たったひとつの願い   作:Jget

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残酷な悪意

「既に指揮官から防衛戦を築く命令が出ているはずよ?」

 

組み伏せられた、UMP45をしゃがんで見下ろすとAR-15がわかっているのにわかっていない様な態度でUMP45に問いかけた。

 

「…残念ながら、通信が全然できなくてね…この霧のせいだわ、全く」

「────霧?どこに見えるのかしら?」

「────何ですって?ここは連鎖分裂した通信環境で」

 

その辺りまで、話してUMP45がしまったと口をつぐんだ、AR-15は待っていたかの様に屈託のない笑顔を見せていた。

 

「やっぱり知ってたのね。…コイツが操られてないことが証明できたわ」

「だから、言ったでしょ。信用しろって」

「離してやりなさい」

「ハイハイ」

 

UMP45を組み伏せていた腕が解放されたのを確かめる。

 

「AR-15?」

「他人です」

 

組み伏せたのは誰かと確認した。見えたのはさっき正面にいたはずのAR-15と似ていた、人形AR-57だった。

またしても、予想もしていない声にUMP45。

 

「他のお仲間も入れなさい。見せたいものがある」

 

404小隊に危険がないことを伝えると、UMP9達が建物に入っていく。

そして案内された建物の中を進むといや、404小隊は驚愕した。

なぜなら、彼女たち404を待っていたのは明らかに鉄血製の人形達だったから。

 

「アンタ…なにがあったの?」

「なにが?」

「鉄血と組んだことよ!」

 

UMP9の発言にAR-15は首を傾げたが、AR-57は「あぁ、そのことか」とまるで、何度も言われて辟易した様な表情でHK416を見る。

 

「伝えてなかったの?」

「ここにまで投入するとは思わなかった」

「416、し、ししってるの!?」

「ええ、ユーリ指揮官ところで働いていた時にお目通しされたわ。彼女らは元鉄血よ、エルダーブレインに見捨てられたことをきっかけに彼女達はグリフィン側についたの。名前は、融合勢力だったわね?」

 

────秩序乱流作戦、それはエルダーブレインを拘束するためにクーデター軍がグリフィンを利用した事件…

 

もちろん、この作戦にはグリフィン、鉄血工造双方の血が相当流れた。

だが、この中で一番の損害を被ったのは鉄血工造だろう、いくら拠点が無くなろうが何度も再設計できる鉄血だとしても、再設計ができるまでに、アテもなく護衛と一緒に逃げ回る間は鉄血としての活動は制限される。

しかも、大人数で逃げ回るのも目立つから、逃亡は秘密裏に行われたという。

秘密裏に行われた以上、本部を失った挙句、われ先に勝手に逃げ出したエルダーブレインが残された鉄血人形の面倒見たり、命令を送ったりする筈もなく、あったとしても自分のために”死ね”同然の命令だろう。

今までで1番絶望的な状況で鉄血のトップとそれに近い人形達が逃げ出したのだ、そんな事をされて、下の連中が「はいそうですか」済ますはずがないのは当然だろう。

事件を生き延びた人形は、同然エルダーブレインを見限り、民間用の人形となって戦いそのものを放棄したり、好き勝手愚連隊の様に暴れ回るなど、さまざまなデータが収集できる。

その中でも、最も大きかった勢力、それが"融合勢力"だった、理由は簡単。

エルダーブレインに報復すること、手っ取り早い戦力を後ろ盾にするためにも、古今東西の戦術人形を採用している、グリフィンと手を組む事に、利益を見出した時点で、彼女たちの恨みが敵よりも身内に対する方が強いとみて間違いないはずだ。

 

「自己紹介はもういいでしょ?私たちが何を調べてたか教えてあげる」

 

AR-15は「連いてこい」とハンドサインを送った。

404小隊がついていくと、鉄血人形達もその後に続く。

 

「これは…?」

「タリンのおかしな現象……これが原因よ」

 

部屋の中は、布を被せられていた遺体で埋め尽くされていた。

AR-15は苦虫を噛み潰したような瞳で、並べられた死体を気に食わなそうに見つめていた。

 

「これどう見ても…」

 

死体の上に被せられた、布を捲り…それ死体を見たHK416は驚愕した。

 

「人間の体…!?死体なの!?」

「そこまでは分からない。ただ、大切なのはこの死体達が信号源になっていたのよ。こんな小さい子達まで機械の身体に改造するなんて、パラデウス…どこまで堕ちたら、この論理に辿り着くのかしら」

