魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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バスト
32.姫君の歩み


 ◇メルン・チック

 

 傭兵魔法少女たちはシャッフリンとの交戦の末、ひと仕事終えた気分で、別格の1戦を呆然と見守っていた。体力的にも実力的にも、そもそも手を出せるような状況ではなかった……というのは言い訳だ。魔王ならば負けることはないだろう、と皆が思っていた。普段通りならばそうだ。

 そう、普段通りだったなら。

 

 さっきまで上空でスノーホワイトと派手にやりあっていたはずの魔王パムが、墜落したっきり、スノーホワイトに向かっていく気配すらない。

 現身であるスノーホワイトは、脱出まで彼女が抑える予定だった。いや、彼女でなければどうにもならない。人質の救出は終わったのか。魔法の端末には誰からの連絡もない。プフレは、プリズムチェリーはどうなっている。

 メルンは慌てて魔法の端末を開き、キーパッドを叩き、しかし返答はない。既読をつける余裕もないか、あるいはとうに失敗しているか。

 

「ああもうっ、成功してるなら! 報告くらいしてよ!」

「成功してないんじゃあ……」

「縁起でもないこと言わない!」

 

 だがここまで脱出の合図がないのは、メルン達を不安にさせるには十分すぎる。

 

「そろそろ、雇い主関係なくとんずらこかないと……生きて帰れるか怪しいんじゃない?」

 

 パトリシアが呟いたのに皆が同調する。魔王はどうなった、魔王でダメならあれどうするんだよ、勝てるわけない、なんて声が口々に聴こえる。しかし最悪なことに、巻き起こっていた土埃の向こうから、こちらに来る人影がある。手には薙刀。バラの花が揺れている。スノーホワイトが、こちらに向かっている。侵入者を逃がさないつもりか。雇い主からの連絡は──。

 

『すまないがもう少し時間が必要になった。頼りにしている』

 

 ──最悪だ。パトリシアと顔を合わせ、続いてキューティーミントと顔を合わせた。もうこうなったらとんずらをこくことすら困難だっていうのに。

 

「ミント、研究所に戻って! 皆の脱出の手伝いをお願い!」

「えっ、あの、雑草、邪魔ってことですか」

「なわけないでしょ!?」

 

 この場はメルンで引き受けるしかない。ミントに無理はさせたくないが、よく考えればスノーホワイト(こっち)の方が『無理』だ。ここにいる皆には見事貧乏くじを押し付けることになるのだが。皆に目配せをして、静かに頷かれる。ダークキューティーでさえ何も言わず引き止めない。ミントは何かを言いかけて、唇を結んで駆け出した。素直な子で助かった。

 

 けれど、スノーホワイトは見逃さない。その冷たい眼はこちらの最悪を選び取ってくる。

 

「『跪け』」

 

 脳裏に直接響いてくる声。優しい声質だというのにその威圧は心の底まで突き刺さる。その瞬間、魔法少女たちは一斉にスノーホワイトに向かって片膝をついていた。体が動かない。魔法は使えるか。いや、綿なら動かせる。ぬいぐるみの3人には心の声の効力が及んでいない。ドッチウィッチのぬいぐるみに『駐車禁止』の標識を使わせ、ミントを強めに叩かせた。止まるな、という命令によって拘束を解かれた彼女はすぐその意図を理解してくれたらしく、駆け出していった。

 スノーホワイトがそちらへ目を向けるとほぼ同時、ダークキューティーは指先だけを動かし、生まれた影をスノーホワイトに向けて飛ばす。獣型の影は飛びかかった末にスノーホワイトの薙刀が切り裂いてしまうが、そこへ殴り掛かる少女。大きな手錠をメリケンサックめいて振るうパトリシアだ。彼女は自力で命令に抵抗したらしく──スノーホワイトが防御に回った瞬間、重圧が軽くなる。

 

「みんな……!」

「殴るしかない、でしょ!」

「暴走した正義を止めるのが悪役でもいい」

 

 頼もしい連中だ。──ペリング達の()()がまだ入っていたら、同じように笑ってくれただろう。そうだ、無理やりにでも綿が動くのなら戦える。パトリシアが仕掛けるのに合わせてゴム毬を連打、効くことを祈り、しかし手錠を逸らして薙刀を回転させた彼女には届かなかった。パトリシアの魔法はあの手錠。いくらスノーホワイトと言えども捕まれば動けなくなるはず。その隙を作らせるため、ペリングもドッチも投入し、他の魔法少女たちもまた何も言わずともパトリシアの援護に入ってくれる。

 対するスノーホワイトはこの状況においても冷徹だ。向かってくる魔法少女を次々と叩きのめす。柄で打ち、奪った武器で殴りつけ、パンチで昏倒させ、ひとりひとり倒れていく。なんとか援護して止めようとして、向かわせたドッチが標識ごと吹っ飛ばされ、地面にめり込んだ。ああなったらそのままでは動かせない。メルンは自ら引っ張り出しに行くべく動き、戦場から離れざるを得ない。

 が、ここで仕掛けたのはダークキューティーだ。彼女は影の茨による拘束や影絵の獣を呼び出しての攻撃を繰り返し、スノーホワイトの注意を己に集中させる。それでも『心の声』を抜かれるのは避けられず、攻撃はまともに当たらない。異様な柔軟性を誇るダークキューティーでなければ回避できない角度での打撃が飛んでくる。上体を逸らしたスレスレを薙刀の柄が通過して、空を切る。すぐさま上体を戻したダークキューティーが手を挙げ、伸びた影が実体化、スノーホワイトの脚を捕まえ、そこへ仕掛けるのはパトリシアだ。

 彼女に枷をかけようと振るわれる手錠。それでもまだ、薙刀で受け止められた。

 

「『手を離せ』」

 

 心の声が押し付けられ、パトリシアの手から力が抜ける。魔法の手錠が地面に転がり、それでも素手での攻撃に切り替えたパトリシアに、腹部への肘打ちが突き刺さった。彼女がよろめいたその時、さらに薙刀が一閃。放たれる寸前だった影絵の虎がダークキューティーの腕ごと切り裂かれた。黒の中に赤が散る。

 さすがのダークキューティー、傷は浅く、自身は一切構わずに戦闘態勢のままだ。だがまともに腹への一撃を貰ったパトリシアはかなりのダメージで、彼女をマーリーの両腕で受け止めさせたが、すぐには立ち上がれない様子だった。

 

 この短時間でこれか。どこまで稼げるだろう。ミントが間に合わせてくれることを信じるしかない。歯を食いしばって、ドッチウィッチの手を引っ張りながら、失いたくないという思いだけがメルンの思考を支えている。

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