ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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何も起きないはずはなく。


報道後の様子

 アグネスタキオンの諸々のことを公表してから数日。それはもう色々とあった。

 

「トレーナー君!早急に私の実験に付き合いたまえ!」

「……それは別にいいけど、なにかあった「口答えするんじゃないよ!さぁ、まずはこの薬を飲むんだ!」何かあったんだね。深くは追求しないでおくけど」

 

 ある日ではアグネスタキオンが何故か怒っていた。本当に理由が分からない。あまりにも理不尽な怒りでいつもの倍くらいの薬を飲まされた。いや、実験に付き合うのは全然構わないけど、せめて理由を教えて欲しい。さすがに物申したかった。

 まぁ後日、マンハッタンカフェ経由で教えてもらったのだが。彼女曰く。

 

「……ごめんなさい。私が少し、タキオンさんを煽り過ぎた、みたいです。そのせいで、高村トレーナーに被害を」

 

 アグネスタキオンを少し揶揄い過ぎたらしい。ジャングルポケット達が乗り込んできた時に、アグネスタキオンを煽り過ぎたと教えてくれた。そのせいで僕に被害が及んだと謝罪も添えて。

 

「あぁ、そんなことが。別にいいよ、実験に付き合うのはいつものことだから」

「……ですが、さすがにゲーミング色に発光するのは、いかがなものかと思います。学園でも、噂になってましたよ」

「別に今更だからね」

「……毒され、すぎだと思います」

 

 正直、僕が発光している頻度が多すぎて最早そういうものだと認知され始めてきているし。良いか悪いかで言われたら悪いんだけど、これもアグネスタキオンの実験のため。必要な犠牲……いや、本当にそうか?マンハッタンカフェの言う通り、毒され過ぎてはいないだろうか?……今更だ。

 

(でも、さすがに頻度を抑えないと。たづなさんにも注意され始めてきたし)

 

 言って聞くようなウマ娘でもないんだけども。ただ、たづなさんからの言葉なら抑えてくれるだろう。たづなさん、怒らせると怖いから。普段温厚で優しい人ほど怒らせたら怖いっていうタイプだ。

 

 

 後は、佐岳さんもあの会見を見ていたらしい。後日会った時、なんとも言えない表情で質問された。

 

「まさか、日本ダービーに出走しないなんてね。理由を聞いてもいいかい?」

「アグネスタキオンが出走を望まないから。それに尽きます」

「……君はなんというか、ブレないなぁ」

 

 苦笑いを浮かべられた。

 

「ダービーがどういうレースか、知っているだろう?世代の頂点を決める戦いと言ってもいい。そんなレースに、担当が出走を望まないから出走させない……あんまりできることじゃないよ」

「重々理解しています。理解した上で、アグネスタキオンの意思を尊重しました。勿論、全責任は自分が背負う所存です」

「……歳の割に、本当にしっかりしているな君。ある種達観しているというか」

 

 実際、ダービーがどれほど凄いレースかは分かっている。佐岳さんの言う通り、世代の頂点を決める戦いといっても過言ではない。怪我とか諸々の事情で出走できないならともかく、体調面も問題ないのに出走しないという選択肢を取る陣営は見たことがない。

 ただ、アグネスタキオンは利益がないから出走しないと決めた。それは、()()思っていたこと。

 

(別にジャングルポケット達を侮っているわけじゃない。ただ……アグネスタキオンの意見を聞いて、回避に踏み込んだ)

 

 現時点のジャングルポケット達と戦っても得られるものがない。それは、彼女達がアグネスタキオンに恐怖心を抱いているから。そんな相手と戦っても無駄というアグネスタキオンの意見には、賛同せざるを得ないだろう。気持ちで負けている相手と走っても、アグネスタキオンが求める研究に役立たないのは明白だ。

 もっとも、あくまでの話。今後どうなるかは分からない、ってとこか。

 ちょっと思考が別方向にズレてしまった。目の前の佐岳さんはというと、しかめっ面。何か怒らせてしまっただろうか?

 

「しかしなぁ。本当にもったいないと思うぞ?ダービーだぞ?特別なレースだぞ?」

「……分かってはいますけど。それでも出走を望まないなら無理に出走させる気はありません」

「ウマ娘思いだなぁ、君は。ま、これ以上深掘りはしないでおこう」

 

 どうやら別に怒っていたわけじゃないらしい。安心した。ただ、今度はバツの悪そうな表情。

 

「……まぁ、君達の次走を発表して以来、どこで嗅ぎつけたのか私が君のアドバイザーをしているのが明るみに出てしまってね」

「それがどうかした……いや、おおよそ察しがつきました」

「所詮陰謀論と言えばそこまでだが、君がURAと癒着している、なんて根も葉もない噂が出てしまったんだ。知っているだろう?」

 

