「ヴィシャス…?暴れ馬ってこと?」
ヴィシャスと呼ばれた戦術人形にAK-12は訝しむ、そんな戦術人形が外務省に配備されたなんて、聞いた覚えがない。
AK-15も同じことを思っているようだった。
「クフフ…アあ、その通りさ。潜水艦はまあだ、発艦してないっすかね?ヴェルグ5?」
『置いてくって、言われてないからまだなんじゃない?ヴェルグ3?そっちは?』
<こっちはアリアと合流した、気を付けな。グリフィンがこの基地に風穴を開けやがった、ここはハイドロがゴロゴロ押し寄せる満員電車だぜ>
フォトンたちが爆発させた、バルブから水が押し寄せる音が聞こえ、それが大きくなる。
『すまない!待たせた!』
「パパ……ああ、よかった」
AK-12達の元にユーリが現れて、AK-12は安堵の声をあげる。
なぜが、排水口から現れたのは聞かないでおこう。
『待ってくれたところ申し訳ないが、すぐに潜水艦に行こう!軍の教材ムービーで、海に沖に流された人間の末路を観たことがある…流されたら、最後…陸に戻るのは至難の業だぞ』
ユーリの発言から、一同が我先にと潜水艦停泊所まで走り出すまでさほど時間はかからなかった。
『急げ!あんまり時間はないぞ!』
「わかってる!」
ユーリたちが一心不乱に潜水艦停泊所に向かい、時間はあまりがない…だが、潜水艦停泊所はすぐそこだ。
「保安局の奴ら、警告したのに潜水艦基地事爆破しようとするなんてなあ!!人の話は聞いてくれってんだ!!」
ヴィシャスが壊れていく、パディルスキ基地の様相を見ながら、怒鳴り散らしていた。
「だが、これ以上は派手に壊れねえはず!!”あの方”がアレを持ち出してくれたんだからな!!」
「アレって!?」
AK-12が聞き返す、高高度を飛行する爆撃機を倒すなんて、戦術人形には無理だ。対空システムがあれば話は変わってくるが
『”Su-57”だ。こちらの警告を無視した場合、"あの方"が根回ししてくれた、航空宇宙軍が警告してくれる、仕組みになっている』
「"あの方?"」
────同時刻パディルスキ上空
高高度で飛来し、爆弾を投下した編隊飛行のTu-160の爆撃隊群が、眼下の基地を眺めていた、航空要請をした連絡員によると爆撃は反乱軍を鎮圧するためのものらしい。
自軍の基地であった施設もろとも爆破しろ、と言っていた指令には何人かが困惑して、命令を聞き返してきた。
味方がまだ戦っているかもしれないと思っているからだろう、その懸念を裏付けるようにレーザー砲はプラズマ砲の光がここしばらくの間点滅していた。
「たかが反乱分子如きのために俺たち空軍を使うのか?」
「どうせ、保安局やその雇われがしくじったんでしょう?」
機長の呟いた、発言に副機長が欠伸をかきながら予想を立てた。
反乱分子がこの基地を手に入れたら、西側との緊張状態が起きる可能性があると上官からは話を伺っていた。
だが、それはいけないことか?と機長は時たまに思う、ソ連は力によって成り立つ国だ。
だからこそ、他国は干渉しようとしないし利益も引き出せる、そしてこの性質はロシアに戻ったときや、新ソ連になった時も変わらない。
腑抜けなことに副機長は徴兵で飛ばされた兵士だからなるべく戦いになる事を避けたがっていたし、エストニアに飛ぶと聞いた際はエストニアの迎撃機が来ることに怯えていた。
「SAMとかの対空兵器はどうだ?」
「来てません。チャフもフレアも万全です」
それは対空兵器が来た時の質問に取っておくべきだろうに。
これだから徴兵の奴らは。
「他の爆撃編隊の様子はどうなっている?」
「全機体に異常なし、我々は第一陣はこのまま離脱、これから続く第二陣も再突入コースに入っています」
結構だ、我々は外の反乱分子を中心にたたいたが、第二陣は徹底的に基地を爆破するだろう。
これで、証拠も何も残らない保安局の筋書き通り、西側に何を問われても巻き返す材料を用意すればいいだけだ。
