たったひとつの願い   作:Jget

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接近する運命

 

「ルニシアもいなくなったし、始めましょうか?」

 

ユーリ達がE.L.I.Dと戦っている間、OGAS達は秩序乱流作戦の際、何があったのかを語り始める。

きっかけは、秩序乱流作戦でエルダーブレインを追いかけるために、列車に乗った後から始まる。

 

「M16と対峙した、M4は暫く優勢だったけど…弾薬がなくなって、M16を追いかけることができなくなってしまった」

 

その後、M4A1はAR-15と合流して列車から飛び降りたという。

 

「そちらがトンズラしている間、私達は地獄行きだったわ」

「あの子は随分と傷ついたわ」

 

Ots-14はあの戦いにまだトラウマを持っていた。

それもそうだろう、絶え間ない砲撃に心許ない弾薬、そして自分がさっきまで揺るぎないものと信じていた信念すら容易く握りつぶすほどの恐ろしい怪物のE.L.I.D。

トラウマにならない方がおかしい。

自分から残ったととはいえ、コーラップス液から発生した二次災害までは彼女達の責任にはならない。

────コーラップス液を使用した、M4A1とAR-15達の仕業だ。

 

「M4だって、後悔してるわよ…あの爆弾は」

「────だったらっ…!」

 

普段冷徹な表情を崩さないAUGが鬼気迫る表情で小さい声で呟く、AR-15の胸ぐらを今にでも肉ごと引きちぎりそうな勢いで掴みかかる。

 

「"虐殺した、私たちは悪くありません"と言うつもりですか?」

 

M4A1を通じて、OGASはどれほど苦しんだかを説明したところで、巻き込まれた住人が化け物になり、多数の人形がその化け物に殺されたという事実は変わらない。

 

「違うわよ…でも、どうしようもないじゃない…何にもできないまま…死にたくなかったのよ…」

「吐き気がするっ!自分が可哀想と思える言葉を並べれば放免されると?殺された人間や苦しんでる人達の事を見ようともしないで…!このっ!害悪が!!」

「────!」

 

AR-15はその言葉に耐えきれず、泣き出してしまった。

 

「……」

 

同罪のはずの404小隊は彼女を庇えば、同じように虐殺した事実と向き合わなければならないし、責任も取らないといけない。

それに……HK416もあのコーラップス液の作り出した悪夢にイヤというほど振り回された側だ、AUGやOts-14がどれだけ怖い思いをして、今怒っているのも理解できる。

だから、彼女達は卑怯者だと承知しながら何も言えない。

見ているだけだ。

 

STAR-15はその後、M4A1の元にもパラデウスがやって来て、切り抜けた後AK-12に回収された事まで話した。

 

「その時にネイトがOGAS……ダンデライオンを狙い始めたから救出作戦には入れなかったの、当然あの子はそれを振り払ってでも行こうとしたけどね」

 

その情報は、グリフィンにとっても初耳だった。

M4がユーリに好意を抱いていたのは知っていた存在は多かったが、救出作戦に参加させなかった理由がダンデライオンの妨害だったとは

 

「じゃあ、何でさっきM4A1を止めなかったんだ」

 

「簡単なことよ」ダンデライオンがフォトンの質問に自信を持って答える。

 

「あの子は…もう、私が思ってる以上に強くなったからよ、私のことなんていらないくらいにね」

 

ダンデライオンを窓を見つめる。

視線は今、E.L.I.Dと戦っているM4にそそがれている。

 

「時効だろうし言わせてもらうけど、あの子はずっと……ユーリのことを支えるために裏からなんでもやった。隣か彼の前で戦いたい気持ちを押さえつけて、ね」

 

だからダンデライオンはこう思う。「ユーリ、こんなに彼女が支えてあげるのにあなたはそれだけしか振り向かないの?」……と。

 

<そろそろ接敵する。各員、抜かるなよ。レイラ、君はヴェルグ5と一緒に>

「はい!」

 

100メートルしない位置に、ヴェルグ5のシグナルを発見したのでもう少し、距離を詰める。

 

「ヴェルグ4?ですよね、お世話に…なります」

<そんなに緊張しないで、もう少し落ち着いて…ね?>

 

ファリサという人の配置は、確かスナイパーだったか…?

