────パデルスィキ潜水艦基地、防壁
『全員、たどり着いたな!?』
『あぁ、アンタが最後だ。隊長』
ひっきりなしに爆薬の音が振動と共に伝わっていく。
爆炎の中から、叫び声が聞こえてきそうだ。
『作戦の変更は?』
『変更はない、我々はこのまま市街地に潜入。逃げ込んできたグリフィンの為に支援物資を設置した後、潜水艦基地深部に突入する』
『いよいよですね…この時を待っていた』
『ここにいる全員がそうだ、カリンカの奴らもな…』
グリフィン戦術人形部隊の支援にKCCOと直接対決をする、カリンカ部隊。
彼らもまた、このパディルスキ潜水艦基地でケリをつけたかったに違いないが────
それを耐えてまで、彼らは足止めを了承してくれた。
彼らの期待に応える為にも、半端なサマは晒せない。
『よし、市街地に降下する。先頭はヴェルグ3だ』
『了解だぜ』
8人がそれぞれ周囲を警戒しながら、20メートルある防壁を静かに降下する。
『ヴェルグ4、探りを入れろ。ソナーヴィジョンだ』
<了解…>
周りに気配すら感じないが、気配を消すのが上手いやつだっている、最初の一歩を間違えて立て直せない戦いだって、存在しないと言える保証はどこにもない。
ヴェルグ4のヘルメットの頭部センサーが赤く光り鈍い衝撃が走る。
ソナーヴィジョンは音波で地形を探る機能だ、地形にそぐわない人型がいれば敵の可能性を疑えるし、敵が攻撃するには良い地形、自分達が有利に戦える地形だって判断できるのだ。
<────反応なし。有利な地形と敵が隠れそうな地形をマークした>
『確認した。ヴェルグチーム、用心しろ常に敵の有利だと思われる地形に意識を向けろよ』
「そんな器用な真似できるか」とヴェルグ6。
彼は最近殉職した前任の交代だ。経験が浅くまだ愚痴を言いそうな状態ではあるが…こちらは8人いる、被らないように銃口をむけるなりで意識をするなど、人数がいれば案外可能であったりする。
着地に成功、8名のヴェルグ隊が大地に降り立った。
燃料の残りはまだ、70%とあるか…砲撃を受けた際に全員勢いよく飛ばしたから当初は60%くらいかと思ったが、補給はもう少し余裕を持って行えるとみた。
『敵はなし…か。ここに1つ目のグリフィン用の補給物資を置け。ここなら、グリフィンの目にもつきやすいだろう』
自分達の共に上空に飛んでいた4機の大きめのドローンがサプライを置いた。
中身は弾薬と防衛戦で役に立つデプロイカバー、手榴弾だ。
『このまま前進する。燃料の補給が必要な奴は?トイレ休憩も構わないぞ一人も…いないか?ならばこのまま前進』
地上に足をつけるときまでは、背は防壁だったが前進すると後ろは壁ではなく通路や建造物へと変わっていく。
後衛のヴェルグ5とヴェルグ7が後ろにライフルを向けて、奇襲に対応できるようにヴェルグ4がチェックしたポイントを重点的に警戒する。
『ここだ』
電子マップがチェックポイントにたどり着いたとアイコンを表示させた。
この位置は巨大な搬入用のエレベーターホールだ。
『スイッチを押せば動きそうだが…』
目的地にたどり着くには、この地下に行く必要がある。
エレベーターを呼ぶスイッチを押せば、エレベーターが下から上がってきて地下へと案内してくれる…が
『ヴェルグ4、再度ソナーヴィジョンだ』
<居たら…気付かれますよ?>
『構わん、やれ』
壁からこのエレベーターホールから3キロ…歩きでも30分はかけた。それなのに先に来たであろう鉄血、ここを守るパラデウス…そのどちらにも接敵していないのは流石におかしい。
では、これはどういう事なのか?それは、ヴェルグ4のソナーヴィジョンの結果で分かるだろう。
<────チッ、生意気な奴らだ。隊長、これがあなたの読みですか?>
ソナーヴィジョンの結果はエレベーターホールで止まる地下の各階の入り口にビッシリと言えるほど鉄血兵が待ち伏せしている結果だった。
『もう少し減っていると思ったがな、どうしても行かせたくないらしい。…奴らに本当の奇襲って奴を見せてやろうじゃないか』
既にソナーヴィジョンの音波でこちらが上にいる事は、相手にも気づかれている。
敵は恐らく警戒体制だ、鉄血兵は今か今かとまた詫びているだろう…もう少し、待っていろすぐに会えるからな。
『段取りはわかってるな?』
『もちろんですよ!────消し飛べっ!!』
開戦の豪砲のように、ヴェルグ6のクトゥグア・ツヴァイのエネルギー砲が地獄の底のような大穴向かって、数発放たれ爆発音がやまびこのように木霊する。
『────いくぞっ!』
あの爆発音はこちらのクトゥグア・ツヴァイの砲撃が着弾した音だ。それを確認したのを合図にヴェルグチームが迷わずエレベーターホールに一斉に"飛び込んだ"。
『見つけたっ…!』
エレベーターホールから飛び降りて、僅か5秒後────最も早く落ちていく、ヴェルグ5の視界にエレベーターの一つ目の階層に当たる出口が見えた。
出口には砲撃から生き残った鉄血兵が見える。
ヴェルグ5は先に構えていたSR-25のスコープを眺める4倍のズームの照準が生き残りの鉄血兵とあと少し重なる────その瞬間に彼女は引き金を引いた。
『遠距離の人形を確認排除します』
SR-25に装填された、6.5グリードモア弾が3発放たれる。最初の階にいた生き残りの鉄血兵の中スコープに捉われたのは5人、ヴェルグ5の放った1発目は生き残りの1人の胸に着弾────直撃だ生き残れない、2発目は首筋こちらも死ななかったしても銃は握れないし、長くは持たない、
最後の3発目────ここらヴェルグ5の高い技量と運か…それとも、6.5クリードモア弾の貫通力に驚愕すべきなのか?いずれにせよ、3発目の弾丸は放たれた弾薬の直線上にいた残り3人を一度に貫通させて排除した。
『閉めた後に待ち伏せでもよかったろうに…まぁ、後の祭りなんだよっ!!』
ヴェルグ5の反対側の入り口に生き残っていた鉄血兵にヴェルグ6が独り言のように詰めの甘さ指摘しながら、指摘対象の鉄血兵に向かってA-545から放たれる5.45×39弾はヴェルークト隊員に対して調整された特別な弾薬だ。
その弾薬の運動エネルギーは1600ジュールを上回り、既存の5.45×39弾の破壊力を大きく凌駕する。
