夏合宿での併走トレーニングを経て、私の研究はかなり進歩したといってもいいだろう。
「会長の領域にテイオー君の領域……それだけじゃない。タマモ君にオグリ君、さらにはヘリオス君など選り取り見取り!まさに素晴らしい時間だった!」
「……うん、うん。メイクデビューを勝って、一安心、だね」
おっと、そういえばカフェはメイクデビューを勝ったんだったね。
「カフェ~?この前のメイクデビューを勝ったそうじゃないか。では、ささやかながら私からお祝いの品を「変なもの、入れてないでしょうね?」う~ん、ノータイムで疑われてるねぇ!」
「当然です。手元の、虹色の輝きを放っている、マグカップが、なによりの、証拠ですから」
おっと、バレてしまっていたか。ではこいつは隠すとしよう。
「ま、コレは君に渡すつもりはないよ。トレーナー君に渡すものだからねぇ」
「……何故、あの人は疑いもせず、飲むのでしょうか?」
「さぁね。彼も彼で大概狂っているからねぇ。あ、こっちが本物さ」
「……ありがとう、ございます」
キョトンとした表情をしているが、私が普通の贈り物を渡すのがそんなに意外かい?別に変なものは入ってないよ。
「それで、嬉しそうにしていましたが、夏合宿はとても充実したものに、なったと?」
おっとぉ?カフェも気になるようだねぇ。
「勿論素晴らしいものになったさ!私の研究がかなり進んだ!」
「それは、良かったですね」
「あぁ、これで今後の研究がより捗るというものだ!」
それにしても素晴らしいサンプルだった。領域によって私に向けられる圧、感情!どれもこれも至高のものだったと断言できる!さて、後は私が領域に至れるかどうかなんだが……まぁ問題はないだろう。
「会長達との併走で、コツは掴んだからねぇ。至れる日が来るのもそう遠くはない」
「ッ!?」
おっと、カフェがソファから飛び上がってしまった。余程驚いたんだろう。ま、オカルトじみてるかついまだに条件が不明瞭な領域がもうすぐ使えそうだというのだから、気にならないはずもないだろう。
「おいおい、どうしたんだいカフェ~?そんなに驚いて」
「……自分が、なにを言っているのか、分かっているんですか?」
「ん~?……あぁ、もうすぐ領域に入れそうだという話かい?」
ジト目でこちらを睨んでくるカフェ。もっとも、これはほぼ確信のようなものだから訂正する気はさらさらないのだが。
「話は事実だよ。なんとなく至れそうな気がするのさ」
「なんとなく、なんて……」
「信じられないかもしれないがね。不思議と確信があるんだよ、私は」
次の委員長君との併走で試してみるとしよう。果たして私が至れるのかどうか。フッフッフ、次が楽しみだ!
研究の記録も終わったので一休み。PCから目を離して紅茶を淹れる。角砂糖も忘れずにね。
「……毎度のことですが、さすがに入れすぎだと、思います。紅茶の味、分からないでしょう」
「脳の働きを活性化させるには、ブドウ糖が必要だ。だから砂糖を入れるのは悪くないと思うんだがねぇ」
「入れすぎだと、言っているんです」
そうは言うが、これがデフォルトなものでね。止めるつもりは一切ないよ。
◇
私の目標の1つには凱旋門賞への出走がある。出走するかどうかはまだ未定段階ではあるが、個人的には悪くないと思っている。
(より強い相手を求めるのであれば、日本だけじゃなく世界にも目を向けるべき……成程、単純だが思いつかなかった選択肢だ)
