◇メルン・チック
メルン・チックはいわゆる賞金稼ぎの魔法少女である。同じフリーランスの魔法少女たちとチームを結成し、『
手には動物のぬいぐるみ、ふわふわの衣装や小柄な体格は子供っぽく舐められがちだ。ただそれは他人を油断させる武器のひとつに過ぎない。これまでもそうやって生き残ってきた。『魔法の綿でぬいぐるみを作る』という魔法は、字面よりも戦闘・諜報の双方で優れている。でなければリーダーなどやっていられまい。
今日、依頼の話を持ちかけてきた顧客は大物だ。魔法少女界で世話にならなかった者はいない、魔法の国の魔法少女人事部門。そのトップである。いつだったか人事部門関係で仕事をしたことがあり、その縁だろう。
人事部門の受付で「メルン・チックです」と伝え、少し後、奥の方にある部屋にまで案内される。さすがは人事部門、無駄に広くて迷子になりそうだ。中では先に待っていた少女がいた。部屋の隅の何も無い場所を見つめ、明らかに居心地が悪そうに、椅子の端で座りにくそうにしている緑色の魔法少女だった。
「あの〜……」
「……っ!? す、すみません、雑草邪魔ですよね」
「いや、そうじゃなくて。部門長直々に呼び出されたんですよね」
「は、はいぃっ、そうです……人事部門長直々にしばかれることが確定している雑草です……」
「いや……確定はしてないです。私も呼び出されましたし、仕事の話かと」
「そうですかね……雑草に頼めるようなことなんて……」
そのままブツブツ何かを言い続ける少女。もしかして、この『雑草』というのが一人称なのか。明らかに面倒臭いのが見え見えで、そんな端に座らなくてもなんて言おうと思っていたのに、やめた。こいつには気を使ってもたぶん無駄だ。
部門長も、なんだってこんな奴を。そう思っていると、ちょうど扉が開く。人事部門長──プフレだ。車椅子を漕いで現れ、透き通るブロンドを揺らして、メルンとこの自称雑草女の前に移動してくる。
「よく来てくれたね。メルン・チック、キューティーミント」
え、キューティー……?
いやいや、まだ早い。キューティーヒーラーシリーズ関係者でなくてもその冠を使っている者はいると聞く。だから彼女がそうと決まったわけでは。
「今日、君たちを呼んだのは他でもない。数日前の爆発事故に関してだ。事故現場のK県S市を調査してほしい」
謎が解けることはなく、話は移ってしまった。気を取り直す。
話題に出た爆発事故の話は知っている。噂によると、魔王パムとオスク派の現身が行方不明になっている。なるほど、人事部門としては好機だろう。外交部門の権力の象徴である魔王の身に何かがあったのだ。死んでいるならそれで良く、死んでいないなら恩を売れる。
「無論、目標は行方不明者の捜索だ。特に魔王パム。彼女については生死を──いや、『遺体がどのような状態であるかも問わない』」
いや、ゆっくりと告げたのは、そういう意味なんだろう。メルンはそれこそ自分が選ばれた意味だと理解する。
この『魔法の綿』は、いわゆる剥製を作るのにも使うことができる。遺骸をぬいぐるみに仕立て上げることだって可能だ。
魔王パム相手にそれとは、とんでもない話を引き受けてしまった、というわけだ。最強の魔法少女を敵に回せ、と。だがこれが成功したなら、我らが『
「わかりました。私たち『Ennui Groomy』に任せてください!」
自分でも頼もしく聴こえるよう、リーダーらしく胸を張った。見た目が見た目なので、傍から見れば背伸びした女児なのだが。
「あ、あの」
そこへ緑の少女が、小さく手を挙げた。
「雑草は力不足なので帰っても……?」
「……は?」
何言ってるんだこいつは。いいわけないだろ。思わず声と顔に出てしまったメルンは慌てて引っ込めるが、プフレも驚かされたのは同じようで、表情は柔和なまま変わらないものの、少しの沈黙の後に続けた。
「……キューティーミント、君のことは聞いているよ。期待の新人で、ストライプからの推薦だそうじゃないか。広報部門から寄越されたエージェントじゃないのかい」
「雑草はそんな大した子じゃないので……雑草は雑草です……」
「『実力は保証する』と聞いているんだが」
「でも雑草ですよ……? 活躍すると思います……?」
「……私が言うのもなんだが、広報部門にも面目というものがあるだろう?」
「雑草を選ぶ時点で潰れてるといえなくもなくないですかね……?」
なんでそこでしつこいんだよ。そういう意味では雑草と自称するのはお似合いなのか。
そして今プフレの口から出たストライプや広報部門という言葉で、こいつがキューティーヒーラーであるということもほぼ確定となったのがまた眉を顰める原因だ。キューティーヒーラーに選ばれているということは、確かに実力はあるのだろう。それでいて態度がこれとは。
「そうだった。オルカからこういう時の話は聞いているんだった。メルン・チック、すまないが頼めるかな」
「? は、はい」
「これを」
プフレから渡されたのは玩具の、ライトだろうか。キューティーヒーラー系のそれなんだろう。光らせればいいのか。プフレとキューティーミントをそれぞれ二度見して、片手にぬいぐるみ、片手にライトを持ち、スイッチを入れた。思ったより明るい光が出る。
「応援してやってほしい」
「えぇ……キューティーミント! 頑張れ〜!」
やるとなったら、それらしく。メルンの幼い見た目を生かし、いたいけな女児のつもりでライトを振った。その光を目にした途端──雑草の様子が変わる。カッと目を見開いたかと思うと、これまでの居心地の悪そうな姿から一転、立ち上がって突然自分の頬を張りはじめる。
「……どこでも萌える雑草魂!! キューティーミント!! ……っはい、やっぱりやります、やらなきゃです、よね、はい」
急にやる気を見せたのはこのライトのおかげなのか。今回はこんな奴と仕事しなければならないのか。プフレの視線には哀れみもなく、何を考えているのやら。こいつが卑屈にやる気を失うたびにこれをやらなくてはならないと思うと、先が思いやられた。
「……とにかく、よろしく頼むよ」
「はい……」
メルンのチームにだって、どちらかといえば鼻つまみ者になる奴はいるが、フリーランスとして報酬金で生活をできるくらいの社交性はある。キューティーミントにはそれも感じられなかった。プフレに渡されたライトは活用してくれとのことで、仕方なく持っているぬいぐるみの中にしまいこむ。そして、一応もうする気も失せているのだが、挨拶しておくことにした。
「えっと……改めて、仕事仲間だね。私、メルン・チック。よろしく!」
「雑草は……雑草です。はい。雑草と呼んでください……」
「……キューティーミントちゃんだよね?」
「先輩方はそう呼んでくださいます……」
「新人ってことは、アニメはまだなのかな?」
「発表されたばかりで……広報にも入ったばかりなので……全部これからです……」
ちゃっかりアニメ化が決まっているなら尚更そんな態度を取らないでほしい。どれだけの魔法少女の憧れだと思っているんだ。広報部門の育成担当者がこいつの担当になってひっくり返る前に、この仕事の間に性根を叩き直してやった方がいいだろう。そうだ、そうしよう。メルンはリーダーだ。リーダーにはその役目がある。
「ミントちゃん。挨拶は! 目を見て返してほしいな。それに、名乗りがあるなら是非使った方が、印象深くなっていいと思うよ」
「雑草の印象が深くても……」
見た目は正統派のキューティーヒーラー、発育も良く魔法少女ゆえの美貌もある。なのにずっとこの調子。メルンの堪忍袋の緒は何本必要になるだろうか。少なくとも、一桁では足りないに違いない。