魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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16.ミックスド・エレメンツ

 ◇プリンセス・デリュージ

 

 オスク派の研究所は広いうえ、さすがに侵入者を追う人員がどんどん増えてきている。哨戒するシャッフリンが多い。ファルが管理者権限に接続し、監視カメラの情報を抜きながら魔法少女の反応を測定、オートマッピングまでしてもらって、単独行動をしているシャッフリンをちまちまと一撃必殺しながらなんとか探索を続けられている。

 シャドウゲールが囚われていた区画は、彼女を隠すだけに使われているらしい。鍵のかかった扉を開けても何も無い。ピュアエレメンツのみんなはどこに捕まっているのだろう。インフェルノらしき魔法少女は監視カメラに映っていたはず。あとはテンペストとクェイクの所在がわからない。

 それとも、もう捕まっているのではなく──なんて、浮かんできた最悪の想像を振り払った。

 

 歩きながらそんなことをしていたせいで、壁に気付かずぶつかってしまう。傷だらけの体には痛みが滲みて、よろめきながら見上げた。行き止まりではない。分厚い金属扉だ。立ち入り禁止と書かれたプレートが貼ってあり、ハンドル式のロックがかけてある。

 いつの間にやらこんな奥の禁止区域にまで来てしまったらしい。だかもう、あとは先に進むしかない。扉に手をかける。

 

「この先にも魔法少女反応が……2つ、あるぽん。動きはないけど、注意するぽん」

「ありがとう」

 

 ファルからの警告に礼を言いながら、そっと扉を開く。重い金属の音が響くだけで、何も起きない。転がり込んで、構え、しかし中には人影はない。扉を閉めて、まずは部屋のセキュリティを解除。中を見回した。

 中央に鎮座しているのは何かの機械だ。ピュアエレメンツの研究所では見たことがない形状をしている。よくわからないコントロールパネルがあり、中央には何かを収めるためのカプセルがある。

 

「これは……? 魔法少女反応は?」

「間違いなくこの部屋にあるぽん。今も、2つ」

 

 首を傾げながら、それが隠れているテンペストとクェイクの可能性を捨てきれず、部屋をくまなく探す。が、何もない。あるのはやはり装置だけ。隠れられる場所もなく、もう装置そのものを調べるしかないらしい。

 デリュージはコントロールパネルを片っ端から操作していった。カプセルが開いたり、使途不明の機構が上下したり開閉したりして、最終的にはエラーを吐いた。仕方なく諦めて、付近にしまってあった説明書らしきものを手に取る。開くと、読めない文字で色々と書き記してあり、解読は端末をかざしてファルに任せた。

 

「読める?」

「魔法の国、本国の文字だぽん。これは……」

「どうかした?」

「読まない方がいいかもぽん。手がかりとは違うぽん。違ってほしいぽん」

 

 どういうことだろう。言葉を濁すファルを追及し、何度か似たようなやり取りをした後、仕方なさそうに返ってくる。

 

「魔法剥離装置『マーブル・クラム』。魔法少女や魔法のアイテムから、かかっている魔法を抽出する装置。これを凝縮して、新型プリンセスジュエルが作られる……ぽん」

 

 魔法の剥離? 新型プリンセスジュエル? 

 一体なんの話だろう。こちらの研究所では、また別のプリンセスジュエルを作っていた、ということなのか。

 そもそも、このプリンセスジュエルや自分たち魔法少女がどういう存在なのか、デリュージは知らなかった。ディスラプターとはなんだったのか、あの老婦人は何者だったのか、研究所は塵になって、真実を知る鍵も同時に失われた。

 別のページ、簡単な図が書かれたものを指し、ファルに続きを催促する。

 

「アームを4番まで下げて、本体機構を待機にして、エッジのプロセスを停止して」

「アーム、本体、エッジ、はい」

「それで中枢のカバーが開けるようになるぽん」

「カバーね」

 

 言われた通りの操作を続けていくと、確かに一部が開いて、中の機械部品が見えるようになった。なるほど、隠れられるならあの場所かもしれない。そう思って駆け寄って、中に入ろうとして、息を飲んだ。充満しているのは鉄の匂い。機械ゆえの金属臭かと思いきや、そうではないと思うだけの光景が広がっている。下部の容器に体液を溜められながら、たくさんの配線に繋がれた魔法少女の姿があったのだ。それも2人。真っ黒と真っ白の2人組だった。