すっぽり頭から抜けていたよ。確かに、世界に目を向けるというのも悪くない。強い相手と競えば、それだけ私のパフォーマンスも向上する可能性があるわけだからね。
ただ、問題となってくるのはどうやって海外の芝に対応するか?ということ。
(当然だが国によって芝は違うしコースも違う。一発で対応するなんて無茶な芸当はさすがにできない)
特に欧州のコースはほとんどが独特なコースだ。凱旋門賞が開催されるロンシャンは向こうでもまだマシな方だからねぇ。
VRウマレーターでトレーニングはできるが、できれば協力者が欲しい……そんな時だった。
「さぁて、アグネスタキオン!凱旋門賞までの間、あたし様が知恵を授けよう!」
「ほほ~う!まさか、URAの職員様が手伝ってくれるとは思いもしなかったよ!」
「これくらい当然さ!なんせ、凱旋門賞を勝つためだからな!」
URAの職員である佐岳メイ君が協力してくれることにより解決。彼女の凱旋門賞に対する知識と情熱は素晴らしいものだった。今も助かっている。
「さて、今日もVRウマレーターを使用し、ロンシャンのコースで特訓だ!」
「さすがに同じコースばかりだと飽きてきたねぇ……別のところ走らないかい?」
「ダメだ!凱旋門賞制覇は一日にしてならず!地道な積み重ねが結果に繋がるのさ!」
……まぁ、少々熱すぎるきらいがあるがね。正直、私自身は凱旋門賞制覇にそこまで興味はないのだが。
「トレーナー君、彼女の情熱はなんとかならないのかい?」
「諦めて。それに、凱旋門賞制覇じゃなくて強い相手と競うことが目的なんて言ったら滅茶苦茶へこむだろうから」
「仕方ないねぇ……」
「ここでのトレーニングは無駄じゃないから。後はお弁当に大好物を入れて「その言葉忘れるんじゃないぞトレーナー君!」あげるから、って、もう行っちゃった」
決して、決してお弁当につられたわけじゃないが仕方あるまい!頑張ろうじゃないか!
後は私の脚だね。トレーナー君が毎日ケアをしてくれるおかげで、今のところは順調だ。
(後は領域に耐えられるだけの脚になってくれるかどうか、だね)
幸いなことに、
「……いつの間にできるようになったの?」
「ついさっきさ。できると思ったからやった。それだけのことだ」
「そうなんだ」
ま、その後のケアは念入りに行ってもらった。影響はほぼなしだったのは良かったね。後はこれにタマモ君から着想を得た領域の使い方を実践するだけだ。
「アレが領域、ですか。真の強者のみが至ることを許された、絶対の暴力……」
「そんなところだね、ジェンティルドンナ。焦らずとも、君もすぐに至れると思うよ」
「当然ですわ。私の力は絶対、全てをねじ伏せ頂点に座する強者。至れぬ道理などありませんもの」
ジェンティル君は私の領域に触発されて圧が増していた。その辺のウマ娘が目にしたら卒倒もんだろうねぇ、あのオーラは。周りの空気が歪んでいたよ。
「タキオンさんも無事に至れましたかッ!他の方々も焦るかもしれませんが心配ありませんッ!いずれ至ることはできますともッ!この優秀で模範的な学級委員長が保証しましょうッ!」
「は、はい!……あたしも、頑張らないと!」
「当然です。至ることは前提……大事なのはその先。己が何を成すかですから」
「当たり前ですわね」
他もやる気になったようだ。クックック……良いねぇ。その調子で私の実験に協力してくれたまえ!
