風の匂いを感じる、吹き荒れる風に撫でられて目を覚ます。
『おはよう…』
「あ、はい…おはよう、ございます」
目が覚めると、ユーリが私と同じ目線と同じ高さに体を下ろして、私を見つめた。
ユーリが車両の横端に腰掛けると、一息入れてコーラップス粒子を遮断する機能を持つヘルメットを外した。
どうやら、汚染域から抜けているらしい。
「昨日は君に…助けられたな。ありがとう」
「いえ…」
会話が続かない、自慢すればいいのか、二度とやるなと注意するべきなのか、無事でよかったと泣けばいいのか…そんな事を考える事もなく、私はただユーリの少し隣の位置で腰掛けて、朝焼けを眺めていた。
「…?」
「お願い、もう少し……こうさせて」
身体をユーリの方向に倒して、寄りかかる。
今まで恋人らしい事をユーリにはしてもらっていたのに、私自身がユーリにあまりしてあげられなかったから…という、理由なのだが本音を挙げるとユーリの感触を出来るだけ早く感じたいと思っていたからなのかもしれない。
「こういうの…久しぶりね」
「あぁ…本当に、長い間してこなかった気分だ」
私がこう穏やかな気持ちで触れ合うことが出来たのはエルダーブレインに侵されたあの時から、1年くらいだろうか?
腕試しの時に喫茶店に連れられた時もデートみたいな雰囲気だっだが、中身は仕事の話だった。
でも、彼は今日まで私の事を見捨てないで愛してくれた。
他の誰かに心変わりされたとしても周りは当然だとしか断じない時間、彼は私を放置しないでいてくれた。
おまけに昨日はまさか、データ空間に入ってまで助けに来てくれたなんて………
「綺麗…」
「そうだね…うん」
日の出の朝焼けが2人の視線を奪った。
第三次世界大戦で、地球環境は大きく傷ついた…それでも、私たちを照らす太陽は原罪に苦しむ、私たちを知らぬといいたげに美しく輝いている。
「ユーリ、あなたが私と会う前もこんな綺麗な朝があった?」
「あぁ…世界大戦が起きる前はいつも早起きして、こんな綺麗な朝焼けを出来るだけ高いところまで登って見てた…もっと綺麗だったな、でも今は────」
ユーリの少年時代…か
────パパの家族はね…暴力に飢えた革命派の将校らに殺されたわ。その将校の1人は昇進してアンジェより上の地位にいる。そして、新しく軍で築いた血のつながらない家族は私がそいつの命令で殺した……。
反逆部隊にいた頃、AK-12が話したユーリの過去を話したのを覚えている。
「聞きづらい質問をするんだけど…ユーリは、今でも戦術人形が憎い?家族……仲間を、友情や道徳を命令だからと無視した人形を」
「そうだな…」
私がAK-12と行動していた事があると知っているなら、ある程度の察しはついていたのだろう。
ユーリは来るべき時が来た様にため息を吐いた。
思い返して、反省すればユーリの人生の多くは戦術人形やその戦術人形を顎でつかう誰かによって台無しにされている。
「憎い…憎くないで選べと言われたら…そうだな、憎いよ」
M4は当然だと、思った。
幸せだった頃の家族は、戦術人形の実践試験でゲリラ対処の名目で殺害され、居場所となったはずの組織は、養子にした戦術人形の裏切りで壊滅し、転がり込んだ先の民間軍事会社でのし上がった筈の信用は私がコーラップス液を介したダーティボムで霧散した。
「…そうね。戦術人形が居なければ少なくとも、あなたの人生は苦しみにはならなかった」
「この世界に人形がいなくても誰かがやったさ」
もし、彼の人生の内容を人生を奪った戦術人形の内、1人でも知っていたら彼をこんな人生に引きずり込むはずがない。
「ここにいる人形全員を裏切り、殺しても殺された人形は誰もあなたを責める事は資格はない」
そして、今…彼は、戦術人形と共に人生を再び歩んでいる。
「でも。ユーリ、あなたには夢があると聞いたわ。どんなものなのか、私は知りたい」
「……そうだな」
ユーリは何度か、自分には夢があると語っていた。
