魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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31.Archfiend(魔王)ArcPrincess(姫君)

 ◇魔王パム

 

 魔王とは常に君臨するものであった。魔法少女の界隈において、パムと完全に並び立つ者は無かった。この所はといえば、教え、立ちはだかり、導いてばかりだ。故に、その戦闘の殆どは『受けて立つ』ものだった。

 今は違う。圧倒的な気配を持つ現身に、挑むことができる。これに高揚せずしてなんとする。

 

聖槍(ロンギヌス)

 

 槍に変化した羽が目標に向かう。アークプリンセス・スノーホワイト相手には開幕から3本を動員した。対する彼女は1本目に薙刀を振るいその矛先を逸らし、2本目をハイキックで破壊、3本目を最小限の動きで躱し、背後からまた迫ってきた残り2本を振り抜いた一閃で切り裂いた。残る1枚の羽を分裂させて数を取り戻しつつ、光に変えて溜め、息をつかせる間もなく放つ。

 

明けの明星(ルシファー)

 

 光は薙刀では防げない。圧縮された高エネルギーを持つ光球を直撃させ、爆発が巻き起こる。が、その光の中には変わらぬシルエットがある。無傷だ。勢いは衰えることなく、振るわれた薙刀には手元に呼び寄せた羽を槍に変えて応戦する。

 あれを受け切るとは──グリムハートの魔法を受け継いでいるのか。だが薙刀をわざわざ使っている以上、完全な遮断ではないと見るべきか。そもそも攻撃が届かなければ見定められない。

 

 再生成した聖槍を手にし、近接戦闘に持ち込んだパムは、スクリュー状とした羽を向かわせながら一気に攻め立てていく。金属音が何度も響く。薙刀は的確に聖槍の尖端に当てられ、防がれている。

 なるほど、発生から読まれている。心の声を読み取る魔法少女狩りの魔法は生きているらしい。そして、その凶悪性は流石といったところか。フレイミィでさえ子供扱いだったわけだ。

 ならばと狙いを薙刀に変え、槍とスクリューの同時攻撃で弾く。悟られていても対応が遅れている。間合いに飛び込み、拳を叩きつける。が、硬い、崩せない。駄目かと悟る一瞬のうちにスノーホワイトも仕掛けてくる。足元を払うローキック、からの薙刀の一撃。羽を壁に変えて構え、刃が突き刺さった。その後方から『明けの明星(ルシファー)』をぶつける。一切動じない、潰した視界に羽から作り出した回転鋸を突き入れても対処は冷徹だ。刃が刃を止めている。やはり視覚ではなく読心、目潰しは意味をなさない。

 

毒蛇(エキドナ)

 

 ならばやりようがある。壁を毒液に変え、スノーホワイトにまとわりつかせようとした。跳躍して回避する彼女へさらに閃光をぶつけ、羽を総動員して息をつかせない。次々と迫り来るパムの猛攻に、スノーホワイトは壁を蹴り移動しながら躱す。さらに放ったスクリューに引っ掴んだ家具をぶち当てて相殺、その破片が舞う中に突っ込み、今度は攻勢に出てくる。薙刀との撃ち合いの中、ここでパムは毒液を動かした。並の魔法少女であれば触れるだけで蝕まれる劇毒だ。ただスノーホワイト相手には行動を邪魔する粘液程度の効果しかない。もがく彼女を包み込むようにして毒を操り、しかしスノーホワイトが構え、力を込めて床を蹴りつけた。震脚だ。床に放射状の亀裂が走り、衝撃波で毒液が吹き飛び撒き散らされる。

 阻害がなくなった瞬間、風を切って距離を詰めてくる。対するパムも羽を手元に集め、迎撃の体勢をとる。薙刀が振り下ろされ、かと思いきや振り上げられ、反撃の蹴りを放ち、躱し、躱され、潜り抜けた薙刀の隙を狙う。

 

憎悪(マステマ)

 

