「厄介な話だよ、本当に」
フォトンはパデルスィキにまで近づいた際にかかった、ハーヴェルの電話に苛立ちを覚えていた。
外では、急げや急げと人形たちが土嚢や弾薬を運んでは組み立て、陣地を築いていた。
数分ではあるが、彼らより先に基地にたどり着けたのは幸先がいい。
「重砲も危険だが、空にも目を配れ!ドローンだって来る!」
KCCOは砲撃戦を仕掛けてくるだろう、こちらも砲撃戦になった場合の勝ち目なんてないので、外で戦う人形たちに穴を掘らせて塹壕戦をさせる事にした。
404小隊は既に基地に潜入するために出撃している、ARのボロ女達も準備ができ次第襲撃してもらう方針だ。
「どうして、先に着いているヴィンペルは手伝わない?エゴールの奴らはともかく、アンタらとは仲間のはずだろ?」
ヴェルークトのカリンカチームも防衛戦に協力しているらしいが…戦線の人数が10くらい増えて心強いか?と聞かれてそうですとは言いづらい。
<…どうでしょうか。確かに我々と"ヴィンペル"は"味方同士"ではありますが"仲間同士"ではないですし>
大尉にとっては驚くような話ではないかもしれないが…こっちには誰が誰の所属か分かったもんじゃない。
ソ連軍なんだから、ソ連軍の扱いでいいだろう全く。
「で?その、ミハイルの子飼いのヴィンペルはただ見ているだけで、自分たちの領分に入ったら爆撃機で丸ごと灰にするのか?」
<それがミハイルという男です>
「ソ連軍人の間違いだろ?」
<指導部の冷たさにはこちらも腹が立っています。みんながそうだったら、あなた達に手を貸したりしませんよ?>
「…」
何を詭弁を…たかがPMCsに手を貸すなんて、政府がやるわけない。
本音はPMCsの仕事に便乗したいだけに決まってる。
「…平和の何が悪いんだか」
<将軍の望みに確信はありませんが全員が平等に平和の恩恵を受けられたわけではありません。粛清と言う鬱憤晒しに巻き込まれて、傷ついた人は大勢います。その人達の恨みは未だに刻み込まれたままなんですから>
「今それは平和じゃなくて、弾圧が続いている歪な世界だっていうのか?」
そのソ連の歪みに俺たちグリフィンは巻き込まれだたていうわけか、
これだから大国は、
<でなければ、ヴェルークトなんて作られたりしませんよ>
ヴェルークト、最強の特殊部隊と聞こえはいいが、実際の所は懲罰部隊のような扱いなのだろう。
E.L.I.D殺しなんて、どういう罰ゲームだよ。
<ツケが回ってきたんですよ。今までのね>
「お前らも、参加したいんじゃないのか?エゴール達のクーデターに」
<確かに…今すぐ彼らの側について手伝うのも悪い話とは感じません。…ですが、それが本当の軍人としての姿なのでしょうか? >
どういう事だ?ヴェルークトは政府達を許すとでもいうのか?
<もし、カーターさん達が勝ったとしましょう。遺跡の技術を手に入れたカーターさん達のクーデター派は誰も逆らうことができない>
そうすれば、自分達の立場は思い通りのままだ、そのチャンスを逃すのか?
