8.朝からピッツァ
◇プリズムチェリー
朝が来た。事務所の奥の椅子の上で目を覚ます。ピザをご馳走された後、昨夜は眠ってしまったようだ。昨日よりは動けるようになった体を起こして、窓から差し込む光を浴びる。ふと見た自分の体には、絆創膏や包帯がいくつもしてあって、プリズムチェリーが眠った後もフォーシーズンズが手当してくれていたことが見て取れた。彼女の優しさに申し訳なさも覚えながら、休憩室の扉を開いた。
「あら、おはよう。やっと起きたのね。もう焼けてるわよ」
「おはようございます〜」
「おはようございます」
テーブルとその上のピザを囲むのは、4色の派手な魔法少女と、4枚の黒い羽を浮かせた魔法少女。プリンセス・フォーシーズンズと魔王パムだ。プリズムチェリーは促されるまま、フォーシーズンズの隣に座って、それからようやく理解が追いつき驚いた。
「えっ、魔王……さんは、平気なんですか!?」
「はい、おかげさまで」
予想外の柔和な笑みに、また混乱する。研究所の中では、敵がいたせいか殺気立っていた、のだが。普段はこんな親しみやすいというか、なんというか……おばあちゃんみたいなふわっとした人なのか。
「チェリーさんこそ、お身体は?」
「はい、なんとか。先日はありがとうございました」
「いえいえ。ご無事で何よりです」
パムは取り皿をすっと差し出し、ピザを取り分けてくれた。一瞬呆然としたが、とにかく取り分けられたものを食べないのは失礼だ。
「食べないと食べちゃうわよ」
「いただきます」
このピザは朝食らしい。いくら魔法少女でいれば食事が不要、かつピザ屋で働いているとはいえ、フォーシーズンズが三食常にピザを食べてはいないだろうか。一抹の不安を抱きながらも、薦められてピザを口に運ぶ。昨夜とは違う味だ。美味しいものは美味しい。
「これはフォーシーズンズ朱雀。4つの人気ピザがひとつになった人気メニューね。こっちがフォーシーズンズ白虎。4つの味が一堂に会したイチオシ。で、これはフォーシーズンズ玄武。4つのフレーバーをひとつに集めた通好みの1品ね」
言い回しは変えているが要するに全て4個1である。説明は全く一緒だ。そういえば、昨日ご馳走されたのも4分割のメニューだった。もしかしたら昨日のあれは青龍だったかもしれない。というか、その名前、彼女が開発者なのだろうか。
「そして今から来るのが」
「お待たせしました……フォーシーズンズ麒麟です」
「新メニューの麒麟よ」
「何か凄い見た目してませんか」
「ラインナップはマカロニサラダ、灼熱麻婆豆腐、シロップ漬けドーナツ、鯛の姿焼きよ。まさに業界の麒麟児になるに違いない革命的新メニューよ」
店長が持ってきてくれたのはなんだか異様な見た目の1枚であった。何をどうしたらその4つがひとつの生地の上に乗っかることがあるのだろうか。見た目上は明らかに魚の頭が乗っている姿焼きが目につくし、各部位の色が違いすぎて不安だった。切り分けられたものは仕方ないと食べてみる。意外と、悪くはない。麻婆豆腐のめちゃくちゃな辛さをものすごく甘いシロップ部分で和らげるという構成も間違ってはいない……のだろうか。
「ご馳走様でした」
「ごちそうさま、です」
「えぇ、お粗末さま。で、そうね、魔王さんの話も聞いておかなくちゃ」
フォーシーズンズが手を拭きながら視線を向け、魔王パムはにこにこした表情から少しだけ真剣なものになり、赤い瞳が覗く。
「そうですね。私の仕事は人造魔法少女……ピュアエレメンツさん達の保護でした」
「魔法の国が、連中の技術にも目を付けたわけね」
「上層部はそのつもりでしょう。ですが、今彼女を確保しているのは、魔法少女関連の部門ではない」
「他に何があるのよ?」
「魔法の国の三賢人、オスク派です」
三賢人? オスク? 素朴に魔法少女活動をしてきたプリズムチェリーには聞き覚えすらない単語が出てきて、フォーシーズンズも同じく首を傾げていた。パムは自身の所属を外交部門だと明かしたうえで、彼らはピュアエレメンツをどうするものかわからないとも話した。
「せめてチェリーさんだけでもと研究所を破壊したのは私です。あのままでは連中がピュアエレメンツの皆さんを殺害する可能性もあったとはいえ……連絡が取れなくなったのは、私の責任です」
パムもプリズムチェリーと同じく、研究所を破壊して脱出した。どうにか残った羽で彼女らの無事は確認したものの、その後のことは何もわからないという。少なくとも爆発を生き延びてくれている、というのはプリズムチェリーには大きなニュースだった。だが、パムの言葉でそう素直には喜べない。
「本国の魔法少女差別は酷いと聞きます。奪還できるのなら早い方がいいでしょう」
もし囚われていたら、どんな扱いをされているものか。最悪の想像はしてしまう、けれど、それは祈り、信じるしか。
「ふぅん。あの女より酷いものかしら」
フォーシーズンズはぽつりと呟いた。言葉の中の『あの女』とは、ピュアエレメンツを魔法少女にしたという『先生』だろうか。パムも同じことを考えたらしく、そこへ言及してくる。
「あの女、ですか」
「……あぁ。私もその人造魔法少女だもの、身の上話も手がかりに成りうるのね。あの女……田中とか適当な偽名名乗ってたわね。魔法の国や所属のことはほとんど明かさなかったし、連絡先とかも知らないわよ。ただ、出入りしてる連中の中に、研究部門だって言ってる奴がいたくらいかしら」
「研究部門……ですか」
パム曰く、研究部門とオスク派の間の関連性は聞いたことがないという。となるとやはり、当たるべきはそちらではないかもしれない。それに、フォーシーズンズもあまりいい顔をしていない。彼女としても触れてほしくない部分なんだろう。
「……よし! ピザも食べ終わったし、外に出ましょう。案外その辺に転がってたりするんじゃないかしら?」
フォーシーズンズはいきなり立ち上がり、パソコンに向かっていた店長を見た。そういうことだからと言い出すフォーシーズンズに、深いため息でわかりましたと返している。
そして彼女が走って出ていったのに置いていかれて、プリズムチェリーとパムも立ち上がった。食器は1ヶ所にまとめ、店長に「やっておきますから」と言われ、言葉に甘えて外に出る。フォーシーズンズはすぐ外にはおらず、遠くで手を振っていた。
「ごめんなさい、私の我儘で」
「いえ。フォーシーズンズさんから聞きました。ピュアエレメンツさん達お友達を助けたい、と。私も、保護までが仕事ですから。それに」
言葉を切り、小さく息を吸い込んだのがわかった。
「あの現身とは、また
そう話すパムの声色は少しだけ、これまでの柔和な雰囲気が失せ、臨戦態勢の際に見せた闘気が溢れだしているように思えた。それ以上は語ることはなく、1歩前に出て、その黒い羽が動く。
「
魔王パムの羽が巨大な目に変化し、上空へ飛んでいく。あれで上空から見回すことで捜索ができるということらしい。プリズムチェリーやフォーシーズンズが虱潰しに歩き回るだけでは確かに何日もかかるところだった。協力してくれるのなら、こんなに頼もしいことはない。