魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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10.姫様のお通り

 ◇ドッチウィッチ

 

『あんたら後でお説教!!!』

 

「だってさ」

 

 我らがリーダー、メルン・チックからのメッセージの画面を皆に見せ、思わず笑みをこぼした。文面からは確かな怒りが伝わってくるが、うちのリーダーは小さい。ぷりぷり怒ってお説教してくる姿も可愛い。それは皆の共通認識だ。

 

たし蟹(確かに)、寝坊は悪い。あ卍て(甘んじて)受け入れで」

「リーダーの約束不履行だー。今日の説教、震度五強! 予報DEATH(です)!」

 

 互いに顔を合わせる。

 縁が上側にだけあるおかしな眼鏡をかけ、文庫本を逆さまに持った少女──『Ms(ミス)・ペリング』は、口元に本を寄せ片目を閉じた。

 ヒップホップ的な派手な衣装と相反する三つ編みの少女──『ゴム・マーリー』は、目線を返してニィッと笑った。

 最後に自分、クラシカルな魔女スタイルに道路標識をあしらった交通法規の魔女こと『ドッチウィッチ』。手にした箒、ではなく標識を握り直し、帽子の位置を整え、対峙する相手を見据える。

 

「随分と楽しそうですね。お喋りは終わりましたか?」

 

 敵は4人。町外れとはいえ、白昼堂々ティアラをつけた華やか連中だ。お高くとまったお姫様に、その側近らしい女騎士と、絵本を手にした芝居がかった黒い奴、そして何も言わない方の黒い奴。見るからに魔法少女だ。

 特にお姫様からは尋常ならぬオーラが漂っている。こんな路傍で出会っていいような相手じゃない。恐らくは、魔法の国の本国クラスだ。

 

「お聞きしたいことがございまして。ええ、実は我々、悪い魔法少女を探しているのです。あなた方は悪い魔法少女でしょうか?」

 

 絵本の女が手をひらひらさせながら尋ねてくる。表情も貼り付けたような笑顔と胡散臭い。

 

 ──リーダーにした連絡の、遅刻、というのは嘘だ。ペリングはいつも通りに起床、マーリーの新曲は未完成、ドッチの通勤手段は自家用車ではない。もっと前、ニュイグルミはリーダーの連絡を受けたすぐ後から、真っ先にS市入りしていた。あの依頼主、人事部門長プフレはスピード出世といい、色々ときな臭い。そんな奴に可愛い可愛いメルン・チックを使い捨てられるようなことがあってはならない。

 よって、一足先に現場に赴き、脅威を探していた。想定していたのは捜索対象の魔王パム。あるいは──それを脅かすほどの存在。恐らくは、あのお姫様が『それ』だ。

 気配を感じ取ったその時から、フリーランスとしての勘が告げていた。こいつらをリーダーに会わせてはならない。

 

 リーダーはニュイグルミが遅刻していると思っているはず。しばらくはここへ来ないだろう。それまでにどうにかする。できなくても、せめてこいつらをここから遠ざける。これでも傭兵魔法少女サークルだ、人数での不利は……厳しいし、単体での力も……勝てる気はしないが、なんとかする。まずは──速攻で片付ける! 

 

 ドッチの手にある標識が『進入禁止』に変わった瞬間を合図として、魔法少女たちは動き出す。まずはやたらと饒舌な絵本を持った黒い奴。振りかぶった標識、マーリーが発射したゴム毬弾、ペリングが投げつけたペン、それらが一斉に巨大な剣に遮られ、届かない。

 

「おっと、これはこれは。こちらが返答だということで?」

「最初からわかってるでしょ。今このS市にいるプリンセスじゃない魔法少女なんて、全部敵。悪い魔法少女だって。言い出したのはアルファベータじゃん」

「それは失敬、ナイト様の言う通りでした。では姫様! 奴らはこのように、話し合いもしようとせずに攻撃してくるような連中です! ご判断を!」

 

 剣の壁に押し戻され、ドッチは身構えた。何が来る。この剣はあの騎士(ナイト)の魔法だろう。剣が巨大化する、といったところか。残りの魔法はなんだ。特にあのお姫様──。

 視線を彼女に向けた瞬間、その冷たい眼に気が付き、貫かれたような気分になり、一瞬、息を呑んだ。

 

「『潰せ』」

 

 びり、と震える空気。伸し掛る重圧。耳を塞いでも聞こえてきそうな、冷ややかな声。

 命令の魔法か。体が強ばり言うことを聞かないのを、『駐車禁止』に変えた標識の柄で地面を叩いて拘束を解除し、繰り出されたアルファベータの拳を受け止める。標識に響くかなりの衝撃。只者じゃないことは嫌ほど理解する。この感じ、取り巻きも相当強い。

 