<ですが、それはただ傷つけるものと傷つけられる者の立場が入れ替わるだけ…一人称で見れば大きい転機かも知れませんが、大枠から見て仕舞えば何も変わらない>
大尉がため息の様な吐息の一拍を置いた。
<いや、むしろ悪くなるかも知れない。カーターさん達に対抗してミハイル達も遺跡技術の開発を再開するかも知れない…最悪、将軍と組んでいるパラデウスが遺跡の技術を悪用するかも。そうしたら…>
また起きるかも知れない、第三次世界大戦が前回は"生き残るか殺すか"が…ハーヴェルが言うようにか
<前にも言いましたが、あなた方グリフィンが我々をどう思って頂いているか…それは、ご想像にお任せします。ですが、我々軍人の本分の"命"を守る、そのことに嘘がない事を信じてほしいのです。我々もあなた方の"新世界の輝きとなるべく"と言う言葉を信じます>
「信じろねぇ…お前たち軍人がやった事で出た難民にそれを言えるのかよ?」
<負い目はあります。矛盾も承知です>
ユーリはフォトンとの通信を終えると、準備を整えていた。
”あの方”から何かを聞いたヴェルグ3がこっちに報告に来た。
『隊長。"あの方"から、定時連絡だ』
『確認した…戦闘区域外に"ヴィンペル"か、録画しかしない役回りだろうがいるからには意味があるだろう』
"あの方"の定時連絡を見ると予想が届いていた。
成る程、モスクワは保安局が勝利した時の為の粛清準備とクーデター側が勝利した時の政治体制変更、その両方の準備をしているか。
ミハイルの私兵…と言うわけではないが、国家保安局の為に働くスペツナズ
『ヴィンペル、確かにミハイルのオモチャという例えは言い得て妙だ』
彼らはどのように国民を守るとビジョンはあるだろうか?
考えない兵士は使いやすいだろうが、それ以上にはなれない。
『保安局のスペツナズ …"清廉潔白"な誇りある経歴を持つスペツナズ …』
嫌な言い方をすればヴィンペルはエリート主義だ。
彼らにとって、KCCOは自分達の手柄を奪う妬みの対象だし、我々ヴェルークトに対してはせいぜいゾンビ狩りをするのがちょうどいい奴らだと見下している。
『見渡せば見渡すほど、内線の導火線が転がっているじゃないか…』
プライドが無駄に高い我々より、己のために媚びへつらう姿を隠しもしない中国の方がマシかな…なんて、考えた方から負けか。
──── お前たち軍人がやった事で出た難民にそれを言えるのかよ?
『…』
さっき聴いた、フォトンの嘲笑の様な声がまだ響いてる。
軍人は命令に従うもの…それは真実だろう。だが、それで全てを片付けるのは明確な逃げである事を知っている。
俺たちは市民の生活に支える為の金を頂いて、武器や装備を買ってもらえている。
要は軍隊は市民に"投資"されている、その軍人が市民の期待に沿う働きを出来なければ責められるのは当たり前だし、揶揄されるのは当然だ。
だが、今…その軍人同士で今、市民が必死に稼いだ金で買っている装備同士で殺し合いをしている。
この結果も市民の口を封じて軍を称賛する様に言論統制した結果、誰もが自分がどれほど取り返しのつかないことしようとしているのか?それを理解する人どのくらいか?
甘やかされた政府と軍隊は何をしても、許されるとでも?
答えは今────この現状だ。
批判されて、叱られなかった軍人と政府が己の利権と政争の為にこんな悔しい事が起きた。
『俺は…』
国民を守るのが軍人の仕事であり、本分である。
各国の軍隊の共通のモットーである。
『俺は…軍人だ』
カーターさんが勝てば、いつ戦争が起きてもおかしくない一触即発の状況になるし、ミハイルの方が勝てば、ソ連の国民に対する言論はますます締め付けが厳しくなる。
『どっちも…嫌だね』
傲慢なのかも知れないが…俺は見た、見続けてきた。
戦争で踏みつけられた人達、兵士にも"仕方ない"という"言い逃れで"理由もなく殺された人達その兵士の中に俺と言う存在がいた。
M4…レイラは俺のことを尊敬しているようだが、俺は彼女思ってくれているほど素晴らしい人間ではない。
殺さなくていい人もたくさん殺してしまったし、弱い人間もたくさん傷つけた。