その運動エネルギーで銃そのものの振動を抑える為に採用しているのがA-545、A-762である。
その高い破壊力の弾丸を雨のように放たれのなら、その鉄血兵に生き残るチャンスない凄まじい衝撃と5.45×39弾が発生させる歪な軌道によって、鉄血兵はズタズタに引き裂かれるしかなかった。
『素早くやるぞっ!!』
他にも落下していく、ヴェルグチームの兵士たちに鉄血兵は視線を交わすままなく次々と撃ち殺されいく。
鉄血も無策ではなかった、しかし何度も鉄血と戦って、ある程度のパターンを知っているユーリ・フレーヴェンが襲撃者だったのが不幸だったのだ。
────爆発音が轟いている。
正規軍の装甲列車から放たれる砲弾は必死に積んでいた土嚢を箒ではくように軽々と吹き飛ばして、呆気なく蹂躙する。
障害物に隠れても、爆発の衝撃は人形の素体を内部まで侵食し、配線からのコアまで粉々に粉砕する。
「砲撃を続けろ、もう一基打ち込んでやれ。クオーツ隊、こちらヘマタイト。攻撃命令を発した。20秒後、再度砲撃を開始せよ、15分の火力制圧を行う」
<クオーツ、了解>
無慈悲に繰り返される砲撃に、前線の戦術人形は力の差を実感して恐慌状態に陥いる。別の部隊に通信を試みる戦術人形もいるが、返答はない。
通信が死んでいると思い、機器の不調に苛立つが通信機は故障しておらず、通信を受け取る筈の戦術人形が既に死んでいるから通信が繋がらないのである。
<クオーツより、ヘマタイト。指定地点に到着、目視範囲内には敵の確認できず。スキャンはジャミングにより不能。指示を────>
「こちら、ヘマタイト。敵の待ち伏せに注意しつつ前進せよ」
<クオーツ了解>
列車砲から指示を行う、ヘマタイトの指示でクオーツ隊は前進する。
クオーツ隊────KCCOの中でも対人、対E.L.I.Dとの戦闘経験もある強力な前衛部隊だ。
以前、エゴールらと共にヴェルークトからの指導も受けた事あり、向上心も高い。
「隊長の仇────」
待ち伏せしていた、グリフィンの戦術人形が穴を掘った後の原型すら留めていない塹壕の中から銃口をクオーツの兵士に向け、果敢に飛び出すが戦術人形の引き金を引くよりも前に人形の額に穴を開けた。
「ネズミだ」
「気を抜くなよ、ヴェルークトにも言われた事だ」
「あぁ、そうだな」
────
───
<グリフィン人形の損害は70%、壊滅寸前ね>
ダンデライオンの報告を聞くまでもなく、圧倒的な差だ。
ヴェルークトのカリンカチームとやらも時間稼ぎに協力しているが、焼け石に水だろう。
「クソッタレの軍人ども!!」
さっき、窓を見た瞬間。砲撃に耐えきれず塹壕から出た人形が砲弾に直撃、バラバラになりながら爆炎に燃やされてとても声とは思えない悲惨な叫び声を上げる人形の姿が見えた。
「前線で連絡を取れる部隊は?」
「ほとんどが取れません、防衛戦まで逃げ切れた人形は全体の10%程です…」
「そんな馬鹿な…」
戦闘開始から、10分もしないであれだけいた戦術人形達があっという間に死んでいく…明らかな火力差を前にフォトンは衝撃を覚えていた。
確かにヴェルークトの様な例外は置いておき、戦術人形と人間には大きな開きが存在する。
フォトンはその開きに賭けた。だが、そもそもKCCOとグリフィンには持っている物の数が違う。
例え、装甲列車を拝借して大きさだけ同じに見えたところで、軍には搭載している砲弾の数や軍用人形、弾丸の質、兵器の数に違いがあるのは目に見えて差があった。
その差が今の結果に繋がっている、通信が入る。
生き残りの人形からの通信だと思って通信を繋ぐが────
<グリフィンの指揮官と人形どもに次ぐ、これ以上の戦いは無意味だ。これより、最後通告を言い渡す。お前達に残されたのは降伏だけだ、直ちに武装解除して道を開けろ!!繰り返す────>
「くそがっ!!────切ってくれ!!」
エゴールに取っては手順に則った通告に過ぎないが、KCCOに散々な目に遭わされたグリフィンにとっては侮辱された気持ちである。
「投降しますか?」
「する訳ないだろ」
Ots-14の確認をフォトンは断った、フォトンは難民の出身だ。
軍や政府の都合で生きる場所を失った事がある人間だ、そのフォトンがエゴールからの降伏勧告など絶対に受け取れるものではなかった。
<そう来ないとね、指揮官>
UMP45が通信を入れてきた。
<隔離壁の一部が開いたから、そこに入れるわよ。後、施設内にはKさんという人がいるから、見つけ次第介抱してあげて。>
「カリーナ、列車を起動させる。全ての人形達に撤退の指示を────」
隔離壁の一部が開いたのなら、まだ道はある。
「了解です!」
「この音!砲撃っ!」
笛の音にOts-14は気がついた、
行かせまいと、こちらの装甲列車に向かって砲弾が降り注ぐ。
「マズイ…このままじゃ」
このままでは、列車を動かす前に動力がやられる────
<お困りだな、グリフィンの指揮官>
さらに通信が入る、この通信はカリンカチーム。
「今まで何してたっ!?サボってたのか!?」
<悪口だけは一人前だな、こんな状況で言えるだけ評価してやるよ。いい報告だ、装甲列車のエネルギー供給を一部断ってやった。これで相手さんの砲撃頻度が下がる>
本当だ、先ほどまで降り続ける砲撃音の頻度が極端に落ちている。
「お前ら…!」
<俺たちはここまでだ。悪いな、ユーリ……あとは任せるぜ。また、全部押し付けてちまった>
直後、カリンカチームの無線は途切れてしまった。
人形達がカリーナの通信を受けて、あるものは最後のチャンスと言わんばかりに必死に撤退の地点まで必死に走り。
ある物は死を覚悟した撤退の援護を────
「指揮官!生き残りのリストです!」
「グローザ!生き残った、人形はそれで全員か?」
「えぇ、あと30秒で全員が乗車するわ」
「この時間を唯意義に使おう、AR小隊に通信を」
カリーナがAR小隊に通信を繋いだ。
<フォトンどうしました?>
「施設内には入れたか?」
<ええなんとか…それより!指揮官、急いでそこから離れてください。施設内にKCCOが入った痕跡があります、沿岸砲を奪取しようとしているのかも…>
沿岸砲でこの列車を粉々にするつもりだな?
