魔法少女育成計画JACKERS   作:皇緋那

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7.光、音、光、影、影

 ◇魚山護

 

「護」

「え」

 

 魚山護は『また魔法の国の用事でお嬢が出かけているうちに、料理に凝っているクランテイルに対抗して珈琲の練習をしよう』なんて考えて、庚江に見つからないように買ったサイフォンの用意をしていた。最近の庚江はまた忙しく、なかなか帰ってくることはない──その、はずだった。なのだが、秘密はあっさり砕け散る。ノックもせずいきなり扉が開かれたかと思いきや、しばらく戻らないと言ったはずの庚江が、プフレの姿で立っていた。

 

「お、お嬢。これはですね」

「君は……いや、今はいい。今すぐ変身したまえ」

「え?」

「いいから」

「はぁ」

 

 護は言われるがまま、魔法少女シャドウゲールに変身する。状況が飲み込めない。手を引かれ、どこへ連れていかれるのか。廊下を飛び出し屋外に出ると、プフレの車椅子が停めてある。飛び乗る勢いの彼女に続くしかなく、その持ち手を掴まされる。

 

「あの、お嬢」

(はなれ)に行く。スケジュール帳に嫌な予定が書かれていてね」

「離……ですか? それってつまり」

「敵襲だね」

 

 離の屋敷は半年ほど前、庚江の命令で造られ始めた新しい建物だ。いきなり屋敷の中に屋敷を追加しますと言われてできる土地や資本があるあたり、人小路はスケールが違う。職人を呼んで作り込ませる日々が続き、そんなにやってどうするんだと思っていたが、建物が出来た後はシャドウゲールの『機械を改造してパワーアップする』魔法で改造をさせられた。魔法少女の襲撃はもちろん、核戦争にも耐えられるという仕様にしなければならず作業は難航したが、ものは完成している。

 超高性能シェルターを作らされるということは、その使い時が庚江の頭の中にはあるということ。なんて作業開始からずっと思っていたが、それが今なのだろう。

 離の屋敷に向かって爆走する車椅子の後ろで半ば引き摺られながらも決して手は離さず、必死に取り付いて、とにかく今は間に合うことを祈った。思わずぎゅっと瞑った両目を、そろそろ着くのか、距離を確認しようとゆっくり開く。開ききった、ちょうどその時だった。

 

「ッ!?」

 

 走る一閃。車椅子が急に向きを変えて止まったかと思うと、目の前の地面が抉られていた。プフレは再び車椅子を走らせる。2発目、3発目が飛来して、それらもまたあと少しでプフレとシャドウゲールを焼く位置に着弾している。

 

「何ですか今の!?」

「さあね!」

 

 襲ってきたのは光、だろうか。光線か光弾か、どちらにしたって、どこかで出会ったことのあるような攻撃だ。そんなことがありえないとはわかっていても、あの日の出来事が思い起こされる。それはプフレもきっと同じだ。

 

 そこへ響いてくるものがある。光じゃない、音。それも音楽だ。脳裏に浮かんだのはあの女──森の音楽家クラムベリー。返り血を浴びてなお平然と佇む姿は今でも恐怖の象徴だ。実に百近い少女が巻き込まれ犠牲となったあの魔法少女試験を思い出し、あるいはあの時生じたプフレへの──感情がよみがえり、足が竦み、呼吸が乱れる。プフレの加速は揺るがない、が、彼女の判断がほんの少し遅れた。

 

「知ってるんだね、クラムベリーのこと」

 

 車椅子が横からの衝撃で吹っ飛び、車輪を空回りさせながら激しく地面に叩きつけられる。猛スピードのプフレを捉えてキックをかました者がいる。シャドウゲールは放り出されたプフレの下へと急ぎ、彼女を助け起こす。

 

「ごめんね。殺したり、傷つけたりはしたくないんだけど。大人しくしてくれるまで、こうしろって、姫様に言われてるから」

 

 降り立ったのは白い魔法少女だった。演奏家だと思って見ていれば、なるほどそれらしい。ただ、露出の多さから水着や下着にも見える衣装だ。

 手にした金管楽器により、彼女が今の奏者であることは間違いない。光弾も彼女の仕業なのか。向けられる視線には敵意が強い。

 クラムベリー、と口にしていた。シャドウゲールたちと同じ『子供達』なのか。

 

「……お嬢」

「いや……急な連絡だったが、もう来てくれたらしい」

 

 そんな白い魔法少女に襲いかかる黒い影。いや、比喩ではない、本物の『影』だ。影で出来た獣が牙を剥き、対する彼女が楽器で殴りつけて応戦する。殴打は2度通るが、3度目で牙が受け止めた。これまで使っていたサックスは甲高い音とともに噛み砕かれ、しかし残骸が即座に形を変える。手元で変化したホルンに口をつけ、白い魔法少女が思いっきり息を吹き込む。音の衝撃波が影の獣を吹っ飛ばし、しかしその裏から、鞭状の影が彼女を突き飛ばす。

