「生き残れたな、はは」
鹵獲した、アルゴノーツの列車内から外の光景を見ながらレミントンR5は今でも自分の周りに起きた事を実感しきれないでいた。
「まだ実感ないよ。アルゴノーツ…だっけ?アレと戦うと聞いた時は遺書を書いて良かったと思っていたほどだよ」
「遺書書いてたの?誰が回収するの?員数外の私たちのために?」
R5と同じ部隊のメンバーでもあるSIG MCXとAR-57も同様だ。
確かに、彼女達はM4A1が選んだ先鋭である事は事実であり、"腕試し"の成果もあり、その実力を今回のタリンで発揮して見せた。
ただ、いくら凄腕の特殊部隊と合同で戦ったとはいえ、M4A1が新しい力を手に入れたとはいえ、規模が違いすぎる相手と戦って当たり前のように勝てると思うほど自惚れる存在でもなかった。
最も…彼女達が自惚れるような存在であったら、M4A1は採用する気はなかっただろうが。
「そもそもね!私たちがこんな死ぬ思いしたのはアンタのせいだ!ネイト似の…」
今回起きたタリンの原因でもある、存在である、M4A1のOGASに向けて愚痴の一つでも聞かせてやろうとAR-57がOGASが前までいた箇所に振り向いたが…
「おい、OGAS?どこいった?」
「こっちにはいないぞ!」
愚痴を言うはずであった、OGASが初めからいなかったかのように列車の部屋から忽然と姿を消していたのだ。
「まさか、外に出たとか?」
「いやいやいや!?中身はOGASだよ!?見た目は"あの"ニモゲンよ!?もし、誰かに見られたら────」
「うっさい!言われんでもわかってる!グリフィンの奴らに見つかったら、取っ組み合いじゃ済まない…急いで探すぞ!」
弾かれたように、R5、MCX、AR-57は列車の中から列車の外を隈なく探し出す為、体に火をつけられたかの如く飛び出していった。
「…」
M4は自分が座っている、列車の下を眺める。
下では、工兵の資格を持つ人形達が、動かなくなった列車を修繕していた。
【提案:あなたのスキルなら、困っている下の子を助けられるわよ】
「(用意がいいわね。いなくなったと思ってた)」
【解説:しばらくあなたとの戦闘に絞り込んでいたからね。あなたの意識に合わせるのに時間がかかったわ。分かりやすい言い方をすれば"話す、ということを忘れてしまった"という表現でしっくりくるかしら?まぁ、私の状態だからこそ起こりうる現象なのかもね】
声はM4A1にできるだけ分かりやすい説明をしようと努力しているのが分かる。ただ、私の状態という言葉を受け止めるなら、この声は自分が何者なのか知っているようだった。
「(あなたって自分のことがなんなのか知っているの?)」
【回答:もちろんよ!とはいえ今も自分のこの状況に困惑しているんだけどね。それでも、私が何者かを聞きたい?)」
「(教えてくださるなら、そうしたら心置きなく働けるんだけど……)」
【満足:君って、相変わらず交渉が上手ね。いいわ、ふざけているかもしれないけど私はね────】
M4自身も手伝おうと思って下に降りようとする……その時
「こんな所で黄昏ているのね、M4」
「ふむふむ……ん?えっ!?OGASっ!?」
自分と同じ声をし、自分のメンタルモデルから現れた存在、OGAS。
彼女の他人事のような言い回しは聞き慣れていたが、M4はその言い回しよりOGASが今この場にいる事態の方に肝を冷やしていた。
「部屋にいろって言ったじゃない!?R5達にはなんて言いくるめたのよ!?」
M4が思わず怒鳴り、下にいた人形達がその予想もしなかった声量にびっくりしてこちらを見上げてきた。
「話してない。私が判断してあなたのところ来た」
「なんですって!?」
「アイツら私に冷たいもの」
「あのねぇ!!」
「M4トラブルかー?」
下の人形が気になって見上げて聞いてきた。
M4はOGASが見えないように笑顔で「なんでもないわ」と会釈する。