ほとんど緊張しない、爆撃任務もこれで終わりだ。基地に戻って、書類とにらめっこする退屈な日々に戻るだけだろう。
機長を始め、他の航空員も同じことを思っていたに違いない。
だが────その数分後
<なんだ、どういうことだ>
<こ、これは!まさ────>
通信が騒がしい。声の震え声からただ事ではないと、思うが何が起きているのか、分からなかった。
<第二陣のツポレフになにかがいる!戦闘機か?!>
「どうした!何が起きている!だれかわかるやつは────」
次の瞬間、すぐ隣にいたTu-160が爆発して火の塊になる。
「機長!!」
僚機の墜落に副機長が戸惑いの声を上げた。次の瞬間、また一機が落ちていく。
「フレアだ!フレアを!!」
副機長がフレア放出のスイッチを稼働させる。
その数秒が機長の目のまえで赤い線が、通り過ぎるのが見えた。
「空対空ミサイル…」
一瞬見えた、赤い線の正体は空対空ミサイルに間違いなかった。
そして、空対空ミサイルを撃ってくるとしたら、相手は戦闘機だ。
だが、戦闘機がこちらに届くミサイルを撃つ時点で、レーダーに映るはず、レーダーに映るならある程度逃げる方法があるはずだ、なのにこちらのレーダーに映るのは自軍の姿だけだ。
「────また一機堕ちました!!」
更にもう一機が落ちる。
姿見えない敵に一機また一機と落とされていく、事に先ほどまで狩る側であったツポレフが今度は狩られる側に回っていた。
<爆撃機のパイロットに告げる>
突然、差し込まれた通信。
そして、音もなく爆撃機達を落とした犯人が現れた。
<今すぐ進路を変更し、元の基地に戻れ。さもなくば、撃墜するぞ>
「まさか!?カーターが!?」
<繰り返す、今すぐ進路を元の基地に戻せ。次は警告しない>
まさか、クーデター派閥は戦闘機のパイロットを手中に納めていたというのか!?機長はパニック、副操縦士も同じだ。
だが、このまま終わるわけにはいかない。
我々は保安局の命令に従いあの新ソ連の膿を駆除しなくてはならない!
「我が国の膿め!警告をしても無駄だ!この基地は我々の命に変えても灰にしてやる!!」
<そうか、なら死んでくれ>
無線が切られた、そして爆発。
爆発音が聞こえ窓ガラスが割れて、機長に突き刺さる。
下に向かって落ちていくのが分かる、バランスを保つための翼をやられたのだろう、轟音と突風に耐えながら、副機長はスロットを握りしめていた。
機長も血まみれの腕で精一杯スロットルを握りしめて着陸させようとスロットルに手を伸ばした瞬間、機長たちは無数に注がれる弾丸に引き裂かれた。
弾丸に引き裂かれる瞬間、機長は一瞬だけ弾丸を撃った相手を見ることが出来た。
それは直線を基調としたグレー系のスプリッター迷彩塗装を施され、"薄っぺらい"形をして悠々と空を飛び去っていった。
────パディルスキ上空
「────こちらリゲル。さらに一機仕留めた」
<警告はしたのか?>
「ああ、だがどいつもこいつも無視して爆撃を続けた>
<なら仕方ない。こちらも一機仕留めた。あと少しで、全機落とせそうだ>
Su-57を狩る、コードネーム”リゲル”と呼称されるパイロットはパディルスキ上空に爆撃をしている、"Tu-160を堕とせ"という命令に従い、レーダーに映りにくくする”ステルス”機能をつかって、Tu-160を一機ずつ落としていった。
「ツポレフのやつら、警告を守らなかったからこうなるんだ」
無線越しに聞こえる、連絡員の命令を無視した愚か者の末路に情けを感じることはなかった。
彼らは、自分たちは今、外務省の手続き抜きでエストニアを好きに横断できると思っていただろう、
いや、エストニアに入るだけなら、「次から気を付けてね」で済む話かもしれなかった。
しかし…ヴェルークトもろとも爆破しようとしたのは浅慮だった。