 そのニュースは当然知っている。なにせ当事者だからね。

 彼らの言い分的には、アグネスタキオンがダービーを回避したのはURAが介入しているからだ!……なんていうとんでもない考えらしい。万が一が起こらないように、凱旋門賞を優先させて国内のレースを蔑ろにしている!ダービーを回避したのは凱旋門賞制覇を望むURAが出走させないように圧力をかけたからだ!って意見が散見された。

 いや、まぁ、うん。別に何を論じるのかは勝手だけども。

 

(ちょっと考えたらそんなことあるわけないって分かるだろうに)

 

 URA的にはダービーにも出て欲しいし、ダービーを勝ったうえで凱旋門賞も勝って欲しいだろう。その方がネームバリューが凄いわけだし。日本の2冠ウマ娘が凱旋門賞を制した!って方が見栄えもよろしいと思う。あくまで個人的な意見だけど。僕から言えることは、ダービー回避の理由にURAが絡むことなんてあるわけない、ってことだけだ。

 なおこの論調が出てきた原因は、URAの職員である佐岳さんと自分の関りが明るみに出たからだ。学園で自分と佐岳さんが話しているのを見たというタレコミがあったらしい。別に隠しごとをするような関係ではないのだけど。

 単に佐岳さんにはアドバイザーをしてもらっているだけなのだが、ここで面白がるのがマスコミというもの。あることないこと吹聴したわけで。

 

「佐岳さんも、申し訳ありません。自分の不徳で迷惑をかけてしまい」

「いやいや!気にしないでくれ聖トレーナー!むしろ私の方こそ謝るべきだろう!」

 

 佐岳さんにも被害が及んでしまった。一種の陰謀論なのですぐに鎮静化する兆しを見せているが、迷惑をかけたことは事実。しっかりと謝らなければならない。佐岳さんも自分に申し訳なさを感じているみたいで、お互い気にしないようにしよう、ってことになった。

 

「それはそれとして、今日も凱旋門賞に向けて特訓だ聖トレーナー!」

「分かりました。これからしばらくはレースがないので、高地トレーニングを本格的に始めるんでしたよね?」

「その通り!主な目的はスタミナ強化だな。あたし様の伝手があるから心配しないでくれ」

 

 僕が考えるべきことは、練習メニューの一新だろう。高地でのトレーニングと平地のトレーニングを一緒にしてはいけない。新たにメニューを作り直す必要が出てくる。この辺は佐岳さんの意見も聞いておかないと。

 

「そうだ。この機会に聞いておきたいんだが、いつ頃からフランスに渡る?できれば早い方がこちらとしてもありがたいんだが」

「いつ頃、か」

 

 ベストなタイミングだと、7月とかになるのだろうか?宝塚記念なんかも終わって、他のウマ娘達も秋に向けて力を蓄える頃だし。それに、夏合宿のタイミングで遠征していた記憶がある。

 

「7月の頭が良いんじゃないかと思います。夏合宿が始まるタイミングで、フランスに渡ろうと考えています」

「7月頭か……うん、問題はないだろう。じゃあ、その通りに遠征を始めようか」

「はい。ただ、アグネスタキオンの意見も後で聞いておこうと思います。彼女の意見が最も重要なので」

「違いない。走るのは彼女だからな」

 

 段取りは決まった。後はアグネスタキオンに聞きに行くだけだ。

 

 

 そしてアグネスタキオンに聞いてみたのだが。

 

「まぁいいんじゃないのかい?宝塚記念は見物する価値があるからねぇ。7月頭に遠征という意見には賛成だよ」

 

 あっさりと了承した。特に反対意見がないからかもしれないけど。

 

「7月にはフランス、ですか。レースの本場……胸が高鳴りますわ」

「ジェンティルドンナ達にとっても良い経験になると思う。特に、ドゥラメンテは凱旋門賞も目指してるからね」

「あぁ。この機会にしっかりと学ばせてもらう」

 

 他のメンバーも問題がないようだ。ということで、遠征の日が決まる。佐岳さんに連絡を入れた後、トレーニングを始める。

 

「いざ!我らがバクシンを世界に展開する時ッ!バクシンバクシーーーンッッ!」

「海外でも張り切ってこー!ワッショーイ!」

「……何故、キタサンは普段大丈夫なのにバクシンオーさんが絡むとあぁなるのですか?」

「分からないよ。あの2人はお互いにシンパシーを感じているみたいだし」

「師弟みたいなものじゃないでしょうか?」

 

 あの2人は本当に仲が良い。良いことだね、うん。でも我らがバクシンというのはどういうことだ?ジェンティルドンナ達も物申したそうにしているし。

 

「しかーし!フランスに遠征するこの機会は苫小牧を宣伝するチャンス!苫小牧を宣伝する用のフランス語を覚えないと……!」

「随分局所的な覚え方をしますのね」

「いつものことだろうタルマエ君は」

「バクシンワッショイ」

 

 チームのみんなは今日も元気である。




トンデモねぇ陰謀論が展開されてるもんだ。
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