【推測:喧嘩だと思われてるっぽわね】
「大丈夫!喧嘩じゃない!!────いい?とにかく目立たないようになさい。もしSOPⅡに見つかってごらんなさい、アンタなんて────」
「────ニモゲェエエンン!!!!」
M4の徒労は結局のところあまり身を結ばなかった。
SOPⅡの唸り声が列車の下の方から響いてきたのを聞き逃させなかった、M4は恐る恐る下を見て、表情を青ざめた。
「マズイ」
「ベオグラードで運良く生きていたようだね!────ちょうどいい!!バラバラに引き裂いてやる!!」
【警告:さっきの取り消し、喧嘩が始まりそう】
マズイマズイマズイ!SOPⅡに説明しても納得も理解も期待できない。
そもそも、OGASが拝借しているニモゲンはSOPⅡの戦友を手にかけている。
「SOPⅡ!落ち着いて!彼女は確かにニモゲンだけど…」
「どけぇ!!」
列車の上に登った、SOPⅡの前にM4が現れて止めようとしたがSOPⅡはその制止を無視して、強引に押しのける。
「援護してやる!馬鹿SOP!あのクソネイトをぶっ殺せ!」
【提案:助けを呼ぶわ!しばらく持ち堪えて!】
「────嘘でしょ…」
そう言って声の気配が消えた途端、他にも誰がやってくる。
SOPⅡだけじゃない、彼女の部下のH&K MP7を始め、IWI X95、レミントン ACR、H&K P22が援護位置に布陣している。
何としてもここでOGASを仕留めるつもりらしい。
「死ねっ!このクソネイト!!」
SOPⅡがライフルをセミオートで発射させる。
怒り心頭とは、いえ何処で戦っているのか理解しているらしくなるべく跳弾を避けようとして戦うのがわかる。
────と、感心している場合ではない早く止めないとSOPⅡがOGASをバラバラにして殺してしまう。
「こら!やめなさい!」
「────!?」
M4A1がスライディングでSOPⅡを転ばせる、焦点をズレた射撃は金属音を立ててOGASの足元に当たった。
「何やっているんだM4!」
「違うの!彼女は────」
「違わない!コイツはベオグラードの大量虐殺者の1人!ここで放っておいたら、またたくさんの人がコイツに傷つけられんだよ!?」
「それが違うのよ!…いや、違くはないんだけど…一から説明するから話を聞いて!!」
OGASがニモゲンの身体なんか選んだせいで、SOPⅡに命を狙われている。
「苦労が絶えないのね、ルニシア」
「あなたが苦労の原因!」
別に、OGASの顔が殴られて鼻血を流したり歯が折れても別に構わないが、殺されてしまったら自分の苦労が台無しだ、殺されると困る。
…とM4A1の心境はいざ知らず彼女以上にベオグラードの惨劇を見てきたSOPⅡにとってはニモゲンは倒さなければ被害を拡大させる敵でしかない、
「なんで、彼女達が取っ組み合いしてるのよ…!?」
「P22!私達でニモゲンを!」
「────ちょっと待ったあ!!」
なんとか事情を説明しようとしているM4A1に組みつかれているSOPⅡの代わりにニモゲンを撃とうとしたACRの銃を銃声を聞きつけた、R5がはたき落とす。
「R5!」
「スマン!」
「あなたは…えーっと」
「レミントンR5だ!同じレミントン組を忘れるなんて、忘れやすい性格なのは本当なんだな…って、そうじゃない!取り敢えず、あのネイトを撃ち殺すのは待ってくれ!頼む!」
「見逃せ?そんなの、出来るかっ!」
SOPⅡの部隊にとって、ニモゲンを倒す事はR5達の説明を聞く時間すら惜しい、MP7が再び、OGASを狙うが…
「────寄越せっ!!」
「なんだ!?この!離してよ!」
またもや、列車の上に飛び乗ったAR-57が銃のハンドガードを握りMP7の銃を奪い取ろうとして、揉みあいになる。
「X95、お前だけでもっ…」
「あ…はいっ!」