そのせいで、我が国の誰かの逆鱗に触れてしまったに違いない温存するはずのステルス機を飛ばせという命令が出るほどには航空宇宙軍に所属している”リゲル”にも理解が及んでいた。
相棒もそろそろ、仕事を終えるはずだ。
「頑張って生き延びろよ…ヴェルークト」
自分は相棒が狙われないか、周囲の確認をしつつ相棒が仕事を終えるのを確認したら、この空域からおさらばするだけだ。
────
───
あと少しで、潜水艦だ。
あそこまで走ればここから出られる、そう思っていたユーリたちの前に一人の人影が現れた。
「エゴール大尉…」
エゴールが立ちはだかっていた。
「ユーリ。よくも、ここまでやってくれたな…だが、俺にもツキが回るようだ。お前があの時、コックピット周りに攻撃してくれたおかげで水圧がハッチを粉々にしてくれたおかげ外に出ることが出来た」
「…ヴィシャス、先にAK-12と一緒に潜水艦に行け」
「いいんですかイ?隊長?」
「ああ」とユーリは答える。
鈍い水の音がどうやら潜水艦が動いているようだ、つまり俺たちに時間はない。
その隙を突いて逃げようと考えたのだが、PP-19をもったエゴールが潜水艦までにつながる道を全員通してくれるとも思えない。
「パパ!私も────」
「テメえはこっちだ。では隊長、後は頼むワ」
残ろうとする、AK-12の首根っこを掴んで、ヴィシャス達は潜水艦に向かって移動し始めた。
「てっきりあいつらの背中を撃つかと思ったんですけどね」
「お前に背中を向けられるほどの余裕と実力はまだ俺にはない」
コーラップス液の進行が進んだ痛々しい表情で、エゴールはPP-19を向けた。
「この作戦は失敗した、我慢弱い空軍のせいで俺の部下もすべてが命を落としただろう。だが、最後の最後の勝負の決着までは譲れない、ユーリ確かにKCCOを敗北した。だが、”エゴール”の勝負の勝敗はまだついてない!!」
一人残ったユーリがPPK-20に9×19mmの弾丸が装てんされているマガジンを差し込んで、コッキングレバーを引いた。
「結構…実のところ、俺自身あなたと決着をつけたいところがあったんですよ。…来い、俺の後釜になる気があるのなら…学んだことをどれだけ身に着けたのか見せて下さい」
目の前にいる男に向けて引き金を引く。
エゴールは素早くかがんで眼下の障害物に身を隠した。そして、手早く反撃される。だが、エゴールの反撃で飛んでいく銃弾の先にはユーリはいなかった。
彼も銃弾を放ってすぐ、障害物に身を隠したのだ。
「いい腕じゃないですか」
ユーリが声があちこち反響する中、エゴールを称賛する。
「お前がいなくなった後、俺がただ胡坐をかいていただけだと思ったのか?」
反響する空間では、感覚が狂う。
エゴールはユーリの位置を掴みかねていた反響した声を頼りに攻撃をしたら攻撃で発生するまずるフラッシュから位置を掴んでくるかもしれない。
そんなことを考えているうちにユーリが再び発砲してきた。着弾音が聞こえるが、発砲音が聞こえない…ならば、マズルフラッシュ…見えない。
「(サイレンサーか…)」
PPK-20はPP-19をVSSやAS-VALのようなマガジンを”抜き差しできる”タイプに改良した01モデルをプラットフォームにして、AK-12の改修をフィードバックさせ、拡張性や人間工学の向上、サイレンサーを併用できるように改良されたサブマシンガンだ、人によってはPDW……個人防衛火器と呼称される。
アップグレードモデルと旧式の武器比べればこちらが不利にも見えるが、エゴールのもつPP-19にも勝っている点があった。PP-19は円柱型の特殊なマガジンを使用しており、その容量は64発。
一方、PPK-20はの弾倉の容量は30発、継戦火力ではこちらの方が有利だ。
エゴールが反撃する、今度は断続的に広範囲にばら撒いた。
