◇キューティーミント
『突然すまない。こちらとしても緊急の連絡なんだ』
魔法の端末がピザ屋の休憩室にあるテレビに接続され、ビデオ通話モードに切り替わった。皆はテーブルに並び、ミントはそんな椅子の端っこに座る。揃った魔法少女たちが、モニターに映った魔法少女──プフレに視線を揃えた。
彼女は昨日会った際とは様子が違っていた。手を組んだり、ティーカップを口に運んだり、その所作の端に遊びが少ない。漂わせていた余裕が減っている。急いでいるのは事実なんだろう。
ただし、言葉の調子は怖いくらいに変わらなかった。
『行方不明者との合流は果たせたみたいだね』
「……はい」
メルンはそうとだけ答えた。状況は見ての通り、だ。ここにいるのはミントとメルンのほか、魔王パムにプリズムチェリーにプリンセス・フォーシーズンズの5名。捜索任務で与えられた生存者の発見そのものはできている。
爆発事故の原因も、そもそも魔王パムがやったことらしい。詳しくはまだ聞いていないが、調査そのものは終わっているようなものだ。
あの凄惨な現場と、黒い新たな敵さえなければ。
『それは何よりだ。ただ、この捜索任務にその先が出来てしまった。君たちも遭遇したと聞いているよ。ティアラと宝石を身につけた魔法少女』
向かいに座っていたフォーシーズンズが自分を指さして首を傾げ、プリズムチェリーが手でバツを作って訂正する。彼女でなく、プフレが指していたのは敵のことに違いない。
プリンセス・アルファベータ。そう名乗っていたらしいあの黒い魔法少女。メルンの仲間たちを殺害し、凄惨な現場を作り出した張本人だ。彼女の恨みを大いに買っている。メルン自身も同じことを考えているんだろう、ぐっと眉間に力が籠っている。
「……あいつ、何者なんですか」
『そこも含めて話そうか。この場の全員、現在の狙いは彼女とそのバックに集束する。プリズムチェリーの仲間を誘拐し、ついでに私の──部下、も誘拐したのが彼女らだ』
「それに、うちの連中も殺した」
メルンの呟きに一瞬沈黙した後、プフレが続けた。
『敵は三賢人、オスク派だ』
一気に話が大きくなる。ミントは新人だ、そこまで大きな話に関わったことはない。それでも、魔法の国の仕組みくらいはなんとなく聞いたことがある。だがそれを敵に回す、とは。魔王パムが頷いた。
「先日、私が研究所で交戦した相手がまさにそうでした。シェヌ・オスク・バル・メルの現身、グリムハートです」
もう交戦していた。いや、ミントもアルファベータを攻撃して殴りあったわけで、もう敵であることは確定していた。だったら、とミントはオスク派に対する認識を悪の組織であるというふうに置き換える。雑草が難しいことを考える必要はないし、考えるのも無理だ。
フォーシーズンズがため息混じりに笑う。
「誰が相手なんて関係ないんでしょ。チェリーも、あんたも」
『君は……そうか。あぁ、私は関係ないとも』
「いいわよ、私はチェリーに付き合うって決めたんだから。みんなそうなんでしょ?」
メルンが頷き、釣られてミントもそうした。続き、魔王パムも肯定する。
「これは私の受けた仕事の延長です。人造魔法少女の皆さんを保護する必要がありますから。それに、本国に技術を持ち逃げされるわけにはいかないのでしょう」
『いかないね』
その後もプフレと魔王パムは外交だ人事だ監査だ広報だの話をしていた。
その中で急にミントに話が振られ、それでいいね、と聞かれ、雑草に意見はありませんと慌てて伝えた。今のところ、ミントは広報部門長のおじさんからは何も聞いていない。そもそも広報と人事は現状協力体制にあり、ミントは先輩が推薦したことでこの任務に選ばれてしまっただけだ。政争だなんだには全く縁がない。やることはただ、目の前の悪と戦うだけ。
『では──追って、座標を伝える。こちらの準備が整い次第、集合、殴り込みだ。激しい交戦になるだろう。各自、覚悟はしておくように』
通話が終わり、ミントを除いた皆はそれぞれ立ち上がる。魔王パムの横顔には闘志が見える。プリズムチェリーには覚悟があって、フォーシーズンズはそんなプリズムチェリーを一瞥し、店舗の方へと足早に行ってしまった。やがてその場に残ったのはメルンとミントだけになる。
メルンもどこかへ行くのかと思いきや、ミントの目の前まで来て、立ち止まった。
「……ミント」
「あっ、は、はい、雑草です」
「ありがと。さっきのこと」
「えと、どれ……でしょうか」
感謝されるようなことがあったか思い返す。バラバラになったゴム・マーリーを集めた件だろうか。
「全部。代わりに戦ってくれたし。あの子たちの体のことも」
半分正解だったようだ。
「いえ、そのくらいは、雑草にできることもあのくらいですから」
「……そのくらい、で殴り合える相手じゃない。手は平気なの」
「あ、ざ、雑草の体なら心配は無用です。なんとかなりますので」
折れた時は痛かったが、痛いで済んだ。平気であることをアピールするために負傷した手首をぐるぐる回して見せた。
メルンが隣に座ってくる。場所を空けるため、半分お尻を浮かせてよりソファを占領しない形にしようと動いた。どう見ても座れるんだからいいでしょとため息を吐かれる。それから少し、いくつか深い呼吸を挟んで、話は続く。
「ここから先はずっと……ドッチ達がああなったみたいに、命の奪い合いになるよ」
「ですよね。殴り込みですもんね」
「あなたはただの仕事。それももう終わってるような仕事なのに。付き合ってられないでしょ。何も言わなくて、よかったの」
「えっ?」
純粋な心配だと一拍遅れて気がつく。雇われ魔法少女なら、その仕事は常に死と隣り合わせになる。キューティーヒーラーもそうだ。ミントを扱いた先輩方も、誰にも見せられない舞台裏の仕事ばかりだと言っていた。
「平気ですよ。これは仕事の続きで、プリズムチェリーさんを助けたい、っていうのもあります。あ、でも、それより」
キューティーヒーラーに選ばれた者として、プリズムチェリーの困っている顔が見過ごせなかったのは確かだ。
しかし今は、もっと、ずっと心配な人がいる。目の前にいるあなたのことだ。
「メルンさんのこと、放っておけません」
それを聞かされたメルンは一瞬だけ驚いて、顔を背けた。急にやってしまったという思いが強くなって慌てて謝った。
「ああっ、ご、ごめんなさい雑草のくせにご迷惑を」
「そうじゃない!」
「で、でしたら……」
「私のためだけなんだったら……やめて」
「……? そうじゃないので……やめませんけど……」
メルンの表情は見えないが、こめかみがぴくりと動いている。奥歯を噛み締めているらしい。何か気に障っただろうか。
殺された仲間たちの遺体を加工しなければならなかったことは相当に堪えている。せめて気を遣わなきゃ、なんてことはわかっているのだけど。雑草にはやっぱり、どうしようもない。