21.Initial of JACK
◇メルン・チック
空間の歪みを潜った先には魔法の国らしい、いかにもな研究所が建っていた。入口には機械によるロックがかかっており、皆は顔を合わせる。突破する算段はないわけじゃないが、些か実働部隊の魔法少女から出てくるものは強行的だ。どうしようかと思っていたそのうち、なぜか自然と魔王パムが最初に前に出ていき、入口のシステムを触り始めた。
確かに彼女の魔法の羽は万能だ。それを使えばセキュリティを開くことができるのか……なんて思っていると、羽を使う気配は全くなく、普通に警報が鳴り響き、なんなら扉が出してはいけない音を出しながら、開いた。
「おや……? 何もしていないのに開きましたね」
しかも、本人も何が起きたか理解していないらしかった。
「……え? なんで開いたの? あれ」
「噂には聴いていたがね。魔法の国のセキュリティを破壊するとは」
魔王パムの機械音痴はその筋では有名らしい。じゃあなぜ誰も止めなかったのか。
勝鬨をあげたわりには気の抜ける突入だ。それでもこれから始まることに変わりはない。魔法少女たちは一斉に動き出し、雪崩込む。入口の警備は破壊されたシステムと見張りが数名くらいなものだったらしく、メルンが通る頃にはもう数体のシャッフリンが延びていてそれきりだった。やったのは魔王パムだろう。
魔法の車椅子によって一直線に猛スピードを出すプフレ、己の肉体のみでそれに追随する魔王パム。その2人を先頭に、後方集団はプリズムチェリーとプリンセス・フォーシーズンズを囲み、厳戒態勢で進んでいく。作戦は単純だ。現身とやり合えるのは魔王パムのみ。人質を最優先としたいプフレとプリズムチェリーを行かせ、チェリー護衛のフォーシーズンズも合わせた4名を温存する。よって、先頭の魔王の交戦は最低限だ。
敵戦力は主に群体の魔法少女であるシャッフリン。そのエプロンに書かれたトランプのスートとナンバーに能力が対応しているという。が、その魔王パムの最低限で、低いナンバーならばあっさり倒されている。こちらまで飛んでくる敵といえばつまり──。
「来る! 構えてっ!」
突き出された槍を圧縮した綿で強引に受け止め、襲ってきた個体、スペードの10をドッチウィッチに殴らせる。一時停止から一方通行のコンボで強制的に吹き飛ばし、さらに後方で婦警の魔法少女──パトリシアが錠を手に突っ込んでくる。魔法の手錠が鈍器として叩きつけられ、スペードの10は壁に打ち付けられ、さらに追加で蹴りを背中に食らい、骨の砕ける音と共に動かなくなった。
「ナイスピッチング!」
パトリシアはあの調子だが、メルンには軽口を叩く暇もない。既に敵の一団との交戦が始まっている。いや、構えられていた所に突っ込んだのか。一斉にクラブのシャッフリンたちが溢れ出し、スペードの上位ナンバーを中心に攻めてくる。マーリーにはゴム毬弾で前方の戦闘をサポートさせ、こちらに来る連中はペリングとドッチで対応。とにかく仲間たちに指示を出し続ける。
その最中、照明で少女から伸びた影が実体を持ち、シャッフリンへの反撃が始まった。狼の影が食らいつき、キィキィ喚いて振り払おうとしていたが、他の影にも集られ、クラブのキングが群れに沈んでいった。ダークキューティーだ。彼女は無表情に攻勢を強めながら、靱やかで美しく影を操っている。なるほど、アニメに映えるわけだ。
「す、すごいなあ、ダークキューティーさんは」
その光景に目を輝かせるのは新人であるミントだ。新人らしいリアクションだが、油断は大敵だ。咎めてやろうと、ミントの背後に迫る敵を指摘しようとし、ミントは平然とアッパーからの回し蹴りで対応してみせた。
相手はスペードのクイーン、絵札だ。ミントの攻撃を食らっても踏みとどまり、反撃に槍が振るわれる。回避できないと見るやミントはそのまま体で受け止めた。頭部に叩きつけられた衝撃でよろめく。
「ミント!」
声をかけるまでもなかった。すぐに踏みとどまり、裂けた頭皮からの流血が伝う額を拭ってシャッフリンに飛びかかる。連続でパンチを浴びせ、防御を捨てた猛攻だ。槍撃を紙一重で避け、時に掠められながら、構わない。拳が隙を縫い、頬に叩き込まれる。