「…!!」
ユーリは思わず、声が出そうになった。
エゴールがPP-19の優位性である大容量のマガジンをうまく活用している。相手より、どこか優れている点で局所的有利を活かす。あらゆる物事での基本だったが、相も変わらずエゴールはそれに気づくまでが速い。
「(鍛えたかいはあったということだな)」
ユーリは心の中で呟いた。
前々から、どのくらい前かというと掃討作戦の時に合同で参加したエゴール大尉にサブマシンガンの撃ち方を教えたことがある。
彼は自分より年上なのに積極的に学ぶ姿勢をとっていた。だから、こうして強い射撃も予想の付け方もいい、それでいて慎重だ。
再び、身を低くして攻撃してくるエゴールの攻撃をユーリは当たっていないと反応しるかの如く無反応を貫く、そして他の場所を撃った隙になるべく音を立てず、マズルフラッシュを頼りに徐々に距離を狭めていく。
だが、断続的に来る射撃はまたすぐに自分の障害物のすぐ近くを貫通する。
「……ッ!!」
ユーリも負けじと息を止めながら接近を続けていく。
ただ近づくだけではなく発砲された弾丸の数を数えていた。
エゴールが今の時間まで計"48発"、発砲しているPP-19のスパイラルマガジンに込められる"64発"を前提にすると、残りの弾丸は"18発"と仮定できる、断続的な射撃は一度に"9発"2回のうちにエゴールの弾丸が切れることを仮定して、リロードしている間に、こちらが確実に当てられる距離まで接近しなければならない。
相手の残数が9発以内に賭けて一気に接近するか、それとも18発待つか。
前者は大胆、後者は慎重。大胆だと、敵の誘いに引っ掛かりやすいが慎重だと相手より遅れる。
「(どうするべきか…)」
その時だった。基地の一部が決壊した。
戦闘機は爆撃機をどのくらい落としたのかなんて知らない、水はこっちにやっては来ないだろうが時間がないと、ユーリは確信した。エゴールからの銃撃が多くなる、12発も使っていた、内心エゴールも焦っているに違いない。
「(リスクはあるが仕方あるまい!)」
セレクターをセミオートから、フルオートに変更。かかんだ姿勢から、素早く動き一気にエゴールまでの距離を詰める。
突然の行動にエゴールは驚く暇もなく銃口を向けることしかできなかった…なんてことがあったらいいなと思いつつ直接エゴールが見えるまでの距離にまで接近。即座に照準を合わせて引き金を引く。
銃声が反響するがこの距離になった以上はもう関係ない。
一発目は外れるが二発目は命中させる。
流石の防弾ベストでも至近距離から発射される散弾を防ぐことはできず後ろにたじろいた。
そこにさらに三~四発の追撃を叩き込み距離を詰める。
「…!!」
エゴールが撃たれた状態からこちらに銃を向けて発砲した。
9発の銃弾がユーリの胸の装甲に命中し、弾丸は貫通しなかったが衝撃が鈍く響いてきた。
「…!」
「…ッ!」
互いに弾丸を浴びた、ユーリとエゴールは吐くように逆流する血反吐を痰を吐くように吐き出した。
────潜水艦停泊所
その頃、グリフィンやユーリを除くヴェルークト隊員たちはアリア達が乗り込んできた時浮上した潜水艦で受け入れ準備を受けていた。
「…回収の手筈がまさか潜水艦?凄いことが起きるわね」
「奴らの船に乗って本当にいいのか?」
アンジェリアも予想だにしない行動に舌を巻いた。
Kはあまり面白くなさそう、かつ居心地が悪そうにアリア達が持ち込んだ潜水艦を眺めていた。
「ずっと、見ていたってわけか?俺たちがすり潰されるのを」
『見ていたというよりはこの時間にたどり着けるように予め潜水艦を発進させていたのよ、全ては"あの方"の予想通りって事ね』
「あの方…?」
アリアが口にした"あの方"、フォトンはその"あの方"と呼ばれる存在について問いかけた。
