「随分と、挑発したんですね」
「おやぁ?何の話だいカフェ」
旧理科準備室で相変わらず研究をしている折、カフェがそんな風に呟いた。挑発か、思いつくのはこの前のインタビューぐらいしかないねぇ。
カフェの方へと視線を向ける。彼女の手元には、案の定インタビューの雑誌があったわけだ。
「【アグネスタキオン陣営三冠に向けて視界よし!競い合うようなライバルはいない!】……随分とまぁ、大きく出ましたね」
「アッハッハ!あのインタビュー内容でそんな記事ができるのか!これは面白いねぇ!」
「……では、捏造だと?」
「いや?別に捏造ではないよ。それに類する発言はした自覚はあるからね」
どちらかと言えばインタビュー通りの記事じゃない方が危惧したぐらいだしね。というかアレだね。私もトレーナー君も三冠を狙う可能性はあるとしか言ってないんだけどね。ま、いいだろう。記者には好き勝手言わせておけばいい。どの道三冠を狙う気は毛頭ないのだから。
(日本ダービーも、私にとって利となるものがなかったら出走しない。トレーナー君には先んじてそう言ってある。はてさて、この先がどうなるのかが非常に楽しみだ!)
他のメンバーがどう出てくるのか?非常に気になるところではある。さてさて、今のうちに研究を「おいタキオン!いんだろテメー、出てこい!」「ま、まずいってポッケちゃぁん……」来るとは思っていたが、少々めんどくさいねぇ。
答える間もなく、旧理科準備室の扉が乱暴に開け放たれる。立っていたのはポッケ君とダンツフレーム──ダンツ君だ。ふむ?ポッケ君の予想はついていたが、ダンツ君は少々予想外だったな。
(彼女の活躍は聞き及んでいる。是非とも一緒に走りたい1人だからねぇ)
ただ一緒に走ったことはない。それに彼女の性格を加味しても、ここまで乗り込んでくるような手合いでもないだろう。となると、ポッケ君についてきた線が濃厚、か。
ポッケ君は息を切らして怒っている様子。まぁ十中八九カフェと同じインタビュー記事を見たのだろう。ダンツ君は戸惑ってオロオロしているねぇ。おっと、カフェがコーヒーを手渡したね。あっちは大丈夫だろう。こっちはこっちで応対するか。
「なにかなポッケくぅん。生憎と私は暇じゃないんだ、手短に頼むよ」
「ほ、ほ~う……随分なご挨拶じゃねぇかテメーよぉ……!」
こめかみをピクピクとさせている。余程怒りが溜まってるんだろうねぇ。発散させないと身体に悪いよ?
「テメー、インタビューではトレーナー共々随分好き勝手言ってくれたみたいだな!なーにが、私にライバルはいない、だ!一度俺に勝ったぐらいで調子乗ってんじゃねーぞ!」
「事実私にライバルはいないからね。君はどう思っているんだい?ホープフルステークスで私に
「
なんかさりげなくトレーナー君も標的にされてしまったよ。ご愁傷様だ、トレーナー君。
「良いか?俺はホープフルステークスみたいな負けは二度としねぇ!次テメーと戦う時はもっと強くなって、そんでそんでテメーをぎゃふんと言わせてやる!」
「ぎゃふん」
「バ・カ・に・し・て・ん・の・か・ぁ~!」
おぉ、凄まじい怒りだねぇ。怒髪天とはこのことだろう。髪の毛が逆立っているようにも見えるよ。
「用事はそれだけかい?生憎とインタビューの意図ならば、記事以上の情報はないよ。君が見たままに感じたことが全てだ。語る必要などない」
「……あぁそうかい。だったら、挑発ってことでいいんだな?」
「ご自由に」
事実、あのインタビューは大部分が挑発だ。他のウマ娘の敵愾心を煽り、強くさせるためのね。元より私に対して強い対抗心を抱いていたポッケ君には効果覿面だろう。なんせ、わざわざ私のところに足を運ぶぐらいなのだから。
