魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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33.立ち上がる者と

 ◇キューティーミント

 

 研究所の中に戻ってみると、そのほとんどは酷い有様だった。戦闘の跡で瓦礫まみれで、悪い足場を無理やり駆けていく。誰かがいる気配はほとんどなかった。敵の戦力は、アルファベータが沈黙し、シャッフリンがいなくなったことで出てこなくなっている。一方でプフレやプリズムチェリーと一向に合流できないのも気がかりだった。まさかとは思うが、やはり全滅してしまった……とか。そうなるとミントが来ている意味はあるのだろうか。遺体を哀れみ連れ帰る余裕は、残念ながら無い。

 

 ドッチウィッチの標識、つまり彼女を指揮するメルンにしばかれた背中がヒリヒリするたび、メルンからの声援を思い出す。ミントは託されたのだ。頑張らなければ。にしてもちょっと強めだったけど。

 

「……? あれって」

 

 恐らくは魔王パムによって破壊されたらしき区画から入ったところ、そのすぐ近くで、ただ呆然としている魔法少女を発見した。少なくとも突入の時には見かけていない。騎士っぽい、水着っぽい格好の魔法少女だった。傍らには剣が落ちている。腕を怪我していて、慌てて駆け寄った。

 

「あ、あの、大丈夫、でしょうか」

「……誰?」

「ひえっ、あの、ざ、雑草なのでその気にしないでいただければ……お怪我をされているようなので……それに脱出しないと、ここは危ないかなと」

「あんた、侵入者でしょ」

 

 その言い方、つまり彼女はアルファベータ側、こちらの敵だ。確かにアルファベータと同じように、頭にティアラが、首元に赤と金の宝石がつけられていて、キラキラと輝いている。

 

「……あたしは今は……戦う気、ないから。見逃したげる。ほら、早く行ってよ」

 

 そう促されて、目を逸らされた。本当にそれでいいのだろうか。腕の刺傷は深く、出血量は床に小規模ながら血溜まりができるほど。このまま放置していてはいけないという感覚が強く、見ない振りはできなかった。確かにプフレやプリズムチェリーのことも不安だが、目の前の助かる負傷者を見捨てるなんて、キューティーヒーラー見習いとしては考えられなかった。

 

「あの」

「……何」

「一緒に行きましょう。脱出のお手伝いならしますから」

「いらない」

「……でもこのままじゃ」

「いらないんだよ……あたしは、ただの、玩具だったんだ」

 

 彼女は床に目線を落とした。なんだか──ミント自身が鏡を見ている時と、似たような目だ。雑草は雑草だ。きっと彼女も己が、思い描いた『魔法少女』だとは思えていない。だけど、それでも、ミントは声援を得た。雑草でも、ライトを振ってもらった。背中を叩いて、託してもらったのだ。

 

「……でも。それでも、見捨てることはできません。こ、これでも、雑草でも、キューティーヒーラー、やれてます、から。希望、捨てないでください。玩具にしか思えなくても、玩具には玩具なりの……何か、ありますよ」

「玩具玩具って、自嘲したのはあたしだけど……連呼するの、失礼じゃない?」

「あっ、それはそう、かもですね、はい」

 

 できる限り格好つけようとしても、やっぱり雑草では格好がつかないらしい。少女の言葉に結局、反射的に縮こまってしまった。けれどそれを、彼女は笑ってくれた。

 

「キューティーヒーラー……か。昔、見てたっけ……本物、なんだ」

「……はい! どこでも萌える雑草魂、キューティーミント……です! あっ、ま、まだ、放送前なんですけど」

「そっか……じゃあ……本物のキューティーヒーラーが攻めてくる、ってことはさ。あたし達が、悪の組織だったんだ」

 

 悲しい呟きだった。アニメのお約束と現実は違う。必ずキューティーヒーラーが戦う相手がそうとは限らない。けれど、類型に当てはめるなら、そのように解釈することだってできる。オスク派による誘拐や殺人は悪の組織と言って差し支えない所業だろう。どう返していいのかわからず、ミントは言葉を詰まらせた。

 

「あのさ」

「……はい」

「止めたい奴がいるんだ」

「止める、ですか」

「あいつが嘔吐くところなんてもう見たくない。こんなこと、したくないはずなんだ。だから、あたしはあいつの心を守りたい」

 

 少女が落ちていた剣を手に取った。握りしめた剣を杖にして、立ち上がろうとする。腕から流れる血が、力を込めたことで噴き出しても、構おうとしない。

 

「スノーホワイトを止める。だから、あたしをスノーホワイトのところに連れて行ってくれ」

 