彼女の持っているライフル"SR-25"でなんとなく理解してしまい、もっと前方に配置されたかっていう焦りを感じつつもあの化け物と至近距離で戦わなくて良かったという安堵もある。

 

<ふふ、分かりますよ?焦ってるんでしょ?隊長を間近で守れない事に>

「そ、そんな事は…」

<無理に隠さなくていいですって。だって顔に出てるし>

「…そうでしたか」

 

隠し事は出来ない、か。

人間、人形とかではなくベテランだから?

 

<そろそろ、あなたの方も射程位置になるわ。あなたのそれ、M4A1なんでしょ?>

 

レーダーを見ると、たしかにE.L.I.Dとの距離はM4A1アサルトライフルの有効射程距離、300mに近づいている。

 

「あそこか…!」

 

もう、ヴェルグ5は撃ち始めている。

他の箇所でも銃撃と斬撃が入り混じったような戦闘音が聞こえる。

音の跡を辿るとヴェルグ1が接敵して戦っているのが見えた。

 

引き金を引く────そして、放たれた弾丸はユーリの背後を狙おうとしたE.L.I.Dの頭を吹き飛ばす。

 

<ヤアッっ!…M4!上手いぞ!>

 

とは、ユーリは言ってくれるが私が撃った感染者に向かって既に反応し、攻撃しようとしていた事に気づくべきだった。

 

<腐肉喰らいがこっちに来てるわよ!>

「くっ…!」

 

なんて、考えている場合ではないどう見つけたかは知らないがE.L.I.Dがこちらに少しずつ近づいてきている。

SR-25がセミオート式のライフルとはいえ…

 

<ゼャヤアア!!>

 

という、私の心配も杞憂だった。

スナイパーのヴェルグ5が長刀を巨大な斧に変えて豪快に吹き飛ばすのをみれば誰もがそう思う。

 

「そんなに難しくない…か」

 

言われるとそうだ、こうやって近づかれてはいるが、迎撃も難しくないし基本は遠距離で一方的に仕留めている。

前見たように、猛スピードで動き回るわけでもない、たしかに私は戦場の空気を感じる程度だろう。

 

とはいえ、だ。

それが為にならないわけではなく、E.L.I.Dとの適切な距離を取りながら戦うという方法を彼らの動きを見てなんとなく把握できてきた。

E.L.I.Dの厄介なところは頑丈さ、凶暴性以外にも物量がある。

どんな戦況でも、物量で押されるのは厄介だ、そういう物量に対抗する戦い方を心得ている。

 

「…一騎当千て感じね」

 

相手よりも何倍も強いとかそういうのではなく、1000人を1人で相手する方法を心得ている…という私の言葉の意味だが。

 

「ね?いる?」

 

思っていたより簡単だ。

手が空いた気もする。

すると彼女はふと、この時間を有効活用したいそう思うようになった。

……そして、頭の中にある1つの声をそっと呼んでみた。

 

【戦いながらでいいの?】

「暇だからね」

 

やっぱり答えてくれた。

 

【暇ねぇ】

 

ため息染みた吐息がきこえた。

声は内心「本当に大丈夫か?」と思っているのかもしれない。

けれど、この声は話してくれる気になったようだ。

 

【前置きなんだけど、ねぇ、君たち。私の正体が幽霊だって話したら信じてくれるかしら?】

「信じる人がいたら思えないわ、それであなたはその幽霊かなんかなの?」

 

とんでもない前置きが出てきた。

だが、今更の話だ。馬鹿げた話だろうと本当にあるのなら目や耳を逸らすのをやめるのは早い方がいいのは変わらない。

 

【似たようなもの、かしら。私自身、どんなものなのかハッキリ説明できる自信がないの……きっかけは分からない。ただ、突然私は目覚めてあなたが私を使って発砲していた】

 

きっと声はビックリしていたろう。

私がこの銃を撃ってるときは大体、私がアレな一面を見せている。

 

【なんどか、君に話しかけてみたけど君は気が付かなかった】

「それっていつ頃?」

【君がシナモンロールをクソと怒鳴った日】

「エルダーブレインに接触された日……?」

 

そんなに前から?

