ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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転生とモルモット

 自分の前世は特別な何かがあったわけじゃない。ごく普通に過ごして、ごく普通に働いて。ただ無意味に時間を過ごす日々。そんな生活に疑問を抱かず、スマホのアプリゲームを少しやるだけの日を過ごしていた。

 特にハマっていたアプリはウマ娘。一大ブームを巻き起こし、世間でも広く認知されているアプリゲームだ。育成が結構好きな部類だったのでかなりの額を課金していた。人付き合いをそれなりにこなし、休日の隙間時間にウマ娘の育成をするのが当たり前。そんな前世だったのを覚えている。

 

 

 ただ、自分はひょんなことから転生をすることになった。別に神様に会ったわけじゃない、気づいたら前世の記憶がふと蘇ってきたのだ。確か、小学生に上がる前の頃。

 最初はビックリした。自分の知らない記憶がどんどん出てきたわけだから。意外とすぐ順応したけど。

 前世を思い出して最初に決めたことは、これからの目標。これはすぐに決まった。

 

「せっかくウマ娘の世界に転生したわけだし、トレーナーになるのが定石だろう」

 

 思い立ったら即行動。早速トレーナー試験に向けて勉強を始める。幸いにも前世の知識もあったし、勉強も嫌いではなかったので苦にはならなかった。

 

「聖~、お前また勉強かよ?」

「ゴメン。でも、トレーナーになりたいから」

「大変だなぁ、トレーナーになるって。それよりさ……ちょっとお願いがあるんだけど」

「……また宿題忘れたの?」

「頼む!お前しか頼れるのがいないんだ!この通り!」

「いいよ。ただ、丸写しだと怒られるから教えながらになるけど」

「ホンットーにスマン!今度何か奢る!」

 

 同年代の子達とは浅い付き合いをしていたが、何人かは休日に遊ぶ間柄になった。勉強ばっかりの自分に理解を示してくれる、よい友人である。大切にしないといけない。

 

「聖!今日は大きいレースをやっているみたいだ!一緒にレース場まで観に行こう!」

「うん。楽しみだね」

「っ!そうかそうか!じゃあ早速行こう!父さん張り切って運転しちゃうぞ!」

 

 休日は基本的にレースを観戦。両親も喜んで連れて行ってくれたので、かなり楽しかったのを覚えている。学生時代はトレーナーになるため、必死になっていた記憶が多い。

 

 

 ちなみにだが、転生特典なるものもちゃんとあった。転生といえば特典みたいなところはある。自分が貰えた特典はというと、ステータスの可視化だ。道行くウマ娘を見ると、アプリで見たことのあるステータスウインドウのようなものが見える。あらゆるウマ娘のステータスが見える、自分だけの特権のようなもの。

 

(これを活かさない手はないだろう)

 

 勉強漬けの日々が功を奏したのか、大学も飛び級で卒業し、トレーナー試験にも無事一発で合格した。両親や友達が盛大に祝ってくれたのを覚えている。

 

 

 新生活が始まる春の時期。自分もいよいよトレーナーとしての第一歩を進み始める。

 

「良いか?ウマ娘の体調、特に脚には細心の注意を払うんだ」

「ウマ娘にとって重要な箇所だから、ですよね?」

「そうだ。我々が些細な変化を見逃さないように……」

 

 とはいっても、最初は研修としてチームを持っているトレーナーのサブとして働いていたのだけれど。ただ、最年少でトレーナー試験に合格したトレーナーということもあってか、強豪チームのサブトレーナーになることができた。多分、将来性を期待されてのことだろう。

 チーフの下でまた勉強の日々。新鮮だったのでそれなりに楽しくやれていた、と思う。周りがどう思っているかは知らないけど。

 そして。

 

「……君ならば、もう1人でもやっていけるだろう。頑張りなさい」

「はい。短い間でしたが、お世話になりました」

 

 1年も経てば独り立ちの時がやってきた。サブトレーナーではなく、1人のトレーナーとしての生活が始まる。

 

 

 

 

 

 

 とあるウマ娘を担当し、メイクデビューを勝ち、重賞も勝って順調だったある日のこと。そのウマ娘は突然現れた。

 

「やぁやぁ!君が噂の高村聖トレーナーかい?」

「そうだけど……」

 

 ハイライトのない瞳に茶髪のウマ娘。一度も会ったことはない。けど、自分は彼女の名前を知っている。

 

(アグネスタキオン?なんでまた、僕のところに?)

