ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ツヅキダヨ。


衝撃の発表

 大口を開けて固まるジャングルポケット達。あまりにも意外な言葉により、マンハッタンカフェでさえも固まっていた。そんな状況でアグネスタキオンは愉快そうに含み笑いをしている。

 現在4人はテレビを見ている。内容はアグネスタキオンのトレーナー、高村聖へのインタビューだ。テロップには【アグネスタキオン日本ダービー出走回避!その真意に迫る!】と書いてあり、インタビューの内容も大半がレース回避の理由で占めていた。

 そんな中で明かされたアグネスタキオンの次走。

 

《アグネスタキオンはニエル賞をステップレースに、凱旋門賞へと挑戦します》

 

 あまりにも予想外過ぎるレースに、報道陣でさえも固まっている。先程まで喧騒が凄かった会場は静まり返っており、我に返ったであろう記者達の叫び声をテレビが拾っていた。

 

「が、が、が……っ!」

「凱旋門賞~!?たた、タキオンちゃん本当なの!?」

「嘘じゃないよ。私の次走はニエル賞、そして凱旋門賞に挑むのさ」

 

 こともなげに答えるアグネスタキオン。ジャングルポケット達の反応に余程満足しているのだろう、笑いを堪えきれていない。

 

「予想できたかね?私の次走がニエル賞であることを」

「……予想、できるはずがないでしょう。こんなの」

「それはその通りだ!私が凱旋門賞を目指していたことは誰もが知らないことだったからねぇ!あ、勿論トレーナー君は知っていたよ。というか、元々トレーナー君が提案したことだしね」

「あ、あの人が?」

 

 ダンツフレームの言葉に頷くアグネスタキオン。当時のことを思い出すように語り始める。

 

「私の目的には強い相手との戦いが必要不可欠。だがその舞台に世界を選ぶとは思いもしなかったよ!あぁ、確かにそうだ。国内にとどまらず海外にも目を向ければ、強い相手はごまんといる!彼の提案は私にとっても文句の付け所がないものだった!」

「……いつから決めてたんだよ?」

()()()()()()()()。なんせ断る理由がないんだ、乗るに決まっている」

 

 テレビでは高村がインタビューに淡々と答えているが、報道陣の興奮は冷めるどころかむしろ上がっている。

 

《いいい、一体いつから凱旋門賞挑戦を!?》

《デビュー前からです。より強い相手との戦いを望むならと、私が提案しました》

《ですが、日本で凱旋門賞を勝ったウマ娘はいません!エルコンドルパサーも、惜しくも敗れてしまいました!》

《勝たせます。そのために頑張っていますので》

《……他のチームメンバーはどうするのでしょうか?》

《着いていきます。良い勉強になると思いますので》

 

 皐月賞を圧倒的な強さで制したアグネスタキオンの海外挑戦。盛り上がらないはずがない。だが、中には勘づいた人もいる。

 

《で、ですが!ニエル賞に出走するとしても日本ダービーには出走できると思いますが》

《確かにそうですね。出走自体は可能です》

 

 たとえ海外挑戦をするにしても、日本ダービーは出走できるだろうと。アグネスタキオンが望まないから、理由はそれだけではないだろうと詰める。

 しかし、高村の態度は変わらない。冷静に答える。

 

《ですが、先程も申し上げました通りアグネスタキオンが日本ダービーへの出走を望みません。なので、日本ダービーには出走しません。それだけです》

《の、望まない理由は!?なんでしょうか!》

《彼女の目的に合致しないから、と答えておきます。それと、アグネスタキオンに接触を試みようとしないように……》

 

 その後もインタビューは続いたが、ジャングルポケット達の脳内はアグネスタキオンの凱旋門賞挑戦というインパクトで吹っ飛んでいた。各々手持ちのウマホで呟きサイトの確認をする。

 

「うわっ!?ウマッターのトレンドにもう入ってる!」

「ほほう?それだけ衝撃的だったんだろうねぇ」

「いやいや、当たり前だろ!お前海外挑戦なんて考えてたのかよ!?」

 

 先程まで消沈していたことも忘れてタキオンに詰め寄るジャングルポケット。さすがの彼女もタキオンが海外挑戦を考えていたとは思いもしなかったのだろう。さっきから慌てっぱなしだ。

 

「まぁ特段言う必要もないと思っていたからね。まさかこれほどの反響があるとは思わなかったが」

「ンで当事者のお前がそんなのほほんとしてんだよ!マジで意味分かんねーコイツ!」

「諦めて、くださいポッケさん。これが、タキオンさんですので」

「アッハッハッハ!これが私だ!」

 

 大笑いするアグネスタキオン。呆れ果てるマンハッタンカフェ。色々な情報を浴びせられて気持ちが乱高下しているジャングルポケット。未だに驚きに満ちているダンツフレーム。様々な反応を見せていた。