でも、エルダーブレインは私がシナモンロールにクソと言った時の少し後だった。

 

【SOPⅡがエルダーブレインと戦闘した時に話したじゃない。クソのシナモンロールが飛び散った!って】

「あー……」

 

────言った。言いました。

目につくのも嫌だったシナモンロールが巻き込まれてちょっとせいせいしたとき、ついそう言いました。

……1番、私がアレな一面を吐き出している時に、この声は目覚めてくれたらしい。

ちょっと同情してしまった。

 

【こんなバカげた話、君は信じる?】

「ええ、いいじゃない。信じるわ」

【レイラ?信じてる人は気が狂ってるんじゃないの?】

「私、人形。人じゃない」

【いいわ。そういう言い回しはすきよ】

 

洒落た言い回しは誰もがよく考えるものだが、実際喋るとなると中々、そのタイミングがない。

けど、今日は特に考えもせずそういうセリフを言えて、少し得意になれたかも。

 

【私もビックリしたわ。気がついたら、あなたの銃になっていたんだもの】

「武器に魂か……烙印システムが関係してたりするのかしら……」

【わからない。でも、このライフルのもともとの持ち主が私だったとしても君の人生は君のものよ。レイラ】

「ダンデライオンもこのくらい物分かりがいいといいんだけど。だってアイツ────」

 

物思いに耽ったとき、M4A1に予想を超えることが出た。

死んだ、殺した思ったE.L.I.Dが飛び上がると、襲いかかってきた。

 

「なっ…!?このっ!!」

 

油断した、いつ間にか感染者がM4の手につけていた、プロテクターに噛み付いてきた。

 

「ふざけるなっ…!」

 

噛み付いてきた感染者を引き剥がす、引き剥がされた感染者は転がっていく。

 

「これなら…!」

 

腰に帯刀と言うより、取り付けてあると言うべき、ブレードを引き抜く。

グリップを握りトリガー型のスイッチを握って押し、ブレードに熱と光が帯びた。

 

「やああっ!!」

 

そして、そのまま感染者の首元に振るう、振われたブレードは感染者の首を吹き飛ばし、ドロドロと緑色の血液らしきものが流れる。

 

「あー……そう、これか、あー……なるほど」

 

切り裂いた時に感じる、不快感…これが"人"を切ると言う感触である事をM4A1は始めて知る。

 

「はぁっ…!はぁっ!」

 

血のついた、ブレードを振るとドロドロと緑色の血が地面に飛び散る。

血の他にこびりついた肉が付着していたらしく、一緒に飛び散った…

 

【心配:無事?】

「ええ……油断した……」

 

E.L.I.Dに食い殺されかけるというのは戦術人形でも凄まじい恐怖だ。

とにかく強烈な不快な匂いと表情、そして血みどろの皮膚が迫ってくるのをみると、身体が急激に冷たくなるような気分がする。

 

「────オオオっ!!」

 

また感染者が現れる。

咄嗟に長刀で斬ることに抵抗を覚えて、無意識に空を切ったが……

 

「────ふざけるなっ!!」

 

ブレードを振り回されたら血に飢えた獣だって少しは警戒するが、E.L.I.Dはまったく意に介さず迫ってくる。

否が応でも、コイツらが死者の怪物であることを思い知らされる。

ここで躊躇したら食い殺される、それを思い出したM4A1が柄頭で感染者の頭を殴った。

 