 

 アプリで存在を知っているのもそうだし、トレーナー間では()()()()有名なウマ娘だ。

 曰く、実験と称して毎日怪しげなことをやっているウマ娘だと。評判はあまりよろしくない。誰のスカウトも受けないし、授業もサボり気味なのでそろそろ退学になるんじゃ、と噂にもなっていた。

 ただ、素質に関しては一級品。選抜レースはサボるが、出走したレースで強いインパクトを与えていた。じゃないと、スカウト自体されないわけだし。

 

「あれ?アグネスタキオンは今回も出走しないの?」

「しないみたいね。凄い素質だって聞いてるから、一度見てみたいものだけど」

「本当に奇人だよなぁ。有名トレーナーのスカウトも蹴ったんだろう?」

 

 と、他のトレーナーも話していた。素質はあるが問題児。アグネスタキオンの評価はこんなところだろう。

 それにしても、そんな子がどうして自分のところに来たのだろうか?

 

「ほほ~う……ふむふむ。噂通りの死んだ目をしているねぇ」

「らしいね。あまり気にしたことはないけど」

「ま、そんなことは些細な問題だ」

 

 僕自身気にしてないから本当に些細な問題だ。じゃあなんで指摘したんだ?と思わなくもない。まぁ初見ではビックリするから、触れざるを得なかったんだろうけど。

 

「それで、僕に何の用かな?」

「いやなに。実は()()から君のことを聞いてねぇ。なんでも私と気が合いそうだからと紹介されたんだ!」

「僕と、君が?」

 

 あんまり想像つかないな。

 

「さて、私が聞きたいことは1つだ。何でも君は()()委員長君を全距離で勝たせようとしているらしいじゃあないか」

「そうだね。それがどうかしたの?」

 

 委員長君とは、サクラバクシンオーのことだろう。スプリンターとして有名な彼女。ただ目標が全距離の制覇なので他のトレーナー達はスカウトに難航していた。そんな時に名乗りを上げたのが自分だ。

 

「トレーナーさんッ!私を全距離でバクシンさせてくださいッ!」

「いいよ」

 

 こんな感じで決まった。周りのトレーナーから凄い目で見られてたのは記憶に新しい。

 

「委員長君の適性は君も知っているはずだ。なんでも君は、他の人には見えないなにかが見えるそうじゃないか」

「……あぁ、適性のこと?」

「そう!それが分かっていてなお、君は委員長君を中距離以上で走らせようとしている。それはどうしてだい?」

 

 純粋な疑問。何故無謀なことに挑戦しようとしているのか、その理由を尋ねられている。

 その答えは、ただ1つだ。

 

彼女がそれを望んだから──それ以外に理由は必要かい?」

 

 理由なんてそれだけだ。他ならないバクシンオーが望んだからこそ、全距離で勝たせる。そのために手を尽くすだけだ。それに、僕はバクシンオーの目標を無謀なんて思っちゃいない。ちゃんと考えだってあるわけだし。

 アグネスタキオンは目を丸くして驚いている。次いで、手を叩いて笑いだした。

 

「アーッハッハッハッハ!成程成程!会長の言っていることが理解できたよ!確かにこれは狂気的だ!」

「……そうかな?」

「そうだとも!君の瞳に宿った狂気は誤魔化せない……君は担当ウマ娘の望みのためならば、どこまでも突き進む覚悟だ。違うかい?」

 

 う~ん……さすがに間違ったことなら止めるけど、それ以外は別に止める権利はないし。というか狂気を宿した目って。そんな目してるの?