狙いが定まらず、右往左往していたX95がMP7の声にハッとすると、すぐにOGASを狙える位置まで移動しようとしたが…
「────させるかっ!!」
またか、と言わんばかりに今度はMCXが飛び乗りX95にタックルをかます。
「────アグッ!?」
タックルを受けた、X95はゴロゴロと転がり銃を落としてしまう。
「X95!?────どけぇ!!」
「ウグッ!?」
X95が傷ついた事で激昂した、SOPⅡが羽交い締めにしていた、M4A1を強引に振り払い、エルボーを喰らわせる。
「痛ったぁ……!」
MOD化というアップグレードが施されているとはいえ、さすが我が妹いい打撃力だ。
エルボーを受けた、M4A1が鼻から人工血液が流れたので鼻を押さえてこんな状況なのに感心してしまった。
一方、OGASが床に流れる血を眺めている。
「────」
「ニモゲン、お前をぶっ殺す!!」
そのまま、SOPⅡがニモゲンに飛びかかる。
「────フン」
だが、まるでそのまま時が止まったかのようにSOPⅡは動かなくなり、列車の上部の位置を超えて地面に向かって頭から激突した。
「そこまでよ、全員おとなしくしなさい」
いつのまにか、現れたUMP45を始めとした404小隊がこちらに銃口を向けていた。
あんなにいい布陣でこちらを狙っていると言う事は絶好のタイミングが来るまで、私たちの事を黙ってみていたに違いない。
【安心:助けは間に合った?】
「……微妙ね。ハニー?これってフォトンの差し金かしら?」
「ええ、ハニー。でも、差し向けたのはフォトンではなく、グローザよ」
「あぁ、だから私に銃口向けてるの」
【推察:グローザには仲間が暴走しているから止めてと伝えたんだけど……失敗したわね。ごめんなさい】
「(アイツ、私のこと恨んでるだろうしね……)」
銃口向けるHK416に余裕をかましたジョークでM4は状況を伺い、HK416はうんざりと呆れ気味になりながら答える。
仕方なく、M4A1は両手を上げ部下達も続いた。
OGASもこれ以上は不利だと理解したらしく、抵抗をやめている。
「もう!勝手な事しちゃダメだよ!アサルト部隊さん!」
「あー……アサルト部隊の人形はあっちね」
「アッ…ゴメン…」
「どうも」
UMP9は間違えて、MP7ではなく、AR-57の方に銃を向けていた。
M4A1が指摘すると、慌てて銃口を向ける向きを修正する。
「どうしてこんなことするのかしら?グリフィンは相変わらずわからな────」
「アンタのせいよ!アホォッ!!」
M4A1はもう、我慢できなかった。
刹那────UMP45が捉えきれないほどの豪速球の如きスピードで、M4A1がOGASの顔面にドロップキックを決めて、勢いよく列車から降車させ、OGASは華麗なフォームで地面にキスをし、初めて土の味を理解したのだった。
「……新記録達成ね」
「なんの?」
HK416は止める気がなく、そのまま蹴飛ばされるOGASを眺めていた。
「痛そう…それと馬鹿みたいな格好をしたSOPⅡはどうするの?」
「あのネイトに運ばせりゃあいいだろ」
「確かに」
────
───
「予想できない事は続くが、言わせてもらうぞ…どうしてこうなるんだ!?」
「指揮官様、現実を受け入れてくださいとしか…」
「────カリーナ?」
「え?あ…なんか、ごめんなさい」
列車が止まってしまい修理している最中味方同士の殴り合いが始まったと聞いたら、現場の司令からしたら頭を抱えるような話だろう。
まぁ、それもこれも…
「アンタが勝手に部屋から出たのが悪かったんだからな?OGAS!!」
「…私、そんなに悪いことした?」
「テロリストとおんなじ身体で彷徨いたんだから、殺されそうになるのは当然だと思うけど?」
「だから、それをしたのは私じゃなくて────」
「────えぇい!うるさい!お前ら!いい加減黙ってろ!指揮官の考えが纏まらん!!」
