ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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最初はポッケ視点。


狂気の残光

 周りのヤツらからスゲェ気迫を感じた。

 

「勝つんだ……勝つんだッ!」

「わたしがダービーウマ娘にッ!」

「負けない、負けたく……ないッ!」

 

 このレースを、日本ダービーを本気で勝ちたいっつー熱意。他のヤツに負けたくねぇっつー思い。今まで走ってきたどのレースよりも熱く感じる、本気の熱量。

 

(そうだよな……みんな勝つためにここに来てんだもんな)

 

 ()()()()()()。勝つためにこの場で走っている。最強を、最速を証明するために、自分は今この場で走っている。

 空気はヒリついている。誰もが一生懸命に脚を前に出す。この空気を味わえることに、こんな戦いができることに、感謝しなきゃな。

 

(マジ、最高にアガるぜ!

 

 勝ちは譲れねぇ。勝つのは俺だ!そして、俺はもう一度立ち向かうんだ!あの光に、アグネスタキオンに!アイツを超えるために!

 後ろは振り返らねぇ、ただ前だけを見据えて走る!バ群が早く流れ始めた、もうそろそろスパートか!

 

(遅れないようにしっかりとついていく。溜めすぎて届きませんでしたは勘弁だからな!)

 

 バ群の流れに乗るように動く。まもなく最後の直線に入ろうってとこだった。

 気づけば前に出ていた葦毛のウマ娘、ペリースチーム。ホープフルステークスとは真逆の関係になった相手だが、関係ねぇ!

 自分の目の前は大きく開けている。誰もいない、真っ直ぐに伸びた緑の道。無人の道を今──!

 

「俺がぁっ!最強だぁぁぁぁ!」

 

 駆け抜ける!大地をしっかりと踏みしめ、抉れるほどに蹴り上げて、気合を入れて叫ぶ!ペリースチームは抜いた。後はこのままぶっちぎるだけ!

 

「負けたくない、わたしだって、わたしだって勝ちたい!」

 

 そんな時聞こえてきたのはダンツの声。自分よりもさらに外から聞こえてきた。同時に近づいてくる足音。おそらくダンツのものだ。アイツの呼吸が、思いが、熱さが、すぐ近くに感じる。

 あぁ、そうだよなダンツ。お前だって勝ちてぇんだもんな!

 

(けど、譲らねぇ!勝つのは俺だ!)

 

 ダービーウマ娘の称号を手にするのは俺だ、俺なんだ!誰にも負けねぇ、譲らねぇ!このレースを勝つのは……!

 

「「(俺/わたし)だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 走る、走る、ただ走る。ただ勝つことだけを考えて走る。観客の大歓声を受けて、俺を応援してくれるファンの期待に応えて、俺は走る!

 走って、走って……その先に見えてきた、とある光景。風を抜けた先に見えた──光。

 

(……は?)

 

 自らの眼前を走るウマ娘が、1人。姿は不明瞭で、まるで幻のようだ。誰なのかは分からない。分からないはずなのに……俺には分かる。本能で理解する。アイツは……ッ!

 

(タキオンッ!)

 

 ()()()()()()()()()、軽やかにターフを駆けている。そんなアイツの背中を、俺は追いかける。

 ──けど、差は一向に縮まらない。むしろ引き離される。

 

(なんで、なんでだ……?俺だって頑張ってるのに、積み重ねてきたのに!)

 

 前を走るタキオンは振り返らない。こっちのことなんざ知らねぇってばかりに走ってやがる。皐月賞の時も見せられた、あまりにも強大な光。こっちの身体すら焼き焦がしてしまいそうな、膨大な光を浴びせられる。

 

(待ってくれ……なんでテメェはそんなに速い!?)

 

 タキオンが前に言ってたことが頭の中で浮かび上がる。

 

「私にとってレースの勝敗はどうでもいいことだ」

 

 嘘をつくなと言いたかった。オメーだってウマ娘、どこかに勝ちたいっていう気持ちは絶対にあるはずなんだ。

 

(クソォ……クソォ……ッ)

 

 脚を一生懸命に動かす。必死になって動かす。ダンツとの競り合いを制して、俺が前に出る。後はこのまま突っ走るだけ。なのに──目の前の幻影(タキオン)は俺に突きつけてくる。圧倒的な差を、あまりにも桁違いな実力を。

 

(俺はアイツに、一生届かねぇのかよ……!?)

