魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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6.セブンス・ドワーフ

 ◆アークプリンセス・スノーホワイト

 

 魔法使いたちによる検査や採取や撮影は何度も行われ、解放されたのは丸一日経ってからだった。早く終わってほしいと願っていた鬱陶しい検査だが、先程ようやくこれで最後ですと伝えられたのだ。経過は問題ない、らしい。自分でも、少なくとも肉体の違和感はない。

 

 ただ『自分がシェヌ・オスク・バル・メルである』ことと『自分が姫河小雪であること』の間には乖離がある。が、大した問題ではない。スノーホワイトの中のオスクは、それよりもスノーホワイトとしてすべきことを認識している。やらなければならないことがある、という感覚は変わらなかった。

 何よりも『私』は現身だ。人間とは違う。

 

 ついでに、煩雑な検査の中、肉体の変化を確認できたことは有り難い。『アークプリンセス』としての肉体は、ただのスノーホワイトだった頃とは比べ物にならない。破壊力、耐久力、速度、どれを取っても桁違いだ。これなら、今まで手が届かなかったことにさえ、無理やり手を伸ばすことができる。そのための肉体だ。

 身長や体重には変化がなかった。力の加減は急激な上昇に慣れない面もあるが、数値の変化に振り回されるようなことはない。

 

 検査を終えた医務室のベッドの上に腰掛けて、浮いた足を揺すりながら、何気なく手を握り、開いた。この手はもう非力ではない。どうしても掴みたかったものが何かは、不明瞭だが、きっと魔法の国にとっての希望のことだ。そういうことにしておく。

 

「姫様。よろしかったでしょうか」

 

 扉が叩かれ、声を出すよりも先に心の声で「問題ない」と答えた。開かれた扉の向こうからは、プリンセス・アルファベータが深いお辞儀をしながら現れる。

 

「検査も終わったようで何よりです。これから、戦力の確認、もとい、顔合わせをしようかと」

「誰かいるの」

「ええ。白雪姫を助ける7人の小人にございます」

 

 軽く心の声を聞く。確かに、アルファベータを含めて、付近には7つ。わざわざ白雪姫(スノーホワイト)に準えるため、7人も人造魔法少女を用意したらしい。付き合うことにして、アルファベータの案内に従い、廊下の端の一室に入る。中には6人の姿。先を行ったアルファベータが加わり、ちょうど7人、片膝をつき跪く魔法少女たちという光景が広がった。皆その頭上にティアラを戴き、宝石を輝かせている。目覚めたその瞬間にしてやった、現身に対して頭が高いという指摘は改善されている。

 

「何度も申しておりますが、改めて。我ら、姫様のために働く小人。姫様直属の人造魔法少女部隊とでも申しましょうか」

 

 姫様(プリンセス)シリーズなのは全員が同じだ。スノーホワイトを姫様と呼ぶ必要はない──が、上下関係を示すならそうなるか。

 

「直属。直接指示を出していいの」

「それはもちろん。そも姫様は現身、このオスク派に指示を聞き入れぬ者はおりませんが」

「そっか」

 

 納得し、魔法少女たちの間を抜け、奥に用意された豪勢な椅子に膝を揃えて腰掛けた。せっかくの顔合わせだ。自己紹介はひとりずつして貰う。直属の部下が何をできるのかは知っておいた方がいい。

 

「では僭越ながら私め(ワタシ)から。私め(ワタシ)はプリンセス・アルファベータ……とはもう名乗っておりますね。ではこの絵本でもご紹介いたしましょう。ここに取り出したるは何の変哲もない絵本。ですが……ですがなんと!」

 

 前に出てきたアルファベータは手にした古い絵本をパラパラと捲って見せた。中には『A』から『Z』までの1文字ずつ書かれておらず、読み物にはなっていない。そこから何が起きるのか見守っていたが──どうやら、今は何も起きないらしい。

 

「……どうなるかは、後のお楽しみとさせていただきます」

 

 味方に対しては使えない、使うと困る、なんて心の声がする。あれだけ振っておいてそう着地することに不満はあるが、まだ6人いる。次、と促して、アルファベータは控えさせた。2番目はプリンセス・ナイトだ。彼女のことは知っている。

 

「……プリンセス・ナイト。あんたの剣で、あんたの騎士……だけど。小雪はさ、それ、平気なの? なんか、女王様になってるけど」

「大丈夫。私は私だよ」

「ホントかな。で……あ、魔法ね。この剣、大きくなったり小さくなったりするよ」

 

 彼女が受け継いだと言っていた通り、ラ・ピュセルと同じ魔法だ。知っている。魔法のアイテムはとても頑丈で、おかげで剣にもなり盾にもなる。そう派手な魔法ではないが、ただ振り回すだけが剣ではない。

 

「必要になったら、頼むね」

「そりゃもちろんだけどさ」

「じゃあ次は」

 