 

「っ……!?」

 

 現れたその姿は黒一色だった。闇色の髪、闇色のレオタード。赤い瞳は深淵から覗いているよう。彼女はこちらを一瞥だけした後、立ち上がってくる白い魔法少女に向かっていく。

 

「な、なんなんですかあれは」

「白い方は知らないが……黒い方はダークキューティー。頼れる悪役といったところかな」

 

 プフレに肩を貸し、車椅子まで連れていく間にも、2人の魔法少女の攻防戦は激しく続いた。

 ダークキューティーは体を曲げ、その影が実体化して襲いかかっていく。対する白い魔法少女も振り回す楽器を次々と変化させ、攻撃を防ぎ影を散らそうと食い下がる。脚から伸びる影がまた鞭となって楽器を弾き飛ばす。しかし空を舞った楽器がオルガンに変化、重量により急に落下したところを受け止めながらトロンボーンに変化。鞭をスライドで捕まえると、飛び込んで本体を殴りつける。ダークキューティーはこれもしなやかに身を躱し、影だけが襲い来る。

 こちらはようやくプフレが車椅子に乗り、再びターボを吹かす。人小路の屋敷の異様な広さのせいで離まではまだ少しある。2度目のロケットスタートを決め──ようとし、眼前に光線が着弾。小規模な爆発と土煙が巻き起こる。

 

 そうだ、あの白い魔法少女は光線など使っていない。光線使いが他にいる。そしてそれが──。

 

「……人小路ィ……ッ!」

 

 ──光を放つハート型のランタン。知っていた。エーコ・EX・ランタン、かつて見習い魔法少女だったプフレとシャドウゲールを襲った魔法少女だ。衣装の露出度は白い魔法少女同様に高く、パンツスタイルも見る影のない下着のような衣装だったが、あの杖は間違いない。

 

「お前だけは……お前、だけはァッ!」

 

 激しい輝きが放たれる。咄嗟にプフレの後ろから手を伸ばし、車椅子を強制的にスタートさせた。視界がゼロになるほどの光が走り、次の瞬間にはさっきまで立っていた場所が丸焦げになっていた。

 そしてその向こうでは、優位だったはずのダークキューティーが、白い魔法少女の楽器の一撃を貰っている場面であった。何が起きたのか、一瞬考えて行き当たる。あのエーコらしき魔法少女が放つ光が影をかき消し、ダークキューティーの操る獣を消し飛ばしたのか。

 

 彼女は側頭部にバイオリンでの殴打を受けながらも空中で体勢を整えて着地、影の鞭や獣を繰り出して楽器の少女を牽制し、続く影の縄がエーコに絡みつく。しかしエーコのランタンが光を放ち、影を消す。影と光では相性が悪い。

 そして後ろを向いている暇はなかった。乱射された光線が屋敷の一部を崩落させ、瓦礫が降ってくる。完全に意識から抜けていた瓦礫の直撃に、手が緩み、車椅子から引き離された。エーコは追ってくる。歩く度にランタンが揺れ、冷たい光が尾を引く。そして振り上げ、振り下ろそうとした。

 

「……! 護ぃっ!」

 

 プフレの声が響く。その声で、ぴくりと、エーコが動きを止めた。

 

「……マモリ」

「え?」

「マモリ……なんだ……そこにいたのか……」

「え、いや、あの! ちょっ!?」

 

 呆気にとられているうちに、彼女はシャドウゲールを抱え上げ、踵を返した。何が起きているのか、理解が遅れた。目の前で、ダークキューティーの放った影や、プフレの車椅子が発射したであろう兵器がランタンの一撃に防がれたのを何度か呆然と見て、ようやく自分が連れ去られようとしていることに気がついた。

 

「ちょっと! ランタン! 姫様の命令は!」

 

 楽器の魔法少女が戻ってきて問いかけても、シャドウゲールを抱えたままの彼女は、答えない。もう既に人小路の屋敷から離れていこうとしている。ダークキューティーやプフレが追ってくるのを光線で打ち払い、それを見て、傍らの魔法少女も吹き鳴らした楽器からの衝撃波を追っ手に放ち、振り向いた。

 

「ランタンは何を言っても聞いてくれないし……しょうがないか。ごめんね、わたし達のアジトまで来てもらうから」

 

 返事をすることもできずに息を飲む。そんな様子のシャドウゲールに、楽器の魔法少女は続けた。

 

「わたし、プリンセス・オクターブ。この子はプリンセス・ランタン。よろしくね」

 

 誘拐犯によろしくねと朗らかに挨拶をされて、朗らかに返せるだろうか。シャドウゲールにはできなかった。

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