M4が俺の手元から離れ時は今更、幸せなんかを受け取ろうした俺にツケが回ってきたのではないかと真面目に考えた程だ。
『隊長、待たせたな。全員準備できたぜ』
『そうか、なら行くか。待っていろよ────』
列車の格納庫を展開する。この辺りにコーラップス液の反応はない。
被ったヘルメットのセンサー機能をONする、これで視界が360度見えるようになる。
『やってやるよ』
俺が軍人になる前は、大人になったらこんな大人になるなんて考えたこともなかった。
なる様になるとも考えてなくて、ただ移ろう様にその日、その気分で、パイロットになりたいとか、親の仕事を次いで医者になりたいとか変わっていく将来の夢を語るだけで固めていた夢は持っていなかったと思う。
これからの世代の人間が自分と同じように自分から幸福を捨てるような存在にしてはいけない…これだけは譲れない。
<ヴェルグチーム、分かっていると思うがもう一度確認するぞ。俺たちは強化装備の跳躍機能を使って潜水艦基地の外壁を乗り越えて侵入する、その後パラデウスの証拠の確保と────の破壊を行う。質問はあるか?>
『隊長、帰ったら何を飲むんです?』
ヴェルグ3か…気が早いな。だが、その気の早さが俺の中の緊張感を剥がしてもくれた。
『シロックだ、俺はアレが好きなんだ』
『なら、帰って奮発しないといけませんね?隊長?』
ヴェルグ2…奢らせる気だろ。
『ヴェルークトが出来てから、お前達に色々助けてもらったな。』
大変だと思った時に手を貸してもらった事もあった、今なら言えるお前達は最高のチームだ
『あえて言いたい言葉がある』
お決まりで危ない言葉だ。だが、敢えて言わせてもらう…いいや、違うな言わずにいられないんだ。
『生きるのをあきらめるな!!』
────
───
「来るぞ!」
笛のような音が聞こえ、それが砲弾の飛来音であることに気が付く。
そして、地上をハンマーで叩きつけるような衝撃が迸る、KCCOの先制攻撃…!恐らく重砲からの203ミリの砲弾の着弾による衝撃だ。
────攻撃だ!!
────撃ち返せ!!
グリフィンの人形たちの反撃がワンテンポ遅れる形で始まった。
<────グリフィン!続けてくるぞ!!>
ヴェルグ6か叫んだ時にはもう砲弾が着弾していた。
「うっ!?」
今度は列車に直撃…ひしゃげて、燃える列車の中から、さっきまで銃弾を飛ばしていたグリフィンの人形の"腕だけ"が列車の外に放り出される。
耳をすませば苦痛にうめきな泣き叫ぶ声がひっきりなしに聞こえるだろうな。
『────カリンカチーム飛べっ!いまだ!!』
ユーリが別チームのカリンカチームに跳躍装置を使って上昇しろと命令を出す。
着弾が収まるまで待つのも結構だが、そういう時こそトドメの伏兵が狙っている。
むしろ、こちらは飛べるのだから空に上がった方が安全なのである。
『ヴェルグチームも作戦開始だ…お前ら、絶対に生きて帰れよ…!』
『『『────了解!!!』』』
異性の良い隊員達の声が聞こえる。
グリフィン側に残る、カリンカチーム…お前達もうまくやれよ。
【確認:レイラ、聞いてる?】
「聞こえてる!どうぞ!」
M4A1達が出撃しようとしている、車庫も随分と慌ただしい。
戦闘が始まっているのに、まだ準備が終わっていないのだからその通りか────
その最中、M4A1の銃である”カービン”が話しかける。
【提言:これから、私はジャム対策や連射力向上する戦闘に全力を注ぐわ!戦いが終わるまで話せないと思うからそのつもりで!】
「分かった!終わったらまたお話しましょう!」
「いい?弾丸を入れ終わったら、直ぐにでも出発するわよ!」
潜水艦基地に乗り込むのは3台の装甲車で行く。
装甲車と言ってもBTRの様なで鋼鉄の車じゃあなくて、鋼鉄を素材にしたトラック…ティーグルだ。
「隊長!車に弾薬入れ終わったよ!────キャアっ!?」
「すぐに出発するわよ!全員トラックに乗り込んで!!」
私もトラックと言い間違えたが、ROやSOPⅡ…その部下達は車を乗り間違える事なくティーグルに乗り込んだ。