月日は流れ、私の次走であるホープフルステークスの日が迫っていた。時が経つのは早いものだねぇ。
「さて、有力なウマ娘をチェックしておこう……おっと、これはこれは」
「うん、うん。無事に2勝目、だね。コツコツと、頑張っていくよ」
中々興味深い相手だ。目下2連勝中のポッケ君に、阪神で開催されたエリカ賞をレコードタイムで制したペリースチーム君、ねぇ。しかも、どちらもレコードを更新する形で制した。ということは、だ。
(彼女達もかなり速いということになる……!クックック)
「楽しみだねぇ……!彼女達のスピードを体感する日がとても楽しみだ!」
「……悪い笑み。なにを考えているんですか?」
おっと、カフェにまたジト目で睨まれてしまったよ。別に悪いことは考えてないんだがねぇ。
「カフェも知っているんじゃないかい?ポッケ君にスチーム君のことを」
「……あぁ。まぁ知っていますよ。あなたと同じで、有名ですから」
「うん?私もかい?」
「……呆れた」
溜息を吐かれてしまったねぇ。溜息を吐くと幸せが逃げるというよ、カフェ。
「現在、ジュニア級は三強と扱われています。あなたと、ポッケさん、そしてスチームさん。3人は、レコード勝利をしていますから」
「あ~、そういうことかい」
「その中で、スチームさんが抜けた評価を獲得しています。2戦連続でレコード勝ち、ですから」
ま、今回のホープフルステークスは阪神開催。阪神でレコードを塗り替えたスチーム君が評価を集める、か。
(人気などというものに興味はない。私が惹かれるのは……彼女達の速さだ)
「どうか私を高みへと導いてくれよ?クックック……」
「……変な人」
「ところでカフェはどのくらいの位置なんだい?少なくとも2連勝しているわけだし、それなりの評価だとは思うんだが」
「私は、あなた達の下ぐらいの評価です。ダンツさんと一緒、ですね」
カフェはダンツ君と一緒の評価、か。ま、いいだろう。
「しかし、オペラオー君と走れないのが残念だねぇ。彼女の強さは興味があるのだが」
「……走ったところで、負けるのは確定的でしょう」
「分かってないねぇ。勝ち負けなんて重要じゃないんだよカフェ。私にとってはより競い合えるかどうか……私が果てへと至れるかどうかなんだ。勝ち負けなんてどうでもいい」
「……やっぱり、変な人」
オペラオー君は現在年間無敗を継続中。まさに圧倒的といっていい強さだ。そんな相手と走れるのは楽しみではあるが……まだ私はジュニア級。走る機会は来年に持ち越しだねぇ。
「ところでカ~フェ~。カフェの次走はどうなってるんだ~い?」
「……弥生賞です。皐月賞トライアルに、出走するつもり、です」
「ほほ~う!それは偶然だねぇ!私もホープフルの後には弥生賞に出走するつもりでねぇ、一緒に走れる機会がやってきたわけだ!」
「……今からでも、出走を取り消しましょうか」
「冷たいねぇ」
ホープフルも楽しみだが、弥生賞も楽しみになってきた!さぁ、私の実験に協力してくれたまえよ?諸君。
◇
その日は珍しく実験を早めに切り上げてトレーナー君にお弁当箱を返す時だった。
「よぉ、タキオン」
「おやぁ?」
廊下でばったりポッケ君に出会った。これはこれは、偶然があったものだ。
「テメェ、今度のホープフルステークスに出るらしいな?」
ポッケ君は闘志を滾らせ、ギラギラとした目で私を見る。まるで猛獣のようだねぇ。特になんとも思わないが。
「そうだが、それがどうかしたのかい?」
「ハンッ!決まってんだろ!」
指を突きつけられ、派手に宣言される。
「ホープフルステークス、覚悟しておけ!俺が勝って、俺が世代最強だって証明してやる!」
ふ~ん、世代最強ねぇ。
「そうかい。楽しみにしているよ」
「待て待て待て。あっさりし過ぎだろテメェ」
横を通って立ち去ろうとしたら肩を掴まれてしまったよ。あっさりしてる、と言われてもねぇ。
「君の言う最強とやらには別に興味がない。好きなように名乗りたまえ」
「ンだと……!」
「ただ、そうだねぇ……私を楽しませてくれよ?」
ニッコリと、笑ってそう告げる。ポッケ君は僅かに震えていたが、効果はあったみたいだね。
「上等だ……!ホープフルステークス、勝つのは俺だ!」
最後にもう一度宣言して去っていく。ふんふん、負けん気は十分、と。
「楽しい実験になりそうだねぇ」
さぁて、トレーナー君にお弁当箱を返しに行かないと。また卵焼きを入れてもらうように言っておかないとねぇ。
他のも投稿したいけど、3日前からまさかのコロナ陽性でしんどみ。久しぶりに39.4℃の世界を体験しましたよ。ガチで辛いっすねアレ。まぁ書けるぐらいには元気あるんですけど。