魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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34.唯一無二の手を

 ◇プリズムチェリー

 

「魔法少女反応、このエリアにはないぽん」

 

 インフェルノを探して回り、けれど手がかりはなかった。デリュージが所持していたスノーホワイトの端末、及びその中にいた電子妖精マスコット・ファルの協力で、監視カメラや魔法少女センサーを使った捜索に切り替えたはいいものの、帰ってくるのはこの周辺ではないという結論ばかり。それを何度か繰り返して、残っているのは魔王パムが先行したエリアくらいだ。

 戦闘は既に激しく行われていて、もしそちらに居るというなら、巻き込まれているかも。早く行かなければならない。

 

「ごめんね、ファル。スノーホワイトのことは後になっちゃって……」

「問題ないぽん。そのインフェルノとスノーホワイトは一緒にいる可能性が高いぽん、自ずとスノーホワイトのことも見つかるぽん」

 

 ふたりも仲間を奪われて、それでもゲヘナを退けて、最後のインフェルノだけはと、思っていたその最中だった。デリュージもフォーシーズンズも、再び死地に飛び込む覚悟はできているはず。あとは、チェリーが行こうと言うだけだった。もうあの日常は帰ってこない。それでも全てを失いたくはない。

 けれど、その時。視界の端で黒い影が蠢いたかと思うと、彼女は目の前に現れた。

 

「よかった、無事だったんだ!」

 

 そこにいたのは、探していたインフェルノではなく、共に突入してきた仲間でもなく。笑顔を浮かべ手を振る、プリンセス・テンペストだった。

 

 ──テンペスト? 

 

 一瞬受け入れそうになり、脳が混乱する。テンペストがどうしてここに、無事に立っている。だって、だって彼女は。

 

 迷っているうちに刃がテンペストに向かって振り抜かれ、笑顔が崩れる。フォーシーズンズだ。彼女は迷うことなく刃を抜き放っており、続けて何度も偃月刀を差し向け、追い詰めていく。ついに刃がその肌を切り裂いた時、傷口から溢れ出したのは赤ではなく、黒だった。ゲヘナが消えていった時と同じだ。

 

「また同じ人に殺されるところだったよ」

「……あんた、センスないわよ。さっき死んだ奴に化けるなんて」

「もっと揺さぶられてくれると思ったのに」

「お生憎様ね!」

 

 テンペストの姿にノイズが走り、次の瞬間には、事切れた時と同じ、胸元の傷と血の跡が現れていた。さらに溢れ出した暗黒が周囲を包み込むように広がっていく。暗黒の中からはさらにクェイクや、見覚えのあるクラスメイトの姿も吐き出されていき、気がつけば取り囲まれている。ゲヘナだ。彼女はまだ生きていて、その闇を操る魔法で飲み込んだものを、ここに吐き出している。目の前に並ぶ見知った顔の少女たちは、口を揃え、一斉に同じ声で言葉を浴びせてくる。

 

『どう? これがあなた達に助けられなかった地獄』

『地獄はまだ終わらない』

『地獄はあなた達を許さない』

 

 苦し紛れに、手鏡から太陽光を放った。やはり、通じない。闇が深すぎるのだ。そんな抵抗を嘲笑って、ゲヘナの闇がより広がっていく。彼女に構っていられない、こっちはインフェルノを助けたいんだっていうのに。強く手を握った瞬間、暗闇の中から刃が飛び出し、咄嗟に避けられなかった。

 

「ッ!?」

 

 飛来したのはテンペストのブーメランだ。飛び込んできたフォーシーズンズが刃を当てて、なんとか軌道を逸らし、だが逸らしきれずに彼女に突き刺さった。抉られた腕から血がしぶいて、しかし彼女は氷の魔法で無理やり止血、武器は構えたままだ。

 

「っ、躊躇うな! こいつらは全部ただの死体! 助けに行くんでしょ!」

 

 もうゲヘナは敵でしかない。デリュージも少しだけ踏みとどまったが、歯を食いしばり、クラスメイトの姿をしたゲヘナに槍を突き立てた。抵抗せずに貫かれるその姿は学校で見掛ける姿そのものだ。プリズムチェリーにとってはクラスが同じだけの他人でも、デリュージにとっては交流のあった相手のはず。それを貫くのが、どれだけ辛いか。プリズムチェリーにはわかってあげることができない。

 

 そうこうしているうちにクェイクが向かってくる。振り上げられたハンマーから逃げて、叩きつけの衝撃を受けて転んだ。クラスメイトたちが集まってくる。囲まれている。突き飛ばして駆け出して、せめて道が開けたらと、ゲヘナの闇に向かって駆けていく。一点に集中すれば、チェリーの光でもなんとかできないだろうか。祈りを込めたチェリー・フラッシュは、放とうとした時、誰かに体当たりされて中断された。振り向くと、フォーシーズンズが立っている。傷が増えていた。いや、傷とは違う、首元が抉られている。腐食されたかのように黒く変色し、煙をあげている。出血もない。あれは──クランブルの魔法だ。彼女の肩の向こうには、ゆらりと、クランブルの姿になった少女が、関節の限界を超えて無理やりに振り向いてくる光景があった。