 ──スノーホワイト、あの魔王を墜とした脅威。あの冷たい眼、放つ重圧は凍てついた心の表出かもしれない。その心に手を伸ばせるというのなら、攻略の糸口になる。残してきたメルンたちを助けることもできる。戦う相手がいなくなってしまえば、急いで脱出する必要もない。目の前の彼女の覚悟を尊重するため、ミントは頷いた。

 

「……わかりました。でも、その前に」

 

 ミントの『種を撒く』魔法は様々な植物を芽吹かせることができる。自分の体で発芽させ、成長、体表に葉っぱと蔓を生やす。それをちぎって、少女の腕の傷口に貼り、巻き付けた。これで包帯代わりにはなるし、ちぎれた葉からでも血を吸って成長することで傷口に癒着して塞ぐことだってできる。鎮痛作用のある薬草も使った。少なくとも、剣を握るには問題ないくらいにはなるはずだ。

 

「すごいね、あんた」

「……い、いえ、雑草としてできることをしただけです……」

「……あたし、プリンセス・ナイト。よろしく、キューティーミント」

 

 治療された側の手が差し出され、握手を求められた。いつもの雑草なら恐れ多くて、誰からの握手でも取れなかっただろう。けれど、彼女はミントにキューティーヒーラーを見てくれている。らしくあらねば。互いの手を握り、ミントは予定を変更、来た道をナイトと共に引き返す。

 

 

 

 ◇シャドウゲール

 

「あそこだ!」

 

 プフレが車椅子を走らせて、落下地点に急いだ。衝撃のせいでクレーター状になった場所の中心で、倒れている少女がいる。プリンセス・ランタンだ。すぐ近くに半ばドリフトしながらの急ブレーキで止め、放り出されるようにして着地したシャドウゲールは無我夢中で駆け寄った。

 半狂乱であり敵か味方かも定かでないままだった彼女のもとへ急ぐのに、プフレは難色を示した。押し通したのはシャドウゲールの我儘だ。魔王パムによって撃墜された彼女が生きている保障はなかった。それならそれで、せめて、祈りは捧げたかったのだ。

 

「絹乃宮さんっ!」

 

 倒れていたランタンを抱き起こし、呼びかける。ダメージは大きく、その目の光は消えかけていた。

 

「……魔王、は……」

「死んでいる。間違いない」

 

 プフレは冷静に、付近に転がる魔王パムの遺骸を調べていた。ランタンが放った光線は確かに彼女を何度も貫いており、腹部に空いた風穴から血溜まりが広がり、そのままだ。パムは動かない。

 

「よくやってくれたよ。魔王の排除はこんな瞬間でもなければ遂げられない偉業だとも」

「……ちょっ、ちょっとお嬢! まさか」

「こうなるとわかっていたわけがないだろう。計算に入れていなかった、とは言わないがね」

 

 ──プフレ、及びシャドウゲールは、魔王パムと会ったことがある。クラムベリーによる殺し合いの試験を受けるよりも前、かつて見習いだった時、自分たちを狙って現れたジップステップ(宍岡守)エーコ・EX・ランタン(宍岡衛子)を追って参戦。激しい戦いの末、ジップステップとエーコが落命したことで事態は終結した。

 魔王パムには助けられたようでいて、かつての従者であり、少なくとも身内であった宍岡姉妹の死を作った人物だ。或いは私怨だったのか。魔法の国を奪る上で目の上の瘤であったことには、間違いなかったかもしれない。

 

「……そう。やり遂げたんだ……」

 

 それは安堵だった。復讐を終えた達成感かもしれない。そもそも、魔王パムに向かっていったのは、絹乃宮さんに取り憑いた衛子が復讐をしたかったから、だろう。それを終えた時、衛子の亡霊は少し弱まっているのかもしれない。

 ──不意に、ランタンの変身が解けた。そこに残っているのは、学校で見た事のある少女、制服のままの絹乃宮さんその人だ。カランと転がったハート型の宝石は紅色の輝きを放っていたが、亀裂が走っていた。何であるかは理解できなかったが、何気なくポケットにしまいこみ、絹乃宮さんを抱き上げる。息はある、脈拍もある。

 

「連れていくのかい」

「生きてる学友ですよ。置いていけるわけないじゃないですか……お嬢も離れないでくださいよ」

「わかっているとも」

 

 生身である状態の絹乃宮さんのことを考えると、プフレの車椅子に引っ張られるいつものスタイルでは彼女がちぎれて終わりだ。シャドウゲールが抱え続けるほかないだろう。

 行ってしまった、オクターヴだったあの子のためにも、彼女だけは日常に帰してやりたい。

 

「しかし」

 

 ふいにプフレが口を開く。

 

「今日の君は本当に我儘だな」

 

 言われた通りかもしれない。プフレに無理を言ってでも、彼女のためを通そうとするのは、自分でも変だなという感覚があった。

 

「宍岡さんが、ちょっと感染ったんじゃないですか」

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