『"あの方"は"あの方"よ、"あの方"が予想することは全て的中し、"あの方"の手腕は誰であっても推し量ることはできない…元に私達"アメリカ軍"を"ソ連"の為に派遣するなんて、大統領でも厳しいわ』
「その、"あの方"が俺たちを助けるのになんのメリットがある?」
『グリフィンを助けるメリット?フッ、まさか…ないわよ』
アリアはさも当然のように言い放った。
公然の事実をさも、当然のように口走るかのように。
『"あの方"がグリフィンを助けたのはユーリがこれまでたくさんの仕事をこなした件に対する諸々の"ご褒美"と"レイラ"に興味があって会いたいかあなた達も回収してあげる…そういう理由よ』
アリアの口から"レイラ"という、M4A1の別名が溢れた。
「どうしてM4を!?」
『さぁね。"あの方"は"遺跡"…ひいてはそれにまつわる兵器も憎んでる。…レイラの奴、使ったんでしょ?コーラップス液を使った爆弾を────」
アリアの冷たく突き刺さるような声にフォトンはゾッとした、まるで大抵のことをどうでもいいと面倒くさがる態度から一転して、恐ろしいものが見えた気がする。
「それは、M4も生存の為に…それに使われなかったら────」
『…その場にいたグリフィン部隊死んでいたかしら?偶然で助かった連中はおめでたいわね。…で?そのコーラップス液に巻き込まれた無関係の住民にも同じ事が言えるの?』
「それは…」
それは…言えるわけがない事だ。
『…コーラップス液の爆弾が使われた後に配属されたアンタに言っても仕方ないけどね…で?M4…レイラはまだ乗らないわけ?』
確かに…レイラはまだ、潜水艦に乗船していない、誰かを探しているようだ。
誰を探している?
『フェロンがツポレフ落としてくれたから、延命してるけどさ…爆弾落とされたら崩れる可能性だってある。だからあんまり時間がないわよ、早く乗りなさい。レイラ』
「…ユーリ大尉は、何処ですか?」
『あれで全員じゃないの?』
「いえ…大尉はここまでの道を切り開くって言っていて…」
その瞬間、アリアはハッとした。
『クソ、しまった…』
全員が顔を隠すフルフェイスのマスクを被っていたから顔の判別がつかなかった。
全員分いなかったのは何人かが殉職したかと思ったからだ、起爆もしたし乗り遅れもないだろうと
「教えてください!大尉は今何処にいるんですか!?」
M4がアリアの両肩を掴んで焦ったように迫った。
表情には余裕がなく、今にも崩れる基地の中に戻りそうな状況だ、
「まさか、まだ基地に────」
「あぁ、そうだよ。奥さん」
潜水艦基地に美しい肉体を持つ、戦術人形とAK-12とそれに酷似した人形…そして、ヴェルグ3が停泊所にたどり着いた。
「隊長はエゴールとサシで決着をつけている。アリアさん、出向するのはもう少し待っていてくれないスかね?」
────
───
「随分と大胆じゃないですか、まさか攻撃を耐えてから確実に反撃するなんて」
エゴールは最後まで忍耐強く攻撃を誘っていた、"攻撃を喰らってでも"。
苦笑いにも見える笑みでユーリはPPK-20を捨てた。
「続きをするぞ…意地ぐらいは張らせてもらう」
エゴールが同じく弾のなくなったPP-19を捨てる。
「…えぇ、決着をつけましょう」
銃がなくなった2人は踏み込むように近づき、その拳を互いの顔に向かって突き出した。
肉が中で弾む音、骨が軋む音がする。
2人の男が殴り合う、エゴールのPP-19の弾薬は使い果たしたし、ユーリのPPK-20も同じだ。
「────!」
「────!」
互いに呼吸なのか、声なのか判別つかない音を立てて、血反吐を吐き殴り合っていた。
ユーリはE.L.I.Dを殺す為に身につけた、衝撃を出来るだけ多く入れるための殴打やミドルキックなど一撃に力を注ぐ。
対するエゴールは特殊作戦軍として、兵士として身につける対人戦や第三次境大戦で殴り殺した感覚を思い出すかのように生き残るのに意識を向けた戦いをする。