「────!?」

 

────ぐしゃりとと音がした。

 

だが、殴った感触は斬った感触以上に気持ち悪い感覚を味わった為、

銃で撃とうとしたが銃身が長いので感染者の頭に合わせられない。

 

【警告:レイラ!心拍数が跳ね上がってる!落ち着いて!】

「うわぁああああああ!!!!」

 

もう背に腹は変えられない、仕方なくM4A1はブレードをもう一度で今度は頭に向かって振るった。

 

────ぐじゃりと音がした。

 

長刀は頭に突き刺さり、感染者の頭をスイカのように割った。

首を切った時の感覚よりもマシかと思いたいがそんなわけがない。

同じくらい不快だった、しかも長刀が突き刺さりすぎた為なかなか抜けなかった。

 

「────ううぅ……!!汚い…!汚い…!!」

 

引き抜こうとするたびに、感染者の血と肉が飛び散り、M4A1の至る所にかかっていく。

 

────なぜだろうか?前に銃で撃ち殺した時はそんな感覚を感じることはなかった。

今回も、いつもの通り化け物を殺すだけと、そう思っていたのに

 

「刃物を持つだけで…?刃物で人を刺すだけでこうなるのっ!?」

 

自分の手で人を刺して、斬り、血を流させる。それだけで、気分が悪くなる…不快だ…

手に伝わる感触と、自分にこびり付く血と肉が、あるだけで、こうなるのか!?

 

<初めての仕事にしては、いい働きね>

 

不快感に肩を震わせると、その、肩を数回叩かれる。到着した際や移動する時に使う方法だ、ヴェルグ5かと思ったら違う背が少し低い。

 

『ヴェルグ8です。引き継ぐ、下がってください』

「で、でも…大尉が」

『踏ん張らなくて結構です。100切ってるわよ。あなたみたいな"初心者"が埋める穴もないわ…それに、その跳躍装置の燃料も少ない。戻れる内に戻らないと後悔する羽目になるわ』

【提案:ここは彼女の話に甘えるべきよ】

「…わかりました、あの…」

『どうしたの?』

 

こんな事を喋ったら、弱気かと思われるかもしれないが思い切って切り出した。

 

「あなた達はいつもこんな、辛い思いを?身体中に血と肉がこびり付くような戦いを?」

『…なるほど、確かに普通の人形とは違うね』

 

ヴェルグ8、A-545の引き金を引きながら物思いに耽るように溜息を吐く。

 

『もう、慣れたわ…ごめんね』

 

数々のエンジン音が空中を震わせる。補給を済ませたら残りのヴェルークトがやってきたのか…

 

『さぁ、行って。"戻れるうちに"』

 

 

「いいぞー!コースを維持しろ!」

 

こう、文面にするとハキハキした言葉に聞こえるが実際にやっているのはこのポールみたいな形をした機械だ。

その声に従って、ヴェルークトの兵士達は列車の中に入っていく。

 

【安堵:生きて帰れたわね。よかった】

「大尉は?」

「最後ですよ、ほら」

 

ヴェルグ5が指を刺すとその方向に返り血に染まった、ユーリの姿が見えた。

多分、その中にはこびり付いた肉もあるのだろが見たら、また気分が悪くなりそうだ。

 

「今更…」

 

そうだ…今更何を考える?何に傷つく?何に弱音を吐いている?

私だって、突発的に大勢の人間を不幸に叩き落とした外道。

私が生きてこの列車に乗れるのはいないと困るからだ。やった事を許されたわけではない。

 

<ヴェルグ隊を収容して、15分後修理が完了したアルゴノーツを発進させる!ヴェルグ隊以外は列車の中にいるように!!>

 

それを人形以上に感受性の高い人間が今もやっている。

どれほどの苦しみを跳ね返されてきたのか?どれほど、あの見るのも辛い自分が斬った跡の様子を視覚して、自分のやった事を自覚しないといけないのか?

