魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

30 / 39
30.灯火の底の観察者

 ◇シャドウゲール

 

 突貫の改造で、ゲーム機につけた位置情報送信機能を、逆にプフレの車椅子の場所を探知できるようにした。起動した途端、凄まじい勢いで移動し続ける点が表示される。これに徒歩で追いつける魔法少女なら苦労はしないと苦笑した。

 恐らくだが、プフレはできるだけ長くランタンを惹き付けるため、かなり周回し、必要のない道を何度も通っている。出口からは遠ざかってでも時間を稼いでいる。

 向こうからこちらの居場所はわかるはず。ゲーム機の画面と睨めっこしながら、歩き出す。自分とプフレの位置はわかっても、地図のデータまではない。道は記憶と照らし合わせて、推測で進むしかない。

 

 思えば、このゲーム機がオクターヴの形見になってしまった。もうたくさん傷ついているけれど、大事に使わなければ。画面に指を走らせ、タッチ操作でこれまでの自分やプフレの移動したルートを線に残し、ほぼ手動でマッピングしながら進む。いきなりの地鳴りや衝撃、戦闘の余波に気を引き締め、道端にある生命の残骸からは目を背けて、今は目の前の目標に集中した。

 

 やがて、これまでのプフレのルートと自分がいる道が交わった。あとは進行ルートだ。ぐるぐると回りながらも、恐らくは目指している出口がある。ならば、シャドウゲールが最短ルートで進めば追いつけるかもしれない。

 大まかなルートを頭に入れ、ゲーム機は蓋を閉じて懐にしまい込んだ。そこからはただひたすらの全力疾走だ。

 

 捕まってから、いや、捕まるまでもそうだ、ずっと走らされている。追いかけてくるランタンと、さらに元を辿ればその恨みをかったプフレのせいだ。こんなに走った日はないというくらい。後でお嬢にも文句を言っておこう。

 

 そして、目標にしていた区画の出口に到着した。このあたりに、やがてプフレとランタンが来るはずだ。身構えつつ、ゲーム機を開いてチェックする。プフレを示す点は高速でこちらに迫っている。かと思いきや、直後、目の前を突っ切る何かと、それが残した風が吹き抜ける。今のがプフレだったか。それを追って、すぐ後に壁を派手に破壊しながら少女が現れる。いくつも光が通りすぎ、その光線を放った少女自身も、杖を構えたままプフレの行方を追う。彼女も速い。背中が見えなくなる前に、シャドウゲールは廊下に飛び出した。

 

「待って!」

 

 シャドウゲールの声なら届くかもしれない。その一縷の可能性が、通じる。プリンセス・ランタンは立ち止まり、振り向いた。

 ……何か、明確に言いたいことがあったわけじゃなかった。けれど、その目には、言わなければならない気になる。オクターヴへは、何も伝えられなかった。彼女は勘違いを抱えたまま行ってしまった。だから、ランタンには。

 

「あの。これまで……私のこと、気にかけてくださいましたよね。ありがとうございました……でも」

 

 シャドウゲールがここにいて、ランタンが足を止めたことに気づいたのだろう。言葉に詰まっているうち、向こうから車輪の音がする。けれど言葉は止められない。

 

「私は、宍岡さんじゃありません」

「……っ、護……! 君という奴は!」

「私は魚山護。宍岡守じゃない。あなたの妹は、亡くなられています」

 

 ランタンの目の色が変わる。衛子の持つ敵意、庚江に抱く殺意や敵意ではない。その目は紛れもなく護に向けられ、そこから動かない。

 その時、ここまで戻ってきたプフレが袖を掴み、引っ張った。車椅子に掴まれということだろう。すぐにでも逃げられる体勢になるよう促している。

 

「なぜこの状況であれが言えるんだ。彼女が宍岡守と誤認しているおかげで君は攻撃されなかった、そんなことはわかっているはずだろう」

「わかってますよ」

「だとしたらわざわざ告げてどうなるかも想像がつくだろう。彼女、宍岡衛子の意識は混濁している、そんなところに妹は死んでるだなんて伝えたら矛先がこちらに向く。自殺志願者か、君は」

 

 それでも伝えなくちゃと思ったのだ。プフレに無理やり引っ張られながら、ランタンと視線を合わせる。

 あの目。そして──オクターヴが同じ学校だったこと。その2つのピースが、シャドウゲールの頭の中で、かちりと音を立てて嵌ったような気がした。

 