「────!!」
エゴールからのフックがユーリの頭を揺らし、頭からの衝撃が足にまで浸透して、ユーリは左膝を突く、
さらに片膝をついた、ユーリの頭を掴み持ち上げるとエゴールの膝がユーリの鳩尾に差し込まれ、ユーリは胃酸の混じった血反吐をこぼした。
「俺の…ワザを…!?」
「…お前の技は教科書に載るくらいだからな」
「それに関しては俺は、何も感じないんだ。だが…貴方に真似られるのが少し…嬉しいと感じるのが…複雑で」
「そうか…」
「だから、俺は貴方方を憎めないんだよ。行動に足る理由である事も理解できる…だが、それは…軍人としての行為ではないんですよ…エゴールさん」
「────黙れ!」
「────かっ…あっ…!」
「────黙れ!────黙れっ!」
エゴールの腹部をユーリの抉るような拳が捻るように突き刺さる。
「軍人は国家だけじゃない…国家を支えるための人員、即ち国民を守る事が使命だって…アナタは昔、俺に、そう言った…」
空手や拳法で使われる鉄槌打ちの応用を効かせた、一撃が勢いよく決まる。
「────!!」
抉られるような螺旋状のダメージは無数で複雑な亀裂を肉体に与える、弾丸が螺旋状で描かれて治療が厄介な理由な一つもこれで、肉体にかかる衝撃も相当であり大技ではあるがE.L.I.Dを衝撃で倒し切るのにも有効な技の一つでもある。
「ぐぅ…っ…!!」
ユーリの渾身の大技を受けたエゴールはヨダレのような胃の内部から込み上げてきた粘ついたドロドロと零した。
痛みを通り越して、肉体が冷えるような感覚とビリビリと電気ショックを浴びたようにエゴールが痙攣した。
「────!!」
────バキッ!木の枝が踏まれるような破砕音が響いた。
ミドルキック────今のユーリの持ち得る最大の一撃が先程抉ったエゴールの腹に叩き込まれたのだ。
エゴールの肉体に衝撃が二重で響き渡り、骨を砕き、腸と臓器を潰した。
「────ご、ごは…!」
「────ゴボッ…!ゴボッ…!」
最後の力を振り絞ったユーリが右膝をついて右に倒れかけそうになったので反射的に右手を地面について身体を支えて、バランスを取った。
お互い、立ち上がる事ができないくらい今日の痛みと疲れが身体を縛っていた。
エゴールも軸を失ったコマのように座り込んでいる。
どちらかがあと少し動けば、殺せそうな距離なのにもう、痛みと傷でお互い出来ることは何もする気力がなかった。
「トドメを…刺したらどうだ?」
「もう、何もできや…しません」
「…最後に手を下されるのが、自分よりひとつ階級の低い…兵士…とはな」
「いま…言う事じゃ…ないですけど…最近、昇進しましてね…大尉になったんです…」
「そうか…昇進していたのか…」
「…今更それですか…どうも」
エゴールが胸ポケットから写真を取り出した、どうやら家族の写真のようだ。
「…すまない…今回は、帰れそうに…なか…た…」
エゴールは家族の写真を眺めて、涙を流しながら、横に倒れ込み…そのまま、すぐに息絶えてしまった。
「…家族…か」
エゴールが生きたらなと同時に、ユーリも床に倒れ込んでしまった。
意識が遠くなるのがわかる、声が遠くなり、感覚が薄くなる…
エゴールの最後の家族の写真を見た事を見て、自分の家族のことを思い出していた。
「ファリカ…」
自分と同じ様に無理矢理徴兵された妹の事を真っ先に思い出す、大戦が終わった後も軍に残り続けた自分とは違って、妹はソ連から逃げる様にどこか遠い国へ行ってしまった。
その後は、テロリストになったとかどこかの反乱軍のリーダーになったとか正確性のない情報しか行き渡らなかった。
妹は今、どうしているのだろう?懲罰で徴兵された女は死ねと言われる様な仕事以外にも性欲の捌け口にされた話はあの時は当たり前だった、今もこのソ連を憎んでいるのだろうか?
