ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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はーい!ダービーですね!なお


来る日本ダービー

 日本ダービーの日が近づいている今日、アグネスタキオンに聞いた。

 

「僕は日本ダービーを観戦しに行くけど、アグネスタキオンはどうする?」

「実験で忙しいんだ。パスさせてもらうよ」

 

 どうも実験で忙しいから日本ダービーは観に行かないらしい。ならばと自分1人で行く計画を立てていた。他のメンバーにもその日のトレーニングは休みであることを伝え、レース当日を迎える。

 結果。日本ダービー当日の東京レース場にて。

 

「おいおい早くしたまえよトレーナー君。時間は有限だぞ?早くいかないと良い席がなくなってしまうじゃないか!」

 

 何故かアグネスタキオンと鉢合わせた。なんで?君来ないって言ってなかった?

 

「……なんでいるの?」

「なんでって、今日はレースの日だから東京レース場にいてもおかしくはないだろう?」

「来ないって言ってなかった?実験で忙しいって聞いたんだけど」

「これもまた実験のために必要なことだよ」

 

 うん、もう気にしない。考えるだけ無駄だし時間がもったいないのもそうだ。アグネスタキオンと一緒に観戦することに。

 

 

 レース場に入って観戦の準備を始める、そんな時だった。頭に違和感を覚える。ただ、慣れ親しんだような、何回も乗せているようなそんな感覚。

 

(これは多分……)

〈ミツケタ!ミツケタ!〉

「ま、待って……どこに、行くの?」

「待ってくれカフェ!いきなりどうしたんだい!」

「……お友だちが、急に、飛び出していって」

 

 あぁ、やっぱりお友だちさんか。遠くからマンハッタンカフェと天城さんが急いだ様子でこちらに来るのが見えた。2人が急いできていることなど我知らずといった感じのお友だちさんは自分の頭の上を陣取っている。毎回思うけど、僕はいつまで仲間意識を持たれているのだろうか?まだ死んでないんだけど。

 マンハッタンカフェ達はこちらを見て驚いたように目を見開いている。

 

「こんにちは、マンハッタンカフェ、天城さん」

「おやおやぁ?君も観に来たのかいカフェ」

「高村トレーナーに、タキオンさん?」

「やぁ聖君。君達も来てたんだね!」

 

 どうやら2人もダービーの観戦に来たらしい。今更移動するのも面倒なのとお友だちさんが離れないので2人は僕達と一緒に観戦することになった。

 

「お友だちさんは、どうしてここまで僕に懐いているのかな?」

「お友だちを、認識できて、なおかつ意思疎通が可能となると、かなり限られますから。それに、高村トレーナーのこと、お気に入りみたいです」

「……やっぱり、今でも仲間だと思われてるのか僕は」

「フフ、どうでしょうね?」

「聖君は見えてるんだよね?俺には見えないからなぁ……」

 

 そこはちゃんと答えて欲しいのだけれど。気になるどころじゃない。

 ダービーが始まるまでの間、周りの驚くような声が印象深かった。

 

「おい、あれってタキオンじゃないか?」

「……本当だ。トレーナーと一緒にいるぞ」

「ダービーに出ないのにどうして?」

「隣にはマンハッタンカフェ達もいるし」

 

 出走を回避したアグネスタキオンがダービーを観に来ている。観客からしたら気になるだろう。周りからの視線が少し痛かった。

 

 

 そんなことがあったけど、ついにメインレースであるダービーを迎えた。出走するウマ娘達が続々と入場してくる。アグネスタキオンは──目を細めてターフを睨んでいた。

 

「……フン」

 

 面白くなさそうに鼻を鳴らした。果たしてどういう感情で見ているのか……分からないけど。

 

(レースが終わる頃には戻っているといいんだけどね)

《雨は上がり、空は雲に包まれております東京レース場。ついにこの日を迎えました東京優駿、日本ダービー!世代の最強を決める戦いと言っても過言ではない本レース、選ばれた18人の優駿達がターフに姿を現しました!》