なら、その前にこの列車を有効に使う!
「そうか…なら、急がないとなKCCO!カリーナ、人形達が列車に乗り終わったら対ショック姿勢を指示だ!!」
列車の動力が上がり、列車が進み出す。
「続いて、敵部隊に向かって砲弾を全て発射だ!!」
砲弾が飛んでいき、爆炎が上がる。あれで、奴らの何人かが吹き飛んだと考えればこちらも多少は溜飲も下がる
「前任者はなかなか、気に入らないやつだったけど、あなた好きになれそうよ。指揮官」
「お褒めに預かり光栄────最後の虫を踏み潰すにも労力が掛かることを思い知れ────!!!」
加速した列車が、ブレーキによって押さえつけられエンジンを突き動かされ、絶えず身を震わせる。
ダンデライオンの操作によって、エンジンが強引に稼働し続けられオーバーロードを起こしている。
列車の先頭から大量の蒸気が膨れ上がり、振動の勢いが増していく。
続いて、歪な音をブレーキがねじ曲がる、車輪の下に火花を散らせて、減速しないまま前方の基地に飛び出す。
列車が凄まじい速度で列車から飛び出したのだ、脱線したまま大地を横滑りしてちょうど開いている基地の壁面の間にその見を打ちつける。
まるで、その姿はフォトンの意思と決心を象徴するかの様に。
「なんの音?」
フォトン達の乗っていた装甲列車が衝突した衝撃は基地の内部まで浸透していた、埃、砂のような塵も、勢いよく舞う。
「マジかよ!?」
「おお、フォトンさん… 」
「あの指揮官がやったって?まぁ、質量考えれば…それもそうか」
基地の中に侵入し、沿岸砲を目指すM4も衝撃を感じていた。
「とにかく先を急ぎましょう」
走行列車がぶつかったと言う事は、列車がレールの外に出たと言うことで…レールの外に出た列車は動くことができない。だとしたら、その中にいる人形も指揮官も列車の外に出るまで動けない。
「先行する、あなた達は後から来て」
「あぁ、奴らに取られんなよ!」
動けない列車に向かって、沿岸砲を使われたらひとたまりもない。M4A1は取り付けているブースターを起動させて沿岸砲の内部に侵入する。
「くそッ!人形ごときがっ!!」
M4A1を見つけた、KCCOの兵士がAN-94を発砲する。
『2発…!』
AN-94は最初の2発だけ、1800レートの高レートだがその後は600レートまでレートが落ちる。
最初の2発を避ければ、ブースターを使っているこちらのものだった。ヴェルークトの様にアクロバッティックには行かないがそれでも、空中で奇怪な動きのまま銃弾を避け、そのままKCCOの兵士に銃弾を撃ち込む。
「────カッ…!」
兵士が地面に倒れた、沿岸砲の制御はこの部屋の最上階だ。
『邪魔をするならっ!!────RO、状況は!?』
<こちら、Rチーム。2名撃退、兵士の数は多くないですが…気をつけて、こちらも1人やられました!!>
『誰が?メンタルを回収するわ!』
<メンタルの回収は結構です。こちらでメンタルは融解処理してますから>
そうだったと、M4A1は思い出す。A(アサルト)R(レイド)部隊…殺されたら、メンタルそのものを製造記録ごと消去する部隊だという事を
<4人に抜けられています!気をつけて!!>
『4人…了解!!』
先に辿り着こうとしているのは4人か…
<2人、あなたの側面に回る気ね。あなたの装備が把握しているからこそしている行動よ。用心して>
ダンデライオンの話が正しいなら、さっきの兵士を倒すとき起動したブースターの音を聞かれたのだろう、相手も用心を研ぎ澄ませているに違いない。
『…!』
M4A1が頭を下げるとそのすぐ後ろに弾痕が形成された。弾丸を避けたとわかると、移動する足音が微かに聞こえた。
『この動き…手強い奴…!!』
この足音が最適化された素体かつ、ヴェルークトから譲り受けた装備でさらに集音性が上昇して微かに聞こえたというのは彼女の危機感を最大まで引き立てる。
「────むん!!」
通常だったら死角になる位置で兵士が突然現れると銃弾ではなく、ナイフを突き出してくる。
『────!!』
反応が遅れたが、攻撃を受ける前に銃撃を食らわせてやる事に成功────危なかった…バイザーのセンサー機能が360度の視界を与えてくれなかったら、確実に一撃もらっていた。
「────!!」
『────くっ!』
なんと、ナイフの兵士が倒れた…次の瞬間に、もう1人がさらに死角から銃撃を放ったのだ。
なんというチームプレイ…シールドがオートで発動していなかったら頭かそれを守るために差し出した手が貫かれていただろう。
「隊長!!」
一番最初に追い付いた、MCXが.300BLK弾でM4A1を撃っていた兵士を側面から倒す。
『ごめん!ありがとう!』
「それより早く!!」
『了解!!』
再び、ブースター起動させて、残り2人を追う。
<急いで、1人は制御室にたどり着こうとしている>
『────でしょうね!!』
戦闘した時間にして、15秒。
あっという間の戦闘だが、それでも彼らに辿り着くには十分な時間を与えてしまった。
気づかれる事を承知でもう一度、ブースターを起動して一気に加速。スポーツカーの全速力様なスピードで制御室に向かう、兵士達を追いかける。
『────そこっ!!』
制御室に向かう兵士が見える。その兵士に銃口を向けようとした時、曲がり角からもう1人の兵士がナイフで奇襲を仕掛ける。
『流石に慣れたわよ!!』