「親父…」
父親は医者だった。大戦が始まる前に全体制の兵士の残党狩りで逃げてきた兵士を分け隔てなく治療していた。
それが、暴力と無知に支配された若いソ連の兵士達の怒りを買ったのかそれは今では分からない。
だが、自分の住んでいた街がソ連政府の名目の元、遊ぶ様に戦術人形の的当てのように殺されていく、知人の姿をみて親父は自分達の事よりも復讐の事を考えて、中からソ連を壊す為に彼らに取り入る事をした。
彼の怒りがどのタイミングで爆発させられて、どれほどの人間の立場が入れ替わるのは分からない…だが、その復讐で自分と妹、母は見捨てられた。
「…かあ、さん」
母も父を手伝う、医者だった。とても綺麗な人だ、今でもそれを思い出せるし今まであってきた誰よりも優しくて慈愛に満ちていた人だった。
だが、そんな素晴らしい母を親父はソ連に取り入る為の材料として慰安婦として売り飛ばしたのだ。
兵士達が母を連れていく時に見た、心配させまいと見せた作り笑いが未だに忘れられない。
再び、母と会う事ができたのはゴミ捨て場の様に捨てられた、死体の山を片付けろと命令された時だ。
陵辱のし過ぎと食事を忘れたことによる栄養失調で死んだと素人だった自分にもわかった…あの時から、こんな暴力が平然と肯定される世界は間違っていると思い始めた。
「全ての…腐肉喰らい…を元から、断つ…か」
自分は…あの、ロシアから新ソ連にあるゴタゴタは体勢が変わるだけでは簡単に満足できず、俺の故郷も古いものを新しくするという名目で暴力と血に染まった。
あの、暴力を生き延びても次は第三次世界の地上戦に投げ込まれた。
あの方の調べによると、俺は軍に売られたらしい。サンドイッチ一食分の値段で、売られた。
戦争をやっと生き延びて、故郷に帰った時……俺の帰るべきところは人形を作るための工場になっていた。
本当に自殺しようとした時、俺を止めてくれたのだカーター将軍だ。
俺から身の上話を聞いてくれた将軍は俺に新設の部隊があることを聞き、そこでら衣食ができると教えてくれた。それがヴェルークトだった。
……俺が"あの方"と初めて会ったのはその時だった。
あの方は、この世界がどう崩壊してくれたのか……教育を受けられなかった俺にもわかるように丁寧に教えてくれた。
そして、あの方はこの世界が壊れた原因、コーラップスにまつわるものを全て消し去るという目的を教えてくれた。
初めはあまりにも大きすぎる話だから、無理だと話した。
けど、AK-12に裏切られる少し前にまた、話を持ちかけられた。断るつもりだった。その時はAK-12の面倒を見ないといけないから、忙しかったから、裏切られる……なんて思ってなかった、けれど……俺は彼女に裏切られて、結局あの方の話を受けるしかなった。
────アナタの夢は何?
「ふふ…レイラ…か」
M4に「自分の夢はなんだ?」問いかけられた事がある、その時の俺ははぐらかしたが……夢と呼べるものがあるとすれば……
「そうだなぁ…」
"あの方"が望むコーラップスのない世界。それがせめて見たい。
夢と言えるものなら、それだろう。
この世界を悪意と破壊に変えた… その元凶である遺跡は、必ずこの世から無くさなくてはならない、いや…無くしたい。
「恥ずかしい夢だ…口に出せやしない」
だけど、それが、俺の目指すべき夢だった。
「────り!────ユーリ!!」
自分に駆け寄る足音が聞こえた。そして暫くすると抱き上げられた感覚をユーリは覚えた。
「レイラ…?」
「見つけた!よかった…間に合った…!!」
流れる血で雲がかっていたが、視界に映ったのは間違いなく、レイラ…M4A1だった。
「立って……!あと少しで、潜水艦よ」
M4A1がユーリの肩を背負い、一気に立ち上がる。
「ユーリ、今度こそ一緒に戻りましょう。生きて帰るの!絶対に!!」
「どうして…」
どうして、君は潜水艦に乗っていないんだ…君が乗らないと、グリフィンは脱出させてもらえないかもしれないのに…
「俺が頼んだ事…忘れたのか?」
────
───
『あぁ、難しい話しじゃないんだがレイラ、もし俺が死ぬかもしれない最悪な状況になったら命をかけてまで助けないでくれ』
