なにやら息子が鮮烈(ヴィヴィッド)しまくってる女の子を拾って「私は恋人ですから!」と叫ばれている件。お母さん、ちょっと分からないわ 作:SUN'S
ミッドチルダ郊外、倉庫街。
「母さん、今日こそ勝たせてもらうぞ」
「ふふっ。期待してるわよ、リンジ」
にこりと余裕の微笑みを浮かべる母親に少しだけムッと顔を歪めたリンジは独特のステップを刻み、踏み込みと右の上段回し蹴りを放つ。
どごっ、と鈍い音が響く。
「まだ、合図してないわよぉ?」
───だが、彼の母親は勾玉の様な形に整えた左手を使い、アッサリと『覇王イングヴァルト』の末裔、アインハルト・ストラトスを吹き飛ばした強烈な蹴りを事も無げに受け止めていた。
「どういう体幹と防御技術だよ、クソッ」
「誰がクソやねん」
そう悔しそうに吐き捨てるリンジの言葉遣いに彼の母親は文句を言いつつ。とん、と彼の顎を撫でるように手の甲で弾き上げる。
たったそれだけの僅かな挙動で、それも子供を叱る様に顎を軽く押す様な動きで放たれた母親の手が確実にリンジの脳を揺らす。
「くっ、おあっ」
ぐらり、とDSAA男子部門において打たれ強さとタフネスを武器とする無敗無敵を誇るリンジの頑強な肉体が少し折れ曲がり、と、ととっ、と覚束無い足取りで鑪を踏んでしまう。
「あら、今回は倒れなかったのね。偉いわよ」
「いきなり息子の脳揺らすなやァ!」
そう怒りを発散するようにリンジは怒鳴り声を張り上げ、捨て身の特攻とすら思える突進を繰り出し、右鉤突き、下段蹴り、回転左肘打ち、前蹴り、様々なバリエーション、組み合わせのコンボをリンジは続け様に絶対に超えるべき強敵に叩きつける。
「まずまず及第点やね」
「チッ、こんだけ打ち込んでも倒れんとか。もはや化け物を超えた化け物やんけ、おかん」
「お母さんとお呼び!」
「げおっ…!」
柔軟かつ強靭な足腰を巧みに使い、左足の爪先から練り上げるように振るい、しなるように放たれる右の上段回し蹴り。みしっ、と鈍く嫌な音が聴こえると同時にリンジの身体は倉庫の壁に向かって、ややオーバーリアクションに見えるほど大袈裟に彼は吹き飛ぶ。
「俺を殺す気なんか、おかん!?」
そうリンジは怒鳴りつつ、ゆっくりと立ち上がる。
ほんの一瞬、彼は蹴りを受け止める際にわざと大きく後ろに向かって飛んだ。野性の勘によるものか、あるいは天性の格闘センスによる動きなのか。それすら彼自身は分かっていない様子だが、彼の母親は嬉しそうに息子の成長に笑顔を浮かべている。
「ところで、リンジ」
「なんやねん」
「本当にアインハルトちゃんとは何もないの?」
「ない」
キッパリと否定するリンジの脳裏で無表情の真顔のアインハルト・ストラトスがダブルピースをしている姿が過るも、その姿もまた直ぐに彼は否定する。
「はぁーーーっ、とりあえず再開するぞ」
「まあ、ええよ」
そう言うと彼の母親はごく当たり前のように自然体のままリンジに向かって半歩ほど踏み込み───。
きゅるるっ、と靴底の擦れる音がした。
「今度はちゃあんと防げてるわね」
「当たり前だッ」
みしりっ、と骨の軋み痺れる感覚に苦悶の表情を浮かべながらリンジは蹴りの姿勢のまま動かない母親に向かって何万回と繰り返してきた正拳を打つ。
ぶおっ、びゅうっ、ぼおっ、と凄まじい風切り音を奏でるリンジの剛腕を彼女は涼しげに微笑んだまま、躱し、往なし、弾き、的確に彼の打撃を捌く。
「しゃあっ!!灘神影流、破心掌!!」
ジリジリと
破心掌とは凄まじい震脚の踏み込みに、爪先、膝、股関節、腰、肩、肘、そして手のひらへと螺旋運動の波を繋げ、心臓に向けて放つ一撃必倒の掌打───。
「どないやっ!」
「甘いわッ」
しかし、リンジの放った掌打は母親の胸に届くことなく彼女の突き出していた手のひらに吸い込まれ、ぐるりと一瞬にして彼の見える視界が、見えている筈の景色の全てが天地をひっくり返したように裏返る。
「リンジ、ちゃあんと精進しいや?」
「ウス」
コンクリートの地面に倒れたままリンジは頷いた。
そもそも十代で登り詰めた世界最強程度の技術で、自分を鍛えてくれた母親に追い付ける訳もなく。リンジは悔しそうに自分の手のひらを見つめる。最後の返し技、あるいは関節技、投げ技かも知れない動きにリンジは全く反応出来なかった。
「(やっぱり妖怪だろ、おかん)」
そうリンジは内心で嘯いた。
〈破心掌〉
灘神影流・殺法
強烈な震脚の振り込みと共に捻りを加えた掌打を放つ。その掌打の衝撃は横隔膜を萎縮し、心臓の鼓動を止めることすら可能とする。