M4A1は既にブレードを抜いていた、奇襲を仕掛けてきた兵士のナイフを素早く切り裂いた。
『…!』
このまま、ブレードで切り裂けば兵士をそのまま倒せる…だが、昨日E.L.I.Dを切り裂いた時のおぞましい感触がM4A1の手の中にまだ残っていた。
『────ううっ!!』
逡巡している時間はない、たとえブレードで人の身体を切り裂くことに抵抗を感じても引き金を引く手は迷わない。
自分のエゴである事を理解しつつ、M4A1は空中で宙返りする様に回転して距離を取るとライフルを向けて、引き金を引いた。
時間を使ってしまった、リロードする時間も惜しい。M4A1はそのまま加速して、再度最後の1人を追いかける。
制御室のある方に加速するが、兵士の姿見当たらない。何処に消えたのか、探るためにレーダー働かせる為に、一瞬だけ動きを止めた次の瞬間────
『────この装備!?』
なんと、ヴェルークトの隊員が纏っている装備と少し似ている装備を身につけた兵士がM4A1に襲いかかる。
『このっ…!!』
兵士が突き付けてるブレードを抑えるため、こちらも片手に持っていたブレードを押しつけて鍔迫り合いが起きる。
『カッ…!まだまだ!!』
『人形達がその装備を使うかっ!!』
空中でバランスを取りながら発生する鍔迫り合いは互いの神経を大きく削りあう。
スピードが出ている間は、スピードがでているので姿勢が崩れにくい、たが…スピードが出ておらず滞空している際はその姿勢の維持に人形ですら、かなりの神経を使う。
その神経+鍔迫り合いに負けないように力のバランスにも気を使う必要がある。
『その声は!?』
M4A1は聞こえた声に耳を疑わせた。
今聞こえた兵士の声、それは公聴会のゴタゴタで一緒に戦った……兵士クオーツの声だったのだ。
『────クッ!!』
鍔迫り合いを先に根を挙げたのは、M4の方だった。
とは言っても、追い付いたわけではないが下の階層からM4と最後の1人の兵士を視認した、SOPⅡ達のA部隊が援護射撃に入ってくれたのでこちらから邪魔にならないように退いたいうのが理由でもある。
『人類を舐めるなっ!人形!!』
兵士が銃撃を避けて、M4を追いかけた。
『あなた、クオーツさんでしょ!?公聴会で一緒に戦った!!』
『お前か……!』
クオーツも覚えていたらしい。だったら、尚更だ。
あの時、共に戦った人形を背中から撃つなんて!
……彼も私と同じように本当に必要なものの為なら味方でも撃てるタイプなのだろうか。
『なぜこんなことを!』
『祖国の裏切りに与していながらそのような疑問をするとはな!』
加速して、M4を追いかける。
腐っても部隊の分隊長だ、しかも過去にはヴェルークトの隊員に鍛えられたこともある、正真正銘の"強者"でもあった。
『裏切り者?』
『哀れな。それだけの強さがありながら雇い主に何も聞かされてないとはな!』
分隊長はM4A1が逃げ込むように、曲がった先のアルミ合板の影に隠れたのを見て、最初の銃撃を開始。
『────徹甲弾…!!』
『お前たち人形は裏でどれだけ祖国を辱めておきながら恨み言を口にする!復讐したいのは俺たちの方だ!!』
初めから、嫌な予感がしたM4A1は合板の後ろでシールドを発動させていた。
予感は的中、すり抜けた合板から弾丸が飛び出しシールドに弾かれる。
『辱める!?誰がよ!?知ってるなら────』
『────フンッ!!!』
『マズイっ!!』
シールドで弾いたのをあらかじめ予測したのか、分隊長が自分の側面に飛び出してきた、驚きつつもM4A1は瞬時に身体を傾倒させて、空中でぐるりと回転して追撃の弾丸を避ける。
M4A1は素早くその場から、再び離れる。
『(4時の方向…)』
追撃のために放った銃声でM4A1は分隊長の位置を把握すると、ブースターの出力を極力抑えて、静音に努めた。
『(あっちもか…)』
互いに奪われたら、戦術的戦況は変動する"沿岸砲"を奪うために焦りを感じつつもヘマを起こしたら相手に先制される。
その事を互いに理解していた、だからこそ互いに慎重に相手の失敗を誘う。
『(……かなり強い。強気で思い切りもいい、さらに正確……でも隠れているのなら先に行けるチャンスでもあるわね)』
ROやSOPⅡ、R5達を待ってもいいが……多分彼女達じゃあの兵士を倒すために犠牲を出す。
『よし、やってやるわ!』
M4A1はブースターをいつでも起動させるようにした後、分隊長が居るであろう箇所に牽制射撃をしつつ、制御室に直進した。
『ほう…』
分隊長はM4A1の意図を察すると、AN-94による連続射撃を敢行する。
2発撃って600レートに下がるなら…2発で一旦撃つのをやめて、もう一度1800レートに放てる状態に戻すのを素早く繰り返せばいい…俗に言う、指切り射撃だ。
『────やっぱり上手い…!』
『死ね!ロクサットの手先!』
敵ながら、天晴れだと言わざる得ない。M4A1は分隊長の来歴を知らないがもし、知っていたのならM4A1は初めから捨て身覚悟の攻撃を仕掛けていただろう。
『ロクサット?』
ロクサットの名前?ロクサット主義のこと?でも、あの主義は……いやそれよりも沿岸砲の制御室まで、また鼻の先だ。
だが、焦って制御室に向かえばその瞬間に死ぬ────それを互いに理解している2人は気づいていた。
「コイツをなんとかしないと制御室には行けない」と
『ヴェルークトもお前が誘惑して操ったか?』
『私は淫売なんかじゃない!!────!?グレネード!?』