 

 気づいたらゴール板を過ぎていた。この場にいる誰よりも早くゴールした。俺は日本ダービーを勝った。なのに、実感が湧かない。

 

「ポッゲざぁぁ~~~ん!」

「やったなポッケー!よくやったー!」

「おめでとうジャングルポケットー!凄かったよー!」

 

 観客の声援が聞こえる。でも、俺の耳を通り過ぎていく。心まで届かない。

 目の前に立つタキオンの幻影。あの日アイツに言われたことが、頭の中から消えない。

 

「勝てない、追いつけない、届かない……皐月賞の私に、そんな感情を抱いたのではないかね?」

(止めろ……俺は怖がってない、俺は負けてない!)

「君は私に怖れを抱いた。君は私に対して恐怖を抱いている」

(止めろ、止めろ。止めろ!こっからだ!こっから練習しまくって、練習、しまくって……)

 

 この最後の直線で追いつくことができなかった。差は縮まるどころか離されてくばかり。それはきっと、自分達の今後のことなんだって本能で理解した。

 タキオンの幻影が、いつの間にか俺の前に立っていた。現実を、直視させられる。

 

「私に対して勝てないと思っている相手と走って、私に何の得がある?……時間の無駄だ」

 

 自分はこの先、いくら努力してもアグネスタキオンには勝てないのだということを。

 

「うおおおおぉぉぉぉッッ……!」

 

 気づけば叫んでいた。幻影を振り切るように、認めたくない事実から目を逸らすために。俺は……叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 日本ダービーが終わってからというもの、何故か僕達のところに取材が来ていた。ただ、あまり良い気分ではない。

 というのも、アグネスタキオンが出走を回避した理由を今更ネチネチと取材されたのだ。やれ出走した方が良かったんじゃないか?だの後悔しているんじゃないか?とか、それはもう色々と言われた。挙句の果てには……いや、思い出すのは止めよう。苛立ちが募るばかりだ。

 余談だけど、取材を聞いていたらしいアグネスタキオンからこう言われた。

 

「君でも怒ることがあるんだねぇ」

 

 と。そりゃあ勿論あるよ。

 

「なにを言われても怒らない聖人じゃないからね、僕は。怒る時はちゃんと怒るよ」

 

 とまぁ、こんな一幕があった。後にインタビューしに来た記者の上層部の人達が謝罪しに来たのが唯一の救いかな?

 

 

 後は宝塚記念もあった。テイエムオペラオーやメイショウドトウ、エアシャカールが集ったレース。データ収集を目的に阪神レース場へと足を運ぶ。

 

「現役最強と名高いオペラオー君のデータは貴重だ!是非ともこの目に収めなければ!」

 

 今回もアグネスタキオンとの2人旅である。それはともかくとして、本レースにおける1番人気はやはりテイエムオペラオー。年明け初戦の大阪杯はコケたものの、春天も制して気合十分といった感じだ。次いでメイショウドトウ。これまでずっとテイエムオペラオーの2番手に甘んじてきた彼女、今度こそは勝ってみせると彼女のトレーナーは意気込んでいた……当のメイショウドトウはネガティブ発言が目立っていたけど、それもまた彼女の個性だろう。

 レースはメイショウドトウが前から4番手で進み、テイエムオペラオーがその後ろにつける。バ群は縦に長く広がっている。エアシャカールは後ろから3番目だ。

 

「ペースとしてはやや遅めかな?これは前が有利になるねぇ。君が見えるステータスではどうなんだい?」

「上位人気の3人に差はないよ。テイエムオペラオーがちょっと抜けてるぐらいかな」

「と、なると。大事なのは抜け出すタイミングだ。これはシャカール君にとっては厳しい展開になる。前は脚を溜めているだろうし、後方からの追い上げは厳しいだろう」

 

