巡っていき、ゆったりと壁に体重をかけてゆっくり息を吸い深呼吸。
『さあ、始めましょう。OGAS』
────17:53
────UMP45
────グリフィン:404
────タリン市内:廃材エリア
タリン市内の廃材エリア。404小隊は廃墟を調査していた。
「ノイズの信号源を見つけた」
UMP45は手を振って他の隊員たちを呼び集めた。
404小隊がそのノイズの信号源に近づいた時…
「……クライアント、404の人形が来た。突入態勢で近づいてくる」
移動する人影をとらえていた、集団が隊長と思わしき存在に連絡を取っていた。
<彼女たちにはフォトンの通信がきてないの?>
「さあね」
「こっちは待ち伏せでいつでも撃てる」
<早まらないで、404はそっちに来るまで何してた?>
「調べものっぽい」
<なら、対処を>
「そう言うと思った」
404小隊は建物に近づく。
「45姉、建物の中まだ人が動いている」
「敵なのかもしれない。突入準備」
「了解」
突入の体制を取っているのは建物の中で何かを調べている何者かの姿が複数回見えたからだ。
ここにはいくつかのパラデウスの証拠があった。彼らがパラデウスだとしたら、証拠を抹消しているのかもしれない。
なので、パラデウスでも対処できるよう突入態勢を取ったのだ。
「行って」
UMP45はドアを素早くけり破り、建物に入る。
まず最初の部屋は誰もいない。
だが、パソコンやコーヒーのようなものが置かれており、店じまいをしているようには見えず、意外だった。
「!?」
中をもう少し確認しようとしたとき、音もなく何ものかが縛り上げようとした。
「…!!」
一度は拘束をすり抜けた、UMP45だったがすり抜けた瞬間に足払いを受けて、盛大に転がってしまった。
「大人しくしなさい!!」
組み伏せた、連中の1人がRuger57をUMP45の額に突きつけた。
「ちょっ…!落ち着いて!!」
対抗してたとして、慌てて組み伏せた側が意図的でもないにせよ引き金を引いてしまったらUMP45は大惨事だ。
UMP45は両手を上げて素直に抵抗を止める。
「やっぱり、調べものだったのね。まったく、こんなときに」
廃墟の奥で、くたびれた様に椅子にもたれかかる格好をした女の声が小さく響き渡る。
UMP45にも、この声には見覚えがあった。
「AR-57、離してやりなさい」
「だね、ここで味方を殺すのはマズイ」
椅子にもたれかかっていた、女が立ち上がる。
最後の夕焼けが名残惜しそうに窓の奥に差し込むと、暗がりで見えなかった女の顔がうっすら浮かび上がる。
「AR-15…!」
「こんな大事な状況で何をお探しかしら?UMP45さん?」