魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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エピローグ
38.ラードとミントのサンデイ


 ◇メルン・チック

 

 朝、8時頃。こんな時間からやっている屋台の暖簾をくぐり、座り慣れた簡素な椅子に腰掛けた。ペリングたちには、この狭い屋台では椅子を占領するのも悪いので、少し外で待っていてもらうことにする。

 大将の魔法少女に軽く挨拶代わりに、この双龍ラーメンの豚骨双龍無双の大盛りとビールを注文した。魔法少女でなければ朝からは絶対食べられないが、せっかく胃もたれも悪酔いもない魔法少女なんだからこのくらいしないと。

 

「はい、お待ち」

 

 相変わらず美味しそうだ。食べる前に、まず写真を撮る。持参した自作の『雑草ちゃんぬいぐるみ』をどんぶりの横に添え、撮影。なかなか映える写真になったのではなかろうか。出来栄えに満足したら、割り箸を割って、手を合わせた。レンゲでスープを軽く飲み、これこれ、と頷き堪能し、次に麺。ワシワシとした食感が心地いい。これをぐっとビールで流し込むのが、朝からメルンの心を潤す。

 

「朝から良い食べ飲みっぷりだ」

「こんな朝っぱらからラーメン屋やってるのが悪いんだからね」

 

 店主である"双龍"パナースとはそれなりの知り合いだ。魔王塾出身の彼女は、何やらライバルが魔法少女以外の業務──探偵事務所? らしい──を始めたとのことで、自らもラーメン屋台の営業を朝から深夜まで、約18時間に変更し、さらにメニュー開発に明け暮れている……という。ストイックで何よりだ。そんなに屋台に情熱を注いで、魔王塾卒業生としてはどうなんだと思われていそうだが、実際味は良くなっている。メルンが首を突っ込むことではない。

 

 そうだ、魔王塾。

 

 先日メルンも巻き込まれた事件によって、魔王パムもまた命を落とした。彼女を圧倒的なエースとしていた外交部門は大騒ぎになっている。それもそうだ。魔王パムほどの存在ともなれば代わりが見つかるわけがない。

 

「後継者を決めるとかなんとか言ってたのはどうしたの、出ないの?」

「今はそれどころではない」

「普通逆でしょ……」

「そちらこそ、傭兵団のリーダーだろう。仕掛けてもいいのではないか?」

「……リーダーだけど。メンバー全員ぬいぐるみにしちゃったし、増やすつもりもないから」

 

 メルンの率いていた『Ennui Groomy』は壊滅した、と言っていい。ペリングもマーリーもドッチも死んだ。死んでなお、メルンの力になってくれた。彼女らのために名は残すし、ずっとリーダーでいるつもりだが、それ以上を求めるのは、やるとしても、まだ先のことだ。

 

 パナースのこだわりが詰まったチャーシューを一口食べ、このくどめの味付けがビールに合うんだと評しながら、ふと屋台に取り付けられているテレビを見る。つけっぱなしになっているその画面には、時間的に、子供向けのアニメが流れていた。耳に残るフレーズ、そして現れるファンシーなロゴには『キューティーヒーラー』の文字。

 

「今って、こんな子達なんだ」

「……キューティーヒーラーか」

 

 オープニング映像を見ながら感想をこぼす。パナースも何か思うところがあるらしい──あぁ、そうか、確か双子星キューティーアルタイルが魔王塾出身か。なら少しは関わりがあるんだろう。

 画面の中にいるのは今放映中のキューティーヒーラーで、メルンの知っている魔法少女はここには出ていない。なのだが、きっとこのモデルになった子たちも、広報部門で働いているのだろう。アニメ化魔法少女らしい華々しい仕事から、表には出ない仕事まで。

 

 今頃、顔見知りのあいつはどうしているだろうか。あの性格で、どうやってアニメ化されるんだろうか。ため息をつき、懐から美少女ぬいぐるみであるところの雑草ちゃんを少しだけ取り出し、撫でた。

 