そして、キャスターはその夢があるから私たちを憎んでも手を出すのをこらえているのだと。肝心の夢の内容ははぐらかされたままだった。
当時は、単に恥ずかしいのか?と思っていたが、違う…単に私に夢を聞く資格がなかったのだ。
「……私に夢を聞く資格なんてないわね……ですが」
資格がないのなら、資格を手に入れるしかない。
「けど、知りたい。もし、本当に私があなたの夢を話せる存在になれたのなら…私に、あなたの夢を手伝わせて、これからはあなたに信頼を得る償は惜しまない」
だから、私は絶対死なない。新しく生まれた自分自身のこの強い感情を見失わない。
そして、彼のことを絶対に取りこぼさない…例え、どれだけ時間がかかって、メンタル…いや、心と身体が摩耗し、ボロボロになろうとも今度こそ、私は絶対に…
「戻ったぞ」
「ようやく帰ってきたな、死に損ない」
「よせよ」
列車に上部からサンタクロースの如く、車両に入ると仲間達が出迎えてくれた。
「こいつを修理に」
「了解デス」
こちらの軍用人形に強化装備の修理を依頼する、多分…数時間はかからないだろう。
「隊長来てくれ。…お前は」
「…失礼しました。では大尉、また会いましょう」
ヴェルグ5が通信室に来て欲しいと手招きする。
M4は自分は混ざれない大切な仕事の内容だと理解して、M4A1もプライベートから仕事の関係に切り替えると、ひとつ頭を下げると彼女の方から別の車両に移った。
「どうした?」
「今回の目的地の潜水艦だが……保安局の動向が少しつかめたのをクトゥルフが送った」
「なるほど、保安局はどうするつもりなんだって?」
「ツポレフに潜入部隊…たぶん、ヴィンペルだな。こいつらで保安局はKCCOとの因縁を断つつもりらしいな」
どうせ、爆弾を落とすのはあらかた数が少なくなって、内戦には見えないほど小規模にしてからだろ?
「本命はKCCOだが」
「欲をかければ俺たちも…って、ところか」
「────保安局は俺たちを仕留め損なったからな、殺せるものなら殺したいだろうよ」
エナジードリンクの入った蓋のついたコップをヴェルグ3…グレゴリーから受け取り、ストローを刺す。
「"あの方"の予想が当たったな」
「あぁ、そうさな。ベオグラードがそれだけヤバい状況だったんだ」
ここまでの展開は"あの方"の予想通りだ。
やはり、ベオグラード…あれは本当に運とパラデウスに上手いようにやられたんだろう。
あのまま流れが悪いままだったら、保安局のヴィンペルと共倒れだった。
「"あの方"から、何か連絡は?」
「定時情報以外まだは何にも」
「なら、今は予想通りって事だな」
"あの方"が定時連絡以外で指示を出す時は、大抵"あの方"の計画によほどの修正が起きた時だ、それがない…という事は計画は上手に進行している、という事だ。
「フォトン指揮官は?」
「相変わらず、アンジェリアと連絡をとっている。グリフィンは基地で仕掛ける気だ」
「仕掛ける時は、シュタージも動くか?"シュタージ"にいるデュピューが話を寄越した」
「……保安局は外に話が漏れるのを恐れていたが、もう隠し通せなくなったんだろう」
「なりふり構わずか、俺たちにあの装備を預けたのはそれが理由か」
ドリンクを飲み終えて、カップをテーブルの上に置く。
なら、"アイツら"をそろそろ枯れてやってもいいだろう。
クトゥルフから連絡だ。
<ヴェルグ1、いいか?>
「反逆部隊の追加人員の装備でしょう?本当にあげるのですか?」
<あぁ、中央委員会はそのつもりだ>
「西ドイツにも話が漏れなければいいですね」
<確かに。だが、困るのは保安局だ。あの方の状況はいままでどおりさ>
「えぇ、あの方にはどっちに転んでもやれることがありますでしょう」
まぁ、オリジナルが"何をやらかすか"知らないが、こっちで調整した奴らなら送り込んでも問題ないだろう。
「了解です。装備はこちらで直接送ります」
<いや、その必要はない。送るのはグリフィンがやる>
グリフィンが?