 レースは淀みなく進み第3コーナー。一気にレースが動く。

 縦長だったバ群がグングンと縮まっていき、一塊となる。

 

《バ群が固まってきました。第4コーナーを越えて12人のウマ娘が固まります、いよいよ正念場!テイエムオペラオーよりも前でレースをしたいメイショウドトウ、現在2番手に浮上!外からはエアシャカールも上がってきている!テイエムはまだ来ない!テイエムはまだ来ていない!最後の直線へと入ります!メイショウドトウ前に出る!》

 

 最後の直線でメイショウドトウが先頭に躍り出た。テイエムオペラオーは……まだ後ろの方。外から上がるエアシャカールの後ろにつけている。

 

「いけー!頑張れドトーウ!」

「今度こそ勝つんだー!」

「そこから差せー!オペラオー!」

 

 テイエムオペラオーが凄まじい追い上げを見せる。末脚勝負でエアシャカールの上をいっており、間違いなく今走っているメンバーの中で最速と言えるだろう。

 なにより、圧が凄い。思わずこちらも気圧されてしまいそうなほどのプレッシャー。これが世紀末覇王と呼ばれるウマ娘なのかと実感する。

 

「ふむふむ……ドトウ君よりもさらに鋭い末脚。さすがは世紀末覇王と呼ばれた彼女か」

「良いデータは取れそう?」

「無論だとも!」

 

 アグネスタキオン的にはあまり気にしていないのかもしれないが。

 最後の直線でメイショウドトウが先頭を走る。テイエムオペラオーが猛然と襲い掛かる。やはりこの2人の争いになったと観客は大盛り上がりだった。

 

《ドトウの執念が通じるのか!?ドトウの執念が力を発揮する!エアシャカール上がってきた!しかしそれ以上にっ、テイエム来た!テイエムが来た!テイエムオペラオーがメイショウドトウに襲い掛かろうとしている!しかしメイショウドトウ!メイショウドトウだ!メイショウドトウの執念がここで通じた!》

 

 差を詰めるテイエムオペラオーだったけど、メイショウドトウにはわずかに及ばず。これまで2着に甘んじてきたメイショウドトウが、ついにテイエムオペラオーを下して宝塚記念を制した。

 

《一矢を報いたメイショウドトーウ!宝塚記念を制したのはメイショウドトウだ!外に回ったテイエムオペラオーわずかに届かず!ついに通じたドトウの執念!もう負けられないという思いが、このレースで結実しましたメイショウドトウ!》

 

 割れんばかりの大歓声。メイショウドトウは最初勝ったことに気づいておらず、掲示板の結果を見てわたわたしていた。それでも最後には笑顔を見せ、ファンからの祝福を受ける。

 

「ブラーヴァ!素晴らしいレースだったよドトウ!あぁ、ボクの輝きはまだ足りなかったようだ!次はもっともっと輝いてみせようじゃないか!」

「は、はいぃ~。でで、でも!次も負けませぇ~ん!」

 

 お互いのことを称え合う光景。アグネスタキオンは愉快そうに笑う。

 

「クックック……興味深いねぇ。ドトウ君の執念、思いがオペラオー君を超えた。やはり思いの力が与える影響は計り知れない!」

「そうだね。バカにできるものじゃないよ」

 

 事実、感情がレースに与える影響は凄まじいものだ。僕はそう思っている。データは取り終わったので撤収。新幹線で即座に帰った。色々なことがあったな。

 

 

 

 

 

 

 そして、ついにこの日を迎える。

 

「よし、各自忘れ物はないな?」

「大丈夫で「問題ありませんッ!模範的な学級委員長ですのでッ!」ということですので」

 

 空港に集まった僕達と佐岳さん。大荷物を背負い、ゲートへと向かう。報道陣が構えるカメラのフラッシュが眩しい。

 僕の言葉に満足げに頷いて、佐岳さんは右手を上げる。

 

「では、行こうか!──フランスに!

 

 僕達の海外遠征が始まろうとしていた。




ついに始まる海外遠征。
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