 3枚を一挙に使った穿孔の技を放ち、スノーホワイトは薙刀の柄で受けて逸らし、後方に流す。そして再び間合いを詰めた格闘戦だ。拳、蹴り、拳、交差する互いの肉体。攻撃を受け止めた手が衝撃で痛む。振り上げようとした脚が踏みつけられて止まり、見上げた瞬間にはもう薙刀が来ていた。残り1枚の羽による防御を間に合わせ、その受け止めた羽を粘液に変え絡めとる。そして未だ回転を続けている穿孔機を呼び寄せる。スノーホワイトの背中目掛け、壁を抉りながら飛来し、突立つ。

 

「ッ……!」

 

 スノーホワイトの表情が僅かに変わる。歯を食いしばり、注意が羽に向いた。背中を抉らんと回転するスクリューは肉を巻き込むことなく、ただ虚しく空回りを続けた。が、パム自身がその際に放った拳すら回避されず、スノーホワイトの顔面を打つ。硬い。しかし当たっている。殴りつけられて初めてこちらを見ると、彼女は力任せに振りほどき、たたき落としたスクリューをまとめて踏み砕き、大振りな振り下ろしでパムに向かってくる。躱した先で床が砕け、土煙が激しく舞った。

 

 ──どうやらここは、我々には狭すぎるらしい。であればと、パムは少しだけ、周囲を顧みないことにした。粘液の羽を呼び戻し、分裂させ、うち2枚を使って光球を生成。2つを回転させて相互に威力を高め合わせ、爆発的な力として──放つ。

 

明けの明星(ルシファー)

 

 二重の連星が爆ぜ、パム自身は羽を纏い外套として衝撃を防いだ。スノーホワイトごと周囲は光に飲み込まれ、壁や天井が容易く破砕される。これでスノーホワイトがやれるとは思っていない。案の定傷ひとつない、が、戦場は一気に広くなる。外套から槍に変えて放ち、同時に自身も仕掛けた。槍が砕かれる寸前に炎にして防御を貫き、浴びてなお平然とするスノーホワイトに掴みかかる。襟首を掴み、上空へと投げ飛ばすのだ。天井の残骸を砕き、放り出されるスノーホワイト。空中で体勢を整えようとする、そんな暇を与えないため、次の一撃はもう番えてある。

 

流星(コカビエル)

 

 次々と飛来する隕石。ひとつめは薙刀が両断、ふたつめは拳で迎撃し爆発、そこへみっつめが直撃。爆炎をあげ、炸裂する。放り出されたスノーホワイトは黒煙を吐き出し、こちらを見た。その目の冷徹に変化はない。彼女は現身がゆえの脚力で宙を蹴り、衝撃波で己を動かした。つまり、空中を蹴った。パムもまた床を叩きつけるように踏みしめ、上空へ飛ぶ。一直線にスノーホワイトと接敵、振るわれた刃を背中の──普段隠している、パム本来の羽を少し大きくし、羽ばたきの揚力で避け、組み付いた。振りほどこうとするスノーホワイトに殴り掛かり、回避され、今度はスノーホワイトの拳が来て、羽で受け流し、今度はパムが拳を放つ、繰り返しだ。

 けれどただの繰り返しではない。発生が見切られている、それならそれでいい。スノーホワイトが心の声を読むならば、無意識の外から攻撃するだけだ。

 スノーホワイトもようやく気がついたらしい。パムから目線を逸らし、周囲を見回そうとした。余所見をさせるパムではない、アッパーカットで顎を揺らしにかかり、スノーホワイトは手で受け止めた。純粋な握力で潰そうとしてくるが、それよりも先に──パムの背後から飛来した羽が到達する。

 自律させパムの意識から切り離してしまえば、そこに心の声はない。鋭い槍がスノーホワイトの鎖骨に突き立った。皮膚を破り、血をわずかながら飛沫かせる。深々と突き刺さることは叶わず、それまでだった。が、スノーホワイトに血を流させた。恐らくだが、読心能力と遮断能力は同時には使えない。現身の魔法を無理やり上乗せした弊害だろう。わずかだが付け入る隙がある。