《皐月賞を圧倒的な強さで制したアグネスタキオンは不在。しかしここに集ったウマ娘は彼女だけではないのだと、それを証明するためにも走りに磨きをかけてきました。さぁ誰が勝つのか?注目したいところですね》

《本レース1番人気はジャングルポケット!皐月賞ではアグネスタキオンの3着に沈みましたがその実力は誰もが知るところ。期待が高まります!2番人気はNHKマイルを制しての堂々参戦、ペリースチーム!少し過密なローテが心配されますが、かつては無敗の4冠ウマ娘サクラバクシンオーも通った道!続くことはできるのか!3番人気、この評価には不満が残るか?ダンツフレーム!皐月賞は2着と好走、今度こそはと意気込みます!》

 

 ジャングルポケット達のステータスを比較するが、ジャングルポケットが少し抜けている印象だ。ダンツフレームとペリースチームが差がなく続いている。とはいっても、ほんの少しの差。誰が勝つかは予想がつかない。

 ステータスをノートに書き留めていると、東京レース場にファンファーレが響き渡った。観客達が手拍子を始め、出走するウマ娘達がゲートへと向かう。

 

(もうすぐ始まるか)

 

 書く手を止め、ターフへと視線を移す。枠入りは順調に進んでいた。

 

《枠入りは順調に進んでおります。本命不在とも呼ばれている今回の日本ダービー、しかしそれは違うと意気込むウマ娘達!本命は自分だ、勝つのは自分だと、そう主張しているようです》

《気合が入っていますね。やはり世代の最強を決める日本ダービー。緊張した空気ですが、何度味わっても身体が震えますね》

《そして今、最後のウマ娘がゲートに入りました!東京レース場芝2400m、バ場は重バ場と発表されています。世代の頂点に立つための戦い、全てのウマ娘の夢をのせて今──》

 

 最後のウマ娘がゲートに入り、東京レース場が静まり返る。数瞬の後、ゲートが開いた。同時に、ウマ娘達が一斉に飛び出す。出遅れはない、綺麗な横並びスタートだ。

 

《ッ始まりました!日本ダービー開幕です!さぁまずハナに立つのはどのウマ娘か?エフェメロンが最内枠を活かして上がろうとしている!》

《彼女は逃げウマ娘ですからね。ハナを取りたいところですが、おっと!》

《最初のコーナーめがけて激しい先行争い!注目の1番人気ジャングルポケットはっ、無理にはいかない!先行争いには加わらない!そしておぉっと!外からオネストワーズ!オネストワーズが外から猛然と上がって行く!スパートをかけているかのようだ!》

 

 内から上がろうとしているエフェメロン。だけど外からオネストワーズ、か。

 

〈オオニゲオオニゲ!キャハハ!〉

 

 お友だちさんは楽しそうである。なにがそんなに楽しいのかはよく分からないけど。

 

「気迫が伝わってくるようだねぇ。まさか、逃げは逃げでもさらに前で逃げるとは。そんなデータはなかったんだが?」

「勝つための、策でしょう。ただ逃げるだけでは、ダメだと判断したのかもしれません」

「ふぅン、それは素晴らしい!それに……気合の入りようが凄い。これは良いものが取れそうだ!是非とも私に研究のデータを捧げたまえよ?出走者諸君」

「……相変わらずな、人」

 

 アグネスタキオンは楽し気に、マンハッタンカフェは呆れた表情。天城さんはレースを余すことなく見ている。

 

(ハナを取ったのはオネストワーズ、か)

 

 第1コーナーに入る前にハナを奪い、そのまま後続を突き放す大逃げを披露している。グングンと差が開いているね。ジャングルポケットは……中団か。ダンツフレームとペリースチームも近い位置にいる。

 