パデルスィキ潜水艦基地での作戦前でユーリがM4A1に頼んだことは、最悪の状況は自分を切り捨てでも生存してほしいという要望だった。
だからこそ、M4A1は仰天した。自分が最も生きる理由であるユーリを見捨てろというのは"選択"できるわけがなかったから。
「覚えてるわ、最悪な状況になったらアナタを見捨てでも生き延びてくれ…そういう頼みでしょ?」
覚えているんだったら────
「……時々ユーリは不思議なことを聞くわね」
「不思議?」
「私が考える最悪の状況ってなんだと思う?」
「…グリフィンのみんなが消えること、だろう?」
「いいえ、あなたが死ぬことよ。もし、あなたが生きることと引き換えにみんなの命が必要なら、なくなっても別に構わない」
M4はキッパリと言い切った。
これは冗談でもないし、強がりでもない。
「……あなたが生きているなら、まだ、最悪な状況じゃない。あなたが生きていない世界ほど最悪なものはない。あなたが死ぬなんて、そんな最悪な世界で…私は、生きていたくない」
M4A1はユーリの瞳をしっかり見据えた。
「私は、あなたが生きている世界で…生きていたいの…!!」
歩くペースを上げていく、M4A1自身、置いて行かれないという自信はないのだろう。
「見えてきたわ。よかった…まだ出港していない、私たち助かるのよ!」
「そう…か…」
本当にそうだろうか?歩くだけでも血反吐が流れそうな痛みの中で、ユーリは考えていた。
潜水艦基地は完全に崩落しないだろう、だがこの停泊所が潜水できないところまで崩落したら…ユーリたちは出ることが出来ない。
けが人を搬送するには時間と手間がかかる。もし、自分の搬送に手間をかけてしまった場合、その分だけ潜水艦が出られる確率はさらに低くなる、そのうえわがままでユーリはこの傷を負った。
そして、その傷が脱出の手間になるのなら
俺はチームの仲間を危険にさらしたことになる、最終的にそれが原因で全員と心中してしまうくらいなら…
────ドン!!鈍い音が強くなった、上の天井が落ちてきそうな前兆が起きているのがみえる。このままでは、二人とも下敷きになる。
「────え」
そう思ったときのユーリの判断は早かった。
素早くM4A1の背中を押し、突き飛ばしたのだ。
同時に天井が落ちてくる、だがM4A1は天井につぶさる事はないはずだ、押しつぶされたと分かればM4A1の諦めがつくだろう。
今生きている、連中までも死なせるわけには────
「────ダメッ!!」
直後、ぐしゃりという音が聞こえた、ユーリが天井の一部が崩落し、崩落した天井に潰された音…ではなかった。
「…大丈夫?」
なんと、M4A1が崩落の寸前にユーリの腕を無理やり引っ張り、引き寄せたのだ。そのおかげでユーリはまだ潰されずに済んでいた。だが、崩落した天井の破片が落下の衝撃でいくつか砕け散り、破片の一部がM4A1の背中を突き刺していた。
「…大丈夫、そうね。よかった、さあ…あと少しよ。諦めないで…安心して、今度は私がアナタを…守る」
自分の行動で、危険な目に合わせたM4A1は怒りもせず、叱ることもせず、ただ安堵した瞳と優しげに語る声で励まして、自分を引きずり続けてくれていた。
「何度でも言うわよ。私はあなたがいない世界で行きたくないの」
そんな献身的なM4A1を見てしまった、ユーリはもう何も言えなくなってしまった。
「大尉を運んできました…これで、取り残しはないはずです…」
「搬送は任せろ。とにかく急ぐぞ!」
果たして、潜水艦にたどりたいただ2人自を回収するためにやってきた兵士に体を預けられる。
そこから、流れ作業のように潜水艦の中に押し込められるとそのまま、担架にのせられて医療室に運ばれる…
それを見た、M4A1が一人で梯子を使って、潜水艦の中に乗り込むのを確認するとM4A1達が返ってくるのを待つために残っていたアメリカ軍の兵士たちも潜水艦の中に乗り込んでいった。
置いてきた人員がいない事を今度こそ確認した、潜水艦の艦長は潜水の命令をだし水の中に沈んでいくとそこから、基地の外につながるルートを通行し、パディルスキ潜水艦基地を脱出した。