また、口喧嘩が続いたのでさっきまで黙っていたOts-14が再び怒鳴り、列車内は静まりを取り戻した。
「はぁ…で?このネイトは一体なんなんだ?お前は連れがいると離してコイツを連れてきたが」
フォトンがOGASを小突いてM4A1に問いかける。
ようやく、落ち着いた雰囲気になったのでため息に似た深呼吸をして語り出す。
「手短に言えば、コイツは私から生まれたもう一つの人格です。今まで、コイツに助けられたこともあれば危機的状況にハメられた事もあります。昨日タリンで、代わりになる素体を見つけたので、移ってもらうことにしました」
「加筆が多いわよ、ルニシア」
「ルニシアなんてどこにいるのかしら?」
嘘は言っていないが、ワザと貶める発言をしたので、OGASは不満そうな目でM4A1を睨んだ。
M4A1もその反撃で「ルニシアなんていない」と睨み返す。
「敵なのか」
「……敵ではないと思います。味方だったとしても"無能な働き者"の部類になるでしょう」
「なに?爆弾を連れてきたの?指揮官の前に?」
新たな仲間ではあるかもしれないが、それが時限爆弾になりかねない存在という事に副官のOts-14は当然不満をもった視線で見つめた。
「昨日、電子空間であなたを排除しようとしたのもコイツね」
「へぇ〜」
自分の命を狙った襲撃者が目の前にいた。UMP45は思わず顔から表情が消えてしまった。
そして、OGASは得意げに口角を上げる。UMP45はSOPⅡを止めなければ良かったとため息を吐いた。
「RO635、只今偵察任務から戻りました────SOPⅡ…あなた、何をやっているの?」
偵察任務から戻った、RO635とその部下達が遅れて列車の司令室に戻ると、彼女の視界にまるでゲームの一時停止で止まったキャラクターのポージングをしていたSOPⅡの姿が映った。
「SOPⅡ…前々から馬鹿だ、馬鹿だと馬鹿にされてきましたけど…ついに本当の馬鹿にしまったんでしょうか?」
「AUG…相手が人形であっても言っていいことと悪い事が…」
DP-12がSOPⅡの奇怪な光景を罵倒するAUGを嗜めるが、その嗜めた内容が必ずしもSOPⅡの名誉を守る発言になっているとは限らない。
「…でも、なんでこんなことに?」
「簡単なことよ、コイツが暴れる光景にムカついたから、コイツの行動プログラムをカットしたのよ。コイツ何故か、傘プログラムを受け付けないプログラムを仕込まれてるし、まぁ…ちょうどいいふるいに────」
「よく分かったわ。もう一度、私のドロップキックを喰らいたいのね?」
M4A1はあまりに取り返しのつかない行動をしたOGASの頭を掴みアイアンクローで握りつぶそうとする。
「ルニシア……痛い、痛い、痛い」
「……」
「ルニシア、話を聞いて」
「ルニシアは此処にはございません」
「416、あれキックじゃなくて握り潰しよね?」
「45!?そんなこと言ってる場合!?今すぐ止めろおオオオオオ!!」
────15分後
「────つまり、アンタがカットしたデータをプログラムに貼り付けし直して、詰め込んだダストデータも排除したらSOPⅡは動くのね?」
「ソウデス…」
OGASはM4A1に握りつぶされそうになった頭を押さえて、正座しながらどうすればいいかを白状した。
「ルニシア……いい加減足をどけて……うぐぐ……」
「へぇ、私以外にルニシアさんって人が踏んづけてる奴がいるんだぁ?」
「だから、あなたはルニシ────ムギュッ!?」
ちなみに今、OGASはM4に顔面を踏まれたまま窓沿いの壁に張り付かれている。
「M4、大事な話があるって言うから来たが…踏まれてるお前は────ニモゲン、なのか?」
「ブサイクの人形がブサイクのネイトを踏んでやがる!大尉!こりゃあ、傑作な姿だぜ!」
部下のヴェルグ7を連れたユーリがOGASの姿を見て、危機感を張り巡らせた。