「分析結果は、やっぱり予想通りだったわ。全員、同一の指紋をしてた…けど、DNA情報が細かい所で異なっていたわ」
列車内で、ROとAR-15がタリンで得た情報を交換していた。
AR-15の言う、DNAの違いはそのまま個体差に直結する。
「かなり、小さい範囲だったけど、何体かから、抽出が叶ったわ…見つけるまでに結構な死体の山を漁ったけど、その結果あの連鎖接続を妨害できたのは…幸運だわ」
AR-15に苦労があったのだろう。御託がいつもより、多い。
「…で?抽出した、固有のDNAから何か分かったの?」
「そうよ、分かったの。…DNAを調べ上げたわ、登録されているDNAを片っ端から、その結果…何人かが誘拐されて、捜索願いも出されている少女のDNAと一致したのよ」
つまり、パラデウスは人を誘拐して兵士やナイトに改造している────
「そう…そうよね」
ROはKの言葉を思い出した、パラデウスはE.L.I.Dの治療という名目で信者を集め、彼らを言葉巧みに誘導し兵器改造していた…それは、ネイトも例外じゃ無かったという事だ…
「クソ、どうしてこんな事が出来るのよ…!」
ROは拳を握りしめて、机を殴る。
机の台に置いてあったのは、今までタリンで実験体にされた人達の資料だった。
パラデウスに道徳なんてものはないのは、重々承知していたが…
「エピフィラムを使う理由は、コーラップス液の抑制する為じゃなくて、より多くの人にコーラップス液を感染させる為…!?ふざけるな!!」
研究記録らしい写真を一枚、AR-15は拾った。
M4によると、コーラップス液の粒子で死ねる事は救済だとタリンのネイト達は言っていたらしいが…ネイト以外の騙された、難民の人達は苦しそうに悶えながら、まるで地獄の一枚絵を見せられているような、気分の悪さあるを写真越しでさえ、感じる。
「RO、失礼します。あ…」
あぁ、なんてタイミングの悪いとAR-15は今、10数枚の資料を抱えてやってきた戦術人形"RPK-203"の事を哀れに思う。
グリフィンの中でも、誠実で正しくあると部隊といえばウェルロッドの部隊が有名だが、どの部隊よりも堅実な部隊といえば、ROのR小隊だ。
なにせ、M4A1のコーラップス粒子の事件で地に堕ちたAR小隊の信頼を取り戻したのはROの努力による点が大きいし、その這い上がり方に憧れる人形はそれなりにいたらしい。
話が少し長くなった、ともかくその憧れのROの元で仕事をする事ができたRPK-203は運悪く、義憤ではあるが怒りに吠える姿を見てしまったのだ、
「あの…私…す、すみませんお邪魔でしたね?」
「…いえ、いいわ」
ROが落ち着いた表情に戻り、RPK-203に謝罪をすると、彼女の頭を撫でて落ち着かせる。
「私のために、必要だから持ってきてくれたんでしょ?だから、あなたは堂々とここにきていいのよ?…ね?」
「は、はい…!RO!」
霞んでいた、RPK-203が立ち直るとROに持ってきてくれた資料を手渡し、頭を下げると部屋から退出した。
「あら、ずいぶん手慣れてるわね」
ROがRPK-203を慰める手腕は実に賞賛ものだった。
確かにこれなら人気が出るはずだ。
「これはもう、あなたの事を模造品なんて言えないわね」
「えぇ、どうも…」
ROは資料に夢中で生返事だ。
RPK-203が持ってきた資料がそれ程まで、凄いものなのだろう、後回しにしなくてよかった。
「なんの資料なの?それ?」
「あぁ、これ?」
ROが半分くらい読み終えた資料を手渡す、途中からではわかりずらいと思ったので最初のページから読もうとし、資料のタイトルにとんでもないものが書かれていた。
「"エピフィラム散布による"完全免疫体"の発掘"…?」
「どうやら、それがパラデウスのエピフィラムを育てる理由のようね」
その頃────SOPⅡ達は、
「あー…辛い…」
SOPⅡ達は、新しい指揮官フォトンから送られた任務である、"荷物"の譲渡をするべく列車から降りて、装甲車を走らせている最中だった。
「ふざけんじゃないよ…どうして、こんな広い箱を装甲車に詰めないといけないんだ…」