ポッケ君はというと、幾分か冷静さを取り戻したのか黙りこくった。ふむ、これ以上は何も語らないつもりかな?ならば用事は済んだとみなし、研究へと戻ろう。PCへと向き直る──瞬間。
何者かから肩を思いっきり掴まれる。片方の肩だけじゃない、PCへと向き直ろうとしていた私の身体を自分へと向けさせ、両肩を思いっきり掴まれる。わずかに痛みで顔をしかめるが、まぁ些細なことだ。
私の身体を引きちぎらんばかりの力で掴む彼女、ポッケ君は
「……ハハ、こんなにナメられたのは初めてだよ」
「そうなのかい?ま、私にとってはどうでもいいことだが」
「おい、タキオン。テメーに宣言しといてやる」
私の言葉を無視して、ポッケ君は敵対心たっぷりの表情で私に告げた。
「クラシック三冠を取るのはこの俺だ。皐月もダービーも、菊花賞だって渡さねぇ。テメーにはずっと俺の影を踏ませてやるよ」
「……ほう」
「そして、俺は世代最強の座を掴んでやる!いずれは、あの世紀末覇王も倒して!俺がトゥインクル・シリーズの頂点に立つ!」
世紀末覇王……オペラオー君のことか。随分と大きな目標を立てたものだ。だが、冗談で言っているわけじゃない。大真面目に宣言している。そう思わせるだけの迫力が彼女にはある。
(……ま、そうでなくては面白くない)
ウマ娘はより強い相手と戦えば、相乗効果で能力が上がる。闘争本能を掻き立てられるからだろう。領域に適性も重要な要素の一つだが、高め合う相手というのもまた必要なものだ。
「覚えておけよ、タキオン!もうホープフルステークスの時みてーな負けはしねぇ、次戦う時はぶっ潰してやる!今度はテメーが俺の影を踏む番だ!」
「……ふぅン?」
「本気で来やがれ、タキオン!本気のお前に勝って、俺が最強を証明してやる!」
私に勝つ、と来たか。そうでなくては面白くない!
「クククク……ははは、あーっははははは!私に勝つと来たか!そいつは随分と面白い!」
「何笑ってんだ。言っておくが冗談じゃ「安心したまえ、冗談じゃないことは分かっている」お前……」
先程まで掴まれていた彼女の手を振り払い、手で顔を覆ってポッケ君を見やる。クク、敵対心に溢れた良い目だ。私の研究に役立ってくれる、あのインタビューにも意味があったというものだ!
「いいだろう、君の宣戦布告を受けて立つ。皐月賞で勝負といこうじゃないか」
「ッ!……へっ、随分と傲慢な態度をしてやがんなテメー」
「当然だ、私は強いからね」
「それはこっちも同じだ。お前に負けないぐらい強い、覚えておくんだな」
私とポッケ君がにらみ合う。一触即発の空気を破ったのは、私だ。
「精々頑張って追いつきたまえ、ポッケ君。ホープフルステークスの6バ身差が埋まるように、ね」
「上等だテメェコラ!高いところから見下ろして、落っこちても知らねぇからな!」
「おぉ怖い怖い。引きずり込まれないように気をつけないといけないねぇ」
挑発に挑発で返す。一進一退のにらみ合い。退いたのは──ポッケ君の方だった。
「用件はそれだけだ。あばよタキオン、首を洗って待っていやがれ!」
「勿論、楽しみにしているよ。精々私の実験に役立ってくれたまえ、ポッケ君」
「……あっ!ま、待ってよポッケちゃん!私を置いていかないで~!」
おっと、ダンツ君も帰るのか。
「待ちたまえダンツ君。君にも1つ言っておこうか」
「へ!?な、なにかなタキオンちゃん」
まさか自分が声をかけられるとは思っていなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。少々愉快だが今はそうじゃない。
「
「……え?」
「話はそれだけだ。早く追いかけないと、ポッケ君がどこかへといってしまうよ?」