「大尉、彼女は私のOGASです。都合上にニモゲンの身体に入れているだけで、敵ではありません。それと、私はブサイクではなくM4A1です」
「ああ、隊長に話したあのブサイクM4が傘ウィルスが作った人格か。どおりでブサイクな顔の作りをしてるわけだ」
「ブサイクとは刺激のある挨拶ですこと。どうも、ユーリ"元"グリフィンの指揮官様?直接話せて嬉しいわ、あなたの能力とルニシアが────ゲホッ!?……M4A1の抱く恋心に関してはかねがね伺っているの。どうぞよろしく頼むわね」
ルニシアと名前を使った瞬間、鳩尾を殴られるOGASは涎を吐いたあと、ユーリにひとつ、会釈する。
ただ、OGASの視線は好ましいものではない。そして、その理由がM4に今、蹴られたり踏まれたりしているからでもない。
「チームの一員になってくれるのか?」
「それはあなた達────」
「はいもちろんです」
「ルニシア……セリフを取らないで、勝手に決めないで」
「影の薄イルニシアチャン。セリフヲ奪ウナンテヒドイヒトー」
「こんな決定の仕方で…いいのか?M4?」
「えぇ!彼女は私が見張っておくので!」
ユーリがM4に目を合わせると彼女はユーリに向けて頷いた。
「……分かった、M4が役に立つのなら信じるよ」
「信じるですって、信頼されてるのね?ルニシア?」
「……」
「無視しないで」
「ルニシアなんて此処にはいないわ」
ユーリはOGASから感じた、露骨に気に食わない雰囲気を感じ取っていたがあえて言及しないことにした。
「"現"グリフィンのフォトン指揮官。貴方のことも調べたわ、16に満たないくせにグリフィンに入れてもらえるなんて随分"優秀"なのね。ユーリから指導を受けてもらえるなんて」
「そうだとも、俺は優秀さ。まぁ、ペラペラ口の軽いお前を俺は信用できないがな、OGAS…それにアンタらもだ、外務省」
外務省は現に脅している、保安局と同じ国の組織だから本能的に気に食わないのは納得できるが、フォトンがOGASを気に食わないのは無自覚に相手を煽り倒す性格だろう。
「信頼なんて一言二言では得られない。でも、私は多くの情報を持っていてそれを提供ができる。捨てるにしても早計という者じゃないかしら?」
「なら、今すぐSOPⅡを直してみせろ。また、M4にアイアンクローを喰らわされたいのか?」
「…私じゃ無理、彼女をフリーズさせているのは彼女自身だから。彼女自身にフリーズを解いてもらうしかないわ」
SOPⅡは、傘ウィルスに高い抵抗性を持っていると、OGASは言った。
傘ウィルスから生まれた、OGASが直そうとすれば、SOPⅡの抗体によってたちまち消去されてしまう…そういう事だろう。
「でも、AR小隊ならメンタルに排他性は無い。後は、私が削除したプログラムをペーストすれば彼女は元通りになる…そういうことよ」
「本当かよ、RO?」
「えぇ、どうやらSOPⅡのプログラムには傘ウィルスを受け付けない仕様が組み込まれている様です、ペースト用のプログラムを頂ければ、復旧できるかと」
ROの診断結果と同じ…という事は、
「ROならSOPⅡは治せるのか?」
「えぇ、大尉。数秒頂ければ、すぐそこらじゅうを走り回る馬鹿犬の様に元気になるでしょう」
「それを聞いて安心したよ。RO、SOPⅡが可哀想だからな」
「それもそうですね、この馬鹿を早速助けましょう」
ユーリ・フレーヴェン
グリフィンの元、指揮官。今の崩壊した世界の人間には珍しくお人好しの性格で"外務省"と呼ばれる組織のスペツナズ (特殊部隊)ヴェルークトの1部隊長。
階級は大尉らしい。
公的な記録は本当に少ない。
2年前にグリフィンに入社して退社するまでの記録しか、過去を徹底的に洗うグリフィンの記録でも漁る事が出来なかった。
次に外務省とヴェルークトについてハッキングで覗き見して調べてみた、その2つは見つける事ができたが、詳しく知れたのは外務省だけ。