現在、装甲車の人員を収納する内部に"荷物"を入れた箱を入れているため、運転手以外は全員装甲車の上に乗っており、車の移動による感性を上にいる人形達は直に感じている。
「まぁまぁ…受け渡しが終えられたら私達も車に入れるんだからさ…」
「だったら、この箱を引きずりながら運べば私たちは装甲車に乗れるんだよ…」
MP7のいう通り、本音で言えば装甲車の中に乗りたい、宥めているSOPにはスカーフがあるおかげで向かい風を防げるが、他の人形達は持っていない、お陰で身体のあちこちでバランス感覚ゲームだ。
「そんなことしたら…箱の中身が壊れるか、外に出てしまいますよぉ…!」
ACRは一番、感性と向かい風を感じる、所に座っているので顔がコミックのイラストのようにあちこちが伸びているように見える。
<そろそろ、交代しましょうか?>
装甲車を運転している、X95が申し出る。
「いいよ、いいよ…みんな、この荷物に文句言ってるだけだから」
<そうですか…あぁ、そういえばいいニュースです、あと20分で目的地までつけます。目的地につけば、降りられるので皆さん頑張ってください!>
「20分かぁ…」
P22ががっくりと絶望したように頭を下ろす。
迫り来る車の慣性にも向かい風にも耐えて、SOPⅡ達は目的地にたどり着く。
「久しぶりね、SOPⅡ」
「アンジェリアさんか…数ヶ月ぶりですね」
待っていたのは、秩序乱流作戦やベオグラード事件で反逆小隊を動かしていた、アンジェリアだった。
「また、人形を変えたわけ?」
「そういうところなんだよ、ここは」
人の神経を逆撫でしておいて、自分には全くその自覚がない戦術人形、AK-12のお出ましだ。
「持ってきてくれてありがとう。SOPⅡ、そしてあなた達も。アンジェリアがどうしてもグリフィンから送って欲しいと頼んだんだ」
「どういたしまして。中身を確認して、私は知らないけど」
AN-94の感謝の言葉を受け取りつつ、装甲車に詰め込んだ謎の箱をアンジェリア達の前まで送り届けた。
元々は外務省が持ち込んだ、箱だったが…それをなぜ、グリフィンが運ばなければならなかった理由に合点がいった。
保安局のアンジェリアは外務省の報復を受けるリスクを背負いたくなかったのだ。
「私も知らないのよ…解除番号は?あぁ、これ指紋式なんだ。変に古いわねぇ…」
アンジェリアが文句を言いつつ、認証に成功すると箱の中身が開かれた。
その箱の中にいたのは…
「成る程、ユーリも気が効くじゃない」
「…AK-12?」
箱の中に入っていたのは、AK-12に酷似した姿の戦術人形用の装備が2セットだった。
まだ、起動シークエンスをしていないコンテナには2つの銃が収納されている。
こちらも、AK-12が使用するライフルとよく似た形状をしている。
「入ってるのはAK-15と…RPK-16、ていう事は使用者は戦術人形"AK-15"と"RPK-16"という事ね」
「まさか、箱の中身が戦術人形の装備だったとはなぁ、やっぱり引きずり回した方が良かったんじゃないか?」
「やめてよ、頑丈じゃないんだから」
「AKが頑丈じゃないってさ」
「おやおや……」
AK-12が怪訝な顔をして、SOPⅡたちを見つめた。
「アキやグレゴリーの小言を思い出すわねぇー……」
「アキさんやグレゴリーって、あのヴェルークトの?」
そうよ、とAK-12は頷く。
あの頃、戦術人形の第二世代は初期配備の段階でとにかく珍しかった。
要は信頼性が確立されてないから、先輩方にはよく怪訝な目で見られたものだ。
「珍しいね、AK-12がユーリ大尉の事以外の人の思い出を話すなんて」
「そういえばそうねー……」
アンジェリアとAN-94がコンテナを運んでいき、AK-12はしばらく残っていた。
これから、どう協力するか伝えるためだ。
あらかた、話が煮詰まった後に、ふとAK-12も昔の仲間達だったヴェルークトのことを思い出す。
「AK-12は大尉以外の人とも上手くやれてたの?」
「SOP?私を誰だと思ってるのよ?」
「ハスキー犬、おバカ」
「おバカ!?アンタに言われとうないわ!」
「AK-12。SOPⅡは賢い」
