なにやら息子が鮮烈(ヴィヴィッド)しまくってる女の子を拾って「私は恋人ですから!」と叫ばれている件。お母さん、ちょっと分からないわ 作:SUN'S
1話から飛ばしすぎましたね。
ミッドチルダ郊外、人気の少ない旧市街。
最強の称号を求める覇王イングヴァルトの系譜にしてベルカ古流武術〈
「リンジ・ミヤザワ氏ですね」
「誰だよ、お前?」
「一手、御教授を」
そう深く被った帽子越しにすら見える男の鋭い眼光にアインハルトは僅かに身体を震わせ、素早く左手を突き出し、右手を顎の側に添えて、右足を引くように半身になって〈覇王流〉の構えを取る。
その様子を静かに見ていた帽子の男──リンジ・ミヤザワは溜め息を吐き、帽子のツバを親指と人差し指の中程で摘まみ、ゆっくりと帽子を脱ぐとリンジは少し短く整えられた髪を掻き上げ、ジロリと射抜くようにアインハルトを見据える。
「手加減はしねえぞ」
「はい」
じりっ、と地面を踏み締める音が無人の路地に響く。アインハルトは間合いを見極めるために少しずつ、自然体の構えてすらいないリンジににじり寄る。
「はあっ!!」
アインハルトの裂帛の掛け声と共に放たれる右の正拳突き。踏み込みと速度、どちらも申し分無い精錬された動きにリンジは感心しながら。ソッと軽く往なす様に構えた手を緩やかに動かし、彼女の右拳を受け止め、ギュルルッ!とアインハルトの右手首を外側に捻り上げる。
「くあっ」
みりっ、みりっ、と腱の捻れる音。
手首を捩じ込まれる痛みに呻き声を上げるアインハルト。しかし、直ぐ様、握り拳を手刀に作り替えて、リンジの腹部に向かって貫手を放つ。どすっ、と鈍い音を発する鋭く鍛えられた貫手を受け、リンジの上着と肌着がビリビリと音を立てて引き裂かれる。
「あっぶねえな、おい」
自分の脇腹を掠めた左の貫手を警戒するリンジ。だが、彼の言葉を遮るように「しぃっ!!」と息を吐き、素早い貫手を連発するアインハルトの猛攻を嫌ったのか。リンジは彼女の手を離して、大きく跳ねるように後ろに飛び退く。
「チッ、穴だらけじゃねえか」
「……すごい…」
穴だらけのジャージを脱ぎ捨て悪態を吐くリンジの露になった肉体を見て、アインハルトは息を飲む。分厚く隆起した胸板、六つに割れた腹筋、異様に盛り上がった僧帽筋、正に筋肉の鎧と云える上半身に、彼女は知らず知らずの内に見惚れてしまう。
「てめえ、あー、名前は?」
「えっ、あ、失礼しました。カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂きます」
リンジの問いに意識を取り戻したアインハルトは心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返し、ハッキリと彼の目を見返すように見つめながら彼の問いに応える。
「OK。イングヴァルトだな」
「はい。では、もう一度」
何度かイングヴァルトと呟いた後、リンジはアインハルトに視線を戻す。しかし、すでに〈覇王流〉の構えに構え直しているアインハルト。どうやら今度はリンジの出方を知るために待ちの姿勢に徹しているようだ。
「ふう、しゃあっ!!」
どんっ、とコンクリートの地面が陥没するほど力強い踏み込みと同時に飛び込んできたリンジに対して、アインハルトはジャブの様に素早く鋭い突きを放つ。
当たる!
そう確信して拳を振り抜いた次の瞬間、アインハルトの左拳は
「が、かはっ!?」
めりっ、みしぃっ、と脇腹と顎に強烈な衝撃を感じると共にアインハルトの身体は宙に浮き上がり、辛うじてアインハルトに見えたリンジの姿は回し蹴りを放とうと、ぐるりと身体を翻しているところ────その後、アインハルトは一回、二回、とコンクリートの地面をバウンドしながら吹き飛ばされていた。
「おい、自称イングヴァルト。満足したか?」
「………自称ではありません」
「なんだ、まだ意識あるのか」
「白々しい。最後の一撃、手加減しましたね」
そう言ってアインハルトはリンジを睨む。もっともコンクリートの地面に倒れ伏し、自分を見上げている彼女を怖がる理由はリンジにはない。
「お前、やっぱり変な奴だな」
「くっ」
「まあ、いいや。それで、どうする?」
退屈そうに視線を逸らすリンジは穴だらけのジャージを弄りつつ、身動きの取れないアインハルトを見下ろしながら問い掛ける。
「もう腕も上がりませんよ」
「ふーん」
「なんです?」
「いや、このまま置いてきぼりもなあ、ってよ」
「なら運んで下さい」
アインハルトの一言に対して、リンジは呆れ顔で「お前はお姫様かよ、イングヴァルト」と溜め息を吐きつつ、ゆっくりと彼女の身体を抱き上げる。
しかも当然の様にお姫様抱っこである。
〈アインハルト・ストラトス〉
自称・覇王系美少女。
近頃、巷を騒がせる辻殴り魔として活動していたところを息子ことリンジ・ミヤザワと仕合ったことで、ぱったりと止めてしまった。現在はリンジを超えるために彼を付け回しているそうです。