 

大部分は人間の体だ。しかし、下半身は機械で括り付けられていて、まるで人間の体に機械を詰め込んだ様な様相だった。

サイボーグ…と言うには、あまりにも残酷なやり方で、強引な処置を施している…その上、身体の元となっている人間の年齢は全員15は下回っている。

 

「融合勢力は信号がまだ十分活性化する前に発信源を見つけて、連絡を寄越した。案内役が合流しようとしたタイミングで活性化、結果私達が回収するまで発覚が遅れた」

 

非人道的な光景は、即座にHK416の拳を怒りで強く握りしめさせた。

AR-15の辟易しきった表情も、この無残なパラデウスの狂気の産物を延々と処理していかなければならないと言う状況下なら、仕方ないと言えるかもしれない。

だが、一方で死体を検分していたUMP45はもっと現実的なことを考えていた

 

「AR-15、このパラデウスの死体にアクセスしたやつはいるの?」

「してない。これほど捨てられるやつに得られるほどの情報を持っているとは到底思えないわ」

「なら、都合がいい私がやる」

 

UMP45が死体に触れる。

 

「何してる!?」

「待ちなさ────」

 

AR-57が気がつき、AR-15の制止が聞こえた時、既にUMP45の視界は暗転していた。

 

────バカ!なんで目を離した!?

────そんなことするなんて思わなくて……45姉!

 

「…?9?」

 

濁った霧がUMP45の周りをぐるぐる回ったかと思うと彼女と床に置かれた死体以外に誰もいなくなっていた。

そして、裾が擦れる音、周囲の多くの人がざわめく音が聞こえた。懐かしいと感じるが感じだが、なぜ懐かしいのか覚えていない…

突然、横になっていた少女の柔らかいながらも冷たい手がUMP45の手を掴んでいた。

 

 

 

【確認:みんな準備完了よ。レイラ、いつでもいける?】

「ええ。OGAS、接続は?」

 

ジャミング源の相手に侵入を試みて、しばらくするとストンと落ちた様な感覚と、視界に冷たい雰囲気の感触が伝わる廃墟が映っていた。

 

────少し待ってて…いいわ。

 

「R5、MCX……準備は?」

「もちろんだ。終わるまで守ってやる」

「手柄はクライアントに譲ってあげるよ!」

「ええ、頼むわ。よし、始めるわ」

 

本番の接続が始まる。

M4の視界から廃墟が消え、一面真っ白な光に満ちていた。

 

────グリフィン指揮官、ウチのクライアントが接続を始めたよ。

────作戦開始!

 

この光景を見てM4は一般的な通信とは異なるだろうと直感を感じた。

そして、際限なく光が差し込み、その光が晴れると森が現れた。

 

「ここは…? 」

 

────信号源間の連鎖で形成された空間を視覚化して整理したものが、今貴女が見える風景になっているの。

いつ見ても電子空間というのはワケが分からない。

まるで、自分の中にある異世界みたいだ。

 

「森の中から、特定の棒でも集める様な作業になりそうね…」

────今は、前に進んでみましょう。

「そうね…」

 

天井から生えてきた様な森の中を延々と歩く、天井を歩ける怪物の映画を見た覚えがあるが、怪物もこんな気持ちで歩いていたのか、などとくだらない事を考えながら、前に進んでいくと、庭が視界に映った。

 

「この庭…どこかで…」

────貴女の記憶に重なる事があった…つまり、私の推測が正しかったのね。

 

私の人生の始まりは人形が製造される様なカプセルの中ではなく、手術室の様なベッドの上だった気がするが…そこから遡って、いくら記憶を漁ってもこんな光景は見た事は今までない。

 

それと、ここは重要なセカンダリレベルの筈なのに、おかしい…ウィルスから守るファイアーウォールもなく、マインドマップの存在も感じられない…

 

【検知:レイラ。誰かいるわ】

「こっちこっち」

「あなたは…誰?」

 

もうひとつの声のいう通り、目の前に女の子がいた。

女の子はM4の問いには答えず、ただ手を握りしめて、庭に向かった。

M4はその後を追いかけた。

普通なら警戒するはずなのに、不思議なことに抵抗感が全くかからず、むしろ久しぶりに家に帰ってきたように懐かしさを覚えていた。

 