「なら!私も賢いQ.E.D!」
SOPⅡの部隊人形達は同レベルじゃないか?と首を傾げた。
ちなみに彼女らはSOPⅡを頭がいいとは思ってない。
「……はぁ。それで?どうして、私にグレゴリーやアキの事を聞くわけ?」
「じつはさ、今回ヴェルークトの人と作戦をすることになったから人となりを知れればいいなーって」
そういうことか、AK-12は納得した。
「なら、話してあげるか。まず、アキね。あいつはヴェルグ2で副隊長。公聴会の何回か話してわかると思うけど、あいつは会話でも武器でも火力が高いのが好き、つまり短気で面倒ごとはごり押しで解決するやつなの。物騒だけど、分かりやすい言葉や単調な言い回しで話せば話は通じるわ」
「言い方に嫌味が感じるけど?」
「あのね、SOP。当時の短期さは今の数倍ひどいからね?床を掃除しろって怒鳴ったときはひどいのよ?あいつめ、ちょっと西側の爆弾ゼリーを吐いて、床を緑にした遊びしただけでキレるなんてさ!」
いや、汚したんだし、そんな汚い遊びをしたら怒られるのは当然だと。
SOPⅡたちは思いながら、AK-12の話を聞く。
「次、ヴェルグ3のグレゴリー。アイツは良いやつなんだけど、ウンザリするほどセクハラが多い。あそこにいたときに居た時に何回デリカシーが無いこと聞かされたか…」
「例えばどんな?」
「朝起きた時に、”牛乳を飲め、立派な巨乳になれないぞ”って、これ毎日」
「うわあ」
そういえば、似たようなこと言われたなとX95は思い出す。
いい所を一回でダメにしてしまう、残念な人らしい。
「ヴェルグ4か…アイツ苦手なのよねー。とにかく興味がないやつにはからっきし、けど興味があるのを見つけたら止まんない。私が熱しやすい冷めやすいってアンジェに言われるけど、”本物”はああいうやつを言うんでしょーねー」
モールで起きた時に多少やり取りはしていたが、優秀ではあるが冷酷らしい。
もっとも、冷酷さがないとあの怪物の群れの中から生き抜くなんてまずできないだろうが。
「ヴェルグ5は、ファリカ。彼女は狙撃手で一番話しやすいんじゃないかしら。パパとも同期らしいわよ。あの、脱出の時に狙撃してくれたのはきっと彼女ね。けど、気をつけなさい。ああみえて規律にうるさいから、点数つけられるかも」
「ヴェルグ6…あいつは良いやつよ、話は長いけど。私も点数がいいと、お菓子おごってくれたのよ!ねだってみるのもいいかもしれないわ!」
「その人は…たしか、最近の作戦で亡くなられたかと」
「…え?嘘でしょ?…そっか、まあ、そうよね。本当にイヤよね、良いやつが先に死ぬなんて」
AK-12はヴェルグ6が殉職したと聞くや、残念そうにそして悔しそうに少し地面を見つめた。
「ヴェルグ7かー…あいつ、結構キツイし乱暴な性格でしょう。あいつはパパに心酔してるからねえ、しかも若いから喧嘩っ早いし」
「ああ、やっぱり?」
「忠告してあげようと思ったけど、そのようすじゃ手遅れだったようね」
実はグリフィンの中でも血の気の多い人形とタリンでケンカになったことがあった。
相手から性格の悪い挑発をしたのは問題だったが、血まみれになるまで殴られると流石にいろいろかかわりあいたくない。
「ヴェルグ8はヴェルグ7に誘われてやってきたやつ、オリガルヒのいいとこ出身だから少しおとなしいけどパパの信者傾向がすこしマシになっただから、扱いは慎重に」
ちょっと信じられなかった、彼女は人形にも結構丁寧で、ヴェルグ5と同じような接しやすい人だと思ってたのに。
「大尉って職業も大変だねえ。あれだけ個性あふれる部下を従わせないとならないんだから」
「まあ、濃さはパパたちの方が濃いわね。けど、パパがあれくらい冷たいから誰からもいじめられないで済んだのかもね」
「冷たい?いじめ?」
つい気になって、SOPⅡは聞き返した。
ユーリが冷たい人間なんて想像できないし、いじめは自分たちの過去にもあったからだ。
「ああ、そっか。あんたら、パパの軍人の頃知らないんだったね。あのパパは失敗を過度には叱らないけど、部隊内の暴力や嫌がらせにはかなり厳しかったそれがどんな理由であっても」