会話に夢中になり投げ込まれた、グレネードに気がつくのが少し遅れた。
そのせいでM4A1は通路に飛び出ざる得ない。
『────!?』
分隊長がブレードを構えて、M4A1に突撃する。
『やぁああああっ!!!!』
M4A1も腹を括り、分隊長と同じ構えでブレードを構えると彼に向かって突撃する。
双方の距離はどんどん狭まっていく、こうやって構えて近づいている以上は人間と人形の差は全く出ない。
そもそも、M4A1が腹を括って突撃したのはグレネードで体制を崩したまま突撃されたからだ、避けようとしても加速差で突き刺されるし、撃とうとしてもあの装備の機動性で避けられる。
M4A1は不本意ながらも同じ土俵に立たされたのだ。
2人のブレードが互いの身体を貫き、そして────
『ぐ…ググ…!』
『うっ…ガハッ…!!』
2人の闘いに勝敗がついた。
沿岸砲のコントロールを得るための、制御室をかけた戦いは、2人のブレードが互いの身体を貫き、そして
『ぐ…ググ…!』
『うっ…ガハッ…!!』
2人の闘いに勝敗がついた。
M4A1はクオーツによって腹をくじ刺しにされてブレードの痛みに苦悶の声をあげていたが…M4A1のブレードは分隊長が身に纏っていた強化装備の駆動系を貫いていた。
『き、貴様…!』
『────はぁっ…!はぁ…!はぁっ…!』
互いに突き刺された、ブレードとから手を離して後ずさる。
M4A1は突き刺されたブレードの痛みに耐えきれず、分隊長はブースターと駆動系から得られるパワーがみるみる減っていることに少なからず動揺して。
『────ウオオオオオオっ!!!』
『────ウワアアアアアっ!!!』
分隊長とM4、互いに10メートルもない超至近距離、互いに今すぐ手に届くサイドアームを引き抜き、照準も定まらない射撃で撃ち合った。
『あっ…いたっ……!ふぅ……はぁ……!
分隊長のPL-15の9ミリは3発全弾がM4A1に命中したが、防弾用の素体少し抉っただけだった。
M4A1が引き抜いたRuger57は3発の内たったの1発しか、分隊長に命中しなかったが…
『────!!??』
だが、1発で良かった。
Ruger57で使用する5.7×28ミリ弾は高い貫通性能を誇る、その弾薬は分隊長のアーマーも例外なく貫通して、アーマーの割れ目から血が流れるのを確認した。
『────人形め!!』
『────っ!?────ガッアアア!?』
痛みに悶えつつも、分隊長がお返しと言わんばかりにM4A1突き刺されたブレードの底部を力一杯に蹴り、ブレードをさらに突き刺した。
煮えたぎるような痛みに、M4A1は唸り声の様な叫び声を上げた。
『────クソ…!!』
分隊長が錘に成り果てた装備を背負うように無理矢理立ち上がると、彼は「弾薬庫」と書かれた部屋まで駆け込んだ。
『────このっ…!!』
M4A1は自分に突き刺されたブレードのグリップを握ると力任せに思いっきり引き抜く。
『────ううっ!?アアアアアアアアアアっ!!??────ふうっ…!?…ふぅっ!?…はぁ…はぁ…!』
視界がまともな色を提供せず、現像に失敗した写真のように不気味な景色に見える。
それでも、必死になってM4A1はブレードを引き抜いて見せた、引き抜きが終わると視界に映る、不気味な景色も徐々にまともな視界に戻っている。
『────あの野郎……!逃げたの?────いや…違うっ!』
姿が見えないので逃げたのかと思ったが、スモークが飛んできたのでまだ、分隊長との戦いは終わってない事を理解した。
『(ここでスモーク?何のつもり…?)』
ここまでしてくる相手だ、M4A1が戦術人形である以上、暗視用の機能を持っていることは想定しているはず…不思議に思いながらも暗視用のサーマル機能で視界を確保。
『────!』
M4A1が飛来する、ガソリン缶を視認して蹴り返す────それが、彼女の失敗だった。
撃ってしまうと引火するかもしれない、だからガソリン缶を蹴ることを考えた…しかし、蹴ったガソリン缶からガソリンが漏れてM4A1にかかる、その次の瞬間────!
『この音は閃光────』
ガソリン缶に予め仕込まれていた、閃光手榴弾の一瞬で発生した発火による、引火はM4A1を炎の渦に閉じ込めて、100万カンデラ以上の閃光はサーマルシステムを"壊し"彼女の視界は焼き尽くされる。
『────あ…がっ…!?…ガァアアアアア!!』
包み込む炎はM4A1を包み込み、苦しみに満ちた醜い声をあげさせる。
『…己の肉体を過信したな…戦術人形!!性能に依存した人形如きが人間に勝てないと知れ!!お前はやはり……淫売のメスブタだ!』
『────!ま、まテ…!マてェ…!』
自分すらも焼き尽くす可能性がある行為を迷わず行った。
分隊長の思い切りの良さと諦めない胆力はM4A1を翻弄させた。
目も見えず、音も聞こえず、匂いも炎に掻き消されて、おぼつかない動きでM4A1は足掻くようにライフルを振り回すように撃ちまくるが、その分隊長は既に分隊長は部屋を出て、一目散に制御室に向かって走り出している。
『────間に合えよっ…!』
分隊長は唯一の隙間とも言える、制御室に飛び込むため防弾や火炎を防ぐために身につけた強化装備を脱ぎ捨てる。
流れる流血が、強化装備にも染みており軍装だけではなく、脱ぎ捨てられた走行すら赤く染めていた。
────その上、分隊長が身につけていた強化装備はヴェルークトの対コーラップス液の耐性に優れていた強化装備と同様の体制を持つ。