「(この子…なにかしら、私に言いたいことがあると思う…)ここは前に見た事がある、ここはどこなの? 」

「覚えていない?」

「…それは、ええ。覚えていないから、聞いてるの」

 

────次の瞬間、光が消えた。

そして、数秒前の風景が目の前に戻って行き、外はまるで時間が止まったかの様にフリーズしていた。

 

「OGAS…これは…」

────貴女と接続している異性体は既に死んでいる。

「死んだって…ならあの子はAR-15が報告したあの死体のヤマのどれかなの?」

────そう、死んだ。貴女と接続先の相手は死んでいる。それと同時に、新た湧きている…際限なく、現れる以上は死なせない様に安定させるしかない、そのためには…もっと奥深く入る必要があるわ。

【推測:レイラの目の前に出た女の子達はあの死体の数だけいるということかしら?でも、その容量はかなり少なくてあなたと接触したら消えてしまう。タリンで次々倒れたグリフィン人形のように】

「…成る程。あの子達はなんらかの目的で大量生産された低品質ストレージってわけ。それであんなヒトもどきを?最低なヤツねウィリアムって」

 

お粗末なM4の喩えが出終わった時には視野が徐々に安定しており、M4は再び庭の前に立っていた。

ふんわりと再び庭の中に入って、片側に置かれた椅子に座ってみる、懐かしい感じが怒涛のように押し寄せた。

その際、耳元に囁く声が聞こえた。

 

────この庭を本当に好きなんだ?毎日のように私に会いにきてくれて…

────ゴホッ!…ごめんなさい…私の体は、もっといい物だったら良かったのに。

────まだすべき研究があるんでしょ?私の心配はしなくてもいいの…君がやりたいことをやりなさい。

 

「記憶の破片…なのかしら?」

【質問:何が聞こえたの?私、聞こえなかったわ】

「どうしてそう思ったの?」

 

声がした方向に振り返るそこには自分と容姿が似ている1人の少女がいた…

彼女のこの声はOGASだけど、OGASじゃない…

 

「アンタ…誰よ?……わかる?」

【不明:アナタに似ているしか分からない】

「ルニシア…それが私たちの名前」

 

ルニシア…そういえば、エルダーブレインが私に向かってそんな名前を…

 

「私達は…アナタも兄弟…そして、同類」

「いい加減にしなさい!!私がアンタならどうして私の一番大切な記憶がないのよ!?知らない記憶が今生きている記憶に劣ってる事なの!?」

 

この記憶が今持っている、私の記憶を否定するのなら、この庭を焼き尽くしてやりたい気分だ…私は庭を燃やそうと、自分の銃を握り…

 

【確認:スタート地点の位置と同じ……また戻ったらしいわ】

「────どうして…ここに戻って… 」

 

M4がいきなりの現象で当惑していた刹那、また元の森の風景に戻っていた。

 

「これは…何?」

────また、間違えたのよ

 

「クソ…これで一万は越えたんじゃないの?」

────どうして?必要なのは記憶を辿る事じゃないの…?

 

「珍しいじゃない」

────何が?

 

「アンタ、動揺してるわよ」

────何を言って…

 

「それじゃ、質問するけど。これまでかなり過去の記憶を漁ったけど、"アンタ自身"に見覚えがある記憶は見つかったの?」

 

────それは…

 

「ないんでしょ?…なんとなくこんな予感はしてたわ…アンタ気づいてる?前から思ってるけど、アナタやってる事、考えてる事は結構めちゃくちゃよ、いきなり冷酷な判断を下す様に要求しようとするかと思えば、何でもかんでも危なげに吸収しようとする…これじゃあまるで…」

 

────…う

「生まれたての赤ん坊みたいじゃない…」

 

────そんな…嘘、違う…私は異性体達の記憶を集めればいつかきっと、私の生まれた理由がわかると思ったのに…

「OGAS…?」

 

────もっと…もっと、奥深くに行って調べないと…!!