「おや。あなた方に向けていないとはいえ、姫様の命令を受けてなお動こうとするとは。さすがは悪い魔法少女だ」

「悪い悪いって決めつけるじゃん。そりゃ、良い子のつもりもないけどさぁ! ペリング!」

謂れ(言われ)なくても」

 

 合図をすると同時に、逆さの本を手にしたまま何かを読み上げ始めるペリング。彼女の魔法は『スペルを間違えさせる』という、魔法少女同士では一見して使い道のわからない魔法だが、正確性を求められる魔法使いなら話は違う。『相手は詠唱を無意識のうちに間違えてしまうが、こちらの詠唱は間違っても起動する』というアンチ魔法使いの権化となるのだ。

 巻き起こった拳大の炎が絵本を狙い、アルファベータに叩き落とされた。無論一発では終わらない、息継ぎなしの連続詠唱で炎を連射していく。鬱陶しそうに対処を強いられたアルファベータがドッチから離れ、この隙にあの姫への道が開けた。

 アルファベータはペリングに任せ、今度こそ一方通行の標識を己に使って加速。距離を縮め、叩きつけようとした標識がまた剣に止められた。

 

「姫様には手出しさせないよ」

「そんな高貴な方なら戦場に連れてこない方がいいんじゃない?」

「うる……さいっ! ゲヘナ! あんたも戦いなさい!」

 

 ナイトは無口な黒い魔法少女に向かって叫び、しかし彼女は何も返事をせず、佇んでいる。あいつは置物か。

 こっちにはまだマーリーがいる。ゴム毬の魔法を使う彼女は、生成・射出と同時に自身の肉体を変化させることもできる。ゴム毬になっている間は物理も魔法もほとんど効かない。マーリーが地面を思いっきり蹴りつけ、その勢いのままゴム毬に変身、高速で吹っ飛んでくる。避けようとするナイトには一時停止標識をぶつけ、激突の衝撃が彼女を襲う。

 

「が……ッ!」

 

 ゴム毬は止まらずそのまま、建物の壁をぶち抜いた。ドッチもそれを追い、毬化を解除したマーリーが避けた先にいるナイトに手にした武器を振り下ろす。剣で止められ、受け止めたままの蹴りに反撃され、さらに振り抜く瞬間に巨大化した剣の遠心力に標識が負け、バランスを崩した瞬間に回し蹴りを食らった。だが吹っ飛ばされても、ゴム毬になったマーリーが受け止めてくれる。

 

「まずはアイツから! パーソナルカラー! 真っ赤!」

 

 いつも通り、名前の元にした人物とかすりもしない、なんとなく韻を踏んでいるだけの煽りと共に人型に戻るマーリー。ここで自分とふたり揃ったということは、まずは制圧にあの必殺技を使う展開だ。

 互いに目を合わせ、息を合わせて、ジャンプしたマーリーがゴム毬に変身、『制限速度10億』の標識で弾いてクルクル回して加速させ、エネルギーを溜めていく。そして摩擦で空気が燃え始めたその時、思いっきり、野球のバットめいて振り抜いた。火球となったマーリーが、ナイト目掛けて飛んでいく。

 これがマーリーとドッチの連携必殺技、魔球ロード・オブ・ボール。これを受けて立っていた魔法少女はいない。高速の火球が迫り、ナイトは剣を構えた。果たしてその剣を大きくしたところで、防ぎきれるかな、この打球を──! 

 

「上等じゃん……来なよ……小雪は、私が……!」

 

 真正面からぶつかってくるナイト。打ち返してくるつもりか。ガッツのある奴だ。そしてまさに振り抜くその瞬間、爆発音がして──衝撃を、黒い何かが飲み込み、打ち返されることはなかった。

 

「……は?」

 

 黒い何かは無数の『手』だった。手の群れが大きなひとつの手となって、ゴム毬を掴んで止めている。グッと力を込めて握り潰そうとし、マーリーの呻きが聴こえ、彼女は自分を分割して小さな毬になることで弾けて脱出。ドッチの隣に再結集しようとし、しかし一部が捕まり今度こそ握り潰された。ゴム毬から血がしぶき、人型に戻ったマーリーは片耳がちぎれていた。

 

「マーリー……!」

「このくらいなんてことない! 平気!」

 

 どうやらあの黒い手はゲヘナとかいう魔法少女の魔法だったらしい。手の群れは潮が引くようにシルエットを小さくしていき、最後に彼女ひとりが残る。何がどうなる魔法なのかはわからない。確実なのは、必殺技を無傷で無効化され、マーリーの耳をやられたということだけだ。

 

「姫様の指示……」

 

 それだけをぽつりと呟き、こちらに向き直るゲヘナ。アルファベータを任せっきりにしてしまったペリングのこともある。ドッチは標識を構え、歯を食いしばる。

 

「この後、リーダーの説教、受けなきゃってのにさあ」

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