 クランブルが接近してくる。フォーシーズンズは一切退かず、背中の羽を武器に変えて、躙り寄る彼女を串刺しにする。それでも動いてこようとするクランブル。壊れた人形のように、人体の負荷を無視して迫ってくる。伸ばしてきた腕を偃月刀で切り飛ばし、風化の魔法はどうにか止めた、かと思った時、切断した手首を闇が飲み込み、次の瞬間には──プリズムチェリーの頭上に吐き出していた。

 呆然としていたのを振り切って走った。なんとか床に落ちた手首はその手のひらから黒煙をあげている。また再利用しようと闇が蠢くのを見て、今度こそと手鏡から太陽光をぶつける。密度の薄いものであればまだなんとかなる。霧散して、切り落とされた手首は切り落とされたままになった。

 

 けれど。どれだけ傷を受けても、クランブルが仕掛けてくるのには変わりはなかった。腕を自らへし折ってでも、手が伸びる。予想外の動きにかわしきれず、今度はフォーシーズンズの脇腹が抉られた。内臓が傷ついたのか、殴って蹴って距離を取った後によろめき、血を吐いている。傷が深い。4本の武器を集め、うち3本を突撃させて時間を稼ぎ、偃月刀を杖にして立ち上がろうとして、力が抜けていた。

 

 目の前に、偃月刀が転がってくる。インフェルノが使っていたのと同じ形だ。フォーシーズンズは倒れ、辛うじて息をしている。クランブルは三叉槍にブーメランにハンマーが不規則に襲ってくるのに苦戦し、防ぎきれず三叉槍に貫かれた。凍てついて動かなくなるのを見届けながら、プリズムチェリーは手を伸ばし、その刃を拾い上げた。

 

 向かう先は闇の中だ。ゲヘナの本体がいて、それさえどうにかしたら、この戦いは終わるかもしれない。そんな、そうであったらいいなんて勝手な思いで突っ込んだ。炎の刃が熱を放ち、赤熱の光が闇を裂いたが、それを許すゲヘナではない。蠢いた闇はプリズムチェリーの足元を掬いあげ、偃月刀を奪い取ると、どうにでもできただろうに、ただ放り捨てた。

 

 床に投げ捨てられたプリズムチェリー。目の前には、動く死体、ゾンビ状態のクラスメイトたち。彼女らは虚ろな目のまま、闇に従い、プリズムチェリーに集ってくる。手を押さえられ足を押さえられ、相手は魔法少女ではないはずなのに、ゲヘナの仕業か、チェリーの膂力では動けない。床にぐっと押し付けられたまま、見せつけられたのは、クェイクと戦うデリュージだった。

 ラグジュアリーモードは使い切って、本来ならもうとっくに気絶しているだろうに、彼女は必死にハンマーをいなして氷を放って戦っている。けれど、捕まえられたプリズムチェリーを見ると、目を丸くして、その隙のせいで殴りつけられた。

 

『あなたのせい』

 

 クェイクの体が倒れたデリュージを踏みつけ、ゲヘナの声で囁く。

 

『あの子も立ち上がれないみたい。あーあ。奈美ちゃんのせいだよ』

 

 違う。ここまで付き合わせたのは全部、プリズムチェリーだ。何も出来なかった、何にもなれなかった、桜が悪い。

 

『今度こそ……貰うね? 奈美ちゃんの、大事なもの』

 

 プリズムチェリーの首に、誰かの手がかけられた。この綺麗なネイルはきっと、クラスメイトの──なんて考えている暇もなく、ぐっと、力が込められる。息が苦しくなる。やめてと悲痛に叫ぶデリュージだが、ゲヘナはむしろ気持ちよさそうに笑い声を響かせて、より力を込めてくる。頚椎が軋んでくる。

 

「ッ……行っ、け……!」

 

 偃月刀が宙を舞い、炎を放ちながら、プリズムチェリーの首にかけられた手を切り裂き、床に突き刺さった。その柄に括り付けられた四葉の宝石には、見覚えがあった。フォーシーズンズのものだ。彼女の方を見ると、その変身は解けていて、けれど口から血を吐いているのは同じ、どころかさっきより酷くなっていた。

 

「……それ。あげる、わ」

「えっ……でも、それって」

「いい、から……多分、無理、させちゃう、けど。守れるのは……あなたが、唯一無二、なんだから。頼んだ、わよ」

 

 言葉に押されて──手を伸ばした。いくら群がられても、押さえつけられても、必死で手を伸ばす。探し続けた唯一無二の四葉に、届くまで。

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