どうも、外務省は国外の大使館を守ったり調査をする組織らしい、対外情報庁の所属が保安局だから別枠の組織だろう。
次に外務省に所属しているヴェルークトこれは"全く記載がない"ということだけ知れた。
つまり、項目はあるのにその後の情報は全て空なのだ。
元から存在しないのか、と言われたら違うらしく兵士のSNSの投稿でユーリ達と似ている装備や明らかに外務省の仕事をしている様子の動画や画像が多少、出回っているので存在はしており、"知る人ぞ知る"という秘密部隊だ。
要は彼らは、インターネットではなくアナログの紙の中でしか把握できない組織である事が推察できる。
確かに初め見る空を飛ぶパワードスーツというより装甲装備、採用されたものの採用する組織は珍しいアサルトライフルA-545、プルパップタイプのPKP、これらは確かに機密性の高い事を裏付けている。
OGASにとって今すぐ把握できない謎の人物であり、そんな不安要素全開の人物にM4A1を任せることは到底容認できる訳がない。
だからこそ、度々OGASはM4A1にユーリを引き離す様な行為をした…と言うのが、彼女なりの理屈ではある。
「うがぁああ!!…あれ?どうして、私列車の中にいるの?」
SOPⅡがROのお陰で目覚める事ができたらしい、犬の様な唸り声をあげている。
「指揮官離れてっ!そいつはテロリストだよ!!」
「SOPⅡ、もうニモゲンはいないらしいです。今、目の前にいるのはその身体を使っている方の様ですわ。」
案の定、SOPⅡが今にも飛びかかりそうだったのでX95が事情を説明する。
「そ、そうなんだ…なんか、ごめん」
事情を理解した、SOPⅡは武器をおろして謝罪する。
馬鹿だ馬鹿だと日課のように馬鹿にされる、M4SOPMODⅡだが、本当に馬鹿なら最初にニモゲンを襲った際に、FN-ELGMをぶっ放していただろう。
元通りになったSOPⅡを見て、一同は取り敢えず安堵する。
「もう帰っていい?」
OGASは空気が読めていないらしく、他人事のように話から外れようとしていた。
「そうはいかない」
"まだ、話は終わっていない"そう言ったのはユーリだ。
「OGAS、君は傘ウィルスから生まれたと言うが、目的はわからない。なんのつもりで協力する?M4を利用してまで何がしたい?」
「その言葉そっくりそのまま、返してあげようかしら?インターネット上の記載がないヴェルークトさん?」
ユーリは特に動揺した様子もなく、部下のヴェルグ7と言われた男性も、これといって驚いていない。
「…まぁ、いいわ。私は、かねてより"ルニシア"と共にある。ルニシアが死んだら、私も死ぬ。死なれたら、困るから助ける…それだけの話よ?」
「"ルニシア"?どこにいるの?」
「M4A1…いえ、あなたには"レイラ"と言う名前の方がしっくりくるのかしら?"レイラ"は戦術人形になる前は、ネイトだった。そのネイトが目指した完成形のことを"ルニシア"と言うの、そして"レイラ"は最もその"ルニシア"に近いのよ」
OGASはユーリが名付けた"レイラ"という、単語を使った時に彼を見て明らかに嫌そうな声で話していた、彼女は明確にユーリを嫌っているように見える。
「さぁ、今度はあなたの番よ。ヴェルークトってなんなのかしら?なんで、あなた達はグリフィンに協力するの?」
質問に答えたことで、OGASは"誠意"を見せた。
ここで、答えない事はヴェルークトに悪印象を与えるが、話せばアドバンテージを失うであろうと、OGASは計算高く主導権を握ろうとしていたのだ。
「まぁ、いいだろう。いずれは話す事だ。君たちの納得できる範囲で話すさ」
「…」
だが、ユーリはそんなことすら"まぁ、いいだろう"で済ませた。
アドバンテージを捨ててもまだ、ほかにいい切り札があるのか?