何故なら────KCCOはヴェルークト…いや、彼らの大元である外務省との交流が深い組織でもある、分隊長が身にまとう強化装備も外務省から提供されたデータから完成させたものだ。
パデルスィキ潜水艦基地は、レッドゾーン…即ち死の世界だ。そのレッドゾーンの世界の中で彼は死から守ってくれる装備を迷いなく捨て死にながら走っているのだ。
「アース、こちらクオーツ…目的地に到着。…アース。大尉…時間がない、射撃諸元を早く教えて頂きたい…」
既にコーラップス液のケイ素化が始まり、結晶のように分隊長の身体を蝕んでいる。彼は、もう自分の体の寿命が短い事を理解していた。
それに…自分と対峙したM4A1────明らかに装備の使い方は乱暴極まりなく、燃料管理は素人以下、おまけに人体を斬る事に躊躇いを覚えている…その上、誰に操られているのかすらわかってない。
だが、判断能力と反射性能は普通の人形のそれを凌駕している事を、理解していた。
分隊長はM4A1が必ずここに来る事を確信していた。
先制して、沿岸砲を撃てる今こそが唯一のチャンスである事を理解していた。
「やっとうごいたな……!」
分隊長はコンソールを起動させる。
この基地がアップデートされていなかったと思うとゾッとする感覚を覚えて、人類の進歩に感謝せずにはいられない。
重たげな歯車の音が機械から伝わり、沿岸砲は発射角度を調整している。
自動装填砲がレーザーではなく重たげな実弾の砲弾を装填する。
あとは、安全装置の制御レバーをはずすだけだ。
その時、重たげな足音が制御した方から聞こえた。
急いで分隊長は制御室の扉を閉めようとするが────
『くっ…おぉ……!つぅ……!!』
閉まろうとした扉より、強い力で抑えつけて、強引に扉を開く…
『────ハアッ…ハアッ…!!』
血反吐を吐き、炎で身体は所々が焼けて、ブースターは駆動系は無事だがあちこちから火を吹いている。
M4A1が身につけていたバイザーを投げ捨てる、炎と閃光で使い物にならなくなったからだ。
投げ捨てられたバイザーが分隊長が先ほどまで被っていたヘルメットとぶつかりガンッ、と小さく音を立てる。
『────死ねっ……!』
ライフルは弾切れ。Ruger57は炎で燃え使い物にならない。
唯一残ったサイドアームであり、M4A1が最も大切に扱う宝物"FNX-45"を震える手でレッグホルスターから引き抜いて朦朧とする意識の中、必死にダットサイトのお陰で短縮された照準を合わせて、分隊長に向かって引き金を引く。
「「(しぶとい…!)」」
分隊長は必死に引き金を引こうとするM4A1に向かって、
M4A1は45口径の弾丸を当てて居るのに動きが衰えることのない、分隊長に────
「────!」
人形の照準と射撃はミリ単位で行われる、炎で燃やされようかそこに例外ない。
「(止まらない…!?)」
「(頭を狙うべきだったな、リスクを恐れる人形め…だから、人間には勝てない)」
なのに、安全装置を動かす手は全く止まらない。
ここで、M4A1は一つミスをした。
もう、分隊長の体はコーラップス液によってケイ素化が始まっている。
レバーを動かすのを止めようと、右手、右腕、右肩に向かって発砲したがケイ素化した、肉体に弾かれてしまう。
結果論ではあるが、確実に命奪う為に頭を狙うべきだった。
M4A1は何故、狙わないのか?
それは、着弾の衝撃で分隊長がレバーを倒してしまう可能性が僅かにあると自分自身の演算が導きだしたから。
潜在的にリスクを恐れたM4A1は頭を狙うのを躊躇した、そのミスが大きく響いたのは言うまでもない。
「大尉…後は、頼みます…」
E.L.I.Dを倒す術を身につけるべく望んで研修を申し出る者もいた、分隊長もその1人だ。
研修を申し出るまでは、分隊長も頻発する軍隊内のいじめから一時的にでも逃れようとする、弱い立場の男だった。
だが、ユーリ・フレーヴェンという男に出会い、彼は変革していった。
彼は分隊長の身の上話を嫌な顔一つせず聞いてくれて、
それでいて彼に期待してくれて、1人の人間として扱ってくれて生まれ変わった。
「フレーヴェン"中尉"…!俺…やりましたよ…、最後まで…諦めません…でした」
もし…このような対立がなければ、彼らはユーリの話で盛り上がるような仲のいいエピソードがあったかも知らない。
「────クソがっ!!」
だが、そんな日はこの世界では来なかった。
M4A1が痺れを切らして、分隊長の頭を撃ち抜いた。
だが、もう全てが遅い…分隊長は既に安全装置のレバーを倒していて、沿岸砲が発射された────
────
───
燃える音が聞こえる。フォトンは真っ暗なままの視界で自分が炎の中にいると理解した。
────指揮官…!よかった、ハンカチです…煙を吸わないで。
突然、水で濡らされたハンカチを口に当てられる、冷たい感覚はしないが気分が楽になる…
「一体何が…?」
確か、潜水艦基地の外壁に列車を差し込んで────
「沿岸砲が…着弾したらしいです」
引きずられていく感覚を覚える。
だんだんと、炙られるような炎の熱の苦しさが徐々に感覚が戻って来た事を理解させる。
「…君は?」
「私は1人の戦術人形です。それよりも、ここに火が回るまでに逃げないと…」
まだ視界は真っ暗だが、体に大きな怪我は無いようだ…
「3つ数えた後に立たせます、1‥2…!!