M4の隣にあった列車の上部がびっくり箱の穴のように吹き飛んだ。
<出撃する!ゲートを開けろ!サイレンが鳴り、ゲートが開く。
ゲートの隙間から、光が見えた瞬間に3台のティーグルのエンジンが唸り声を上げる。
「先頭はSOPⅡからよ!先導しなさい!」
<了解!!>
SOPⅡの勢いある、声と共に彼女達が乗っているティーグルが列車から飛び降りた。
それに続いて、ROのティーグルもM4A1が乗るティーグルも発進する。
<邪魔だって!!>
途中、RO達のティーグルが防衛で積むはずであろう土嚢と衝突仕掛け慌ててハンドルを切る。
<出るのは分かってたんだから、どかしてなさいよ…>
ROが悪態をつくのも当然だが、こういういい加減さを叱る相手も今回の戦闘でスクラップになっていると思うと虚しいものを感じる。
「決戦ってやつですね、隊長」
「えぇ」
タリンの時点で分かりきっていたが、ドローンからの報告で鉄血構造が既に潜水艦基地にいる事は判明した。
M16…グリフィンから、鉄血に鞍替えした戦術人形。
彼女がどういう経緯でその選択をしたか?それはいまだに分かっていないが…平たく言えば、裏切り者だ。
「隊長はM16にあったら、何を言うのか決めているんですか?」
「かける言葉なんてない。ただ、叩きのめすだけよ…」
「そうかい」
爆撃の音が始まった、戦いが始まったのだ。
「始まったわよ!アクセル全開よ!スピードを上げて!」
M4A1の命令で、3台が勢いよく加速する…その1秒もしない時間の後…笛の音が響き渡る。そして砲弾が一番後ろのティーグルの少し、後ろに着弾した。
加速をしなかったら、砲弾で誰か1人が潰れていたかもしれない。
「やっぱり!!捕捉されてる!!」
「ドローンで見られてる!」
「私がやる!よし!落ちた!」
「すげえなクライアント!」
プロペラを回し、こちらを執拗に見つめるFPVドローンをMCXが補足。
M4A1はデータリンクでそのドローンを特定するとアンダーバレルのM26ショットガンの散弾を命中させて見事撃ち落とした。
それを見たR5は賞賛する。
「────むぅっ!!」
車内が激しく揺れる、潜水艦基地に繋がる道は防衛上の都合で悪路だ。
ガタガタ揺れる車が、砲撃にぶつかるよりも前にひっくり返るなんて事態があったら笑えない。
<これ以上スピードを上げますか!?M4A1!!>
「上げなさい!なるべく相手の偏差に対する予測をかわさないと!!」
<分かりました!RPK-203!アクセルをもっと深く上げなさい!>
<いゃあああ!!砲弾に当たる前にひっくりかえるうううううう!!!>
────数分後
「うう…」
「ほら、始まったばかりよ」
RPK-203がROに平手打ちされて乱暴に起こされる。
彼女の懸念通り、全速力で走ったら目的地まであと少しのところで車がひっくり返り壁に激突したのだ。
「全員、装備は?」
「AR-57。問題なし」
「R5。いつでも使える」
「SIG MCX。武装に異常なし」
ティーグルから降りて、自分の武器と全身に追加の装備を外付けで取り付けていく。
取り付けられた装備の調整にズレがない、
戦闘に使用してもトラブルは起きない。
「くそ…」
ひっくり返った、ROの部隊の人形達もティーグルから這い出ると乗り捨てて、早速行動を開始した。
目の前は巨大な外壁に覆われている、潜水艦基地だ。
<基地に辿りついたようね>
「状況は?」
外壁が開く、通信を入れたダンデライオンが開けてくれた。
<既にグリフィンの人形の30%が死亡、ヴェルークト、404小隊に損害なし>
「分かっていたけど、あっという間ね…」
5分もしない自分の内心だけで考えていた言葉を思い出していた。
職務を怠慢した、人形が今は死体になっている…バックアップがあるからという発言を聞くが…それは、戦術人形が死ぬ瞬間を覚えてないから。
彼女達が覚えているのは、死ににいく前の出来事だけだ。
<どうする?変更する?>
「いえ、変更したらヴェルークトへの負担が増大するわ。…変更はなし。このまま、続行する。フォトン指揮官にそう伝えて」