 

私は、彼等が憎いわけではない。だが、どうしてこの仕事を続けられるのか?

国に忠誠を尽くす理由もないのに、なぜ続けようと思うのか…そう思わずにはいられなかった。

 

────数時間後

 

メンテナンスルーム

 

「……うん」

 

エイムポイントのダットサイトを構える。

実の所をいうと、私がつけているダットサイト、フォアグリップ、レーザー、レールカバー…果ては自信が持っているM4A1ですら、純正品ではなくレプリカの類いだ。

レールカバーに至ってはエアガンの廉価パーツだ。

 

「これじゃダメね…」

「どうしたんだよ…?」

 

ネイトと戦って分かったことだが、もっと装備を良くするべきだ。

最もネイト以外にもパディルスキには…鉄血も、クーデター軍もいる。

 

「AR-57、カスタムで悩んでるの…ちょっと手伝って」

 

装備を一度全て、取り外して…自分が用意した装備の山を並べてもう一度アタッチメントを考える。

 

「このスコープは使わないの?クライアント?」

「思ってたより、この基地は近距離が多そうになりそうだからね」

「はは、考えてるね。流石、けど心配しなくていいコイツは万能だよ、重量を省けばどんな状況でも役に立つ」

 

これはサイトは1倍から6倍のズーム調節が可能なショートスコープ、SIG:TANGO6。

戦況は目まぐるしく変わるに違いない。

確かに状況に適したズームができるショートスコープなら適任だ。

M4はこのスコープを買った覚えがない、きっとAR-57が私の費用を使って買い足したのだろう。

 

「どうあがいても短期決戦で仕留めないと、厳しいからね。電池を気にしてる余裕もない」

 

レーザーはLA-5/PEQ、高出力レーザーだがその分の燃費は悪い。

だが、1日2日もかからない任務ならこれで結構。

 

「作戦を見る限り、激しく撃ちあうし色々な弾薬を使うよね…それなら」

 

マズルは弾丸のマズルファイヤの明るさを大幅に軽減する、BCMのガンファイターコンペインサイター。

 

「両手のどっちでも使える…これ大事」

 

チャージングハンドルは、ガイズリー製のアンビチャージングハンドル。

 

「近距離もやるんでしょ?なら、これで吹き飛ばしな!」

 

アンダーにM26 MASSショットガンを取り付けた、接近戦でも吹き飛ばしてくれる。

 

「ショットガンの衝撃で他のアタッチメント壊さない?」

「一回なら問題なし!……たぶん。あ、このマガジンは定番!」

 

マガジンは同じくマグプルのEPMマガジン、確実な給弾を行える。

そして、

 

「隊長はあの、ロケット背負って飛び回るんでしょ?なら、Gにも負けないストックを選ぶべきよ」

 

ストックはFABのGL-Core、チークパッド調節機能が付いており、工作精度も高く頑丈にできている。

 

「それまで使っちゃう?」

 

最後に────銃剣。何故か私はこれをつけていた。干渉しないよう、ライフルとショットガンM26を隙間を大きくとって取り付けている。

 

アレほど、嫌悪感を覚えた刺す感触を知りながら、近距離で振るえる刃物の力強さも思い知ってしまったのだろうか?

 

「助かったわ、手伝ってくれてありがとう」

「いいよ、私も色々武器をいじくりまわせたし」

 

それはどういう意味だと、問いただしたかったがAR-57の姿が消えている。

持ち場に戻ったのだろうか?