「────!!OGAS!」

 

突然胸の内がフッと軽くなった、気がした。まるで自分が背負ったものがなくなったかの様に…たが、それはこの海底のような電子空間からの脱出を意味したわけではなかった。

 

【警告:巨大な電子攻撃を確認】

「でしょうね。こういうの慣れっこだから」

 

まだ、もうひとつの声は一緒にいてくれるらしい。

よかった、この声は頼り甲斐がある。

突然、森がどんどん揺れだして視界がいや…これは景色そのものが溶けているらしい、溶け出した景色が絵の具のようにドロドロと崩れだし────

 

「────あ」

 

それは、空、地面すらも溶かしていく、OGASの行った通りこの世界は電子世界ではあるが、物理演算が働いているらしい、溶けていく世界が私を奈落に押し流していく…

 

どおぉおおおん…とゆっくりと響くように、街中を響かせる音がタリンをゆっくりと揺らした。

 

M4A1がこのタリンの封鎖をしている、黒幕との接続を試みている間、そのM4を守る為に、外務省特別広域戦略調査部隊通称"ヴェルークト"とグリフィンに所属している、SOPⅡ率いる、"A(アサルト)部隊"、M4が新生した多用途部隊の忠誠の名前を冠する、"アリージェンス部隊"、そして生き残りの人形達を合わせるとおよそ、40人規模…編成拡大を合わせると、200を超える人形と人間の混合部隊が先程の音がなんなのか探るべく、レーダーを見張っている。

 

<隊長>

 

ヴェルグ5、スナイパーのファリカからの通信だ。何かしらの兆候が発生したのだろう、

 

<20キロ先で、ドローンが見つけた映像です>

 

ドローンからの映像だと、巨大な大砲を携えた、列車がタリンの門を破壊しようと取り付けられた巨大な大砲を発射している映像だった。

誰か、自分たちの縄張りに入り込んだ音が響く…獲物を見失った、怠惰で鈍い怪物の姿をした、感染者達が次々と目を覚ます。

漸く、自分達の退屈が発散される…!狩りの時間…うまそうな肉…!我こそが一番に喰らってやる!

 

「────オオオオオオオオオッッ!!」

 

我先に、住処を飛び出し、催しに参加するべく、一心不乱に音のする方に向かう、音のする方向に求める獲物があると確信しているから。

 

<スウォームが始まります…!>

『SOPⅡ、M4の状況はどうだ?』

<傭兵達からの話だと、顕在らしいです…驚きました…凄まじい演算力が動いているのに一切オーバーロードしていない…とても、強引な改造をしたなんて…>

『分かった。無事ならそれでいい、俺たちはこれから来るかもしれない、腐肉…いや、E.L.I.D感染者を迎撃する。以降、通信の混線をふせぐために、君達の無線は一方通信になる…いいな?』

<了解。気をつけて>

 

今、M4達を守るように陣取っている箇所は運の悪いことにあの砲撃音がする場所を背にしている。

音の方向に向かう、腐肉喰らいの何割かは此処を通る可能性があるのだ。

 

『気をつけて…か』

 

一応、カリンカの砲撃支援は期待できるが…それも、カリンカの方に砲撃が来たらどうなるかは着弾の運次第だ。

 

最後にAK-12を大きく凌駕した、高いスペックと人間工学性能を誇る、自分自身の愛銃A-545…6P67タイプを眺める。

弾薬は5.45×39ミリ。上部のピガニティーレールには1倍から6倍までの倍率を誇り、ダットサイトの機能を搭載する高性能スコープボルテックス社製ショートスコープ「レイザーHD Gen II 」と暗闇の中でも斜線を示すことができる、高出力レーザー「PEQ-15」、右部分にも取り付けられた、レールにはシュアファイアのM600。

ストックは伸縮式のワイヤーストックを取り替えて、SIG MPXやMP5で取り付けられるようになった、折り畳み式のフォールディングストックに変更。

A-545に取り付けられている、アタッチメントはどれも、アメリカ製のハイクォリティアタッチメント。

 

戦場はいつも、敵が来る時に限って、しっとりとした空気が続く、心配だった頃はいつもこの空気に怯えながら身構えていたとファリカは俺をからかっていた。

 

『来ますね…この空気…』

 

だが、残念なことにこの空気に慣れ出していくと寧ろ、この空気を感じ取るたびに寧ろ安心した気持ちで身構えることができる。

 

『あぁ…銃の中に弾丸があるか確認するなら、今のうちにな』

 

ヴェルグ2のアキが6P62タイプのコッキングレバーを小さく引いて、小さく頷く。

上部レールには、SIG SAUER製のホロサイト&ブースターの"ロミオ&ジュリエット"、レーザーサイトは同じく「PEQ-15」。

右レールはZenit製のタクィカルライトを装着している。

 

