ホープフルステークスの結果は、世間でかなりの賑わいを見せた。
【アグネスタキオンが一蹴!三強ではない、一強だ!】
【圧巻の6バ身差レコードV!ジュニア級レコードを塗り替える圧倒的速さ!】
【高村T、サクラバクシンオーに続いて三冠ウマ娘を輩出か!?】
ペリースチーム・ジャングルポケット・アグネスタキオンの三強決戦と目されていたホープフルステークスは、アグネスタキオンの圧勝で終わった。それまでのジュニア級レコードを塗り替える走り、しかもまだまだ底を見せていない。
敗戦を喫したジャングルポケット陣営は落ち込んでいる……
「やはり恐ろしい相手じゃな、アグネスタキオン……」
「大丈夫?ポッケ。あんまり影響がでるようなら、トレーニングを休みに「そんな暇ねぇっすよフジさん!」ぽ、ポッケ?」
わけでもなく。むしろジャングルポケットは燃え上がっていた。
「あんなにズタボロに負けると、いっそ清々しいくらいっすよ!それに、俺だってまだまだ伸びしろがある!次戦う時は、タキオンのヤツをぎゃふんと言わせてやります!」
「ポッケ……」
「安心せい、フジ。ポッケはむしろ火が点いた。冬休みも返上するつもりじゃろ?」
「当然だ!むしろ今からトレーニングしても「それはダメじゃ。今から有馬記念が始まるからのう」え!?有馬記念っつーと、最強が集まるあの!」
「そうじゃ。観るのも勉強。ほれ、大人しく座っとれ」
次こそはリベンジを果たす。ジャングルポケットはへこたれることなく次戦う時を楽しみに待つ。
(待ってろよタキオン!テメーをぶっ飛ばして、俺が最強だって証明してやる!)
闘志を滾らせながら。
──その頃アグネスタキオンはというと。
「トレーナーくーん!早くお弁当を持ってきたまえよ~!そして私に食べさせたまえ~!」
「はいはい……日に日に酷くなってない?アグネスタキオン」
「ふぅン、これも全て効率化のためだ。全ての無駄を省いた結果、君に食べさせてもらうのが合理的だと判断したんでねぇ」
「僕の効率は考えてくれないんだね。別にいいけど」
「……高村トレーナーの、迷惑を考えたら、どうです?タキオンさん」
〈ダラク!ヨウカイゴ!ギャハハ!〉
旧理科準備室に高村トレーナーを呼びつけ、弁当を食べさせてもらっていた。マンハッタンカフェから呆れたような視線を送られてもお構いなしである。なお、有馬記念はテイエムオペラオーが制し、見事年間無敗のグランドスラムを達成した。
◇
ホープフルステークスが終わり、年が明けたある日のこと。
「あ、あの!失礼しますっ!」
「はい、どうぞ」
白い帽子の彼女は突然やってきた。確か名前は……。
「あなたが、高村聖トレーナーですよね?」
「そうだね。僕が高村聖で合ってるよ」
「わ、私!ホッコータルマエって言います!今日は高村トレーナーにお願いがあってきました!」
そうそう、ホッコータルマエだ。彼女はなにやら焦っているというか、緊張した様子を見せている。僕にお願い、か。相談事か何かだろうか?