 2番目が自然と右端にいたナイトとなったため、そこから反時計回りに回していくことに決める。ナイトの隣だったのは、継ぎ接ぎのボロ布をコスチュームに仕立てあげたかのような格好の少女。

 

「私? 私か! あはっ、やったぁ! はじめまして、姫様! 白き旋風、じゃなくて、えーっと、まあいいや! プリンセス・クランブル! よろしくね!」

 

 彼女は朗らかに、そして焦点のあっていない目で笑い、握手を求めてくる。アルファベータの敬いようとはまるで異なる。それにこのノイズがかかって聞き取りにくい心の声からするに──この手は取らない方がいい。スノーホワイトはこの椅子に取り付けられた装飾の一部をもぎ取り、握手に応える代わりに握らせた。瞬く間に金の装飾は急速に劣化、黒い霧に変わり、すぐに跡形もなくなってしまう。

 

「あ〜……私の風化の力、姫様の手でお披露目しようと思ったのに」

 

 やはり、はじめから敬う気すらなかったらしい。不信行為だ、間違いなくただのオスクであれば切り捨てている。ただ、スノーホワイトにはクランブルの奥にある恐怖が、目線の定まらない瞳孔から漏れ出しているように見える。笑顔だけはそのまま、くるくる回りながら、クランブルは元の位置に戻る。

 

 次の魔法少女はライダースーツの生地で作られた水着のような格好だった。黒くつやつやとした格好はボディラインを強調しており、身に着けたマントが魔法少女というにはヒロイックすぎる印象を与える。

 

「我が名は魔法少女プリンセス・グラビティ! 母なる黒き大地の代弁者『魔法少女』!」

 

 右手をビシッと高く掲げ、太い尻尾を少し揺らして、彼女は名乗りをあげた。周囲が沈黙に包まれる。いきなりのことでついていけなかったが、名前はプリンセス・グラビティだ。そこは把握した。

 

「……魔法は、名前の通り重さを操るわ」

 

 気まずそうにそうとだけ告げて戻っていく。名乗り口上の魔法少女は気にしないほど振り切れていることも多いが、彼女は羞恥心が残っているらしい。クランブルにばしばし背中を叩かれ、慰めとも煽りとも取れる言葉をかけられていた。

 

 スノーホワイトは視線を移す。

 

「あっ、私はプリンセス・オクターブ。魔法の楽器で演奏するのが得意! こっちはプリンセス・ランタンで……」

「……マモリ……私は……私はッ、はぁぁッ……!」

「この通り、その、お話をするどころじゃないみたい」

 

 続く、名の通り楽器を持った魔法少女と、名の通りランタンのついた杖を持った魔法少女の2人。オクターブはそのまま手を振るだけで簡素に挨拶を済ませた。心の声からしても、ランタンの精神状態は朦朧としており、心の声の濁り具合でいえばクランブルといい勝負だ。オクターブはそんな彼女を常に気遣っているのがわかる。

 

 では最後の1人。残った彼女は声がかかるまで跪いて下を向いたままで、顔を上げてよい、と届けた心の声で、はじめて動いた。

 

「……プリンセス・ゲヘナ。地獄の魔法少女……地獄って、何……? 知らない……」

 

 長い前髪で隠れた目元から覗いたのは緊張感のない垂れ目だった。心の声は早く、頭の中で何かにしきりに話しかけているようで、しかし言葉になって口にされるものは1つもない。彼女からの受信は打ち切り、その地獄の力とやらは目の前で見せてもらうことに決めた。

 

「さてさて、以上が7人の小人にございます。私めの思っていたよりも魔法をお見せできず申し訳ございません」

「構わない。それより、あるんでしょ、報告」

「さすが姫様。左様です、報告が3つほど。簡単に言えば、それぞれ撃滅対象です。ご指示をいただきたく」

 

 アルファベータからの言葉で、目の前に跪き続ける魔法少女たちに視線を戻す。

 

 アルファベータ。ナイト。クランブル。グラビティ。オクターブ。ランタン。ゲヘナ。

 

 誰をどうしようと、やるべきことは変わらない。であればまずは──ナイトはスノーホワイトの剣だ、隣にいさせる。後は、不確定な魔法の持ち主を目の届く場所に。報告の一端にランタンの心の声で聞いた単語があることに気づき、彼女とその保護者にオクターブを向かわせると決める。そうすると、自然と3つに分かれていた。

 

「ナイト、アルファベータ、ゲヘナは私に同行」

「了解」

「承知にございます」

「……」

 

「クランブル、グラビティは研究所内で待機」

「えー?」

「わかったわ」

 

「ランタン、オクターブは2人で別行動」

「はーい!」

 

 返事は揃わない。それでもいい。ハイ・ホーの歌はなくてもいい。代わりに刃があればいい。

 まずはここからだ。悪は打ち払う。そのための1歩を踏み出す。

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