冷たい人物だった、AK-12はいまも覚えている。
自分のミスでチームが危険になったことがあった、もちろんAK-12はユーリに叱られたがその後、ヴェルグ8に家族を通じて、”欠陥機”の落胤を押してやると脅された。
人間に欠陥があるというと、軽いミスか回避しようもない、と片付けてくれるのがほとんどだろうが人形や機械が”欠陥”と呼ばれると、大変なことであり、欠陥機とさえ呼ばれてしまえばそんなものをたかだかメンツのために必死こくソ連人は存在そのものをなかったことにしようとする。そして、それは死を意味する。
彼らからすれば、「無能なAK-12が原因、こいつがいることが悪い」ということなのだろう。
無能が真っ先に排斥される、生き死にの場では当然のことだったが、それをユーリは許さなかった。
無能を排斥したところで、それはチームじゃないと。ヴェルグ8の武器と装備を取り上げ、出撃を許さなかった。
脅されたAK-12さえ、「それはどうなんだ」と考え直すように頼んでみたが、ユーリは妥協せず、逆にAK-12がヴェルグ8の穴を埋めてみろ、と話したのだ。
で、次の出撃の結果はどうなったかというと、結局私はヴェルグ8の穴を埋めることは出来なかったし、いつもと比べてけが人がでないだけが唯一の成功と言えるくらいには酷いものだった。
「うえ、きびしい…」
「まあねえ、けどそのおかげであいつらが馬鹿でかい道の踏み外しをしてないわけだし。自由度も高いから、居心地は良かったわ」
それに、隊員の教育がしっかりしているというのは上にも印象がいいし。ヤバいときになるほど、数値だけのエリートよりずっと上手く戦えてた。
「よその部隊から、いじめから逃げるためにこっちのキャンプに駆け込んできたこともあった。それも、10回から先は数えてないわ」
「駆け込み寺?」
「寺よりはご利益があるから、こっちに駆け込むんでしょうね」
”いじめ”と聞くと、学校の陰湿で小物感漂うのをイメージしやすいが、実態は想像を絶するものだ。
学校のいじめ絶対に許されることではないが、軍隊のいじめはそれを群を抜いてひどいものだ。
駆け込んだ兵士が震えながら話したことでも、ヴェルグ8の”脅し”は愛の鞭だと思えるものだが、実際に現場を忍び込んで調べたときはあまりにも人を人と思わない残酷な展開と、殺しを生業とする戦術人形が表現するのも奇妙だが、法も秩序も腐りきった救いがない場であった。
「そいつらを助けたこともあれば、間に合わないでかたき討ちの代わりに正しい裁きを与えたこともあった」
「保安局より、保安してない?」
「それは現場のみんなが言ってた。実際に、政治将校の誘いもあった…まあ、クズどもに恨まれて手りゅう弾投げ込まれるくらいには厳しかったけど、いい思い出ではあった。私の教えられることはこれで全部よ」
「そうだ、カンリカチームっていうのも来てるんだけど、AK-12はその人たちも知ってる?」
「カリンカ?あー…そんなチームもいたね。ヴェルークトってパパが受け持っているチーム以外にも何個かあったけど、私が出入りしてたのはパパのチームだけだったから、その辺りは管轄外ね」
けど、おかしい。
AK-12はユーリたちのいた、昔のヴェルークトが一回解散するほどの打撃を与えたはずでは?
「まあ、そのあたり本当に長いし、ややこしいからまた今度ね。私、これからあの基地に先んじて潜入しないといけないから」
「覚えててね。生きてる保証はないけど」
「あはは、言えてる」
そういって、AK-12とSOPⅡたちは別れることになった。
「まさか、箱の中身がちょっとした装備品だったとはなぁ、やっぱり引きずり回した方が良かったんじゃないか?」
「…言えてる…は?」
配達を終えて、アルゴノーツと呼ばれた走行列車の元に戻ると…そこには信じられないものがいた。
「どうしました?SOPⅡ────そんな」
走行列車の上に、いた存在にみんなが絶句する、M4A1がいるのはまだ理解できる…だが、だが…その隣には
「────ニモゲン!?」
ベオグラードで災厄を引き起こした、パラデウスの先兵ニモゲンがいたのだ。