 

「どう?たくさん、いじったけど」

【満足:良い出来じゃない。あとはあなたが十分、使いこなせるか……そこにかかってるわ】

 

烙印システムのある自分がそんなことを言われるなんて大層なことだ。

だが、それを話しているのが私の持っているM4A1ライフルならそれも仕方あるまい。

 

【提案:"カービン"でいいわよ。ずっと、M4M4って呼ばれてるのはあなただし。いまさら、M4A1と名乗らせてもレイラという名前があっても結局混乱するわ】

「……わかった。じゃあ、頑張りましょう。カービン」

【報告:そろそろ、大尉さんが来るわよ】

 

『M4…いるか?』

「ええ、いますよ」

 

顔を出しに来たユーリが、メンテナンスルームにやってくる。

心なしか、纏っている装備の数が多く見える。

 

『そろそろパディルスキだ』

「ええ、準備は済ませています」

『流石、M4A1だ』

 

カービンという名前を付けて良かったとおもう。

ヘルメットで顔が伺えないが、ユーリが微笑むような声でM4A1を褒める。

 

「どうしてここに?」

 

もしかして、出撃前の告白みたいなものだろうか?

恋人同士だから、今更のようなものだが…それに、出撃前にやるのは"死亡フラグ"になりがないと思うが…

 

『頼みたい事がある』

「あ、はい」

 

なんだ、そんなことか。

確かに頼みたい事があるなら、このタイミングしかないが…なんとなく、期待したみたいで自分がバカらしく感じる

 

「頼みとは?」

『あぁ、難しい話しじゃないんだが────』

 

そして、ユーリはM4A1にある指示を出した。

 

「本気ですか?」

『あぁ、引き受けてくれるか?』

 

ユーリの話の内容にはM4A1も仰天しかけた、確かに難しい話ではないが…まさか、ユーリがそんな頼みを言うなんて…予想だにもしなかったから

 

『もしやりたくないなら、それで────』

「やります」

 

"やめてもいい"と言おうとしたユーリに、はっきりと"やる"という意思をM4A1は伝える。

 

「ただし条件があります」

『言ってくれ』

 

そういうと、早速受け取りたいと言わんばかりに瞼を閉じて唇を近づける。

 

「…キスして」

『…分かった』

 

ユーリがヘルメットを外して、素顔を見せる。

その瞳は、どこか待ち侘びたかのようにも、とうとう来てしまったのかという期待と諦めが入り混じったような表情だった。

 

「…」

「…」

 

ユーリと手がM4A1の頬に触れ、そして唇が触れ合う…舌は混ざり合わず唇を合わせるしっとりとしたキスだ…

甘い味わいでわないが、それでも深いものを感じたとキスをした当人同士は確信した。

 

<まもなく、パデイルスキだ!全員配置につけ!!>

「…それじゃあ、手筈通りに」

「はい」

 

キスの終了をアナウンスする様に、フォトンの放送が響き渡る。

ユーリの指示に頷いた、M4A1は再度ヘルメットを被り、元の持ち場へと戻っていく。

 

「結局、やってしまった…」

 

アレほど、死亡フラグだと考えていたのに、結局やってしまったとM4A1は少し反省に似た感覚を覚える。

 

「でも…不思議。後悔してない…」

 

M4A1が時計を見る、到着まであと30分時間がある。

 

「さて…」

 

────後方車両

 

「HK416、ちょっといい?」

 

404小隊が待機していた、車両に珍しくM4A1が顔を出す。

 

「もしかして、引き抜きにでも来たの?M4A1も抜け目がないね♪」

「…黙ってなさい。3分だけよ」

 

茶化すUMP45に溜息を吐き、M4A1とHK416部屋と部屋を繋ぐ通路にまだ移動した。

ここなら、話を聞く輩もいない。

 

「話って?」

「すこし頼みがあるの、内容は────」

 

────

───

 

「……はぁ」

「悪くない頼みだと思うけど」

「悪くはないけど……はぁ」

「えぇ、あなたにしか出来ない、いえ…あなたがやりたかった事のはずでしょ?」

「あのねぇ…そのお願いはあなたにとってどういう意味かわかってる?」

 

M4A1の頼みを一通り、聞いたHK416はため息を吐いた。

正直、コレを聞いたのが私じゃなくて、他のAR小隊だったら気が狂ったと思われていたろう。

そもそもM4A1がするような頼みではない。

 