「単刀直入にお願いします!私のトレーナーになってください!」
「いいよ」
「えっ!?」
即答したら驚かれた。いや、当然かもしれないけど。それにしても随分唐突な申し入れだね。僕と担当契約を結んで欲しい、っていうのは。
その後、幾分か冷静さを取り戻したホッコータルマエが理由を話してくれた。
「そ、その……私、地元の苫小牧を盛り上げたいんです」
ホッコータルマエは続けて苫小牧の良さについて語り始める。その熱意は凄まじく、何時間でも語れますよ!ぐらいの勢い。本当に地元が好きな子なんだな、ってのが伝わってくる。
(アプリでもそうだったな)
活気を失いつつある地元を盛り上げるために色々と頑張っているウマ娘。ロコドル?というのもその一環だとか。なんにせよ素晴らしい志だと思う。
「そうなんだ。立派だね」
「あ、ありがとうございます。それで私、休日とか使って色々と頑張ってるんですけど、いまいち掴みが弱くて……」
「色々……たとえば?」
これだけの熱意があるならば、ファンにもきっと伝わっているはずだ。だからそれなりの結果は出せていると思うんだけども。
「え~っとぉ……まずは、苫小牧の歌を歌ってみなさんに注目してもらうんです」
「うん、悪くない手法だね。まずは注目されないと何も始まらない、歌って目を惹くのは良い手だと思う」
苫小牧の歌、っていうのはよく分からないけど、街頭にせよなんにせよ注目を集めることは間違いないだろう。大半の人は立ち止まって歌を聞くことが予想できる。音痴ということもなさそうだし。
「それで、集まった人達に苫小牧のことをアピールするんです」
ライブのMCみたいなものだろうか?成程、合理的ではあるね。次の曲を歌うまでの繋ぎとして苫小牧のことをアピール、テンポよくいけばお客さんからの評価も上々なものとなるだろう。
「アピールっていうのは具体的に何をするの?」
「それはですね……苫小牧クイズです!」
「え?」
うん?一気に雲行きが怪しくなってきたぞ。なに、苫小牧クイズって。
「苫小牧の特産品とか、有名なとことか!クイズ形式で出題してお客さんに答えてもらうんです!」
「……そうなんだ」
「クイズは人気ですし、これできっと苫小牧への理解を深めてくれる!ってやってるんですけど……私、熱が入り過ぎちゃうせいでいつも上手くいかないんです……」
「ちなみに、その後はちゃんと歌ったりするの?」
「?歌いませんよ。苫小牧ソングはまだそんなにあるわけじゃないので、歌い終わったら後はクイズです……その頃にはお客さんみんな帰っちゃいますけど」
いや、まぁ、うん。熱が入り過ぎとかどうこう以前に戸惑うんじゃないかな?場を繋ぐためのMC的な役割ならともかく、そのままずっとクイズが続いたらお客さんとしても戸惑うだろう。
「高村トレーナー的には、何がいけないと思いますか?」
不安そうにしているホッコータルマエ。あまり直接的な表現は憚られるけど、言うしかないだろうこれは。
「……ホッコータルマエは、歌ってお客さんを集めているわけだよね?つまりは路上ライブみたいなことをやってるわけだ」
「?はい、そうですね」
「そんなところで急にクイズ大会を始められても、お客さんとしては戸惑うんじゃないかな?歌を聞きに来たのに、急に苫小牧のことを聞かれたわけだから」
「……あっ!?」
うん、気づいたみたいだね。
「苫小牧の話は、歌の間の繋ぎに入れるぐらいがちょうどいいんじゃないかな?その方がお客さんも居残ってくれるだろうし、合間のトークで苫小牧もアピールできるし」
「で、でも。それだと苫小牧アピールが足りなくないですか?」
「一気に情報の波を浴びせるよりは効果的だと思うよ」
「う゛っ、で、ですよね……」
目に見えてしょんぼりとするホッコータルマエ。多分、熱意がありすぎて空回りしたんだろうな。
その後も自分の考えを伝えていたが……待って欲しい。今まで路上ライブの話をしたけど、それで僕のところに尋ねてくる理由はなんだ?別にライブに詳しいとかそんな噂は僕にはなかったはずだぞ。話が横道にそれていないだろうか?