 

 パムはその成果に笑みを浮かべていたが、直後、痛みが走る。握られていた左手が薙刀にやられた。切断するつもりの刃は骨に阻まれていたが、一刀で切り捨てられぬと見るや否や腱を潰している。力が入らない。なるほどそう来るか。羽をひとつ呼び戻し、傷ついた手に巻き付ける。グローブ状にした羽からさらに爪を生やし、拳でなくとも武器を用意する。

 肉を切らせて骨を断つつもりが、切らせたのは腱、断ったのは皮だけ。上等だ、まだまだ終わらない、タネは割れた、ここからが本番の──。

 

「……は?」

 

 腹部に走る痛み。薙刀ではない。格闘の打撃ではない。熱い。灼熱だ。上空に昇ってゆく光を見て、それが何であるかを理解した。パムを撃った者がいる。

 地上を見る。こちらに迫っている。杖とその先のランタンを振り回し、光を放つその姿。知っている。

 

「光線使い……ッ!」

 

 エーコ・EX・ランタン、かつてパムが手ずから葬ったはずの相手。なぜここにいる。いや、同じ魔法を持つだけの別人か。どちらでもいい。今は構っている暇はない。向かってくる彼女の光線を左手の爪で引き裂いて潰し、羽のひとつを流星(コカビエル)にして彼女にぶち当てる。跳躍でしかなかったがゆえに回避できず、爆発とともに彼女は墜落していった。

 が、一瞬の対処は最低限。問題は、この後だ。

 

「ッ……巨大な門衛(ハダーニエル)!」

 

 グローブにしていた羽を壁にして、スノーホワイトの振り下ろしを防ぐ。衝撃は重い。核攻撃にさえ耐える巨大な門衛(ハダーニエル)があってさえ揺さぶられる。撃ち抜かれた腹に羽を回し、溢れようとする体液を止める。止血は最低限でいい、今はスノーホワイトを。壁を解除すると同時に爪に戻し、彼女を切り裂こうとし、受け止められた。押し返され、掴まれ、回転により勢いを加えて地上に投げられる。自分が流れ星にされたかのように地面に打ち付けられ、それでもパムはすぐさま立ち上がり、飛翔しようとした。

 その羽が、またしても焼け付く痛みに襲われる。振り向いた。エーコ・EX・ランタンだ。傷だらけの彼女が、それでも光線を放ち、パムの羽を貫いていた。既に次を振りかぶっている。羽は自律させたのが2つ。左腕に纏ったのが1つ。止血に使っているのが1つ。自分に回している2つを動かし、スクリューに変えて、その直後にスクリューが砕かれる。スノーホワイトの使っていた薙刀が、あろうことかここに投げ落とされていた。双方の羽は両断し破壊されている。自律した羽を呼び戻すのは──遅い。上空で、スノーホワイトは自らを狙った羽2つを破壊し終えている。目の前でランタンに集った光が、膨れ上がる。まだ間に合うか。本体を、一撃で潰す。

 

 そうして踏み出して、声がした。

 

「『動くな』」

 

 体が硬直し、振りかぶった拳が止まり、そのまま、パムの体を光が貫いた。

 

 今のは、スノーホワイトの──そうか、まだ、奥の手があったのか。心の声を読む彼女はこの横槍が来ることまで知っていて、必殺の瞬間を待っていたのか。楽しみ過ぎた、ということなのだろうか。

 

 腹の孔から命が溢れ落ちる。スノーホワイトが、すぐ目の前に降り立つ。彼女は地面に刺さった薙刀を抜き、それだけだった。そこに勝利への感情は存在しなかった。

 

 魔王パムの意識は名残惜しさと共に沈んでいく。二度と浮かび上がらない。

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