"身構えているときは死神は来ない"どこかのアニメ…?いや、小説だっただろうか?兎に角、身構えることは良い事だとは思う。

 

<来ました…橋の上からです。射程範囲に収まったので、カリンカチームの砲撃後、先制攻撃します>

<カリンカチームリーダー、座標を確認した。重砲を使う!!>

 

ファリカのドローンが使用していると思われる、PEQ-15のレーザーの何倍も出力の高いターゲットインジケーターの赤外線レーザーが3キロくらい離れた、位置を示した。

数秒後…位置を示した所がジュピターの方の10倍の火力を持つ、巨大なレールガンの砲弾が橋を突き崩す。

 

「オオオオオオオオオッッ!!!」

 

やっぱり来たか…いつもこんな感じ、群れがいたからといってそれが先鋒とは限らない、今回もその限りではなかったらしい。

 

『行きますか』

『あぁ、やってやろう』

 

 

「う…く…ここは」

『また新しい犠牲者が来たの?』

 

少女の声で目を覚ますと、そこはタリンの街中…いや、街の荒廃が比較的進んでいない…これは、過去のタリン?

 

『また、難民…つまりそろそろエピフィラムが咲く…しかし、今回も選ばれるものはいないだろう』

 

…ジャミング源の人形と同じ格好をした、人形が難民達の虐殺に使われた花を育てていた。

 

「やめなさ────」

 

止めようとして、伸ばした腕が空を切る。

これは、過去を写したホログラムに過ぎないのか?

 

「これが…"異性体"が肌で味わった、生の記憶なの?」

 

経験もしていないのに、まるで初めてでは無いように感じる記憶とは違う、これは私も経験をしていない…そう確証を持って判断できる。

だからこそ、この異性体自身が持っている記憶だと、M4A1は確信した。

 

『輸送列車?お父様達が来たの?早く隔離壁を開かないと…』

 

少女が複雑な仕掛けを解き、隔離壁を開ける。どうやら、隔離壁は通常の手段とは異なる方法でないと隔離壁は動かせないらしい。

列車が入ってきた…しかし、列車の中からは何も聞こえない…

 

『誰もいないの?他の列車を調べてみよう…きっと誰か生きてるはず…』

 

少女は次々と列車のドアを開ける、だが生きていると思われる存在は見つからない。

 

『この子は…生きてるけど、意識が損傷している。傘ウイルスに耐えられなかったんだね』

「傘ウイルス?ここで、なぜそれが出てくるの?」

 

傘ウィルスは人形を鉄血を指揮系統に収めるためのハッキクングの様なウィルスだったはず…

 

「…人形を鉄血に変えてなんの意味があるの?」

「────逆じゃない?傘ウイルスが人形を鉄血に変えるのはただのオマケ。本来の効果は別にあるの」

 

霧の中…いや、霧の映像を通り抜けて、1人の戦術人形が現れた。

 

「M4!?」

「UMP45!?」

「…いままでどこにいたのよ」

「こっちのセリフよ、とりあえず話を共有しましょう」

「OGASの接続をしようとしたの。パラデウス産であることは分かってたから」

「どうやって?」

「いくつかパラデウスの処理が終わってない書類があったの。あなたは?」

「パラデウスそのものの機材とそのログを復元した。ヴェルークトにはこういうことにも詳しい優秀な人がいたの」

 

「わお。それで、情けない話なんだけどミスっちゃって。私を追い出そうとしたプログミングを手当たり次第に壊したら、色々壊しちゃってここに落ちちゃったのよ」

 

UMP45…何をしたらあそこまでの演算を壊したのよ…いや、その話は後でもいいはずだ。

 

「私も似たようなものよ。まとめてデータを飛ばす大元があるのを確認したからそれを切ろうとして立ち塞がるものを薙ぎ倒したらアンタと鉢合わせ」

 

「UMP45、あなた傘ウイルスによる鉄血効果が副次的なものと言ったわよね?じゃあ、本来の効果は?」

 

傘ウイルスの一般的な認識の効果がもし副次的な効果でしかなかっただとしたら…本来の効果は?