 アニメを見ながら、続きの麺を啜り、ビールを飲む。今日初めて見たシリーズのキューティーヒーラーだが、意外に面白い。これなら濃い味のラーメンにも合うじゃないか。

 

 そのうちに、メルンは雑草ちゃんぬいぐるみにライトを持たせ、パナースと一緒になってキューティーヒーラーの応援をしていた。我に返ったのは、エンディングで一緒に踊り終えてからだった。

 

 

 ◇キューティーミント

 

 広報部門の建物は複雑怪奇な構造だ。どの部門もそうなのだが、魔法の国はやっぱり雑草に優しくない。すれ違う魔法少女は皆華やかで気が引ける。なるべく廊下の端で邪魔にならぬよう縮こまって歩く。さらにいません、何もいませんよと心の中で念じていた。

 けれどもちろん誰からでも見える。ミントはあっさり話しかけられ、迷惑をかけたことを確信、瞬時に土下座の覚悟をし、振り向いた先にいた先輩の顔を認識するや否や頭を下げた。

 

「ごめんなさい!」

「ちょいちょい、怒るために声かけたんじゃないって」

 

 彼女はキューティーヒーラーとしての先輩、キューティーオルカ。『ストライプ』の白黒担当だ。ストライプは全員白黒担当じゃないか、という突っ込みを含めて、ここはストライプの鉄板ネタだ。とにかくそんな先輩がどうしてここにいるのか。それは広報部門所属なんだからいたっておかしくはないんだけど。わざわざミントに話しかける理由なんて、思い当たるのは先日のことだ。

 

「あ、えと、その……こないだの人事部門との合同の……のお話でしょうか」

「そうそう! 推薦したのオルカちゃんじゃん? だから、一応労っとこっかなって。お疲れ様、よく頑張ったよ〜」

 

 部門長のおじさんにはしっかり、4時間に及ぶ報告をしてある。だからいくら推薦してくれたとはいえ、キューティーオルカにはしなくていいと思っていたのだが、やはりしなくてはならなかったか。また頭を下げる覚悟の準備を、脳内で高速でしていると、オルカには笑われた。

 

「目、泳ぎすぎだよ。シャチくらい泳いでる」

「そ、そそそうでしょうか、雑草なのに、すみません」

 

 目を泳がせない方法がわからない。でも、先輩をガン見した方が失礼ではなかろうか。

 

「オルカちゃんは褒めに来たんだよ。魔王が死んで、あのいけ好かない悪役女でさえボロボロになるような任務で生還! なんて。さすがオルカちゃんが見込んだだけあるよ」

「で、でも、雑草はただ生き汚かっただけといいますか」

「生き汚いって、いいことじゃん?」

 

 雑草の取り柄は生命力だ。そこはオルカも買ってくれていたらしい。おかげで助けられた人もいる。ただ、だからといって、雑草は雑草。道端のエキストラで、華やかな主役とはかけ離れていると、今でも思う。

 

「あぁごめん引き止めちゃったね。これから何だった?」

「実はその……同期との初顔合わせで……」

 

 正直に言えば、怖い。ミントは人付き合いが苦手だ。キューティーヒーラーに決まった時なんて、昔の顔見知りにいきなり、キューティーヒーラー関係目当てで話しかけられたくないがために、広報部門関係以外の知り合いの連絡先を全て削除しブロックしたくらいだったのに。

 

「頑張って。仲間ってのは、大事にすれば応えてくれるものだからね」

 

 キューティーオルカの言葉で、思い出す人がいる。この間の仕事で、ミントのことを応援してくれた人だ。彼女は仲間を失ってなお、その絆で、宿敵を打ち倒した。あんなふうに、息絶えてなお繋いでくれるような仲間ができたら、きっと幸せだ。雑草にはちょっと、欲しがりすぎだけど。

 

「……はいっ!」

 

 元気を一杯に振り絞って、オルカの言葉に返事をする。

 

 ──おかげでその後に使うはずの元気を使い切ってしまったのだが、それはまた別の話。

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