「まずは、ヴェルークトに人員に関してだ。ヴェルークトっていうのは、外務省が動かすスペツナズ (特殊部隊)さ。表向きの活動は大使館職員の防衛や救出、協力者との関係を改善するとか、国外の活動が中心。だが、一番やる仕事って言えば、"E.L.I.D狩り"」
E.L.I.D狩り読んで字の如く、E.L.I.Dを狩り、国内に来させない事だ、言うだけ簡単だがやるとなると話は違い、かなりの難易度で危険な仕事だ。
「その為、構成員は表立って名前を出さないような人で組まれている。元ロシア軍のスペツナズ、警察系スペツナズの"アルファ"とか、ポーランドのGROMとか…珍しいところだと中国、北朝鮮から来た奴もいたな……死んでしまったが」
バレたら即ギロチンや縛り首にされる前体制側の連中を運用している、だから危険な任務だって、命令できるという事だろう。
「随分手が広いのね。足がつかないの?」
「その様子だと、外務省のデータベースにアクセスしたようだ。けど、見つからなかっただろう?データが入ってないんだ。キーボードを打つだけで簡単に閲覧されるようなインターネットデータベースにはない…報告も全部紙でやり取りさせるくらいには徹底している」
「……は?紙?」
書類なら死んでも、すぐに処理もできるからもだろう。
だからといってこんな前時代的なものだけでやり取りされる彼らにはOGASも困惑に近いものを感じずにはいられなかった。
「2つ目、グリフィンを助ける理由。これは前も言ってるが外務省は"理由"があって、バラデウスを追いかけてる。そして、グリフィンはパラデウス、そして我が国の保安局とも関係している…」
なら、支援しても周り怪しまれるわけもない…か。
「信用に関しては、古熊のミーシャより出来ると考えてくれると嬉しいな。なんせ、ソ連のトップである、"中央委員会"が直々にグリフィンの支援を依頼しているからな」
「あれ…なんか、私たちってパラデウスといい、保安局といい…結構嫌な組織に絡まれてる?」
「もしかしなくてもそうよ、ハーヴェルさんが言っていた通り、保安局って本当に厄ネタを持ってくる人なのね…」
国のトップがグリフィンの支援を命令したという事は、パラデウスは新ソ連にとってかなり厄介な存在であり、その始末をゼリンスキーにさせたくない、という見方もできる。
とはいえ、見方は見方、素直な考え方をすれば今まで利益をもたらしてきたグリフィンを捨てる事はしないという、一種の"共生関係"のつもりで支援しているかも知れない。
「話が長くなったな…OGAS、君は何がしたい?」
ユーリが目的について問うと、OGASは少し思案したかのように静かになり、ゆっくりと思っていた事を口にした。
「…私は、私が何者かを知りたい。それが、現時点の目的よ」
「"現時点"?」
「目的というのは移ろいやすいモノ…そうでしょ?」
AR-15の問いにニヤリとした表情で答えるOGAS。
「自分が何者か知りたいねぇ…」
生きた他者との交流がM4A1でしかない事を感じていたOGASは"自らが何者なのか"を認識しきれていないのかも知れない。
しばらく話を聞いていた、フォトンが口を開く。
パラデウスの当て馬にされることや、M4A1の事情に振り回され気味だが、取り敢えずの状況の概要はわかったのは収穫であるといえる。
「…名前を決めないか?このまま、OGAS、OGASといっても覚えづらい。M4、どんな名前をつける?」
「…私が?」
「そうだ、彼女はお前の中から生まれたんだ。それなら、お前に名前をつける権利がある」
フォトンは経緯はどうあれ、お前が産みの親なんだから権利もお前にあると言っているのだろう。
「…ふむ、ならダンデライオンは?」
「ライオン?OGASは百獣の王なの?」
UMP9の違った解釈に一同の空気が和らぐ。