 

「…そうね、この話はいつかアンタにはした方がいいと思ってた。いいわ、教えてあげるそもそも傘ウイルスっていうのは────」

────ネズミが…しぶといわね。

 

空から、OGASの声が聞こえた…そして、ポツポツとグリフィン、鉄血、パラデウス…様々な人形達が無からフラッシュの光のように一瞬で出現して銃を構えている。

 

「UMP45…ネズミって何したのよ?」

「あはは〜…ごめんごめん、それと今回はここまでかも」

「え?」

 

すうっ…っとUMP45がM4A1を宙に浮かせるとまるで噴水のように勢いよく空に投げ出された。

 

「────ここは、崩れてたはず…?」

「別の場所に出たのよ。シュミレーターで何度も何度も戻っていた様に見えてたけど、アレは全部違う入り口なのよ。OGAS…だったかしら?アイツはアンタを騙していた。もしくはOGAS自身がセーブ先を誤認してしまってたのよ」

 

どっちの可能性もあり得るが…後者だと思いたい。

 

「…一息つけるの?」

【推察:アレはアナタの知っている、OGASではないわ。そして、アレはこの電子空間の構造を完全に把握しきれてない】

「OGASは深入りしない限りは襲う気はないみたい…で、話の続きを済ませよっか?そもそも傘ウイルスっていうのはね────という、汚れ仕事のシステムで」

「…」

 

UMP45から傘ウイルスの説明を受けた、M4A1はなにか閃いたように顎をなでた。

 

「にしても、驚いちゃった。」

「何が?」

 

UMP45が意外そうに見つめる。知らない一面を私は見せたのだろうか?

 

「アンタの中にあんなお喋りな奴がいたなんてね」

「ええ、それもしょっちゅう話しかけるのよ。周りは聞こえてない感じだったし」

「どおりで独り言やぼーっとすることが多かったわね」

「アイツかなり性格が悪い」

「アンタが歪んだのってそれ?だとしたら、同情するけど」

 

性格が悪いことにはM4も同意するし、OGASにはイライラする。

だが、UMP45が何を求めているのだろうか?さっきから、彼女はこっちから何か探りをいれる発言をしている。

 

「UMP45はこれからどうする?」

「私たちはこの事件の騒動の元、"異性体"と繋がってる。一万以上に接続を試みても解決しないってことは回数が問題じゃないわけ」

「なるほど…なにかヒントがあるの?」

 

必要なのは試行回数ではなく、その奥深くに潜ること。

そして、M4A1はそれを実行しようとしたタイミングでUMP45がやってきたのだった。

 

「出たとこ勝負する?潜り込むより前に殺されちゃ、それこそ納得いかないからね」

「ふーん?じゃあ、どうやって出るか分かってるの?」

「なにがあるにせよ、時間がないのは本当よ。こうしている間にも外は怪物が跋扈してグリフィンや外務省の人は命を削っている」

 

しばらく、沈黙────そして、沈黙を破るようにUMP45はため息を吐いた。

 

「それもそうか……ところで、M4アンタはこの先に自分に関わる真実があると知ったらどうする?知る?それとも逃げる?」

「解決策があれば真実でもなんでも知ってやろうじゃない。第一、コーラップス兵器なんて使った私の前歴以上にヤバい真実なんてある?」

 

そう言われると言い返せない。

M4は真面目に返したが、UMP45は渇いたように笑う。

 

「行く?」

 

M4はプールを指差した。

あそこから、次の場所に行けるのだろう。

 

「お先にどうぞ」

「では、僭越ながら」

 

M4A1は迷いなく、プールに飛び込んで異性体の記憶の中に潜っていく。

 

「アイツ……

 

UMP45はM4を追いかける様に、続けて記憶の奥底に潜っていく。

 

 

 

……

 

 

【セキュリティ解除再生開始】

人間のために身を捧げることが、あたいたち人形の役目なのかな?

 

「これは?」

 

雰囲気というのだろうか、この記憶はさっき見た異性体の記憶とは違う…そんな感じがした。

 

────あたいたちの存在意義は……ただそれだけなのかな?どうしてあたいだけみんなと違うの?────でも…45。あんたが来てくれた。あんたがいたから、あたいは動揺することなく、自分の価値と向き合うことができた。

 

次の瞬間、人形同士が施設内でパニック状態となり互いで撃ち合っていた。

 

「UMP45に…似てるけど…ん?あれは?鉄血工造の本社?」

 

それに、M16A1とHK416…何をしている?M16がHK416をクビにした事を宣言した、しばらく後にHK416が捕まって…

 

