魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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13.憂鬱で暗澹でも

 ◇メルン・チック

 

「ね、ねぇ……嘘でしょ、ねぇ」

 

 動かないペリングに縋りつく。抱き起こそうとして、体温が抜けている。顔にはべったりと血が付着し、見慣れた顔が塗り潰されている。助からないんだと寝かせるしかなく、その様を笑顔で見つめる黒い女、あいつがやったに違いないと確信する。

 傭兵稼業なんてことをしていて、血なまぐさいものに遭遇することはある。あったとして、それがいきなり仲間に降りかかって、動けるかどうかは別の話だ。何からすればいいのかわからなくなって、とにかく遺骸から離れようとして、その最中、何かを踏みつけ、滑って転んでしまう。

 

「っ、な、なんなのっ……え?」

 

 踏みつけた肉片。いや、これは……人間の舌、だった。まさか、ペリングの。顔周りの血溜まりはこのせい、なのか。踏みつけた感触が脳裏に残り、咄嗟に立ち上がることはできなかった。

 マーリーはバラバラだ。ドッチも、腹に穴が空いたまま動かない。メルンの仲間は、皆、もう──。

 

「あれあれ。向かってきてくれることを期待していたのですが……そうだ、リーダーさんもお名前、お聞かせ願えます? せっかくですので、お仲間さんと同じになるようにして差し上げましょうか」

 

 手にした絵本をペラペラ捲りながら、メルンの方に歩み寄る黒い魔法少女。この、3人も死んだ、殺されたこの状況で、笑っていられるような奴。本能的な恐怖が湧き上がり、身を守る綿を起こすこともできず、ただ荒く呼吸をするばかりだった。

 

「おっと申し遅れました、名乗る時は自分から、ですよね。私はプリンセス・アルファベータ。さあ、あなた様も──」

 

 迫るアルファベータの頬に、突き刺さる拳。血の色とは対称的な爽やかな翠色。キューティーミントだった。さらに体勢が崩れたところへさらに胸元を殴りつけ、片手に防がれても頭突きで脳天を揺らし、腹部を蹴りつけて吹っ飛ばしてしまう。敵から距離が出来たのを見て、ミントはメルンに手を伸ばす。

 

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫、なわけ、ないでしょっ……!」

「あっ……ですよね、ごめんなさい」

 

 感情のまま、差し伸べられた手を突っぱねた。ミントはただ、また謝った後、起き上がってくるアルファベータを見る。

 

「どいつもこいつも、人が話しているというのに」

「……大事なお話には聞こえませんでしたから」

 

 次の瞬間にはミントから仕掛けている。仕掛けた拳、ひらりと避けられたのを見て即座に次を構え、放った回し蹴りを絵本でガードされる。押し返して反撃に出るアルファベータ。互いの拳が何度も繰り出され、風を切る音が聴こえる。その最中、アルファベータはわざと後退、血溜まりを蹴り上げて目眩ましとし、離れようとしたミントにパンチが当たる。防ごうとした右腕の骨が折れる嫌な音がした。それでもミントは一切の手を緩めず、折れたはずの右手で殴り掛かる。顔面に食らったアルファベータの目が丸くなり、しかし驚く暇も与えず次の拳。アッパーが顎を捉えて脳を揺らす。

 よろめいて、だが意識までは奪えていない。表情は笑みのままだ。まだミントを狙っている。

 そこへ飛来する、四つの影。アルファベータの周囲に突き立ったのは四本の武器だった。偃月刀、三叉槍、ブーメラン、大槌が彼女を取り囲み、それぞれ光を放つ。それぞれが互いに力を増幅し、巻き起こった力の渦がアルファベータを灼く。

 

「これは──ッ!?」

 

 激しい閃光に焼かれながら、どうにかブーメランを蹴り飛ばして脱出するアルファベータ。さらにミントの追撃が飛び、反応できず鳩尾を殴られ、さすがのアルファベータも地面に転がった。

 一方、地面に残っていた四本の武器はひとりでに浮き上がり、ふわりと、駆けつけた少女のもとへ行く。プリンセス・フォーシーズンズだ。後から着いてきたふたりが到着したのだ。傍らのプリズムチェリーはショッキングな光景に目を逸らしていた。無理もない。メルンだって目を逸らしたい。