「ジャングルポケットをペリースチームがマークする形……ホープフルステークスの時とは逆だね」

「そうですね。今回の1番人気ですから、マークするというのは間違ってないでしょう」

 

 オネストワーズがレースを引っ張る日本ダービー。観客は大逃げに盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 レースは半分を過ぎる。ペースは重バ場を考慮すると早く流れているだろう。

 

(前半の1000mが58秒台……後先考えていないのか、それとも)

 

 先頭を走るオネストワーズは後続に10バ身近い差をつけている。2番手のエフェメロンと3番手アップツリーが少し抜け出して、後は固まっている。ジャングルポケット達は中団よりも後ろの位置、上位人気3人は後方で固まっていた。

 ただ、第3コーナーを越えてペリースチームが動く。位置を押し上げ始めたね。

 

《第4コーナーに向かいます、先頭オネストワーズがまだまだ逃げる!オネストワーズの大逃げはまだ続くのか?だが後続も差を詰めているぞ!ここで後方からペリースチームが動いた動いた!ペリースチームが前へ上がってくる!》

《ジャングルポケットはまだ動きませんね。ペリースチームの早仕掛けはどう響くか?》

《葦毛のウマ娘が上がってくる!残り600mを通過!第4コーナーを回って最後の直線へと入ります!先頭はオネストワーズ!大逃げのオネストワーズでしたがさすがにもう息が上がって来たか!?後ろとの差が縮まっているぞ!》

 

 さすがにあのペースを維持できなかったのだろう。オネストワーズは少しずつ沈んでいった。バ群は固まっている。あれだけあった差はどんどんなくなっている。だけど、諦めは見えない。

 ジャングルポケットはまだ動いていない、が動かない理由は大体想像がつく。

 

(彼女の末脚を発揮するなら最後の直線。特に東京の直線は長い、彼女の脚を発揮するにはもってこいの舞台だろう)

 

 ジャングルポケットは外へと回る。さらに外からダンツフレームも来ている。

 

「さてさて?どこまでのものか見せてもらおうじゃないか」

 

 隣からはアグネスタキオンの興味深そうな声が聞こえてくる。レースは最後の直線へと入り、最終局面を迎えていた。

 

《オネストワーズ先頭!しかしこれは苦しい苦しい!オネストワーズ懸命に粘るがっ、沈んだ沈んだ!オネストワーズは沈みました!先頭に立ったのはアキナケス!ですがバ場の真ん中からペリースチームが突っ込んできた!ペリースチームがやってくる!ジャングルはどうか!?ジャングルはどうだ!》

 

 ジャングルポケットはペリースチームの外から上がる。ダンツフレームと一緒に上がって行ってるのが見える。

 最後の直線での攻防。観客の歓声が凄い。その中で、タイムを測りノートに書き留める。

 

「……」

 

 ジャングルポケットはというと、ペリースチームを外から捕まえた。残り400mを通過して坂を上がる。ペリースチームは思ったより伸びない。けれどジャングルポケットは伸びている。

 

「俺がぁっ!最強だぁぁぁぁ!」

 

 そんな裂帛の気合いと共に、ジャングルポケットは先頭に立った。

 

《ジャングル来た!ジャングルが来た!ジャングルポケットが外から上がる!もの凄い末脚ジャングルポケット!ペリースチームは伸びないか!?ペリースチームは思うように伸びてこない!ジャングルポケットのさらに外からダンツフレームダンツフレーム!負けられない止まらない!ダンツフレームがジャングルポケットに襲い掛かる!》

《内からはアキナケスも上がっていますよ!これはどうなるか分かりません!》

「頑張れジャングルポケットー!」

「差せー!ペリースチームー!」

「勝つんだダンツー!」

 