【セキュリティ解除再生開始】

 

────でも、あんたと接続してすぐ、真実に気付いた、あまりにもすんなりと記憶を同期させることができた。

────あたいたちのメンタルは元が同じだってこと。あんたに別の新しいメンタルを与えることさえ、あいつらはためらった。

──── あたいたち自身にとっては、この体とその中にある想いこそが、あたいたちのすべてなんだ。

 

「メンタルの元が同じ…ネイトに少し似てるわね」

 

【セキュリティ解除再生開始】

 

新しい映像が飛び込んでくる、UMP45がUMPとそっくりの人形の額を撃ち抜いた。

引き金を引いた、UMP45が絶叫を上げて、泣き叫んでいた。

 

────あんたに出会えてよかった。おかげであたいは一人じゃなくなったもの。

────あんたはあたいの保険だって、分かってた。あたいが任務を達成できなければ、あいつらは代わりにあんたを使う。

────そうなったら、あたいの計画がバレてしまう。

────あたいは任務を達成する。あんたの運命まで、あいつらに弄ばせるわけにはいかない。

 

「…これが胡蝶事件の真相?」

 

施設の中は、旧鉄血工造の本社に酷似していた、これが実際の映像ならばの話になるが、これが鉄血が人類を襲った理由の原因?

そもそも、この映像が本当だという確証はないが、辻褄はあう。

 

<全部聞いたんだね…>

「アンタは?」

<私は────>

 

メッセージが止んだと思ったら、今度は0と1の数字から、メッセージを送った声と同じ声を持ち、UMP45に多少似ている女がM4に近づいてきた。

 

「傘ウイルスから出来上がった…UMPのOGAS…違う?」

<やっぱり、簡単だった?>

「メッセージの主の一人称は"アタイ"だった、それはどんな時でも崩さない…それに、なんとなく私の中に入り込んだOGASと気配が似てる」

 

M4がOGASに付き纏われた時の感覚が彼女の中に残っていた。その感覚が目の前の女からしたのをM4はしんみりと感じていた。

 

<うん、そうだよ。さすがレイラ>

「何のために私の前に現れたの?お悔やみでも述べて欲しいワケじゃないでしょうに」

 

OGASは自分の使命、欲望を他人を利用して優先する。

何を離してくるにせよ、警戒しなければ。

 

<それはね────お願いがあってここに来たの>

 

これから目の前のOGASが何を考えて、何を要望するか。

たぶん、M4A1何を話すか分かっている。それは自分自身にとって気に食わない"お願い"をされる事が分かりきっている。

 

<顔に出てるよ?めんどくさいって>

「ほっとけ、生まれつきよ」

 

M4はついつい口が悪くなってしまうし、態度も露骨な物になるのは至極自然な成り行きでもあるのだ。

 

<────アナタのOGASは相当迷惑な奴だったんだね。悪い事してるとは思ってる…でも>

「いいわよ…受けてあげる。そのかわり…条件があるわ」

 

M4が条件を提示した。

M4だって、どんなやつか知りもしないやつのお願いの内容が嫌いな相手を助ける様な内容をタダ働きでやりたくない。

 

<うーん…>

「難しい事じゃないでしょ?あなたの願いの数だけいう事聞いてあげる…これは簡単な取引よ」

 

少しぐらいは、我を通しても良いはずだ。周りが望みもしない事を勝手に託しておいて、託された側が良い思いをできないで良い筈がない。

 

<わかったよ…じゃあ、まず一つ目の願いね…>

「分かった。じゃあ、アンタの願いの一つ目…答えてあげるわ」

 

思っていたよりも良質なものではない、期待するだけ無駄なのだが…

しかし、取引は取引、受け取ってしまった以上は望みを叶えなければ誠実ではない

 

────再び記憶の中に潜っていく。

 

怪しげな格好をした集団が、先程の異性体だと思われる少女をまるで怪物を見るような目で見下していた。

 

『死体が全部運び出されていく…彼らは自らを信徒だと名乗っていたけど、私達と話そうとすらしなかった…』

 

この記憶で間違いない、どうやら約束は守ってくれたらしい。

 

『これで何回咲いたんだろう…私を見下していた人…哀れな気持ちで見ていた人…みんなみんな死んでしまったのに、私だけ生きている…』

 

どういう事?エピフィラムを浴びても死なないのはどういう事?身体の構造は戦術人形じゃないはずなのに…

 