「とりあえず、話を元に戻そうか」
「はい!苫小牧の「そっちじゃないね」あ、違うんですか……」
「そんな露骨にガッカリしなくても。どうして僕と担当契約を?」
色々としている、の部分にそれてしまったので軌道を修正。何故自分をトレーナーに、と聞くことにした。
おずおずと言いにくそうにしているホッコータルマエ。ただひたすらにじっと待つ。少しの沈黙の後、ホッコータルマエは口を開いた。
「学園の生徒である以上レースも大事ですし、それにレースで強くなれば苫小牧をアピールできますし……そうなると」
「あぁ、僕にいきついた、ってわけか」
「べ、別に都合がいいから高村トレーナーを選んだわけじゃないんです!そこは信じてください!」
疑ってはいないんだけどね。むしろ、強くなるために僕のところに来たんだったらちょっと嬉しかったりする。トレーナーとしての腕が認められたみたいだからね。
先程からわたわたしているホッコータルマエ。正直な話答えは決まっているので安心させるとしよう。
「いいよ、結ぼうか。担当契約」
「だからその!決して邪な感情があるわけではなく……へっ?」
「構わないよ。契約しても。手続きを済ませようか」
今度は目を丸くして驚いているようなホッコータルマエ。表情がコロコロ変わってちょっと面白い。契約書類の準備をしていると、我に返ったホッコータルマエが身を乗り出してきた。
「あ、あの!本当にいいんですか!?」
「うん、いいよ」
「こういうのって、もっと入部試験とか面接とかあるんじゃ」
「あんまりそういうの得意じゃないから」
「えぇ~……」
肩透かしを食らったかもしれないけど、面接も試験もやる気はない。契約の紙をホッコータルマエに手渡す。
「まぁ、僕のチームの子はちょっと……大分……結構個性的だから。そこだけは注意しといて。合わなかったら辞めても構わないから」
「そこは取り繕わないんですね」
取り繕うにも否定しづらいところがあるからね。良い子達ではあるんだけど。
「……でも、お願いします!強くなるために、苫小牧を盛り上げるために!」
「うん、これからよろしくね」
最終的に、ホッコータルマエはチームに入部することになった。これで6人目……結構増えてきたなぁ。
後日、みんなに紹介する。
「新しい子が入って来たよ。それじゃあ自己紹介を」
「ほ、ホッコータルマエです!よろしくお願いします!」
メンバーの反応はというと。
「えぇ!よろしくお願いしますねッ!」
「わわっ、また入ってきたんだ!あたしはキタサンブラック、よろしくお願いしますね、タルマエさん!」
「……よろしく」
「慣れ合うつもりはなくてよ。私に認めさせたければ、力を見せることね」
「これまた随分と健康的なモルモ……ウマ娘が入部したものだねぇ!早速この薬を」
「アグネスタキオンは薬を飲ませようとしないでね。それじゃあトレーニングを始めようか」
それぞれっぽい反応をしていた。加えて、バクシンオーとキタサンブラックが馴染みやすい雰囲気を作ってくれている。ホッコータルマエに積極的に絡んでいった。
「ところでタルマエさんッ!その箱は何でしょうか!」
「あ、これですか?これは苫小牧の名産品で、ハスカップです!美味しいですよ!」
「いただきますッ!……これは確かに美味しいですねッ!花丸ですッ!」
「ホントだ~!すっごく美味しいです!ドゥラさんも食べてみて!」
「……いただこう」
あの調子ならすぐにでも馴染むだろう。喜ばしいことだね、うん。
◇
──数日後。
「~~~のでみなさん!苫小牧は凄く良いとこなんです!なので合宿地もこれから苫小牧に!」
「いや、さすがに遠すぎるねぇ。そんなとこまでいく時間があるなら合宿所でトレーニングした方がいいだろう」
「え~!?ホッキ貝にハスカップ、よいとまけだってあるんですよ!何が不満なんですか!?」
「物理的な距離ですわ。なにが悲しくて北海道までいかなければなりませんの」
「やや?見てくださいキタさんッ!茶柱が立ちましたよ!」
「本当だ!縁起がいいですね!」
「……ハスカップ、美味しい」
うん、馴染み過ぎじゃないかな?別にいいんだけどね。
君随分馴染むの早いねぇ。