 

「わぁお……! 私め(ワタシ)1人では荷が重かったようですね! これはこれはっ……しかも、()()()()()()()さんまで!」

 

 フォーシーズンズがぴくりと肩を震わせる。四つの武器の切っ先がアルファベータに向き、その形相が怒りに変わっていた。

 

「もう1回言ってみなさいよ」

「……ふふ、事実ですよ。我ら新世代のプリンセス・シリーズは、魔法少女という資源を余さずに利用するモデルなのです」

「新世代……? 資源って、あんた達、まさか捕まえた子達を」

「さあ! そろそろパーティーは休憩させていただきましょうか」

 

 絵本のページが捲られ、Kのページに何かを書き込み始めるアルファベータ。阻止すべく炎を纏った偃月刀と風を纏ったブーメランが放たれたのをひらりと避け、やがて完成したページが見せつけられる。

 

「Kのナイフの雨で、それでは皆様しばし御機嫌よう」

 

 筆記体で書かれた英文からイラストが浮かび上がり、その通りに上空から刃が降り注ぐ。あんなものが降ってきたら、ペリングが、マーリーが、ドッチが、静かに眠れない。メルンは咄嗟に、魔法の綿を広げ皆の頭上を覆った。大量のナイフをどうにか受け止め、晴れる頃にはもうアルファベータの姿はなくなっていた。

 

「……皆さん、気配は消えました。もう敵はいないかと」

「ったく……なんなのよ、あいつ」

 

 意味わかんないわよ、なんて呟き、フォーシーズンズは無造作に指を鳴らした。背中に四つの武器が四葉状に並び、それぞれの色をした妖精のような羽になり、背中に同化する。

 

「メルンさん……」

 

 ミントはずっと、心配そうだ。心配なんてされたって……何も変わらない。みんな、いなくなったんだ。我に返って、現実感のない現実を目にして、よろめきながら、まだ触れていなかったドッチの体に触れる。

 ……体温が、まだ残っている。まさ、か。

 

「……リー、ダー」

「っ!? ドッチ!? ねぇ! 無理しないで、今魔法の国に」

「いや……一時停止の標識……もう、切れる、から。アイツがいなくなるまで持ったし……あたし、頑張った……かな」

「頑張った、頑張ってるから! ねぇ嫌、お願い! 喋らないで……」

「……たぶん……本国の連中、だよ、あれ……ナイト、アルファベータ、ゲヘナに……姫様、とか、言ってたな……」

 

 ドッチは己の魔法を己に使い、自分の出血を止めていた。その力が切れた今、彼女の血液が、体温が、命が、溢れ出ていってしまっている。メルンには止められない。もし縫い針を刺したって遅い、綿は臓腑の代わりになれない。ドッチは震えながら手を伸ばし、弱々しく背中を叩いた。

 

「……あのさ」

 

 その先は聞きたくない。黙って生き延びようとしてほしい。なのに、なのに。

 

「あたし達のこと……リーダーの、ぬいぐるみに……してよ」

「っ……! そんな、そんなの!」

「そしたら……一緒に……さ、はは、わがまま、だ……」

 

 力が抜ける。今度こそ、目を閉じたまま動かない。

 冷酷な傭兵の振りをしたって、人間のぬいぐるみを作るなんて、そんな残酷なこと。できると知っていても、したことがないっていうのに。

 それが仲間の望んだことだというなら。メルンは、縫い針を手に取り、やり場のない感情と一緒に握りしめた。

 

「ねえ。あなた達が追ってるのって、あいつらなの」

「……ほぼ間違いなくそうよ」

 

 深く息を吸い込み、吐き出した。

 

「協力する。私()()で。あいつだけは」

 

 フォーシーズンズは頷いた。震えながら、プリズムチェリーも続いた。キューティーミントは目を伏せ、何も言わず、バラバラに散った遺体を拾い集めはじめていた。

 覚悟は決めなくちゃいけない。ドッチの傷口に手をかけ、メルンは作業を始める。手に伝わる感触に吐き気を催して、それでもやらなくちゃと持ち直す。

 大事だった仲間たちの臓腑を、綿に詰め替える。

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