「あ!?そ、そうだったそうだった……待ってよ~!」
ダンツ君も旧理科準備室を後にする。部屋にはまた、私とカフェだけになった。
「なんとも慌ただしいお客さんだった。わざわざ宣戦布告のためにここに来るなんてねぇ」
「……その割には、嬉しそうですが」
「おや、そう見えるかい?」
まぁ嬉しいのは確かだがね。彼女達が強くなればその分私の可能性も跳ね上がるからね、良いことづくめだ。
「そういえばカフェ、君と私は次走が一緒だねぇ!君のデータ……げふんげふん、一緒に走れるのが楽しみだよ!」
「……少しは、隠す努力をしたら、どうですか?」
「それは難しい問題だ。私はどうも欲求を抑えるというのが苦手でね」
「……まぁ、良いですが。どちらにせよ、負けません」
カフェのレース映像は拝見したことがあるが、まだまだ未知数なところが多い。彼女のトレーナーは会長のトレーナーだからね。油断は禁物だ。
フフフ……弥生賞も皐月賞も楽しみだ。
◇
旧理科準備室を退出した後、ジャングルポケットは上機嫌さを隠そうともせず帰っていた。
「へっ、最初煽られた時はマジでムカついたけど、アイツなりにやる気は出してくれたみてーだな……俄然皐月賞が楽しみになって来たぜ!なぁダンツ!」
「……へ?あ!そ、そうだね!楽しみだね、うん!」
隣を歩くダンツフレームに声をかけるジャングルポケット。だがダンツフレームの言葉は少し遅れる。考え事をしているのか、反応が遅れた様子だった。
「どうかしたのか?ダンツ。なんか考え事してたみてーだけど」
「あ、あ~……そのぅ、タキオンちゃんに私にも期待されてる、って声をかけられて。それってどんな意味なんだろう、って考えてて……」
「なに!?タキオンにだと!」
「う、うん」
ダンツフレームの胸に引っかかっていたのはアグネスタキオンの言葉。ダンツフレームにも期待しているという言葉だった。
正直、ダンツフレームには理解が及ばなかった。ジャングルポケットやペリースチームのような、強いウマ娘が言われるのならば分かる。ただ、自分はどこまでいっても普通のウマ娘だ。
(普通の実力しかなくて、ポッケちゃんみたいな覚悟もなくて、自分に自信がなくて……)
アグネスタキオンやジャングルポケットに並ぶには何もかもが足りない。そんな自分に、アグネスタキオンは期待しているといった。それはどうしてだろうか?ダンツフレームはそう考えていた。
悩むダンツフレームに、ジャングルポケットは屈託のない笑顔で答える。
「そりゃアレだ!ダンツもタキオンにライバル宣言されてんだよ!」
「……私が!?なんで!」
「なんでって……ダンツも強いからだろ?」
ジャングルポケットの言葉を否定するダンツフレームだが、ジャングルポケットは揺らぎのない瞳でダンツフレームを見る。嘘は言っていない、本当のことだと訴えかける眼差しに、ダンツフレームは気圧された。
少しの間見つめ合った後、ジャングルポケットは二ッと笑う。
「ま、お互いに頑張ろうぜダンツ!つっても、皐月賞は俺が勝つけどな!じゃあな~!」
そう告げて、ジャングルポケットは去っていった。走り去るジャングルポケットを呆然と見るダンツフレーム。
ジャングルポケットの姿が見えなくなった後、先程言われたことを頭の中で反芻する。
(……確かに、ポッケちゃんもタキオンちゃんも、カフェちゃんだってみんな強い。私が3人に並べるかどうかは、ちょっと疑問が残る)
でも、とダンツフレームは決意する。
(
今は3人に並べないかもしれない。だったら、この先は並べるように頑張ろう。努力を重ねよう。ダンツフレームはそう決意して、トレーナーの下へと向かった。
効果てきめんでしたね。