 ジャングルポケットの末脚は衰えない。なにより、勢いが凄い。捕まえるのは容易ではないだろう。

 会場は推しを応援する声で一色となっている。その熱気は凄まじく、熱さすら忘れてしまいそうなほどだ。少し目を向けるだけで、拳を強く握り、勝利を願う姿が見受けられる。

 残り200mを過ぎた。ジャングルポケットが完全に先頭に立ち、ダンツフレームが追いかける形。

 

《ジャングルポケット先頭!ジャングルポケットが先頭!ダンツフレーム追いかける!内からはアキナケス!ペリースチームこれはもう無理!ジャングルかダンツか!?ジャングルかダンツか!》

《2人の一騎打ちになりますかね!いや、これはっ!》

《しかしっ、ジャングルポケットが突き放す!ジャングルポケットが最後の最後でダンツフレームを突き放したぁぁぁぁ!半バ身まで縮まった差を1バ身、2バ身と広げようとする!負けじと粘る2番手ダンツフレーム!これ以上は広げさせない!食い下がるダンツフレーム!》

 

 決まったね。そう思った次の瞬間──ジャングルポケットの身体が一番早くゴール板を通過した。1と1/2バ身差、ジャングルポケットが日本ダービーを制した。

 

ジャングルポケットだぁぁぁぁ!ジャングル1着!皐月賞の雪辱を果たす、日本ダービーの栄光!世代の最強に輝いたのはジャングルポケットだぁぁぁぁ!おめでとーう!》

「「「わぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」」」

 

 周りの観客と同じように、僕達も拍手をする。そんな中。

 

「……ふぅン」

 

 聞こえてきたのはアグネスタキオンの声。どうかしたのだろうか?そう思った次の瞬間──雄たけびが聞こえてきた。

 

「うおおおおぉぉぉぉッッ……!」

 

 ビックリした。思わずそちらへと視線を向けると、今回の勝ちウマ娘であるジャングルポケットが発生原だった。勝利への喜びからか、雄たけびを上げている。

 

「ハハ、叫んでるよジャングルポケット」

「勝って嬉しいんだろ!日本ダービーだからな!」

 

 チラホラと聞こえる声は、僕と同じ感想を抱いたらしい。歓喜からくる咆哮だと。

 

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 そんな考えを一蹴するように、アグネスタキオンはつまらなさそうに見ていた。

 

「どういう意味かな、アグネスタキオン」

「どうしたもこうしたもないよ。まぁ、熱いレースだった、それなりに克服してきたようだ。それは認めよう。しかし」

 

 チラリとジャングルポケットを一瞥して、どこか憐みの籠った目で彼女を見つめている。

 

「そう簡単に克服できるようなものではなかった、それだけの話さ」

 

 ……ということはつまり。

 

(ジャングルポケットが叫んでいるのは、喜びが理由じゃない。むしろその逆……)

「ダンツ君はま~それなりだ。しかしポッケ君の方は重症だねぇ、アレは」

「……あなたが言うと、どの口が、と言いたくなるのですが」

「知らないよ……ま、収穫はあったかな」

 

 席を離れ、僕に手招きするアグネスタキオン。さっさと帰るぞ、という意思表示だった。

 

「トレーナー君、私は疲れた。おぶって帰りたまえよ」

「……途中で僕も倒れるけど良い?具体的には東京レース場を出て少しした辺りで」

「良くないよ!全く、もう少し鍛えたまえ君は!」

 

 席を立ち、天城さん達に一礼する。

 

「それでは、お先に失礼します。天城さん、マンハッタンカフェ」

「うん。そっちも頑張ってね」

「はい。また、会いましょう」

「天城さんも、お互いに頑張りましょう。マンハッタンカフェもまた学園で……後、お友だちさんに離れるように言ってくれると嬉しいかな」

 

 結局最初から最後まで僕の頭の上を陣取っていたお友だちさんである。そんな名残惜しそうにされてもこっちも困るんだけど。




ジャングルポケットの咆哮。違和感を見つけるアグネスタキオン。ついでにもう慣れたお友だちへの対応。
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