「これは"お父様が下した試練なの?それとも私を忘れ、私一人が履行されない約束を守っているの?」

「それとも…もう私は、用済み?違う…!そんなはずはない…!!」

 

さっきまで無表情だった、異性体の唇がワナワナと震えて、流せない涙を流そうとしている。

 

「ああ…新しい列車だ…今度こそ…今度こそ、私を受け入れてくれる人が…!」

 

異性体は藁にもすがる思いで列車に駆け寄り、急ぐ必要もないのに必死にドアを開けている。

 

「…今回も、誰も答えてくれない…"お父様"…あと…どれくらい、失敗作を作れば満足するのですか?」

 

だが、すべての車両の中身を確認すると、異性体は自分の期待が徒労に終わったことを知り、ゆっくりと項垂れた。

 

────アノ、キンパツ…アカメッシュ…!…イツカ…!イツカァ…!!

「声が…! 間違いない!声が聞こえた!」

 

異性体が、見つからないと思っていた希望が現れたのだと思い、声のする方向に走り出す。

 

────オモエバ…アノピンクガジャマダッタ…アカイヤツモダ…!!

「適合者…!!本当の適合者…!教えて!どうやったらここから出られるの!教えて!」

────コロス…アノキンパツはゼッタイニ…!

「意識が…ない!?…適合者でも…こうなるの…そんな!嘘だ…!嘘だぁ!!」

────コロ…シテヤル…!

「お父様…!やっぱりあなたにとって、ここはゴミ溜めでしかないのですか!?ここに来るのは捨てる存在だけなんですか!?私達はゴミなんですか…」

 

跪いて、空に向かって大声で叫び声をあげる、異性体…さっきの比ではない…全てに絶望して、泣き叫ぶような声…

 

『(少し…似ている。私がユーリを失ったと思った…その時みたいに…)」

 

「認めるか…こんな現実…誰も受け入れてくれないなら!私が全てを受け入れる!!"連鎖"を持って!!全てを!」

────オ、オマエハ…シッカク

「ごめんなさい…私達が…融合する為に、借りるね?」

 

融合していく…異性体と、ニモゲンが…!メンタルが溶け合っていき、元のメンタルの持ち主であるニモゲンのマインドマップが溶けていく…!

 

────やだ!入らないでください!痛い! 痛い!痛い痛い痛い!!…タスケ!!タスケテ!マーキュラス!!!!マーキュラスゥ!!マーキュ…

 

叫び声を上げて、ニモゲンは抵抗する…だが、どういう訳か異性体に対して、抵抗らしい抵抗が通じていない…

 

『こ、これは…!!』

「これが…あなたの記憶なのね。そうなんだ…適合者でもこんなに苦しいんだ…でも、大丈夫…もう苦しくないから…」

 

光のない瞳が、慈母のように微笑む…他にも、列車に放棄された、死骸の記憶も次々と集まっていく…異性体に記憶が統合されるたびに、統合された異性体たちが次々と起き上がっていく…

 

「これが…適合者の力…?これさえあえれば…きっと、私達は…この街から出られるはず…」

 

漸く、M4は理解した。

あの異性体たちは、私達を閉じ込めようとしたんじゃない、出たかったから…見捨てられたくなかったら、扉の前に立ちはだかったのだ。

あのデータ量はあのネイト達、存在そのものということ。

 

「ニモゲン…SOPⅡが始末したって聞いたけど…死に場所は此処だったのね…」

 

気づけば、また森の場所に戻っていた。

 

「さっきの取り込まれてるネイト、知ってる人?」

「ニモゲン、多分ベオグラードに出たやつね。HK416に聞けば教えてもらえるでしょう、けど私から言わせればただのクソ女よ。死に方は悲惨だけど」

 

UMP45も此処にたどり着いたらしい、いや…これは私がUMP45がいた異性体の記憶のところから私自身がついてきたのか?

 

「さっきの動かなくなった異性体は傘ウィルスに耐えられなくなって、メンタルが融解したと見るわ。パラデウスが自分の創造物に辛辣なのは気になるところだけど」

「どのような理由があるにせよ、まともな感覚があるとは思えないわね。どうする?前に進むしかないみたいだけど?」

 

M4が後ろを指さすと、自分たちの後ろの景色がどんどん融解し出しいく。

 

「…それ賛成、いきましょう」

 

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