 互いに手を繋いだまま、額を寄せ合い、目を閉じている。呼吸はしている、が、動く気配はない。寄り添って眠っている。

 

「この子たちは……」

「パーソナルはわからないぽん。ただ……この装置に組み込まれてるって、あの説明書には書いてあったぽん」

「組み込まれてるって、そんな」

 

 魔法少女を機械の一部として使うだなんて、そんなことができるのか。驚くとともに、おぞましくもなる。魔法少女をなんとも思っていない、という言葉の意味が突きつけられた気がした。最悪の想像が、もっと最悪になって頭の中に襲ってくる。

 衝動的に、配線に手を伸ばした。黒い魔法少女に繋がる管をひとつ、力任せに引きちぎる。びゅっ、と勢いよく血液が迸り、デリュージは咄嗟に避ける。管の刺さっていた痕は傷口になり、赤い穴が残っていた。

 

「残念だけどこれ以上構ってはいられないぽん。一刻も早く、マスターを見つけないといけないぽん」

 

 咄嗟に声が出せず、呆然と頷き、その場から離れようとする。足にうまく力は入らない、けれどすぐにでもここを出ていきたい。しかし途中で、あんなことを言っていたはずのファルが止めた。

 

「ちょっと待つぽん」

「え──」

「……魔法少女反応、高速で接近中! 今すぐカバー閉めて隠れるぽん!」

 

 言われるがまま、内側から無理やりカバーを閉めて、装置の中に閉じこもる。鉄の匂いが充満する中、息を潜めて耳をすませた。

 

「開いてるね」

「開いてるわ」

 

 話し声だ。デリュージにとってはずっと聞きたかった声に似ている、いや、そのものだ。テンペストとクェイクに違いない。出ていこうとするが、ファルが小さく端末を振動させる。画面表示は『待つぽん』になっている。早計でも、この際構わない。助けに来た相手が無事なら、それで──! 

 

「誰かいるんでしょ? いるよね? やっちゃう?」

「いいんじゃない?」

「どうせただのカバーだし! えーいっ」

 

 制止を振り切って飛び出していこうとして、目の前で、カバーが塵になっていく。さらさらと崩れていく壁の向こうには、少女の姿が見える。顔には見覚えがあっても、コスチュームはかけ離れていた。が、顔も声も、間違いなくテンペストとクェイクだ。

 

「テンペスト! クェイク! 無事だったんだ」

「……えーっ、と?」

「デリュージ? どうしてここに」

「あっそうそう、デリュージ。なんでここにいるの?」

 

 デリュージにだって聞きたいことはたくさんある。その格好はなんなのか、捕まって連れていかれたのではなかったのか。何よりも無事を喜びたくても、目の前に広がる謎の数々がノイズになって喜べない。それでも、まずは帰ろうと、声をかけた。

 

「一緒に帰ろう。きっとチェリーも心配してるから」

「チェリー……ってさ」

 

 テンペストはクェイクに助けを求める目を向ける。いや、それはおかしい。仲間のことを、チェリーを忘れるはずなんてないのに。

 対するクェイクも、普段ならわざわざ言わないような言葉で返した。

 

「大丈夫よ。怖がらなくていいわ。私が守るから」

 

 話が繋がっていない。知らない名前を怖がっていた、とでも言うのだろうか。

 

「どうしたの、テンペストも、クェイクも……なんか変だよ。仲間のこと忘れちゃったの? そんなキャラじゃなかったでしょ? ねぇ……」

「……あのさ」

 

 テンペストであるはずの少女はぎゅっと目を細めた。

 

「私はプリンセス・クランブル。この人はプリンセス・グラビティ。テンペストテンペストクェイククェイクって、誰の話してるの?」

「は──?」

「悪いけど、侵入者に容赦はしないわ。それがデリュージでもね」

 

 グラビティとされた少女が大槌を構えた。ここは装置の中、逃げ場がない。壁際まで後退り、追い詰められていく。頭の理解は追いつかない。彼女はデリュージだとわかってくれている。そのうえで、武器を構えている。テンペストに至っては、そもそも通じていない。何が起きている。

 

 振り上げられた槌が振り下ろされる。破壊音が響き、壁が崩れ、そこから破片に混じって外に出た。2人は追いかけてくる。

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