さらに構えていた槍の柄に手をかけたかと思うと、ミントの手から突如植物が伸びた。絡みついた根が槍を固定して、さらに硬化した根の尖端がシャッフリンの手を貫き、握力を奪う。もう一方の拳を何度も叩きつけて、ついにスペードのクイーンは槍を手放した。そうして奪い取った槍を短く持ち、すぐさま首を狙う。傾げて避けられる。そこで見ていたメルンが思い立つ。マーリーのゴム毬弾で顔面を狙うのだ。狙い通りに命中したゴム毬弾で怯んだシャッフリンの隙を逃さず、ミントは槍を突き刺した。首を切り裂かれ、スペードのクイーンはその場に崩れ落ちた。
その後も複数のシャッフリンがミントを狙って来るのを、ドッチに停止線を引かせて止め、線に引っかかり止まった瞬間を狙って一撃。降りかかる火の粉を払ったら、怪我をした彼女に駆け寄る。
「大丈夫なの!?」
「あ、雑草、ですか? 雑草は踏まれても平気ですよ……?」
「……ちょっと見せて!」
きょとんとするミントだが、頭から流血している。最悪縫えるかと無理やり屈ませて傷口を見た。見て、ぎょっとした。内側から這い出した細く白い植物の根がびっしりと傷口を塞いでいる。そういえば、キューティーミントはこれまで魔法を使っていた覚えがない。これがその魔法なのか。
「あの……?」
「……ほ、本当に平気ならいいの。痛くないの、それ」
「痛いですけど……?」
つくづくよくわからない奴だ。無理をしている風でもないのがまたむずむずする。とにかく、あとは戦況だ。さすがは人事部門長の選んだ面子、魔法の国謹製の魔法少女相手でも引けを取らないどころか優勢に戦えている。プフレと魔王パムはとっくに離脱しているだろう。あとは──!
「ったく! 同じ顔ばっかり……!」
プリズムチェリーとプリンセス・フォーシーズンズが狙われている。チェリーは手鏡から光を放つなどして応戦しているが、身体能力が足りていない。クラブのシャッフリン相手でも避けるので精一杯だ。そんな彼女をフォーシーズンズが庇って、自慢の4つの武器を駆使して近寄らせないように立ち回っている。手にした偃月刀と三叉槍で近接戦を演じながら、飛び回るブーメランとハンマーで新たな敵も許さない。
だが敵の波が止む気配はない。次第に残った上位ランクのシャッフリンの相手をする羽目になり、防衛線から漏れ始めている。ここはメルンが赴き、ドッチの標識を強風注意に変え、向かってくる個体をパトリシアやダークキューティーの方にぶっ飛ばした後、彼女らを先に行かせるべく、任せなさいオーラ全開で近接戦を挑みつつ振り返った。頷いたチェリーが駆け出し、フォーシーズンズが続く。それでも道を塞ぐ奴らが現れて、群がる同じ姿の少女たちに向け、4本の武器全てを偃月刀に変換、集結させてそれぞれの間に力を循環させる。円形に配置され高速で回転する炎の刃の中でエネルギーが加速し、熱線となって迸る。
「フォーシーズンズ・バースト──"
熱線がシャッフリンを貫き、直撃した個体の焼け残りが倒れた。道が開けている。フォーシーズンズがプリズムチェリーを抱き上げ、地面を蹴り一気に加速する。その勇ましい背中を見送り、目の前のシャッフリンの槍を綿で受け止めて、後方からかっ飛んでくるミントを振り返りタイミングを確認。ドッチとミントの同時攻撃で意識を奪い、地面に転がした。
「チェリーさんたち、大丈夫でしょうか」
「……味方の心配もだけど、まだ来るでしょ。自分の心配もしなさい」
「雑草よりも……メルンさんがそうです」
拳についた血を振り落としながら呟く彼女のせいで眉間に皺が寄った。こちとら守ってあげたくなる女児でやっているんだぞ……なんて思って、急におかしくなって、笑った。
「わ、笑い事ですかね……?」
「あは、あははっ……なんでも……なんでもない。ほら、来るよ、新手」
ミントと共に顔を上げ、現れた敵を見る。鎌と絵本を携え、シャッフリンたちを従えて、恨めしき仇敵だ。
「ここまでシャッフリンを消費させてくれたことは評価してあげましょう。えぇ、今度は殺してさしあげますとも」
雇われ魔法少女たちに向かって一斉に動き出すシャッフリンたち。ダークキューティーやパトリシア達が身構える中、堂々と立って、啖呵をきってやる。
「やってみせろ、プリンセス・アルファベータ! あんたの絵本、全ページ私の写真集にしてやるんだから!」
「あの……か、書かれたらまずいんじゃ……?」
「かっこよく決めたんだから邪魔しないで!」
……全く、こいつは──!