 

 

 少し時間が経って、ようやく落ち着いたジャングルポケット達。未だ納得のいってない表情ながらもジャングルポケットはアグネスタキオンを見据える。

 

「……つまりはまぁ、テメーはダービーに出ないでニエル賞に出走するってか?」

「要約するとそういうことだね」

「それで、ダービーに出走しないのは……タキオンちゃんにとって、利益がないから」

「そうだ。別に怪我をする可能性があるからとかそういうのではない、私にとって得になることがないからだ。だから出走しない……分かってもらえたかな?」

 

 正直な話、ジャングルポケットとダンツフレームは納得していなかった。得がないからといって、ダービーの栄誉を捨てるなんてことは彼女達の頭にはなかったこと。アグネスタキオンの考えを支持することは到底できない。

 しかし、アグネスタキオンの口から……自分達の心の内をズバリと言い当てられた。皐月賞のアグネスタキオンに恐怖を抱いていることを。

 彼女が言っているのは本当のこと。2人は何も言い返せない──

 

()()()、分からねぇ」

「ぽ、ポッケちゃん?」

「ほう、なにがだい?」

 

 わけではなかった。ジャングルポケットはそれでもアグネスタキオンを睨みつける。その目は先程まで消沈していた目ではない、わずかにだが目に火が灯っていた。

 

「全部だ、全部。オメーが凱旋門賞に出走するのも分かんねー。ダービーに出走しねーのはもっと意味が分かんねぇ、納得いかねぇ」

「さっきから言ってるだろう?私にとって利益になることが「俺にとって!レースは損得勘定じゃねぇんだ!」……ふぅン?」

 

 また掴みかかる勢いで詰め寄るジャングルポケット。ダンツフレームが大慌てで抑えようとする。

 

「ポッケちゃん!ダメだって!」

 

 だがジャングルポケットは止まらない。

 

「まだ決着はついてねーだろうが!勝ち逃げなんて許さねぇ、テメーは納得しても俺が納得しねぇ!次こそは絶対に勝ってやる!」

「……随分とまぁ自信に満ちた発言だ。第一、皐月賞で完全に決着がついただろう?君の心は折れたはずだ。それに、なにをもって私に勝てると?」

 

 呆れ果てるアグネスタキオン。理解できない、そんな表情だった。

 

「そ、それは……ほら、アレだよ!」

「アレと言われても私には分からないが」

「と、とにかく練習しまくって、そんで滅茶苦茶強くなって!そしてそして、オメーを超えてやる!次は負けねぇ、心が折れたなんて言わせねぇ!俺はまだ、負けちゃいねぇ!」

 

 最早子供の駄々だった。理由なんてない、自分が気に入らないから一緒に走れと言っているようなもの。明らかな虚勢、相手にするだけ無意味。だが、誰一人として彼女を笑わなかった。

 アグネスタキオンは厳しい目でジャングルポケットを見る。視線からは僅かな苛立ちが感じられた。

 

「……話にならないね。せめて私に勝てる根拠をもってきたまえよ」

「うっ」

「先程から目が泳いでいる。明らかな虚勢だ。そんな状態で、なにを言っているのやら」

 

 椅子に座り、背もたれに体重を預け、視線を空中に移す。誰もが口をつぐむ。静かな時間が訪れるが、ふと何かを思い出したかのようにタキオンが口を開いた。

 

「あぁ、そうだ。君達に最後、良いことを教えてあげよう」

「……ンだよ?」

「君達は領域というものを知っているかね?オカルトや都市伝説的な扱いをされている、アレだ」

 

 ジャングルポケットとダンツフレームは顔を見合わせる。一応、2人とも名前だけは知っていた。マンハッタンカフェは知っているが口を挟まない。変わらずソファで寛いでいた。

 3人の言葉を待たずしてアグネスタキオンは続ける。

 

「極限の集中状態……限界の先の先、時には本人さえも知らない剛脚を生み出す。色々と言われているが、主だったのはこれくらいか」

「そ、それがどうかしたのかよ?領域が何だってんだ?」

「皐月賞で私が使ったのがソレだ。君達が皐月賞で感じた恐怖の原因……おそらく私の領域によるものだろうね」

「「ッ!?」」

 

 2人は驚く。ジャングルポケット達も領域に至ることの難しさは知っている。彼女達の先輩からそう教えられたから。だからこそ、そんな高みにアグネスタキオンがすでに至っているとは思いもしなかったのだろう。マンハッタンカフェは察しがついていたのか、驚く様子を見せなかった。

 

「お、お前もうそんなところまで……!」

「凄い……っ」

 

 驚いた表情でタキオンを見る2人。しかし……ここからだった。

 