「────!?」
2の瞬間にフォトンは立ち上がらされた。
フォトンは立ち上がると一歩ずつ慎重、かつ迅速に進んでいく。
「────よし、ここなら。投げ落としても受け止めてくれる…!」
「────お前はどうするつもりだ…」
投げ落とすということは、この列車から投げ落とした人形も自分で飛び降りるか、取り残されるということだ。
「他の生き残りを探すだけです…」
「待て、お前は誰なんだ?名前を言え!」
「ただのしがない人形です。────誰か!!指揮官が落とす!!受け取めて!」
彼女はフォトンを投げ落とした。
フォトンは浮遊感を感じつつ下へと落ちていき…数瞬後、幾つもの腕が私を受け止め、素早く運ばれていった。
フォトンが先程までいた箇所から、凄まじい爆発音が立て続けに起こった。
「指揮官さま!!」
カリーナの声が聞こえた。
「…怪我は?」
「私は無事です。もしかして目が…?」
「少しずつ見えて来てるが…まだ、ぼやけてて…」
「すぐに応急処置を…」
グローザがやってきて、手慣れた手付きで救急箱を開き、フォトンに応急手当てを実行する。
「俺を助けた人形がいた…助けた人形は誰なんだ?」
カリーナは無言のまま震える手で応急処置を始め、徐々にぼんやりとした聴覚でもわかるほど、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
「…カリーナ?グローザ?」
「MCXさんの報告だと…列車は沿岸砲の直撃を受けて…完全に破壊されました…!その衝撃波が私たちのいる隔離壁内部にまで入ってきて、あちこちで火災が…!私はすぐに脱出したので、無事でしたが…!!貴方が瓦礫の中に埋もれてしまって…!!その後、何人もの人形が炎の中へ救出に向かったんです…!でもみんな…!!」
常に明るく前向きだったカリーナの声が今では、絶望したような悲哀のものに変わる。フォトンは答えることが出来なかった。
「…治療が終わりました。指揮官様、ゆっくり目を開いて下さい…」
グローザの言うとおり、フォトンは瞑った目を開けた……
どうやらフォトン達は基地内の空き地におり、生き残りの人形達が集っている。
どの人形にも銃創、あるいは火傷による負傷があった。
来たるべき結末を感じ取っているのか、どの人形も途方にくれ、あるものは勝てるわけのない相手に挑んで後悔している表情。
あるものは絶望から来る、諦めの表情でフォトンを見つめており、誰も彼もが喋る気力すらなかった。
カリーナもその例外ではない。
「…ダンデライオンは?」
「…生きてます、通信しますか?」
「繋いでくれ…聞こえるか。状況はどうなっている?」
<現在、人形部隊の残存戦力は5%、まだ戦い続けるつもり?>
「…他に選択肢が無い。だが、事前に用意していた作戦は全て使い果たした。ダンドリー、新たな策は無いか?」
<確率は1%未満に過ぎないけど…>
あるだけマシだ。
「沿岸砲の砲撃により装甲列車は破壊された。……こっちが突撃したのを逆に利用して狙い撃ちしたんだな。けど、アリージェンスの後続が砲台のコントロールルームは占領をしてるわ。軍も制圧を試みるけど…それまでの間は砲撃可能よ、敵列車の座標さえ特定も特定している、外務省が提供したデータに間違いがなければ反撃することができる、という事」
「カリーナ…アリージェンスの誰でもいい、すぐに列車に砲撃することを指示するんだ…」
「────!あ、はいっ!!」
カリーナが壊れた列車の中からまだ動かせる、ロングレンジの通信機を漁り出す。
<問題は列車に砲撃している間…あなた達は無防備になる。そして、列車が破壊し尽くされるまでの間にあなた達が全滅しない可能性が1%未満ということよ>
それが1%未満の所以か。
「ヴェルークトのカリンカチームは?妨害して貰うように要請を────」
<カリンカチームは全員が死亡したわ。あなたがこの列車から逃げられるように時間稼ぎを敢行してね。列車の位置も彼らが提供してくれた。彼らが残した軍用人形が今もあなた達を守ろうとしている────>
バン!と雷のみたいなつんざくような音が聞こえる────外務省の重装戦術兵器"テイラー"の発射したレールガンがプラズマを帯びた、軌道を作るのが見えた。
<テイラーはそっちの操作を受け付けている。現在生き残っている人形のマインドマップリを再度バックアップしたわ。私はルニシアの援護に向かう。指揮官様、幸運を>
────
───
『ヴェルグ2!左!!』
『────了解!!』
その頃、ユーリたちヴェルークトのヴェルグチームは先行して基地の侵攻ルートを切り開いていた。
レーザーの光が見えたので、回避────そこから、位置を把握したヴェルグ2が上空から弾薬を降らせる。
『ヴェルグ1!クトゥグア使用!!』
『ヴェルグ2!!クトゥグア使用!!』
付け根を狙ったクトゥグアの砲撃で鉄血兵の足場が崩落、
下の階にいた、鉄血人形が哀れにも下敷きになる。
『────邪魔するんじゃねえよ!!』
『────鉄屑になっちまえ!!』
レーザーを初期照射していた、鉄血のスナイパーをヴェルグ6とヴェルグ7がプルパップ仕様のPKPとAK-104の強力な一撃を喰らわせて、鉄血兵士の体を撃ち砕いた。
『どこまで侵入したら気が済みやがる!!』
『全員仕留めるわよ!!』
どんどん地下に降りていく、ヴェルグチームの隊員達。
なんとしても阻止しようと、鉄血兵士の人形達がハリネズミの如く刺々しい攻撃を仕掛けてくる。
『ヴェルグ4!一番敵の数が少ないのはっ!?』
<E3格納庫です!!>
『成る程…』
この瞬間、ヴェルグ4からの報告でE3格納庫の位置を把握した。
ヴェルグ1は鉄血兵士がどう言う状況かある程度、予想をつけた。
『ヴェルグ3、5、6!!E3だ!!他は俺とついてこい!最下層にいくぞ!!』
『『『『────了解!!』』』』
『3、5、6以外はE4手前5mで反転起動。下と上で挟み込む!』
ヴェルグ3、5、6意外のヴェルグチームの隊員が一気に加速をかけて地下に飛び込むように落ちていく。
『────!!』
目的の階を通り過ぎて、その一つ下の階の5m上空を目安にブースターの向きを逆方向に変えて噴射────
一瞬だけ止まった、隊員達が今度は上空に吸い上げられるように飛んでいく。
『────撃てっ!!』
ユーリの指示で下から、クトゥグアツヴァイの砲撃が発射された、E3の階に僅かに展開された鉄血兵が足場を崩されて気を取られる。
その気を取られた隙に、上にいたヴェルグ3のプルパップPKP、ヴェルグ5のSR-25、ヴェルグ6のプルパップPKPの弾薬が降り注ぎ、鉄血兵を血の海に沈める。
『────いまだ!飛び込め!』
ヴェルグ1の指示で、ヴェルグチームの隊員達が一斉にE3に繋がるシャフトから通路に向かって通路に飛び込んでいく。
ヴェルグチーム全員が通路に入ったのと同時に下からの砲撃で脆くなったE3のシャフトが崩れ落ち、下の回にいた鉄血人形達は崩れ落ちた崩れ落ちたシャフトの下敷きになる。
『……よし、撒いたな』
『E3にいないという事は、奴ら"めぼしい物"を見つけられなかったようですね』
『…ああ、そうらしい』
鉄血の追撃するためのエレベーター状のルートを破壊された以上、彼女達は階段を利用してE3に来るかもともとE3の階にいた部隊を仕向ける必要がある。
前者は時間がかかる事、後者はそこに割いていた兵員が少ないことを考えるとどちらであってもヴェルグチームにとっては幸運なことである。
『ブースター切っとけよ、ヴェルグ6。天井にぶつかるからな』
『分かってますよ、先輩』
『────静かに…!…いるぞ』
ヴェルグ1が「待て」と合図した瞬間、レーザー弾が曲がり角に着弾した。
鉄血の待ち伏せか?