「出来ないの?」

「で、出来るわよ。でも、報酬は?」

 

だが、これが大尉……ユーリの為になるというM4A1、レイラとしての判断していたのなら……気が狂った判断だって彼女は躊躇わない。

HK416は報酬の話をした。

 

「実はね、反逆小隊をしていた時……副業をしていてね。このメモリーを手に入れたの」

「副業……なるほど、個人で傭兵を揃える資金はその時に確保してわけ」

「流石にギリギリのラインで仕事は選んだけどね……ともかく、その副業の最中に私はこのメモリーを見つけた。中身を最近見て驚いた。このメモリーは"蝶事件"でのあなたの無実を証明する証拠が映ってた」

「────!」

 

M4A1がメモリを取り出し、HK416が取ろうとするが腕を上げられてしまい、届かない。

 

「よく見て、コレなんなのか?わかる?」

「書き切り型媒体……!」

 

M4A1が手に持っているメモリは一度撮ったら、絶対に編集できない特殊な書き切り型媒体のタイプだった。

HK416はそのメモリの価値がどれほどのものか……考えるだけでも緊張を覚えた。

 

「……報酬とはいえ、なんでそれを私に渡すの?」

「こっちの誠意を知ってもらう為よ、受け取るならあなたも私の依頼に誠意を持って」

「……本当にあの依頼にそれほどの誠意を見せる必要があるの、あなたの依頼したことは────」

「────後、30秒で3分よ」

「随分、脅しが上手くなったわね」

 

M4A1の話を聞くだけだと思って3分と設定したが…その3分が自分の運命の別れ道になっていた。

HK416はM4A1がいつのまにか大物に近づいているのを理解しつつあった。

 

「…受けるわ、その頼み」

「無くさないでね、早めに確認する事をお勧めするけど」

「…当たり前よ」

 

M4A1がペンを指で弾くようにを弾き飛ばしたメモリーをHK416が慌てて受け取る。

 

「契約成立ね、前金は渡したわ。ちゃんと…頼むわよ?」

 

カン…カン…とM4A1が遠ざかる足音を聞く…HK416は握りしめたメモリーを見つめる。

 

基地にたどり着くまで、あと20分前後…HK416は急いで、インターネットを起動してメモリーを読み込ませる。

 

────どうして私が、クビになるのよ!?

 

────鉄血が…いや、違う味方同士で────

 

────さぁ、選択の時だよ…UMP45…

 

────お前はここまでだ、大人しく地獄に行け

 

見たこともないような事実が、メモリーから映し出されている。

…確かに整合性も取れるし、提出すれば私を分解しようとした奴らに仕返しもできる夢のような証拠として使えるだろう。

 

M4A1の報酬は、これまでやってきた任務の中でも最もやりがいがある物なのかもしれない…だが、一つ疑問がある。

 

こんな重要な物、一体どこで?

 

 

 

 

「こういうのしか出来ないわよ…UMP45のOGASさん?」

 

────ありがとう、M4A1。

 

壁に寄りかかっているはずのM4の背中から満足そうな声が聞こえる。

胡蝶事件の真相を生き残った、人形に渡す…それが、UMP45のOGASの"お願い"だった。

 

考えられるとすれば当時の記憶を刺激して、傘ウイルスを刺激するためだろうが…私の知る限り、直前で任務を外されたHK416はウイルスにかかる環境下ではなかったはず…いや、だとしたらUMP45のOGASは満足気に話す筈が…

 

「…まさか、ね」

 

だが、どれだけ確証の得られない推測で考えても列車は進んでいく、まるでレールに敷かれた決まった運命に従うように…列車に乗せられた人形達も…それぞれの決められたレールを歩き出すしかないのだ。

彼女達ができるのは、そのままレールに敷かれた運命を受け入れるか…それとも、レールから脱線してイレギュラーになるかだ。

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