「……お嬢」

「今度は何だね」

「ランタンは……宍岡衛子じゃありません」

 

 プフレは静かに視線で答えた。この言葉に重要性を感じていない、が、少しの沈黙を経てから改めて聞き返した。

 

「じゃあ、何だと言うのかな」

 

 1歩、前へ出る。プフレがいるにも関わらず、ランタンは攻撃の体勢に入らない。彼女にも聴こえるように、告げた。

 

「あなた……絹乃宮さん、ですよね」

 

 

 

 ◇プリンセス・ランタン

 

 友人との下校中に、その友人ともども誘拐され、魔法少女とやらにされた時、自分の中に流れ込んだ『誰か』が持っていた妄執はいくつもあった。力と共に与えられた、こちらの精神が捻くれそうなほどの記憶と執念に、私はみすみす主導権を手放した。『絹乃宮』なんて仰々しい名字と、お嬢様学校に在籍する事実があっても、結局のところ私は一般人に過ぎない。魔法少女の世界に放り込まれれば、強い方に流れ続けるしかない。

 それからずっと、プリンセス・ランタンとはその『誰か』がこの体を動かしていた。

 

 けれど、あの時のことだ。人小路の屋敷で、プリンセス・ランタンの奥底からぼんやりと外の世界を認識していたその中に、聞き捨てならない叫びがあった。

 

『護ぃっ!』

 

 まもり。マモリ。護。

 そうだ、人小路の本邸なんて突撃して、そこにいる偉そうな魔法少女に連れられた従者が彼女でないわけがない。

 私はそれを認識した時、心の内側から、自分を動かしている『誰か』を止めた。そして彼女の中にあった妄執のひとつを利用した。マモリ、同じ名を持つ彼女の妹への後悔。深く重苦しいその感情を利用するなんて、すべきことじゃないかもしれない。それでも、彼女を傷つけないためにはそうするのが最善だった。『護』と『守』を同一視させ、プリンセス・ランタンの行動を、奥底から制御しようとした。

 それは存外にうまくいって、彼女はシャドウゲールへは絶対に攻撃をしなかった。元来優しい気質であるオクターヴと共に、元締めの命令によりプフレとは決定的に敵対しながらも、シャドウゲールの味方でいることはできた。

 ついでに言えば、彼女がゲームに熱中したり、ダンスをする姿を堪能できたのも、こうなったおかげかもしれない。血が流れ続けるこんな状況で、言えたことでないのはわかっているけれど。

 

 研究所が揺れる。何度目だろう。シャドウゲールの呼びかけでどうにか取り返した肉体の主導権だが、目の前の人小路に対する憎悪は深く、暴れ出そうとするのを抑えるので精一杯だ。シャドウゲールの言葉を、『誰か』も理解はしている。薄々気がついていたのだろう。それでも、彼女もまた人小路からは解放されるべきだという思考に至り、プフレへの攻撃性はどうしようもない。

 杖を振り回し、ただの威嚇射撃になるよう、壁を狙って光線を放つ。それでも晴れない衝動に、自分の近くにあった壁を殴りつけ、杖を叩きつけ、ランタンを輝かせた。壁と天井が崩れ、空が見える。差した光を見上げ、その先に、上空を飛び回る禍々しいシルエットを認識する。

 

 あれは──。

 

 短い角、切りそろえられた髪。命の奪い合いを愉しむような笑みの表情。惜しげも無く晒された肢体、そして絶えず変化し続ける4枚の羽。

 記憶の中のランタンが叫ぶ。あれが我が全ての敵、魔王パム。人小路と同じ、妄執の矛先。あれがこの世にあっては、自分たちの望む未来はない、と。彼女の放つ光に呑まれ、殺された記憶すら蘇って(流れ込んで)くる。

 プフレとシャドウゲールは警戒しながらこちらを見ている。魔法少女の姿になっても、互いを補い合うようで、お似合いの2人だ。欲を言えば──()()()()のことはもう少し見ていたかったが。奥底に隠れて見ているだけの私では、プリンセス・ランタンをどうにかできそうにはない。

 

「っ、絹乃宮さん!」

 

 プリンセス・ランタンは答えない。見据えるのは遥か空の魔王。深い呼吸の後、少しだけ振り返り、学校では見せないような表情をした護を頭の中のフォルダに大事にしまい込むと、脚に力を込めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。