「そして、領域について研究を進めていたのだが……1つ、面白いことが分かった」

 

 笑みを深めるタキオン。明らかに悪いことを考えている表情だった。

 

「領域はある程度コントロールができるのさ。本来であれば著しく体力を消耗する代物だが、コントロールすれば消耗を抑えることができる。使う場所を限定するとか、まぁそんな感じだ」

「だ、だから何だよ?それが何だってんだ?」

「それを踏まえた上で、私が皐月賞で出した領域の出力を教えてあげよう」

 

 椅子から立ち上がり、ジャングルポケットへと歩を進める。思わずたじろぐジャングルポケットだが、お構いなしにアグネスタキオンは詰め寄った。狂気的な笑みを張りつけて、言い放つ。

 

20%だ!あの時点での私の領域は20%ほどの力しか出していない!つまり、まだまだ先があるんだよ!

「……は?」

 

 もたらされた情報に、理解が追いつかない。あまりの衝撃に呆けて固まる。そんな表情を見てアグネスタキオンは──言いたいことは言ったとばかりに椅子へと戻る。

 

「理解したかね?私はまだ余力を残している、ということだ」

「「……」」

「私に追いつきたいというのならば、今すぐにでもトレーニングすることをオススメするよ。あぁ、でも怪我だけはしないようにしたまえ。怪我は怖いからねぇ」

 

 空になったビーカーに砂糖を入れ、紅茶を淹れる。もう話すことはない、暗にそう言っているようだった。

 フラフラとした足取りで、出口の扉へと向かうジャングルポケットとダンツフレーム。

 

「タキオン」

 

 去り際、ジャングルポケットは振り向かずに話しかける。

 

「なにかな、ポッケ君。まだ私に言いたいことがあるのかね?」

 

 少し苛立ちの籠った声で反応する。ジャングルポケットは、臆することなく口を開いた。

 

「テメーが全力じゃねぇとか、まだまだ先があるとか知ったことか。俺は……絶対に諦めねぇぞ。テメーがどんだけ上にいようが、いつか必ず追いついてやる」

「……そうかい。期待せずに待っているよ」

 

 そこで会話は途切れる。2人は旧理科準備室を退出した。

 

 

 ジャングルポケットとダンツフレームの2人が出て行った後、マンハッタンカフェが口を開いた。

 

「珍しいですね。そこまで苛立ちを表に出すなんて」

「どういう意味かな?カフェ」

 

 心外だ、とばかりに唇を尖らせるタキオン。それでも、カフェは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「言わなくても良いことを口にする、教える気のなかった情報を教える……あなたにしては、珍しいことだと思いました」

「ふぅン、たまたまそんな気分だっただけだ」

「それに、言葉の端々から苛立ちのようなものを、感じました。それは、何故ですか?」

 

 問いかけにタキオンは答えない。不機嫌そうな表情で睨むだけだ。

 

「そもそも、本当に気にかけていなければ、あなたは相手にしない人です。あなたは、お2人に期待していたのではないですか?」

「……随分と饒舌だねぇ。実験台になりたいのかい?」

「そんな気は、ありません。ですが、ふと、気になったもので」

 

 カフェの言葉に、ついに我慢の限界を迎えた。自分のことを知ったような口を利く彼女の言葉に、イライラが頂点を迎える。

 角砂糖を嚙み砕いてタキオンは吠えた。

 

「フン!知らないねぇ!あぁ全く気分が悪い、これはトレーナー君を実験台にしなければならないねぇ!それも一本や二本じゃない、私の気が済むまでやらないと!」

「……犠牲になるのは、あの人なんですね」

「当然だ!彼は私のモルモットだぞ?私の気が済むまで実験に付き合うのは当然のことだ!」

 

 無茶苦茶な理論を展開するアグネスタキオン。その態度で、彼女がジャングルポケット達に期待をしていたことは分かる。本人は頑なに認めようとしないが。

 旧理科準備室での一幕。慌ただしい日となった。

 

 

 

 

 

 

 旧理科準備室からの帰り道。ジャングルポケットは呟く。

 

「終われねぇ……このままで終われるかよ!」

 

 先程のやり取りを思い出し、表情を憤怒に染め上げる。血が流れんばかりに拳を握り締め、誓う。

 

「ダービーは勝つ、ゼッテーに勝つ!アイツを、後悔させてやる!」

 

 アグネスタキオンは折れたと判断したジャングルポケットの心。まだ、完全には折れていなかった。

 

 

 一方、ダンツフレームは。

 

「わたしは、どうしたらいいんだろう……」

 

 思い悩んでいた。これから先自分はどうしたらいいのか、分からなくなっていた。




まだ完全には折れていなかった模様のポッケ。本心を言い当てられそうになって不機嫌になるタキオン。犠牲となって発光する高村T。
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