ヴェルグ1は曲がり角から少し離れると、A-545の照準をバイザーの機能である、特殊な音波で障害物に隠れている敵を炙り出すスキャナーサを起動させて、曲がり角に向かって撃ってくる鉄血兵士を視認────
そのまま壁越しからの銃撃で仕留めた。
『1人倒した、残りは…隠れたな』
『────私が行きます。援護を』
ヴェルグ8がA-545を構える。
壁越しから、攻撃されたのを理解したらしく鉄血兵がさらに障害物の"厚み"で凌ぐため、後ろに下がる。
『ヴェルグ3、火力支援』
『了解、任せな』
『…光学迷彩起動』
ヴェルグ8が離れた瞬間に曲がり角を飛び出して通路の右に張り付き、光学迷彩起動────それを確認した、ヴェルグ3がヴェルグ8に当てないよう制圧射撃。
鉄血兵が動けない間に、ヴェルグ8が残りの鉄血兵が隠れている次の曲がり角に辿り着きそうになるのを見て、ヴェルグ3は援護射撃を中断。
素早く反撃しようとした鉄血兵が曲がり角から銃を向けようとした瞬間────
「────!?」
その鉄血兵の腕が吹き飛び、悲鳴が上がる。
「────!!」
「────!?────!!」
しばらく悲鳴が続いたが、徐々にその悲鳴が止まっていく。
『全員倒した、通れます』
悲鳴も止みヴェルグ8が報告をして再度通路を進んでいく。
『────了解。ダンデライオンから…連絡が入った。グリフィンは残り5%、基地内に撤退するらしい』
『…グリフィンの面子も少なくなったな。カリンカはどうしてる?』
『────殲滅された。軍用人形の数も残り僅からしい』
『そうか…また、大勢が逝ってしまったな。隊長』
ヴェルグ3が哀愁のような言葉をヴェルグ1にかける。
『そうだな、せめてカリンカ…いや、俺たちの役目は絶対に達成しよう』
ヴェルグ1が頷き、行き止まりだと思われた通路に特殊な赤外線レーザーを照射すると通路を行き止まりにしていた壁が上へ上へと上がっていく。
『ようやく会えたな…』
壁の中を進んでいくと、一行は巨大な基地のような部屋にたどり着いた。
部屋の中は如何にも「最重要」と言えるような見たこともない培養液やシステム、機械で満ち溢れていた。
ヴェルークトがパデルスィキに行くのもこの施設にたどり着くための口実だ。このパデルスィキ潜水艦基地は遺跡兵器と呼ばれる禁忌の兵器を動かすための制御装置だけではなく、禁忌の廃棄すら保管されていたのだ。
『コイツか、"バラクーダ"は』
全長は8mあるかないか、それほど巨大な生物のような"兵器"が培養液に見える液体に漬けられている。
控えめに言わせて貰えばかなり醜怪な見た目であるとヴェルグ1は1秒と経たずに嫌悪感を覚えた。
『直で見るのは初めてだ…まぁ、すぐに見なくなるが…"ヴォイド"を仕掛けろ』
隊員達が異形の生物ような兵器に見たことのない装置を取り付けた。
どうやら、その装置は"バラクーダ"と呼ばれる兵器を漬けている液体と連動しているようにも見える。
『設置完了────』
『よし…起動する』
ヴェルグ1が装置を起動させるスイッチを押した。
すると、兵器が徐々に粒子になっていくと思いきや粒子が液体へと形を変えていく…
その身体が怪物の形からドロドロの蜂蜜のように粘りついた液体となって…
兵器を漬けていた液体と混ざり合うとともに消化されるように気化されていき…その液体を入れていた巨大な容器の中身は空となる。
『…ようやく、一つ片付いたな。ここまで来るのに…随分かかった』
『あぁ…ここまで来るのに知り合いが、大勢が死んだ』
ヴェルグ2の独白にヴェルグ1が答えて、容器を一瞥するとスイッチを仕舞うと今度はこの部屋の爆破処理にかかる。
『……そしてこれからもだ。"あの方"に連絡しないとな』
『報告を聞いたら"あの方"、きっと喜ぶぞ。なんせ、ずっと"遺跡兵器"を消したがったっていたからな』
『ヴェルグ1から、"アドミニストレーター"。"使用人は用済みにした"』
ヴェルグ1が"あの方"と呼びだすときに使用するコードネーム"アドミニストレーター"を使用して、目的の達成を意味する"使用人は用済みにした"と報告する。
<流石よの、私の予想を超えておる。心配するな回収は手配しておる。遅れるなよ>
子供のような声をしているが、それでも聞く相手が一兵卒なら顔すら見ないで一瞬で気圧されるような迫力ある声が音声も加工されずにユーリの通信機に帰ってくる。
そして、任務完了したことヴェルグチームを称えて、脱出の手筈が来ることを伝えた。
『それと…カリンカチームは殲滅。全員がグリフィン援護の為に戦死しました。"アドミニストレーター"…我々にグリフィンの救援の許可を下さい』
<────カリンカ…そうか、また私の子供達が…良い。許す、子供達よ。回収はグリフィンの人形や指揮官も含めてやる。だが、そのかわりにお主にだけ、もう一つ司令を言い渡す>
『…はい、内容は?』
"あの方"はどこか悲しさを含んだ声を混ぜながら、ユーリに指令を命ずる────
<"M4A1"…いや、お主が名付けたレイラをなんとしても救え。会いたくなった。それがグリフィンを救ってやる条件だ>