「元はフランス語のライオンの歯をタンポポに転化した言葉よ。彼女の理由はどうであれ、大勢の人形に種を植え付けた。まるで、タンポポが無数の種を撒き散らすかのように…どう?アンタに相応しい名前だと思うけど?」
「…ダンデライオン。悪くないわ」
OGAS改めダンダライオンは微笑む。
【さて、ようやく私の自己紹介ができるわね】
「そうだった……あの、みんな聞いて欲しいことが────」
「指揮官様!…と、フレーヴェン大尉」
ようやく、もう一つの声が説明に入れる、M4ようやく説明を聞ける、そう思ったとき……カリーナが血相を変えてやってきた。
「何があった?」
「し、指揮官さま…E、E.L.I.Dです!E.L.I.D感染者がこの列車にやってきました!」
「へぇ、仕事じゃないか」
さっきまで、これと言った目立つ発言をしなかった、ヴェルグ7がやる気全開と言わんばかりに手に持っていたアサルトライフル"AK-104"のチャンバーチェックを行った。
【論理:話はあとになりそうね】
「ま、またお預け……」
「ヴェルグ7、俺の装備は戦闘には戻れるんだよな?」
「もちろんです!隊長!」
「さて我々がE.L.I.Dの迎撃しますが…よろしいですか?」
「武運を祈るとは言わねえぞ、お前らは俺にとっては疫病神にしか映らないからな」
「はい、承知してますよ」
────
───
<さっきは、指揮官様もあぁは言っていましけど、死なれてほしくないと思っていますよ…きっと>
「それを聞いただけでも救いになるよ。…それで?カリーナ、E.L.I.Dの数は?」
<200〜300ですね。送ったドローンの映像だと、巨人のような個体もいます>
「了解。カリンカチームが列車の防衛に当たるから、俺たちヴェルグチームは先行して、腐肉喰らいの排除だ。いいな?」
無線から了解の声が聞こえる。
今、先行してE.L.I.Dと戦えるのは予め装備を着用していたヴェルグ1とヴェルグ7、そして…ヴェルグ5。
残りは、まだ推進剤や装備、弾丸の補給で遅れる。
「大尉、私も出ます」
『…なんのつもりだ!?』
跳躍装置と空間認識を高めるバイザーだけ付けたM4A1が出撃しようとしていた。
『最低限の装備でやる気か!?』
「私に互換性があるのはこれだけなんです!」
確かに彼女が今つけられる装備はそれだけだが…それでも、出撃しようとするM4をユーリは驚き止めようとする。
「お願い、"ユーリ"」
『どうして無理をする。そこまでしてやる必要はあるのか…?』
「…ありません。おそらくあなたはこんな沢山の相手でも倒して帰ってくるんだな、という感覚はあります…それでも、私はあなたを守りたいんです…これは私のワガママです!」
『開き直るのか……』
<ヴェルークトにまた新入りですか?…やれやれ、隊長の縁というのは理解を超えますねぇ>
<やらせてやれよ。数は少ないんだ、戦場の空気を吸わせるのも悪かぁねぇ!>
『悪ガキの悪ノリのような考えで…いいか?不利と感じたら遠慮なく報告しろ、一人で対処しようとするな。いいな?』
「分かっています。戦場の空気を吸わせる…か」
まるで新兵ね。
時間にして1年程、それほど私は戦場を体験していたがそれでもヴェルークトにとってはひょっこ扱いだ。
<ヴェルグ7、グロブ・ガルマン…先行する!>
<ヴェルグ5、ファリサ・レヴィッチ…先行します>
<ヴェルグ1、ユーリ・フレーヴェン…先行する!!>
今回は発射台は使わない。
ただの大地から垂直に浮かんだ後に、目的地に向かって前進する…なんだか、不思議な気持ちだ。
「…まずは」
まずは車のキーを差し込んで、捻る感覚から…思考で起動する。
跳躍装置エンジン音の駆動音が聞こえる。
「次は…」
スロットルの代わりに、エンジンに火を入れるような感覚を思い起こす…すると、跳躍装置がゴオオッ!と燃える音が聞こえる、後は…
「M4A1…"レイラ"、行きますっ!!」
掛け声と共に飛び上がり、高度を保つと垂直に曲ったかのような軌道で前進した。