 

「担当の目標を叶えるためだもの。力になるのは当然じゃないかな?」

「クックック……随分と凄い覚悟だねぇ。なにが君を突き動かすんだい?」

「理由はないよ。ただ、そうするのがトレーナーの役目だろう?」

「成程成程」

 

 しきりに頷くアグネスタキオン。その後彼女は何かを思い出したかのように手を叩いた。

 

「あぁ、そうだ。私がここを訪ねた経緯を説明しよう。会長との会話をね」

「よろしくお願いするよ」

 

 彼女の言う会長──シンボリルドルフから気が合いそうだと自分を紹介された経緯をアグネスタキオンから教えてもらった。なんでも、僕ならアグネスタキオンの目的に協力し、なおかつ彼女の研究の邪魔をしないということから最適だと判断したらしい。成程、合点がいった。

 

「今の会話で、君とは気が合いそうだと判断した!だから私のモルモットになっておくれよ!」

「いいよ」

「……随分あっさりと決めるねぇ。本当に良いのかい?」

 

 アグネスタキオンは、確かドーピングには否定的。危ない実験はしないはずだ……多分。モルモットの響きはアレだけど、悪いようにはならないだろう。

 

「命に関わるような実験はしないだろう?なら、別にいいよ」

 

 そう答えると、彼女は笑顔で手を叩いた。お気に召したようだ。

 

「そうかそうか!モルモットとして殊勝な心掛けだ!では、その調子で私を担当してもらおうか!」

「それは無理かな。ごめんね」

「そうだろうそうだろう!是非とも私を担当して、って、えぇ~!?なんでだい!?」

 

 一気に落胆したような表情に変わった。感情の乱高下が激しいな。

 

「だって、僕はまだ新人だ。複数担当なんて許してもらえないよ」

「そこは何とかしたまえよ!このままだと私は退学になってしまうじゃないか!」

「そうは言われてもね」

 

 2人で押し問答になるのだろうか、そんな時だった。

 

「問題ありませんよ、高村トレーナー」

「……たづなさん?」

 

 扉を開けて学園の理事長秘書である駿川たづなさんが入ってきた。申し訳なさそうに頭を下げている。

 

「すみません、会話が少し聞こえたもので……盗み聞きするつもりはなかったのですが」

「いえ、大丈夫ですよ。それで、問題はないというのは?」

「あぁ、はい。そのことなんですが」

 

 たづなさんはニッコリと笑顔を浮かべている。

 

「高村トレーナーは確かに新人ですが、複数人担当しても問題はありません。これは高村トレーナーに限らず、ですが」

「え、そうなんですか?」

「はい!実は、トレセン学園はウマ娘の数に対してトレーナーが少ないというのが現状でして……毎年トレーナー不足しているんです」

 

 溜息を吐くたづなさん。トレーナーの数が少ないのはやっぱり、ライセンス取得が狭き門だからかもしれない。

 

「なので!こちらとしても高村トレーナーが担当するウマ娘を増やすというのは大変ありがたい話なんです!後アグネスタキオンさんのお目付け役もやってくれるでしょうし

「はぁ。今凄く小さな声で何か言いませんでした?」

「き、気のせいですよ!そ、それにお互いの合意さえあれば担当契約は問題ありません!どうでしょうか?」

 

 まぁ、そういうことならいいか。

 

「……というわけみたいだし、いいよアグネスタキオン。担当契約しようか」

「……ほほう?良いのかい?」

「学園としても推奨しているみたいだし。問題がないようなら構わないよ」

 

 それに、彼女自体にも興味はある。彼女が目指したいもの、目標が。その手助けが自分にもできるなら、やってみたい。

 先程まで項垂れていたアグネスタキオンだが、ガバッと起き上がって耳を嬉しそうにぴょこぴょこさせている。機嫌が良さそうだ。

 

「成程成程!では──よろしく頼むよ?トレーナー君」

「うん、よろしくねアグネスタキオン」

 

 こうして、担当ウマ娘が増えた。なお、この後流れでもう2人ほど担当することになるのだが別の話。




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